英語学習者の英単語の書き取り力と語彙サイズの関係
Ability of JEFL Students to Spell Out Heard Words and Their
Vocabulary Size.
Mariko KAWASAKI
川 﨑 眞 理 子
Keywords: 日本人英語学習者、綴り、書き取り、正書法、書記素-音素対応規則 JEFL, spelling, dictation, orthography, DPC rules
抄録
本研究は、日本語識字力を有する英語学習者の英語綴り力の実態と効果的な学習方法の解明を目 的とする研究の一部として、教室での指導を受けてきた大学生の綴り能力を調べた。実験協力者は、 実単語や非単語の音声を聞いて、思ったとおりにその綴りをキーボードで入力した。非単語のタス クでは、頭子音のみを提示したタスクに続いて、語末の文字(文字列)をも提示して指定したタス クを行った。その結果、正答率については、2種類の非単語タスク間と、それらと実単語間に相関 がみられた。加えて、PC語彙サイズテストの結果との相関もみられた。語彙力が高いほど未知語 を聞いて、その綴りを想起する力があるようである。1.背景
2020年度から小学校での英語教育が全面実施となった。すでに2018年度からの移行措置により、 3年生から6年生では英語の授業が行われてきたが、全面実施により、3,4年生は「外国語活動」、 5,6年生は「外国語」という教科となった。小学校で外国語(英語)の授業が導入されることになっ た経緯は、外国語によるコミュニケーション能力の必要性が高まったためである。小学校中学年時 から外国語に慣れ親しむ、外国語によるコミュニケーション能力の向上、中学校で英語授業へのスムー ズな接続などが期待されている。 外国語(英語)が教科となった高学年では、やや消極的だった文字指導も実施されている。この 文字指導は読み書きの指導を表しているが、指導の可否やその目標、さらには指導方法に至るまで、 議論は尽きないようである。なかでも、日本語のひらがなの読み書き学習が、仮名の正書法的透明 性並びに規則性の高さから比較的容易であることから、英語の読み書き力の習得過程や難しさは理 解されていなかった。近年ようやく学習障害に関する知見が高まり、識字困難といわれる事例も注目されるようになってきた(村上、2011)。英語の読み書きの習得は、難しい故に、個人差が大きく、 いわゆる「英語嫌い」を早期に生み出してしまうという懸念もある。にもかかわらず、英語母語話者や、 第二言語として英語を英語圏で使用する人たちが対象の研究は数多いものの、日本人英語学習者が 日本の環境下で、どのように英語の読み書き能力を習得していくのかについての研究はかなり限定 的である。結果的に、開始時期や学習内容に関しての議論や、英語の読み方や綴り方は暗記に頼り、 新出語は自らの力で読み書きできない状態が残っているようである。 英語圏では十分な量の音声と文字に接触することと、文字と音の対応規則を学ぶことが、読み書 き能力の獲得に必須としている。話ことばの音韻認識力を獲得し、文字を知り、この二つの対応が わかって読み書きができるようになる。そして、この処理が迅速かつ正確にできるようになって、 読解が可能となる。母語としての英語の読み書きの習得研究は、文字と音素の対応規則の他に、 body(beanの ‘ean’)や音節など、より大きな単位の対応規則も、流暢な読みの実現に重要な役割 を持つと報告されている(Kessler & Treiman, 2001, 2003)。一方、幼少期には実はこのような大 きな単位の影響は小さく、音―文字の対応規則に依存するという報告もある(Caravolas, Kessler, Hume, & Snowling, 2005)。加えて、Stanovich & West(1989)は、成人では、文字に触れる機会 と、正書法処理能力は関係があるとしている。
