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Wiki を使った情報共有 ~企業での活用事例~

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Academic year: 2021

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Wiki を使った情報共有

∼企業での活用事例∼

Case Study of the Wiki as a Knowledge Sharing Tool on Business

大村 幸敬

OHMURA Yukitaka

概要

 本稿ではユーザ参加型コンテンツ管理システムWiki を部門内のグループウェアとして使用した事例と

ノウハウを紹介し、Wiki を使った情報共有の利点と課題について考察する。紹介する事例は、技術情報

の蓄積、プロジェクト情報の管理、部内申請業務、個人ページの4つである。

 Wiki をはじめWeb2.0的なツールを企業で使って情報を共有することの利点は、個人が持つ暗黙知が

形式知として蓄積されることである。さらに、蓄積された形式知の相互作用による価値創造が期待できる。

今後は、blogやSNS、Wiki などのツールを活用して知的価値を創造する基盤を構築し、より優れたアイ

ディアが生み出されるようにしたい。

1. はじめに

 本稿ではユーザ参加型コンテンツ管理システムWiki を企業 内のグループウェアとして使用した事例を紹介し、Wiki を 使った情報共有の利点と課題について考察する。まずWiki の 概要について解説する。次に、企業における情報共有が進ま ない問題をWiki を使ってどのように解決できるか説明する。 次に当社での活用事例を4つ紹介し、それぞれの効果や工夫 について述べる。最後にWiki を使った情報共有の利点と課題 について考察する

2. Wiki の概要

 2005年秋ごろから「Web2.0」と呼ばれる新しいWebの方 向性が話題になっている[1]。従来、多くのWebユーザは情報 の閲覧者にとどまることが多かったが、blogやSNS (Social Network Service) の普及によりユーザ自らが情報を気軽に 発信するようになった。これらblogやSNSなどユーザ参加型 のシステムがWeb2.0のキーファクターである。今日のWeb 上ではblogやSNSによってユーザが発信する大量の情報が相 互作用を起こし、さらに新しい価値が生み出されている。この 「Web2.0的」な状況は、企業の情報共有においてもひとつ の理想形であると言える。  「Wiki(ウィキ)」はWeb2.0的なユーザ参加型コンテン ツ管理システム (CMS:Contents Management System) のひとつである。Wiki の特徴はWebブラウザを使ってWeb ページ全体を編集できることである。さらにそのコンテンツは 誰でも自由に作成・編集できるため、他の人が書いた内容を 追記・修正するなどコラボレーションツールとして利用で きる。他のCMSと比較してWiki は以下のような特徴がある。   ● 誰でも全てのページを作成・編集できる   ● コンテンツの全ての部分を編集できる   ● 簡単な記法によりHTMLを使わなくても豊かに表現できる 誰でもどのページでも編集できることから、他の人が書いた文 章を修正するなどWeb上のコラボレーションツールとして利 用することもできる。インターネット上ではオープンソース

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3. 企業における情報共有

表1 情報共有手段の問題  筆者の所属部門では情報共有によって以下のような業務改善 を考えていた。   ● 部門員が持つノウハウを共有することで作業を効率よく進   める   ● 部門員やプロジェクトメンバーに情報を迅速に伝達する   ● 情報の動きを可視化することで部門内の状況を把握する  しかし、思ったような効果を上げられないでいた。情報共有 ツールにはファイルサーバやグループウェア、部内のWebサ イトなどを使用していた。原因を探るため部門員にヒアリング したところ、これらは一定の効果はあるものの、表1のような 問題を抱えていた。  既存の情報共有手段の問題を整理すると以下のようになる。 (1) 情報はWeb上にあったほうが閲覧しやすい。 (2) 更新に掛かる手間を減らしたい(グループウェアのように   ブラウザで操作したい)。 (3) 共有する情報はさまざまであり、業務に応じてフォーマット   を柔軟に変更したい。  筆者はWiki を使うことでこれらの問題点を解決できると考 えた。  Wiki は全てのデータをWeb上で管理するため、問題(1)、 (2) を解決することができる。また、ページのコンテンツを自 由に編集できるため、業務に応じて内容を変更することも可能 である。問題(3) についてはWiki の基本機能ではやりにくい部 分もあるが、プラグインによる機能拡張とルール決めによって 対応できると考えた。  以上の検討により、2003年4月からパイロットプロジェク トのメモツールとしてWiki を導入し、徐々にその適用範囲を 広げていった。

