原著 :
ロコモティブシンドロームと健康に関する自覚との関連
─製造業に従事する労働者への調査から─
田邉綾子*
※・塩満智子**・内海沙織***・蒲原真澄*・吉永砂織*・鶴田来美*
本研究の目的は,労働者のロコモティブシンドローム(以下,ロコモとする)と健康に関する自覚と の関連を明らかにすることである。 対象者は,A 県に所在する製造業の従業員 174 名であり,ロコモ度テストと質問紙調査を実施した。 ロコモ度テストとして,立ち上がりテスト,2 ステップテスト,ロコモ 25 を実施した。質問紙調査の 内容は,対象者の基本的特性,健康に関する自覚で構成した。調査時期は 2018 年 9 月であった。ロコ モ度テストの結果,ロコモ度 1 および 2 に該当した人をロコモ該当者とし,ロコモ該当者と非該当者の 2 群に分けて分析した。ロコモと健康に関する自覚との関連をみるため,χ 2検定もしくは Fisher の直 接確率法を用いて分析した。 労働者のロコモの実態について,対象者の 25.3%がロコモに該当していた。健康に関する自覚につい ては,40 歳未満の若年者は体力に不安のある人の割合が高く,膝痛は 40 歳以上の中高年者で多かった。 また,ロコモと健康に関する自覚との関連を見た結果,ロコモ該当者は,自身の健康状態を健康でない と認識し,膝や腰,股関節,肩に痛みを有していた。 労働者に対して運動器を含めた健康支援策を講じるには,本人の自覚を大切にし,軽度の身体的不調 を見逃さず,早期予防のために運動指導や生活指導といった保健指導を実施する必要性が示唆された。 キーワード : ロコモティブシンドローム,労働者,健康に関する自覚 ──────────────────I. 緒 言
わが国では,近年,労働現場における転倒災害の発生 件数が増加しており,死傷災害の 25%を転倒災害が占め ている1)。そのため,国は「STOP !転倒災害プロジェ クト」2) を展開し,作業環境の整備や転倒災害防止の注意 喚起に取り組んでいる。これらは,環境という外的要因 への対策が主となっているが,転倒要因には,外的要因 以外に個人のバランス力の低下や筋力の低下といった内 的な要因も存在し,その一つにロコモティブシンドロー ム(以下,ロコモとする)が挙げられる。ロコモとは, 2007 年に日本整形外科学会が提唱した概念であり,骨や 関節,筋肉など運動器の衰えが原因で,移動機能が低下 している状態のことを指す3)。ロコモは,“移動機能の低 下”に主眼を置いているため,高齢者の課題と捉えられ る傾向にあるが,これは高齢者に限った課題ではなく, 車の利用や在宅勤務などにより歩かなくなった現代社会 において,全世代の人に注意が必要な健康課題であると されている。 これまでのロコモに関する研究を概観すると,高齢者 を対象としたもの4-6) が多数を占めるが,近年,労働者を 対象とした研究も報告されてきている。Tsuruta らは7), 事務職 263 名を対象に調査し,対象者の 22.8%がロコモ に該当したことを報告しており,Ohtsuki らは8),製造業 の従業員 852 名を対象に調査した結果,ロコモ該当者が 23.1%であったことを報告している。このように,労働 者にロコモ該当者が存在することは明らかにされている が,ロコモを予防し,健康を保持・増進するための対策 について,十分に検討されているとは言えない。ロコモ 予防は,転倒災害防止につながると同時に,将来的な介 護予防にもつながる。現在,労働者への健康支援として は,メタボリックシンドローム予防などの生活習慣病対 策が中心となっているが,運動器も含めた総合的な健康 支援策を講じる必要がある。20 代・30 代の若い労働者 がロコモ予防に取り組むか否かは,本人が自らの健康状 態をどのように捉えているかや,関節などに痛みがある * 宮崎大学医学部看護学科 ** 東都大学幕張ヒューマンケア学部看護学科 *** 神戸製鋼所健康保険組合 ※ corresponding author (2020 年 10 月 15 日受理)かなど,健康に関する自覚に左右されるのではないかと 考える。労働者への運動器も含めた健康支援策を検討す るために,まずは,ロコモと健康に関する自覚との関連 を明らかにしたいと考えた。 そこで,本研究では労働者のロコモと健康に関する自 覚との関連を明らかにし,生活習慣病対策に運動器も含 めた健康の保持増進のための支援について検討する。
