構造工学論文集Vol.56A ( 2010年3月) 土木学会
鋼橋の耐震解析におけるブレース材のモデル化
On analytical models of bracing members in nonlinear seismic analyses of steel bridges
宇佐美 勉*,馬越 一也**,斉藤 直也***,野中 哲也****
Tsutomu Usami, Kazuya Magoshi, Naoya Saito, Tetsuya Nonaka
*フェロー D.Sc.,工博,名城大学教授,理工学部建設システム工学科(〒468-8502名古屋市天白区塩釜口)
**正会員 工修,株式会社耐震解析研究所(〒466-0059名古屋市昭和区福江)
***学生員 名城大学理工学研究科建設システム工学専攻修士課程(〒468-8502名古屋市天白区塩釜口)
****正会員 博(工),株式会社耐震解析研究所(〒466-0059名古屋市昭和区福江)
Combined geometrical and material nonlinear static/dynamic analyses using beam elements are believed to be one of the most practical, yet reliable tools in seismic design of steel structures. This sort of analysis cannot take into account local or distortional buckling; however, member flexural bucking is certainly incorporated into the analysis if adequate modeling is made for the structures. In this paper bracing members installed in one and three story rigid frames are analyzed under both cyclic lateral loading and earthquake motion, and from the results most adequate modeling of their end conditions as well as of initial imperfections are discussed.
Key Words: bracing members, end condition, imperfection, cyclic
analysis, dynamic analysis, geometrical and material nonlinear analysis キーワード:ブレース材,端部条件,初期不整,繰返し解析,動的解析,複合非線形解析
1.緒言
大地震を受ける動的挙動が複雑な鋼橋(アーチ橋,ト ラス橋,斜張橋等)の応答値の算定は,梁要素を用いた 複合非線形動的解析(材料非線形性および幾何学的非線 形性を共に考慮した動的解析)が,現在では最も実用的 かつ精確な解を与える手法と考えられる1),2).また,限界 値を求めるための Pushover 解析あるいは繰り返し載荷
(Cyclic)解析においては,複合非線形静的あるいは準
静的解析(弾塑性有限変位解析)に限界ひずみを導入す る方法が,現在の所最も実用的な手法であろう1),2),3).梁 要素を用いた複合非線形解析では断面変形が伴う座屈,
即ち局部座屈(Local buckling)あるいは,ゆがみ座屈
(Distortional buckling)の影響は考慮出来ないが,部材座 屈(曲げ座屈,曲げねじれ座屈等)は部材を適切にモデ ル化することにより解析の中で自動的に考慮すること が可能である3).このような考えに基づく静荷重に対す る設計法は,微小変位解析に基づき,有効座屈長の概念 を導入した通常の設計法,すなわち「有効座屈長法 3)」
に対し,「線形化有限変位解析に基づく設計」あるいは
「弾塑性有限変位解析に基づく設計」として,国の内外 で広く知られている3),4).設計時に残留応力の影響を考慮 することは煩雑であるため,通常,この影響を等価な初 期たわみ,あるいは初期横荷重に置き換えることが提案 されている3),4),5).
複合非線形静的/動的解析の適用に際し,構造物の適切 なモデル化1),2)が重要であることは言うまでもない.複弦 アーチ橋のような横構,対傾構(以下,ブレース材と総 称する)で横補剛された構造においては,ブレース材は 部材座屈が生ずるようにモデル化することが必須であ る.例えば,ブレース材を両端ピンの初期不整のない部 材としてモデル化すると,分岐座屈解析を実施しない限 り部材座屈現象は考慮出来ず,トラス要素と同じ挙動を 示すこととなる.すなわち,当初真っ直ぐであったブレ ース材は構造物全体の変形が進展しても真っ直ぐの状 態にとどまることになる.部材座屈による部材の曲げ変 形等を表現するためには,ブレース材に適切な量の幾何 学的な初期不整を与える必要があり,初期たわみ,ある
いは初期横荷重等の導入が考えられる5),6).ところが,繰 り返し載荷解析あるいは動的解析において,初期不整の 影響,特に適切な初期横荷重の大きさに触れた論文は見 あたらない.一方,ブレース材と主構造の結合を剛結と し梁要素を用いて解析すれば,端部の2次応力を発生さ せる曲げモーメント(2 次曲げモーメントと称する)の 影響で初期不整を与えたと同じ効果が得られ,初期不整 を考えなくても曲げ座屈現象を追跡出来ると考えられ
る 1),2),3),6).しかし,このことを数値解析的に検討した研
究は,著者らが知る限り見当たらない.
本研究は鋼橋の複合非線形静的,準静的(繰り返し)
および動的解析におけるブレース材の適切なモデル化 に関する基礎的研究である.鋼橋全体の解析は,その複 雑さのため,本質的な議論を見失う可能性がある.その ため,最も単純なブレース材付き1層および3層門型ラ ーメン(図-1)の面内挙動を取り挙げ,繰返し弾塑性有 限変位解析(以降,準静的解析と称する)および複合非 線形動的解析(以降,動的解析と称する)を実施し,ブ レース材と主構造の結合条件,初期不整の与え方と大き さが解析結果に及ぼす影響について考察を行い,最も適 切なブレース材のモデル化を提案する.解析には梁要素 を用いているため,材料非線形性および部材としての幾 何学的非線形性は考慮されるが,局部座屈は考慮出来な い.ブレース材は通常ガセットを介して主構造に接合さ れ,ブレース材の断面形状に応じて中心軸,あるいは,
通常,ガセット面外に偏心する軸力を受けるような構造 になっている.本論文では,ラーメン構造の面内挙動の みを対象とするため,ブレース材と主構造の結合として 偏心がない場合のみを取り扱う.その場合にも,端部条 件の精確な評価には,ガセット(およびその取り付け主
部材)の影響を回転ばね,あるいは有限要素法などに よりモデル化する必要があろうが,本論文では単純な ピンあるいは剛結のみを考えている.すなわち,本論 文では,設計時の耐震解析を念頭に,部材座屈が適切 に評価出来るブレース材のモデル化を提案することに 主眼を置き,端部構造の詳細モデル化等については取 り扱わない.
