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取締役の法令遵守義務および体制整備に関する監視義務違反について 利用統計を見る

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(1)

取締役の法令遵守義務および体制整備に関する監視

義務違反について

著者

井上 貴也

著者別名

Takaya INOUE

雑誌名

東洋法学

57

2

ページ

99-106

発行年

2014-01-15

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00006472/

(2)

《 商事法研究会報告 (第 7 回) 》

取締役の法令遵守義務および体制整備に関す

る監視義務違反について

井上   貴也   平成二五年五月八日広島地裁民事第三部判決、平成二三年 (ワ) 第 一 三 七 一 号 損 害 賠 償 請 求 事 件 (第 一 事 件) 、 平 成 二 三 年 (ワ) 第 一 七 八 七 号 損 害 賠 償 請 求 事 件 (第 二 事 件) 、 平 成 二 三 年 (ワ) 第 一 九 六 二 号 損 害 賠 償 請 求 事 件 (第 三 事 件) 、 平 成 二 三 年 (ワ) 第 二 一 八 二 号 損 害 賠 償 請 求 事 件 (第 四 事 件) 、 平 成 二 四 年 (ワ) 第 五 四 二 号 損 害 賠 償 請 求 事 件 (第 五 事 件) 、 第一事件~第五事件各請求棄却【控訴】 1 、事案の概要   X (原 告) ら は、 武 富 士 と の 間 で 金 銭 消 費 貸 借 取 引 を 継 続 し て き た 者 お よ び 相 続 人 で あ り、 Y ら (被 告) は、 武 富 士 の 代表取締役であった者である。武富士は、平成二二年九月に 会社更生手続を申し立て、同年一〇月三一日に会社更生手続 開始決定がされた。   本件は、Xらが、Yらに対し、利息制限法違反となるよう な利息請求を継続し、金銭消費貸借取引に基づいて発生する 過 払 金 の 額 を 増 大 さ せ た こ と は、 会 社 法 四 二 九 条 (役 員 等 の 第 三 者 に 対 す る 損 害 賠 償 責 任) の 悪 意・ 重 過 失 に よ る 職 務 執 行 に当たると主張した。   X ら は、 責 任 原 因 (会 社 法 四 二 九 条 一 項 の 要 件 該 当 性) と し て、①Yらの利息制限法を遵守させる任務の懈怠、②みなし 弁 済 が 成 立 す る 体 制 整 備 に 関 す る 監 視 義 務 の 懈 怠、 ③ 法 律 的・事実的根拠を欠く請求を顧客に対し行わないようにする 社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を主張し、Yらはこ れを争った。 ・平成一六年四月    法 律 的・ 事 実 的 根 拠 を 欠 い て い た に も か か わ ら ず Y ら は こ れ を 改 め ず、 顧 客 か ら 制 限 利息を超える利率を受領   ・平成二二年九月二八日    会社更生手続申立て   ・平成二二年一〇月三一日   会社更生手続開始決定 2 、判旨 ( 1 )  利息制限法を遵守させる任務の懈怠を理由とする責任   取締役は会社に法令を遵守させることが任務に含まれると ころ、貸金業を営む武富士の取締役であったYらは利息制限 法および貸金業法を武富士に遵守させることが任務の内容で あった。そして、Yらが取締役であった平成一六年四月の時 点で、武富士の顧客に対する制限超過部分の請求の中にみな

