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北日本ヤリイカ個体群の分布回遊と      資 源 変 動 要 因 に 関 す る 研 究

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(水産科学)伊藤欣吾 学 位論文題 名

北日本ヤリイカ個体群の分布回遊と      資 源 変 動 要 因 に 関 す る 研 究

学位論文内容の要旨

〔目的〕

  

ヤリイカ(Loligo bleekeri) は,北海道道東海域を除く九州までの日本 列島と韓国の陸棚一沿岸域,およぴ東シナ海から黄海の浅海域に分布し,沿 岸漁業の主要対象種となっている。しかし,その漁獲量は,日本海南西部で は ,13 ,

700

トン(

1977

年)から

16

トン(

2003

年)まで激減し,青森県で も ,4 ,

600

トン(

1980

年)から

540

トン(

1985

年)と大きぬ年変動をして いる。このように大きな漁獲変動をするヤリイカの安定的な資源利用と,高 精度の漁況予測や資源管理手法を確立するためには,変動の単位となる繁殖 個体群の特定と,各地方個体群の分布・回遊を含めた生活史などの知見の蓄 積が不可欠である。日本周辺に分布するヤリイカの地方個体群は,これまで 分布・回遊と漁獲変動などに基づいて4 地方個体群(日本海南西部,北日本,

太平洋北部,太平洋南部)に便宜的に区分されている。このうち,青森県で 漁獲される北日本個体群は,冬と春に沿岸での産卵のピークを持つ産卵群の 存在が知られている。しかし,北日本個体群の分布・移動の範囲,他の地方 個体群との遺伝的関係,さらに経年的な資源変動に影響を与える環境要因な どにっいては不明の点が多い。

  

そこで本研究では,青森県で最も多く漁獲される北日本ヤリイカ個体群を 資源変動解明の単位とすることの妥当性の検討を行い,その分布回遊と資源 変動要因を明らかにすることを目的とした。具体的には,日本周辺のヤリイ カ地方個体群間での遺伝的交流・独立性の有無,漁獲状況と採集調査に基づ く分布特性;および標識放流などによる回遊経路を調べ,資源変動解析のた めの北日本個体群を定義した。次に,北日本個体群の資源変動要因,再生産・

加入過程の成否に対する環境要因,あるいは漁獲の影響にっいて検討した。

最後に,漁場水温,漁場の時空間変化と海洋環境との関係を調べ,それらの

213

(2)

デ ータに 基づ いて,資源変動と漁況予測手法について考察した。

〔材料と方法〕

1.北日本個体群の定義,およびその分布回遊

  便 宜的 に区 分され てい る4地方 個体 群と ,青森 県で 漁獲 され る冬・ 春産 卵 群 の 分布 域 か ら 採 集 さ れ た545個 体のヤ リイ カを 用い て,mtDNAの高 変異 性 領域 の塩 基配 列分析 を行 い, 地方 個体群 間の 遺伝 的差 異を調 べた 。MtDNAの 高 変 異性 領 域 は ,COI,16S rRNA,NC4,NC8,NC16の 変 異 性 を 比較 して 決 定した。.標識放流による分布・回遊の解析には,津軽海峡付近で標識放流し た2,380個体 の再捕 デー タ(92個 体)を 用い た。 この 結果と 既往 の15,663 個体の標識放流データを用いて,ヤリイカの月別の回遊経路を調べた。また,

漁 獲 変動 に 基 づ く 地 方 個 体 群 の 判別 には ,1984: 2003年 の間 の島根 県以 北 と茨 城県以 北の 漁獲 デー タを用 いて ,海 域間 の漁獲年変動の相関分析とクラ スタ ー分析 を行 った 。以 上の解 析結 果を もと に,資源解析の単位となる北日 本 個 体 群 の 定 義 の 妥 当 性 , お よ び そ の 分 布 ・ 回 遊 を 調 べ た 。 2‐北日本個体群の成長様式,繁殖‐再生産特性

  青 森県沿 岸各 地の ヤリ イカ標 本を 用い て, その外套長組成と成熟状態を調 べ,北日本個体群の成長様式,産卵期および産卵海域を推定した。また,1998

〜2004年 の 間 , 青 森 県 日 本 海 沿 岸に 産卵 回遊す るヤ リイ カの 生物測 定を 行 い, 産卵群 の性 比, 外套 長組成 の年 変化 を調 べ,その年変化の要因を検討し た。 さらに ,様 々な 水温 と塩分 の条 件で 卵嚢 の飼育実験を行い,胚発生と孵 化に最適な水温・塩分範囲を調べた。

