香 川 大 学 経 済 論 叢 第 68巻 第 2・3 号 1995年11月 187-209
地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス
一一一内的過程の導入による時間地理学の再検討一一一原
真 志
は じ め に 高度経済成長を達成し,経済大国と呼ばれるようになったわが国で,豊かさ が実感できる生活環境をいかに実現するかが問われている。より良い生活環境 を整備していくためには,多様な人々のさまざまな生活需要を集約して対応す る必要があるが,混住化社会研究,地域社会研究で指摘されるように,しばし ば住民間に摩擦が生じており,住民間の合意形成の作業は容易ではない。合意 形成のためには,いかなる住民が,日常どのような空間を前提に,どのような 形で地域と関わり合って生活をしているのかを把握しておく必要がある。 スウェーデンの地理学者, Hagerstrandによって提唱された時間地理学は, 人々の活動の地空間上の軌跡から日常生活のさまざまな制約を分析しようとす るもので,その後,地理学だけではなく,都市計画,地域政策といったプラン ニングや, Anthony Giddensの構造化理論といった社会理論など,多方面に 影響が及んでいるが, Hagerstrandは当初,時間地理学によって都市社会に おける「生活の質」や「暮しやすさ」といった現代的課題に取り組むことを意 図しており,その視点は,まさに現在の日本で必要とされているものであった。 生活環境の議論は,地域社会のあり方と密接な関係があると考えられる。し ( 1) Hagerstrand, T “,What about people in regional science ?",Pajうersand Proじeed-ings oj Regional Scie抑ceAssoじzation,24, 1970, 7-21, 荒井良雄・II[口太郎・岡本耕平・ 神 谷 浩 夫 編 訳 生 活 の 空 間 都 市 の 時 間1,古今書院, 1989, 5 -24..荒 井 良 雄 都 市における生活活動空間の基本構造とその問題点」信州大学経済学論集, 29, 1992, 27 -67. 香 川 大 学 経 済 論 叢 第 68巻 第 2・3 号 1995年11月 187-209
地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス
一一一内的過程の導入による時間地理学の再検討一一一原
真 志
は じ め に 高度経済成長を達成し,経済大国と呼ばれるようになったわが国で,豊かさ が実感できる生活環境をいかに実現するかが問われている。より良い生活環境 を整備していくためには,多様な人々のさまざまな生活需要を集約して対応す る必要があるが,混住化社会研究,地域社会研究で指摘されるように,しばし ば住民間に摩擦が生じており,住民間の合意形成の作業は容易ではない。合意 形成のためには,いかなる住民が,日常どのような空間を前提に,どのような 形で地域と関わり合って生活をしているのかを把握しておく必要がある。 スウェーデンの地理学者, Hagerstrandによって提唱された時間地理学は, 人々の活動の地空間上の軌跡から日常生活のさまざまな制約を分析しようとす るもので,その後,地理学だけではなく,都市計画,地域政策といったプラン ニングや, Anthony Giddensの構造化理論といった社会理論など,多方面に 影響が及んでいるが, Hagerstrandは当初,時間地理学によって都市社会に おける「生活の質」や「暮しやすさ」といった現代的課題に取り組むことを意 図しており,その視点は,まさに現在の日本で必要とされているものであった。 生活環境の議論は,地域社会のあり方と密接な関係があると考えられる。し ( 1) Hagerstrand, T “,What about people in regional science ?",Pajうersand Proじeed-ings oj Regional Scie抑ceAssoじzation,24, 1970, 7-21, 荒井良雄・II[口太郎・岡本耕平・ 神 谷 浩 夫 編 訳 生 活 の 空 間 都 市 の 時 間1,古今書院, 1989, 5 -24..荒 井 良 雄 都
市における生活活動空間の基本構造とその問題点」信州大学経済学論集, 29, 1992, 27 -67.
-188 香川大学経済論叢 384 かし,時間地理学は日常の生活活動を対象としながらも,これまで地域社会の 問題については,直接扱うことが少なかった。それには,時間地理学が主に顕 在的な生活活動のみを研究対象とし,人々の内的過程を十分扱ってこなかった こと,地域社会の概念規定をめぐる暖昧さから操作的把握が困難"であったこと など,いくつかの理由が考えられる。その後,時間地理学は社会学:者との交流 などを通じた社会地理学の展開の中で多面的に検討され,また他方,最近,地 理学においても地域社会概念の整理がすすみ,新しい行動地理学が地域社会を 対象とした研究を蓄積してきており,今一度,時間地理学の枠組みを見直して, 地域社会研究に応用する時期に来ていると思われる。以上の問題関心から,本 稿では,時間地理学と地域社会研究を再検討し,特に内的過程に注目すること で,時間地理学の枠組みを地域社会研究に適用して,新たな統一的研究枠組み を提示することを試みたい。 II 時間地理学の検討 時間地理学は,人々の活動の軌跡を個別具体的に追跡する方法によって,マ クロな集計では抜け落ちてしまう人間的リアリズムを取り戻すことを意図して (2 ) 子 供 の 発 達 に 対 す る コ ミ ュ ニ テ ィ の 影 響 を 時 間 配 分 か ら 分 析 し たMantensson (1977)は数少ない例である。 Mantensson,S,“Childhood interaction and temporal organization", Econ仰nugeogrゆhy53, 1977, 99-125,荒井良雄ほか編訳, iIIJ掲 1),61 叩97 (3 ) 時間地理学の進展については,次の文献に詳しい。