博 士 ( 農 学 ) ト ビ ア ス ツ オ ル ン
学位論文題名
A Forest Political Study on Protection Forests of Germany,Austria and Japan
(ドイツ、オーストラリア、日本の保安林に関する森林政策学的研究)
学位論文内容の要旨
本 論 文 は6章 か ら 構 成 さ れ 、 図16、 表61、 参 考 文 献211と 付 表5を 含 む 総 頁数168の 英 文論 文 であ り 、別 に 参考 論 文10編が 添 えられてい る。
現在、環境保全問題が世界的に注目をあびているが、中でも森林保全問題は 重要な地球環境問題のーっとして、その解決をめざして世界的な取り組みがお こなわれている。このように近年において、森林保全問題がグローノヾル化する に伴い、森林問題は一国だけでは解決することが出来なくなっており、森林政 策のあり方をめく゛って国際的に比較研究する必要性が高まってきている。
本研究は、森林保全制度として長い歴史を持っドイツ、オーストリア、日本 の保安林制度を取り上げて、その歴史と現状を分析し、三カ国の保安林制度の 類似点、相違点を明らかにするとともに、保安林制度の特徴と有効性について 検討することを課題としている。
第2章では研究対象である保安林の定義と研究方法を検討した。そして三カ 国の森林と林業の現状について分析した。ドイツの国土面積に占める森林面積 の割合(森林率)は30%であり、森林面積に占める保安林面積の割合(保安 林率 )は6.9%で ある。これ に対してオーストリアの森林率は47%、保安 林 率 は19.1% で あ る 。 日 本 の 森 林 率 は67% 、 保 安 林 率 は36.1% で あ り、いずれの数値もドイツ、オーストリアよりも高いこと、カミ注目される。
第3章では三カ国の保安林制度と治山事業の歴史について分析した。ドイツ のノヾイエルン州では1852年に森林法を制定しているが、同法では落石と浸 食防止、そして雪崩防止のために保安林制度が規定されている。保安林では皆 伐と開墾が禁止され、択伐の実行が求められた。しかしバイエルン州では森林 法における保安林の規定は厳しく適用されず、また治山事業などの特別な事業 が実 行されなか ったことが 指摘できる。またバーデン州では1833年に森林 法を制定している。同法には保安林の規定が欠如しており、その理由は森林全 体に対して厳しい森林施業規制を課したからである。っまり同法によれば森林 全体に対して皆伐が禁止され、造林は伐採後の一定期間内に実行されねばなら ず、従ってノヾーデン州では保安林に指定して、経済林よりも厳しい施業規制を お こ な う と ぃ う 保 安 林 制 度 の 創 設 が 必 要 で な か っ た の で あ る 。 オー ストリアで は1852年に森林 法を制定しており、同法によって保安林
制度が創設された。保安林の目的は落石、地滑り、雪崩から住民と財産を守る ことであった。施業規制としては不安定な土壌、急傾斜地、高い標高地での大 面積の皆伐 は禁止され た。治山事業は1884年に野渓工事法が制定されてか ら、林業部局によって実施されている。
日本の近代 の保安林制 度は1897年の森林法に始まる。そこでは水源かん 養保安林をはじめとして12種類の保安林が規定された。保安林では皆伐と開 墾が 禁 止さ れ た。 日本 では治山事 業は1911年から 実施されて いる。なお 1951年 に 森林 法 が 改正され て、保安林 の種類が17に 増加してい る。そし て保安施設地区制度が創設されている。同制度の創設によって治山事業が法的 に根拠をもつことになった。
第4章では三カ国の現行森林法における保安林の法的位置について明らかに した 。 ドイ ッ では1975年に 連邦森林法 が制定され ている。同 法の12条で 危険、損害、負荷から国民を守るために保安林に指定できるとしている。/ヾイ エルン州は1974年 に州森林法 を制定しており、アルプスや高地、浸食など で危険な所、落石、地滑り、雪崩、洪水などから防ぐ必要があるような森林は 保安林に指定するとしている。保安林では皆伐は許可が必要である。なおバー デン・ウエ ルテンベル ク州では1995年の州森林法の一部改正でビオトープ 保安林が創設されていることが注目される。同制度によれば貴重なビオトープ が調査されて、その場所が地図に明示され台帳に記載されて、保護される。