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し弁済が成立せず、貸金業法・利息制限法に違反する状態の ものがあった。しかし、その時点で、過払金返還請求をして いない顧客に利息制限法所定の制限利率を適用するための引 き 直 し 計 算 を 行 う に は、 法 律 上・ 事 実 上 の 様 々 な 問 題 が あ り、著しい困難があったから、Yらに引き直し計算を行うべ き法的義務は認められず、利息制限法を遵守させる任務を懈 怠したとはいえない。 ( 2 )  みなし弁済が成立する体制整備に関する監視義務の懈 怠を理由とする責任   Yらには引き直し計算を行うべき法的義務は認められない から、これを前提とする貸付額の再計算措置をとるべき任務 があったとはいえない。顧客から受け取る利息を利息制限法 所定の制限利率に変更することも引き直し計算を行うことが 必要であり、その他みなし弁済が成立する体制を構築・整備 するためには、引き直し計算が必要である以上、それがYら の任務になっていたとはいえない。 ( 3 )  顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わな いような社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を理由 とする責任   武富士が、顧客の中にみなし弁済が成立しない者が含まれ ていることを認識していたとしても、貸付元本が残っている 限り、制限超過部分は貸付元本に充当されるから、上記の認 識 だ け で、 制 限 超 過 部 分 の 請 求 が そ の 総 額 に お い て、 法 律 的・事実的根拠を欠くことにはならない。   法律的・事実的根拠を欠く請求か否かは、引き直し計算を しなければ判明しないところ、当時、武富士が引き直し計算 をしていた事情は認められず、Yらがそうした認識を形成す る余地はないから、法律的・事実的根拠を欠く請求を行わな いよう体制を整備すべき義務を負っていたとはいえない。ま た、引き直し計算を行うべき法的義務は認められないから、 これを内容とする体制構築義務も存在しない。 3 、本判決の意義   本判決は、利息制限法違反の利息請求を継続した貸金業を 営む会社の取締役における法令遵守義務および体制整備に関 する監視義務違反の有無について、消極に解したケースであ り、事例判決としての意義が認められる。   本件は、経営破綻した消費者金融大手「武富士」から過払 い金が返還されなかったとして、広島市などに住む約一五〇 名が元社長ら三名人に、計約二億一千万円の損害賠償を求め た 訴 訟 の 判 決 で あ ( 1) る 。 原 告 側 弁 護 ( 2) 団 に よ る と、 「武 富 士 の 責 任を追及する全国会議」として、二〇一二年一二月までに、 四 〇 都 道 府 県 の 約 二 七 〇 〇 人 が 計 六 三 億 円 の 損 害 賠 償 を 求 め、全国一八地裁・支部で同様の訴訟を起こしており、一連

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の訴訟では初の判決となっ ( 3) た 。   争点は、①Yらの利息制限法を遵守させる任務の懈怠を理 由とする責任の有無、⑦みなし弁済が成立する体制整備に関 する監視義務の懈怠を理由とする責任の有無、③法律的・事 実的根拠を欠く請求を顧客に対し行わないような社内の体制 整備に関する監視義務の懈怠を理由とする責任の有無等であ り、利息制限法違反の利息請求を継続した貸金業を営む会社 の取締役における法令遵守義務および体制整備に関する監視 義務違反の有無が、争われた事案である。   ①の利息制限法を遵守させる任務の懈怠は、取締役の善管 注意義務違反の有無をいうものであり、②・③は、取締役の 監視義務違反を問うものである。 ①利息制限法を遵守させる任務の懈怠について   ま ず、 裁 判 所 は、 「株 式 会 社 の 取 締 役 の 任 務 に は、 会 社 に 法令を遵守させることが当然含まれるものであり、利息制限 法及び貸金業法は、貸金業を営む会社を名宛人として、会社 が そ の 業 務 を 行 う に 際 し て 遵 守 す べ き 規 範 を 定 め て い る か ら、その遵守は当然に貸金業を営む武富士の取締役であった 被 告 ら の 任 務 の 内 容 で あ っ た と い う こ と が で き る」 と 判 示 し、貸金業を行う取締役の任務を明示した。   本 件 は、 会 社 法 四 二 九 条 (旧 商 法 二 六 六 条 ノ 三) の 規 定 に いう取締役の対第三者責任に関するものである。第三者に対 する損害賠償責任を発生させる取締役・執行役の行為には、 取締役・執行役の職務と無関係な行為は含まれないことは明 ら か で あ る ( 4) が 、 会 社 法 四 二 九 条 一 項 は、 「職 務 を 行 う に つ い て」 と す る の み で、 そ の 具 体 的 内 容 を 定 め て い な い。 こ の 点、取締役・執行役の善管注意義務 (会社法三三〇条、旧商法 二 五 四 条 三 項、 民 法 六 四 四 条) と 忠 実 義 務 (会 社 三 五 五 条、 旧 二 五 四 条 ノ 三) を 前 提 と し、 悪 意 又 は 重 大 な 過 失 に よ り 同 義 務に違反した場合、任務懈怠行為として、商法二六六条ノ三 第一項〔会社四二九条一項〕による責任の対象される。この 任務懈怠行為は会社に対するものであると解されてい ( 5) る 。   取締役の第三者責任に関する直接損害型の任務懈怠の裁判 例としては、会社の資金繰りが悪化した時期に、返済見込み のない金銭借入れ、代金支払見込みのない商品購入等、決済 見込みのない手形振出し等を行ったことにより、契約相手方 である第三者が損害を被る場合があげられ ( 6) る 。この他、他人 物売買による商品引渡義務の不履行の事 ( 7) 例 、債務不履行によ る解除がなされた場合の手付金倍額及び中間金相当額返還義 務不履行の事 ( 8) 例 等が代表例であり、直接の法令違反というよ りは、取締役の負っている善管注意義務との関係で任務懈怠 を論じられたケースが数多く見受けられるところである。   取締役がその業務を遂行するにあたり自ら各種法令を遵守 する義務を負うことは当然のことと考えられてい ( 9) る 。会社法 においても「取締役は、法令…を遵守し、株式会社のため忠