4. Wiki の活用事例

4.1 使用したWiki エンジン

 Wiki には実装方式の異なるいくつかのWiki エンジンがある が、過去の使用実績と保守・カスタマイズの容易性から、オー プンソースのWiki エンジンである「PukiWiki(プキウィキ)」 [3]を採用した。PukiWiki は一般的なWiki の機能に加えて以 下のような特徴がある。   ● 多様なプラグインによる機能拡張   ● ページの更新履歴管理   ● 全文検索機能   ● PHP (PHP Hypertext Preprocessor) で実装   ● オープンソースによる開発  図1にPukiWiki の画面イメージ、図2に編集画面の例を示す。 図1において、「A」の部分がページの編集や検索を行うため のリンクやボタンである。「B」の部分がコンテンツであり、 自由に編集することができる。 ソフトウェアの開発者サイトとして使われたり、編集の容易さ から一般のサイトでの利用も増加している。  Wiki を効果的に使った例としてはWikipedia[2]が挙げら れる。これはインターネット上で公開されている百科辞典であ る。しかし、一般の百科辞典と大きく異なるのはWiki を使用 している点である。これにより各用語の解説を多数の一般 ユーザが協力して作成できるようになっている。多数のユーザ が協力することでWikipediaには多種多様な用語 (10万語 以上) の解説が掲載されている。用語によっては内容が不十分 な場合もあるが、他のユーザがレビュー・修正することで品質 の向上を図っている。  WikipediaはWiki がWeb上での情報共有・コラボレーション ツールとして有用であることを示すよい例である。 ●ファイルの所在が不明になる ●ファイルによっては特定のプログラムが必要で確認に時間がかかる ●履歴が管理されておらず、最新のファイルかどうかが不明 ●コンテンツの作成・更新が面倒であるため、一般の部門員が自ら情報を発信することが  少ない ●管理者だけがオフィシャルページの更新を行っており、多忙により更新が滞りがちになる ●定型の情報しか入力できないため、業務によっては使用しづらい部分がある ●ブラウザだけで利用できる ●ブラウザだけで利用できる ●スケジュール、掲示板など必要な  機能がそろっている ●仕様書などをそのまま保存できる 手段      利点      問題点 ファイルサーバ Webサイト グループウェア

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ファイルの管理である。  紙ベースの資料はWiki に記録することはできないため、資 料をバインダーに閉じた後Wiki にそのバインダーの在処を記 載することで対応した。検索機能もあるWiki をインデックス 代わりに使用することで、紙ベースの資料であっても検索性を 向上させることができた。  ファイルの管理はファイルサーバとの連携で実現した。 Wiki にはファイルをアップロードする仕組みがあるものの、 ファイルサーバを使用したほうが手間かからないためである。 対策としてWiki に新しくプラグインを作り、ファイルサーバ へのリンクを作成できるようにした。これによりリンクをク リックするとファイルサーバからファイルを取得できるよう になった。  このように、既存ツールの不足部分を補うようにWiki を使 う方法はよい成果を上げた。既存ツールの機能はそのまま残って いるため、Wiki 運用開始当初も違和感を与えることがなかった。 Wiki については利用できる人から使ってもらい、徐々に周囲 に広めていった。これにより最終的にはプロジェクトのメンバー 全員がWiki を使うようにすることができた。

4.4 部内申請業務

 PukiWiki にはtrackerというプラグインがある。trackerは Wiki の仕組みを利用したメタWebアプリケーションともいえ るもので、情報の入力フォーム、一覧画面、詳細画面を自由に 定義することができる。各項目の入力形式もプルダウンリスト など各種のフォームが使用可能である。  私たちはこのプラグインを部門サーバの各種申請業務に使用 している。ユーザはtrackerで作られた入力フォームに申請内 容を記入し、管理者は対応完了後にその旨Wiki に登録するよ うにした。これにより複数の管理者間で対応状況の把握が可能 になり、対応漏れや過去の設定内容の把握が容易になった。 図3にその例を示す。  ここでWiki のよいところはフォームというある程度決めら れた枠組みを定義しながら、添付ファイルや文字装飾を行うな ど豊かな情報を持たせることも可能な点である。一般のグルー プウェアでは文字情報は入力できても、入力文字数や文字修飾 に制限があったり画像の貼り込みができなかったりすることが 多い。Wiki を使う場合はHTMLで利用可能なほとんどすべて の表現を使うことができる。

