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法学研究論集 第 44 号 サービスの貿易規律における相互主義の台頭 ReciprocityRisinginRulesofTradeinServices 博士後期課程公法学専攻 2013 年度入学 橋恵佑 TAKAHASHI Keisuke 論文要旨 GATS 第 2 条 2 項に規

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―  ― 論文受付日 2015年 9 月25日 大学院研究論集委員会承認日 2015年10月26日 ―  ― 法学研究論集 第44号 2016. 2

サービスの貿易規律における相互主義の台頭

Reciprocity Rising in Rules of Trade in Services

博士後期課程 公法学専攻 2013年度入学

TAKAHASHI Keisuke 【論文要旨】 GATS第 2 条 2 項に規定される最恵国待遇義務の免除は,多角主義に基づく WTO 体制の下で 認められた例外的な措置である。ウルグアイ・ラウンド交渉当時,当該措置は原則として10年以 内に撤廃される時限的な措置と考えられていた。しかしながら,免除を利用する加盟国はドーハ・ ラウンド交渉においてその維持を試みている。複数国間貿易協定においては一部の加盟国について 免除の増加を確認することもできる。新たなサービス分野に関して自由化が試みられている TiSA 構想においては,当該分野に対して早くも交渉に参加する先進国から免除の登録が提案されてい る。自由化約束と比べれば免除の対象となる措置は少数であり,GATT/WTO 体制に対して直接 大きな影響を及ぼすとは考えられない。しかし,先進国が中心となって策定する各種のサービス貿 易規律において,先進国が例外的な措置を維持し続け,新たなサービス分野における例外的地位を 先取りする様子は,多くの発展途上国にとって好ましいものではない。先進国はサービス貿易の自 由化のために,GATS/WTO 体制における最恵国待遇義務の重要性に対する認識を改める必要が あるだろう。 【キーワード】 最恵国待遇原則,サービス貿易,自由化約束,無差別原則,相互主義 【目次】 .はじめに .サービス分野の貿易自由化現状 .最恵国待遇義務の免除比較 .おわりに

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―  ―

1 Eric H. Leroux, ``Eleven years of GATS Case Law: What Have We Learned?'' in 10(4) Journal of

Interna-tional Economic Law (2007), p. 750. Vaughan Lowe, InternaInterna-tional Law (Oxford University Press 2007), p. 223.

2 The paragraph 6 of Annex on Article II (MFN) Exemptions states ``In principle, such exemptions should not

exceed a period of 10 years. In any event, they shall be subject to negotiation in subsequent trade liberalizing rounds''.

3 Doha Work Programme Ministerial DeclarationAdopted on 18 December 2005 Annex C, WTO Doc. WT/MIN

(5)/DEC (December 22, 2005), at C2.

4 Eighth Ministerial ConferenceChairman's Concluding Statement, WTO Doc. WT/MIN(11)/11 (December

17, 2011), at 3. ―  ― .はじめに サービスの貿易は,1995年に発効した多数国間条約である WTO 協定の附属書 1Bサービスの 貿易に関する一般協定(以下,GATS)において規律されている。GATS は現在161の国と地域が 参加し,サービスの貿易をもっぱらに規律し,そしてサービス貿易の漸進的自由化を目指す初めて の国際規律である。基本的に WTO 加盟国は無差別原則に従ってサービス分野の国内市場を開放 する。その無差別原則は,別の加盟国に付与した待遇を他のすべての加盟国に対しても付与するこ とが義務付けられる無条件の最恵国待遇原則,及び国内のサービス又はサービス提供者に対して与 えられる待遇よりも不利でない待遇を外国のサービス又はサービス提供者に対しても与えることが 義務付けられる内国民待遇原則からなる。 他方で,これらの無差別原則に対しては数種類の例外が規定されており,例えば最恵国待遇義務 に関しては GATS 第 2 条 2 項において「『第 2 条の免除に関する附属書』に掲げられ,かつ同附属 書に定める要件を満たす場合に」加盟国は最恵国待遇義務の免除が認められる。この例外事項は当 該附属書の第 6 項において「原則として,当該免除は10年の期間を越えてはならない」と記述さ れているように,一時的に認められる措置であると考えられていた1。しかしながら実際には,免 除の対象となる多くの措置について廃止までの明確な期間が定められていない。また,附属書の第 6 項は加盟国に対する法的拘束力を発生させない方法で記述されている2。そのため,措置を維持 する期間が不明確なことと併せて,これらの例外措置が現在に至るまで存続する原因となっている。 これらの無差別原則からの逸脱に関して2005年末の閣僚宣言では,最恵国待遇義務の免除の撤 廃又は実質的な削減が,2001年から開始された貿易自由化交渉であるドーハ開発アジェンダ(以 下,ドーハ・ラウンド)におけるサービス貿易規律に関する交渉の目標の一つとして打ち出されて いた3。しかしながら2008年頃にはドーハ・ラウンドの停滞が意識され始め,多国間貿易自由化交 渉の代わりとして,利害の一致する加盟国が更なる貿易自由化を目指す,複数国間での自由貿易協 定が数多く締結されるようになっている。さらに2011年末には,ドーハ・ラウンドでは交渉の妥 結を見込めないことが閣僚会議において確認され,更なる貿易の自由化を目指す国々によってドー ハ・ラウンドとは異なる交渉アプローチが模索されるようになった4。例えば「新たなサービス貿

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―  ―

5 Regional Trading Arrangements Should be Building Blocks, Not Stumbling Blocks, for the Multilateral System

Says SutherlandWithout a strengthened GATT, regional arrangements face a bleak future, GATT Doc. GATT /1596 (September 16, 1993), pp. 2/35.

6 Infranote 36, EU Doc. L 127, The EUSouth Korea Free Trade Agreement and so on.

7 John H. Jackson, Sovereignty, the WTO, and Changing Fundamentals of International Law (Cambridge

University Press 2009), pp. 9498.

―  ―

易協定(Trade in Services Agreement; TiSA)」に関する構想は,そのような異なる交渉アプロー チの一つである。 複数国間での自由貿易協定も TiSA のような交渉アプローチも,どちらも複数国間貿易協定に含 まれる。そして,これらの貿易自由化交渉は多角主義に基づく WTO 体制にとって建設的となる ように望まれ5,多国間貿易自由化交渉を推進する機能を果たすように期待されているのである。 しかしながら,最恵国待遇義務の免除に関しては既に締結されてきた複数国間貿易協定において も,継続して利用されている事例を確認することができる6。複数国間貿易協定の妥結はサービス の貿易の漸進的自由化として捉えられている。他方で,最恵国待遇義務の免除が新しい貿易協定に おいて依然として残存し続ける事実それ自体は,サービスの貿易規律における当該例外措置の重要 性,及びサービスの貿易自由化にとって深刻な障害となる可能性を示唆してもいる。 本稿ではこれらの最恵国待遇義務の免除という例外措置が,なぜ複数国間貿易協定においても採 用され続けるのか,自由化に対する障壁としての重要性について検討するものである。検討に際 し,まずサービスの貿易自由化が主にどのような方法で進められてきたか概観する。次に,原則と 一致しない例外措置の削減についてどのような提言がなされてきたか確認する。最後に,一貫して 残存し続ける最恵国待遇義務の免除に関して,自由化に対する障壁としての重要性について結論を 述べる。サービスの貿易規律における最恵国待遇義務の免除の価値の見直しを通じて,この例外措 置の問題点を明らかにする。 .サービス分野の貿易自由化現状 . 産品の貿易障壁との差異 最初に,サービスの貿易と産品の貿易との差異を確認する。産品の貿易は国境を越えて移動する 産品の売買を指す。産品は有体物であるから,国境を越える際に当該産品に対して関税等の制限を 課すことによって貿易に対する制限が実施される。産品の貿易に対する制限は,関税など国境にお ける水際措置が主要な役割を果たしてきた。GATT は1948年の発足以来,関税引き下げ交渉を通 じて関税率の大幅な削減に寄与することで産品の貿易に対する制限を緩和してきた7 他方,サービスの貿易を阻害する主な要因は,産品の貿易を阻害してきた上記の要因とは異な る。国境を越えて提供,又は消費されるサービスそのものには具体的な実体が存在しないため,当 該サービスに対して関税を課すことはできない。関税のような水際措置ではなく,サービスが提 供,又は消費される際に適用される様々な国内規制措置が貿易を制限する機能を果たすことにな