日本語を母語とする学習者の英語音韻認識力については、種々の報告がある。まず、日本語の音 韻認識の影響と、練習による変化が指摘されている(湯澤・関口・李, 2007, 湯澤・湯澤, 2013, 斉 藤・川﨑・禰冝田,2014, Kawasaki & Saito, 2015)。また、英語学習者の単語を音読する力と、文字 と音の対応規則の指導効果について、一定の見解も示されている(Kawasaki, 2009, 2011, 2012, & 2013)。しかし、日本語の識字力(ローマ字を含む)と英語の識字力の関係や、未知語を綴る力の研 究は多くない。英語圏では学習の成果を表すとされている後述のInvented Spellingについても、十 分に理解されておらず、学習者が自由に聞こえたとおりに綴った結果は否定的に受け止められるこ とが多いようである。また、母語の正書法の規則性が高い場合、規則性が低い第二言語への転移は 負の影響となることが多いため、詳細な解明が望まれている。 文字から音への変換である読みよりさらに難易度が高い、音から文字への変換能力については、 聞き取る能力と音素認識力、さらに音と文字との対応規則の知識が必要である。教室での書き取り を観察していると、アルファベットで書けない語は片仮名で記す学生がほとんどである。英語とし ての音素認識ができていないのであれば、アルファベット文字で記せない。しかし、アルファベッ トで記しておかないと、後に辞書等を使って調べることが難しくなると助言すると、ある程度でき る場合もある。この観察から、既知(聞いたことがある)の単語の場合は、正誤のばらつきはあるが、 何とかアルファベットで表記できることが多く、未知語については、かなり難しいと推測できる。 すなわち、新規の単語の綴りを推測して書く力は身についていない。もっとも要求されていなけれ ば、身につかない力であろう。しかし、母語話者の識字力獲得過程では、自分なりに綴り、たとえ invented spellingと呼ばれる、必ずしも正解ではない綴りでも、記してみることが当該力の獲得過 程では意義があるとされている(Treiman, 2017)。英語を外国語として学ぶ場合でも、程度の差は
あれ、同様のことが言えるのではないだろうか。加えて日本人英語学習者が、読解に至るために、 すなわちテキストを流暢に読み進めるためには、綴りの仕組み(正書法)の知識と音とに変換する 能力が重要であると報告されている(吉川・梁、2015)。彼らは、単語レベルでの綴りの流暢な処理 が読解に影響するとしている。
2.調査研究課題
本研究は、行動実験手法を用いて、次の点を明らかにすることを目的とした一連の研究の一つである。 日本語を母語とし日本語識字力を有する英語学習者の未知の英単語を綴る力、 そしてその根底にある英語正書法に関する知識はどのようなものか。 本実験では、未知の単語を綴る力を調べ、学習者の英語力をその指標の一つである語彙力で測定し、 両変数間の相関を検証した。語彙力は、英語の識字処理を求められるテストを採用した。3.調査
3.1 刺激 調査に使用した刺激は、母音/i:/、/ei/、/oʊ/、および/u:/を含む単音節の実単語23語と非単語27語、 そして練習用の実単語10語である。非単語はARC Nonword Database(Rastle, Harrington & Coltheart, 2002)を使って選定した。 選定条件は、非単語ではBody Friendの数が1~6語と少ない語及び、7~21語と多い語を抽出し た。さらにその中から、できるかぎりBody Enemyがないか、数個の語を選んだが、‘sone’にのみ Body Enemyが6語存在する。ここで、Body FriendとBody Enemyとは、それぞれBody、すなわ ち語末音節の頭子音を削除した残りの部分の読みが同じである単語と読みが異なる単語である。例 えば、刺激bainにはBody ‘-ain’を/ein/と読むBody Friendが21語(brain, chain, gain…)あり、 Body Enemyは1語も存在しない。刺激’daim’にはBody Friendは3語(aim, claim, proclaim)し か存在しないが、Body Enemyも存在しない。 刺激に使用した音を表す実単語、非単語内の綴りは次のとおりである。 /ei/: a-e、ae、ai /i:/: e-e、ee、ea /ai/: i-e、ie /oʊ/: o-e、oa、oe /u:/: u-e、ue、ui 実単語は、上記と同じ母音を含む2~3音素で、3~6文字、平均4.6文字の語を選定した。難 易度はできるだけCEFR-JのAバンドから選定を試みたが、strait, leap, 並びにpieがBバンドで、
