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臨床研究をはじめるにあたって

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 44 巻第 4 号 311 ∼ 315 頁(2017 年) 臨床研究をはじめるにあたって. 311. 理学療法トピックス シリーズ 「臨床研究入門」. *. 連載第 1 回 臨床研究をはじめるにあたって. 内   昌 之 1). 序  論. 襲され,関節可動域の改善や自覚症状の軽減は目的を達 成するための手段であって,それらによって主体である.   「臨床研究」という言葉から,なにを思い浮かべるで. 患者が,より高い生活の質(以下,QOL)を獲得でき. しょうか。そしてまた,理学療法学において臨床研究は. ることが求められる。したがって,私ども理学療法士一. どのような位置づけにあるのでしょうか。この疑問に対. 人ひとりが,評価技術と治療手技を高め,実施された理. する答えを探る前に,理学療法士にとって理学療法とは. 学療法が確実に患者の機能改善と QOL 向上に結びつく. なにかという原点に立ち戻ってみましょう。. よう研鑽を重ねることが必要であると同時に,臨床研究.  急性期から回復期,在宅から緩和的ケアを含めて,. によって理学療法の効果を検証し,新たな試みの有効. 様々な領域で働く理学療法士における共通の使命を,あ. 性・有用性を探求することが望まれる。さらに,得られ. えて一言で表すとすれば「患者・対象者(以下,患者). た新規的かつ重要な知見を学術集会等で公表・公開し,. の役に立てること」に他ならない。理学療法士は様々な. そこで交わされた議論を踏まえたうえで論文化して共有. 疾病の治療過程を通してチームの一員として患者と家族. し,これらの過程を経てより多くの患者に役立てるべく. のために尽力し,回復によって得られた喜びを共有する. 知識を伝承することが必要である。本稿ではこのような. ことによって自己の存在価値を見出すとともに,患者か. 背景に基づき,臨床研究の全体像と,その根幹にあるべ. ら様々なことを学んでいる。. き理念について概説する。.  そこで見落としてはならないのは,実施された理学療 法が患者にとって役立っていたかという疑問とその検証. 臨床研究(clinical research)とその目的. である。慣例的に行われている筋力増強運動や関節可動.  「研究」というと言葉から連想されるのは,白衣を着. 域練習,持久性運動をはじめとする理学療法によって,. た博士が研究室で試験管や顕微鏡を使って未知の物質を. 本当に患者に有益となる改善効果が得られているのだろ. 発見するようなイメージであるが,これは「基礎研究」. うか? それは単なる自然回復と比較してどのように異. といわれる領域で,主として動物実験や細胞・分子・遺. なるのであろうか? すなわち理学療法が治療者側の単. 伝子レベルでの分析と解析が行われる。これに対して. なる自己満足ではなく,科学的根拠に基づいた意味のあ. 「臨床研究」は,患者を対象として治療効果や予後にか. る行為であることが求められている。それらを明らかに. かわる要因を解明するために行われる研究である。. するのが理学療法における臨床研究の出発点であり,臨.  臨床研究のあるべき姿,それは一言でいうと目の前の. 床場面で患者に接する理学療法士一人ひとりに,これら. 患者からの気づきと,そこで生じた純粋な疑問の解明で. を探求する役割が課せられていると考えられる。. ある。たとえば,同じ術式の心臓外科手術を受けても,.  医療の本質は,病気を治すことではなく病気を治すこ. 術後の人工呼吸器からの離脱がスムースに進む患者と,. とによって患者や家族が疾病に起因する苦痛を克服し. なかなか抜管できない患者がいるのはなぜだろう? 人. て,より質の高い生活を獲得できるよう力を尽くすこと. 工膝関節全置換術の術後に,遊脚相での円滑な膝関節の. であり,その対象は疾病ではなくあくまでも患者であ. 動きが得られる患者と,そうでない患者がいるのはなぜ. る。理学療法においても当然のことながらこの概念は踏. だろう? デイサービスに通所する同じ 80 歳代の利用者. *. Clinical Research Directions in Physical Therapy 1)東邦大学医療センター大森病院リハビリテーション科 (〒 143‒8541 東京都大田区大森西 6‒11‒1) Masayuki Uchi, PT, PhD: Toho University Omori Medical Center キーワード:臨床研究,理学療法,研究法. でも,数年前まで畑仕事をこなしていた方と,介助がな ければ立ちあがれない方がいるのはなぜだろう? この ような日常診療における疑問(clinical question)を掘 り下げて,解明の糸口を探すことが臨床研究のスタート.

