③向かうべき方向性-強靱なサプライチェーンの構築に 向けて 震災やその後の計画停電によって、製造業に係るサプ ライチェーンにおける基幹部素材の生産が停止し、直接 被災していない企業も含めて、全国的に生産停止や減産 といった影響が広がった。震災後、製品供給途絶リスク の低減を目的とした企業戦略にも変化が見られ、「在庫最 適化の検討・実施」、「取引先への調達先情報の提供」と いった対応のほか、生産体制の見直しを検討する企業も 一定程度存在している。そして、「海外での生産比率の拡 大(海外を含めた生産拠点分散化の検討・実施)」は、「国 内での生産拠点分散化の検討・実施」の回答割合を上回っ ており、企業のリスク低減対策が、産業空洞化をさらに 後押しする懸念も高まっている(図233-25)。 震災で改めて顕在化したリスクに対応しながら、国内 産業の空洞化を防ぐためには、中核となる分野を国内に 維持しつつ災害対応力を強化するなど、将来の災害も見 据えたサプライチェーンの強靭化が不可欠である。 大きな方針としてまず求められるのは、グローバル市 場における競争力を維持・強化するという視点である。 リスクの低減を意識するあまり、「ジャストインタイム」 方式の抜本的な見直しや、不要な在庫の積み上げなどを 一律に求めるような方向に動けば、コストの増加を招き、 結果的に企業の国際競争力を低下させかねない。サプラ イチェーン途絶リスクの低減に向けては、自社をとりま くサプライチェーンの把握に努めた上で、途絶時の影響 を検証し、コスト競争力と効果をバランスさせる取組が 必要である。そして同時に、サプライチェーンの途絶リ スクを放置すれば、海外の取引先等から日本製品の取引 を忌避される要因になりかねず、空洞化の一因ともなり かねないことにも留意しなければならない。 具体的な取組としては、以下に示すような取組が重要 となる。 (ア)単一サプライヤーによる生産拠点の分散化・複線化 コスト競争力への影響を十分に留意しつつ、中核部素 材等の生産拠点の複数化・分散化を進める(図233-26)。 (イ)産業再編促進による分散化 産業再編や事業提携を進めることで、全国レベルで の生産拠点の分散化を実現する(図233-27)。 (ウ)複数サプライヤーによる災害時代替供給体制の構築 複数事業者間において、災害時の代替供給について あらかじめ確認しておく(図233-28)。(営業秘密の流 出防止、独占禁止法上の優越的地位の濫用等に当たら ないような留意が必要。) (%) 18.1 20.9 12.7 42.8 26.7 10.9 15.7 9.5 22.6 4.8 45 40 35 30 25 20 15 10 国内 で の 生産拠点分散化 の 検討 海外 で の 生産比率 の 拡大 ︵海外 を 含 め た 生産拠点分散化 製品標準化 ︵特注品 の 削減︶ へ の 在庫最適化 の 検討 ・ 実施 取引先 へ の 調達先情報 の 提供 同業者間 の 技術情報共有 取引先 と の 技術情報共有 そ の 他 BCP ︵事業継続計画︶ の 作成 ・ 他社 と の 事業提携 ・ 統合 0 5 図233-25 震災後、製品供給途絶リスクの低減を目的とした企業戦略の変化
第
3節
我が国ものづくり基盤の維持・強化第
2
章
我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
<生産拠点の分散化>
<これまで>
生産工場<今後>
生産工場A 生産工場B 1拠点のみで生産 増産に合わせて 生産拠点を複数化<これまで>
生産工場A生産ライン
a
生産工場B生産ライン
b
商品 P 商品 Q<対策>
生産工場A生産ライン
a’
生産工場B生産ライン
b’
商品 Q改造
平 時 有 事 商品 P単一企業内
単一企業内
改造
商品 Q 商品 P 平 時 有 事<生産拠点の複線化:複数拠点で緊急時代替生産を可能とする>
資料:「産業構造審議会産業競争力部会(第2回)」配付資料(11年6月)より抜粋 図233-27 産業再編促進による分散化 生産工場 (西日本) 生産工場 (東日本)社
B
社
A
産業再編・
事業提携
[再編によるサプライチェーン強靭化のイメージ]
西日本に拠点を有するA社と、東日本に拠点を有するB社が存在
A社:鹿島
B社:水島、四日市
統合会社
<エチレンメーカーの事例>
鹿島(被災)
水島
代替可再編することで、東日本と西日本で生産ラインが複線化
資料:「産業構造審議会産業競争力部会(第2回)」配付資料(11年6月)より抜粋(エ)仕様・部品の整理・共通化、標準化、素材仕様の柔 軟化 ユーザーとサプライヤーが業界の枠を越えて協働し、 競争力、安全性等とバランスのとれた仕様・部品の整 理共通化、標準化、素材仕様の柔軟化を進める。 (オ)BCP(事業継続計画)の充実 復旧時間の短縮等のために BCP(事業継続計画)は 有効であり、企業への浸透度の向上が必要。 (カ)経営財務基盤の強化 震災による設備毀損、サプライチェーン寸断による 事業活動の縮小に伴う赤字発生・資本圧迫を乗り越え るべく、経営財務基盤を強化する。 図233-28 単一サプライヤーによる生産拠点の分散化・複線化
<これまで>
<対策>
企業A
企業B
災害時の 代替供給は 想定外企業A
企業B
災害時の 代替供給が 可能 商品 P 商品 P’ 商品 P 商品 P’ 災害時の協力協定の例 1.災害時の業務継続に際 し、相互に支援する 2.必要な支援を行う際に は必要な情報交換を行う 3.上記の際、①特許・ノウ ハウ等の営業秘密の取 扱、②支援行為に伴う競 争制限性に留意する ※代替供給時に必要な情報の例 1.被災・復旧状況、在庫情報 2.代替供給の対象製品 3.供給先の決定方法(優先順位) 4.顧客情報(数量、納期) 等 資料:「産業構造審議会産業競争力部会(第2回)」配付資料(11年6月)より抜粋コラム