2.対象構造物および解析モデル
2.1 ブレース材の実績調査
対象とする構造物は,図-1 に示すように,鋼アーチ橋 の1パネルあるいは3パネルを取り挙げた1層および 3層門型ラーメン構造である.本論文では,柱および梁 の断面と長さは同一として,ブレース材の断面のみ変化 させてパラメトリックな解析を行う.そのために,ブレ ース材の細長比に関する実績調査をまず行った.調査は,
鋼上路式トラス橋6橋(橋長=121m~283m),鋼上路式 アーチ橋5橋(75m~176m),鋼π型ラーメン橋3橋(92m
~140m),吊橋1橋(410m)の対傾構,横構(全157本)
に対して行った.結果は Lb/rb(Lb=ブレース材長,rb=ブ レース材の断面2次半径)とLbでプロットして図-2 に 示す.この図より,ブレース材細長比Lb/rbは,40~150 程度の広い範囲に分布していることが分かる.文献7)に は,鋼アーチ橋6橋の実績調査結果として,横構の細長
比は88.6~144の範囲に分布し,平均値は112であるこ
とが報告されている.以上の実績調査を踏まえ,本論文 では,ブレース材の細長比として,50, 100, 150程度の3 種類を選択した.
2.2 準静的解析モデル
準静的解析(繰返し弾塑性有限変位解析)の対象構造 は図-1 に示す1層および3層のブレース材付き門型ラ ーメンで,その部材諸量は表-1 に示されている.断面は 全て正方形箱形断面で,材質はSM490である.ブレース 材として箱形断面を用いることは多くないが,フレーム
B B t
断面
5m 5m 5m
3m
P
P
X 3m
( )
Δ H5m
P P
3m 3m
( )
Δ HX
複弦アーチ
図-1 ブレース材付き門型ラーメン (a)1層
(b)3層
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 50 100 150 Lb/rb
Lb(m) 鋼上路式トラス橋(6橋) 鋼上路式アーチ橋(5橋) 鋼π型ラーメン橋(3橋) 吊橋(1橋)
図-2 ブレース材細長比の分布
の面内挙動のみを対象としているので,断面形の相違の 影響は本質的な議論ではない.ブレース材の細長比Lb/rb
は49(ブレース材A),102(ブレース材B),158(ブレ
ース材C)の3種類である.
ブレース材端部と主構造の接合方法(ピンあるいは剛 結)および初期不整の与え方(初期不整なし,初期たわ み,初期横荷重)として,図-3 に示す6種類を考える.
すなわち,ピン-初期不整なし(P),剛結-初期不整なし (R),ピン-初期たわみあり(P-ID),剛結-初期たわみあ り(R-ID),ピン-初期横荷重あり(P-IL),剛結-初期横荷
重(R-IL)である.以降,解析モデルは括弧内の略号で示
す.
初期たわみは,最大値がLb/1000 の半波の正弦曲線と して,変形前のブレース材軸の座標値(図-2 の実線の方 向を正とする)として与えた.初期横荷重はブレース材 軸に直角に作用する等分布荷重とし,その大きさおよび 方向はブレース材を単純はりとした時のブレース材中 央のたわみが方向を含めてLb/1000 に等しくなるように
定めた.初期横荷重の大きさは載荷履歴の間変化しない としている.フレームの初期不整は,曲げ変形が卓越し,
変形に及ぼす影響が小さいと考えられるため,考慮しな いものとする.
柱頂部には,柱の全断面降伏軸力Nyの20%の一定鉛直
荷重P=2,420 kNが載荷され,構造物頂部の梁には,繰り
返し水平荷重Hが作用している.一定鉛直荷重の大きさ は,鋼アーチ橋の実績調査 7)として報告されている値の
平均値0.16Nyを参考に,少し大きめに定めた.柱上端の
梁に載荷した繰り返し水平荷重Hは,その作用点に強制 水平変位Δを与えてその反力として算定した.水平変位 Δは,図-4 に示すようなパターンで与え,正負は,図-1 の座標軸Xの正負に従い,右方向変位を正としている.