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―  ―

8 NAKATOMI Michitaka, ``Services Negotiation and Plurilateral Agreement: TISA and sectoral approach''

RIETI Policy Discussion Paper Series 14P023 (September 2014), at 3.

9 ``Some Figures on Regional Trade Agreements notiˆed to the GATT/WTO and in force'' (http://rtais.wto.

org/UI/publicsummarytable.aspx, accessed 2015/09/23).

10 Christopher Findlay, Sherry Stephenson, and Francisco Javier Prieto, ``CH49 Services in Regional Trading

Arrangement'' in Patrick F. Macrory, Arthur E. Appleton, and Michael G. Plummer eds., 2 The World Trade Organization: Legal, Economic and Political Analysis (Springer 2005), pp. 293312.

―  ― る。その国内規制措置も常に国内産業を保護する目的でもっぱら適用されるわけではない。とりわ け,消費者保護など公共政策上の目的で設けられた国内規制の緩和や撤廃を求める要請は強くない のである。ウルグアイ・ラウンドの合意により提示された各国の自由化約束の内容に関しても,そ れらの成果はラウンドの妥結時点における各国のサービス規律の「スナップショット」であり,一 層の自由化を求めた結果として得られた要素は少ないと考えられることがある8 . サービスの貿易自由化の歩み しかし,サービスの貿易自由化の歩みは産品のそれと比較すると極めて鈍い。産品の貿易に関し ては,GATT が発足してから20年の間に 6 回もの多国間交渉を経て,先進国の関税が大幅に削減 された。対照的にサービスの貿易に関しては,ウルグアイ・ラウンドの妥結から20年の間に,初 めての多国間交渉となるドーハ・ラウンドの停滞に直面し,大きな成果を挙げることができなかっ た。例外的に一部の WTO 加盟国により,金融サービスや基本電気通信サービスといった個別の サービス分野に関して自由化合意がまとめられているが,ドーハ・ラウンド以前のことであり, GATS の規律するサービス分野全体に対して一層の自由化をもたらしたわけでもない。 ドーハ・ラウンドの停滞により多角的なサービスの貿易自由化を期待できなくなった WTO 加 盟国は,複数国間貿易協定の妥結による自由化へと交渉の軸足を移すようになった。今や300件以 上の複数国間貿易協定が WTO に対して通報され,既に発効している9。しかしながら,複数国間 貿易協定において合意された自由化約束は当該協定の当事国間でのみ有効な約束であり,したがっ て他の WTO 加盟国に対して自由化の利益が均霑されることはない。GATT 第24条及び GATS 第 5 条の規定に定められた要件を満たす場合に認められる最恵国待遇原則からの逸脱である。

複数国間貿易協定の交渉においてサービスの貿易自由化を議論する際に問題となるのは,当事国 の各サービス分野における自由化約束であり,内国民待遇原則と関係のある国内規制措置が議題と なっていた。実際にアメリカが当事国となり発効した貿易協定は,自由化を約束しないサービス分 野のみを約束表(Schedule of Speciˆc Commitments)に記載して,未記載の分野についてすべて 自由化約束をするネガティヴ・リスト方式の採用により,高度な自由化を達成できたと一般的には 評価されている10。産品の貿易において主たる貿易障壁は,譲許表(TariŠ Schedule)における関

税率として数値によって示すことのできる関税であったことから,関税引き下げ交渉における数値 目標の設定も容易であった。しかしながら,サービスの貿易において主たる貿易障壁となる国内規

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―  ―

11 ``DatasetData-set of Services Commitments in Regional Agreement Services (RTAs)''

(http://www.wto.org/english/tratop_e/serv_e/dataset_e/dataset_e.htm, accessed 2015/09/23), and ``Scor-ing SystemDataset of Srevices Commitments in Regional Agreement Services (RTAs)'' (http://www.wto. org/english/tratop_e/serv_e/dataset_e/dataset_index_e.htm, accessed 2015/09/23).

12 Rudolf Adlung and Hamid Mamdouh, ``How to Design Trade Agreements in Services: Top Down or Bottom

Up?'' 48(2) Journal of World Trade (2014), pp. 191218.

13 Supranote 10, Findlay, Stephenson & Prieto 2005, pp. 293312.

―  ― 制措置の緩和・削減について数値目標を設定することは困難である。この点に関して WTO は, WTO 加盟国による複数国間貿易協定について提出された資料をもとに統計を作成し,サービスの 貿易における自由化約束の水準について市場アクセスや内国民待遇に関わる制限に基準を求めた数 値が算出されている11。サービスの貿易において自由化約束水準を評価する際には,一般的にこの 数値算出方法に拠った評価基準が用いられていると言えよう。 . 各種の自由化約束に対する評価 このように本来数値によって自由化水準を示すことの難しいサービスの貿易に関しても,より客 観的に比較可能な指標の作成を志向して評価が行われてきた。本節では WTO 加盟国によって締 結されてきた数多くの複数国間貿易協定に関して,WTO が公表する資料を基に加盟国の自由化約 束に対する評価を簡単に説明する。 複数国間での貿易自由化交渉において,WTO 加盟国は一般的に以下の二種の自由化約束方式の いずれか一方を採用してサービスの貿易について自由化を約束してきた。第一の方式は,アメリカ とその協定の相手国を中心に採用されたネガティヴ・リスト方式である。北米自由貿易協定 (NAFTA)において採用され,しばしば先例として参照されている12。それゆえ,ネガティヴ・リ スト方式によりサービスの貿易自由化を試みる貿易協定を NAFTA 型の協定と呼ぶことがある。 先述のようにネガティヴ・リスト方式は,自由化を約束しないサービス分野のみを約束表に記載し て,未記載の分野についてすべて自由化約束をするという特徴を有する。 他方,もう一つの自由化約束方式が GATS にも採用されたポジティヴ・リスト方式で,自由化 を約束するサービス分野を約束表に記載し,自由化するサービス分野を増やしていく方式である。 複数国間貿易協定においては先述の NAFTA 型の協定に遅れて普及したため,当初は情報が蓄積 されているとは言い難かった。先の NAFTA 型の協定と区別する意味で,ポジティヴ・リスト方 式を採用する貿易協定は GATS 型の協定と呼ばれる。この GATS 型の協定におけるサービスの貿 易自由化は,NAFTA 型の協定と比べてそれほど著しい成果を挙げたとみなされることはない。 その原因には NAFTA 型の協定に対して肯定的な評価を与える人々がしばしば説明するように13 ポジティヴ・リスト方式による自由化約束自体が効率的ではないことが挙げられる。 また,当該方式を通じてサービスの貿易自由化を試みた国々が実際には一般的に期待されるほど には自由化に乗り気ではないことも他の原因として考えられる。複数国間での貿易自由化交渉にお

