• 検索結果がありません。

_研究発表論文_久保田氏.indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "_研究発表論文_久保田氏.indd"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

*四条畷看護専門学校 専任教員 * Shijyonawate-Nursing College,Faculty members **大阪教育大学 教授・博士(学術) **Professor, Osaka Kyoiku University, Ph.D.

地域での生活継続を支援する『暮らしの保健室』の役割と活動に関する調査研究

Research on the roles and activities of Kurashi-no-Hokenshitsu to support continuing life in

the community

久保田 千代美*・碓田 智子**

Chiyomi KUBOTA, Tomoko USUDA

Kurashi-no-Hokenshitsu established as a model of Maggie's Cancer Caring Centers, a consultation support center for cancer

patients and families in the UK, provides people of all ages a comprehensive care. In this research, we conducted a nationwide questionnaire survey on Kurashi-no-Hokenshitsu and grasped the contents of activities of Kurashi-no-Hokenshitsu. Results revealed that Kurashi-no-Hokenshitsu serves as a forum for dialogue among local residents and supports conscious of the end of life, but it was found that support that was in line with the life stage of cancer patients and families is insufficient.

Key words : Kurashi-no-Hokenshitsu,Maggie's Cancer Caring Centers,Cancer,End-of-life Care

暮らしの保健室、マギーズセンター、がん、終末期ケア 1 はじめに 厚生労働省は、団塊の世代が75 歳以上となる 2025 年 を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域 で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることがで きるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体 的に提供され、地域の自主性や主体性に基づき、地域の 特性に応じて作り上げていく地域包括ケアシステムの 構築を目指している。高齢者、認知症者やその家族への 支援は、介護保険法で定められる地域包括支援センター 注1が中心となっている。 一方、生涯で2 人に 1 人が罹患しているがん患者に対 しては、全国のがん拠点病院などに相談支援センターを 設けている注2が、がんと診断された人が地域で暮らし続 けるためには、医療面を配慮した身近な生活支援が重要 と考えられる。そのようななか、がん患者とその家族の 相談に対応するほか、地域包括支援センターとの連携や 地域における医療・介護の連携拠点となるものとして 『暮らしの保健室』が期待されている。 『暮らしの保健室』は、訪問看護師であった秋山正子 氏が、イギリスで始まったがん患者と家族のための相談 支援センターMaggie’s Cancer Caring Centers注3(以下、マ

ギーズセンター)をモデルに、がん患者と家族の地域で の相談窓口をイメージして、2011 年に東京で初めて開設 された1)。高齢者に限らず、すべての人の人生の終末期 まで包括的な支援を地域で行うことを目指す『暮らしの 保健室』は、その後、全国に広がっている。しかし、秋 山氏による『暮らしの保健』の活動の事例報告2)が発表 されているものの、地域における『暮らしの保健室』の 役割や活動実態の全体像については明らかにされてい ない。一方、類似の名称で、日本看護協会が1996 年から 地域でのモデル事業として展開している『まちの保健室』 6)が進められている。『まちの保健室』については、神崎 初美氏らによる利用者の調査3)、中村悦子氏による研究 5)がみられるが、『暮らしの保健室』との活動内容等の比 較はなされていない。本研究では、『暮らしの保健室』の 活動や相談内容の全体像を明らかにするとともに、地域 で人生の最後まで生活継続を支援するための『暮らしの 保健室』の役割と課題を考察することを目的とする。 2 研究の方法 本研究はつぎの2 つの方法で進めた。 1)全国にみた『暮らしの保健室』の活動 2016 年 5 月~12 月の期間、Google、Yahoo! Japan、msn Japan の検索サイトを使い、『暮らしの保健室』と『まち の保健室』を検索した注4。抽出した『暮らしの保健室』 46 室と日本看護協会のホームページに掲載の『まちの保

*四条畷看護専門学校 専任教員 * Shijyonawate-Nursing College,Faculty members **大阪教育大学 教授・博士(学術) **Professor, Osaka Kyoiku University, Ph.D.

地域での生活継続を支援する『暮らしの保健室』の役割と活動に関する調査研究

Research on the roles and activities of Kurashi-no-Hokenshitsu to support continuing life in

the community

久保田 千代美*・碓田 智子**

Chiyomi KUBOTA, Tomoko USUDA

Kurashi-no-Hokenshitsu established as a model of Maggie's Cancer Caring Centers, a consultation support center for cancer

patients and families in the UK, provides people of all ages a comprehensive care. In this research, we conducted a nationwide questionnaire survey on Kurashi-no-Hokenshitsu and grasped the contents of activities of Kurashi-no-Hokenshitsu. Results revealed that Kurashi-no-Hokenshitsu serves as a forum for dialogue among local residents and supports conscious of the end of life, but it was found that support that was in line with the life stage of cancer patients and families is insufficient.