2.3 動的解析モデル
動的解析(複合非線形動的解析)における対象構造は,
準静的解析と同じ基部固定の1層門型ラーメンである 表-2 動的解析モデルの特性
なし
- ピン 剛結 ピン 剛結 ピン 剛結
弾 性 水 平
剛 性 K kN/m 37,000 229,000 232,000 134,000 134,000 100,000 100,000 固有周期 T s 0.723 0.292 0.290 0.382 0.381 0.441 0.441
固 有 円
振 動 数 ω rad/s 8.7 21.5 21.7 16.4 16.5 14.2 14.2 質 量 m ton 247x2 247x2 247x2 247x2 247x2 247x2 247x2
C ブレース材の種類
端部結合条件
A B
図-4 載荷パターン
1
2
5
) Δ(mm
Step 100
200
−100
−200 0
4
3図-5 動的解析モデル(m=247ton)
5m 3m 3m
)
0
( t y &&
m m
表-1 部材諸量
フレーム部材(柱) フレーム部材(梁)ブレース材A ブレース材B ブレース材C
部材長 L m 5.000 6.000 5.830 5.830 5.830
断面幅 B m 0.500 0.500 0.300 0.150 0.100
断面板厚 t m 0.020 0.020 0.010 0.010 0.010
断面積 A m2 0.0384 0.0384 0.0116 0.0056 0.0036
断面2次
モーメント I m4 1.48E-03 1.48E-03 1.63E-04 1.84E-05 4.92E-06 断面2次半径 r m 0.1961 0.1961 0.1185 0.0573 0.0370 細長比 L/r - 25 31 49 102 158
材質 - - SM490 SM490 SM490 SM490 SM490
降伏応力度 σy kN/m2 3.15E+05 3.15E+05 3.15E+05 3.15E+05 3.15E+05 弾性係数 E kN/m2 2.00E+08 2.00E+08 2.00E+08 2.00E+08 2.00E+08 せん断弾性
係数 G kN/m2 7.69E+07 7.69E+07 7.69E+07 7.69E+07 7.69E+07 全断面降伏
軸力 Ny kN 12,096 12,096 3,654 1,764 1,134 有効せん断
係数 k kN/m2 0.44 0.44 0.44 0.44 0.44 細長比
パラメータ λ - 0.322 0.386 0.622 1.285 1.992 ファイバー要素の
積分点 - - 25x25 25x25 29x29 15x15 15x15 鉛直荷重 P kN 2420 ― ― ― ―
図-3 解析モデル(1層ラーメン)
ピ ン 剛 結
P R
P-ID R-ID
P-IL R-IL
初 期 横 荷 重 初
期
不
整
の
与
え
方
端 部 の 結 合 条 件
な
し
初 期 た わ み
(図-1,表-1 参照).この構造物の振動モデルを図-5 に 示す.柱頂部には,図-1(a)の鉛直荷重Pに対応する質 量(m=P/g=247 ton,ここでgは重力の加速度)を載せ,
構造物の基部には,次式で表される漸増振幅正弦波地動
)
0
( t
y
(右方向を正とする)を作用させた.t t
t
y
0( ) = 74 ⋅ sin 17 . 2
(mm) (1) 地動の円振動数p = 17.2 rad/sは,両端ピンのブレース 材Aを設置したフレームの円振動数比p/ω(ここで,ω はブレース材付きフレームの固有円振動数)が,ほぼ0.8 になるように定めた.また,地動の振幅(74 mm)は構 造物が塑性域で振動するように試行錯誤的に決めた.表 -2 に動的解析を行ったフレームの動的特性を示す.3.解析ソフト,要素および構成則
非線形解析,とりわけ複合非線形解析では解析ソフト およびモデル化による結果のばらつきが大きいため,2 種類以上の解析ソフトによる結果の相互比較が望まし
い 1),2).そのため,解析ソフトとして,Abaqus(ver. 6.7)8)
およびSeanFEM(ver. 1.22)9)の2種類を用いた.
全ての部材には,せん断変形を考慮した Timoshenko 梁要素(AbaqusはB21要素,SeanFEMはファイバー要 素)を用い,梁,柱は共に軸方向に 10 要素に均等分割 し,ブレース材は,分割数の影響を調べるため,軸方向
に5,10,20要素に均等分割した.ひずみを評価するための
断面の積分点は表-1 に記載されている.剛性マトリッ クス等を算定するための軸方向の積分点は,Abaqusで
は1点,SeanFEMでは3点である.いずれも梁要素を
用いた定式化を行っているが,Abaqusは有限ひずみで 有限回転の影響が考慮出来る.そのため,真応力-真 ひずみ(対数ひずみ)を用いている.一方,SeanFEM では,いわゆる近似更新ラグランジュ法10),11)(AULD:
Approximate updated Lagrangian description)に基づく定 式化を行っており,更新された移動座標軸で測った部 材のたわみは,次のステップでの計算のための初期た わみとして考慮されている.但し,ひずみは,通常の 梁要素を用いた有限変位解析と同様に,微小とし,回 転のみ有限としている.
準静的解析では柱頂部(水平荷重載荷点)の水平変 位を制御する変位増分法によった.水平変位の増分刻 み幅は一定とし,その大きさは試行錯誤的に定めた.
動的解析では,数値積分法としてHilbert-Hughes-Taylor 法8)を用い,時間刻みは0.01秒(一定)を用いた.ま た,減衰は質量比例型,減衰定数は0.05とした.
構成則はバイリニア型の移動硬化則2),3)を用い,2次 勾配はE/100(E=弾性係数)とした.Abaqusでの構成 則は真応力-真ひずみで入力する必要があるため,バ イリニア型の移動硬化則を公称応力-公称ひずみ関係 と見なし,それを真応力-真ひずみ関係に変換した.
そのため真応力-真ひずみ関係の第2勾配はもはや一 定ではなくなるが,10%の塑性真ひずみと弾性限を結ん だ直線を基に2次勾配を設定している.SeanFEMは表形 式で公称応力と公称ひずみを与えることでバイリニア を設定している.
4.準静的解析結果
4.1 解析ソフトおよび分割数の影響
準静的解析のすべてのケースについて Abaqus,
SeanFEMで解析を行い,結果の相互比較を行った.結果
の一例を図-6 に示す.ここでは,ブレース材の要素分割 数は10分割を用いている.図-6 から分かるように,点 a のように,履歴曲線が不連続となり,物理的に正しい 解とは考えられない箇所を除いて,2つの解析ソフト間 に大きな相違はなかった.但し,有限ひずみと微小ひず み理論の違いから,断面の減少を無視できない更に大き な非線形領域では差が出てくる可能性があるが,ひずみ が10%程度では有限ひずみと微小ひずみ理論の応力差は 2%程度であるため,双方の違いは一般の鋼橋のレベル2 地震時では問題にならない範囲と考えられる.