(2) 312. 理学療法学 第 44 巻第 4 号. 図 2 特定集中治療室での超急性期理学療法. 図 1 臨床研究のテーマの決定からデータ解析まで. ラインである 1)。したがって,臨床研究は大学病院や研 究機関に限らず,理学療法が行われる様々な現場で,患 者に接する理学療法士一人ひとりが取り組むべき課題で ある。. 臨床研究の進め方  実際に臨床研究を進めるに際しては,いくつかのス. 図 3 在宅患者の不整地での応用歩行練習. テップを経て準備を行う必要がある。それらのステップ について,順を追って説明する(図 1)。 問をもつ」ことである。臨床で見過ごしていた現象に 1.研究テーマの探し方. 「なぜだろう」と疑問をもち,その疑問について様々な.  まずはじめに決めなければならないのが「研究テー. 視点から見つめ直し,新たな切り口と柔軟な思考で解き. マ」である。研究テーマは日常の診療場面で生じた疑問. 明かすのが臨床研究の過程である。. をもとに決定されることから,必然的に日頃頻繁に接す る疾病に関連したものとなる。少し場面を変えて考えて. 2.疑問の構造化. みよう,ヤドカリの生態を観察するのであれば南の島に.  ひとつの疑問から臨床研究の全体像を形づくる手順. 行き砂浜で貝殻に身を隠すヤドカリが動きだすのをじっ. として,PECO と PICO という疑問を構造化する思考. と待つ必要があり,高山に生息する蝶を探すなら,虫取. プロセスが用いられる(図 4) 。これは Patients(Par-. り網を持って森の中を歩き回らなければ見つけられな. ticipants) : 患 者,Exposure: 要 因 /Intervention 介 入,. い。砂浜で虫取り網を振り回しても,森に生息するアゲ. Comparison:比較,Outcomes:効果,の頭文字から表. ハ蝶を探しだすことはできないように,疑問を解き明か. され,P:どのような患者に対して,E:どのような要. すためには,環境に即したテーマを選ぶことが大切であ. 因があると,C:そうでない場合と比較して,O:どの. る。臨床研究のテーマにたどり着くためには,急性期病. ような効果がみられるか,という一連の流れによって,. 院であれば,必然的に周術期や急性期の症例の診療を通. 2) 臨床における疑問を解明する方向性が明確化される 。. して生じた疑問が(図 2),高齢者施設や在宅であれば 維持期の理学療法の中に(図 3),テーマとなり得る未. 3.新規性と文献検索の重要性. だ解明されていない疑問が溢れているはずである。.  臨床研究では,しばしば「新規性(新奇性,neues:.  研究テーマの決定は,臨床研究において大切なステッ. ノイエス) 」という用語が用いられる。これは研究全般. プである。研究テーマを決定するうえで重要なのは, 「疑. において重要な意味をもつ用語で,今までに報告された.

(3) 臨床研究をはじめるにあたって. 313. 図 4 臨床における疑問の構造化─ PECO と PICO. ことのない独自の仮説に基づく新しい内容という意味で 用いられる。  耳慣れない言葉が続いたので,ここでちょっと思考 を切り替えて,エベレストと江ノ島について考えてみ よう。ネパールと中国の国境にある世界最高峰のエ ベレストは,標高 8,848 m に達し,頂上の酸素分圧は 53 mmHg,理論上 PaO2 は 0 mmHg となるため常人で は生存すら困難な場所である。したがって,エベレスト 登頂は極限の条件下で限界に挑むという観点から特別な 意味をもつ。一方,江ノ島は湘南(神奈川県)にある標 高 60 m の小高い島で(図 5),江ノ島の登頂を達成した. 図 5 鎌倉七里ガ浜から望む江ノ島. としても(実際に頂上まで登ってみると急な坂が多くし んどいが)ニュースで報道されることはない。  本題に戻ると,周知の事実や既に多くの報告がある研 究内容は,臨床研究として意味がないとはいえないが,. 関の倫理委員会の申請要件を把握し,その書式に基づい. 新規性に乏しいと判断される。多くの時間と労力を費や. て研究計画書を作成すると効率的である。実際にデータ. してようやく結果を出したものの,同じような研究が既. を取り終えた後に必要なデータが不足していることに気. に諸家により報告されていたのでは,研究の新規性とし. づき,せっかくの研究が無駄になってしまうような事態. ては意義が低く,結果としてその研究に投じた労力・努. に陥らぬよう,研究計画にかかる時間を惜しまず,また. 力の大部分が無駄になってしまう。そのような事態を避. 共同研究者とともに十分な推敲を行う。. けるために,臨床研究のテーマが決まったら関連する文 献を十分に検索して読み込む必要がある。. 5.適切な研究計画のたてかた  臨床研究には,正当な根拠からなる大義名分が不可. 4.研究計画の策定. 欠である。十分に研究計画を吟味し,その結果が患者.  研究テーマが決定して先行研究に関する十分な文献検. にとって有益であることを前提に仮説を立てて取りか. 索が一段落したら,次に行うのは研究計画の立案と研究. かる必要がある。明確な目的もなく,ただ漫然とデータ. 計画書の作成である。研究計画では研究テーマをはじ. を取りはじめるような行為は慎まなければならない。し. め,実施期間,実施場所,共同研究者,研究デザイン,. ばしば見かける不適切な「研究のための研究」の例とし. 対象患者数(サンプルサイズ),統計解析の方法,測定. て,「ひとまず手当たり次第にデータを取り,やみくも. 機器のリストアップ,インフォームドコンセントの方法. に統計ソフトに投入して有意な相関を探しだす」という. と承諾書の作成,データの匿名化と保管方法など,研究. パターンがある。これはどんな魚がいるのかもわからず. のはじめから終わりまでの手順が網羅されている必要が. にとりあえず釣り糸を垂れて,なんでもいいから食いつ. ある. 3). 。研究計画書が完成したら,次に倫理委員会の承. 認を得る必要がある。このため,あらかじめ申請する機. いてきたら引き上げるような「なにを明らかにするため か」という本来の目的が欠落した不適切な研究である。.