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実にその職務を行わなければならない」と法文上定められて いる。この取締役の法令遵守義務がすべての法令に及ぶと考 え る こ と に つ い て は、 主 に、 商 法 二 六 六 条 一 項 五 号 に い う 「法 令」 の 範 囲 を め ぐ っ て 議 論 さ れ て き た。 す な わ ち、 取 締 役がその職務を遂行するにあたり遵守すべき「法令」にはあ らゆる法令が含まれる ( 10) か 、会社や株主の利益保護のために設 けられた規定および当該会社の取締役にとって公序と考えら れる規定に限定され ( 11) る と解するべきか、という問題である。 この点については、法令遵守義務は注意義務の一内容として 理解するべきであり、特に「法令」の範囲を限定せず、当該 法令への違反が取締役としての注意義務に違反すると考えら れる場合に取締役の会社に対する損害賠償責任を認めるべき との見 ( 12) 解 も示されている。   取締役の第三者に対する責任に関しては、取締役の任務懈 怠の射程距離を膨張させないために、法令遵守義務は、あく ま で「会 社 の た め」 、 す な わ ち、 会 社 の 利 益 の た め に、 ま た は会社に損害を与えないために負う義務として解するべきで あるとの見解が示されている。このような立場によれば、取 締役の第三者に対する責任との関係でも、取締役の「任務懈 怠」の有無について判断するにあたっては、当該法令違反行 為により会社の利益が害され、会社に損害を与えたかがその 判断基準となるであろ ( 13) う 。   取締役の違法行為に対する「認識」については、昭和四四 年判決に鑑み、取締役に対して、法令違反による第三者への 加害行為に対する故意または過失とは別に、当該法令違反行 為が会社に対する任務懈怠となることへの故意または過失を 要するとの見解が示されてい ( 14)( 15) る 。   本判決は、利息制限法・貸金業法を遵守するためには、平 成一六年四月の時点で、過払金返還請求をしていない顧客に 利息制限法所定の制限利率を適用するための引き直し計算を 行うことが必要であったが、引き直し計算を行うには、法律 上・ 事 実 上 の 様 々 な 問 題 が あ り、 著 し い 困 難 が あ っ た と し て、Yらに引き直し計算を行うべき法的義務はなく、法令遵 守義務違反もないと評価した。   相当程度の規模をもつ会社における取締役の対第三者責任 において、法令遵守をその職務として位置付けた点は評価で きる。   取締役の善管注意義務違反は規範的評価であ ( 16) る 。引き直し 計算を行うべき法的義務の存否は、体制構築・整備に関する 監視義務にも影響を及ぼす。 ②みなし弁済が成立する体制整備に関する監視義務の懈怠を 理由とする責任、および ③法律的・事実的根拠を欠く請求を顧客に対し行わないよう な社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする責 任について