早期復旧に寄与した生産体制
日本電波工業(株)
水晶振動子等の製造を手がける日本電波工業(株)は、震災により同社の生産拠点である古川エヌ・デー・ケー (株)(宮城県大崎市)の建物や設備に被害を受けた。しかし、平常時から徹底していた以下の体制により、想定を 上回るスピードでの復旧を成し遂げた。 ①生産のマルチ拠点体制 同社は国内4ヶ所、海外2ヶ所に生産拠点を分散しているため、古川 エヌ・デー・ケー(株)以外の生産拠点には、地震による被害はなかった。 ②部材のマルチソース体制 同社の調達体制は、製品の部材を異なる会社、異なる拠点から調達 することを基本としており、今回の震災においても、サプライチェー ンの寸断の影響を最小限にとどめることができた。 ③製造マシンの自社開発体制第
3節
我が国ものづくり基盤の維持・強化第
2
章
我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
コラム
競争力維持とリスク低減を両立する「クロスソーシング」
(株)小松製作所
建設機械を製造する(株)小松製作所は、「国内の高度な産業集積は技術革新を起こすための恵まれた環境」と の考えから、商品の性能を左右する中核部品の開発・生産は国内に集中し、製品組立の工程は実際に需要のある 地域に分散することを基本方針としており、国内外の工場が相互に補完し合う「クロスソーシング」という仕組 みを構築している。 この体制下では、商品開発機能を有する「マザー工場」が商品開発やモデルチェンジ時における原価低減の役 割を担うとともに、同一機種を生産する「チャイルド工場」の Q・C・D(品質・コスト・納期)にも責任を負う。 「クロスソーシング」は、需要変動や為替変動などに対し、各工場の生産機種をフレキシブルに変更して負荷を 平準化することを可能とする。そして、ある拠点で不測の事態が発生した場合には、他拠点で速やかに代替生産 できるというメリットもある。今回の震災でも、被災した茨城工場に代わってアジアの拠点から同機種を出荷す ることで、出荷停止の被害を最小限に抑えることができた。 グローバルな事業展開をすすめるなかでは、長期的な競争力の維持とリスクの低減を両立させる立地戦略が求 められている。26
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図 油圧ショベル(本体)のクロスソーシング 資料:(株)小松製作所資料コラム
ラインの柔軟な運用による臨機応変な対応
日本精工(株)
ベアリング国内最大手の日本精工(株)は、震災による被害は小さく、一部の生産設備に位置ズレが発生する にとどまった。福島県にある生産拠点も震災後10日で復旧することができた。 しかし、同社は売上高の約6割を自動車向け製品が占めていたことから、震災で顕在化したサプライチェーンの 寸断の影響を受けた。電子部品などの調達難を主因とする自動車メーカーの大幅な減産によって、同社の生産も 減少を余儀なくされたのである。 同社は、稼働率が低下した自動車向けラインを有効活用すべく、その一部を中国等で需要増が顕著な産業機械 向けのラインへ切り替える対応を実施した。同社はおよそ3万を越える豊富な種類のベアリングを生産できるライ ンを構築しているが、需要に応じて柔軟にラインを転用できるよう対応策を講じていた。その結果、工場全体の 稼働率を高めることができ、震災による経営への影響を最小限にとどめることができた。 生産ラインの臨機応変な運用は、同社のように何らかの事情である製品の需要が減少した場合の経営リスクを 和らげるとともに、災害で工場が被災した場合には、他生産拠点における代替生産を円滑にするという効用もあ る。 同社では、震災の教訓を活かし、上記の柔軟なラインの運用に加え、今後は2次、3次、あるいは4次までにわ たる調達先のマップを作成したうえで品質管理に取り組む。また、設計の標準化、部品の共通化などの可能性な どを探りながら、安易に在庫を増やさずに競争力を維持できる体制を構築する予定だ。平時の競争力と、非常時 のリスク対応を両立させる経営を目指していく。コラム
仕入先との資本提携により調達リスクを低減
(株)エクセディ
自動車用クラッチ等を製造する(株)エクセディは、マニュアルクラッチで国内シェア約47%のシェアを誇る ほか、トルクコンバータでは約30%のシェアを持つ。 同社製品であるトルクコンバータを構成する部品のひとつに、ニードルローラーベアリングという特殊な軸受 け部品がある。同部品は汎用性が低いため、多様な条件に柔軟に対応でき、技術力も高いクロイドン(株)1社に 発注が集中、結果して8割を同社から調達するという状況だった。 震災後、クロイドンの主力工場が福島第一原子力発電所から80km 圏内に立地していたため、エクセディの海 外取引先からは、放射能汚染や電力供給制約などに関し、事業継続リスクの改善を求める声があった。 エクセディはそのような要望に応えるため、クロイドンとの資本提携を決定。岡山県にあるエクセディの子会 社生産拠点でもニードルローラーベアリングを生産できるよう、専用設備を導入した。同拠点においては、現在、 クロイドンから加工した部品を調達するとともに、技術指 導を受けて製品組立を始めており、今後は部品加工も行う。 さらに将来的には、出資比率の引き上げも検討し、部品開 発や生産面でも協力関係を深める方針である。 エクセディは今回の資本提携により、調達のほとんど を1社に頼っていた部品について、東西2拠点によって安 定調達できる体制を構築する。同社のように、資本提携等第
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