Key words : Kurashi-no-Hokenshitsu,Maggie's Cancer Caring Centers,Cancer,End-of-life Care

暮らしの保健室、マギーズセンター、がん、終末期ケア 1 はじめに 厚生労働省は、団塊の世代が75 歳以上となる 2025 年 を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域 で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることがで きるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体 的に提供され、地域の自主性や主体性に基づき、地域の 特性に応じて作り上げていく地域包括ケアシステムの 構築を目指している。高齢者、認知症者やその家族への 支援は、介護保険法で定められる地域包括支援センター 注1が中心となっている。 一方、生涯で2 人に 1 人が罹患しているがん患者に対 しては、全国のがん拠点病院などに相談支援センターを 設けている注2が、がんと診断された人が地域で暮らし続 けるためには、医療面を配慮した身近な生活支援が重要 と考えられる。そのようななか、がん患者とその家族の 相談に対応するほか、地域包括支援センターとの連携や 地域における医療・介護の連携拠点となるものとして 『暮らしの保健室』が期待されている。 『暮らしの保健室』は、訪問看護師であった秋山正子 氏が、イギリスで始まったがん患者と家族のための相談 支援センターMaggie’s Cancer Caring Centers注3(以下、マ

ギーズセンター)をモデルに、がん患者と家族の地域で の相談窓口をイメージして、2011 年に東京で初めて開設 された1)。高齢者に限らず、すべての人の人生の終末期 まで包括的な支援を地域で行うことを目指す『暮らしの 保健室』は、その後、全国に広がっている。しかし、秋 山氏による『暮らしの保健』の活動の事例報告2)が発表 されているものの、地域における『暮らしの保健室』の 役割や活動実態の全体像については明らかにされてい ない。一方、類似の名称で、日本看護協会が1996 年から 地域でのモデル事業として展開している『まちの保健室』 6)が進められている。『まちの保健室』については、神崎 初美氏らによる利用者の調査3)、中村悦子氏による研究 5)がみられるが、『暮らしの保健室』との活動内容等の比 較はなされていない。本研究では、『暮らしの保健室』の 活動や相談内容の全体像を明らかにするとともに、地域 で人生の最後まで生活継続を支援するための『暮らしの 保健室』の役割と課題を考察することを目的とする。 2 研究の方法 本研究はつぎの2 つの方法で進めた。 1)全国にみた『暮らしの保健室』の活動 2016 年 5 月~12 月の期間、Google、Yahoo! Japan、msn Japan の検索サイトを使い、『暮らしの保健室』と『まち の保健室』を検索した注4。抽出した『暮らしの保健室』 46 室と日本看護協会のホームページに掲載の『まちの保

地域での生活継続を支援する『暮らしの保健室』の役割と活動に関する

調査研究

Research on the roles and activities of Kurashi-no-Hokenshitsu to support continuing life in the community

久保田 千代美 *・碓田智子 **

Chiyomi KUBOTA, Tomoko USUDA

Kurashi-no-Hokenshitsu established as a model of Maggie's Cancer Caring Centers, a consultation support center for cancer patients and families in the UK, provides people of all ages a comprehensive care. In this research, we conducted a nationwide questionnaire survey on Kurashi-no-Hokenshitsu serves as a forum for dialogue among local residents and supports conscious of the end revealed that Kurashi-no-Hokenshitsu serves as a forum for dialogue among local residents and supports conscious of the end of life, but it was found that support that was in line with the life stage of cancer patients and families is insufficient.

(2)

健室』344 室に ついて、所在地や開設年などの基本情報 に加えて、①活動頻度、②相談内容、③血圧測定実施状 況、④健康チェック実施状況、⑤相談以外の活動内容を 各ホームページから可能範囲で収集した。これらの情報) データベース化し、活動内容を比較した注5 2)『暮らしの保健室』の実態調査 1)の調査で抽出した『暮らしの保健室』46 室に、その 後に確認できた 4 室を加えた計 50 室の代表者宛にアン ケート調査を実施した。調査期間は2017 年 5 月~8 月で ある。38 室から回答があった注6が、うち15 室は同じ自 治体の地域包括支援センターの活動の一環として行わ れていため1 室とみなし、計 24 室を分析対象とした。主 な質問内容は、①活動頻度、②利用者、③利用料金、④ 母体の事業、⑤運営スタッフ、⑥設立・運営資金、⑦相 談内容、⑧相談以外の活動、⑧マギーズセンターの活動 への意識、⑨活動の目的、⑩現在の課題、⑪がんと認知 症サポートの意識である。さらに、イギリスのマギーズ