foamはリストに含まれていない。しかしながら、いずれも外来語として使用するなど、音声的に は聞いたことがある語であろう。練習用には短母音を含む単音節語でさらに難易度が低い、あるい は、外来語として親しみのある語(cat, clip, dot, him, pen, red, sadなど)を使った。音声はGlobal Voice Version 3による合成音声である。表1は非単語及び実単語刺激と、非単語の語尾綴り指定表 示である。非単語の詳細データは付録に示す。 表1 非単語及び実単語刺激 非単語番号 非単語 語尾綴り画面表示 実単語 CEFR-Jバンド *実単語番号 1 bain b____n rain A1 14 2 daim d____m claim A2 4 3 dase d___se case A1 3 4 deam d____m team A1 22 5 froe fr___e toe A2 23 6 hite h___te site A1 17 7 jobe j___be globe A2 8 8 kome k___te home A2 9 9 kuit k____t fruit A1 7 10 lupe l___pe
11 mame m___me name A1 11 12 meke m___ke 13 neep n____p sleep A1 18 14 noam n____m foam --- 6 15 noap n____p soap A2 19 16 pait p____t strait B2 21 17 peap p____p leap B1 10 18 prie pr__e pie B1 13 19 reak r____k peak A1 12 20 reem r____m seem A2 15 21 roat r____t boat A1 2 22 rute r___te cute A1 5 23 slue sl__e blue A1 1 24 soke s___ke
25 sone s___ne stone 20 26 teet t____t sheet 16 27 toap t____p soap 19 *各非単語に対応する実単語を示す。実単語番号はアルファベット昇順に付与。
*CEFR-Jレベルは、The CEFR-J Wordlist Version 1.6. Compiled by Yukio Tono, Tokyo University of Foreign Studiesに基づく。
3.2 実験方法
心 理 学 実 験 用 ソ フ ト ウ エ アSuperLab Version 5.0.5をIntel社Core i7 8th Generation搭 載 の
Windows 10 ラップトップPC(DELL Latitude 5590)で動作させた。協力者は、15インチ画面に提示 される実験概要と手順の説明を読み、必要に応じて質問をし、理解できたら、練習タスクを始める。 練習終了時に、改めて疑問点を明らかにすることができる。続いて非単語タスク1及び2、最後に 実単語タスクの順序で実施する。各タスクの手順は、共通で、刺激を見る、ヘッドセットで音声を 聞く、キーボードで綴りを入力する、である。タスク内の刺激の提示順序は実験毎に無作為に変更 される設定とした。 タスク内の画面提示並びに音声提示を図1に示す。非単語タスク1ではまず、準備の画面①が提 示され、スペースバーを押すと画面が変わり、頭子音と 音声を聞く が提示される②。スペースバー
①
②
②
③
③
語尾の綴り指定なし
語尾の綴り指定あり
準備ができたらスペースバーを押してください。 k k___e. k k___e. k _____ k _____ 図1 刺激提示例:非単語タスク1(綴りヒントなし)と同2(綴りヒントあり) 準備画面に続いて、刺激の一部が提示され、音声を聞くように指示がでる。スペースバー を押すと音声が聞こえるので、その音を表す綴りをキーボードで入力する。音声提示 と入力は2回繰り返される。を押すと音声が聞こえる。同時に頭子音に続いて下線が現れるので、聞こえた単語の綴りを入力する。 もう一度同じ音が聞こえ、新たに下線が現れるので、異なる綴りを想起した場合はそれを入力する。 何も入力しないでもよい。非単語タスク2では、綴りのヒントが提示される③。頭子音と末尾の文 字が提示される(図2)。③の後、もう一度音声と入力画面が提示される。その他は非単語タスク1 と同様である。