3. 北 日 本 個 体 群 の 漁 獲 動 向 と 海 洋 環 境 の 関 係 , お よ び 漁 況 予 測   1984〜2003年の間の北日本各地の漁獲量と海洋環境データを用いて,漁場水 温,漁場の時空間変化と海洋環境との関係を調べた。得られたデータを基に,初 漁日と漁獲量予測の手法の検討,およぴ北日本個体群の分布と資源変動に対す る海洋環境変化の影響を調べた。

〔 結果 と考察 〕

1.北 日本 個体 群の定 義, およ び分 布回遊

  遺 伝 的 解 析 で は ,mtDNAの5領 域 の う ち 変 異 が 最も 多 か っ たNC4領 域に つ い て , 各 地 か ら 採 集 した545個 体 の 塩 基 配 列 を 決 定し た 。 そ の 結果 ,55部 位 で 変 異 が 確 認 さ れ ,48種 類 の ハプ ロタイ プが 出現 した。 しか し, 平均 ハ プ ロタ イプ多様度は0. 670,平均塩基多様度は0.003と低く,またハプロタ

214

(3)

イプ頻度とFs.r 値は海域間で有意差はなかった。これらのことから,日本周 辺 の ヤ リ イ カ 地 方 個 体 群 問 に は , 遺 伝 的 交 流 が あ る と 判 断 さ れた 。

  

一方,標識放流と漁獲変動の地域間比較では,太平洋側の北日本個体群と 宮城県以南の太平洋北部個体群の問で,ヤリイカの生息と産卵に不適な親潮 が冬―春に接岸する岩手県沿岸を境界として,回遊が南北方向に分かれ,か つ漁獲年変動に類似性が認められなかった。ただし,親潮が接岸したい年に は南北への移動が不明瞭になることから,両地方個体群間での交流が示唆さ れた。また,日本海の北日本個体群と日本海南西部個体群では,能登半島を 境として産卵期の移動が逆方向を示し,かつ,漁獲変動に類似性が認められ なかった。しかし,両地方個体群は日本海沿岸を北上する対馬暖流の勢力範 囲に分布するため,海流による幼生の北上などによる遺伝的交流が考えられ た。以上のことから,能登半島以北の日本海と噴火湾から岩手県までの太平 洋に分布するヤリイカ北日本個体群は,資源変動を評価するための単位とし て妥当と判断した。

  

ただし,北日本個体群の産卵期は初冬から初夏までと長く,その産卵場は 季節的に沿岸に沿って移動するため,その生活史を通した移動・回遊経路は 複雑で ある。本研究 では,

1^2

月に津軽海峡域〜青森県日本海海域で産卵 するグループ(冬産卵グループと称す)は,ふ化後に津軽暖流に沿って太平 洋側で成長し,秋以降に再ぴ青森県日本海海域へと産卵回遊すると推定し た。しかし,

3

6

月に新潟県から北海道宗谷付近までの日本海沿岸を北上 しながら産卵するグループ(春産卵グループと称す)は,主に日本海陸棚域,

一部は津軽海峡―太平洋側で成長すると想定されるが,その全容は明らかに できなかった。

2

.北日本個体群の成長様式,繁殖‐再生産特性

  

北日本個体群の成長様式は,木下(1989 )が示した成長曲線にうまく適合 し,逆算した冬産卵グループのふ化日は4 月中旬頃と推定された。産卵群の 特性を調べた結果,性比と雌の外套長組成の年変化は小さいが,雄の外套長 組成の年変化は大きかった。産卵期の雄の平均外套長と初期生活期〜産卵回 遊 期 の 水 温 に 相 関 が 見 ら れ , 水 温 依 存 型 の 成 長 が 示 唆 さ れ た 。

  

卵発生実験により,胚発生が正常に進む水温下限は

8

3

℃,塩分下限は

28. Opsu

,生物学的零度は

5

.2 ℃と推定された。卵が発生に不適な5 ℃の低水 温に15 日間さらされると孵化率が約

50

%に低下し,30 日問では全て死亡し た。再生産の成否を考える上で,産卵場の水温と塩分のモニタリングが必要 と考えられた。

215 ‑

(4)