ブレース材には後述のように大きな座屈変形が生ず るために,その要素分割数についても検討しておく必要 がある.そのため,前述のようにブレース材を 5,10,20 要素分割について解析を行い,相互比較を行った.結果 は省略するが,いずれの分割数でもほとんど差は見られ
-8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
Abaqus SeanFEM -8000
-6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
Abaqus SeanFEM
(a)ブレース材 A(P)
(b)ブレース材 A(R-ID) 図-6 Abaqus と SeanFEM の結果比較
H Δ H
Δ
a
なかった.
以上のことを総合して,以降の準静的および動的解 析結果は特に断らない限りブレース材を 10 要素に均 等分割したAbaqusの結果を用いることにする.
4.2 全体挙動-初期不整の与え方の影響
初期不整の与え方の構造物全体挙動への影響をまず 述べる.
図-7 に,1層ラーメン(ブレース材A設置)でのブ レースの端部結合をピン(図-7(a)),あるいは剛結(図 -7(b))としたときの水平荷重H-水平変位Δの履歴曲 線を示す.それぞれの図では,初期不整なし(P,R),
初期たわみあり(P-ID,R-ID),初期横荷重あり(P-IL,R-IL) の結果が示されている.ブレース材端部の結合条件がピ ンの場合(図-7(a)),(P)はブレース材の座屈を考慮出来 ないため荷重が一番高いが,(P-ID),(P-IL)はほぼ同じ履 歴を描いていることがわかる.一方,ブレース材端部の 結合条件が剛結の場合(図-7(b)),初期不整の有無およ び与え方(初期たわみまたは初期横荷重)で変化はなく,
履歴曲線はほぼ同じである.すなわち,緒言でも述べた ように,ブレース材端部を剛結とすれば,2次モーメン トの影響で初期不整を与えたことと同様の効果が得ら れることが実証出来た.なお,断面が小さいブレース材 B, Cでも図-7(a),(b)とほぼ同様の結果が得られている.
まとめると,最高荷重に関しては,(P)が一番大きく,
(P-ID)≒(P-IL),(R)≒(R-ID)≒(R-IL)といった傾向が見ら れる.
4.3 全体挙動-ブレース材の剛性の影響
ブレース材の曲げ剛性(細長比)が構造物の全体挙動 に与える影響を検討する.
ブレース材A,B,Cを取り付けた一層ラーメンの(R), (P-IL),(R-IL)の解析結果の比較を,図-8(a)~(c)に示す.
ブレース材 A では(P-IL)が一番強度が小さく,剛結(R,
R-IL)の内側のループを描いている.一方,ブレース材B,
Cでは(P-IL)と(R-IL)の差は小さくなっていることがわか る.これは,ブレース材Aと比較して,よりスレンダー なブレース材BおよびCでは,ブレース材端部の結合条 件が,ラーメン全体の強度に与える貢献度が小さくなり,
-8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
P P-ID P-IL
-8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R R-ID R-IL
(a)端部結合条件:ピン
(b)端部結合条件:剛結
図-7 初期不整の与え方の影響(1層, ブレース材 A)
H Δ H
Δ
-4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R P-IL R-IL -8000
-6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R P-IL R-IL
-4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R P-IL R-IL
(a)ブレース材 A (Lb/rb=49)
(b)ブレース材 B (Lb/rb=102)
図-8 ブレース材剛性の影響(1層ラーメン)
H Δ H
Δ
(c)ブレース材 C (Lb/rb=158)
H Δ
ピンの特性に近づいたためと考えられる.一般の鋼橋 の対傾構,横構等のブレース材の細長比はブレース材 BあるいはCの細長比に近いため,結合条件が取り付 け部(ガセットプレート等)の剛性によりある程度の 変形拘束が期待出来るものの,実用的な範囲内ではそ の影響は大きくなく,それを無視し,ピンと考えても よいと考えられる.
4.4 部材挙動-ブレース材の変形挙動
構造物内に設置されたブレース材の変形挙動を単一 部材(Isolated member)の変形挙動と比較して示す.
ブレース材B を設置した1層フレーム(P-ID)および
(P-IL)の準静的解析結果から,左側のブレース材の軸方
向力 P-軸方向変位δ,および左・右のブレース材中
央の横たわみwの履歴曲線を算定した.記号および部 材の横たわみの正負については,図-9 を参照されたい.
また,ブレース材Bをフレームから切り離し,初期た わみ,あるいは初期横荷重を有する両端単純支持柱と し,繰り返し引張-圧縮載荷を行って単一部材の履歴 挙動を算定した.以上の解析で得られたP-δ履歴曲 線を図-10,wの履歴曲線を図-11 に示す.
図-10(a)に示す(P-ID)のP-δ履歴曲線は,折り返し 点3から4,および折り返し点5から6に載荷途中の 圧縮側のピーク値近傍を除いて,単一部材とブレース 材の挙動はほとんど一致することが分かる.また,図 -10(b)の(P-IL)のP-δ履歴曲線は,全領域に渡って単 一部材とブレース材の挙動は一致することが分かる.
これらのことは,ブレース材付きフレームの全体解析,
特に(P-IL)の解の精確さを表すことにもなる.