II. 用語の定義
健康に関する自覚:主観的健康感を含む,本人が認識 している健康状態および身体状況への気付きを指す。本 研究では,主観的健康感,体力の不安の有無および,膝, 腰,股関節,肩の疼痛の有無を用いた。III. 研 究 方 法
1. 対象者 対象は,2018 年 9 月にロコモ検診を受診した A 県に 所在する製造業の従業員で,本研究への参加に同意が得 られた 174 名を対象とした。 2. 調査内容 調査は,ロコモ度テストと質問紙調査を実施した。ロ コモ度テストは,日本整形外科学会が策定した測定方法 であり,立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25 の3つのテストから構成される。立ち上がりテストは,垂 直方向への移動能力をみるテストであり,40 cm, 30 cm, 20 cm, 10 cm の高さの椅子から両脚および片脚で立ち上 がれるかを確認するものである。2 ステップテストは水 平方向への移動能力をみるテストであり,できる限り大 股で 2 歩歩き,その距離を身長で割り 2 ステップ値を算 出する。その値を結果判定に用いた。ロコモ 25 は,身 体の状態や生活状況をみる問診票であり,25 の質問項 目で構成され,各項目 0~4 点の 5 段階で回答するよう になっている9)。この 3 つのテストの結果を基に,ロコ モ度を判定した。 質問紙調査の内容は,対象者の基本的特性,健康に関 する自覚で構成した。基本的特性として性別および年齢 を尋ねた。健康に関する自覚として,主観的健康感,体 力の不安の有無および,膝,腰,股関節,肩の疼痛の有 無について尋ねた。 3. 分析方法 データの解析は,統計解析用ソフト SPSS 11.0J for Windows を用いて行った。ロコモ度は,日本整形外科 学会が策定した臨床判断値を用いて,「非該当」「ロコモ 度 1」「ロコモ度 2」に区分した。ロコモ度 1 とは,移動 機能低下が始まっている段階で,①立ち上がりテストに おいて片脚で 40 cm の高さから立てない,② 2 ステップ テストの値が 1.3 未満,③ロコモ 25 の得点が 7 点以上, の 3 項目のうち 1 項目以上該当する場合を指す。ロコモ 度 2 とは,移動機能の低下が進行している段階で,①立 ち上がりテストにおいて両脚で 20 cm の高さから立てな い,② 2 ステップテストの値が 1.1 未満,③ロコモ 25 の得点が 16 点以上,の 3 項目のうち 1 項目以上該当す る場合を指す10)。ロコモ度 1 および 2 に該当した人をロ コモ該当者とし,ロコモ該当者と非該当者の 2 群に分け て分析した。そして,労働者のロコモの実態を把握する ため,性別および年代別のロコモ該当者数を算出した。 また,ロコモと年齢との関連をみるため,t 検定を用い て分析した。加えて,年代別のロコモ該当理由を把握す るため,立ち上がりテスト,2 ステップテスト,ロコモ 25 の各テストの該当者数を算出した。 年齢層別の特徴をみるため,本研究では 40 歳未満を 若年者,40 歳以上を中高年とし,2 群に分けて分析した。 年齢層別および性別の健康に関する自覚の特徴をみるた め,χ 2検定もしくは Fisher の直接確率法を用いて分析 した。また,ロコモと性別および健康に関する自覚との 関連をみるため,χ 2検定もしくは Fisher の直接確率法 を用いて分析した。有意水準は全て 5%とした。 4. 倫理的配慮 対象者には,研究目的と方法,自由意思による参加と 途中撤回の権利,個人情報保護,研究協力による利益と 不利益,研究成果の公表について文書及び口頭で説明し, 署名による同意を得た。 なお,本研究は著者の所属する機関の倫理委員会の承 認を得て実施した(承認番号 2016-178 号)。IV. 研 究 結 果
