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     学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(水産科学)木所英昭      学位論文題名

気候変化に対するスルメイカの日本海での分布回遊と      資源量変動に関する研究

     学位論文内容の要旨

  〔目的〕

  スルヌイカ(Tod,a朋ぬspadガcus)は、日本および韓国の重要な漁業資 源である。日本では1998年以降、許容漁獲量(′I丶AC)による資源管理が行 われている。一般に、資源管理では、漁獲制御によって資源量を維持し、漁 獲量を高水準で安定的に得ることが大きな目標となる。しかし、スルヌイカ の漁獲量および資源量は中長期的に大きく変動し、その変化には、10〜数 10年周期の気候の 変化(Climateregimeshift:CRS)の影響が大きいこと が指摘されている。したがって、スルメイカの資源管理を行うには、適正な 漁獲制御方策 に加え、CRSの早期 把握による資源動向予測、および定量的 な資源量への影響把握が重要な課題となっている。

  マイワシの事例 でも示される ようにCRSによる影響は、資源量ばかりで なく、分布回遊、産卵場形成等の生態的特性にも影響を与える。したがって、

CRSに よる生態的特 性の変化を明 らかにすることは、資源変動への影響過 程を解明する ことに加え、CRSを 検出し、資源動向を予測するためにも重 要である。

  本研究では、日 本海を対象と して、CRSによってスルヌイカの資源構造

(主に発生時期組成)、分布回遊特性、資源量がどのように変化するかを明 らかにし、資源変動過程を明らかにするとともに、資源動向予測および資源 管理方策を検 討することを 目的とした。特 に、1988年と1989年の境に 起 きたCRS(88/89CRS)によって分布回遊、産卵時期および資源量がどのよ う に 変 化 し た か を 、 調 査 船 に よ る 試 験 操 業 結 果 を 用 い て 調 べ た 。

(2)

〔材料と方法〕

1.日本海におけるスルメイカの資源構造

  日本海に分布するスルヌイカの資源構造の整理として、6月下旬〜7月上 旬に、沖合、沿岸および道北の各海域で採集したスルメイカを用いて、平衡 石による日齢査定手法によってふ化後の日数を推定し、成長および発生時期 を調べた。ま た、1992年〜2005年の6月下 旬〜7月上旬に実施した標識放 流調査を用いて、日本海の沖合、沿岸、道北に分布する群の移動、およびそ れぞれの交流を調べた。

2.分布回遊および資源構造の変化

  CRSに よる分布回遊 、産卵場および資源構造の変化への影響を明らかに するために、88/89CRSを境とした分布状況(外套背長範囲別の分布状況)

の変化を調査船による試験操業結果を用いて整理した。また、試験操業結果 から資源量指 数を算出し、資源量の経年変化、およびCRSによる資源量水 準 の 変 化 を 調 べ た 。 加え て、1984年 〜1991年 の7月 下 旬‑9月上 旬 に日 本海沖合で実 施した標識放流調査結果を用いて、CRSによる産卵回遊経路     ノ

の変化と産卵場の変化の関係も調べた。

3.資源量および持続生産量の変化

  10月‑12月に 生ま れた群(秋季 発生系群)を対 象として、1979年以 降 の資源量を推 定した。また、CRSによって再生産関係が変化することを想 定して、88/89CRS以前(寒冷期)および以降(温暖期)における再生産関 係を推定する とともに、88/89CRSを境と した最大持続生産量(MSY)の変 化を調べた。

〔結果と考察〕

1.日本海におけるスルメイカの資源構造

  沖合では、沿岸で採集した個体よりも大型であった。しかし、沖合と沿岸 で採集した個 体は、共にふ 化後210日‑260日であり、10丶‑11月に生まれ た個体が多かった。一方、道北で採集した個体は、沿岸で採集した個体より も小型であり 、ふ化後180日〜 220日の、主に12月に生まれた個体が多か った。沿岸と道北で採集した個体の成長率に差はなかったが、沖合で採集し     ―1159―