櫛谷圭可時間地理学の動向J, 人文地理, 37, 1985, 533-551. JII口 太 郎 ・ 神 谷 浩 夫 都 市 に お け る 生 活 行 動 研 究 の 視 点J,人文地理, 43, 1991, 348-367. (4) 地域社会概念については,最近ではLewis(1979), Davies and Herbert(1993)が, 入念なサーベイを行っている。 Lewis,G l.Ruralωmmimtzes,David & Charles, Lon -don, 1979, 255pルイス, G.J,石原 潤 ・ 浜 谷 正 人 ・ 山 田 正 浩 監 訳 農 村 社 会 地 理 学~,大命堂,1986, 226p Davies, W K D and Herbert, D. T, Communzlzes within the dties 仰 urbansOGZal geogrtψh九BerhavenPress, London, 1993, 196p (5 ) 環境心理学を援用した新しい行動地理学については, Aitken and Bjorklun Aitken什 S. C,“Local evaluation of neighberhood change"Anηals
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AmerzωηGeograJぅhers,80, 1990, 24i-267 Aitken, S. C and Bjorklund, E M,‘Trans -actional and transformational theories in behavioral geograph:y", The trofesszo。
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l geogra}りher,40. 1988 54-64一
-188 香川大学経済論叢 384 かし,時間地理学は日常の生活活動を対象としながらも,これまで地域社会の 問題については,直接扱うことが少なかった。それには,時間地理学が主に顕 在的な生活活動のみを研究対象とし,人々の内的過程を十分扱ってこなかった こと,地域社会の概念規定をめぐる暖昧さから操作的把握が困難であコたこと など,いくつかの理由が考えられる。その後,時間地理学は社会学:者との交流 などを通じた社会地理学の展開の中で多面的に検討され,また他方,最近,地 理学においても地域社会概念の整理がすすみ,新しい行動地理学が地域社会を 対象とした研究を蓄積してきており,今一度,時間地理学の枠組みを見直v
て, 地域社会研究に応用する時期に来ていると思われる。以上の問題関心から,本 稿では,時間地理学と地域社会研究を再検討し,特に内的過程に注目すること で,時間地理学の枠組みを地域社会研究に適用して,新たな統一的研究枠組み を提示することを試みたい。 II 時間地理学の検討 時間地理学は,人々の活動の軌跡を個別具体的に追跡する方法によって,マ クロな集計では抜け落ちてしまう人間的リアリズムを取り戻すことを意図して (2 ) 子供の発達に対するコミュニティの影響を時間配分から分析した Mantensson (1977)は数少ない例である。 Mantensson,S, "Childhood interaction and temporal organization", Econ仰nugeogra戸初日, 1, 977, 99-125,荒井良雄ほか編訳,前掲 1),61 叩97 (3 ) 時間地理学の進展については,次の文献に詳しい。櫛谷圭可時間地理学の動向J, 人文地理, 37, 1985, 533-551. JII口太郎・神谷浩夫都市における生活行動研究の視 点J,人文地理, 43, 1991, 348-367. (4) 地域社会概念については,最近では Lewis(1979), Davies and Herbert(1993)が, 入念なサーベイを行っている。 Lewis,G l.Ruralωmmimtzes,David& Charles, Lon -don, 1979, 255pルイス, G.J,石原 潤・浜谷正人・山田正浩監訳農村社会地理 学~,大命堂,1986, 226p Davies, W K D and Herbert, D. T, Communzlzes within the uties a抑 仰'bansoιzal geograph九 BerhavenPress, London, 1993, 196p (5 ) 環境心理学を援用した新しい行動地理学については, Aitken and Bjorklun Aitken什 S. C,“Local evaluation of neighberhood change"Anηals0
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385 地域在会と生活空間の時空間構造化プロセス -189 いた。 Hagerstrandは,時空間の中の個人の軌跡を意味する「パスj,いくつ かのパスの集まりで,複数の人聞が時空間の中で集まり一定の関係を取り結ぶ、 ことを意味する「バンドノレj,時空間状で表した移動可能な空間的範囲を意味 する「プリズムj,特定のゴールを目指したさまざまな活動の集合を意味する 「プロジェクト」といった概念ツールを用いて時空間上に個人の軌跡を表示す るとともに,人々の活動のパスを制限する制約として r個人の生物学的な成 立ち,もしくは使える道具,あるいはその両方によって個人の活動が制限され ること」を意味する「能力制約j,r個人が生産や消費や取引のために,他の人 聞や道具や物と,いつ,どこで,どれだけの時間,結びついていなければなら ないか」を意味する「結合制約j,r管理領域(ドメイン) jすなわち r特定の 個人や集団のコントロールの下にある事物が存在する時空間の総体」による制 約を意味する「権威制約」という 3つの制約を用いて,人々の活動の時空間制 約を分析する枠組みを提示した。 こうした時間地理学の枠組みは,①生活の質や社会的厚生への強い関心を持 つ,②人間を集計量として扱わない,③分析の単位として, ミクロ・レベルと マクロ・レベルをつなぐスケールを目指す,④需要や選好ではなく制約を重視 する,といった点から評価されている。 Lund大学のグループによって様々な 応用研究が行われるなど,