練習タスクと実単語タスクは非単語タスク1と同様である。すべてのタスクにおい て、スペースバーを押してから音声提示までの時間(ISI: Inter-Stimulus Interval)は500 ms、音 声提示後の入力時間として1回目は7000 ms、2回目は6000 ms、そして3回目は5000 msを保証した。 準備画面が提示されているとき、協力者は自由に時間を使える。また、練習タスク、非単語タスク1、 ならびに非単語タスク2それぞれの後で指示が提示され、そこでも必要に応じて休憩できる。 3.5 語彙力調査 SuperLabでの実験終了後、語彙力をPC版語彙サイズテスト(相澤&望月, 2002)により測定した。 このテストは、PC画面に日本語が提示され、その下に日本語の意味を表す英単語の選択肢が3語 で示される。適切なものをクリックし、「次」を押すと、次の問いが提示される。最大提示時間は、 5秒である。1000語から7000語レベルまで7レベルに分割されており、各レベルに25問ある。各問 の回答時間が5秒であるので、素早く意味を想起しなければならない。すなわち、時間制限がない テストと比較して、より運用性の高い語彙のサイズを測定していると言えよう。各25問であるため、 語彙サイズは正答数÷25×1000で表す。ここでは総問題数に対する正答率を分析に使用した。
4.分析と結果
4.1 実験協力者 協力者は1年次より3年次まで週当たり、必修・選択合計2,3コマの英語の授業を受けている大 学生(18~22歳)とした。有償で実験に協力してくれる大学生を応募し、実験の説明をし、協力に 同意する旨を署名した者が、実験に参加した。合計21名のデータを収集した。この21名は大学2~ 4年生、年次内訳は1年生が2名、2年生が9名、3年生が9名、そして4年生が1名であった。 年齢は18~21歳で、平均19.4歳であった。協力者は全員、大学の後期授業期間中の任意の時間に個 別に実験に協力した。 4.2 入力綴りの正誤判定 入力した綴りの正誤判定は、各タスクにおいて与えられた入力2回のうち、初回の入力の正誤判 定のみを分析対象とする。選定した刺激の綴りの他、表2に示す綴りが想定される。このうち、 ey、並びにewは語末にあることが多く、この後に子音がつく語(固有名詞、複合語を除く)は存在 しないか、あるいは極めて少ない。owについては、/au/を表す綴りとしての語は多いが、/oʊ/と読み かつ直後の子音で終わる語は少ない。ただし、ownは頻度が高い語が存在する(Brysbaert & New, 2009)。しかし、母音部分の綴りを入力することを求めているので、語尾綴りの指定がない場合は正答とした。 4.3 記述統計結果 正答率と音声提示から入力開始までの反応潜時、及び語彙サイズの記述統計値を表3に示す。綴 りのタスクは、協力者毎の集計である。欠損を含むデータの不備はなかったため、サンプル数(N) はすべての変数について、21である。 非単語タスク1においては、正答率の分布幅が広い(.04~.91)が、平均正答率は非単語タスク2 より低かった。非単語タスク2は正答率の分布幅が狭い(.19~.65)実単語タスクは非単語タスク1、 2いずれよりも平均正答率が高かった。音声提示終了時点から入力開始までの平均反応潜時は非単 語タスク1、2、および実単語タスクで、それぞれ2.65秒、2.84秒、および2.60秒であった。語彙サ イズについては、平均は4千語を少し上回っていた。 4.4 相関分析 各変数(綴りの正答率、反応潜時、並びに語彙正答率)間の関係を検証するために、相関分析を行っ た。サンプル数が少ないため、ノンパラメトリックのSpearman相関分析の結果を表4に示す。 実単語綴りの正答率は、非単語の語尾綴りの指定がない場合の正答率との間に、中程度の相関 (r=.576, p = .006)があり、綴り指定がある場合の正答率との間には、高い相関(r =.823, p = .000)があっ 表3 記述統計値(N=21) 非単語タスク1 非単語タスク2 実単語タスク 語彙正答率 (語彙サイズ) 綴りヒント有無 無 有 無 平均正答率 .28 .37 .52 .63(4410) 最大値 .91 .65 .87 .76(5320) 最小値 .04 .19 .26 .50(3520) 平均反応時間 2650 ms 2840 ms 2600 ms ― 表2 母音と正答とした綴り 母音 正答とする綴り /ei/ a-e ae ai ay /i:/ e-e ee ea ey /ai/ i-e ie --- igh /oʊ/ o-e oe oa ow /u:/ u-e ue ui oo, ew