1. 対象者の基本的特性 対象は,19 歳から 74 歳までの労働者 174 名で,男性 112 名,女性 62 名であった。平均年齢±標準偏差は 44.2 ± 13.66 歳であった。年代別でみると,10 代 2 名,20 代 28 名,30 代 36 名,40 代 50 名,50 代 30 名,60 代 22 名, 70 代 6 名であった。 2. 労働者のロコモの実態 ロコモ度テストの結果,ロコモ該当者 44 名(25.3%) (内訳:ロコモ度 1 は 39 名,ロコモ度 2 は 5 名),非該 当者130名(74.7%)であった。該当者の性別および年代 別の内訳を表 1 に示した。男性は 20 代 4 名,40 代 3 名, 50 代 9 名,60 代 8 名,70 代 4 名であった,女性は 20 代 1 名,30 代 2 名,40 代 12 名,50 代 1 名であった。男性 では,ロコモ該当者の方が,非該当者と比較して有意に年齢が高かった(p = 0.001)。 ロコモ該当者におけるロコモ度テストの該当項目を表 2 に示した。全体でみると,ロコモ 25,立ち上がりテス トの順で該当者数が多かった。20~30 代は,ほとんど がロコモ 25 で臨床判断値に該当しており,立ち上がり テストで該当している人はいなかった。また,20 代の ロコモ該当者のうち,ロコモ 25 で得点の高かった項目 は,「頚・肩・腕・手のどこかに痛み(しびれも含む) があるか」,「背中・腰・お尻のどこかに痛みがあるか」, 「家のやや重い仕事(掃除機の使用,ふとんの上げ下ろ しなど)は,どの程度困難か」,「スポーツや踊り(ジョ ギング,水泳,ゲートボール,ダンスなど)は,どの程 度困難か」であった。 3. 労働者の健康に関する自覚の実態 健康に関する自覚を調査した結果,自分は健康だと 思っている人 169 名(97.1%),体力に不安がある人 48 名(27.6%),膝痛のある人 17 名(9.8%),腰痛のある人 35 名(20.1%),股関節痛のある人 9 名(5.2%),肩痛の ある人 30 名(17.2%)であった。各項目を 40 歳未満の 若年者と 40 歳以上の中高年の 2 群に分け分析した結果 を表 3 に示した。若年者は中高年者に比べて体力に不安 のある人の割合が高く,膝痛は中高年で多かった(p < 0.05)。また,腰痛や肩の痛みがある人は,若年者であっ ても男女とも 1 割以上存在していた。 4. ロコモと性別,健康に関する自覚との関連 ロコモと性別および健康に関する自覚との関連を分析 した結果を表 4 に示した。主観的健康感,膝痛,腰痛, 股関節痛,肩痛の 5 項目で有意な関連が認められた。ロ コモ該当者は,自身の健康状態を健康でないと認識し, 膝や腰,股関節,肩に痛みを有している人が多かった(p < 0.05)。年齢層別でみると,若年者では主観的健康感, 腰痛の 2 項目で,中高年では腰痛,股関節痛,肩痛の 3 項目で有意な関連が認められた(p < 0.05)。
V. 考 察
1. 労働者におけるロコモおよび健康に関する自覚の 実態 労働者を対象にロコモ度テストを実施した結果,ロコ モ該当者は 25.3%を占めていた。先行研究7, 8) によると, 労働者の約 2 割がロコモに該当していることが明らかに なっており,本調査でも近似した傾向を示した。また, 加齢によりロコモ該当者は有意に増加するものの,20 代でも 17.9%がロコモに該当しており,若いうちから対 策を講じる必要性が示唆された。ロコモに該当した項目 を詳細に見ていくと,特に 20 代の若年者は問診票であ るロコモ 25 で該当しており,立ち上がりテストや 2 ス テップテストといった客観的に移動能力をみるテストで 該当する人はいなかった。ロコモ 25 で得点の高かった 項目をみると,「頚・肩・腕・手のどこかに痛み(しび れも含む)があるか」,「背中・腰・お尻のどこかに痛み があるか」といった身体の痛みに関する項目や「家のや や重い仕事は,どの程度困難か」,「スポーツや踊りは, 表 1 ロコモ該当者の年齢分布 (n=174) 項目 ロコモ 計 該当 非該当 p 値 全体 10 代 0( 0.0) 2(100.0) 2 20 代 5(17.9) 23( 82.1) 28 30 代 2( 5.6) 34( 94.4) 36 40 代 15(30.0) 35( 70.0) 50 50 代 10(33.3) 20( 66.7) 30 60 代 8(36.4) 14( 63.6) 22 70 代 4(66.7) 2( 33.3) 6 平均±SD 50.41 ± 13.84 42.04 ± 13.04 0.000 男性 10 代 0( 0.0) 2(100.0) 2 20 代 4(20.0) 16( 80.0) 