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―  ―

14 KoreaFinal List of Article II (MFN) Exemptions, WTO Doc. GATS/EL/48 (April 15, 1994), and Korea

Final List of Article II (MFN) Exemptions Supplement 1, WTO Doc. GATS/EL/48/Suppl. 1 (July 28, 1995). ―  ― いて交渉議題となるのはサービスの貿易ばかりではない。農業や非農産品などの他の分野の貿易も 交渉の対象となる。加えて,WTO を成立せしめたウルグアイ・ラウンド以降,貿易自由化交渉で は基本的に一括受諾方式が採用されている。それゆえ,ある分野での交渉が合意に達したとしても 他のすべての分野においても同様に合意を得られなければ,それまでの交渉経緯が水泡と帰す可能 性がある。さらに,当事国も自由主義経済学の理論に従って無条件にすべての貿易を自由化しよう とは考えていない。自由化又は保護からもたらされる利益及び損失を衡量する重商主義的姿勢で交 渉に臨むのである。したがって,サービスの貿易自由化によりもたらされる利益が少ない,又は損 失が大きくなる場合,当事国は交渉の妥結を諦めるか,そうでない場合には課せられる義務が少な くなるような内容の自由化約束で満足してしまうことも考えられる。 . 小結 基本的にサービスの貿易自由化交渉では市場アクセスや内国民待遇に関わる制限について,当事 国により自由化約束がなされる。そして,自由化が約束された分野に関してのみ,国内規制措置の 緩和や撤廃が実施されるのである。貿易交渉毎に異なる自由化約束方式が採用されているとはい え,各種の貿易協定が GATS において約束された自由化よりも高度な自由化を達成していること は,WTO の公開する資料が示すとおりである。それゆえ加盟国の GATS における自由化約束を 検討する際には,市場アクセスや内国民待遇に関わる制限のみをサービス交渉における自由化の対 象として捉えることは問題である。むしろ,複数国間貿易協定においてそれほど触れられていない 最恵国待遇原則に関わる制限,すなわち最恵国待遇義務の免除を検討する必要が生じる。 .最恵国待遇義務の免除比較 最恵国待遇義務の免除の利用は,GATS 第 2 条 2 項において加盟国に認められている。大半の WTO 原加盟国はウルグアイ・ラウンド交渉の終盤において免除リストへの記入を行ったが,日本 など一部の加盟国は免除リストに全く記入しないか又は少数の記入に留めていた。『第 2 条の免除 に関する附属書』の第 6 項にも掲げられているように,最恵国待遇義務の免除それ自体は10年を 上限とした時限的な措置であり,その期間において加盟国は最恵国待遇義務に抵触する措置や関連 する状況を改めなければならないと考えられていた。それゆえ,わずかに 2 件しか登録しなかっ た韓国など14,一部の加盟国が免除リストへ記入することの重要性を認識していなかった可能性に ついては十分に考えられる。 しかし,実際にはリストに記入された免除の対象となる措置の多くが GATS の成立から10年を 経てもなお利用され続けている。その理由としては,附属書の第 6 項の関連する箇所のみが免除

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―  ―

15 Supranote 2. 16 Supranote 11.

17 European Communities and Their Member StatesFinal List of Article II (MFN) Exemptions, WTO Doc.

GATS/EL/31 (April 15, 1994).

18 United States of AmericaFinal List of Article II (MFN) Exemptions, WTO Doc. GATS/EL/90 (April 15,

1994), The United States of AmericaList of Article II (MFN) Exemptions Supplement 1, WTO Doc. GATS/ EL/90/Suppl. 1 (July 28, 1995), The United States of AmericaList of Article II (MFN) Exemptions Supple-ment 2, WTO Doc. GATS/EL/90/Suppl. 2 (April 11, 1997), and The United States of AmericaList of Article II (MFN) Exemptions Supplement 3, WTO Doc. GATS/EL/90/Suppl. 3 (February 26, 1998).

―  ― を利用する加盟国を法的に拘束する記述の仕方になっていない点が挙げられよう15。しかしなが ら,市場アクセスや内国民待遇に関わる制限については,WTO 加盟国が締結した複数国間貿易協 定により多かれ少なかれサービス分野における自由化が約束されている。この点は WTO が公表 する各種のデータからも確認することができる16。対照的に最恵国待遇義務の免除については,複 数国間貿易協定によっても撤廃されずにリストに残存している。それゆえ以下の項において,各種 の協定におけるサービスの貿易自由化にまつわる最恵国待遇義務の免除について,その利用状況を 検討する。 なお,検討に当たっては EU が公表する関連資料を中心に扱う。その理由は他の WTO 加盟国 と比べて EU の公表する資料の入手が容易であることに加え,EU の締結する貿易協定それ自体が GATS の構造と類似しているため比較も容易であることによる。国際法規律の策定において無視 できない影響力を有している EU の最恵国待遇義務の免除に対する姿勢を検討することにより, サービス分野だけでなく他の分野についても,貿易規律全体における最恵国待遇原則の位置づけを 明らかにすることができる。 . GATS における利用 GATS において加盟国が最恵国待遇義務の免除を希望する措置を免除リストに記載する際に は,「分野(Sector or subsector)」,「第 2 条と一致しない措置の説明(Description of measure in-dicating its inconsistency with Article II)」,「措置が適用される国(Countries to which the meas-ure applies)」,「予定期間(Intended duration)」,「免除の必要性を創出している状況(Conditions creating the need for the exemption)」の 5 点について各欄に記入する必要がある。

まず「分野」を記入する欄には,一般的に GATT 事務局が策定した分類(MTN.GNS/W/120) に従って当該文書に規定される12分野及び155細分野を記載する。例えば EU はすべてのサービス 分野に関して 9 件,オーディオ・ビジュアルサービスに関して 8 件,運輸サービスに関して 5 件,他の分野に関して 6 件,合計28件の措置に対して最恵国待遇免除を登録している17。しかしな がら,これらの分野に当てはまらない記入例も存在する。例えば,合計18件の措置に対して最恵 国待遇免除を登録したアメリカの場合,「人の移動(Movement of persons)」や「すべての分野に おける課税措置(All Sectors: Taxation Measures)」に対して免除を登録している18。いずれも

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―  ―

19 Supranote 17, GATS/EL/31, at 6. 20 Ibid., GATS/EL/31.

21 Ibid., GATS/EL/31. Supra note 18, GATS/EL/90. CanadaFinal List of Article II (MFN) Exemptions, WTO

Doc. GATS/EL/16 (April 15, 1994), CanadaFinal List of Article II (MFN) Exemptions Supplement 1, WTO Doc. GATS/EL/16/Suppl. 1 (July 28, 1995), CanadaFinal List of Article II (MFN) Exemptions Supplement 1 Revision, WTO Doc. GATS/EL/16/Suppl. 1/Rev. 1 (October 4, 1995), CanadaFinal List of Article II (MFN) Exemptions Supplement 2, WTO Doc. GATS/EL/16/Suppl. 2 (February 26, 1998).