3. 北 日 本 個 体 群 の 漁 獲 動 向 と 海 洋 環 境 の 関 係 , お よ び 漁 況 予 測   漁 獲 動 向 と 海 洋 環 境 と の 関 係 か ら , 産 卵 期 〜 初 期 生活 期 に 津 軽 暖 流 の 流 量 が 多 い ほ ど , 北 日 本 個 体 群 の う ち 冬 産 卵 グ ル ー プ の 割合 が 多 く な る こ と , 産 卵 期 に 水 温 が 高 い ほ ど , 春 産 卵 グ ル ー プ は 青 森 県 以 北に 多 く 産 卵 回 遊 す る こ と が 示 さ れ た 。 ま た , 資 源 変 動 に 水 温 が 関 与 し て い る可 能 性 が 考 え ら れ た 。 産 卵 群 を 漁 獲 対 象 と し た 青 森 県 日 本 海 沿 岸 で は , 初 漁日 水 温 と 冬 季 の 最 低 水 温 に 強 い 相 関 が あ り , 水 温 に よ る 初 漁 日 予 測 が 可 能 であ っ た 。 一 方 , 冬 産 卵 グ ル ー プ の 漁 獲 量 は , 漁 期 序 盤 (8〜  11月 ) の 漁 獲 量 と11〜12月 の 津 軽 暖 流の流量を用いた重回帰式で予測することができた。

  本 研究 では, ヤリ イカ 北日 本個体群を資源変動の単位と定義し,分布・回遊と海 洋 環 境との 関係 を検 討し た。 その 結果 ,水 温と 津軽 暖流 の流 量の変 化に 応答 して 移動・分散することを明らかにすることができた。また,この関係に基づいて,冬産卵 グル ープ の漁獲 量の 予測 が可 能となった。しかし,春産卵グループにっいては,そ の 不 足する 生活 史, 回遊 経路 など の知 見を 蓄積 して ,資 源と 漁獲変 動を 予測 でき る手法の開発へと展開する必要がある。

216

(5)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授 教 授 助教授 助教授

桜井泰憲 帰山雅秀 綿貫  

John Richard Bower

学 位 論 文 題 名

北 日本ヤリ イカ個体群の分布回遊と      資 源 変 動 要 因 に 関 す る 研 究

  ヤ リ イ カ は , 北 海 道 道 東 海 域 を 除 く 九 州 ま で の 日 本 列 島 と 韓 国 の 陸 棚 ― 沿 岸 域 , お よ ぴ 東 シ ナ 海 か ら 黄 海 の 浅 海 域 に 分 布 し , 沿 岸 漁 業 の 主 要 対 象 種 と な っ て い る 。 し か し , そ の 漁 獲 年 変 動 が 大 き い た め , 高 精 度 の 漁 況 予 測 や 資 源 管 理 が 求 め ら れ て い る 。 日 本 周 辺 に 分 布 す る ヤ リ イ カ は , 分 布 ・ 回 遊 と 漁 獲 変 動 な ど に 基 づ い て4地 方 個 体 群

( 日 本 海 南 西 部 , 北 日 本 , 太 平 洋 北 部 , 太 平 洋 南 部 ) に 便 宜 的 に 区 分 さ れ て い る 。 こ の う ち , 青 森 県 で 漁 獲 さ れ る 北 日 本 個 体 群 に は 冬 と 春 の 産 卵 群 の 存 在 が 知 ら れ て い る 。 し か し , 北 日 本 個 体 群 の 分 布 ・ 移 動 の 範 囲 , 他 の 地 方 個 体 群 と の 遺 伝 的 関 係 , さ ら に 資 源 変 動 に 影 響 を 与 え る 環 境 要 因 な ど に つ い て は 不 明 の 点 が 多 い 。   そ こ で 本 研 究 で は , 北 日 本 ヤ リ イ カ 個 体 群 を 資 源 変 動 解 明 の 単 位 と す る こ と の 妥 当 性 の 検 討 を 行 い , そ の 分 布 回 遊 と 資 源 変 動 要 因 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 具 体 的 に は , 地 方 個 体 群 間 で の 遺 伝 的 交 流 ・ 独 立 性 の 有 無 , 漁 獲 状 況 と 採 集 調 査 に 基 づ く 分 布 特 性 , お よ び 標 識 放 流 な ど に よ る 回 遊 経 路 を 調 ベ , 資 源 変 動 解 析 の た め の 北 日 本 個 体 群 を 定 義 し た 。 次 に , 北 日 本 個 体 群 の 資 源 変 動 要 因 , 再 生 産 ・ 加 入 過 程 の 成 否 に 対 す る 環 境 要 因 , あ る い は 漁 獲 の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 最 後 に , 漁 場 水 温 , 漁 場 の 時 空 間 変 化 と 海 洋 環 境 と の 関 係 を 調 ベ , そ れ ら の デ ー タ に 基 づ い て , 資 源 変 動 と 漁 況 予 測 手 法 に つ い て 考 察 し た 。