20 30 代 0( 0.0) 12(100.0) 12 40 代 3(11.5) 23( 88.5) 26 50 代 9(36.0) 16( 64.0) 25 60 代 8(38.1) 13( 61.9) 21 70 代 4(66.7) 2( 33.3) 6 平均±SD 54.79 ± 14.76 44.26 ± 14.36 0.001 女性 20 代 1(12.5) 7( 87.5) 8 30 代 2( 8.3) 22( 91.7) 24 40 代 12(50.0) 12( 50.0) 24 50 代 1(20.0) 4( 80.0) 5 60 代 0( 0.0) 1(100.0) 1 平均±SD 42.75 ± 7.64 37.98 ± 8.99 0.063 注 1)無回答除く。 注 2)t 検定。 表 2 ロコモ度テストの該当項目 単位(名) 項目 実人数 立ち上がりテスト 2 ステップテスト ロコモ 25 20 代 5 0 0 5 30 代 2 0 1 1 40 代 15 7 1 8 50 代 10 5 0 7 60 代 8 5 0 5 70 代 4 3 0 3 計 44 20 2 29表 3 性別・年齢層別にみた健康に関する自覚 項目 全体(n = 174) 男性(n = 112) 女性(n = 62) 年齢層 計 p値 年齢層 計 p値 年齢層 計 p値 若年者(n = 66) 中高年(n = 108) 若年者(n = 34) 中高年(n = 78) 若年者(n = 32) 中高年(n = 30) 主観的 健康感 健康 63( 95.5) 106(98.1) 169 0.369 a 32( 94.1) 76(97.4) 108 0.584 a 31( 96.9) 30(100.0) 61 1.000 a 健康でない 3( 4.5) 2( 1.9) 5 2( 5.9) 2( 2.6) 4 1( 3.1) 0( 0.0) 1 体力の 不安 無し 42( 63.6) 84(77.8) 126 0.043 26( 76.5) 70(89.7) 96 0.081 a 16( 50.0) 14( 46.7) 30 0.793 有り 24( 36.4) 24(22.2) 48 8( 23.5) 8(10.3) 16 16( 50.0) 16( 53.3) 32 膝痛 無し 66(100.0) 91(84.3) 157 0.001 34(100.0) 67(85.9) 101 0.032 a 32(100.0) 24( 80.0) 56 0.010 a 有り 0( 0.0) 17(15.7) 17 0( 0.0) 11(14.1) 11 0( 0.0) 6( 20.0) 6 腰痛 無し 57( 86.4) 82(75.9) 139 0.096 29( 85.3) 62(79.5) 91 0.469 28( 87.5) 20( 66.7) 48 0.050 有り 9( 13.6) 26(24.1) 35 5( 14.7) 16(20.5) 21 4( 12.5) 10( 33.3) 14 股関節痛 無し 64( 97.0) 101(93.5) 165 0.486 a 33( 97.1) 75(96.2) 108 1.000 a 31( 96.9) 26( 86.7) 57 0.189 a 有り 2( 3.0) 7( 6.5) 9 1( 2.9) 3( 3.8) 4 1( 3.1) 4( 13.3) 5 肩痛 無し 56( 84.8) 88(81.5) 144 0.568 30( 88.2) 65(83.3) 95 0.506 26( 81.3) 23( 76.7) 49 0.658 有り 10( 15.2) 20(18.5) 30 4( 11.8) 13(16.7) 17 6( 18.8) 7( 23.3) 13 注 1)無回答除く。 注 2) χ 2 検定。ただし , a は Fisher の直接法。 