算額(その12) : 方内交斜三円術
著者名(日)
米山 忠興, 木下 宙
雑誌名
東洋大学紀要. 自然科学篇
号
52
ページ
87-96
発行年
2008-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002534/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja東洋大学紀要 自然科学篇 第52号:87−96(2008) 87
算額(その12)*
方内交斜三円術
米山 忠興**,木下 宙***Historical Japanese Geometry on Vbtive Tablets(12)
Three Circles and Two Oblique I.ines in Square ホ* *** Tadaoki YONEYAMA, Hiroshi KINOSHITA 図1 *平成19年度東洋大学特別研究(個人研究)「和算と算額の研究」の支援によって行なわれた. ・・自然科学研究室 〒112−8606 東京都文京区白山5−28−20 Natura1 Science Laboratory, Toyo University, 2&20 Hakusan 5, Bunkyo−ku, Tokyo,112−8606, Japan **・国立天文台名誉教授 〒181−8588 東京都三鷹市大沢2−21−1 Professor EmeritUs:National Astronomical Observatory,2−21−1 Mitaka£ity, Tokyo,181−8588, Japan88 米 山 忠 興 木 下 宙 1.方内交斜三円術 ここで採り上げる「方内交斜三円術」は,厳密には「算額」からの問題ではなく,「精 要算法巻之下』に載っている問題である. タイトル・ページのカラーの図1のように,正方形を2本の斜線で「適当に,うまく」 分割して,その各部分に大・中・小の三円を入れるとき(ただし一本の斜線(甲斜)は, 正方形の頂点を通る),三円径と正方形の大きさの関係は如何?ということである. ただし,甲斜・乙斜をいい加減にとると,あとの図4の矩形LCFHのようになって, カラー図1のようには小円が矩形の4つの辺に接することが出来ない. 東北大学の和算資料データベース:「和算ポータル」によれば,藤田定資著・安島直円 訂の『精要算法』は,上・中・下三巻の木版刷り刊本で,天明元年(1781年)の出版で あるが,下巻にある安島直円の「顕」は安永八年己亥(1779年)となっている.この問 題は,巻之下の17ページにもおよぶ「鉤股弦無奇」と「三斜及積無奇」の表のあとの第 二間である. 精要算法はこれまでもときどきは見ていたが,この問題にとくに注目したことはなかっ た.作家の鳴海風氏が和算家についての講演会を開くポスターにこの問題図を用いていた のを,木下が見つけて,問題を解き始めた. はじめは,とにかく解いてみようということで,解析幾何で強引に答えを出した. 最終的にユークリッド幾何で解くと,余りにも簡単に解けてしまったので,ここで紹介 するのを,躊躇したほどだった.しかし,以下のような理由で,簡単で,しかも非常にき れいな結果が出ているので,敢えてここで紹介することにした. ①大・中二円だけでも,甲斜と乙斜は必ず直交している. ②三辺が3:4:5の簡単なピタゴラスの三角形である. ③最後の(3つの円ではなくて)4つの円の大きさの比は,4:3:2:1である. ④高校数学のレベルで,十分に理解し,楽しむことが出来る. なお,上の③の一番小さい「第4の円」については,木下の高校の同級生:横田捷宏氏 の指摘による.
89 方内交斜三円術
[方内交斜三円術]
叱
精要算法
今有如圖方内隔甲乙斜容大中小圓
撫只云大中小圓径甲乙斜及方面六和
語間方面幾何
答日 方面一十二寸
術日置只云藪以︸+乗之以五+除之得方面合間
90
米山忠興 木下
宙 皿.解析幾何による解法 A(0, B(0,0)ax十by十e=0
C(1,0) 1 E ( ,0) 1−c まず,正方形ABCDの座標を上の図3のようにとる. y座標がマイナスになるのは,横 書き原稿の図としては描きにくいので,ここでは『精要算法』の図を90°回転して考える ことにする.問題図のような二斜線と三円が描けたとき,一つの頂点Aを通りDC上の 点F(1,c)で交わる直線(甲斜)と, BCの延長線上の交点をEとする. AABE, AFDA に内接する円の中心と半径をそれぞれ,01,02;r1, r2とする.AE:y=一(1−c)x+1
(1−c)x+y−1=0 1 y=0のとき,x= 1−cAF=1+(1−c)2−2−2c+c2≡d
AE2−1+(1」c)2−(1(こ三)詰1 d ∴AE= 1−c 三角形とその内接円の関係から, 号(1+1↓,+、ll−,)一}・f, c111
(2) (3)方内交斜三円術 91
1 (4)
「1=2_c+d
・,一(1−c)・1−,圭論. ⑤
また,2円:Olと02の共通外接線のうち, A(0,1)から遠い方(乙斜)を ax−1−bツ十e=0, (6) ただし,a2十b2=1 (7) とおく.すなわち α e (6)’y=一万x−b