(4) 314. 理学療法学 第 44 巻第 4 号. 治療対象である患者を扱う臨床研究において,このよう な盲目的に釣り糸を垂れるような不謹慎な調査は行って はならない。明確な仮説を基に,研究デザインを十分に 練り上げ,結果について論ずることのできるサンプルサ イズを算出して研究計画をつくりあげることが必要であ 4) る 。学術集会の応募演題の審査や,学術誌の論文査読. に長年携わっていると,次第にその抄録や論文に確固と した理念や魂があるかそうでないかが,行間に透けて見 えてくるようになる。これから臨床研究をはじめようと している澄んだ心の諸氏には想像がつかないであろう が,昨今,エビデンスという名の麻薬がもたらすデータ の捏造や,研究業績ありきの誤った成果主義に追い立て られた,意味のない研究が後を絶たない。理念を見失っ 図 6 学術集会報告から論文掲載まで. て,見せかけのエビデンスや研究業績が目的となり手段 と目的がすり替わった逸脱した研究に陥らないよう,常 に己に厳しく臨むべきである。. く多くの患者にとって有用な情報を伝えることができる 6.データ収集と結果分析. ようになる。.  臨床研究,特に介入研究では,データ収集に際して原.  学術集会での報告は臨床研究の中継地点であり,論文. 則的に調査対象者の同意が必要である。このため,研究. の完成によってひとつの疑問に対する答えが具現化され. 計画立案の時点で研究内容説明書と同意書,ならびに同. る。言い換えると論文執筆を行わない研究は,未完成な. 意撤回書を作成する必要があり,あくまでも患者に協力. 研究である。時間と労力がかかっても,一つひとつの研. の意志がなければデータ収集は行えない。また,患者か. 究を丁寧にまとめ論文を公表することによって,同様の. ら得た貴重なデータには多くの個人情報が含まれるた. 疑問をもつ日本中(英語論文であれば世界中)の人々に. め,データの記録と管理はとりわけ慎重に行う必要があ. 情報提供が可能となり,より多くの患者に役立てること. る。予定のサンプル数に達しデータ収集が完了したら,. ができる。. それ以降はデータに手を加えないようフリーズし,その 後データを匿名化して厳重に管理したうえで,統計学的. 臨床研究から得られるもの. 分析を行う。分析によって得られた結果を仮説と照らし.  臨床研究に求めるものは,患者にとって有益な診療上. 合わせ,先行研究を踏まえて十分な考察を行ったうえ. の知見であることはいうまでもないが,臨床研究は「研. で,抄録の作成に進む。. 究をして学会に発表する・論文を書く」といった一元的 な作業として帰結するものではない。ひとつの研究を通. 7.学術集会での報告と論文執筆. して,研究計画における文献検索や論文の読解にはじま.  ここから先は,いよいよ次のステップである学術集会. り,データ収集と解析の手法,抄録や論文執筆における. での発表に進む(図 6) 。得られた結果を,どのような. 文章作成能力と事象の見かた,そして論理的思考の統合. 学術集会で発表するかを決める際に重要となる要件は,. に至り,その過程における一つひとつの努力が臨床に反. その研究結果がもっとも有効に公表できる学術集会を選. 映される様々な意義を包含している。. ぶという点であり,学術集会の専門性と参加者の職種に よって選択するとともに,研究の内容と質を照らし合わ. 研究者としての森と木としての臨床研究. せて決定する。研究内容によって,より専門性の高い学.  臨床研究はひとつの研究により完結するものではな. 術集会や研究会が適切であったり,逆に多職種による学. い。臨床研究に挑む研究者を森として捉えると,個々の. 術集会で広く情報発信をした方がよい場合があるため,. 臨床研究は森を構成する木々のような存在といえる。ひ. ステージ選択は慎重に吟味する必要がある。. とつの研究テーマに沿って,研究者もしくは研究グルー.  臨床研究で得られた結果は,学術集会で報告してディ. プが様々な角度から臨床における疑問の解明を進め,. スカッションを行うことによって揉まれ,追加研究の課. データを解析と考察を繰り返して学術集会で演題発表を. 題や新たな研究テーマが生まれる。これらの過程を何度. 行い,それらが集約されひとつの結論に到達した時点で. か繰り返し,ひとつの結論に到達した時点で論文執筆に. 論文投稿を行い,ようやく一本の木が完成する。これら. 進む。ここまでの一連の過程を経て,臨床研究はようや. の木々が,やがて研究者としての森をつくりあげ,その.