センターのホームページよりHow Maggie’s can help から

16 項目注8を取り上げ、『暮らしの保健室』でのがん患者 と家族へのサポートとを比較した。 3 全国的にみた『暮らしの保健室』の活動の特徴 46 室の『暮らしの保健室』が、23 都道府県にある一方 344 室の『まちの保健室』は、全国で開催されていた。 『暮らしの保健室』は、表1 に示す 7 種類の母体が運営 しているおり、一般社団法人を母体とする『まちの保健 室』とは、異なる特徴があると推察された。 活動頻度については、『暮らしの保健室』は46 室全て に記載があり、「毎日開催」が41%であった。一方、『ま ちの保健室』での活動頻度の記載は118 室(全室の 34%) に留まったが、「毎日開催」は2%にすぎず、「月1 回」が 74%を占めた。情報件数の違いがあるので、両者を単純 には比較できないが、『まちの保健室』は活動頻度が少な いことは把握できる(表 2)。相談内容について、『暮ら しの保健室』43 室、『まちの保健室』339 室の情報が得ら れた(図1)。両者ともに「健康相談」が最も多く、つい で「育児相談」「介護相談」が続く。『暮らしの保健室』 は加えて「認知症相談」が多い。「がん相談」は『暮らし の保健室』にのみ見られた。相談以外の活動では、図 2 に示す様に「血圧測定」が『暮らしの保健室』では37% の記載に対し『まちの保健室』ではほぼ全てに記載があ った。また図3 に示す多様な項目の健康チェックや測定 が実施されていた。『まちの保健室』は簡易な健康チェッ クが中心であるが、『暮らしの保健室』は認知症やがん相 談などの専門的な内容にも対応していることが窺える。 種類 市町村 個人 非営利団体 医療法人 学校法人 株式会社 一般社団法人 室数 17 9 4 4 5 3 4 表 2『暮らしの保健室』と『まちの保健室』の活動頻度 図 3『まちの保健室』で行なわれている健康測定・健康チェック n=344 図 2『暮らしの保健室』と『まちの保健室』での血圧測定実施の割合 図1『暮らしの保健室』と『まちの保健室』の相談内容 表1抽出した 46 室の『暮らしの保健室』の運営母体

(3)

