Title カニクイザルの精巣毒性モデル構築及び精巣毒性に関連するmiRNAに関する研究( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 櫻井, 健 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 乙第148号 Issue Date 2016-09-26 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/55525 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
学位論文の内容の要旨 薬物治療による精巣毒性は,男性不妊に直結する最も重篤な副作用の一つである。この ため医薬品開発時の非臨床安全性試験においては,ヒトへの外挿性が高い実験動物を用い た精巣毒性の評価系を確立することが急務となっている。非臨床安全性試験に用いられる 非げっ歯類のうち,カニクイザルは最も汎用される動物種であり,かつ様々な生理学的特 性がヒトに近いことが知られている。このことからカニクイザルを用いた非臨床安全性試 験は,ヒトへの外挿性が高い試験系となる可能性が期待されている。しかしながら薬物誘 発性精巣毒性の評価系にカニクイザルを用いた研究報告は少なく,またカニクイザルにお ける精巣毒性を評価するためのバイオマーカーも未だ特定されていないのが現状である。 本研究は,カニクイザルを用いた薬物誘発性精巣毒性モデルの確立を試みたとともに,毒 性関連バイオマーカーとしての microRNA(miRNA)に着目し,カニクイザルの精巣毒 性に関連するmiRNA の特定を試みたものである。 第一章では,カニクイザルのmiRNA の塩基配列及び精巣特異的 miRNA の特定が試み られた。カニクイザルの精巣を含めた主要7 臓器(心臓,肺,空回腸,肝臓,脾臓,腎臓, 及び精巣)を材料とし,次世代シークエンス解析が実施されたところ,精巣特異的に発現 する 4 種の miRNA(miR-34c-5p,miR-202-5p,miR-449a,及び miR-508-3p)が特定 された。また前述した4 種の miRNA について塩基配列解析が実施されたところ, miR-508 ではヒト相同遺伝子とのミスマッチがわずか 2 塩基であったのに対し,その他の miRNA についてはヒト相同遺伝子と塩基配列が 100%一致していた。このことから,カニクイザ ルにおける精巣特異的なmiRNA の発現解析を実施する目的で,ヒト miRNA の解析手法 をそのまま利用できることが示された。また前述した4 種の miRNA が,精巣毒性を評価 するためのバイオマーカー候補となる可能性が示された。
第二章では,精巣毒性の代表的な物質である ethylene glycol monomethyl ether (EGME)をカニクイザルに投与し,前述した miRNA が精巣毒性を反映したバイオマー 氏名(本(国)籍) 櫻 井 健(千葉県) 推 薦 教 員 氏 名 東京農工大学 准教授 西 藤 公 司 学 位 の 種 類 博士(獣医学) 学 位 記 番 号 獣医博乙第148号 学 位 授 与 年 月 日 平成28年9月26日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第2項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合獣医学研究科 獣医学専攻 研究指導を受けた大学 東京農工大学 学 位 論 文 題 目 カニクイザルでの精巣毒性モデル構築及び精巣毒性に関 連する miRNA に関する研究 審 査 委 員 主査 東京農工大学 准教授 西 藤 公 司 副査 帯広畜産大学 教 授 古 林 与志安 副査 岩 手 大 学 教 授 佐 藤 洋 副査 東京農工大学 准教授 佐々木 一 昭 副査 岐 阜 大 学 教 授 村 瀬 哲 磨 (4)
カーとなるかについて検討が行われた。EGME を投与したカニクイザルについて,精巣毒 性の有無を病理組織学的に解析されたと共に,前述したmiRNA 発現の変動を確認するた め miRNA マイクロアレイ解析および RT-qPCR 解析が実施された。その結果,病理組織 学的には精母細胞及び円形精子細胞の消失が認められたと共に, 分子生物学的解析では miR-34/449 ファミリーに属する miR-34c-5p 及び miR-449a を含んだ miRNA の発現量が 精巣中において低下していたことが確認された。一方で血中においては,EGME 投与によ るmiRNA 発現量の上昇は認められなかった。以上の結果より,カニクイザルにおける薬 剤誘発性精巣毒性を示唆する精巣バイオマーカーとして,miR-34/miR-449 ファミリーが 有力な候補となる可能性が示唆された。 第三章では,EGME モデルで確認された精巣中 miRNA の変動が,薬物以外による精 巣毒性を同様に反映するかを確認するため,カニクイザルに精巣温浴を施して精巣毒性モ デルを作出した後に,精巣中における病理組織学的変化及びmiRNA 発現量の変動につい て解析が行われた。その結果,病理組織学的には精母細胞及び円形精子細胞,伸張精子細 胞数の減少が認められ, また miR-34c-5p 及び miR-449a を含む miRNA の発現量が精巣 中において低下していた。以上の結果より,miR-34/miR-449 はカニクイザルにおける精 巣毒性を反映した有力なバイオマーカーの候補であると共に,精巣毒性の発症機序を解明 するための有用なツールとなる可能性が示唆された。 以上の一連の成果より,カニクイザルを用いた薬剤誘発性精巣毒性モデルが初めて確立さ れたと共に,同モデルにおける精巣毒性を反映したバイオマーカーとしてのmiRNA の発 現解析が可能となった。また,カニクイザルの精巣中におけるmiRNA 発現解析を実施す ることで,精細胞障害を反映する分子学的変化を検出できる可能性が示された。特に miR-34/449 ファミリーに属する miRNA については,精細胞障害及びアポトーシスとの 関連が強く示唆されていることから,同分子の発現解析がカニクイザルにおける薬物誘発 性精巣毒性の発生機序を解明する際の有用なツールとなる可能性が示唆された。 審 査 結 果 の 要 旨 本論文は,非臨床安全性試験における薬剤誘発性精巣毒性のリスク評価のための手法と して,生理学的特性がヒトに近いカニクイザルを用いて,薬剤誘発性精巣毒性モデルの構 築を試みたと共に,カニクイザルの精巣毒性に関連するmicroRNA (miRNA) を初めて網羅 的に解析したものである。 第一章では,カニクイザルの精巣毒性を評価するためのバイオマーカーとして,精巣特 異的な miRNA の塩基配列解析を実施した。その結果,カニクイザルの精巣に特異的な miRNA の塩基配列は,一部の miRNA を除いてヒト相同遺伝子の塩基配列と一致している ことから,ヒトのmiRNA 解析手法を用いてカニクイザルの miRNA 解析を実施することが 可能であることを示した。さらに各miRNA の発現量を臓器別で比較し,4 種の miRNA が カニクイザルの精巣毒性を評価するためのバイオマーカー候補となる可能性を示した。