オ ース ト リア の 森林法 は1975年に大幅 に改正され ている。同 法の21条 で風、水、重カの作用によって危険になったり、土壌、植生の保護のために特 別な取り扱いが必要な森林を保安林に指定できるとしている。農林大臣は命令 によって伐採許可と伐採年齢、造林の期間などを含んだ保安林の取り扱い方を さだめなければならない。
日本の保安林は17種類であり、保安林の種類の多さが特徴である。これま で保安林の兼種指定は避けられてきたが、近年、保健保安林の指定が増えるに 伴い、兼種指定が増える傾向にある。また保安林の施業規制は保安指定時の指 定施業用件によるが、保安林の伐採と開墾は知事の許可が必要である。このよ うに保安林には相対的に厳しい規制が課せられているので、固定資産税の免除 など税制上の優遇措置がとられている。
第5章では三カ国について実施した保安林に関する実態調査の結果をふまえ て近年の保安林の動向を分析した。バイエルン州では山岳地域の保安林状態の 改善をはか り、保安林 機能を向上させることをめざして、1986年から保安 林再整備事業が実施されている。これはバイエルン州だけではなく、ドイッで 初めて実施された保安林を対象とする独自の事業である。オーストリアは18 84年以来、治山事業は実施されてきたが、近年、保安林の高齢林分化に対応 し て 、1993年 から 保 安 林改 良 事業 が 実施 さ れて い る。 日 本で は1994年 から第5期保安林整備計画が実施されている。
第6章ではこれまでの三カ国に対する分析をふまえて、保安林制度は山岳地 域を中心に展開した制度であり、その制度的特徴は地域を指定して伐採、造 林、開墾などの森林施業を規制することによって森林を保全しようとするもの であると結論付けた。そして近年において生態系保全、河畔林保全などの新た な課題が生じているが、これらの課題は保安林制度の拡充の契機となるとして
いる。三カ国の保安林制度の相違点は保安林の目的、指定面積、施業規制の強 さ、治山事業の位置付けと実施状況、治山事業と砂防事業との関連などの点で みることができるとした。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 石 井 寛 副 査 教 授 和 孝 雄
副 査 教 授 新 谷 融 副査 教授 神沼公三郎
学位論文題名
A Forest Political Study on Protection Forests of Germany , Austria and Japan
( ド イ ツ 、 オ ー ス ト ラ リ ア 、 日 本 の 保 安 林 に 関 す る 森 林 政 策 学 的 研 究 )
本 論 文iま6章 か ら 構 成 さ れ 、 図16、 表61、 参 考 文 献211と 付 表5を 含 む 総 頁 数168の 英 文 論 文 で あ り 、 別 に 参 考 論 文10編 が 添 え ら れ て い る 。 近 年 、 森 林 保 全 問 題 が グ ロ ー バ ル 化 す る に 伴 い 、 森 林 問 題 は 一 国 だ け で は 解 決 す る こ と が 出 来 な く な っ て お り 、 森 林 政 策 の あ り 方 を め ぐ っ て 国 際 的 に 比 較 研 究 す る 必 要 性 が 高 ま っ て き て い る 。
本 研 究 は 、 森 林 保 全 制 度 と し て 長 い 歴 史 を 持 っ ド イ ツ 、 オ ー ス ト リ ア 、 日 本 の 保 安 林 制 度 を 取 り 上 げ て 、 そ の 歴 史 と 現 状 を 分 析 し 、 三 カ 国 の 保 安 林 制 度 の 類 似 点 、 相 違 点 を 明 ら か に す る と と も に 、 保 安 林 制 度 の 特 徴 と 有 効 性 に つ い て 検 討 す る こ と を 課 題 と し て い る 。
第2章 の 論 述 に よ る と 、 ド イ ツ の 森 林 率 は30% で あ り 、 森 林 面 積 に 占 め る 保 安 林 面 積 の 割 合 ( 保 安 林 率 )iま6.9% で あ る 。 こ れ に 対 し オ ー ス ト リ ア の 森 林 率 は47% 、 保 安 林 率 は 19.1% で あ る 。 日 本 の 森 林 率 は67% 、 保 安 林 率 は3 6.1% で あ る 。