表 4 ロコモと性別および健康に関する自覚との関連 項目 全体(n = 174) 若年者(n = 66) 中高年(n = 108) ロコモ 計 p値 ロコモ 計 p値 ロコモ 計 p値 該当(n = 44) 非該当(n = 130) 該当(n = 7) 非該当(n = 59) 該当(n = 37) 非該当(n = 71) 性別 男性 28(63.6) 84(64.6) 112 0.907 4( 57.1) 30( 50.8) 34 1.000 a 24(64.9) 54( 76.1) 78 0.218 女性 16(36.4) 46(35.4) 62 3( 42.9) 29( 49.2) 32 13(35.1) 17( 23.9) 30 主観的 健康感 健康 40(90.9) 129(99.2) 169 0.015 a 5( 71.4) 58( 98.3) 63 0.028 a 35(94.6) 71(100.0) 106 0.115 a 健康でない 4(9.1) 1( 0.8) 5 2( 28.6) 1( 1.7) 3 2( 5.4) 0( 0.0) 2 体力の 不安 無し 29(65.9) 97(74.6) 126 0.264 4( 57.1) 38( 64.4) 42 0.699 a 25(67.6) 59( 83.1) 84 0.065 有り 15(34.1) 33(25.4) 48 3( 42.9) 21( 35.6) 24 12(32.4) 12( 16.9) 24 膝痛 無し 35(79.5) 122(93.8) 157 0.015 a 7(100.0) 59(100.0) 66 ─ 28(75.7) 63( 88.7) 91 0.077 有り 9(20.5) 8( 6.2) 17 0( 0.0) 0( 0.0) 0 9(24.3) 8( 11.3) 17 腰痛 無し 26(59.1) 113(86.9) 139 0.000 4( 57.1) 53( 89.8) 57 0.048 a 22(59.5) 60( 84.5) 82 0.004 有り 18(40.9) 17(13.1) 35 3( 42.9) 6( 10.2) 9 15(40.5) 11( 15.5) 26 股関節痛 無し 39(88.6) 126(96.9) 165 0.047 a 7(100.0) 57( 96.6) 64 1.000 a 32(86.5) 69( 97.2) 101 0.045 a 有り 5(11.4) 4( 3.1) 9 0( 0.0) 2( 3.4) 2 5(13.5) 2( 2.8) 7 肩痛 無し 25(56.8) 119(91.5) 144 0.000 4( 57.1) 52( 88.1) 56 0.065 a 21(56.8) 67( 94.4) 88 0.000 有り 19(43.2) 11( 8.5) 30 3( 42.9) 7( 11.9) 10 16(43.2) 4( 5.6) 20 注 1)無回答除く。 注 2) χ 2 検定。ただし , a は Fisher の直接法。
どの程度困難か」といった生活上の困難感に関する項目 が多かった。20 代は主観的な情報から,ロコモに該当 していたと言える。一方,40 代以上の結果をみると, 立ち上がりテストの該当者が 20 人存在し,客観的に測 定した結果からロコモに該当した人が存在することが明 らかになった。18 歳以上の日本人 4,003 人を対象に,筋 肉量の加齢変化をみた研究11) によると,全身筋肉量は男 性では 40 歳頃から,女性では 50 歳頃から減少すること が報告されている。40 歳未満の若年者は,身体に痛み や不調があってもそれを筋力等で補えるために,立ち上 がりテストなどの客観的に移動能力をみるテストでロコ モに該当する人がいなかったものと推察する。また,30 代はロコモ該当者が 5.6%と,他の年代と比較し低い傾 向が見られた。30 代は,仕事では責任の重い業務を任 され,プライベートでは子育てに参加するなど,公私と もに多忙な時期である。子供の世話は 2 METs 以上の生 活活動であり,子供と遊ぶことは 3.5 METs 以上の身体 活動とされている12)。このように日常的に身体を動かさ ざるを得ない 30 代の労働者は,自ずと体力を維持もし くは向上することができ,それがロコモ該当者の少なさ につながったのではないかと考える。 健康に関する自覚を調査した結果,若年者ほど体力に 不安を感じていることが明らかとなった。体力に不安を 感じている者の割合は,特に女性において多く過半数を 占めていた。平成 30 年度体力・運動能力調査の概要13) をみると,男女ともほとんどの体力テストの項目が中高 生でピークに達し,20 代以降低下している。40 歳未満 の若年者は,学生時代と比較し自分の体力の衰えを感じ たことが,体力の不安につながったのではないかと考え る。 