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年代には,行動の制約分析として都市計画へ の応用研究が蓄積されていき,またわが国でも,時間地理学の枠組みを援用し た研究が行われている。 その後,時間地理学は分岐的展開を示すようになる。1
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年代になって, 在会理論との交流により,いくつかの方法論的検討を経て,個人と社会の弁証 法を志向する研究が行われていった。そうした研究の中には,個人の精神の領 (6 ) 時間地理学の基本的枠組みにコいてはI-Iag巴rstrand,前掲1),櫛谷,前掲3),}II 口・神谷,前掲3),荒井, liIJ掲1)を参照。 (7) 神谷治夫・岡本耕平・荒井良雄・川口太郎長野県下諏訪町における既婚女性の就 業に関する時間地理学的分析J,地理学評論, 63 A, 1990, 766-783. (8 ) 日本での展開については,川口・神谷,前掲3),荒井,前掲1)を参照。 385 地域在会と生活空間の時空間構造化プロセス -189 いた。 Hagerstrandは,時空間の中の個人の軌跡を意味する「パスj,いくつ かのパスの集まりで,複数の人聞が時空間の中で集まり一定の関係を取り結ぶ、 ことを意味する「バンドノレj,時空間状で表した移動可能な空間的範囲を意味 する「プリズムj,特定のゴールを目指したさまざまな活動の集合を意味する 「プロジェクト」といった概念ツールを用いて時空間上に個人の軌跡を表示す るとともに,人々の活動のパスを制限する制約として r個人の生物学的な成 立ち,もしくは使える道具,あるいはその両方によって個人の活動が制限され ること」を意味する「能力制約j,r個人が生産や消費や取引のために,他の人 聞や道具や物と,いつ,どこで,どれだけの時間,結びついていなければなら ないか」を意味する「結合制約j,r管理領域(ドメイン) jすなわち r特定の 個人や集団のコントロールの下にある事物が存在する時空間の総体」による制 約を意味する「権威制約」という 3つの制約を用いて,人々の活動の時空間制 約を分析する枠組みを提示した。 こうした時間地理学の枠組みは,①生活の質や社会的厚生への強い関心を持 つ,②人間を集計量として扱わない,③分析の単位として, ミクロ・レベルと マクロ・レベルをつなぐスケールを目指す,④需要や選好ではなく制約を重視 する,といった点から評価されている。 Lund大学のグループによって様々な 応用研究が行われるなど,1
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年代には,行動の制約分析として都市計画へ の応用研究が蓄積されていき,またわが国でも,時間地理学の枠組みを援用し た研究が行われている。 その後,時間地理学は分岐的展開を示すようになる。1
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年代になって, 在会理論との交流により,いくつかの方法論的検討を経て,個人と社会の弁証 法を志向する研究が行われていった。そうした研究の中には,個人の精神の領 (6 ) 時間地理学の基本的枠組みにコいてはI-Iag巴rstrand,前掲1),櫛谷,前掲3),}II 口・神谷,前掲3),荒井, liIJ掲1)を参照。 (7) 神谷治夫・岡本耕平・荒井良雄・川口太郎長野県下諏訪町における既婚女性の就 業に関する時間地理学的分析J,地理学評論, 63 A, 1990, 766-783. (8 ) 日本での展開については,川口・神谷,前掲3),荒井,前掲1)を参照。-190 香川大学経済論叢 386 域に踏み込んで、,行動地理学との境界を解消する方向と,個人を包み込むよ うな現代社会の複雑な構造形成のプロセスへの関心をもっ方向の土つの流れが あることが指摘されている。 こうした展開の中で,時間地理学の枠組みに対して幾つかの批判的検討がな されてきた。主たる批判点を整理すると次の3つにまとめることができょうO ①物質主義と批判されるように,人を粒子として扱う傾向があり,個人の聞 の 相 互 作 用 を 十 分 に 取 り 扱 っ て い な い こ と が あ げ ら れ る 。 相 互 作 用 に 関 し て は,バンドノレ形成という形で,オリジナルの枠組みで、も間接的に取り扱うこと は可能であり,子供の発達に対するコミュニティの影響を時間配分から分析し た若干の研究例があるが,こうした方向の研究はその後あまり蓄積されていな ②物質主義という批判のもう一つの点は,時空間に顕在化した観察可能な行 動のみを扱ったため,内的過程の分析が不十分であるというものである。この ことは相互作用の分析が不十分であったこととも関係する。 Hagerstrandも, 単に物的環境による制約だけではなく,社会制度や慣習をも問題意識としては 持ち合わせていたと言われるが,それらが分析対象として明示的な形で取り扱 わ れ る こ と は な し ま た 枠 組 み の 中 で の 扱 い は 不 十 分 で あ っ た 。 Thrift(1983) は,人間の活動を,抽象化を基礎とした形式論理の手法で導かれる,類似性を (9 ) 行動地理学については,次の文献に詳しい。生田真人人間行動研究の動向について 一一合衆国の消費者行動分析を中心に一一J,人文地理, 33, 1981, 425-443.若林芳樹, 「行動地理学の現状と問題点J,人文地理, 37,1985,149-166.Golledge, R.G and Stim -son, R.J , Anaかtzcalbehavioural geogr