(3)

た 個 体 の 成 長 率 は 、 沿 岸 と 道 北 よ り も 有 意 に 高 か っ た 。   沿岸と沖合の放流個体は、主に7月〜8月に再捕されたが、放流海域付近 の再捕が多く、海域間の交流はほとんどなかった。道北の放流個体は、7月

〜8月には再捕数が少なかったが、9月に道北で再捕数が増加した。道北で 放 流 し た 個 体 も 、 他 の 海 域 で 放 流 し た 個 体 と の 交 流 は 少 な か っ た。

  以上の結果から、夏季の日本海では海域によって分布する個体の発生時期 や成長が異なっており、その後の分布回遊や漁期漁場も異なることが明らか となった。っまり、これまで想定されてきた季節別発生群よりも小さい単位 で群区分することができた。なお、過去の資源解析において、便宜的に、日 本海沿岸は冬生まれ群、沖合は秋生まれ群として区分されていたが、日齢査 定 の 結 果 で は 、 こ の 区 分 は 適 当 で な い こ と が 示 さ れ た 。 2.分布回遊および資源構造の変化

  88/89CRS以 降、 多 くの 海 域で ス ルメ イ カの 分布 密 度( 調 査船のCPUE で指標)の増加が見られた。特に、道北海域では12月に生まれたと推定さ れる 外套背長17cm‑‑ 19cmのスルヌイカの顕著な増加がみられた。資源量 指 数の 変 化は 外 套背 長 範囲 に よっ て異 な り、 外 套背 長21cm以 下では、

88/89CRSを境に資源量指数の平均値に有意差が認められたが、外套背長階 級が21cm以 上では有意差が 検出されなか った。また、88/89CRS以降は、

外套 背長19cm未満の個体が 占める割合が 増加した。っ まり、88/89CRSに よる資源量の変化は、発生時期および分布域によって異なり、12月に生ま れたスルメイカの増加が顕著であった。

  9月の再 捕報告は、88/89CRS前では、沖合と兵庫県を中心とした山陰沿 岸で多く得られた。しかし、88/89CRS以降では、山陰沿岸からは得られな かっ た。10月になると 、88/89CRS以 降でも山陰沿 岸域で再捕されたが、

88/89CRS以前と異なり、兵庫県沿岸に集中しなかった。以上の回遊経路の 変化 は、日本海にお ける秋季の産卵場の拡大、縮小と同調しており、CRS による産卵回遊経路の変化が産卵場の変化に深く関係していることが示さ れた。

3.資源量および持続生産量の変化

  資源量は、1980年代は主に20億個体(50万トン)前後であったが、1990     ー1160―

(4)

年代 以降は増加し、2000年 前後には60〜70億個 体(150万〜200万卜ン)

と推定された。また、寒冷期には日本海におけるスルメイカ資源の利用率が 高く なる傾向が認められた。再生産関係から、寒冷期のMSYは17万トン、

温 暖 のMSYは38万 ト ン と 推 定 さ れ 、88/89CRSを 境 にMSYが 約2倍 増 加 した と推定された。このことは、CRSを境にスルメイカの資源量水準が変 化し、今後、適切な資源管理を行った場合でも、漁獲量の平均値が温暖期と 寒冷期では2倍程度変化することを意味している。

  以上のように、日本海においてスルヌイカの分布回遊および主産卵・発生 時期がCRSによっ て変化した。この変化から、温暖期には、主産卵期が10 月‑12月、産卵場 は対馬海峡まで拡大し、12月に生まれた群を中心に資源 量が増加する。しかし、寒冷期には、温暖期とは反対の応答を示しながら、