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  Xらは、一種の内部統制システムの整備に関する主張を展 開したが、本判決は、取締役の体制構築・整備に関する監視 義務もないとの判断を示している。   取締役の対第三者責任が問題とされた事例は、従来、小規 模な会社の事案に多くみられたが、最近では大規模な有名企 業が当事者となるケースも見受けられるところである。本判 決は、東京証券取引所に上場していた株式会社の取締役の監 視・監督義務が問われた事案である。   会社法では、大会社を中心として、一定の場合に管理体制 構築義務を明文で定められている。このようなシステム構築 により、取締役の監視義務の範囲は限定されるのか、ひいて は第三者責任の範囲が限定されるのかが課題となる。   監 視・ 監 督 義 務 の 内 容 を 客 観 的・ 分 析 的 に 判 断 す る 上 で は、対第三者責任に関する事例についても、対会社責任の監 視監督義務のアプローチと同様に考えてもよいと解す ( 17) る 。   分離保管義務違反等により行政処分を受け破綻した商品先 物取引会社の行った商品先物取引について違法が認められ当 該会社が損害賠償義務を負う場合の改正前商法二六六条ノ三 に基づく代表取締役ないし取締役の責任の有無を問われた事 案 に つ い ( 18) て 、 東 京 地 方 裁 判 所 は、 「証 券 市 場 に お い て 上 場 さ れている公開会社等、ある程度の規模の会社においては、会 社の業務活動が広範囲にわたり、取締役の担当業務も専門化 されていることから、取締役が、自己の担当以外の分野にお いて、代表取締役や当該担当取締役の個別具体的な職務執行 の状況について監視を及ぼすことは事実上不可能であり、違 法な職務執行が行われていたことのみをもって、各取締役に 監視義務違反があったとすることは、いわば結果責任を強い るものであり、本来の委任契約の債務内容にも反するもので あって相当ではない。そこで、このような取締役の監視義務 の履行を実効あらしめ、かつ、その範囲を適正化する観点か ら、個々の取締役の職務執行を監督すべき取締役会が、個々 の取締役の違法な職務執行をチェックしこれを是正する基本 的な体制を構築すべき職責を有しており、これを前提に、会 社の業務執行に関する全般的な監督権限を有する代表取締役 と当該業務執行を担当する取締役が、その職務として、内部 管 理 体 制 を 構 築 し、 か つ、 そ の よ う な 管 理 体 制 に 基 づ き、 個々の取締役の違法な職務執行を監督監視すべき一次的な職 責を担っていると解すべきであり、その他の取締役について は、取締役会において上程された事項ないし別途知り得た事 項に限って、監督監視すべき義務を負うと解すべきである。 そして、代表取締役については、原則として、その職務は会 社の業務執行全般に及ぶと解するのが相当であるところ、業 務や権限について、特定範囲に限定されていたと認められる ような場合を除いて、当該代表取締役は、会社業務全般につ いて監督監視すべき義務を負い、その場合には、全く関知し 得ない状態において行われたなどの特段の事情のない限り、