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戸hy,Croom Helm, London, 1987, 345 p (10) 櫛谷,前掲3。) (11) 川口・神谷,前掲 3),櫛谷,前掲3。) (12) M<1ntensson,前掲 2)。 (13) 川口・神谷,前掲 3)。川口・神谷 (1991)は個人と社会の相互作用のひとつの局 面として,観察された行動の背後に隠された制約を『読む.!Jといった手法を提示してい るが,いかに「読む」のかが不明確なまま読む」ことが索朴にブラックボックスと して示されており,あげている例では,依然,個人を規定する要因のみを「読」んでい るように思える。 Giddensのいうような「人間の行為と社会の構造との相互規定的な関 係から構造が逐一再生産されている(jll口・神谷,前掲3))Jといった視点で読む」 とはどういったことなのかを示す必要があろう。 一向田町田E -190 香川大学経済論叢 386 域に踏み込んで,行動地理学との境界を解消する方向と,個人を包み込むよ うな現代社会の複雑な構造形成のプロセスへの関心をもっ方向のこつの流れが あることが指摘されている。 こうした展開の中で,時間地理学の枠組みに対して幾つかの批判的検討がな されてきた。主たる批判点を整理すると次の3つにまとめることができょうO 0::物質主義と批判されるように,人を粒子として扱う傾向があり,個人の聞 の相互作用を十分に取り扱っていないことがあげられる。相互作用に関して は,バンドノレ形成という形で,オリジナルの枠組みでも間接的に取り扱うこと は可能であり,子供の発達に対するコミュニティの影響を時間配分から分析し た若干の研究例があるが,こうした方向の研究はその後あまり蓄積されていな ②物質主義という批判のもう一つの点は,時空間に顕在化した観察可能な行 動のみを扱ったため,内的過程の分析が不十分であるというものである。この ことは相互作用の分析が不十分であったこととも関係する。 Hagerstrandも, 単に物的環境による制約だけではなく,社会制度や慣習をも問題意識としては 持ち合わせていたと言われるが,それらが分析対象として明示的な形で取り扱 われることはなしまた枠組みの中での扱いは不十分であった。 Thrift(1983) は,人間の活動を,抽象化を基礎とした形式論理の手法で導かれる,類似性を (9 ) 行動地理学については,次の文献に詳しい。生田真人人間行動研究の動向について 一一合衆国の消費者行動分析を中心にー一一J,人文地理, 33, 1981, 425-443.若林芳樹, 「行動地理学の現状と問題点J,人文地理,37,1985,149-166.Golledge, R G and Stim -son, R J, Anafytzwl behavioural geography, Croom Helm, London, 1987, 345 p (10) 櫛谷,前掲3。) (11) 川口・神谷,前掲 3),櫛谷,前掲3。) (12) M<1ntensson,前掲2。) (13) 川口・神谷,前掲3)。川口・神谷 (1991)は個人と社会の相互作用のひとつの局 面として,観察された行動の背後に隠された制約を『読む.!Jといった手法を提示してい るが,いかに「読む」のかが不明確なまま読む」ことが索朴にブラックボックスと して示されており,あげている例では,依然,個人を規定する要因のみを「読」んでい るように思える。 Giddensのいうような「人間の行為と社会の構造との相互規定的な関 係から構造が逐一再生産されている (}II口・神谷,前掲3))Jといった視点で読む」 とはどういったことなのかを示す必要があろう。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
387 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス -191 根拠とした一般的カテゴリーに分解し,それらを社会の説明のために再結合す る構成的アプローチと,人間の活動をじかに接する空間的時間的状況での社会 的時間的状況での社会的事象として扱い,導かれるカテゴリーは分解されては ならない「一緒性(togetherness)Jに基礎をおいている文脈的アプローチを区 別して議論している。 Hagerstrand自身,文脈的アプローチが地理学にとっ て重要であることを指摘しているが,そうした文脈的アプローチの議論におい ては,物的環境としての空間が強調され,構造を生成する社会空間としての側 面が考察から抜け落ちていることが指摘されている。 ③行動の制約分析では,人間の主体としての位置づけが後退しているため, 構造主義の一つにすぎないのではないかという批判がなされる。時間地理学の 影響を受け, Giddensが主体と構造のどちらにも偏らない枠組みとして構造化 理論を提示しているが,その視点をフィードパックし,時間地理学を単に構造 が主体を規定する制約の研究枠組みとしてではなく,主体の行動の蓄積によっ て構造が生成あるいは変容するメカニズムを解明する枠組みとして,位置づけ ることが必要である。 (14) Schatzki, T,“Spatial onthology and explanation", Annals of the Association oj Amerzwn GeograPhe1eS,81, 1991, 650-670 また,現象学と時間地理学の接合を目指す視点については,次の論文で触れられている。 Buttimer, A,“Grasping the dynamism of lifeworld", Annals oj the Assoιiatωn oj A meriwn Geogれapher.s,66, 1976, 277-292.Rose, CI,“Reflections on the notion of time incorporated in Hagerstrand's time-geographic model of society", TiJdscかが} voor Eωη仰 刊zscheen 50ciale Geograjze, 68, 1976, 43-50 櫛谷,前掲3。)
これと関連して, Jackson and Smith(1984)は共同主観性の概念を重視しており,原 (1994)は共同主観性からみた混住化社会研究の再検討を行っている。 Jackson, P and Smith, J S, E.xρloring social geogアaphy,George Allen & Unwin (publishers) Ltd, London, 1984, ジャクソン, P・スミス, S著,浜谷正人訳『社会地理学の探検j,大 命室, 1991, 300p 原 真正、共同主観性からみた混住化社会研究の方法論的再検討J, 地理, 39-6, 1994, 103-109.