12月 に 生 ま れ た 群 を 中 心 に 資 源 量 が 減 少 す る と 考 え ら れ た 。   なお、これらの生態的特性(産卵場、分布域、回遊経路)の変化を把握す ることで、CRSを 検出し、スルヌイカの中長期的な資源動向を予測するこ とで、資源管理、利用方策の検討への応用が可能と考える。また、寒冷期に は日本海におけるスルメイカ資源の利用率が高くなる傾向が認められるこ とから、特に寒冷期には、漁獲努カを適正水準の範囲内に抑える必要がある。

(5)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 准教授 准教授

桜井 帰山 綿貫 松石

学 位 論 文 題 名

泰憲 雅秀          

気候変化に対するスルメイカの日本 海での分布回遊と      資 源量変動に関する研究

  ス ル メ イ カ は 、 日 本 お よ び 韓 国 の 重 要 な 漁 業 資 源 で あ る 。 日 本 で は1998年 以 降 、 許 容 漁 獲 量(TAC)に よ る 資 源 管 理 が 行 わ れ て い る 。 ス ル メ イ カ の 漁 獲 量 お よ び 資 源 量 は 中 長 期 的 に 大 き く 変 動 し 、 そ の 変 化 に は 、10〜 数10年 周 期 の 気 候 の 変 化 、 特 に 寒 冷 期 と 温 暖 期 の 間 の シ フ ト(Climate regime shift:以 下CRSと 略 す ) の 影 響 が 大 き い こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 そ の た め 、 ス ル メ イ カ の 資 源 管理 を 行 うに は 、 適正 な 漁 獲 制 御 方 策 に 加 え 、CRSの 早 期 把 握 に よ る 資 源 動 向 予 測 、 お よ び 定 量 的 な 資 源 量 へ の 影響 把 握 が重 要 な 課題 と な って い る 。

  本 研 究 で は 、 日 本 海 を 対 象 と し て 、CRSに よ る ス ル メ イ カ の 資 源 構 造 ( 主 に 発 生 時 期 組 成 ) 、 分 布 回 遊 特 性 、 資 源 量 の 変 化 を 明 ら か に し 、 資 源変 動 過 程を 明 ら かに す る と と も に 、 資 源 動 向 予 測 お よ び 資 源 管 理 方 策 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。

〔材 料 と 方法 〕

1. 日 本 海に お け るス ル メ イカ の 資 源構 造

  6月 下 旬 〜7月 上 旬 に 、 日 本 海 の 沖 合 、 沿 岸 お よ び 道 北 で 採 集 し た 個 体 の ふ 化 後 の 日 数 を 平 衡 石 よ り 推 定 し 、 成 長 お よ ぴ 発 生 時 期 を 調 べ た 。 また 、 標 識放 流 調 査を 用 い て、 日 本 海の 沖 合 、沿 岸 、 道北 に 分 布す る 群 の 移動 、 お よぴ そ れ ぞれ の 交 流を 調 べ た。

2.分 布 回遊 お よ び資 源 構 造の 変 化

  6月 〜7月 に 実 施 し た 試 験 操 業 結 果 か ら88/89CxS以 前 (寒 冷 レ ジー ム 期 )と 以 後 ( 温 暖 レ ジ ー ム 期 ) の 平 均 分 布 図 を 作 成 し 、 分 布 状 況 の 変 化 を 調べ た 。 また 、 試 験操 業 結 果 か ら 資 源 量 指 数 を 算 出 し 、CRSに よ る 資 源 量 水 準 の 変 化 を 調 べ た 。 さ ら に 、1984

1991年 の 標 識 放 流 調 査 結 果 を 用 い て 、CRSに よ る 産 卵 回 遊 経 路 の 変 化 を 調 べ 、 産 卵 場の 変 化 の関 係 を 検討 し た 。

    ‑ 1162

(6)

3.資源量および持続生産量の変化

  試験操業結 果より算 出した資 源量指数 を用いて 、日本海 におけるスルメイカの資源 量を 推 定し た。また 、CRSによっ て再生産 関係が変化 すると仮 定して、88/89CRS以前   (寒冷期)および以降(温暖期)の再生産関係を推定し、持続生産量の変化を調べた。