22 Supranote 2.

23 Supranote 17, GATS/EL/31, supra note 18, GATS/EL/90, and supra note 21, GATS/EL/16.

―  ― GATT 事務局の分類には当てはまらない分野だが,実際に登録されているため最恵国待遇義務か らの免除が認められる。 「第 2 条と一致しない措置の説明」を記入する欄は,GATS 第 2 条に規定される最恵国待遇義務 から免除される措置に関して,複数国間貿易協定などの相互主義に基づいて特定の国家から提供さ れるサービス又はサービスの提供者に対して与えられる待遇や措置の説明を記入する。EU の場合, EU 構成国や北欧諸国,そしてスイスなどから提供されるサービス又はサービスの提供者に対して 影響の及ぶ措置が一般的である。しかしドイツ,フランス又はイタリアなど EU を構成する各国 においてのみ免除が適用される措置も存在する。そのような措置に対する免除は,複数国間貿易協 定により課される義務を履行するために利用されるのではなく,免除を利用する各国のサービス提 供者の市場アクセスや同等の待遇を確保するためにもっぱら利用されるのである19 「措置が適用される国」を記入する欄では,先述の措置が適用されるサービス及びサービスの提 供者の国名を記入する。免除の趣旨を考えると本欄に記入される国家は特定されるべきであるが, すべての WTO 加盟国が措置の適用対象となっている事例が非常に多い。EU も例外ではなく,国 家の特定が可能な措置については EU 構成国や北欧諸国,そしてスイスなど,適用対象となる国 家を特定している。すべての WTO 加盟国を措置の適用対象とし,適用される国家を個別に特定 しない場合,しばしば自国のサービス提供者の市場アクセスやそれらに対する同等の待遇の確保を 目的として免除が登録されている20 「予定期間」を記入する欄には措置が適用される期間が記入される。しかしながら,期間を特定 した記入例は圧倒的に少ない。EUの場合,免除の対象となる措置について期限が設定された事例 は 2 件に留まる。EU だけではなくアメリカやカナダをはじめとする多くの加盟国が,自ら登録し たほとんどすべての措置について免除の適用期間を定めていない21。免除を利用可能な期限につい て規定した附属書の第 6 項は,加盟国に対して努力目標を定めているに過ぎないため22,加盟国に より利用される多くの措置に対する免除が恒久化している。 最後に「免除の必要性を創出している状況」を記入する欄には,ほとんどの場合免除が適用され る措置の正当化事由が記入される。最も単純な事由としては相互主義の欠如や,複数国間貿易協定 に規定された義務の履行が記入される23。おそらくウルグアイ・ラウンド交渉当時の規律策定段階

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―  ―

24 Ibid., refer to the column of ``Conditions creating the need for the exemption'' with regarded to Audiovisual

services, GATS/EL/31, at 1.

25 Supranote 3, WT/MIN(5)/DEC.

26 Communication from the European Communities and its Member StatesConditional Initial OŠer, WTO Doc.

TN/S/O/EEC (June 10, 2003), pp. 153165, and Communication from the European Communities and its Member StatesConditional Revised OŠer, WTO Doc. TN/S/O/EEC/Rev. 1 (June 29, 2005), pp. 415434.

―  ― では,免除を利用する加盟国が積極的に当該状況の改善や解消を通じて,多角主義に基づいた通商 体制を発展させるべく関連措置の撤廃や免除の撤回を実施すると考えられていたのかもしれない。 しかしながら実際の免除リストには,自国のサービス提供者の市場アクセスやそれらに対する同等 の待遇の確保の必要性といった,国内のサービス提供者など国内産業の保護が目的であると考えら れる事由が記入される事例もある24。また,免除を利用する加盟国によって,ある種の相互主義に 基づく要求や相互主義の欠如が事由として記載されることもある。このような記述をした加盟国 は,そもそも最恵国待遇原則の貫徹を意図していなかったことも考えられるのである。 . ドーハ・ラウンドにおける提案 ドーハ・ラウンドはサービス分野も数多くの議題の一つとして自由化が模索され,最恵国待遇義 務の免除の削減についても議論がされている25。加盟国は自由化を約束する分野を約束表に記入 し,国内規制措置の緩和や撤廃を実施する。ドーハ・ラウンドは依然として交渉中で妥結していな いため,その結果は今後の交渉次第で変わる可能性がある。 しかし,加盟国がドーハ・ラウンドにおいて提出しているオファーと GATS の免除リストを比 較すると,最恵国待遇義務の免除が依然として残存していることを確認できる。ドーハ・ラウンド における最恵国待遇義務の免除リストは GATS の免除リストから形式と内容を引き継いでいる。 例えば「分野」欄について EU のリストを見ると,すべてのサービス分野に関して12件(追加が 4 件,削除が 1 件,GATS 以来の記述の改訂が 1 件),オーディオ・ビジュアルサービスに関して 8 件(GATS 以来の記述の改訂が 1 件),運輸サービスに関して17件(追加が12件,GATS 以来の記 述の改訂が 1 件),その他の個別の分野に関して13件(追加が 9 件,削除が 2 件),合計50件の措 置について最恵国待遇の免除の登録を意図していることが分かる26。免除の利用を求めて記述の追 加された分野の数が25件にのぼる一方で,記述の削除された分野の数はわずか 3 件に過ぎない。 EU の場合,追加された免除の対象となる措置はオーディオ・ビジュアルサービス以外の多くの分 野で確認することができる。追加された措置を見るだけでは,EU により利用される免除の増加に ついて原因を見出すことは困難である。 しかし,「第 2 条と一致しない措置の説明」欄に記述された内容を読むと,多くの措置がチェ コやポーランド又はリトアニアなどの東欧諸国及びバルト海諸国により実施される国内規制で ある。また,少なくない数の措置がサービスの提供者に対する許認可(Authorization for service

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―  ―

27 Ibid., refer to column of ``Description of measure indicating its inconsistency with Article II'' with regard to

Road Transport, TN/S/O/EEC/Rev. 1, pp. 419420.

28 Communication from the United StatesInitial OŠer, WTO Doc. TN/S/O/USA (April 9, 2003), pp. 107118. 29 Communication from CanadaInitial Conditional OŠer on Services, WTO Doc. TN/S/O/CAN (April 4, 2003),

