情報処理学会 GN 研究会 WS2016
ⓒ2015 Information Processing Society of Japan
1
3D 形状をキーにした構造設計の事例検索方法の考察
林宏興
†1山下智規
†1†2本ポジションペーパでは,3D-CAD 設計時の品質向上のため蓄積された過去の障害情報データベースからトラブル情 報を検索するとき,データに含まれる部品等のオブジェクトの情報をキーに AI 技術を用いて事例検索する方法につ いて考察経過を説明する.検討中の方式では,従来のアプローチより対象オブジェクトの検索結果の精度向上が見込 まれている.
1. はじめに
製品開発において後工程の試作や量産段階で発生する障 害は手戻りが大きく開発工数の増大を招く.例えば筆者の 所属する企業においてある製品を調査したところ試作から 量産段階の間に発生した障害対策工数が全開発工数の 45% に相当すると結果が得られた. そのため試作前の詳細設計段階に 3D-CAD や CAE を個 別もしくは複合的に利用することで障害の早期発見や妥当 性を検証するアプローチが適用されている.[1][2] また,筆者の所属する企業においてある製品に発生した 障害を分析したところ,発生した障害全体のうち約 70%は 過去に開発した製品(過去機種)で発生した障害と同じもの であった.もし詳細設計段階で再発する障害を見つけ出し 修正することができれば開発工数を抑制できると推測され る. これに対して現状は以下のような対策を取ることで発生 した障害全体のうち 48%を抑制できると分析結果が得られ た. ・チェックリストを活用する. ・製品を構成する部品が過去機種で利用されていた場合 はその部品の図番などから関連する障害があるか調 べる. ・設計した3Dモデルを熟練設計者にレビューしてもら う しかし上記には以下の課題がある. a)チェックリストは様々なバリエーションの製品に適用 するため内容が抽象化される傾向にある.その結果, チェックする人によって解釈のブレが生じチェック すべきポイントを間違える. b)新機種を開発する時に過去機種で設計した部品を流用 する場合があるが,コストダウンや改良、周辺の部品 との兼ね合いのため構造が変更される。そのような派 生部品は管理上図番を変更するため検索できなくな る. †1 富士通アドバンストテクノロジ Fujitsu Advanced Technologies, Limited †2 北陸先端科学技術大学院大学Japan Advenced Institute of Science and Technology
c)熟練設計者といえども自分の設計経験に基づいて指摘 するため見落としがあり得る。それを回避するには沢 山の熟練設計者にレビューしてもらう必要がある. 課題 b,c に対しては過去の製品の障害情報や熟練設計者 の指摘をデータベースに蓄積し活用するナレッジマネジメ ントシステム(KMS)が適用されている.[3] しかし,ナレッジマネジメントシステムを利用し膨大な 情報から目当ての障害情報を絞り込むためにキーワードの 文字を入力して検索する場合以下のような課題がある. ① 設計経験の少ない設計初心者の場合そもそもどんな キーワード使って検索すれば良いか判らない. ②組織や人によって方言があり使う言葉が統一されてい ない.また、障害情報にイメージを添付し文字による表 現を省略することがある. その結果キーワードで検索 できない場合がある. ③見つけ出した情報が多すぎてどれを選択したら良いか 判らない.
2. 従来のアプローチ
検討中の部品の 3D 形状に類似する形状関連する障害情 報を提示するアプローチを検討した.(Figure 1) Figure 1 3D 形状をキーに障害情報を検索するしくみ 形状をキーとした類似形状検索エンジンについては参 考文献[4]を応用し KMS に実装し社内障害情報と実際の製 品で使う部品の 3D 形状を利用して実用性を検証した.[5]情報処理学会 GN 研究会 WS2016
ⓒ2015 Information Processing Society of Japan
2
上記アプローチで利用した類似形状検索エンジンの性能を 評価した.評価手順は以下の通りである. 1)部品約 4,500 点のデータベースを用意 2)ある製品で利用する主要部品 6 種 148 点を検索キーと して上記 DB に形状検索をかけ類似度の高いもの上位 10 件を取得 3)上記 10 件について検索キーの形状と同じものを目視 で判定しその割合を算出 4)148 点の部品について 2,3 の操作を繰り返しその平均を 算出 評価の結果,類似形状検索のヒット率が約 40%であった. つまり検索する障害情報のうち半分以上は異なる部品に関 するものとなる.