4.2 技術情報の蓄積

 筆者が最初にWiki を使ったのは通信ソフトウェアの作成お よび評価のプロジェクトであった。このプロジェクトを選んだ 理由は、複雑な通信の仕様をプロトコルレベルで理解する必要 があることと、非常に特殊な環境での開発がその後何回も繰り 返し行われる可能性があったことである。技術情報を蓄積・共 有していくことで新しい人員の教育や開発の効率が上がると考 えた。  このプロジェクトでは通信の詳細や開発環境のセットアップ 方法、試験の方法などをWiki に記録していった。最初はメモ 程度のものであったが、同様の試験を繰り返すたびに複数の メンバーが内容を参照したりブラッシュアップしたりすること で内容も信頼できるものになり、開発効率の向上に大きく貢献 することができた。  現在ではこの実績を生かし複数の基盤技術(Windows、 .NET、Oracleなど)についてページを設け、各プロジェクト で見つかった問題や解決方法を逐一Wiki に記録し、部門全体 の資産として利用できるようにしている。

4.3 プロジェクト情報の管理

 Wiki 上に各プロジェクトの専用ページを作り、プロジェク トの情報管理に使用している。  プロジェクトを進めていく中ではドキュメントにするほどで もないがメンバーに周知すべき事項が数多く発生する。そう いった「ドキュメント未満」の情報をWiki に記録することで、 メンバーへの伝達漏れが少なく効率のよい情報共有が行われて いる。  計画変更の多いプロジェクトにおいてはWiki の過去の履歴 を保存する機能を活用している。スケジュールなどに変更が あってページの内容を変更した場合であっても、履歴を見ること でいつどのような変更があったかを把握することができる。 仕様をまとめていく段階やプログラミングの段階ではチーム内 で用語を統一する必要がある。これについてはWiki に用語集 のページを作り、開発者がドキュメントやコードを開発する際 に常に参照するようにした。新しい用語が必要になったら各々 が用語と意味をWiki に登録するようにした。Microsoft Excel などを使っても同様のことはできるが、Wiki はWeb ベースであるため気軽に閲覧・編集できる点が有用であった。  プロジェクト情報の中で扱いに困ったのはFAXなど紙ベー スの資料とMicrosoft Wordなどのアプリケーションに依存した

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い情報や自分の考えなどを自由に発言する場とした。業務外の 時間のちょっとした情報交換に使われることが多く、部員間の 交流に役立っている。  ページを作成している人はまだそれほど多くはない。しかし、 他の人の発言を見ることで新しい知識を得ることが多い。この 活動はさらに活発化させ、知的価値創造の場としていきたいと 考えている。

5. Wiki 活用の効果と課題

5.1 暗黙知から形式知へ

 Wiki 導入の最大の効果は暗黙知が形式知へと変換されるよ うになったことである。これまでは個人のメモノートなどに 埋もれていたちょっとした気付き事項が、ノートより使いや すいWiki の導入によりWebで公開されるようになった。文章 の体をなしていないメモであっても、全文検索によって拾い 出すことができるのも利点である。  手順書などをWiki 上でブラッシュアップすることで実際に 開発効率が向上した通信ソフトウェア開発の例もあり、Wiki は暗黙知の表出化とそれに伴う業務効率の改善に有効である。

5.2. 業務の可視化

 Wiki の導入により多くの業務が可視化されたことも効果の ひとつである。  trackerプラグインの例にあるように、Wiki はメタWebアプ ことで、今まで見えていなかった部門内の情報のやり取りを把 握できるようになった。問題が発生した場合も適切なタイミン グで対策を打つことができるようになり、管理業務の質を上げ ることにも寄与している。

