経営情報システム論
講義編
第2回
(5)DSS
• 前述のとおり、MISは、当時の技術では理想に追いつくことができず実 現不可能でした。
• しかし、その後もビジネスプロセスや企業形態は変遷していきます。そ れにつれてITを利用した問題解決方法のアイデアも変わっていきます。
• MISの次に提唱されたのがDSS(Decision Support System 意思決定 支援システム)です。この考え方はMISの失敗の反省とその後の技術進 歩に基づいています。コンピュータに経営意思決定はできないが、人 間の意思決定を支援することはできる、意思決定を支援する情報を入 手する仕組みであればコンピュータを利用することで実現できるというも のです。
(6)OA
• ここまでの時代は、汎用コンピュータ、すなわちメインフレー ムによる集中処理が一般的で、専門家が利用するものと考 えてよいでしょう。 • もちろん、TSSにより端末を一般のユーザが利用するといっ た形態は見られていましたが、情報システム部門の管理に よるメインフレームの共同利用が一般的でした。 • つまり業務でコンピュータが必要な場合は、それを情報シス テム部門に依頼して処理していたわけです。• しかし1980年代に入ると様子が一変し、現在の情
報化社会の形態に近くなります。一般の社員がパ
ソコンをある程度自由に使って業務を遂行する姿
が見られるようになるのです。これをエンドユーザ・
コンピューティングといいます。
• これは、パソコンの16ビット化や日本語への対応な
どにより、ビジネスでの利用に耐えられる進化と発
展があったためです。
• この変革により情報システム部門以外の利用者が
コンピュータを手にすることになったのです。
• この時代を表す言葉としては、オフィス業務の生産
性を向上させる目的でパソコンを含む情報機器を
積極的に導入し活用する動きを指すOA(Office
Automation オフィスオートメーション)が挙げられ
ます。
• また、1980年代の後半になると、さらに低価格でコ
ンパクトなパソコンや情報機器が普及していきます。
この動きをダウンサイジングと呼び、エンドユーザ・
コンピューティング同様この時代を特徴づけるキー
ワードといえるでしょう。
(7)SISによるビジネスと経営の
変化
• 1980年代後半になると、企業戦略として他社と比較して競争優位を確 立するために、戦略的に情報システムを活用することが注目され始めま した。それをSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)と いいます。 • 従来の情報システムの利用目的はこれまで述べてきたように業務や経 営者を支援することが目的でした。 • しかし、この時期、航空機の座席予約システムやオンラインの受注シス テム、顧客管理システムなどが登場し、業務の支援はもちろんのこと、こ のようなシステムを持っていることが、他社との競争を有利にすることが 注目され始めたのです。 • つまり、情報システムそのものが企業戦略実現のために利用されるよう になったのです。
• SISの概念が経営戦略に必須のものとして企業に浸透するにつれてIT 部門の役割が変化していきます。 • 従来、DP業務、すなわちシステム構築やコンピュータの運用が主流で あった情報システム部門は、SISによる経営戦略との密接な関係から、 IT業務という新しい位置づけに変わっていきます。 • IT業務は情報技術と経営戦略を統合する業務といえます。そのため、 情報システム部門が行っていた、DP業務は子会社化したり、外部の専 門業者に委託したりすること、つまりアウトソーシングが急速に進んだの です。 • SIS概念の浸透は、情報システム部門を戦略部門化し、そこで行ってい た業務をアウトソーシングによって行われるように社会を変化させたと いってもよいでしょう。
• これにより企業はこれまで以上に情報システム部
門を重要視し、CIO(Chief Information Officer:情
報担当役員、最高IT責任者)という役職を設けるよ
うになります。
• すなわち経営と情報技術の両方に詳しい人材が
必要とされるようになったのです。
10-2 現代の経営情報システム
(BPRからBCPへ)
• 前節では企業組織にコンピュータが必要となった理由と、企業へのコン ピュータ導入の黎明期から普及の時代までを述べました。 • パソコンの登場やダウンサイジング、SISというコンピュータ利用の位置 づけにより、現在の情報システム利用形態の基礎が完成したと考えても いいでしょう。すなわち、現在、社内業務で一般の社員がコンピュータ を利用することが当然となり、一方で消費者が受けられるサービスの基 本形もコンピュータや情報システムを利用したものが普及し始めた時代 が到来するまでを述べてきました。 • その後も技術発展は目覚しく、インターネットの登場によって、様々な 利用形態が登場してきます。その中で、企業において情報システムは どのように変化しているのか現状を述べます。10-2-1
BPRの時代
(1)BPR
• BPR(Business Process Reengineering リエンジニアリング) は、日本企業に圧倒されていた1990年代の米国において M.Hammer & J.Champy が提唱した考え方で、