pp. 132138, and CanadaRevised Conditional OŠer on Services, WTO Doc. TN/S/O/CAN/Rev. 1 (May 23, 2005), pp. 111116. With regard to additional measures, refer to the column of ``Maritime Transport'' at 114 and 115. ―  ― supplier)に関連していることが伺える27。それゆえこれらの記載内容は,移行経済国(旧共産主 義国)が各サービスの提供に関する規制権限の温存を意図して記入していたものと考えられる。 EU に関しては追加された免除の数が他の加盟国と比べて多いが,移行経済国の加入を通じて EU が拡大するのに伴い,それらの国々が記入していた免除が反映されたと言える。GATS の免除リ ストにおいては EU 構成国により作成された免除リストが統合されていないため,これら個別の 構成国のリストの統合も意図しているのだろう。この裏付けとしてアメリカやカナダのリストには, EU のような免除の対象となる措置の大幅な増加を見出すことはできない点を挙げることができる。 アメリカの場合,現在のところ免除の対象となる措置は新たに追加されておらず,電気通信サー ビスに関する措置を対象とした免除について削除を提案している。当該措置はテレビサービスとデ ジタル・オーディオサービスの一方向衛星通信に関し,加盟国に対して異なる待遇を与えるもの で,特定の市場において実質的に完全な市場アクセスと内国民待遇を確保する必要から免除が登録 されていた。しかしながら,削除が提案された措置を除く他のすべての措置について,免除の削減 や撤廃が提案されているわけではない。前節においても述べたように,アメリカは免除リストの 「分野」欄に GATT 事務局が策定した分類に当てはまらない内容(例,「人の移動」や「すべての 分野における課税措置」)を記入している。そして,これらの記載内容はドーハ・ラウンド交渉に おいても改められていないのである28 カナダは GATS 免除リストにおいて合計11件の措置を登録しており,ドーハ・ラウンドにおい ても同様に合計11件の措置に対する免除を提案しているが,免除が適用される措置については若 干の変動がある。銀行業や金融サービス分野に対する 2 件の措置がリストから削除され,新たに 海運サービス分野に対する措置に関して免除の登録を提案しているのである。追加された 1 件目 の措置は既存の二国間協定,取極め及び約束を維持する必要性からアメリカとフランスに対して適 用される特恵的な待遇で,汚染コントロール,安全な航海,はしけ(barge)点検基準,水質,有 視界操縦,薬物乱用コントロール(drug abuse control),及び海上通信(maritime communica-tions)など地域の互恵にまつわる海洋活動に関して,カナダが協定,取極め及び他の公式・非公 式の約束を有する国のサービス提供者に与えられる待遇とされている。新たに登録が提案されてい るもう一つの措置は,既存の歴史的な特恵を維持する必要から,アメリカの船舶が五大湖,その接 続する流域及び支流(their connecting and tributary waters)からオンタリオ州へと入港する際に トン税(tonnage due)の支払いを免除する措置である29

(11)

―  ―

30 Ibid., refer to the column of ``Financial Services, including lending of all types and trading for own account of

certain securities by loan and investment companies'', TN/S/O/CAN/Rev. 1, at 112.

31 JapanConditional Initial OŠer, WTO Doc. TN/S/O/JPN (April 3, 2003), pp. 6263, and JapanRevised

OŠer, WTO Doc. TN/S/O/JPN/Rev. 1 (June 24, 2005), pp. 9394.

32 Ibid., TN/S/O/JPN/Rev. 1, at 94. ―  ― 他方で免除リストから削除されたのは,銀行業,信用貸し及び保険サービス分野において,カナ ダの金融サービス提供者の外国の金融市場へのアクセスを向上するように構想された既存の相互主 義的な措置を維持する必要から,相互主義に基づいて他の加盟国のサービス提供者に対して設立許 可を与える措置である。免除の適用期間は WTO 設立協定の発行後から 6 ヶ月とされていた。こ れまで,当該免除が廃止されたことを示す文書は公表されていなかった。WTO の成立後,カナダ の免除リストは 2 回の補筆(Supplement)と 1 回の改訂(Revision)を経ているが,いずれの版 にも廃止を示す文言や削除されたことを示す打ち消し線は確認できない。しかしながら,同じく削 除されたもう1件の措置に関しては,打ち消し線が引かれ削除が提案されていたことが伺える。削 除が提案されていた措置は,金融サービス分野で既存の歴史的特恵を維持する必要から,イギリス とアイルランドに対してケベック州における特恵待遇を与える措置であった30 上記はいずれもウルグアイ・ラウンド交渉当時に免除リストに一定の記入をしていた加盟国の事 例である。約束表に記入されたサービス分野の自由化約束と比べると,免除リストに記入された最 恵国待遇義務の免除の対象となる措置は極めて少ない。それにもかかわらず,ウルグアイ・ラウン ド交渉当時に作成された免除リストの内容の大部分が,ドーハ・ラウンドにおいても維持されてい る。さらに免除リストへの記入を全くしていない,又は記入を少数に留めていた加盟国の場合, ドーハ・ラウンドの提案において新たな措置が加えられている事例がある。そのような事例とし て,免除を全く登録していなかった日本が運輸サービスに関連する 3 件の措置を新たに申請して いる点を挙げることができる。すなわち,海上沿岸航行サービス(Maritime cabotage services), 国際貨物運送サービス(International freight forwarding services),国際海運サービス(Interna-tional shipping services)の諸分野における措置に対して適用される免除である31

例えば,海上沿岸航行サービスに関する記述を見ると,免除の対象となる措置は,日本との友好 通商航海条約に従って限定的なアクセスを供与される少数の国の船舶を除き,海上沿岸航行サービ スに従事する権利が日本船舶に対して留保される措置である。この措置はすべての加盟国に対して 適用され,先の友好通商航海条約が有効である限りにおいて維持されなければならない(shall) ことから,免除の期間が事実上定められていないと言える。また「免除の必要性を創出している状 況」として,一般的に当該サービスに対しては外国船舶に対して許諾が与えられない一方で,主要 な貿易相手国が相互主義に基づき,又は他の考慮事項から同サービスへの限定的なアクセスを認め ることは十分に確立された国際慣行であることが挙げられている32 同様に国際貨物運送サービスに関する記述を見ると,(複合運輸サービスに関連するサービスな

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―  ―

33 Ibid., TN/S/O/JPN/Rev. 1, at 94.

34 Republic of KoreaRevised OŠer in Services, WTO Doc. TN/S/O/KOR/Rev. 1 (June 14, 2005), at 72.

―  ― ど)当該サービスに関する活動許可や政府の登記(governmental registration)は,日系企業が当 該許可や登記の資格がある国の企業に対してのみ与えられることが,免除の対象となる措置となる ようである。この措置もすべての加盟国に対して適用され,同措置の終了は現在及び後の貿易自由 化に関するラウンド交渉の結果によって検討されなければならない(shall)。「免除の必要性を創 出している状況」として,一部の主要な貿易相手国が日本国民に(複合運輸サービスに関連するサー ビスなど)国際貨物運送サービスの提供に対する十分なアクセスを供与していないことが述べられ ている33。これらの記述から,新たに書き加えられる最恵国待遇義務の免除がラウンド交渉におけ る一種の取引材料として扱われているという問題点を指摘できるだろう。 他方で,日本と同じくウルグアイ・ラウンド交渉当時にほとんど免除を登録しなかった韓国は ドーハ・ラウンドにおいて,残っていた免除の適用される措置をリストから削除することを提案し ている。また,これに伴って新たに免除の対象となる措置の追加もされていない34。日本と韓国は 最恵国待遇義務の免除の審議過程において,その原則に従って WTO 協定発効後の10年以内に免 除が適用されるすべての措置を撤廃するように免除の利用国に対して要求していた。しかしながら ドーハ・ラウンドにおいてこのように両国の対応が分かれたのである。このことは最恵国待遇義務 の免除という多角主義から逸脱を意味する措置の WTO 体制内での在り方について,WTO 加盟国 内では意見が全く統一されていない状況を示していると言える。 . 複数国間貿易協定における利用 本節においては WTO 加盟国が締結した二国間の自由貿易協定と交渉中の複数国間貿易協定に おける最恵国待遇義務の免除について検討する。前節において検討したドーハ・ラウンドにおける 各国の免除リストの内容は,交渉の推移次第でその内容が大きく変わる可能性を残している。他 方,既に妥結している自由貿易協定であれば,その内容は協定について再交渉をする場合でもない 限り変更されることはない。条約法として確立した協定において最恵国待遇義務の免除がどのよう な位置を占めているのか検討することにより,最恵国待遇原則が現在の国際通商体制において有し ている意義が明らかとなる。