第3章 で は 三 カ 国 の 保 安 林 制 度 と 治 山 事 業 の 歴 史 に つ い て 分 析 し て い る 。 ド イ ツ ・ バ イ エ ル ン 州 の1852年 の 森 林 法 で は 落 石 と 浸 食 防 止 、 そ し て 雪 崩 防 止 の た め に 保 安 林 制 度 が 規 定 さ れ て い る 。 保 安 林 で は 皆 伐 と 開 墾 が 禁 止 さ れ 、 択 伐 の 実 行 が 求 め ら れ た 。 バ ー デ ン 州 で は1833年 に 森 林 法 を 制 定 し て い る 。 同 法 に は 保 安 林 の 規 定 が 欠 如 し て お り 、 そ の 理 由 は 森 林 全 体 に 対 し て 厳 し い 森 林 施 業 規 制 を 課 し た か ら で あ る 。 っ ま り 同 法 に よ れ ば 森 林 全 体 に 対 し て 皆 伐 が 禁 止 さ れ 、 造 林iま 伐 採 後 の 一 定 期 間 内 に 実 行 さ れ ね ば な ら ず 、従 って バ ー デ ン 州 で は 保 安 林 に 指 定 し て 、 経 済 林 よ り も 厳 し い 施 業 規 制 を お こ な う と ぃ う 保 安 林 制 度 の 創 設 が 必 要 で な か っ た の で あ る 。 オ ー ス ト リ ア で は1852年 に 森 林 法 を 制 定 し て お り 、 同 法 に よ っ て 保 安 林 制 度 が 創 設 さ れ た 。 保 安 林 の 目 的 は 落 石 、 地 滑 り 、 雪 崩 か ら 住 民 と 財 産 を 守 る こ と で あ っ た 。 施 業 規 制 と し て は
不安定な土壌、急傾斜地、高い標高地での大面積の皆伐は禁止された。治山事 業は1884年に 野渓工事法が制定されてから、林業部局によって実施されて いる。日 本の近代の保安林制度は1897年の森林法に始まる。そこでは水源 かん養保安林をはじめとして12種類の保安林が規定され、皆伐と開墾が禁止 さ れ た 。 日 本 で は 治 山 事 業 は 1911年 か ら 実 施 さ れ て い る 。 第4章では三カ国の現行森林法における保安林の法的位置について述ぺてい る。/ヾイエ レン州は1974年に州森林法を改正しており、ア冫レプスや高地、
浸食などで危険な場所、落石、地滑り、雪崩、洪水などから防ぐ必要があるよ うな森林は保安林に指定する。保安林では皆伐iま許可が必要である。なおバー デン・ウ エルテンベルク州では1995年の州森林法の一部改正でピオトープ 保安林が 創設されていることが注目される。オーストリアの森林法は1975 年に大幅に改正されている。同法の21条で風、水、重カの作用によって危険 になったり、土壌、植生の保護のために特別な取り扱いが必要な森林を保安林 に指定できるとしている。日本の現行の保安林は17種類であり、保安林の種 類の多さが特徴である。これまで保安林の兼種指定は避けられてきたが、近 年 、保 健保安林の 指定が増え るに伴い、 兼種指定が 増える傾向 にある。
第5章でiま三カ国について実施した保安林に関する実態調査の結果をふまえ て近年の 保安林の動向を分析している。バイエルン州では1986年から保安 林再整備事業が実施されている。これはバイエルン州だけではなく、ドイツで 初めて実施された保安林を対象とする独自の事業である。オーストリアでは近 年、保安 林の高齢林分化に対応して、1993年から保安林改良事業が実施さ れている 。日本では1994年から第5期保安林 整備計画が実施されている。
第6章ではこれまでの三カ国に対する分析をふまえて、保安林制度は山岳地 域を中心に展開した制度であり、その制度的特徴は地域を指定して伐採、造 林、開墾などの森林施業を規制することによって森林を保全しようとするもの であると結論付けた。そして近年において生態系保全、河畔林保全などの新た な課題が生じているが、これらの課題は保安林制度の拡充の契機となるとして いる。
以上のように本論文はドイツ、オーストリア、日本の保安林制度を研究対象 として、その歴史と現状を分析し、三カ国の保安林制度の類似点、相違点を明 確にするとともに、保安林制度の特徴を明らかにしたものであり、学術上のみ ならず、森林行政的にも大きく貢献するものである。
よって審査員一同は、トビアスツオルンが博士(農学)の学位を受けるに 十分な資格を有するものと認めた。