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任務懈怠について、故意又は重過失を免れないというべきで ある」と判示した。   東京地裁は、会社の業務執行に関する全般的な監督権限を 有する代表取締役については監視監督業務を肯定したが、担 当業務が営業部であったことを理由に任務懈怠責任が否定し ている。この点については、大規模な会社の代表取締役に、 小規模会社におけると同じように、人的な属性を考慮してい ることに問題があ ( 19) る とする見解もある。   対会社責任関する内部統制システムの整備に関する裁判例 と し て は、 「株 式 会 社 の 従 業 員 ら が 営 業 成 績 を 上 げ る 目 的 で 架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載が され、株主が損害を被ったことにつき、会社の代表者に従業 員らによる架空売上げの計上を防止するためのリスク管理体 制構築義務違反の過失がないとされた事例」があ ( 20) る 。   最 高 裁 は、 「株 式 会 社 の 従 業 員 ら が 営 業 成 績 を 上 げ る 目 的 で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載 が さ れ、 そ の 後 同 事 実 が 公 表 さ れ て 当 該 会 社 の 株 価 が 下 落 し、 公 表 前 に 株 式 を 取 得 し た 株 主 が 損 害 を 被 っ た こ と に つ き、次の( 1)~( 3)などの判示の事情の下では、当該会 社の代表者に、従業員らによる架空売上げの計上を防止する ためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があ る と は い え な い。 ( 1) 当 該 会 社 は、 営 業 部 の 所 属 す る 事 業 部門と財務部門を分離し、売上げについては、事業部内の営 業部とは別の部署における注文書、検収書の確認等を経て財 務部に報告される体制を整えるとともに、監査法人および当 該会社の財務部がそれぞれ定期的に取引先から売掛金残高確 認書の返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとする など、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止 し 得 る 程 度 の 管 理 体 制 は 整 え て い た。 ( 2) 上 記 架 空 売 上 げ の計上に係る不正行為は、事業部の部長が部下である営業担 当者数名と共謀して、取引先の偽造印を用いて注文書等を偽 造し、これらを確認する担当者を欺いて財務部に架空の売上 報告をさせた上、上記営業担当者らが言葉巧みに取引先の担 当者を欺いて、監査法人等が取引先あてに郵送した売掛金残 高確認書の用紙を未開封のまま回収し、これを偽造して監査 法人等に送付するという、通常容易に想定し難い方法による も の で あ っ た。 ( 3) 財 務 部 が 売 掛 金 債 権 の 回 収 遅 延 に つ き 上記事業部の部長らから受けていた説明は合理的なもので、 監査法人も当該会社の財務諸表につき適正意見を表明してい た」というものである。この判例は、株式会社の従業員らが 営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証 券報告書に不実の記載がされたというもので、違法性の度合 いは大きいが、通常想定される架空売上げの計上等の不正行 為を防止し得る程度の管理体制は整えていたこと、本件以前 に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど本 件不正行為の発生を予見すべき特別の事情が見当たらないこ

(8)