3. 改善のアプローチ
近年,機械学習技術の発展に伴い Deep Learning を利用す ることで画像認識の精度が飛躍的に向上した結果が報告さ れた.[6]人間は部品を認識する場合,視覚情報を利用する. そこから画像情報を利用する Deep Learning の手法も人間 に 近 い 感 覚 で 認 識 で き る と い う 仮 説 の も と に Deep Learning を応用した類似形状検索エンジンを実装し評価し た. (Figure 2)Figure2 Deep Learning を応用した類似形状検索技術
類似形状検索の仕組みを説明する.STEP1 は 3D 形状か ら形状の特徴量を抽出する方法である.STEP2 は STEP1 で得られた形状の特徴量を使って類似度を判定する方法で ある. STEP1 の手順: 1)学習用 3D 形状から画像を作成する.その際,画像デー タの正規化も実施している. 2)作成した画像から DNN を利用して形状の特徴量を抽 出する 3) 予め検索対象となる全ての部品の形状の特徴量を STEP1 の手順を利用して作成し 3D モデル群の DB に 登録する STEP2 の手順: 1)検索キーとなる部品の特徴量を STEP1 の手順で抽出す る 3)検索キーと 3D モデル群の特徴量についてそれぞれ類 似度を計算し,検索結果として類似度の高い順に 類 似部品を提示する DNN を応用した結果,検索のヒット率が約 96%に改善し た(検索対象となる部品の母数:約 7,800 点).
4. おわりに
現在 DNN を利用した類似形状検索機能を運用評価中で あるが以下の課題が見えてきた. 1)類似度の適切なしきい値の指定が困難 前段で構造が変更される派生部品について述べたが, 開発する製品や部品の種類によってその変化の度合 いは変わってくる.つまりその部品が類似している/ していないという明確なしきい値は部品毎に異なり 一律で決めることができない. この場合は検索結果 に合わせて設計者が自由に類似度を変更できる仕組 みを準備する予定である. 2)部品のサイズを加味できない DNN を使う前提として画像サイズを正規化する必要 がある.つまりサイズの大きい部品でも小さい部品で も一様の画像サイズになるため類似の形状であると 判定される.しかし,設計において形状が類似してい てもサイズが異なる部品はまったく別の用途で使う 場合がある. この場合は類似度だけでなくサイズも 組合せて検索する仕組が必要となる.参考文献
1) 今野栄一,野崎直行,中村武雄,平等純子: クラウドベースの 次世代ものづくり開発プラットフォーム,雑誌富士通(Vol.67, No.3) pp. 19-25,2016. 2) 小野健二:「シミュレーションの精度と利用価値」, Motor Ring No.16, 自動車技術開, 2003 3) 設計の達人, Accela Technology4) Yuehong Wang, Rujie Liu, Takayuki Baba, Yusuke Uehara, Daiki Masumot and Shigemi Nagata: An Images-Based 3D Model Retrieval Approach, Lecture Notes in Computer Science, Advances in Multimedia Modeling, Volume 4903, 90-100,2008
5) 古本幸彦, 内田済, 有田祐一, 竹内一博: 共同設計における 製品情報共有の新たな試みについて(OS3-2 情報共有・教育), 生 産システム部門講演会講演論文集, pp. 51-52, 2008 6) ImageNet Classification with Deep Convolutional Neural Networks, A. Krizhevsky et al., NIPS2012