2. 労働者のロコモと健康に関する自覚との関連 ロコモと健康に関する自覚との関連を見た結果,ロコ モ該当者は,自身の健康状態を健康でないと認識し,膝 や腰,股関節,肩に痛みを有していた。年齢層別でみる と,若年者では主観的健康感,腰痛の 2 項目で,中高年 では腰痛,股関節痛,肩痛の 3 項目で有意な関連が認め られた。若年者においては健康かどうかという本人の自 覚が,中高年者においては痛みの有無が関連するという 特徴があることが明らかになった。労働者においては, 本人の自覚がロコモの判定において鍵となるのではない かと考える。 今回の調査結果から,膝や腰や股関節,肩の痛みがロ コモと関連していることが明らかになったが,ここで特 に注目したいのは,肩の痛みである,ロコモは,移動機能 が低下した状態を指すため,ロコモの要因に下肢筋力の 低下や下肢の痛みがあることは比較的イメージしやすい と考えるが,上肢の筋力低下や痛みをイメージすること は難しい。実際,ロコモ度テストを行う際,「腰が痛い」 「大腿部が筋肉痛だ」と訴える人はいたが,「肩が痛い」 と話す方はほとんどいなかった。身体の動きを考えると, 歩行は足を動かすだけでなく,自然と腕を振るなど全身 の協調運動である。そして,歩行時の上肢運動は,体幹 の回旋力のバランスを保つ働きをしている14)。移動する ためには,下肢だけでなく上肢も重要な機能を果たして おり,両方のチェックやケアが必要だと考える。現在行 われているロコモ度テストは下肢機能を中心にみてお り,上肢機能を確認する項目は,ロコモ 25 の中の「頚・ 肩・腕・手のどこかに痛み(しびれも含む)があります か」,「シャツを着たり脱いだりするのはどの程度困難で すか」といった質問程度である。18 歳以上の日本人4,003 人を対象に,筋肉量の部位別の加齢変化をみた研究11) に よると,下肢筋肉量は 20 歳代から大きな傾きで減少す るが,上肢筋肉量の減少の傾きは比較的緩やかであるこ とが明らかになっている。このことから,特に上肢は, 緩やかに筋肉量が減少するため衰えに気付きにくいこと が考えられる。ロコモに肩の痛みが関連していたことや, 上肢筋肉量の低下に気付きにくいという点を考慮する と,上肢の機能低下に早期に気付けるよう,下肢だけで なく上肢機能のチェックの充実を図る必要性があるので はないかと考える。 ロコモ該当者は非該当者と比較して何らかの痛みを有 している割合が高いことは,60 歳以上の健康増進施設利 用者を対象にした研究15) や地域在住中高年者を対象と した研究16) でも報告されている。このことより,ロコモ と疼痛に関連があることは労働者に限定した特徴ではな いと推察できる。今回の調査結果では,20 代のロコモ 該当者は,頚や肩あるいは背中や腰などに痛みを感じて おり,家のやや重い仕事やスポーツや踊りに困難さを感 じていたことから,ロコモに該当し何らかの痛みを有す るという状況は,労働にも影響するのではないかと考え る。上村らは17),労働者 346 名を対象とした調査結果よ り,筋骨格系疼痛は直接的もしくは間接的に抑うつに影 響を与えていることを報告している。また,和田らは18), 欠勤による損失労働時間の高かった疾患の一つに「腰 痛・首の不調」があることを報告している。今回の調査で は,労働への影響を尋ねていないため,ロコモと労働と の関連を明らかにすることはできない。しかし,家事や スポーツといった生活面に困難さを感じているという現 状や,先行研究17, 18) の結果を踏まえると,健康に働き続 けるためには生活習慣病対策だけでなく,運動器の健康
にも目を向けロコモを予防することが重要だと考える。 3. 労働者に対する運動器も含めた健康の保持増進の ための支援 現在行われている労働者への健康支援としては,メタ ボリックシンドローム予防などの生活習慣病対策が中心 となっている。生活習慣病は自覚症状が乏しいという点 で,早期からの介入の必要性が叫ばれている。その点, ロコモはと言うと,今回の調査結果より,健康か否かと いう本人の自覚や,膝や腰,股関節,肩の痛みがロコモ に関連することが明らかになった。疼痛といった自覚症 状や,健康か否かという本人の自覚があるため,早期発 見・早期介入が可能であると考える。 