一方,図-11(a),(b)に示す左・右のブレース材のた わみwの履歴曲線においては,たわみの大きさは単一 部材とブレース材で概ね一致する.しかし,図-11(a) の左側のブレース材の(P-ID)の履歴挙動においては,3 番目の折り返し点で,ブレース材のたわみが負側に反 転するという現象が生じている.たわみの反転は,飛 び移り座屈(Snap-through buckling)現象3)と考えられ,
このような現象が存在するため,(P-ID)の解析は,時と して図-6(b)のa点のように,正しいと思われる解に収 束しない場合が存在する.ちなみに,Abaqusでは不均
衡力,SeanFEMではエネルギーの釣合い,または不均
衡力のどちらかで誤差が小さい方によって収束判定を している.一方,(P-IL)の場合は,初期横荷重により部
H Δ
w δ
P
w δ
正 P
図-9 ブレース材のたわみと軸変形
-1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500
-350 -250 -150 -50 50 150
δ(mm)
P(kN)
構造物内 単一部材
-1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500
-350 -250 -150 -50 50 150
δ(mm)
P(kN)
構造物内 単一部材
(a)ブレース材 B(P-ID)
(b)ブレース材 B(P-IL) 図-10 左ブレース材の P-δ曲線
100 200
−1000
−200 300400
−300
1 2
5
4
3 7
6
) Δ(mm
Step
100 200
−1000
−200 300 400
−300
1 2
5
4
3 7
6
) Δ(mm
Step
1
2
5
4
3 7
6
1
2
5
4
3 7
6 P δ
P δ
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Step
たわみw(mm)
単一部材 P-ID P-IL
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Step
たわみw(mm)
単一部材 P-ID P-IL
(a)ブレース材 B(左ブレース材)
(b)ブレース材 B(右ブレース材) 図-11 左・右ブレース材のたわみの履歴曲線
100200
−1000
−200 300 400
−300
1 2
5
4
3 7
6
) Δ(mm
Step
100 200
−1000
−200 300 400
−300
1 2
5
4
3 7
6
) Δ(mm
w Step
w
材を一方向に“押さえつける”ことになり,常に同一方 向にたわみが生じ,(P-ID)のように解の収束性に問題が 生ずることはない.
4.3 節でブレース材の剛性が全体挙動に与える影響は,
実用的な範囲内のブレース材では小さく,両端ピンとし て考えてもよいこと示した.ここでは,ブレース材の変 形挙動に及ぼす端部条件を検討してみる.図-12 は,左 側のブレース材の P-δ履歴曲線を(R),(P-IL),(R-IL) の解析結果から算定したものである.図から分かるよう に,構造全体の挙動では見られなかった,ブレース材端 部の結合条件の影響が顕著に現れている.実挙動は,フ レーム,ガセットプレート,ブレース材の曲げ剛性に応 じて,(P-IL)と(R-IL)の結果の中間に来るものと考えられ る.精確な評価は,ガセットプレートおよび周辺部材を メッシュ分割した有限要素法による詳細解析13)によらな ければならないが,実務では,圧縮側の耐力が小さい
(P-IL)の解析が推奨される.
4.5 解の収束性の検討
本解析は,複合非線形解析であるため,繰り返し収束 計算が発生するが,増分変位あるいは時間の刻み幅によ っては解が発散したり,目的の部材耐力を精確に捉える ことができないことがある.一般的な傾向として,材料 非線形が卓越する場合は比較的収束し易く,部材座屈の ような幾何学的非線形の影響が大きい場合には収束が 困難となる場合がある.この場合,刻み幅を非常に小さ く採っても収束解が得られなかったり,逆に大きく採る ことで部材座屈の現象をスキップしてしまうことがあ る.本論文では,変形図の確認やブレース材のP-δ曲 線が滑らかな曲線になるケースについて結果を示して いる.つまり,解の安定性を,収束性(繰り返し収束回 数の少なさ)と,正確性(得られた解が物理的に妥当で あるかどうか)より判断しており,試行錯誤的に刻み幅 を決定している.
本検討モデルでの解の安定性は,(P) > (P-IL)≒(R-IL) >
(P-ID)≒(R-ID) > (R)であった.これは以下に述べること が要因と考えられる.
1) (P)は,本論文の解析では部材座屈を考慮できず,
材料非線形性の影響が卓越するので収束性は最 もよい.
2) (R)はブレース材端部の2次モーメントのみが初
期不整の役割を果たすため収束性が一番悪い.
3) (P-ID),(R-ID)は座標によって初期たわみが与え られており,水平荷重を折り返す時に,ブレース 材のたわみの方向が反転する場合があり部材座 屈を捉えることが困難になり,正確な解が得られ ない場合がある.
4) (P-IL),(R-IL)は横荷重によってブレース材に初 期不整を与えているため,繰返し水平荷重を載荷 したとき常にブレース材に直角に荷重が載荷さ れていることが,部材座屈を比較的捉えやすくな っている.
本論文で一番細かい水平変位の刻み幅は(P-ID),(R-ID)
の0.1mm(図-4 の1-2の範囲)であった.このとき収
束が困難となったのは,図-4 の点2近傍である.点2は,
図-11(a),(b)に示すように,左側ブレース材が部材座屈 をして大きな横たわみを生ずる反面,右側ブレース材は 引張力により伸びきり,横たわみがなくなる点である.