(15) Buttimer,前掲14),Gregory,“Suspended animation: the stasis of diffusion the -ory", Gregory, D and Urry, J eds.: 50正ialrelatio月andstatial structure, Macmillan, London, 1985, 296-336 (16) 川口・神谷,前掲 3)0 Giddens, A, Central problems in social theory action, structure, and contradiction in social analysis, Macmillan, 1979, ギデンズ, A.,友 松敏雄・今回高俊・森 重雄訳干士会理論の最前線h ハーベスト社, 1989, 307p .. (17) Pred (1981)も同様の指摘をしている。 Pred,A,“Of paths and projects田 individ -387 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス -191 根拠とした一般的カテゴリーに分解し,それらを社会の説明のために再結合す る構成的アプローチと,人間の活動をじかに接する空間的時間的状況での社会 的時間的状況での社会的事象として扱い,導かれるカテゴリーは分解されては ならない「一緒性(togetherness)Jに基礎をおいている文脈的アプローチを区 別して議論している。 Hagerstrand自身,文脈的アプローチが地理学にとっ て重要であることを指摘しているが,そうした文脈的アプローチの議論におい ては,物的環境としての空間が強調され,構造を生成する社会空間としての側 面が考察から抜け落ちていることが指摘されている。 ③行動の制約分析では,人間の主体としての位置づけが後退しているため, 構造主義の一つにすぎないのではないかという批判がなされる。時間地理学の 影響を受け, Giddensが主体と構造のどちらにも偏らない枠組みとして構造化 理論を提示しているが,その視点をフィードパックし,時間地理学を単に構造 が主体を規定する制約の研究枠組みとしてではなく,主体の行動の蓄積によっ て構造が生成あるいは変容するメカニズムを解明する枠組みとして,位置づけ ることが必要である。 (14) Schatzki, T,“Spatial onthology and explanation", Annals of the Association oj Amerzwn GeograPhe1eS,81, 1991, 650-670 また,現象学と時間地理学の接合を目指す視点については,次の論文で触れられている。 Buttimer, A,“Grasping the dynamism of lifeworld", Annals oj the Assoιiatωn oj A meriwn Geogれapher.s,66, 1976, 277-292.Rose, CI,“Reflections on the notion of time incorporated in Hagerstrand's time-geographic model of society", TiJdscかが} voor Eωη仰 刊zscheen 50ciale Geograjze, 68, 1976, 43-50 櫛谷,前掲3。)
これと関連して, Jackson and Smith(1984)は共同主観性の概念を重視しており,原 (1994)は共同主観性からみた混住化社会研究の再検討を行っている。 Jackson, P and Smith, J S, E.xρloring social geogアaphy,George Allen & Unwin (publishers) Ltd, London, 1984, ジャクソン, P・スミス, S著,浜谷正人訳『社会地理学の探検j,大 命室, 1991, 300p 原 真正、共同主観性からみた混住化社会研究の方法論的再検討J, 地理, 39-6, 1994, 103-109.
(15) Buttimer,前掲14),Gregory,“Suspended animation: the stasis of diffusion the -ory", Gregory, D and Urry, J eds.: 50正ialrelatio月andstatial structure, Macmillan, London, 1985, 296-336
(16) 川口・神谷,前掲 3)0 Giddens, A, Central problems in social theory action,
structure, and contradiction in social analysis, Macmillan, 1979, ギデンズ, A.,友 松敏雄・今回高俊・森 重雄訳干士会理論の最前線h ハーベスト社, 1989, 307p ..
-一 一192 香川大学経済論叢 388 Pred (1981)は,こうした批判点をある程度克服し, ミクロからマクロ, マクロからミクロという双方向のアプローチを必要とする中で,個人と社会, 内的過程と外的過程の弁証法という視点を示している。しかし,こうした時間 地理学の考え方は概念上は非常に魅力に富むものの,現実の分析ではどのよう にしてこうした双方向のアプローチをつなげていったらよいのかという課題に 対し,必ずしも十分に答えていないという批判がなされている。 III 地域社会研究の検討 地域社会とは一般に,通常何らかの決まった領域と関連する,相互に作用し 担 問 あっている個人間の社会ネットワークとされ,これまでに多くの具体的な研究 が蓄積されてきているが,地域社会の概念規定をめぐってさまざまな混乱がみ 目立) られる。そうした中で,多様な地域社会概念を整理する試みも,何度か行われ ており,最近ではDavies and Herbert (1993)が,多くの概念規定を検討し
ω)
た上で,地域社会の内容(content)を 3つの分類にまとめているO 地理学で 伝統的によく用いられる生態学的アプローテによって抽出されるような,物理
ual behavior and its societal context", Cox, R.K and Goliedge,R eds, BehaZlZ'oral problems in geogr,a戸hyrevzsiled, Methuen, 1981, 231-255, 寺阪目白信監訳『空間と行動
員命一一一地理学における行動論の諮問題一一一~,地入者房, 1986, 231-245. (18) Pred,前掲17)。
(19) Giddens, A.,“Time, space and regionalization", Gr巴gory,D and Urry, J eds
Soαal relatzon and spatial structure, Macmillan, London, 1985, 265-295
(20) Johnston, R. J, Gregory, D and Smith, D M. eds, The dzazonary ofhuman geog. raphy, 3 rd ed., Blackweli, Oxford, 1994, 576p
(21) 様々な手法による村落を対象とした地域社会の事例研究については, Lewis,前掲 4 ),と次の文献に詳しい。浜谷正人欧米における最近の村落研究動向一一社会一一 空間構成研究を中心として一一J,人文地理, 35, 1983, 311-327.