相談以外の活動内容がホームページに記載があった のは、『暮らしの保健室』40 室、『まちの保健室』51 室で、 図 4 に示すように、『暮らしの保健室』では、「サロン」 の割合が半数以上を占めている一方、『まちの保健室』は、 相談以外の活動が少ない傾向であった。 以上、ホームページで得られる情報に限界があるが、 『まちの保健室』は月1 回程度の開催で健康相談や健康 チェックを主活動とするのに対し、『暮らしの保健室』は 常設が多く認知症やがんの相談に対応し、サロンなど地 域住民の交流の場の提供をしている様子が把握できる。 4 『暮らしの保健室』の地域での活動の実態 つぎに、『暮らしの保健室』の代表者を対象にしたアン ケート調査から、『暮らしの保健室』の活動の地域での活 動実態と課題を検討する。 4-1『暮らしの保健室』の運営母体とスタッフの職種 24 室の『暮らしの保健室』のうち、常設の事務所で活 動しているケースが13 室、次いで公共施設(公民館や図 書館)での活動が6 室であった。週 5 回以上の活動日を 設けている『暮らしの保健室』が12 室を占めた。活動時 間は、一日4 時間未満(半日以下)が 9 室、一日 4 時間8 時間未満が 8 室、8 時間以上開催している『暮らしの 保健室』は7 室であった。 2016 年度の利用者数は、23 室(不明 1 室)でみると、 バラツキが大きく、5 人~19,614 人、中央値 500 人、延40,800 人であった。うち、女性の割合は、20 室(不明 4 室)で、60%~90%(中央値 80%)である。65 歳以上 の高齢者数は、21 室(不明 3 室)で 2%~100%(中央値 85%)であった。女性と高齢者の利用の割合が多い『暮 らしの保健室』が少なくないが、『暮らしの保健室』は、 高齢者に限らない年齢層が利用していることが窺えた。 利用料をみると、23 室が無料で各種の相談を行ってい たが、相談以外の活動については有料の『暮らしの保健 室』があった(表3)。表 4 から『暮らしの保健室』の開 設年と運営母体、運営スタッフについてみると、まず、 秋山氏が 2011 年に『暮らしの保健室』を開設する以前 に、独自の活動していた室が確認された。一方で、2015 年に開設の室が多いのは、近年『暮らしの保健室』実践 報告がされ広がってきたためではないかと思われる。運 営母体には、「病院/診療所」と「訪問看護」をあわせて 医療関係が多い。とくに「訪問看護」が運営母体の『暮 らしの保健室』のある地域の二次医療圏注7の在宅医療資 源6)が、人口に比べ多い傾向にある。訪問看護の必要性 の高い地域であるともいえる。運営スタッフの職種の分 類では「看護職」が最も多く、「リハビリ職」「医師」「薬 剤師」など複数の医療従事者が関わっていた。次に多い のが「介護職」、次いで「福祉職」であることから、『暮 らしの保健室』が医療、介護、福祉が必要な人に対応し ていることが示唆された。「その他」にはアンケ-トで、 調理師、臨床宗教師、建築家、元養護教諭等の記載があ った。多様な専門家等のほか、多くのボランティアが関 わっていることが、『暮らしの保健室』の特色といえよう。 保健室の運営に関わるスタッフの職種に●(複数回答) 表 3『暮らしの保健室』の利用料(n=24) 図 4『暮らしの保健室』と『まちの保健室』の相談以外の活動 表 4『暮らしの保健室』のある地域の在宅医療と運営スタッフ(n=24) 平成22 年国勢調査人口基本集計 総務省統計局平成 23 年 10 月 在 宅 療 養 支 援 診 療 所 在 宅 療 養 支 援 病 院 訪 問 看 護 ス テ ー シ ョ ン 人 口   人 高 齢 化 率   % 常 勤 人 数 非 常 勤 人 数 ボ ラ ン テ ィ ア 人 数 看 護 職 介 護 職 福 祉 職 リ ハ ビ リ 職 医 師 薬 剤 師 事 務 職 歯 科 医 / 衛 生 士 栄 養 士 そ の 他 A (2012) 病院/診療所 26 2 23 659,459 22% 2 0不明● ● B (2014) 病院/診療所 128 11 70 1,329,308 22% 14 3 10 ● ● ● ● ● C (2014) 病院/診療所 123 3 52 1,387,392 19% 2 3 50 ● ● ● ● ● ● ● D (2013) 病院/診療所 33 1 29 409,332 24% 3 0 1 ● ● ● ● E (2015) 病院/診療所 76 1 38 716,006 21% 0 2 6 ● ● ● ● ● ● F (2011) 訪問看護 178 5 60 1,190,628 19% 1 1 30 ● ● ● G (2015) 訪問看護 189 5 80 1,349,960 19% 2 4 0 ● ● H (2016) 訪問看護 743 28 176 2,665,314 22% 2 2 2 ● I  (2016) 訪問看護 43 5 23 219,880 29% 2 1 9 ● ● ● J  (2015) 訪問看護 68 3 32 428,716 22% 19 15 50 ● ● ● ● ● K (2015) 学校/大学 44 3 19 416,186 25% 5 0 7 ● ● ● ● L (2014) 学校/大学 10 0 8 108,737 29% 35 8 0 ● ● ● M (2012) 一般社団法人 44 2 28 481,699 22% 0 6 2 ● ● ● ● ● ● ● N (2015) 一般社団法人 88 5 53 1,001,519 19% 1 0 3 ● ● O (2015) 一般社団法人 3 1 4 75,458 39% 5 0 1 ● ● ● ● P (2015) NPO法人 87 11 53 1,419,575 21% 2 0 7 ● ● Q (2005) 自治体 39 3 22 463,237 25% 50 0 0 ● ● ● ● R (2016) カフェ事業 33 1 29 409,332 24% 1 1 7 ● ● ● S (2014) ない 25 0 18 425,694 26% 0 3 3 ● ● ● ● T (2016) ない 98 10 16 723,223 20% 0 22 10 ● ● ● ● ● ● ● U (2009) ない 48 3 27 554,256 26% 1 0 0 ● V (2015) ない 45 1 25 382,012 22% 0 0 40 ● ● ● ● ● W (2016) ない 232 5 67 1,117,725 25% 0 0 20 ● ● ● ● X (2002) 未記入 2 1 4 70,227 33% 0 0 23 ● ● 147 71 281 21 16 8 8 6 7 6 4 4 10 計 運営スタッフ スタッフの職種 二次医療圏の在宅医療 地域の特徴 保健室 (設立年) 母体の事業 4)