これまでのAbaqus の解析では,増分変位の刻み幅を一 定にし,その大きさを試行錯誤的に決定していたが,試 みに刻み幅を自動(Auto)とし,(P, P-ID, P-IL)の解析を 行った(図-13).但し,刻み幅の初期値は0.01mmであ
る.(P-ID)は,載荷履歴1-2で,横たわみが徐々に無く
なる右側ブレース材の座屈挙動を捉えることが出来な くなり,途中から(P)のH-Δ曲線に移行してしまい,以 降はもはや部材座屈を考慮した解(P-IL)には戻らなくな った.これは,載荷点1-2の途中で収束が困難となり,
自動で刻み幅が大きく取られた結果,部材座屈現象をス キップしてしまったためと思われる.このことは,各ス テップの収束状況が保存されるファイルに「剛性マトリ ックスの固有値が負」の警告(Warning)が出力されおり,
収束が困難になった点近傍で分岐座屈が起こっている 可能性を示すことから推測される.これに対し,(P-IL) は一定の横荷重が常に存在し微小なたわみが残留する
-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500
-200 -150 -100 -50 0 50 100
δ(mm)
P(kN)
R P-IL R-IL
図-12 ブレース材の P-δ関係-端部結合条件の影響
100 200
−1000
−200 300 400
−300
1 2
5
4 3
) Δ(mm
Step
1
2
5
4
3
P δ
-5000 -4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000 5000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
P P-ID P-IL
図-13 自動刻み幅による変位制御解析結果(Abaqus)
H Δ
1
4 2
3
ため,左・右のブレース材の部材座屈を適切に捉えるこ とはできる.
複合非線形解析の場合,使用する解析ソフトの特徴や 性質を把握し,適切な刻み幅,収束のための各種パラメ ータを設定することが必要である.特に初期たわみを与 えて自動刻みの変位増分解析をする場合には注意を要 し,初期横荷重を与えた解析の方が安定的に解を得るこ とが出来る.
4.6 3層ラーメンの解析結果
複弦アーチ橋のような横構,対傾構を対象としている ため,1層ラーメンよりも更に近い構造である3層ラー メンについて検討を行った.3層ラーメンでは,真中に 位置するブレース材が最初に座屈を起こして,次に下段,
上段の順に部材座屈した.いずれも最初の載荷ステップ
(図-4 の0-1の範囲)で降伏,部材座屈が発生した.
図-14 に3層ラーメンのH-Δ曲線を示す.1層ラー メンの結果(図-8)と比較すると,耐荷力の差はあるも のの,相対的な大小関係(R≒R-IL>P-IL)は同じであるこ とがわかる.また,ブレースBの(R),(R-IL)の履歴はブ レースAと比較して(P-IL)に近くなっていることも1層 ラーメンと同じ傾向である.また,収束性では1層ラー メンと比較して,3層ラーメンではブレース材が増える ため,部材座屈箇所が増加し,試行錯誤的に決めていた 刻み幅の予測が非常に困難となる場合がある.
5.動的解析結果
動的解析結果はこれまで述べてきた準静的解析結果 と基本的に変わることはない.ここでは,ブレース材B を設置した場合の結果について述べる.
図-15(a),(b)は,初期不整の与え方の影響を見るため に行った動的解析結果で,慣性力H-フレーム頂部の応 答水平変位Δ曲線を,ブレース材端部の結合条件がピン
(図-15(a)),剛結(図-15(b))に対して示したもので ある.これらは,準静的解析における図-7(a),(b)に対 応する.慣性力を水平力,応答水平変位を水平変位に置 き換えれば,動的解析結果は準静的解析結果(4.2 節)
と全く同じ傾向にあることが分かる.
同じく,図-16(a),(b)は,右側ブレース材の動的軸方 向力P-軸方向変位δ曲線をブレース材端部がピン(図 -16(a)),剛結(図-16(b))に対して示したものである.
これらについても準静的解析4.4 節で述べた所論がその まま当てはまることが分かる.
最後に,ブレース材の端部結合条件の影響を見るため に行った(R, P-IL, R-IL)の解析結果を,図-17(H-Δ曲線), 図-18(右側ブレース材のP-δ曲線)で比較した.さら に,初期不整の与え方の影響を見るために行った(P, P-ID, P-IL)の解析結果を,右側ブレース材の横たわみの履歴曲 線として図-19 に示した.これらの全てについて,準静
-5000 -4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000 5000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R P-IL R-IL
-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R P-IL R-IL
(a)ブレース材 A
(b)ブレース材 B
図-14 3層ラーメンの準静的解析結果
H Δ H
Δ
-4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
P P-ID P-IL
-4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R R-ID R-IL
(a)端部結合条件:ピン
(b)端部結合条件:剛結
図-15 初期不整の与え方の影響(動的解析,ブレース材 B)
Δ
Δ
的解析で述べた所論が当てはまる.図-19 の横たわみの 履歴曲線については,(P-ID)に対してたわみの反転が見
られ,(P-IL)についてはそれが見られないことも,準静的
解析と一致する.
6. ブレース材の最適解析モデルの提案
以上の考察より,「部材座屈が自動的に考慮できる(信 頼性)」,「安定した解が得られる(収束性,正確性)」と いう観点より解析モデルを評価すると表-3 のようにな る.これにより,準静的および動的解析に対して推奨さ
れるブレース材のモデル化は(P-IL),(R-IL)となる.(P) は部材座屈が考慮できないため使用すべきではない.
一般的に複弦アーチ橋の対傾構や横構の細長比Lb/rbは 80~130である7)ため,図-8(b)に示したように,ブレ ース材端部結合条件のピンと剛結では,構造全体の履 歴曲線に与える影響は小さく,(P-IL),(R-IL)は共に適切 なモデル化として適用できよう.ただし,4.4 節で述べ たように,ブレース材自身の変形挙動には端部接合条件
(ガセットプレートの剛性)が大きく影響するが,これ については未だ精確な評価が出来ない.従って,現状で は,安全側を見て,(P-IL)が最適解析モデルとして推奨さ れる.なお,幾何学非線形性によって部材座屈を評価す る場合は座屈モードを表現できるように1本のブレース 材を多分割(本検討のブレース材は 10 分割)すること は前提条件となる.