〔結果と考察〕

1.日本海におけるスルメイカの資源構造

  沿 岸に 比 べ て沖 合 では 成 長 が良 い が、 ともにふ化 後210日〜260日 であり、10〜11 月に 生 まれ た 個 体が 多 かっ た 。 道北 で は小型個体 が多く、 ふ化後180日 〜220日、主 12月 に 生 ま れ で あ っ た。 沿 岸と 沖 合 の放 流 個 体は 、 主に7月 〜8月 に放 流 海 域付 近で 再 捕さ れ、海域 間の交流 は少なか った。道北 の放流個 体は、9月 に道北で 再捕数 が増 加 した が 、 他の 海 域で 放 流 した 個 体との交流 は少なか った。以 上の結果 から、

日本海に分 布するス ルメイカ を、これ まで想定 されてき た季節別発生群(秋季発生系 群)よりも細かい単位で3群に区分できた。

2.分布回遊および資源構造の変化

  8 8/89CRS以 降、道北 海域で12月 に生まれ たと推定 される個体 が顕著に 増加した 。 資源 量 指数 は 、 外套 背 長21cm以 下 が 顕著に 増加してお り、88/89CRSを境 にスルメ イ カ の 資 源 構 造 の 変 化 ( 12月 生 ま れ 以 降 の 資 源 の 増 加 ) が 認 め ら れ た 。   88/89CRS以前は、9月 に沖合か ら兵庫県を中心とした山陰沿岸に南下した。しかし、

88/89CRS以 降 で は、10月以 降 、よ り 南西 の対馬海 峡へと南下 していた 。以上の 回遊 経路の変化 は、秋季 の産卵場 の変化と 同調して おり、産 卵回遊経路の変化が産卵場の 変化に深く関係していることが示された。

3.資源量および持続生産量の変化

  資 源量 は 、1980年代 は 主に20億個 体(50万ト ン )前 後 で あっ た が、1990年代以降 は増加し、2000年前後に は60〜70億個 体(150万〜200万トン) と推定された。また、

寒冷期には 日本海に おけるス ルメイカ 資源の利 用率が高 くなっていた。再生産関係か ら算 出 した 最 大 持続 生 産量 は 、 寒冷 期 では17万トン 、温暖期 では38万ト ンであり 、 8 8/89CRSを 境に約2倍 に増加し た。この ことは、CRSによって資 源量水準 が変化し 、 今後 、 適切 な資源管 理を行っ た場合で も、漁獲量 の平均値 が温暖期 と寒冷期 では2 程度変化することを意味している。

〔総合考察〕

  ス ルメ イ カ の分 布 回遊 お よ ぴ資 源 構 造はCRSによ っ て 変化 し た。 温暖 期には、 主 産卵 期 が10月 〜 12月、産 卵場は対 馬海峡ま で拡大し、12月に生ま れた群を 中心に資 源量が増加 する。し かし、寒 冷期には 、温暖期 とは反対 の応答を示しながら、12月に 生まれた群を中心に資源量が減少すると考えられた。

  こ れら の産 卵場、分 布域、回 遊経路の 変化を把握 すること で、CRSを検 出し、ス ル メイカの中 長期的な 資源動向 を予測す ることが 可能であ り、資源管理、利用方策への 応用が期待 される。 また、寒 冷期には 日本海に おけるス ルメイカ資源の利用率が高く な る こ と か ら 、 漁 獲 努 カ を 適 正 水 準 の 範 囲 内 に 抑 え る 必 要 が あ る 。

(7)

  これらの成果は、スルメイカ資源の将来予測と管理方策の作成に大きく寄与するも のと評価される。審査員一同は、申請者が博士(水産科学)の学位を授与される資格 のあるものと判定した。

参照

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