 EUKorea Free Trade Agreement

EU と韓国の自由貿易協定は2011年 7 月に発効した。産品の貿易に関しては,協定が発効する時 点で既に大部分の輸入関税が撤廃され,2016年 7 月には限られた数の農産品を除くすべての産品 に対する輸入関税が除去される。また,当該協定は自動車,製薬,医療機器及び電子工学などの分 野を特別に取り扱い,サービスと投資における市場アクセスの機会を創出し,競争政策,政府調

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―  ―

35 The website of European Commission: TradeSouth Korea

(http://ec.europa.eu/trade/policy/countries-and-regions/countries/south-korea/, accessed 2015/09/23).

36 O‹cial Journal of the European Union Vol. 54, EU Doc. L 127 (May 14, 2011), at 27 and 29

(http://eur-lex.europa.eu/legalcontent/EN/ALL/?uri=OJ:L:2011:127:TOC, accessed 2015/09/23). 37 Ibid., EU Doc. L 127, pp. 13051312. 38 Ibid., EU Doc. L 127, pp. 13121314. ―  ― 達,知的所有権,規律の透明性及び持続可能な開発をも包含するという35 当該協定においてサービスの貿易に関する規律は第 7 章に記述され,最恵国待遇義務の免除は 第7.8.3条(c)項及び第7.14.3条(c)項にそれぞれ規定されている36。すなわち,前者に関してはサー ビスの越境取引について規定した第 B 節において,後者に関しては法人の設立又は支店の設置に ついて規定した第 C 節において同じ文言が記述されているのである。GATS の規定するサービス の提供態様は越境取引,国外消費,商業拠点,及び人の移動の 4 種類からなるが,当該 協定においては特に越境取引と商業拠点について最恵国待遇義務を明示している。 免除リストについて見ると,EU はすべてのサービス分野に関して 8 件,運輸サービスに関して 22件,その他の個別のサービス分野に関して13件,合計43件の措置について免除を登録してい る。対照的に,オーディオ・ビジュアルサービスに関しては全く免除が登録されていない37。ほと んどすべての項目において,ドーハ・ラウンドにおける EU の提案と同一の文言が用いられてい る。それゆえ,当該協定における EU による免除の登録は,ドーハ・ラウンドにおいて EU が提 案している免除リストに基礎をおいていると考えられる。また,これらの免除が維持された措置に 関しては,EU の構成国がそれぞれ規制権限を維持しておきたい極めてセンシティヴな分野か,又 は貿易自由化交渉において取引材料として残しておきたい分野なのかもしれない。 同様に韓国もすべてのサービス分野に関して 2 件,運輸サービスに関して 6 件,その他の個別 のサービスに関して 6 件,合計14件の措置について免除を登録している。すべて関連分野に対す る規制権限の維持を求める内容となっており,これはドーハ・ラウンドにおいて韓国が自国の最恵 国待遇義務から免除される措置の全廃を提案していたことと相反する内容である。また,韓国の免 除リストは「分野」と「最恵国待遇原則と一致しない措置の説明」欄が記述されるのみで,「予定 期間」,「措置が適用される国」及び「免除の必要性を創出している状況」などの欄を備えない独自 の形式となっている38。当然,韓国の免除リストには「予定期間」欄が存在しない。最恵国待遇義 務の免除が適用される措置の緩和や撤廃を最初から考慮していないと言えよう。 当該協定における韓国の免除リスト作成は,GATS/WTO 規律の目指す貿易の漸進的自由化と は相容れない行為である。例えば,複数国間貿易協定において GATS 自由化約束よりも低い水準 の自由化が約束される状況は,しばしば GATS マイナスの約束と表現される。そして,このよう な自由化約束に対しては,より有利な内容の自由化約束が規制されている GATS の自由化約束を 適用することで無効化される可能性が指摘されている39。サービスの貿易における自由化約束は, 市場アクセス及び内国民待遇の供与に関わるのであり,最恵国待遇の供与とは異なる。しかしなが

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―  ―

39 Supranote 12, Adlung & Mamdouh 2014, pp. 211212. Rudolf Adlung and Peter Morrison, ``Less than the

GATS: `Negative Preferences' in Regional Services Agreements'' 13(4) Journal of International Economic Law (2010), pp. 110343.

40 The website of the United States Trade Representative: U. S.Korea Free Trade Agreement (https://ustr.

gov/trade-agreements/free-trade-agreements/korus-fta, accessed 2015/09/23).

41 Ibid.,

42 KORUS FTA: Final TextAnnex I Schedule of the United States, Annex II and Annex III (https://ustr.gov/

trade-agreements/free-trade-agreements/korus-fta/ˆnal-text, accessed 2015/09/23). ―  ―

ら,当該協定における韓国の免除リストが GATS マイナスの免除リストと表現することが可能な 場合には,当該免除リストは GATS/WTO 規律に違反するという理由で無効化されるかもしれな い。

 KoreaUSA Free Trade Agreement

韓国とアメリカの自由貿易協定は2012年 3 月に発効した。アメリカ通商代表部の説明による と,当該協定はこの20年において商業的に最も重要な協定として,より多くのアメリカ製の産 品,サービス及び農産品を韓国に輸出する新たな機会をもたらすと説明されている。産品の貿易に ついて言えば,協定の発効から 5 年以内に消費財と工業製品の二国間貿易(bilateral trade in con-sumer and industrial products)の95に関して輸入関税が撤廃され,10年以内に残る大半の関税 が除去される。サービスと農産品の貿易に関しては FTA によって韓国市場がより開放され,とり わけ金融サービスについて見るとアメリカの金融サービス提供者のために透明性と公正な待遇の向 上が確保されている40 米韓自由貿易協定の場合,これまでに検討してきた協定に見られるような免除リストは存在しな いと思われる。これはサービスの貿易自由化に関してポジティヴ・リスト方式を採用した GATS の約束表に類似するリストが,同協定において存在しないことと同様の理由が考えられる。当該協 定は第11章に投資,第12章にサービスの越境取引,第13章に金融サービス,第14章に電気通信 サービス,第15章に電子商取引と分野毎に条文をまとめている。このうち投資,サービスの越境 取引及び金融サービスに関してそれぞれ附属書が存在し,この附属書が約束表にあたる41。各附属 書を見ると,最恵国待遇義務は第11.4条,第12.3条及び第13.3条に規定されていることが伺える。 また同協定においては,自由化を約束しないサービス分野のみを約束表に記載して,未記載の分野 についてすべて自由化約束をするネガティヴ・リスト方式が採用されている。この約束表は「(自 由化を約束しない)分野」,「関連する義務」,「(措置を利用する)政府のレベル」,「措置(法令名)」 及び「(措置の内容)説明」の 5 項目から構成され,このうち「関連する義務」欄に最恵国待遇義 務が記入される事例が存在する42。それゆえ,最恵国待遇義務の免除に関するリストもこのネガテ ィヴ・リストの中に包含されていると考えるのが妥当である。したがって,両国の最恵国待遇義務 の免除の利用状況を検討する必要がある。