-4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000
-200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200
Δ(mm)
H(kN)
R P-IL R-IL
図-17 ブレース材の端部結合条件が全体挙動に及ぼす影響
(動的解析,ブレース材 B)
Δ
-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000
-100 -50 0 50 100
δ(mm)
P(kN)
P P-ID P-IL
-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000
-100 -50 0 50 100
δ(mm)
P(kN)
R R-ID R-IL
図-16 ブレース材の P-δ曲線(動的解析,右ブレース材)
(a)端部結合条件:ピン
(b)端部結合条件:剛結
P δ
P δ
-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000
-100 -50 0 50 100
δ(mm)
P(kN)
R P-IL R-IL
図-18 ブレース材の端部条件が P-δ挙動に及ぼす影響
(動的解析,ブレース材 B)
P δ
-0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 0.5 1 1.5 2
time(s)
たわみw(mm)
P P-ID P-IL
図-19 初期変形の与え方の影響(動的解析,ブレース材 B)
w
表-3 ブレース材の最適なモデル化
端部の結合条件
検討モデル P P-ID P-IL R R-ID R-IL 部材座屈を考慮できる × ○ ○ ○ ○ ○ 安定した解が得られる ○ △ ○ × △ ○
総評 × △ ○ △ △ ○
○:可,×:不可,△:場合によっては不可.
ピ ン 剛 結
7.適切な初期横荷重の大きさの提案
先述のように,ブレース材の適切な解析モデルは(P-IL) であったが,それでは初期横荷重はどの程度の大きさの ものを考えれば適切かを考察してみる.前章の検討では,
初期横荷重はLb/1000の初期たわみを与えるような等分 布荷重を算定したが,ここでは,道路橋示方書12)(以下,
道示と略記する)あるいは Eurocode(以下,ECCS)で 規定される柱の耐荷力曲線3),4)(図-20 で,ECCSは溶接 集成箱形断面に対応するb曲線)を基準にして等価な初 期横荷重を算出する.すなわち,一定等分布横荷重のも とで単調増大軸圧縮力を受ける両端単純支持の柱の耐 荷力を算定し,それが道示,あるいはECCSの柱の耐荷 力曲線と等しくなるような横荷重を初期不整としての 分布横荷重とする.これは,残留応力と初期たわみが柱 の耐荷力に及ぼす影響を等価な分布横荷重に置き換え ること意味する.ブレース材を表-4 に示すとおり Lb/rb=49,75,102,124,158と変化させた5ケースを用 いて,以下の手順により行った.
①断面積と単位体積重量(77 kN/m3)の積から算定した 自重に対する等分布荷重(表-4 の
q
自重),および初期たわみLb/1000と等価な分布荷重(表-4 の
q
L/1000)を初期横荷重として柱の耐荷力(最大強度)を算出する.
例としてLb/rb=102について図-21(a)に軸圧縮力P-軸 変位δ曲線を示す.
②横軸に初期不整として与えた分布荷重,縦軸に耐荷力 を採り,①で得られた2点をプロットする(図-21(b)). 2点を結ぶ直線上に,図-20 から得られる道示とECCS 表-4 検討モデル
1 2 3 4 5
フランジ幅 B m 0.300 0.200 0.150 0.125 0.100
板厚 t m 0.010 0.010 0.010 0.010 0.010
細長比 Lb/rb - 49.2 75.1 101.8 123.7 157.7
細長比
パラメータ λ - 0.62 0.95 1.29 1.56 1.99 自重 q自重 kN/m 0.893 0.585 0.431 0.354 0.277
自重による
たわみ δ0 m 0.0004 0.0010 0.0018 0.0026 0.0042
初期たわみを
与える重量 qL/1000 kN/m 12.61 3.55 1.42 0.79 0.38
初期たわみ
(L/1000) δ0' m 0.0058 0.0058 0.0058 0.0058 0.0058 σu/σy - 0.83 0.63 0.43 0.32 0.21
Pu kN 3020 1510 766 464 239
σu/σy - 0.77 0.59 0.41 0.31 0.21
Pu kN 2814 1418 727 451 239
ECCS(b曲線) 耐荷力
道示[2002]
耐荷力
ケース名
0 200 400 600 800 1000 1200
0 0.01 0.02 0.03 δ(m)0.04
P(kN)
自重 L/1000
0 200 400 600 800 1000 1200
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
q(kN/m)
Pu(kN)
自重 L/1000 ECCS(b曲線) 道示[2002]
(a)耐荷力の算定
(b)耐荷力に対応する分布荷重の算定 図-21 等価初期荷重の設定(Lb/rb=102)
q P
δ
q自重 qL/1000 qECCS q道示
0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5
0.5 1 1.5 2
図-22 等価初期荷重の算出
近似直線
1000
/ L/ ECCS q q
1000
/qL/
q道示 1000
/qL/
q
λ
49 /b=
b r L
75 /b=
b r L
102 /b=
b r L
124 /b=
b r
L Lb/rb=158 0
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 0.5 1 1.5 2
Euler ECCS(b曲線) 道示[2002]
図-20 柱の耐荷力曲線の比較
λ
y cr σ σ
の柱の耐荷力(表-4 のPu)に対応する分布荷重(
q
道示あるいは
q
ECCS:第一近似)をそれぞれ求める.③更に,
q
道示あるいはq
ECCSを初期荷重として,柱の 耐荷力を算出し,道示とECCSそれぞれの柱の耐荷力の 5%以内となるように,図-20(b)で耐荷力が近似す
るような分布荷重を再度設定し耐荷力を算出する繰 り返し解析を行う.