とから、システム構築義務違反がないとしたものであ ( 21) る 。   本判決は、一般的な取締役の体制整備義務の存否について は判示していない。しかし体制構築義務を否定するものでは ないと解せられる。   本判決では、Xらの主張する法律的・事実的根拠を欠く請 求を行わないような社内の体制構築・整備に関する監視義務 は、法律的・事実的根拠を欠く請求か否かは、引き直し計算 をしなければ判明しないところ、本件では、引き直し計算を 行うべき法的義務がないことから、それを前提とする監視・ 監督義務違反は発生しないと結論づけている。   本事案は、原告は二一億円の支払を求めたものであるが、 対第三者責任の場合においても対会社責任のケースと同様に 取締役の責任軽減も考えられようが、対第三者責任では悪意 ま た は 重 過 失 が 要 件 で あ り (会 社 法 四 二 九 条) 、 特 段 の 事 由 が 認められない限り、責任軽減を考慮する必要はないものと解 する。 註 ( 1)   日本経済新聞   二〇一三年五月五日朝刊、三九頁。 ( 2)   「武 富 士 の 責 任 を 追 及 す る 全 国 会 議」 ブ ロ グ http://blog.livedoor. jp/takehuji/ 。 ( 3)   日 本 経 済 新 聞   二 〇 一 三 年 三 月 二 九 日 朝 刊、 四 二 頁。 創 業 家 な ど へ の 配 当 金 返 還 請 求、 会 社 更 生 手 続 き 中 の T F K(旧 武 富 士) の 管 財 人 が、 株 主 だ っ た 創 業 家 と 関 連 法 人 に 対 し、 配 当 金 約 一 二 九 億 四 千 万 円 の 返 還 を 求 め た 訴 訟 の 判 決 で、 東 京 地 裁 は 二 八 日、 請 求 を 棄 却 し た。 管 財 人 側 は、 武 富 士 が 顧 客 の 過 払 い 金 を 収 益 に 計 上 し て 配 当 し て い た と し て、 利 息 制 限 法 の 上 限 を 超 え る 金 利 を 原 則 否 定 し た 二 〇 〇 六 年 の 最 高 裁 判 決 以 降 の 七 年 三 月 期 ~ 一 〇 年 三 月 期 に つ い て 配 当 金 の 返 還 を 求 め て い た。 創 業 家 お よ び 関 連 法 人 が 多 額 の 資 産 を な お 有 し て い る と の こ と か ら、 債 権 者 に よ る 取 締 役 の 対 第 三 者 責 任 追 及 の 途 も 可 能 で あ っ た が、 通 常 の 会 社 取 締 役 の 場 合 に は 対 第 三 者 責 任 に よ る 追 及 は 希であると思われる。 ( 4)   東 京 地 方 裁 判 所 商 事 研 究 会 編『類 型 別 会 社 訴 訟 Ⅰ〔第 三 版〕 』 三二七頁(判例タイムズ社、二〇一一年) 。 ( 5)   最 大 判 昭 四 四 年 一 一 月 二 六 日 民 集 二 三 巻 一 一 号 二 一 五 〇 頁、 判 時 五七八号三頁、判夕二四三号一〇七頁。 ( 6)   最大判・前掲註( 5)判例。 ( 7)   東京高判昭和五六年五月二七日判時一〇〇九号一二五頁。 ( 8)   東京高判平成七年一〇月二四日金判一〇〇六号一四頁。 ( 9)   神 崎 克 郎「会 社 の 法 令 遵 守 と 取 締 役 の 責 任」 曹 時 三 四 巻 四 号 一 五 頁。 吉 原 和 志「法 令 違 反 行 為 と 取 締 役 の 責 任」 法 学 六 〇 巻 一 号 一 六 頁 (東北大学) 。 ( 10)   最判平成一二年七月七日民集五四巻六号一七六七頁。 ( 11)   近 藤 光 男「取 締 役 の 経 営 上 の 過 失 と 会 社 に 対 す る 責 任」 金 法 一三七二号一〇~一一頁。 ( 12)   吉原・前掲註( 9)論文・三五頁。 ( 13)   吉 川 義 春『取 締 役 の 第 三 者 に 対 す る 責 任』 六 三 頁(日 本 評 論 社、 一九八六年) 。 ( 14)   吉原・前掲註( 9)書一七~一九頁。 ( 15)   龍 田 節『注 釈 会 社 法( 6)』〔上 柳 克 郎 他 編〕 三 二 八 ~ 三 二 九 頁 (有斐閣、一九八七年) 。 ( 16)   岡 伸 浩 = 島 岡 大 雄「役 員 責 任 追 及 訴 訟」 島 岡 大 雄 ほ か 編『倒 産 と 訴訟』二四五頁(商事法務、二〇一三年) 。

(9)

( 17)   和 田 宗 久「代 表 取 締 役 等 の 内 部 シ ス テ ム 構 築・ 運 用 義 務 と 対 第 三 者責任」金判一二八三号九~一六頁。 ( 18)   東 京 地 判 平 成 一 九 年 五 月 二 三 日 金 判 一 二 六 八 号 二 二 頁。 評 釈 に つ い て は、 和 田 宗 久・ 金 判 一 二 八 三 号 九 ~ 一 六 頁、 神 吉 正 三・ 龍 谷 法 学 四 三 巻 一 号 二 八 五 ~ 三 一 七 頁、 山 野 加 代 枝「取 締 役 の 対 第 三 者 責 任 と 内部統制システム」阪南論集四四巻二号一〇三~一一五頁。 ( 19)   和田・前掲註( 17)書、一二頁。 ( 20)   最 一 判 平 成 二 一 年 七 月 九 日 金 判 一 三 二 一 号 三 六 頁、 一 三 三 〇 号 五五頁。 ( 21)   佐 藤 丈 文「会 社 法 の 内 部 統 制 シ ス テ ム と 実 務 上 の 課 題」 岩 原 紳 作 = 小 松 島 志 編『会 社 法 施 行 五 年 理 論 と 実 務 の 現 状 と 課 題』 五 〇 頁(有 斐閣、二〇一一年) 。  (いのうえ・たかや   東洋大学法学部教授)

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