(4)

運営母体をもつ 18 室の資金提供について、表 5 に示 した。多くの『暮らしの保健室』は、運営母体以外から の資金で、活動していることが明らかになった。 全体として、『暮らしの保健室』の母体となる事業に医 療機関が多いこと、またスタッフに看護師が多いことは、 地域の医療機関と連携を取りやすい要素であると考え られる。 4-2『暮らしの保健室』の活動内容 24 室の『暮らしの保健室』での相談内容(複数回答) を図5 に示している。最も多いのは、「健康相談」が 22 室、次いで「介護相談」21 室、「認知症相談」が20 室と、 それぞれ80%以上で実施されていた。「がん相談」は79%19 室)で実施されていた。相談以外の活動(複数回答) では、図6 に示すように「対話の場」が 83%(20 室)に 見られる。ついで、「健康増進学習」「認知症学習」が75% (18 室)であるのに対して、「がん学習」は46%(11 室) と多くはなかった。 4-3 がん患者とその家族へのサポート 24 室について、がん相談の実績(2016 年度)につい て尋ねた結果、がん相談を受けた実績があるのは 18 室 であった。2011 年に東京でマギーズセンターをモデルに 開設された『暮らしの保健室』は年間延べ約460 件の相 談実績があったが、それ以外の『暮らしの保健室』では 1 件から 50 件であった。『暮らしの保健室』の当初の目 的である、イギリスのマギーズセンターにおける地域の がん患者支援活動を意識していることを確認するため に、「あなたの『暮らしの保健室』では、英国のマギーズ センターの活動や運営を手本にしていますか」と尋ねた。 「積極的に手本にしている」との回答は5 室、「出来る範 囲で手本にしている」が11 室であったが、「あまり手本 にしていない」との回答が6 室に見られた。 さらに調査票ではマギーズセンターでのがん患者や家 族への支援活動の項目注8を示して、2016 年度に実施した 支援活動と、今は実施していないがこれから実施したいと 考えている支援活動を選択してもらった結果、22 室の回 答があった(表6)。 表6 に示すように、「がん患者や家族への自宅での日 常生活についてのアドバイス」が20 室で実施され、これ からの実施希望も1 室あった。『暮らしの保健室』が、が ん患者に限らず自宅で療養する人の日常生活に関する 相談を日常に行っていることが窺える。また、『暮らしの 保健室』には、様々な職種や経験のあるスタッフが関わ り、治療食の生活相談、食事レシピの作成、別のサポー トにアクセスを代行すること、経済的問題へのサポート、 給付アドバイスは、様々な職種や経験のあるスタッフが 関わるっていることが窺われた。また、『暮らしの保健室』 の活動は、マギーズセンターのサポート同様にがん患者 と同様の人と話す機会を提供している。『暮らしの保健 室』は、マギーズセンターで行われている家族や友人の ためのリラクゼーション技術の学習や遺族会を含むサ ポートグループの会を実施している、またはしたいと思 表 5『暮らしの保健室』の母体からの資金提供(n=18) 図 5『暮らしの保健室』での相談内容(複数回答 n=24) 図 6『暮らしの保健室』での相談以外の活動(複数回答 n=24) 表 6『暮らしの保健室』で行っているマギーズセンターの活動n=22 病院 診療所 訪問看護 学校 その他 設立資金提供 があった 3室 3室 2室 0室 8室 運営資金提供 がある 2室 3室 2室 2室 9室 母体事業 合計 母体からの マギーズセンターで行われているがん患者や家族へのサポート 実施し ている (室) 実施し たい (室) 1.自宅での日常生活に関するアドバイス 20 1 2.治療関連の食生活の相談 16 2 3.相談者に代わって、別のサポートにアクセスする 16 1 4.利用者が同様の経験をする人々と話す機会を提供 15 1 5.専門スタッフによるがん相談や情報提供 14 2 6.身体を動かすエクササイズ 12 2 7.経済的問題に関するサポート 11 1 8.健康的で美味しい食事を助けるレシピや小冊子などの作成 10 2 9.利用者が利用できる給付に関するアドバイス 10 2 10.家族や友人のための、介護方法、ストレス管理に役立つリラクゼーション技術の学習 10 4 11.家族や友人のためのサポートグループの会(遺族会を含む) 9 6 12.がん治療を始める人へ、治療法、副作用をコントロールする方法などのワークショップ 7 1 13.がん治療を終えた人の仕事の復帰など、人生のあらゆる側面をサポート 7 2 14.最近がんと診断された人、その家族や友人のためのワークショップ 6 3 15.脱毛を予期または経験している人のためのサポート 3 1 16.子どもたちにがんについて話す家族のサポート 3 5