1. 北 日 本 個 体 群 の 定 義 , お よ び そ の 分 布 回 遊

便 宜 的 に 区 分 さ れ て い る4地 方 個 体 群 と , 青 森 県 で 漁 獲 さ れ る 冬 ・ 春 産 卵 群 の 分 布     217

(6)

域 から 採集 され た545個体 のヤ リイ カを 用い て, 変異 性の 高いmtDNA NC4領域の塩基 配 列分 析を 行った。その結果,ヤリイカの遺伝的多様性が低く,またハプロタイプ頻 度 とFs,r値 は海域間で有意差がなかったことから,日本周辺のヤリイカ地方個体群間 には,遺伝的交流があると判断した。

  一方 ,標 識放流と漁獲変動の地域間比較では,太平洋側の北日本個体群と宮城県以 南の太平洋北部個体群の間で,ヤリイカの生息と産卵に不適な親潮が冬一着!に接岸す る 岩手 県沿 岸を境界として,回遊が南北方向に分かれ,かつ漁獲年変動に類似性が認 め られ なか った。ただし,親潮が接岸しない年には南北への移動が不明瞭になること か ら, 両地 方個体群間での交流が示唆された。また,日本海の北日本個体群と日本海 南 西部 個体 群では,能登半島を境として産卵期の移動が逆方向を示し,かつ,漁獲変 動 に類 似性 が認められなかった。しかし,両地方個体群は日本海沿岸を北上する対馬 暖 流の 勢力 範囲に分布するため,海流による幼生の北上などによる遺伝的交流が考え ら れた 。以 上のことから,能登半島以北の日本海と噴火湾から岩手県までの太平洋に 分 布す るヤ リイカ北日本個体群は,資源変動を評価するための単位として妥当と判断 した。

  本研 究で は,1〜2月に津軽海峡域〜青森県日本海海域で産卵するグループ(冬産卵 グ ルー プと 称す)は,ふ化後に津軽暖流に沿って太平洋側で索餌・成長し,秋以降に 再 ぴ青 森県 日本海海域へと産卵回遊すると推定した。しかし,3〜6月に新潟県〜北海 道 日本 海沿 岸を北上しながら産卵するグループ(春産卵グループと称す)は,主に日 本 海 陸 棚 域 , 一 部 は 津 軽 海 峡 ― 太 平 洋 側 で 索 餌 ・ 成 長 す る と 推 定 し た 。

2. 北日 本個 体群 の成 長様 式, 繁殖 ・再 生産 特性

  北日 本個体群の成長様式は,木下(1989)が示した成長曲線にうまく適合し,逆算 し た冬 産卵 グル ープ のふ 化日は4月 中旬頃と推定された。産卵群の特性は,性比と雌 の 外套 長組成の年変化は小さいが,雄の外套長組成の年変化は大きかった。ヤリイカ の 成長 に水温依存型が示唆された。卵飼育実験により,胚発生が正常に進む水温下限 は8,3℃ ,塩分下限は28. Opsu,生物学的零度は5.2℃と推定された。再生産の成否に 伴 う 資 源 変 動 予 測 に は , 産 卵 場 の 水 温 と 塩分 のモ 二夕 リン グが 必要 と判 断し た。

3. 北 日 本 個 体 群 の 漁 獲 動 向 と 海 洋 環 境 の 関 係 , お よ び 漁 況 予 測   北日本各地の漁獲量と海洋環境データを用いて解析した結果,産卵期〜初期生活期

218

(7)

に津軽暖流の流量が多いほど,北日本個体群のうち冬産卵グループの割合が多くなる こと,産卵期に水温が高いほど,春産卵グループは青森県以北に多く産卵回遊するこ とが判明した。冬産卵グループの漁獲量は,漁期序盤(8〜11月)の漁獲量と11 ‑12 月の津軽暖流の流量を用いた重回帰式で予測することができた。一方,春産卵グルー プ産卵群の初漁日水温と冬季の最低水温に強い相関があり,水温による初漁日予測が 可能であった。

  本研究では,北日本ヤリイカ個体群を資源変動の単位と定義し,分布・回遊と海洋 環境との関係を検討した。その結果,水温と津軽暖流の流量の変化に応答して移動・

分散することを明らかにすることができた。また,この関係に基づいて,冬産卵グル ープの漁獲量の予測が可能となった。しかし,春産卵グループについては,その不足 する生活史,回遊経路などの知見を蓄積して,資源と漁獲変動を予測できる手法の開 発へと展開する必要がある。

  これらの成果は、北日本ヤリイカ個体群の漁況予測と資源管理に大きく寄与するも のと評価される。審査員一同は,本論文が博士(水産科学)の学位を授与される資格 のあるものと判定した。

219

参照

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