5.3 Webページ編集への抵抗感

 問題点としては、Webページを編集することへの抵抗感を ユーザから払拭しなければいけない点が挙げられる。部門員に ヒアリングしたところ、書いた内容が公開されることや他の人 が書いたページに手を加えることに抵抗感を覚える方が多かっ た。また、Wiki で豊かな表現を行う場合は独自の記法が必要 になる。この記法を覚えることへの抵抗感も強いようであった。  これらについては、まずtrackerプラグインなどを使った フォームによる入力から慣れてもらうようにした。フォームで あれば今までのグループウェアと同様に感じられるため、抵抗 感なく入力できるようである。  記法については無理して覚えてもらうことはせず、まずはプ レーンテキストによる入力をお願いするようにした。プレーン テキストによる入力であっても文章としては十分閲覧可能なレ ベルであり、使用するうちに使いたくなった表現だけを、その 都度覚えてもらうようにした。  この2つの対策以外には、数名の有志を募って積極的に Wiki を使うことで、書き込みやすい雰囲気をつくるといった ことも有効であった。これらユーザの巻き込みが最も難しい点 であると考える。

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6. おわりに

ビジネスソリューション事業本部  CRMソリューション第一部 Linux/OSS推進チーム Linux・オープンソース事業の推進に従事

大村 幸敬

OHMURA Yukitaka

5.4 情報構造化の必要性

 登録される情報の構造化を行う必要がある。情報を整理する ためにはツリー構造のような形で構造化するのがよいが、 Wiki の情報モデルは複数のページにある雑多な情報をリンク で結ぶ、というフラットな構造である。Wiki のモデルは情報 の構造化には不向きで、無秩序にページを作っていくとページ 間の関連性が薄れてしまい、どこに何があるのか分からないと いう状態になってしまう。  対策として、筆者の部門ではページ名をディレクトリのよ うに使うようにルールを定めた。例えばEXAMというプロ ジェクトの情報は必ず「/Project/EXAM/」から始まるペー ジ名にするなどである。これにより大枠での情報整理を行える ようになった。  もうひとつの対策としてはページ内に必ずキーワードを追加 することである。1つのページは複数の情報が書かれているこ とが多く、単に構造化することができないものもある。そこで 全文検索を前提としてページにキーワードを追加し、ページの タグ付けを行った。これにより複数のカテゴリをまたがった情 報の抽出が可能となった。

5.5 変更者明記の必要性

 根本的な問題としてWiki は編集者が誰であるかを明記でき ないという点が挙げられる。Wiki は誰もが編集できる反面、誰が 編集したのか分かりにくい。現行のPukiWiki にはコンテンツ 以外の管理情報を付加する機能がないため、必要な場合は最終 更新者などを別途コンテンツ内に書き残すようにルールを定め ている。この問題についてはまだ十分な解決策が見つかってお らず、管理情報を記録するための仕組みなどをコミュニティに 提案し、PukiWiki へ実装していく必要があると考えている。  本稿では実際の活用事例を元に、企業でWiki を導入ことの 効果と問題点について考察した。  最も大きな効果はWiki によって暗黙知から形式知への変換 が促進されることである。個人の小さな気付きをWebで公開 していくことで業務を改善することができる。さらには新しい 発想の源泉とすることもできる。  一方、Wiki を効果的に活用するには工夫も必要である。 導入目的を考えるにあたっては、Wiki だけですべてをまかな うのではなく既存のツールの弱点を補完するように位置づける のがよい。  業務への適用を考える場合は、メタWebアプリケーション 的な面を利用して業務に一致するように仕組みを作るのも1つ の手だが、足りない部分はルールによる運用を行うことも有効 である。  ユーザに対してはWiki という新しい仕組みに慣れてもらう 必要がある。まずはフォームのような簡単な部分から慣れても らい、徐々に機能を覚えていってもらうといった配慮が必要で ある。  今後の私の課題はWiki、blog、SNSの良いところを集めた 新しい情報共有基盤の構築である。SNSを利用してそれまで 知らなかった社員同士に新たな関係を築き、blogを通して議 論を深め、その成果がWiki にまとめられ、参加者全員でブ ラッシュアップしてひとつのアイディアへと昇華させる。このよ うな知的価値創造ツールが作れるのではないか、と考えている。  最後になったが、すばらしいオープンソースソフトウェア 「 PukiWiki 」を開発されたPukiWiki Developer Teamと コミュニティの方々に感謝の意を表したい。

参照

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