た。また、非単語綴りにおいては、語尾の綴り指定がない場合とある場合の正答率の間に、中程度 の相関(r =.560, p = .008)があった。反応潜時についても同様に、実単語綴りと、非単語の語尾綴 りの指定がない場合との間に、中程度の相関(r =.631, p = .002)、非単語の綴りの指定がある場合 との間に、中程度の相関(r =.562, p = .008)、そして非単語綴りの語尾綴りの指定がない場合とあ る場合との間に、高い相関(r =.844, p = .000)がみられた。語彙正答率については、非単語語尾綴 りあり・なし、並びに実単語の綴りそれぞれの正答率との間に、中程度の相関(r =.486, p = .025; r =.468, p = .032; r =.542, p = .011)があった。
5.考察
本実験では、英語を専攻としない大学生の英単語を綴る力と語彙力の間に相関関係があることが 検証された。語彙力との相関は中程度ではあるが有意であったことから、未知語を聞いたときに、 それを聞き取り、アルファベットで表記する力と、語彙力には関係があるようである。しかしながら、 綴り力によって語彙力が伸びたのか、語彙力が伸びた結果として綴り力が高まったのかは不明であ る。十分とは言えないながらも、未知語を書き取る力を有している協力者らは、テキストを読んだり、 単語に注目して記憶することを試みたりする教育環境において、書き表すために必要な英語書字体 系の規則に気づいたのかもしれない。ただし、それが明示的指導によるものなのか、テキストへの 暴露によって暗示的に獲得した能力かは、ここでは不明である。逆に、学習過程で起こったこのよ うな文字と音の間の規則に関する学習が、語彙力の伸長に寄与した可能性もある。しかしむしろ、 実験時点までの英語学習やその他の英語に触れる機会の中で、綴り力と語彙力は双方向に作用して いると考えるのが自然であろう。 表4 Spearman ノンパラメトリック相関分析結果 綴り正答率 綴り反応潜時 語彙正答率 非単語 実単語 非単語 実単語 語尾綴指定 語尾綴指定 なし あり なし あり ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① 1.000 .560** .576** -0.349 -0.250 -0.312 .486* ② 1.000 .823** 0.010 -0.006 0.053 .468* ③ 1.000 0.044 0.116 0.003 .542* ④ 1.000 .844** .631** -0.164 ⑤ 1.000 .562** -0.137 ⑥ 1.000 -0.206 ⑦ 1.000 **有意確立p<.05結果の詳細から、実単語においては綴ることができている母音であっても、非単語になると正答 率が低くなることがわかる。その理由として次の二つを考える。一つは、単語の綴りは丸暗記に依 存し、綴りの規則(音―文字変換規則)を習得していない可能性である。他方は、未知語を聞いた ときに正確に文字に変換できる音韻認識ができていない可能性である。本実験では、非単語を聞い て、綴るタスクであり、聞いたときの音韻表象は不明である。しかしながら、非単語タスクにおい て、語尾の綴りのヒントがある場合には、ない場合と比較して正答率が高くなった。このことから、 やはりある程度の綴りの規則を知っていると考えられる。実単語の正答率と語尾綴りがある場合の 正答率とが高い相関を示すことからも、単語を綴る力が高い者は、規則も習得していると言えよう。 反応潜時については、各タスク間で相関があるのみで、正答率との相関はないことから、キーボー ド入力の速さを反映している可能性がある。練習タスクにおける反応潜時を反映する必要があるで あろう。
6.結論と今後の課題