また,都市における研究については, Davies and Herbert,前掲4)と,次の文献を参
照。 Ley,0..,A social geogra)幼Iyofthe aty, Harper & Row,New York, 1983, 449p (22) Lewis,前掲4。) (23) Davies and Herbert,前掲4)。さらに,地域社会の文脈(context)については,通 時的な変化に関係する「動態的か静態的か(thedynamic or temporal domain),占める 地域的範囲と周辺地域との関係に関する「地域的スケールと外部性(geographicalscale and externalitY)J,周囲の社会のもつ影響力に関する「周囲の社会(thesurrounding50 -ciety)という 3つの留窓点を指摘している。 一 ー 明 圃 圃 圃 一 一192 香川大学経済論叢 388 Pred (1981)は,こうした批判点をある程度克服し, ミクロからマクロ, マクロからミクロという双方向のアプローチを必要とする中で,個人と社会, 内的過程と外的過程の弁証法という視点を示している。しかし,こうした時間 地理学の考え方は概念上は非常に魅力に富むものの,現実の分析ではどのよう にしてこうした双方向のアプローチをつなげていったらよいのかという課題に 対し,必ずしも十分に答えていないという批判がなされている。 III 地域社会研究の検討 地域社会とは一般に,通常何らかの決まった領域と関連する,相互に作用し 担 問 あっている個人聞の社会ネットワークとされ,これまでに多くの具体的な研究 が蓄積されてきているが,地域社会の概念規定をめぐってさまざまな混乱がみ 目立) られる。そうした中で,多様な地域社会概念を整理する試みも,何度か行われ ており,最近ではDavies and Herbert (1993)が,多くの概念規定を検討し
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た上で,地域社会の内容(content)を 3つの分類にまとめている。地理学で 伝統的によく用いられる生態学的アプローチによって抽出されるような,物理
ual behavior and its societal context", Cox, R.K and Goliedge,R eds, BehaZlZ'oral Pァoblemsin geogr,a戸hyrevzsiled, Methuen, 1981, 231-255, 寺阪日間言監訳『空間と行動 論一一地理学における行動論の諸問題 ~ ,地入者房, 1986, 231-245.
(18) Pred,前掲17)。
(19) Giddens, A.,“Time, space and regionalization", Gr巴gory,D and Urry, J eds
Soαal relatzon and spatial structure, Macmillan, London, 1985, 265-295
(20) Johnston, R. J, Gregory, D and Smith, D M. eds, The dzazonary ofhuman geog. raphy, 3 rd ed., Blackweli, Oxford, 1994, 576p
(21) 様々な手法による村落を対象とした地域社会の事例研究については, Lewis,前掲 4 ),と次の文献に詳しい。浜谷正人欧米における最近の村落研究動向一一一社会一一 空間構成研究を中心として一一J,人文地理, 35, 1983, 311-327.
また,都市における研究については, Davies and Herbert,前掲4)と,次の文献を参
照。 Ley,0..,A social geogra)幼Iyoftheιt,かHarper & Row,N ew Y ork, 1983, 449p (22) Lewis,前掲4。) (23) Davies and Herbert,前掲4)。さらに,地域社会の文脈(context)については,通 時的な変化に関係する「動態的か静態的か(thedynamic or temporal domain),占める 地域的範囲と周辺地域との関係に関する「地域的スケールと外部性(geographicalscale and externalitY)J,周囲の社会のもつ影響力に関する「周囲の社会(thesurrounding50 -ciety)という 3つの留窓点を指摘している。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
389 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス -193 的,社会的な地域分化の特徴を表す「地域内容(areal content) j,隣人との接 触や庖の利用など,人あるいは施設の間の相互作用を意味する「行動あるいは 相互作用 (behavioror interaction)jに加え,地域社会を社会的につくられる 存在ととらえる視点から,認知や愛着といった人々が地域に対してもつ態度 (attitudes)に着目する「概念的同一性(conceptualidentity) jをあげており, 3 つめの分類には行動地理学の認知論的アプローチで研究されてきたメンタルマ ツ
9
ゃ最近の人文主義地理学でよく用いられる場所感覚(senseof placgが含 まれる。また, Aitken and Biorklund (1988)は,環境心理学における相互 交渉・変換理論 (transactional and transformation theory)を行動地理学に 応用して,人間と環境は何らかの認知的表象が媒介する絶えざる相互交渉関係 にあるという視点から,人間と環境の関係を動態的にとらえ,地域社会の変化 を課題に新たな行動論的アプローチの研究を展開しており,地域社会の内的過 程への関心が高まっている。 わが国においても,数多くの地域担会研究が行われてきたが,特に高度経済 成長期における都市化の拡大にともない,都市近郊で従来の農村でも都市でも ない異質な地域社会が出現しているという認識がなされ,農家と非農家あるい は旧住民と新住民が混住する混住化社会として定式化,研究がなされてきていω