• 顧客満足の達成のために、費用、品質、サービス、スピード のような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改 善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜 本的にデザインし直すことを言います。 • 日本でもカイゼンと称される社内運動が広がり、自動車産 業を中心にボトムアップ型の改革が行われてきましたが、米 国発のBPRはトップダウンによる論理的で根本的な改革ア プローチであり、ITCをインフラとして積極的に導入すること により成果をあげました。その延長線上にあるのがERPパッ ケージです。
(2)ERPパッケージによるシステム化
• BPRを実現するものとしてERP(Enterprise Resource Planning 企業資源計画)という発想が生まれました。 • これは全社的な経営資源の有効活用という視点から業務 全体を統合的に管理し、経営の効率化を図るための手法 や概念、そしてその実現に必要な情報システムやソフトウェ アを指します。 • 特に、ERP実現のための統合型、すなわち業務横断型の業 務ソフトウェアパッケージ製品をERPパッケージと呼びます。 また、ERPパッケージは現在多くの企業に浸透してきており、 単にERPと呼ぶことあります。• 全社的な効率化を達成するためには、基幹業務を部門ごとに最適化す るのではなく、統合的に管理しなければなりません。 • ERPパッケージはそれを可能とするソフトウェアパッケージなのです。 • これまでは、技術的に難しかったり、組織の縦割りという問題などもあっ たりして、部門ごとに別々にシステムが構築されていたことも多かったの ですが、それらを統合し、経営資源であるデータを相互に参照・利用で きるようにしようというものです。 • 具体的には財務会計や人事などデータの一元管理が可能となり、それ に伴いシステムのバージョンアップや保守点検が容易になり、また他部 門で行われている業務がリアルタイムに参照できるようになるなどのメ リットがあります。 • これが全社的なシステムの最適化であり、経営の効率化を実現するわ けです。
• 後述しますが、一度に全社的なシステム導入ができない場 合でも、モジュール化したソフトウェアを後から追加・拡張す る機構を備えたものもあり、個々の企業に合わせてある程 度カスタマイズできる製品もあります。 • パッケージとはいえ、業務を完全にソフトウェアにあわせな ければならないわけでなく、ある程度の自由度はあります。
10-2-2 Webの時代
• インターネットが普及するのに大きな役割を果たした技術は Web技術だといえます。 • もともと軍事技術であったARPANETの技術がアメリカの大 学間で学術利用され始め、さらに1980年代後半になって商 用へと開放されました。 • これにより地球規模のコンピュータネットワークが確立され 始めたのです。しかし、インターネットを簡単に利用するた めには現在のような仕組みが必要でした。これを可能にし たのがWWW(World Wide Web)でありTim Berners-Leeが 1991年に公開しました。• さらに現在と同じようなWebブラウザによる利用を可能にし たのが1992年のMarc AndreessenによるMosaicというWebブ ラウザのリリースといえます。 • その技術が現在のWeb利用を形成したといっても過言では ありません。 • この延長線上に、現在のブログやSNSを利用したコミュニ ケーションが普及しており、企業はこれを経営の効率化や ビジネスに利用しています。
(1)グループウェアによる情報共有
• Web技術は社内での情報共有を円滑に行える仕組みを作 り出しました。そのひとつがグループウェアです。グループ ウェアはこれまで社内にあった掲示板や回覧板による情報 共有、施設の予約、さらには他の社員のスケジュール確認 や管理といったものを各自のパソコンから権限の範囲内で 行えるというものです。 • 利用者は一般のWebサイトを利用するときと同じようにパソ コンを操作するだけで、様々な情報をリアルタイムに共有し、 活用することができます。また、モバイル端末でも利用でき るため、出張先でもリアルタイムに情報共有や発信ができま す。それゆえ会社という物理的な場所を超えて、組織の中 で働くことができるという革新的なツールといえます。(2)社内SNSによる情報共有
• 社内でのSNS利用も広がっています。全社員から様々なア イデアを募り、それにより新しいサービスが生まれたというよ うな話は良く効きます。 • また、業務プロセスの改善も現場の社員からの意見によっ て実現することも少なくありません。しかし、そのようなアイデ アや意見をトップマネジメントが知り全社的に実現していくこ とは、組織が大きくなるほど難しくなっていくと考えられます。• 一方で、現実社会を振り返ってみると、人気商品の情報は、 SNSによる口コミで加速度的に広まっていき、一部の地方で しか知られていなかった商品が全国から注文されるように なったという話も聞きます。ならば、社内での口コミも同様に 全社員を通じて広まりやすくなるのではないかと考えられる わけです。 • つまり、強制的に情報共有するのではなく、自発的な情報 の拡散による共有が期待できるのです。さらに文章ではなく、 「いいね」というボタンひとつでアイデアに対する評価が一 目瞭然となります。これが意思決定の支援材料となることも ありえます。