20~30 代の特徴として,自らの健康状態がよくないと 認識している人は少ないが,肩こりや腰痛のある人は多 い19)。本研究においても,膝痛は 40 歳以上でしか見ら れなかったが,肩痛や腰痛は若年者でも認められ,若年 者の 1 割以上が痛みを感じていた。また,若年者は体力 の不安を感じている傾向があった。体力の不安とロコモ との関連について,本研究では有意な関連は認められな かったが,Tsuruta らの研究7) では,体力に不安がある 人の方がロコモに該当すると報告されている。このよう な状況を鑑みると,20~30 代といった若いうちから運動 器も含めた健康支援策を講じることが必要であり,体力 の不安や肩や腰の痛みといった本人の自覚をきっかけに 介入することが有用ではないかと推察する。このような 自覚症状の改善を目的に運動指導や生活指導を実施し, 対象者の体力の維持・向上を目指すことが,将来のロコ モ予防や転倒予防,介護予防につながるだけでなく,自 らの健康を保持しながら働き続けるための土台になるの ではないかと考える。そのために,看護職は①肩こりや 腰痛といった軽度な身体的不調を見逃さず,本人が快を 得られる支援を行い,②生活習慣病対策のみならず運動 器の健康も視野に入れ,総合的な健康支援策を講じる必 要性があることが示唆された。
VI. 結 語
ロコモと労働者の健康に関する自覚との関連を明らか にすることを目的に,A 県の製造業に従事する労働者 174 名を対象に調査した結果,以下のことが明らかに なった。 1. 対象者の 25.3%がロコモに該当していた。 2. 健康に関する自覚については,若年者は中高年者に 比べて体力に不安のある人の割合が高く,膝痛は中 高年で多かった。 3. ロコモ該当者は,自身の健康状態を健康でないと認 識し,膝や腰,股関節,肩に痛みを有していた。 労働者に対する運動器も含めた健康の保持増進のため の支援として,軽度の身体的不調を見逃さず,早期予防 のために運動指導や生活指導といった保健指導を実施す る必要性が示唆された。 謝辞:本研究にご協力いただいた従業員の皆様,その他 多くの関係者の皆様に心より御礼申し上げます。なお, 本研究は,科学研究費助成事業基盤研究 C「労働者を対 象としたロコモ予防のための体力・運動機能向上プログ ラムの構築」(16K12298)および宮崎大学平成 30 年度機 能強化経費「共同研究(ロコモ)の病態解明・対策─地 方創生・ロコモザワールド宮崎の構築─」の助成を受け て実施した研究の一部である。 本研究に関連して,開示すべき利益相反に該当する項 目はありません。 文 献 1) 厚生労働省:平成 30 年労働災害発生状況の分析等. 23 p,2019,https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/ 000555711.pdf(2020 年 7 月 19 日アクセス) 2) 厚生労働省:STOP !転倒災害プロジェクト実施要 綱.3 p,2018,https://www.mhlw.go.jp/content/ 000518225.pdf(2020 年 7 月 19 日アクセス) 3) 中村耕三:Ⅰ平均寿命延伸と運動器の耐用.実践! ロコモティブシンドローム第 2 版─自分の足で歩く ためのロコトレ(全 129 pp),pp 10-24,三輪書店, 東京,2014 4) 白谷佳恵,田髙悦子,伊藤絵梨子,有本 梓,大河 内彩子:都市部地域在住自立高齢者におけるロコモ ティブシンドロームのリスク要因の性差─Yokohama Locomo Study─.日地域看護会誌 20:4-12,2017 5) 柏原杏子,城所哲宏,山上隼平,宮下政司:グラウ ンド・ゴルフ実践者と地域在住高齢者におけるロコ モ度テストから評価した移動機能の比較.