る。こうした混住化社会研究の枠組みに関しては,事例研究の蓄積を通してい (24) メンタルマ、yプの研究については,次の文献を参照。中村 豊 メ ン タ ル マ ッ プ 研 究の成果とその意義J,人文地理, 31, 1979, 507-523.岡 本 耕 平 認 知 距 離 研 究 の 展 望J,人文地理, 34, 1982, 429-448. (25) 場所感覚は,①場所(place)自体に固有の性格,②人々が場所(place)に対して持、コて いる愛着(attachment)と定義されている。 Johnston et al eds,前掲20)。場所感覚に関 す る 議 論 に つ い て は , 次 の 文 献 を 参 照 。 大 城 直 樹 墓 地 と 場 所 感 覚J,地理学評論, 67 A, 1994, 169-182Entrikin, J N, The betwee目nessojρlace towards a geography oj 問odernzか,乱l[acmillan,London,1991, 196 p (26) 混{主化社会研究の経緯,および概念的検討については高橋(1991)に詳しい。高橋 誠 都 市 近 郊 農 村 の 社 会 変 化 に 関 す る 地 理 学 的 研 究 一 一 特 に 概 念 的 枠 組 み を 中 心 に 一 一J,人文地理, 43, 1991, 47-66. ま た , 社 会 学 に お け る 地 域 社 会 研 究 に つ い て は , 次 の 文 献 を 参 照 。 奥 田 道 大 戦 後 日 本 の都市社会学と地域社会J,社会学評論, 38, 1987, 181-199.蓮 見 音 彦 編 地 域 社 会 学],サイエンス社, 1991, 217 P.中 西 典 子 地 域 社 会 学 へ の 空 間 視 角 導 入 の 方 向 性 389 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス -193 的,社会的な地域分化の特徴を表す「地域内容(areal content) j,隣人との接 触や庖の利用など,人あるいは施設の間の相互作用を意味する「行動あるいは 相互作用 (behavioror interaction)j に加え,地域社会を社会的につくられる 存在ととらえる視点から,認知や愛着といった人々が地域に対してもつ態度 (attitudes)に着目する「概念的同一性 (conceptualidentity) jをあげており, 3 つめの分類には行動地理学の認知論的アプローチで研究されてきたメンタルマ ~5)J
ゃ最近の人文主義地理学でよく用いられる場所感覚(senseof place)が含 まれる。また, Aitken and Biorklund (1988) は,環境心理学における相互 交渉・変換理論 (transactional and transformation theory)を行動地理学に 応用して,人間と環境は何らかの認知的表象が媒介する絶えざる相互交渉関係 にあるという視点から,人間と環境の関係を動態的にとらえ,地域社会の変化 を課題に新たな行動論的アプローチの研究を展開しており,地域社会の内的過 程への関心が高まっている。 わが国においても,数多くの地域担会研究が行われてきたが,特に高度経済 成長期における都市化の拡大にともない,都市近郊で従来の農村でも都市でも ない異質な地域社会が出現しているという認識がなされ,農家と非農家あるい は旧住民と新住民が混住する混住化社会として定式化,研究がなされてきてい2
。こうした混住化社会研究の枠組みに関しては,事例研究の蓄積を通してい (24) メンタルマ、yプの研究については,次の文献を参照。中村 豊 メ ン タ ル マ ッ プ 研 究の成果とその意義j,人文地理, 31, 1979, 507-523.岡 本 耕 平 認 知 距 離 研 究 の 展 望j,人文地理, 34, 1982, 429-448. (25) 場所感覚は,①場所(place)自体に固有の性格,②人々が場所(place)に対して持、コて いる愛着(attachment)と定義されている。 Johnston et al eds,前掲20)。場所感覚に│期 する議論については,次の文献を参照。大城直樹墓地と場所感覚j,地理学評論, 67 A, 1994, 169-182Entrikin, J N, The betweenness o}ρlace towards a geography oj 問odernzfy,Macmillan,London, 1991, 196p (26) 混住化社会研究の経緯,および概念的検討については高橋(1991)に詳しい。高橋 誠都市近郊農村の社会変化に関する地理学的研究一一特に概念的枠組みを中心に 一j,人文地理, 43, 1991, 47-66. また,社会学における地域社会研究については,次の文献を参照。奥田道大戦後日本 の都市社会学と地域社会j,社会学評論, 38, 1987, 181-199.蓮 見 音 彦 編 地 域 社 会 学],サイエンス社, 1991, 217 P.中 西 典 子 地 域 社 会 学 へ の 空 間 視 角 導 入 の 方 向 性-194 香川大学経済論議' 390 くつかの批判点が指摘されている。その主な点としては次の5つに整理できよ う。 ①農家・非農家や旧住民・新住民といった混住化主体のご分法が実態にそぐ わない。土分法に替えて,出身地と年齢などを加味した主体類型が提示されて いる(古田,
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。理念型としてのこ分法を実態分析に適用する場合に,起 こりがちな問題、であり,かといって類型を増やす対処では,一見説明力が増す ようにみえるが,統一的な説明を与えているとは言い難い。重要なのは,静態 的な枠組みとして考えがちな混住化社会の二分法と,ある一時点での分析にお わりがちな事例研究の分析結果を,動態的な枠組みでとらえ直す視点である。 旧住民,新住民といったものを動態的なものとして把握する必要がある。 ②摩擦の原因として,住民の日常生活における社会的枠組み,認知次元,価。
。
値意識といったものの相違に注目する必要がある。これは時間地理学の検討で 指摘された内的過程への視点の必要性と通じるものである。 ③実態分析を通じて得られる地域社会の特徴は,すでに村落社会とは言い難 く,混住化社会研究で,村落社会などの社会的属性をあらかじめ前提として分ω