④上記①~③をすべてのケースについて実施し,横軸に 細長比パラメータ
λ = ( L
b/ r
b)( 1 / π ) σ
y/ E
,縦軸にq道示/qL1000あるいはqECCS /qL/1000を採りプロ ットし(図-22),q道示あるいはqECCSに対する近似 直線を最小二乗法によって求める.
以上の過程で求められた結果は次のようになる(図 -22 内の直線).
8 . 0 2 . 1 /
qL/1000= λ +
q道示 (2)
4 . 0 4 . 1 /
L/1000= λ +
ECCS q
q (3)
また,q自重との比で表すと次のようになる.
3 . 22 7
. 9 /
自重= − λ +
道示 q
q (4)
8 . 17 2 . 7 /
q自重= − λ +
qECCS (5)
ここで,式(2)~(5)はSM490材に対して算定されたもの であるが,柱の耐荷力は主として細長比パラメータ
λ
に支配されるため他の鋼材についても近似的に使用出来 ると考えられる.
ECCS4)では,緒言で述べた「線形化有限変位解析に基 づく方法」と等価な「P-Δ法」を適用する場合に与え る初期たわみは,残留応力と初期たわみを同時に考慮し て耐荷力を求めるときの初期たわみの 2倍としている.
これは例えば式(2)でqECCS
/
qL/1000= 2 . 0
,と置いたこ とになる.この値はλ
=1.14に対応することからほぼ 妥当な値であることが分かる.地震応答解析を実施する場合には,自重の影響は必ず 考慮されるので,実用的には,例えば式(4)で等価な初期 横荷重を算定するのがよいと思われる.
8.結言
本研究は,鋼橋の実用的耐震解析法として近年多用さ れるようになってきている梁要素を用いた複合非線形 解析(静的,準静的(繰り返し),動的解析)を実施す る場合に重要となる,部材座屈を適切に評価出来るブレ ース材(対傾構,横構など)の解析モデルを提案するこ とを目的に行ったものである.そのために,2次元ブレ ース付きラーメン構造物を対象に,ブレース材と主構造 の結合条件(ピン,あるいは剛結)およびブレース材の 初期不整の与え方(初期不整なし,初期たわみ,あるい は初期横荷重)の組み合わせによる6種類の解析モデル を考えた(図-3).ブレース材の初期たわみは,最大値
がLb/1000の半波の正弦曲線,初期横荷重はそれと等価
な等分布荷重として与えた.設定した解析モデルの準静
的および動的解析により,構造物の全体挙動,ブレース 材単独の変形挙動,解の信頼性および安定性(収束性,
正確性)などを検討し,最も適切な解析モデルを選定し,
併せて適切な初期不整の大きさの算定式も提案した.
対象構造物は,1層および3層のブレース材付きラー メン構造(図-1,図-5)である.ブレース材は実橋にお ける実績調査(図-2)を踏まえ,3 種類の異なる細長比
(ブレース材A:Lb/rb=49,ブレース材B:Lb/rb=102,ブ レース材C:Lb/rb=158)を考えた.準静的解析は,柱頂 部に図-4 に示す繰り返し強制水平変位を与える変位増 分法によった.動的解析は,式(1)に示す漸増振幅正弦波 地動をラーメン構造基部(図-5)に与えて地震応答解析 を実施した.なお,使用した解析ソフトは,Abaqus8)お よびSeanFEM9)の2種類である.
得られた結論をまとめると以下のようになる.
準静的解析
1) 2つの解析ソフトによる計算結果はほぼ同一で あった.(図-6 参照)
2) ブレース材端部が主構造にピン結合の場合,(P) はブレース材の部材座屈が考慮出来ないため荷 重が最も高くなるが,(P-ID),(P-IL)は共に部材座 屈の影響を適切に取り込むことができ,ほぼ同じ ような履歴挙動を与える(図-7(a)).
3) ブレース材端部が主構造に剛結の場合,(R),
(R-ID),(R-IL)は,共に,部材座屈の影響を適切 に評価し,ほぼ同じような履歴挙動を与える(図 -7(b)).
4) ブレース材と主構造の結合条件(剛結またはピン 結合)が構造物の全体挙動に与える影響は,ブレ ース材の細長比Lb/rbが大きくなれば小さくなり,
Lb/rb≥100 では結合条件の影響はほとんど無くな る(図-8).
5) ブレース材自身の変形挙動に及ぼすブレース材 端部結合条件の影響は大きい(図-12).しかし,
ガセットプレートの影響評価が精確に出来ない 現状では,安全側を見て,端部はピンと仮定する のがよい.
6) 増分変位の自動刻み幅調整機能を用いると,曲げ 座屈が生ずる点をスキップしてしまう恐れがあ るため,固定刻み幅を使うのがよい(図-13). 7) ブレース材に初期たわみを与えるモデル(P-ID,
R-ID)は,時として解の安定性(収束性,正確性)
に問題が生ずる場合がある.これは,ブレース材 が引張りを受けるとたわみが消滅してしまう,あ るいはたわみが反転するなどにより,荷重反転時 に部材座屈を捉えられなくなるからである(図 -11).
8) 3層ラーメンでも1層ラーメンと同様な傾向を 示した(図-14).但し,ブレース材が塑性化する 順序,部材座屈に至る経緯が1層ラーメンと比べ