• また、社内SNSによって業務別に分類されたノウハウが集積 されるという事例もあります。たとえば、いつどこで何が起 こったのか、どんなときに、どんな話し合いがもたれたのか、 様々な場面での気づきや教訓といった情報が集積されて いきますから、これらの情報を共有することで引き継ぎなど も円滑に行えます。 • 現在、様々な期待をこめて社内SNSが広まりつつあります。 新しい形態の社内コミュニケーションがSNSによって実現し つつあるのです。
(3)Webと新しい媒体による
戦略的な情報活用
• 企業はビジネスを戦略的に展開するために顧客情報を大 量且つ正確に確保しようとしています。 • たとえば、従来のPOSデータでは、消費者の購買行動は一 定の傾向として掴むことしかできませんでした。もちろん、需 要予測や在庫管理、商品開発など様々なところで成果をあ げてきたことは事実です。 • しかし、特定の個人が、どんな購買行動をしているのかまで を判別することはできませんでした。• ところが、通販サイトでは個人の購買行動が個人レベ
ルの顧客データとして蓄積していきますし、通販サイト
を閲覧しただけでも、その個人の興味関心を自動的に
分析し、Web広告を表示させることで、顧客の購買意
欲を刺激するような仕組みまで完成しています。
• さらに、店頭でも電子マネーの利用履歴やポイント
カード会員の購買記録が蓄積されていくことで、顧客
別の購買行動が把握され、メールなどの電子媒体を通
じて販売促進ができるようになっています。
• つまり、Webや電子マネーといったシステムを企業が活
用して、ピンポイントに顧客情報を戦略的に活用できる
時代となったのです。
10-2-3 ビジネスの継続と情報システムの役割
(1)BCP(Business Continuity Planning
事業継続計画)
• 2011年3月11日に発生した東日本大震災において、中小 企業の多くが、貴重な人材や、設備を失ったことで、廃業に 追い込まれました。また、被災の影響が少なかった企業に おいても、復旧が遅れ自社の製品・サービスが供給できず、 その結果顧客が離れ、事業を縮小し従業員を解雇しなけ ればならないケースも見受けられました。 • このように緊急事態はいつ発生するかわかりません。BCPと は、こうした緊急事態への備えのことをいいます。 • このBCPを実現するために、情報システムの利用方法や 導入方法なども変化しています。(2)BCPとクラウドコンピューティング
• これまで企業が情報システムを導入する際には自社の建物 にサーバを設置することがほとんどでした。もちろん、その サーバはインターネットなどのネットワークで外部にも接続さ れていますから、グループウェアに代表されるような利用方 法も可能ですし、ネットワークを通じて本社と支社との間で も情報共有ができます。 • しかし、本社のサーバにトラブルが発生した場合、社内の情 報システムは機能しなくなる恐れがあります。それが一時的 であるならばまだしも、大災害による壊滅的な被害により重 要なデータが失われるとすれば、業務の継続は困難となる でしょう。すなわちBCPを考慮した情報システムの導入が必 要となります。• これに応える技術のひとつがクラウドコンピューティングで す。クラウドコンピューティングはもともとBCPではなく、費用 削減を意図して導入されることが多かった技術です。 • 社内に必要なコンピュータはクライアントだけであり、サーバ は不要です。ソフトウェアを個別にインストールしていなくて もインターネット経由で、いつでもソフトウェアは利用でき、さ らにデータを個別のコンピュータに保存しておく必要がなく、 必要なときにどのコンピュータからでもデータアクセスできる ため導入しようも運用費用も削減できます。そのため、企業 ではクラウドコンピューティングを導入する動きが進んでい ます(図表10-1参照)。
図表10-1 クラウドサービスの利用状況(産業別
及び資本金規模別)
• しかし、今回の震災によってリスク低減や障害対策にまで ユーザ企業が注目するようになったのです。 • つまり、クラウドコンピューティングを採用するだけでも十分 にBCP対策になる、言い換えれば、災害による自社内の サーバやストレージの損壊を未然に防ぐという意味では、そ のメリットを十分に受けることができる仕組みがクラウドコン ピューティングなのです。
• 企業の情報システムに対するクラウドコンピューティングを 利用したサービスとしてはSaaS(Software as a Service)が普 及し始めています。 • SaaSはプロバイダ側のサーバにあるソフトウェアをインター ネット経由で利用するという仕組みであり、クラウドコン ピューティングの利用を前提としたものではありませんが、 現実的にはサーバの所在を意識せずに利用するという意 味でクラウドコンピューティングの利用形態と考えられること もあります。 • 現在、SaaS型のERPが各社よりリリースされており、企業は 費用削減はもとより、BCPを意識し、これを導入する動きが 広まっています。