理療科 32:583-587,2017 6) Kota M, Moriishi M, Hazama A, Hiramoto K : Assess-ment of the effects of a group intervention program used in home-dwelling elderly individuals to promote home exercise and prevent locomotive syndrome. J Phys Ther Sci 31 : 470-474, 2019 7) Tsuruta K, Yoshinaga S, Shiomitsu T, Tamura H, Fujii Y, Chosa E : Quantitative assessment of loco-motive syndrome in Japanese office workers. J Phys Fitness Sports Med 7 : 143-149, 2018 8) Ohtsuki M, Nishimura A, Kato T, Sokejima S, Shibata T, Okada H, Nishiwaki R, Sudo A : Relationships between body mass index, lifestyle habits, and loco-motive syndrome in young-and middle-aged adults : A cross-sectional survey of workers in Japan. J Occup Health 61 : 311-319, 2019 9) 中村耕三:Ⅲロコモーショントレーニングの実践.実践!ロコモティブシンドローム第 2 版─自分の足 で歩くためのロコトレ(全 129 pp),pp 50-102,三 輪書店,東京,2014 10) 公益財団法人日本整形外科学会:ロコモ度を判定す る「臨床判断値」を発表.4 p,2015,https://www. joa.or.jp/media/comment/pdf/20150515_locomo_ clinical_judgment.pdf(2020 年 7 月 19 日アクセス) 11) 谷本芳美,渡辺美鈴,河野 令,広田千賀,高崎恭輔, 河野公一:日本人筋肉量の加齢による特徴.日老医 誌 47:52-57,2010 12) 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所: 改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』.50 p,2012, https://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf(2020 年 7 月 19 日アクセス) 13) スポーツ庁:平成 30 年度体力・運動能力調査結果 の概要.14 p,2019,https://www.mext.go.jp/prev_ sports/comp/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2019/ 10/15/1421921_1.pdf(2020 年 8 月 7 日アクセス) 14) Simoneau GG:第 15 章 歩行の運動学.筋骨格系の キネシオロジー,Neumann. DA ed, 嶋田智明,平田 総一郎監訳(全 618 pp),pp 547-593,医歯薬出版, 東京,2005 15) 松儀 怜,辻本典央,中井詔子,釜場なる子,喜田 恵,上野弘樹,片山郁子,高畠朋子,葛巻美紀,後 藤伸介,中村立一,勝木建一:健康増進施設利用者 におけるロコモティブシンドロームと求められる支 援.石川理療誌 15:37-40,2015 16) 海老原知恵,新井智之,藤田博暁,加藤剛平,篠岡 世英良,森田泰裕,丸谷康平,細井俊希,石橋英明: 地域在住中高年者のロコモティブシンドロームと Quality Of Life の関連.理療科 28:569-572,2013 17) 上村一貴,高橋秀平,塚田月美,小倉広康,内山 靖: 勤労者における抑うつ症状に関わる諸因子のパス解 析モデルを用いた検討.理学療法学 42:42-49,2015 18) 和田耕治,森山美緒,奈良井理恵,田原裕之,鹿熊 律子,佐藤敏彦,相澤好治:関東地区の事業場にお ける慢性疾患による仕事の生産性への影響.産衛誌 49:103-109,2007 19) 厚生労働省:平成 28 年の国民生活基礎調査の概況. 62 p,2017,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/ hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf(2020 年 7 月 19 日 アクセス)