第二章では精巣毒性の代表的な物質であるethylene glycol monomethyl ether(EGME)を カニクイザルに投与し,精巣毒性の有無ならびに上述のmiRNA の変動について解析した。 その結果,精母細胞及び円形精子細胞の消失を特徴としたホルモン非依存的な精巣毒性モ デルをカニクイザルにおいて再現することに成功し,また精母細胞及び精子細胞に高発現 することが報告されている miR-34/449 ファミリーの発現量が精巣中において低下してい ることを示した。この事実に基づき,同 miRNA がカニクイザルにおける薬剤誘発性精巣 毒性の有力なバイオマーカーとなる可能性を提唱した。 第三章では,前述したmiR-34/449 ファミリーの変動が EGME 投与に特異的な変化であ
るかを解析するため,精巣温浴による精巣毒性モデルをカニクイザルにおいて構築し,前 述した miRNA の変動について解析を行った。その結果精巣温浴モデルでは,精母細胞及 び 精 子 細 胞 数 の 減 少 を 特 徴 と す る ホ ル モ ン 非 依 存 的 な 精 巣 毒 性 が 惹 起 さ れ , か つ miR-34/miR-449 の発現低下が認められた。上記の事実から,miR-34/449 ファミリーがカニ クイザルにおける精母細胞及び精子細胞の障害を反映した有力なバイオマーカーの候補で あり,精巣毒性の発症機序を解明するための有用なツールとなることが示唆された。 上述の一連の成果は,カニクイザルを用いた薬剤誘発性精巣毒性モデルを初めて確立し たものであったともに,miR-34/449 ファミリーの発現解析を実施することが,カニクイザ ルにおける薬剤誘発性精巣毒性の発生機序を解明する上での一助となることを初めて明ら かにするものであった。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論 文として十分な価値があると認めた。 基礎となる学術論文
1)題 目: MicroRNA profiling in ethylene glycole monomethyl ether-induced monkey testicular toxicity model
著 者 名: Sakurai, K., Mikamoto, K., Shirai, M., Iguchi, T., Ito, K., Takasaki, W. and Mori, K.
学術雑誌名: The Journal of Toxicological Sciences 巻・号・頁・発行年:40(3):375-382,2015
2)題 目: MicroRNA profiles in monkey testicular injury model induced by testicular hyperthermia
著 者 名: Sakurai, K., Mikamoto, K., Shirai, M., Iguchi, T., Ito, K., Takasaki, W. and Mori, K.
学術雑誌名: Journal of Applied Toxicology 巻・号・頁・発行年:In Press
既発表学術論文
1)題 目: Occurrence of headless sperms in adolescent rat urine
著 者 名: Shimomura, K., Sakurai, K., Shimada, M., Hagiwara, M., Kato, M. and Furuhama, K.
学術雑誌名: Laboratory Animals 巻・号・頁・発行年:42:204-212,2008
2)題 目: Decrease in protein binding and its effect on toxicokinetics (TK)/toxicodynamics (TD) of diclofenac and propranolol in pregnant rats 著 者 名: Miida, H., Noritake, Y., Shimoda, H., Honda, K., Matsuoka, T., Sakurai, K.,
Shirai, M., Manabe, S., Takasaki, W. and Ueno, K. 学術雑誌名: The Journal of Toxicological Sciences
巻・号・頁・発行年:33(5):525-536,2008
3)題 目: Collaborative work on evaluation of ovarian toxicity 8) Two- or four-week repeated-dose studies and fertility study of Anastrozole in female rats
Sanbuissho, A. and Manabe, S.
学術雑誌名: The Journal of Toxicological Sciences 巻・号・頁・発行年:34:SP91-SP99,2009
4)題 目: Estimation of glomerular filtration rate in cynomolgus monkeys (Macaca fascicularis)
著 者 名: Iwama, R., Sato, T., Sakurai, K., Takasuna, K., Ichijo, T., Furuhama, K. and Satoh, H.
学術雑誌名: The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:76(10):1423-1426,2014
5)題 目: Investigation of the teratogenic potential of VLA-4 antagonist derivatives in rats
著 者 名: Sakurai, K., Matsuoka, T., Suzuki, C., Kinoshita, J., Takayama, G. and Shimomura, K.
学術雑誌名: Reproductive Toxicology 巻・号・頁・発行年:49:162-170,2014
6)題 目: A method for estimating the glomerular filtration rate in conscious monkeys 著 者 名: Satoh, H., Nomiya, N., Imai, D., Sato, S., Sakurai, K., Takasuna, K. and
Furuhama K.
学術雑誌名: Journal of Applied Toxicology 巻・号・頁・発行年:36(2):266-270,2016