(5)

っていることから、健康問題だけでなく、家族、友人も 含めて地域での生活に着目したサポートができる可能 性がある。一方、がん治療を始める人、がん治療を終え た人、最近がんと診断された人と家族や友人、脱毛を予 期、または経験している人へのサポートは、少なかった。 『暮らしの保健室』では、がんとわかった時から治療後 までを見通したサポートは、それほどなされていないこ とが窺える。しかし、実施は少ないが、「最近、がんと診 断された人、その家族や友人のためのワークショップ」 を 3 室、「子どもたちにがんについて話す家族のサポー ト」は、5 室がこれから実施したいと回答していた。 秋山によって開設された『暮らしの保健室』は、イギ リスのマギーズセンターの窓口がイメージされており、 がん患者とその家族への支援が期待された。しかし、そ の後に日本各地で開設された『暮らしの保健室』では、 対象となるがん患者や家族に高齢者が多いため、日常生 活のアドバイスや食事、運動、対話の場の提供などの活 動に留まっていると考えられる。 4-4『暮らしの保健室』の活動の目的と課題 『暮らしの保健室』の活動の目的6 項目について、活 動の課題11 項目を示して複数回答してもらった(表 7)。 『暮らしの保健室』の活動の目的は、「まちづくり」が 12 室と多かった。最も多く『暮らしの保健室』が開設さ れた2015 年と 2016 年合わせて 13 室中 7 室が「まちづ くり」であり、5 室が「人生の最終段階に対応する」、4 室が「在宅医療の支援」を目的にしていた。2011 年以前 の4 室では、健康づくりや健康教育を目的としたものが 多いと推測されるが、高齢化からの地域包括的ケアを目 的とした活動になっていると考える。 『暮らしの保健室』の課題は、「運営資金の調達」「活 動するスタッフの不足」が 16 室と最も多かった。無料 の活動が多く、ボランティアが多いことからも『暮らし の保健室』の市民への広報、行政の支援が必要である。 7 室が「地域包括支援センターとの連携」を課題と答え ているのは、『暮らしの保健室』が地域包括支援センター とは違った役割を担っていることが示唆された。 表8 は、がん患者や認知症へのサポートへの考え、及び がんと認知症の専門スタッフについての考えを尋ねた 結果をまとめている。人生の最終段階に対応する視点か ら、がん患者や家族へのサポートと認知症のサポートを 積極的に行ったり広めたりしたいかとの設問に対し、18 室(75%)が「積極的に行いたい」と回答した。 さらに、がんと認知症の専門スタッフについては、認 知症専門相談のスタッフに比較して、がん相談専門のス タッフは少ないことがわかる。がん相談のスタッフにつ いては、現在いないが必要ともしていない『暮らしの保 健室』があった。それは、先にも述べたように、『暮らし ま ち づ く り 住 民 の 健 康 づ く り 人 生 の 最 終 段 階 に 対 応 す る 在 宅 医 療 の 支 援 地 域 の 健 康 教 育 支 援 そ の 他 運 営 資 金 の 調 達 活 動 す る ス タ ッ フ の 不 足 市 民 へ の 広 報 行 政 の 支 援 地 域 包 括 支 援 セ ン タ ー と の 連 携 利 用 者 数 の 増 加 活 動 を 増 や す こ と 医 療 連 携 相 談 業 務 を 増 や す こ と 常 設 場 所 が な い そ の 他 課 題 は な い A (2012) ● ● B (2014) ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● C (2014) ● ● ● ● D (2013) ● ● ● E (2015) ● ● ● ● ● ● ● F (2011) ● ● ● G (2015) ● ● H (2016) ● ● ● ● ● ● I (2016) ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● J  (2015) ● ● K (2015) ● ● ● ● L (2014) ● ● ● ● ● ● M (2012) ● ● ● ● ● N (2015) ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● O (2015) ● ● ● ● ● ● ● ● ● P (2015) ● ● ● ● Q (2005) ● ● ● R (2016) ● ● ● ● ● S (2014) ● ● ● ● T (2016) ● ● ● U (2009) ● ● V (2015) ● ● ● ● ● ● ● ● ● W (2016) ● ● ● ● ● ● ● X (2002) ● ● 合 計 12 9 6 5 5 6 16 16 11 11 7 7 6 3 3 2 3 3 目的(複数回答) 課題(複数回答) 保健室 (設立年) 表7『暮らしの保健室』の目的と課題(n=24) 回答の選択項目に● 表 8『暮らしの保健室』のがんと認知症サポートの意識(n=24) 回答の選択項目に● 積 極 的 に 行 い た い 現 状 程 度 で よ い 積 極 的 に 行 う こ と は 考 え て な い 積 極 的 に 行 い た い 現 状 程 度 で よ い 積 極 的 に 行 う こ と は 考 え て な い 現 在 い る ほ し い 求 め て い な い 現 在 い る ほ し い 求 め て い な い A (2012) ● ● ● ● B (2014) ● ● ● ● C (2014) ● ● ● ● D (2013) ● ● ● ● E (2015) ● ● ● ● F (2011) ● ● ● ● G (2015) ● ● ● ● H (2016) ● ● ● ● I (2016) ● ● ● ● J  (2015)● ● ● ● K (2015) ● ● ● ● L (2014) ● ● ● ● M (2012) ● ● ● ● N (2015) ● ● ● ● O (2015) ● ● ● ● P (2015) ● ● ● Q (2005) ● ● ● ● R (2016) ● ● ● ● S (2014) ● ● ● ● T (2016) ● ● ● ● U (2009) ● ● ● ● V (2015) ● ● ● ● W (2016) ● ● ● ● X (2002) ● ● ● ● 合計 18 4 2 18 4 2 8 5 10 12 6 6 保健室 (設立年) がん相談の スタッフ 認知症相談 のスタッフ 記入無し がんの サポート 認知症 サポート

