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情報伝達をミュージアム環境に活かすデザインの考察

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Academic year: 2021

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(1)40. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 伏見清香 Fushimi Kiyoka 放送大学文化科学研究科. The Open University of Japan. 第一部:現状調査報告. 情報伝達をミュージアム環境に活かす デザインの考察 Discussion of the Design Applying Information Transmission in Museum Environment. 1.はじめに   私たち人間が作り出す全てのものはデザインされており,インターネット やデジタル技術の発展と普及に伴い,デザインの領域はサービスやコミュニ ティ,社会のあらゆる領域に広がりつつある。ポール・ランドは,「すべて のものはデザインだ。すべてのものが!」と述べ,さらに ,「デザインとは. 関係である。形と中身との関係だ。」とも述べている[注1]。中身である情 報を,ユーザーにとってわかりやすい形として具現化し伝達することは,重 要である。ドナルド・A・ノーマンは,「我々は皆デザイナーだ。自らのニー. ズに役立つように環境を操作する。・・・我々が行なうデザインによって、 家を家庭に、空間を場所に、モノを所有物に変える。・・・我々は皆デザイ ナーであり、またそうでなくてはならない。」と述べている[注2]。デザイ ンの使い手は,我々生活者であると同時に,自分自身の生活をデザインしな がら暮らしているのである。 日本学術振興会の科研細目表で,環境デザインがキーワードとして含まれ るデザイン学は,総合系の複合領域の分野に分類されている。デザインは横 断的に分野を越え,複雑に広がりつつある。 このような状況において,美術館や博物館など,ミュージアムの展示環境 にインターネットやデジタル技術を活用した事例は益々増えている。ここで は,海外のリニュアルしたミュージアムの事例を取り上げながら情報伝達を ミュージアム環境に活かすデザインを考察する。. 2.ミュージアム環境におけるデジタル技術の活用 ミ ュ ー ジ ア ム に お い て も, 仮 想 現 実(VR:Virtual Reality), 拡 張 現 実. (AR:Augmented Reality),複合現実(MR:Mixed Reality)など,デジタル. 技術の発展は展示空間において表現を広げ,来館者の観察・鑑賞支援など, サービスにも広がりと効果をもたらしている。また,インターネットも展示 環境の利便性を向上させており,web にさまざまな情報端末を繋ぐことで, 展示表現の可能性は益々広がっている。情報端末は,情報に人が接するため. のインターフェースとして介在する機器端末であり,キオスク(KIOSK). 端末やタブレット端末,スマートフォンなどがあげられる。. ミュージアムにおいて,展示表現や来館者の観察・鑑賞支援に関わる情報 端末を利用した情報提供の方法はさまざまであるが,音声ガイドをはじめと して,聴覚と視覚に訴える方法は,情報端末の進化とともに変容しつつあ.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. る。どこで,誰に,何を,どのような方法で,伝えるか? その目的のため に,デジタル技術が展示空間に活かされている。. 3.ミュージアムにおける情報伝達の事例 ⑴ Päivälehti Museum(新聞博物館). ヘルシンキの PäivälehtiMuseum[図1]は ,「メディアの歴史」,「現代の. メディア」,「メディアの未来」をテーマに,新聞やニュース映像など,フィ 図1 館の入口から導入部分. ンランドと世界のメディア情報を展示している。その目標は,特に子供や若 者がメディアを読み解く能力を高めることとしており,入場料は無料であ る。このリニュアルデザインを手がけたのは,Johannes Niemine 氏(ヨハネ ス・ニーミネン)であり,複雑な情報をより理解しやすくすることを目指し て,アプリケーションから博物館全体まで,多くのプラットフォームで情報 デザインを担当し,テレビや新聞のニュースグラフィックス,地図,ビジュ アル化など実施し,デジタルグラフィックと空間グラフィックを組み合わせ た表現を実現している。ここでは,Niemine 氏に直接展示のコンセプトを解. 説していただいた。館に入ってすぐの導入スペースには,壁面と天井に色彩 豊かな四角いプレートで世界のニュースを展示している。例えば,黄は「新 図2 Niemine 氏:導入展示の色彩説明. 聞」 ,白は「ラジオ」 ,ブルーは「テレビ」 ,グレーは「コンピュータ」に関 わるニュース,赤紫は「驚き」など,直感的な情報伝達を目指している[図 2]。また,来館者が館内で使用するキオスク端末などの情報端末の多くが, ダイヤル式であるが,Niemine 氏によれば,操作が簡単であり,壊れにくい. ことがその理由とのことであった[図3]。メディアと情報そのものがテー マでありコンテンツであるためか,館内の空間全体の印象が直線的で力強い。 ⑵ Designmuseo(デザインミュージアムヘルシンキ). Designmuseo は,1873年に設立されたデザインミュージアムである。フィ. ンランドのデザインの歴史を常設展示として,インダストリアルデザインや ファッションデザインなど,75,000点以上のデザイン作品コレクションと 図3 ダイヤル式端末の使用説明. 45,000点以上の図面,125,000点以上の画像を所蔵している。現在の施設. は,建築家 Gustaf Nyströmno(グスタフ・ニストロム)によって設計された. 高校の校舎を改修し,1978年から転用されている[図4]。. KAJ FRANCK & SAARA HOPEA, MARIMEKKO, ALVAR & AINO. AALTO などフィンランドを代表するデザイナーの作品が展示されており,. タブレットをキオスク端末として使用し[図5],タッチパネルで展示解説 が閲覧可能である。. 図4 校舎を転用した Designmuseo 入口. 図5 タブレットを使用した作品解説支援. 41.