(15)

―  ―

43 Ibid.,

44 Supranote 18, GATS/EL/90, at 15. 45 Supranote 42, Annex I, at 4.

46 Supranote 18, GATS/EL/90, pp. 1314. 47 Supranote 42, Annex I, pp. 67.

―  ―

アメリカの場合,すべてのサービス分野に関して 4 件,運輸サービスに関して 4 件,その他の 個別の分野に関して 8 件(金融サービスが 5 件),サービス合計16件の措置について最恵国待遇義 務の免除を登録している43。運輸サービスに関連する記入例を見ると,アメリカは,まず GATS

の免除リストにおいてパイプライン運送サービスに関する措置に対して免除を利用している44

1920年鉱物資源土地賃貸法(the Mineral lands Leasing Act of 1920)によれば,外国人や外国企 業は連邦政府の土地を横断して石油やガスから精製された生産物を運搬するパイプラインの敷設権 を求め,又は石炭や石油など連邦政府の土地にある特定の鉱物資源の賃借や利権を求めることはで きない。米韓自由貿易協定においても,アメリカは1920年法に言及して当該規制を維持している45

また,航空運送サービスに関する措置は,1974年国際航空運送公正競争慣行法(the Interna-tional Air Transportation Fair Competitive Practices Act of 1974),1958年連邦航空法(the Feder-al Aviation Act of 1958),1979年国際航空運送競争法(the InternationFeder-al Air Transportation Com-petition Act of 1979),国際航空設備法(the International Aviation Facilities Act),及び連邦規則 集第14編第 1~399部(Title 14, Parts 1399, of Code of Federal Regulations; 14 C. F. R.)など数 多くの法規制に基づく措置が,GATS の免除リストにおいて一纏めに登録されていた。また,そ の内容も航空運送サービスの販売やコンピュータ予約サービスに関連する措置とされていた46

米韓自由貿易協定においては,記述内容によると「合衆国国民(citizens of the United States)」 である航空運送業者のみが国内航空(貨物運送)サービスにおいて航空機を操縦でき,アメリカの 航空業者として国際航空サービスを提供できることに対して免除が適用されることになる。また, 「外国籍の航空機(Foreign civil aircraft)」はアメリカの領域内で特別な(specialty)航空サービ スを提供するために運輸省に許可を要求しなければならない。当該許可を与えるか決定する際に, 運輸省は申請者の国籍の国家がアメリカ国民である航空機操縦者に対して実効的な互恵を与えてい るか,これを検討することに対しても免除が適用される。同協定において言及される合衆国国民と は,合衆国法典第49編(49 U.S.C.)第40102(a)(15)条の下でアメリカ国民(U.S. citizens)であ る個人,各構成員がアメリカ国民である合名会社,又は代表取締役,取締役会の少なくとも 3 分 の 2,他の経営役員がアメリカ国民で実質的にアメリカ国民の支配下にあり,企業における投票権 の少なくとも75がアメリカ国民によって所有又は支配されているアメリカの企業を意味する47 このように GATS 免除リストとは記述の書式が異なるが,その結果として免除の対象となる国内 規制措置の内容はより詳細になったと言える。 他方,韓国はすべてのサービス分野に関して 1 件,運輸サービスに関して 5 件,その他の個別

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―  ―

48 KORUS FTA: Final TextAnnex I Schedule of Korea, Annex II and Annex III

(https://ustr.gov/trade-agreements/free-trade-agreements/korus-fta/ˆnal-text, accessed 2015/09/23).

49 Ibid., Annex II, at 7, 9 and 19.

50 Supranote 12, Adlung & Mamdouh 2014, pp. 211212.

51 The website of European Commission: TradeTrade in Services Agreement (TiSA) (http://ec.europa.eu/

trade/policy/in-focus/tisa/, accessed 2015/09/23).

52 The EU initial oŠer (November 2013): TiSA Trade in Services Agreement; European UnionList of MFN

Exemptions (http://trade.ec.europa.eu/doclib/html/152689.htm, accessed 2015/09/23), pp. 131155. ―  ― のサービスに関して 8 件,合計14件の措置について免除を登録している48。注目すべきは,約束表 に記載された合計14件の措置のうち実に12件の措置が,EU と韓国の自由貿易協定において韓国の 作成した免除リストの内容と重複している点だろう。記述内容に関して見ると,韓国が関連分野に 対する規制権限の維持を求めている点に同じ特徴を有する。しかしながら EU との協定との違い は,米韓自由貿易協定がネガティヴ・リスト方式の自由化約束表を採用し,免除リストを組み込ん でいる点から生じるのかもしれない。米韓自由貿易協定においては,免除の対象となる措置に関連 する協定上の義務に関して,最恵国待遇義務以外にも内国民待遇義務や市場アクセスを与える義務 などが併記されている49 最恵国待遇義務のみが関連する協定上の義務として当該協定の約束表に記載されている場合,韓 国は GATS 免除リストへの登録をほとんど行っていないため,EU との協定において示したよう に,GATS マイナスの免除リストとして無効化される可能性を指摘できよう50。しかしながら,当 該約束表において最恵国待遇義務,内国民待遇原則や市場アクセスを与える義務など協定上の種々 の義務が一纏めに扱われている。そのため,どのサービス分野が如何なる原則に基づいて自由化さ れ,又は反対に制限され続けるのか,不明確な状況をもたらしているとも言える。

 Trade in Services Agreement

新たなサービス貿易協定(Trade in Services Agreement; TiSA)は,ドーハ・ラウンドの妥結 が見込めないことを受けて2013年に交渉当事国により発表され,早期の合意形成が目指されてい る協定である。2015年現在24の国と地域(EU 各国を含めると51)が交渉に参加している本協定 は,基本的に高所得国が主体となってサービス分野に関して議論が続けられている。2013年11月 には交渉当事国から最初の自由化約束に関する提案が出されており,これには GATS の免除リス トに従った書式で記述された最恵国待遇義務の免除リストも含まれている51。本節においては EU から提出された免除リスト案を簡単に検討する。 TiSA 構想において EU は,すべてのサービス分野に関して12件,オーディオ・ビジュアルサー ビスに関して 8 件,運輸サービスに関して22件,その他の個別の分野に関して16件,合計58件の 措置について免除の登録を提示している52。韓国との協定において削除されていたオーディオ・ビ ジュアルサービスに関する免除の提案が存在することから,EU は当該免除を今後の交渉材料とし