(6)

の保健室』は地域のあらゆる年齢層の住民を対象とする が、実際のところは高齢者の利用が多いため、がん相談 の専門スタッフよりも認知症専門相談のスタッフが必 要となっていると考えられる。『暮らしの保健室』でのが んについて学習やがん患者や家族への支援が多くない ことは、現時点では、まだ地域にがん患者対応がそれほ ど求められていないことも影響していると推察された。 5 まとめ 本研究では、以下の知見が得られた。 1)地域でがんの患者と家族を支援するイギリスのマギ ーズセンターをモデルに設立された『暮らしの保健室』 が、現状では、「まちづくり」を目的として設立されてい る。その背景には、高齢化による地域包括ケアの目的が あり、近年は「人生の最終段階に対応する」「在宅医療の 支援」を目的として、設立されてきており、地域での生 活継続のための役割を担うと期待される。 2)『暮らしの保健室』の運営スタッフには、看護職を中 心としたスタッフが多く、がん患者の相談活動を行って いる点で、高齢者を対象とし、スタッフに保健師、主任 介護支援専門員、社会福祉士を配する地域包括支援セン ターとは異なる役割を担っていると言える。 3)全国の『暮らしの保健室』の活動状況を『まちの保 健室』と比較検討した結果、『暮らしの保健室』は地域の 中で、常設で活動を行っているケースが多いことが明ら かになった。また『暮らしの保健室』は認知症やがんの 相談を行い、サロンや体操など地域住民の交流の場を提 供している点で、健康チェックを主とする『まちの保健 室』とは異なる活動を行っていることが明らかになった。 以上から、2011 年に開設され、全国に約 50 室展開さ れてきた『暮らしの保健室』は高齢者だけを対象として おらず、がん相談をしている点で地域包括支援センター とは異なる役割を果たしている。しかし、イギリスのマ ギーズセンターのような充実したがん患者支援は必ず しもなされていない。がん患者や家族に「暮らしの保健 室」の活動が浸透していないことが背景に考えられるが、 これについては、個別の訪問調査によって地域での利用 者の特性や課題などを深く追跡していく必要がある。 【参考文献】 1)秋山正子(2011)「在宅医療連携拠点事業による『暮らしの保 健室』の展開」『平成 23 年版看護白書』日本看護協会出版会、pp87-92. 2)秋山正子(2015)「訪問看護の実践からみた地域包括ケアにお ける看取り」『医療と社会』25(1)1、pp71-83. 3)神崎初美・神原咲子(2009)「兵庫県全域『まちの保健室』を 利用している地域住民の健康状態と利用ニーズ」『UH CNAS,RINCPC Bulletin』16、pp.39-49. 4)高橋泰(2013)「地域の医療提供体制現状と将来-都道府県別・ 二次医療圏データ集-(2013 年度版)」『日本医師会総合政策研究機 構』No.293. 5)中村悦子(2004)「地域における看護提供システムモデル事業 『まちの保健室』」『新潟青陵大学紀要』4、pp.109-121. 6)日本看護協会(2002)「新しい看護提供システム『まちの保健 室』構想とモデル事業」『平成 14 年版看護白書』日本看護協会出 版会、pp3-72. 【補注】 注 1.地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、権利擁 護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、 高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援すること を目的とし、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として市町 村が設置している。平成 24 年 4 月時点で、全国で約 4,300 か所が 設置されている。 注 2.国立がん研究センターの「がん統計」によると、日本の死因 の第1位はがんである。男女とも 60 歳代から増加し、高齢になる ほど罹患率が高い。生涯でがんに罹患する確率は男性 62%、女性 46%である。がんと診断されてからの生存率が高くなり、がんに なっても安心して暮らせる社会の構築が重要として 2012 年に「が ん対策推進計画基本計画」が見直しされた。全国のがん診療拠点 病院 434 か所に、相談支援センターを設け、研修を受けた相談員 が配置されている。