よく知られているように,点(x。,y。)と直線:ax+by+e=0の距離は lax。+by。十el (8)工
で与えられるが,いま,2円は直線に関して同じ側にあるから,絶対値に拘わらず同符号 であればよい. {ar1十brl⊥e=rl
(9) (10) a(1−r9 +b(1−r9 +e−r2 (9)’ (a十b)rl−rl十e=0 { (10)’ (α斗b)(1− r2)−r2十e=0 これを(a+b),eの2元連立方程式として解く. (a十b)(rl十r2−1)=(rl−r2) a+b一昔言、−1+( 1−(1−c)1−c)一(2−c十d)一一S・ よって(9)から ・一{・一(・+b)}・1−{・+i}(,−i+d) c+d (11) (12) d(2−c十d)’ また,(11)と (7)から ・・+{−a−S/2−1 22α2+・弓+》−1−・
ここで,ず一1−♂}♂−c2 T(2ず+♂)−2(1、≒だから
a2{多・−1デー・
( 1α十一 d)(a−1デ)一・ (13)92
米 山 忠興 木下
宙 ・(a,b)一(−t,L7’),(1言6,−t) よって,醜(・)の傾きは一堰│、iil・一}, (14) (1 − c) (15) 1 2本の共通外接線のうち,傾きの大きい方は, 1−c’ (ここまでは,円03は関わっていないので,FはDC上の任意の点である.よって,こ の傾きは,Aを通る任意の直線と円Ol,円02の共通外接線の一つは,必ず直交している ことを示している.[あとの皿の二斜線の直交を参照.]) ・(a,・b)一(−t,L7−L’)・(16) 次に,円03を考える. 直線:ax+by+e=0と点03の距離も公式(8)で与えられるが,絶対値の中の符 号については,直線で区切られる2つの半平面のうち,原点(O,0)を含む方の半平面で は,eの符号と一致する.いま,(12)から, e>0で,03は原点と反対の半平面にある から,マイナスをとる.(以下も同様である.) a(1−r3)+b r3+e = −r3 , (17)mzi;
直線:AEと03の距離については,原点で絶対値の中がマイナスで,03も同じ半平面 にあるから, (1−c)(1−r,)+r、−1 = −r3・ (1−c)2十1 (17) ⇒ r3(1−a一トb)=一(a十e) (18)⇒r3(c十d)=c c(1−a十b)十(a十e)(c十d) =0 (19)にa,b, eを代入すると, c(1+7+Li’)+(一}+ (18) (17)’ (18)’ (19) d(c十d2−c十d))(c+d)−o c(2−c十d)2十(c+d){(c十d)一(2−c+d)}=O c{(2−c)2十2d(2−c)十d2}十(c十d)・2(c−1)=O cd2十2d{(2c−c2)十(c−1)}十c{(c2−4c十4)十(2c−2)}=O cd2十2d(−c2一ト3c−1)十c(c2−2c十2)=0 2c d2=2d(c2−3c十1) cd=(c2−3c一ト1) 両辺を2乗して,方内交斜三円術 c2i2−2c十c2)=(c2−3c十1)2 2c2−2c3→−c4=c4十9c2十1−6c3十2c2−6c 4c3−9c2十6c−1=0 (c−1)2(4c−1)=O
c≠1⇒c=1.
4 このcを用いて, (・)⇒d−1+(・一・)・一・+(量)2一 旦 (・)⇒肥一、ll−i−÷一丁 丁またm・−1,BE−iだから
AB:BE:AE=3:4:5. 1 (4)⇒「1=2_,+d= 1 _1 2_旦+」Σ 3 4 4 (・)⇒・・一(1−・)・・−i十} 旦(・8)’⇒・・一☆、4,;・
一十 4 45丁
= 2 3 十 2 4 2 4 9394 米 山 忠 興 木 下 宙 皿.Euclid的解法 [二斜線(甲斜・乙斜)の直交]
A
B LD
C E 正方形ABCDの一つの頂点Aを通り, DC上の任意の点Fで交わる直線と, BCの延長 線上の交点をEとする.AABE, AFDAに内接する円の中心をそれぞれ01,02とする. AO 1の延長とBCの交点をLとし, LからAEに垂線をおろし,その足をHとし,さら にその延長線とDCの交点をMとする. AABLと∠IAHLにおいて,∠ABL=∠AHL=∠R,∠BAL=∠HALだから,残りの ∠ALB=∠ALHであり, ALは共通だから, AABL≡AAHL. よって,円01はBLと接しているから, HLとも接しているはず.また, AB=AH.次に2点AとMを結んで,AADMとAAHMを考える.∠ADM=∠AHM=∠R,
AD=AB=AH, AMは共通だから,鉤股弦の定理により, DM=HM. よって,△ADM≡△AHM. 円02はDMと接しているから, HMとも接している. (さらに,02はAM上にある.) ゆえに,円Oi,円02の共通接線であるLMは, AEと直交している. しかし,たとえば上の図4のような点Fをとると,矩形LCFHの4辺すべてに内接す る円は描けないが,点Fをうまくとると次の図5のように,4辺すべてに内接する円を描 くことが出来る.方内交斜三円術 95 [三円径]