日本人英語学習者の英単語の綴り力、すなわち英語の音を文字化する力は、予想外に低い結果で、 語彙力との相関がみられた。また、ある程度の綴りの知識があり、その知識は語彙力と関係がある こともわかった。綴る力の現状を把握し、その背後にある要因を明らかにすることは、綴り力の獲 得プロセス並びに効果的な指導方法の提案に欠かせないと考えている。ここで報告した実験は解明 への入り口であり、この結果を踏まえて、次の実験を計画している。また、本実験の誤答分析からも、 綴り力の側面が明らかになると考えている。さらに、今後に向けて、少なくとも2つの実験上の問 題点が明らかになった。 一点目は、聴覚提示された刺激を協力者がどのように聞き取ったかの問題である。本実験におい て彼らは、英語の単語を聞いて、思ったとおりに綴ったが、その綴りを見る限り、聞き取った音の 正誤そのものが疑わしい。本稿の報告範囲ではないが、誤答は、ローマ字規則の適用や、英語正書 法に違反する(存在しない)文字列が多数であった。そこから推測する限り、ここで扱った長母音 の聞き取りには問題がないとして、分析した。しかし、例えば、子音/m/と/n/の混同や、長母音/i:d/ を/ind/と聞いたことを示す回答も存在した。従って、聞いた音声を復唱してから綴りを入力するな どして、少なくとも音韻表象の正誤を確認する必要があると考える。次に、刺激の影響要因である。Coltheart, Davelaar, Jonasson, & Besner(1977)によると、イ タリア語を除く言語では、非単語の近傍語サイズ(neighborhood size: N-size)が、非単語を読み 方に影響するとしている。すなわち、非単語を音声化しようするときに、当該語の綴り中のいずれ か一字を置き換えてできる実単語が想起され、その影響を受けた読み方をするということである。 この影響を明らかにするためには、近傍語の頻度、その読み方が対象非単語と同じか異なるかも統 制する必要がある。 反応潜時の測定については、その意義を含めて検討したい。キーボード等による入力で反応潜時 を測定するならば、入力速度のベースライン補正も必要であろう。実社会において、未知語を綴る
力を要求される場面として、未知語を取り急ぎメモし、後に調べたいというような場面が考えられる。 そのようなとき、どのようにメモすることが多いであろうか。行動実験手法を取りつつも、学習者 の利便性を高めるために反映できる実証研究に改善しなければならない。
謝辞
本研究は科学研究費助成事業基盤研究C(18K00855, 代表:川﨑眞理子)の助成を受けたものである。参考文献
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* The CEFR-J Wordlist Version 1.6. Compiled by Yukio Tono, Tokyo University of Foreign Studies.
付録
実験刺激リスト:非単語‘(実単語は本文中参照)
Body: 単語の末尾の母音または母音と子音。音声ではライム(脚韻)に当たる部分。 Body Friend: Bodyの発音が同じ単語 Body Enemy: Bodyの発音が異なる単語
非単語 母音部の綴り Friend数Body 区分
Body
Friend数 Enemy数Body
Body Enemy 出現頻度 合計 1 bain ai 多 21 0 0 2 daim ai 少 3 0 0 3 dase a-e 少 3 3 64 4 deam ea 多 11 0 0 5 froe oe 多 8 1 14 6 hite i-e 多 12 0 0 7 jobe o-e 少 4 0 0
8 kuit ui 少 2 1 11 9 lupe u-e 少 1 0 0 10 mame a-e 多 12 0 0 11 meke e-e 少 1 0 0 12 neep ee 多 13 0 0 13 noam oa 少 3 0 0 14 noap oa 少 1 0 0 15 kome o-e 少 6 2 2540 16 pait ai 少 4 2 5 17 peap ea 少 5 0 0 18 prie ie 多 7 1 0 19 reak ea 多 13 2 105 20 reem ee 少 3 0 0 21 roat oa 多 11 0 0 22 rute u-e 多 7 0 0 23 slue ue 多 9 0 0 24 soke o-e 多 12 0 0 25 sone o-e 多 13 6 3824 26 teet ee 多 11 0 0 27 toap oa 少 1 0 0