注 3.イギリスの造園家であった Maggie Keswick Jencks が、自身 のがん体験の中で著した「a view from the front line」 の計画 をもとに、地域の中で患者や家族が気軽に立ち寄れ、自分を取り 戻せる場所として、がん専門看護師の協力で、建築家の夫と共に 1996 年にエジンバラで最初の施設を開設し、現在は英国で 20 ヶ 所を越え、海外にも広がっている。がん患者と家族が専門的な支 援を予約なく無料で受けられ、運営はチャリティで行われている。 注 4.文献 3)において、日本看護協会のモデル事業のみならず、 各地でこのコンセプトの実現に向けて『まちの保健室』に取り組 む個人やグループでの看護職がいることや看護職が他専門職、市 民とネットワークを作ってまちづくりをしていることが報告され ていたが、実際の活動は明らかになっていない。 注 5.『暮らしの保健室』と『まちの保健室』のホームページから 得られる情報には、実際には活動があっても必ずしも記載されて いない可能性や、同じレベルの情報量が得られない等の問題点が ある。しかし、両者の全体的な情報を把握するには、これに代わる 手法が困難なため、本研究では情報の限界があることを認識の上、 取り扱うことにした。 注 6. 調査の回答者は男性 5 人、女性 19 人。60 歳以上 6 人、50 歳 代が 7 人、40 歳代 5 人、30 歳代 4 人、20 歳代 2 人であった。 注 7. 二次医療圏は、一体の区域として病院等における入院に係 る医療を提供することが相当である単位として、地理的条件・日 常生活の需要の充足状況・交通事情等の社会的条件を考慮されて いるため『暮らしの保健室』の活動地域とした。

注 8.マギーズセンターの「How Maggie’s can help」で紹介され ているがん患者とその家族らへのサポートの項目を筆者が日本語 に訳した。

【謝辞】本研究の趣旨を理解しアンケートに協力して頂いた『暮 らしの保健室』のみなさまに心から感謝いたします。

参照

関連したドキュメント

The input specification of the process of generating db schema of one appli- cation system, supported by IIS*Case, is the union of sets of form types of a chosen application system

Laplacian on circle packing fractals invariant with respect to certain Kleinian groups (i.e., discrete groups of M¨ obius transformations on the Riemann sphere C b = C ∪ {∞}),

We consider a parametric Neumann problem driven by a nonlinear nonhomogeneous differential operator plus an indefinite potential term.. The reaction term is superlinear but does

She reviews the status of a number of interrelated problems on diameters of graphs, including: (i) degree/diameter problem, (ii) order/degree problem, (iii) given n, D, D 0 ,

combinatorial invariant, in particular, it does not depend on the field K , while the depth is homological invariant and in case of squarefree monomial ideal, a topological invariant

We show that a discrete fixed point theorem of Eilenberg is equivalent to the restriction of the contraction principle to the class of non-Archimedean bounded metric spaces.. We

Thus, we use the results both to prove existence and uniqueness of exponentially asymptotically stable periodic orbits and to determine a part of their basin of attraction.. Let

delineated at this writing: central limit theorems (CLTs) and related results on asymptotic distributions, weak laws of large numbers (WLLNs), strong laws of large numbers (SLLNs),