(5) 臨床研究をはじめるにあたって. 先は修士・博士への道へと通じている。いくつものハー ドルを飛び,修士号・博士号が授与された時点で研究者. 315. 結  語. としての独り立ちが認められるとともに,ある人には臨.  理学療法における臨床の現場から生まれた純粋な疑問. 床でより多くの患者のために尽くしながら研究者 ・ 指導. を解き明かしていく臨床研究は,理学療法の効果を検証. 者として探求を続けるという道が,またある人には大学. し,新たな試みの有効性・有用性を探求するとともに,. 教員など教職者としての道が待ちうけており,これら臨. 様々な意味をもつ。臨床場面で患者に接する理学療法士. 床研究の道程にゴールは存在しない。. 一人ひとりに,これらを探求する役割が課せられている。  かつてない速さで変遷する現代社会の中においても,. 理学療法のこれからと臨床研究のゆくえ. 理学療法の臨床における疑問を解き明かしていくとい.  国際的な科学技術と産業の激動によって,我が国の理. う,臨床研究の原点は変わることはないであろう。我々. 学療法の現場も大きな変化に直面している。ドイツ政. がめざすところは,常に患者のためにより役立てるよう. 府が 2013 年に提唱した第 4 次産業革命(industry 4.0). になり,患者の回復の喜びを共有できることである。. は,今まで人間が行ってきた作業をコンピュータが代替.  臨床研究の出発点に立ち,そこから一歩踏みだすこと. していくことといわれている。すでに医療分野において. によって,理学療法士として患者の治療に携わる存在で. ®. も,手術支援ロボット(da Vinci Surgical System ),. あると同時に,より多くの人に役立つ価値のある役割を. や人工関節用ナビゲーションシステム,ロボットスー. 果たすことができる。臆することなく,その一歩を踏み. ® ツ(HAL )など,テクノロジーの急速な進歩によって. だしていただきたい。. 今まで人の手によって行われてきたことが,ロボットに 5) よって代替されている 。このような奔流の中で,そう. 遠くはない将来,結果・効果を示せない理学療法は,治 療技術として認められなくなってゆくのではないかと思 われる。理学療法が,激変する社会に置き去りにされる ことなく,テクノロジーの進歩と融合・共存していくた めにも,理学療法学という学問体系に立って,臨床研究 を通して理学療法士でしかできない技術とその有用性を 検証してゆく役割を,一人ひとりが自覚してゆくことが 大切である。. 文  献 1)川村 孝:臨床研究の教科書.医学書院,東京,2016. 2)福原俊一:臨床研究の道標.健康医療評価研究機構,東京, 2013. 3)奥田千恵子:医薬研究者のための研究デザインに合わせた 統計手法の選び方.金芳堂,京都,2009. 4)Hulley SB, Cummings SR, et al.:医学的研究のデザイン: 研究の質を高める疫学的アプローチ.木原雅子,木原正博 (訳),メディカル・サイエンス・インターナショナル,東 京,2014. 5)内 昌之:急性期理学療法の変遷とこれから.理学療法 ジャーナル,2015; 49(6): 497‒504..

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参照

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