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―  ― 53 Ibid., at 135. 54 Ibid., at 140. 55 Ibid., pp. 117128. ―  ― て利用する意図があるのかもしれない。全体として記述されている内容はドーハ・ラウンドにおい て EU が提案していた免除リストを基に,その後に EU に加盟した構成国が利用する最恵国待遇 義務の免除を追加したものである。免除リストに追加された規制措置の主な利用国はルーマニア, ブルガリア又はクロアチアなどであり,これらの国々はドーハ・ラウンドにおいて EU が免除リ ストを提示した後に EU に加盟している。 しかし,主な利用国の明示されていない措置が,新たに免除リストに記述される例も散見され る。道路運送分野の旅客貨物運送サービスに関して新たに記述された措置は,EU 又は EU の加盟 国と,各締約国において登録された自動車に対する,締約国団間や締約国団の領域を横断する運 輸サービスに関する規定を留保又は制限し,又は当該自動車に対して租税免除を供与する第三国 との間で締結された国際道路輸送及び旅客運送に関する既存又は将来の規定とされる。そしてこの 「措置が適用される国」はスイス,中欧,東欧と南東欧の国々,独立国家共同体の全構成国,アル バニア,トルコなど多岐にわたる。また,措置の「予定期間」は定められていない。この「免除の 必要性を創出する状況」として,道路運送サービスの越境条項(the cross-border provision)の地 域的特性と関連していることが挙げられている53

他に,航空運送補助サービス(Auxiliary Air Transport Services)分野のある航空機がサービ スから退役する(an aircraft is withdrawn from service)間の航空機修復保守サービス,航空運 送サービスの販売とマーケティング,コンピュータ予約システムサービス,及び地上操縦サー ビス,搭乗員附属航空機の賃貸サービス,及び空港経営サービスなど,航空運送サービスを補助す る他のサービスに関する規制は,EU の新規加盟国が実施している措置ではない。この措置は TiSA の発効後に効力を有し,又は批准される国際協定の下で諸国家に対して異なる待遇を与える 措置を採用し,又は維持する権利と記述される。「措置が適用される国」はすべての国家とされ, 免除の「予定期間」は定められていない。さらに「免除の必要性を創出する状況」欄には既存の及 び将来の国際協定を保護する必要性があると記述されている54。これらの例はいずれも運輸サービ スに関連するが,航空運送補助サービスは従来の GATT 事務局が策定した分類(MTN.GNS/W/ 120)に含まれない新たなサービス分野である。TiSA の約束表では当該分類に規定されていた12 分野に,運輸補助サービス(Services Auxiliary to Transport),その他の輸送サービス,及びエネ ルギーサービスの 3 分野が新たに追加されている55。そして航空運送補助サービスは輸送補助サー

ビスの下位分類と考えられる。

市場アクセスや内国民待遇を与える義務に関して見ると,EU が提案した TiSA 自由化約束表 は,水平的約束(Horizontal Commitments)と特定の分野に関する約束(Sector-Speciˆc Commit-ments)の二部に分かれている。第部の水平的約束においては,サービスの貿易自由化に対する

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―  ― 56 Ibid., at 32 and 140. ―  ― EU 及び EU 構成国の留保が記述されており,ネガティヴ・リストに等しい構成となっている。第 部の特定の分野に関する約束では,自由化を約束する分野についてポジティヴ・リスト方式に従 った記述がされている。このことから TiSA においては両方式を組み合わせた自由化約束方式が採 用されたと言えよう。しかしながら,このことにより約束表の第 I 部と免除リストの記述に重複す る内容が生じている56 例に挙げた航空輸送補助サービス分野は,国家にとって極めて重要なサービス産業かもしれな い。しかしながら,新たに自由化の対象として追加されたサービス分野において,先進地域である EU が他国に先んじて新たな免除の登録のために記述を始めていることは,先進国の貿易自由化へ の姿勢に対して他の多くの WTO 加盟国の間に不信を生じる原因となるだろう。TiSA 構想はドー ハ・ラウンドの妥結が見込めないことから高所得国が中心となって始まった新たなアプローチであ る。TiSA 構想はドーハ・ラウンドと同様に交渉中であるため,最終的にはより多くの自由化約束 が約束表に記述され,免除リストに記載される措置の数は現状のものよりも少なくなる可能性があ る。しかしながら TiSA 構想の結果として,先進国が他の WTO 加盟国に先んじて,サービス貿易 における規制権限の留保や制度からの正統な逸脱を確保することになる場合には,発展途上国の ルール構築への参加も GATS/WTO 体制への寄与のいずれも TiSA 構想に期待することはできな いだろう。 . 小結 ドーハ・ラウンド交渉において提案されている免除リストの内容を GATS の免除リストの内容 と比較すると,免除の対象となる措置が維持・増加している傾向を確認できる。停滞しているとは いえ現在も交渉が継続しているドーハ・ラウンドだけではなく,既に締結された二国間間貿易協定 や交渉中の複数国間貿易協定においてもその傾向は顕著である。細分化され膨大な数に上る各種の サービス分野に比べれば,免除リストに記述された措置の数は少なく,最恵国待遇原則からの逸脱 が GATS/WTO 体制に直接及ぼしうる影響は小さいのかもしれない。しかしながら長期的な視点 で現状を鑑みると,GATS/WTO 体制の無差別原則と調和しない措置の維持と増加は,複数国間 貿易協定に由来する相互主義的な利益への享受へと WTO 加盟国を留め,ドーハ・ラウンドなど 多角主義への加盟国の回帰を阻害する要因と化す危険性を有しているのである。 .おわりに サービスの貿易においては,産品の貿易のように国境にて課される関税などの水際措置ではな く,国内規制措置が主要な貿易障壁となり得る。それゆえ,サービスの貿易自由化に際しては,外 国のサービスやサービス提供者に対して市場アクセスと内国民待遇を与える自由化約束を通じて,

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―  ― ―  ― 各国は国内のサービス市場を開放してきた。外国のサービスやサービス提供者にとって,一度国内 のサービス市場へのアクセスを与えられたならば,国内のサービス又はサービス提供者よりも不利 でない待遇を求めることが重要な関心事となる。そのためサービス提供者にとって,第三国との関 係で与えられる待遇を決定する最恵国待遇原則が問題となることはない。 しかし,GATS において免除を利用している加盟国は貿易自由化交渉において,免除を交渉相 手国からより有利な待遇を引き出すための交渉材料として利用している。第 2 条の免除に関する 附属書の規定は,当然のことではあるが,最恵国待遇免除の貿易自由化交渉における交渉材料とし ての利用を想定していない。先進国によって示された交渉材料としての免除の利用が,GATS/ WTO 体制の志向したサービス貿易規律の発展の在り方とは全く異なることは間違いない。 また,各協定における免除リストを検討した結果として,加盟国は免除リストに登録されている 既存の措置を削減するのではなく,むしろ維持し続ける姿勢を示していると判断することができ る。全く免除を登録しなかった日本は,ドーハ・ラウンド交渉において 3 件の措置に対する免除 の利用を提案した。韓国のように GATS では免除をほとんど利用していない国が,複数国間貿易 協定では数多くの免除を登録するという例もある。後者の場合,その記述内容は WTO 協定との 関係で法的に有効か否かという問題が今後も残るだろう。 現状,先進国が TiSA など複数国間貿易協定に関する交渉を利用し,新たなサービス分野に関し て免除を登録しつつある。このような一部の国家による最恵国待遇義務の免除の利用,又は最恵国 待遇原則から逸脱する地位の先取りは,その他の国から支持される行動とは言えない。停滞する ドーハ・ラウンドや長期化する複数国間貿易自由化交渉の現状を鑑みれば,先進国には GATS/ WTO 体制の多角主義を支持し,最恵国待遇義務を遵守する姿勢を示すことが求められている。 サービスの貿易における最恵国待遇原則は,市場アクセスや内国民待遇原則と同様に考慮しなけれ ばならない重要な原則なのである。 主要参考文献

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参照

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