(3) 42. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 形のないメディア情報を展示している PäivälehtiMuseum の空間表現と鑑賞. 支援方法,一方,質の高いデザイン製品そのものを展示する Designmuseo の. 空間表現と鑑賞支援方法は大きく異なり,対照的である。 ⑶ Musée de I'Homme(人類博物館). パリの Musée de I'Homme は,Palais de Chaillot(シャイヨ宮)の西翼側に. あり,外観はそのままに内部を2009年から6年間の改修を経て,2015年10月 図6 入口「ようこそ」の展示. リニュアルオープンした。館のテーマである「我々は何者か」,「我々はどこ から来たのか」,「我々はどこに行くのか」を継承し,リニュアルデザインを 手がけたのは,Zette Cazalas 氏(ゼッド・カザラス)である。. 主に博物館や美術館において,建築と景観の関係性に考慮し,コミュニ. ケーションを重視したインテリアや空間デザインを実現してきたデザイ ナー,ディレクター,建築家でもある。Cazalas 氏は,宮殿の現状をできる 限り活かした提案でコンペに採択された。. 入口の展示は,世界の言葉で表現された「ようこそ」の展示[図6]から 始まり,2階に上がると,自然光が差し込み明るく,窓からはエッフェル塔 を望む風景が広がる。展示を見る近景と導線の先の中景,窓の外の遠景と続 図7 従来の展示とキオスク端末. く視線計画のリズムは,来館者を飽きさせない。また,キオスク端末や音声 ガイド,拡張現実(AR)など情報デザインを活用した展示と従来の展示物 とのバランスが良く[図7],疲れにくく飽きのこない展示計画である。更. に,芸術性の高い展示も随所に見られ,ボタンを押すと彫刻が来館者に語り かけるなど,来館者とのコミュニケーションを重視し,考えさせる展示であ る[図8]。 ⑷ Ars Electronica Center(アルスエレクトロニカセンター). リンツの Ars Electronica Center は,メディアアートに関する世界的なイベ. ントである Ars Electronica を毎年9月に開催している。フェスティバル期間 図8 明るい空間での参加型展示. 中の夜は,センターの外壁が音楽に合わせて色とりどりに表情を変えアート. となる[図9]。ドナウ川を挟んだ対岸に位置する Lentos Kunstmuseum(レ. ントス現代美術館:Museum of Modern Art Linz)と連動し,視覚と聴覚に働 きかける色彩豊かな表現は印象的である。また,一般的には難解なイメージ のあるメディアアートセンターであるにも関わらず,各種のイベントには, 子どもたちや高齢者など多くの地域住民が参加する企画やシステムは特筆す べき点である。 ⑸ 携帯情報端末を使用した鑑賞支援システム. Musée du Louvre(ルーブル美術館)では, 「ニンテンドー3DS ガイドルー. ブル美術館」[図10]が2013年から使用され,位置情報システムにより現在. 地も把握でき,わかりやすく使いやすい携帯情報端末ガイドとして使用され ている。 筆 者 ら が 研 究 を 進 め て い る comusesystem(Cooperative museum evolution. System)[注3]は,スマートフォンを使用し,国内外の美術館や博物館, 都市を Web でつなぎ,分野と地域を越えた参加型連携ミュージアム支援シ ステムをデザインしている。各館や都市が用意した「いのち」に関わる代表. 図9 昼と夜の Ars Electronica Center. 的な展示情報に加え,現地からの投稿で共有する Web 上の情報が増えて,. 利用可能なシステムの情報が蓄積する[図11]。国内外の館や都市が連携し,.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. 図10 システムの構造図. トップ画面. 組織選択 画面. 展示選択 画面. 展示解説 画面. 投稿画面. 投稿共有 画面. 互いにサポートし合えるシステムを利用することで,鑑賞者とミュージアム 側双方の支援にすることが目標である。. 4.まとめ 本稿で取り上げた調査事例のミュージアムにおける情報伝達は,それぞれ 表現手法は異なるが,ポール・ランドの言う「形と中身の関係」が良い。し かし,ミュージアムにおいて,パネル解説やキオスク端末は,観察・鑑賞行 為と時間のズレが大きい。また,モバイル型の携帯端末は,観察・鑑賞の場 で解説を閲覧することが可能となったが,一方向型である場合が多い。筆者 らの研究は利用率の向上が課題であるが,web と無線 LAN の普及に伴い「感. 想の共有」など双方向型,ユーザー参加型の展示利用が可能な手法もある。 ドナルド・A・ノーマンは,「我々は皆デザイナーだ。自らのニーズに役立. つように環境を操作する。」と述べている。ユーザーである我々が自ら能動 的にデザイン行為を行えば,その可能性は益々広がる。 インターネット上には時間と空間の概念がなく,距離や長さの概念も無 い。しかし,新たな手法の活用により,高齢化社会において,現地でリアル に鑑賞できない人々に対しては,web 上での情報提供の役割は大きい。さら. に,人口減少化が進む現代,その情報提供が,人々を現地のミュージアムで のリアルなアート体験へとつなぎ,アートリソース,ミュージアムリソース との連携など,ミュージアムの展示とその使用方法の可能性をも広げてい. る。また,鑑賞行為と展示解説の時間と空間のズレを埋め,その周辺環境, 都市との関わりにまで範囲を広げ,その使用方法の可能性をも広げつつあ る。高齢化社会,人口減少が進む現代において,人々をリアルな鑑賞行為に どのように結びつけるか,その役割は大きく,重要である。 注および参考文献. Michael Kroeger (三角和代訳):ポール・ランド、デザインの授業 ,BNN,1-18,2008. ドナルド・A・ノーマン(岡本明訳,他):エモーショナル・デザイン 微笑みを誘うモノたちの. ために ,新曜社,301-305,2004. comusesystem.com:http://comusesystem.com, 2020.4.1取得. 43.

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参照

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