析することに疑問がある。何らかの社会集団の特性を前提とすることはでき ず,個人を単位とした詳細な分析から,社会属性をあきらかにする必要がある。 ④これまでは,実態の微視的な分析が先行し,統一的な説明枠組みの構築が ω 先送りになっている。 ⑤さらに,これらに加えて,個人と地域社会の関係が不明確ではないかとい う点が指摘できる。地域社会研究全般に言えることであるが,地域社会の概念 について 戦後日本の地域社会学における分析方法上の検討か一一j,立命館産業社 会論集, 29, 1993, 261・288.社会学においては都市社会学と農村社会学が別個に発達し ていったために,混住化といった現象に有効に対処できず,その反省から地域社会学が つくられるに至ったとされる。 (27) 浜谷正人日本農村における社会空間の実証分析一一一いわゆる『村落領域』を事例 として一一一j,歴史地理学, 120, 1983, 1 -14.古田充宏都市近郊『農村』の混イ主化 に関する社会地理学的研究一一!日広島市近郊のー集落を事例として一一j,人文地 理, 42, 1990, 503-521. (28) 古田,前掲27)。 (29) 高橋,前掲26)。 一 一 『 圃 圃 -194 香川大学経済論議ー 390 くつかの批判点が指摘されている。その主な点としては次の5つに整理できよ う。 ①農家・非農家や旧住民・新住民といった混住化主体の二分法が実態にそぐ わない。二分法に替えて,出身地と年齢などを加味した主体類型が提示されて いる(古田,1
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。理念型としてのこ分法を実態分析に適用する場合に,起 こりがちな問題であり,かといって類型を増やす対処では,一見説明力が増す ようにみえるが,統一的な説明を与えているとは言い難い。重要なのは,静態 的な枠組みとして考えがちな混住化社会の二分法と,ある一時点での分析にお わりがちな事例研究の分析結果を,動態的な枠組みでとらえ直す視点である。 旧住民,新住民といったものを動態的なものとして把握する必要がある。 ②摩擦の原因として,住民の日常生活における社会的枠組み,認知次元,価 (初 値意識といったものの相違に注目する必要がある。これは時間地理学の検討で 指摘された内的過程への視点の必要性と通じるものである。 ③実態分析を通じて得られる地域社会の特徴は,すでに村落社会とは言い難 く,混住化社会研究で,村落社会などの社会的属性をあらかじめ前提として分 ω 析することに疑問がある。何らかの社会集団の特性を前提とすることはでき ず,個人を単位とした詳細な分析から,社会属性をあきらかにする必要がある。 ④これまでは,実態の微視的な分析が先行し,統一的な説明枠組みの構築が ω 先送りになっている。 ⑤さらに,これらに加えて,個人と地域社会の関係が不明確ではないかとい う点が指摘できる。地域社会研究全般に言えることであるが,地域社会の概念 について一一戦後日本の地域社会学における分析方法上の検討か一一j,立命館産業社 会論集, 29, 1993, 261・288.社会学においては都市社会学と農村社会学が別個に発達し ていったために,混住化といった現象に有効に対処できず,その反省から地域社会学が つくられるに至ったとされる。 (27) 浜谷正人日本農村における社会空間の実証分析一一一いわゆる『村落領域』を事例 として一一一j,歴史地理学, 120, 1983, 1 -14.古田充宏都市近郊『農村』の混f主化 に関する社会地理学的研究一一一!日広島市近郊のー集落を事例としてー j,人文地 理, 42, 1990, 503-521. (28) 古田,前掲27)。 (29) 高橋,前掲26)。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
391 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス 195-が不明確でトあると批判される大きな原因がこの点にあるように思われる。詳細 な分析を行うためには,何らかの形で地域社会を操作化する必要があり,例え ば地域組織を地域社会とみなすアプローチは,その一つの有効な手段であっ
J
。しかし,この方法に対しては,地域組織を実際の地域社会と同一視でき るのかという批判がされることになる。特に都市化が進展して,従来のような 閉鎖的な地域社会を前提とできない現代においては,個人を単位とした詳細な 分析から社会特性を考察する必要があり,社会ネットワークやメンタノレマッ プ,場所感覚など,地域社会を操作化する方法が考案され事例研究が蓄積され た。そうすると,今度は個人の認知や行動を分析しているだけで,どうして地 域社会と言えるのかという疑問に答えなくてはいけない。地域社会を詳細に分 析することと,地域社会を個人の行動と区別した形で明確に位置づけることと いうこつを整合した枠組みを提示することが問われることになる。 W 時空間構造化プロセス ここまでの時間地理学と地域社会研究の検討を踏まえ,本章では,個人の生 活空間と地域社会の時空間構造化プロセスの枠組みを提示したい。 1. 個人と地域社会の関係 まず最初に,内的過程の視点を導入して,第3章の最後に指摘した個人と地 域社会の関係の位置づけを試みたい。地域社会の定義の多様性についてはすで に述べた通りであるが,地域社会を基礎づける基本的な要件としては,①ある 空間スケールにおいて(空間性),②一人ではなく複数の人聞が関係しており (集団性),③何らかの形で個人の行動に影響を与える側面がある(主体の規 定要因),④しかし,また個人の行動の蓄積によって変化しうる動態的なもの として把握する必要があり(動態性), ([個人と地域担会は相互にっくり,つ (30) Lewis,前掲 4)。 (31) 十 時 厳 局 大 都 市 閣 の 拡 大 と 地 域 変 動 神奈川県横須賀市の事例 h 慶慮義塾 大学法学研究会, 1989, 396 P. 391 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス 195-が不明確でトあると批判される大きな原因がこの点にあるように思われる。詳細 な分析を行うためには,何らかの形で地域社会を操作化する必要があり,例え ば地域組織を地域社会とみなすアプローチは,その一つの有効な手段であっJ
。しかし,この方法に対しては,地域組織を実際の地域社会と同一視でき るのかという批判がされることになる。特に都市化が進展して,従来のような 閉鎖的な地域社会を前提とできない現代においては,個人を単位とした詳細な 分析から社会特性を考察する必要があり,社会ネットワークやメンタノレマッ プ,場所感覚など,地域社会を操作化する方法が考案され事例研究が蓄積され た。そうすると,今度は個人の認知や行動を分析しているだけで,どうして地 域社会と言えるのかという疑問に答えなくてはいけない。地域社会を詳細に分 析することと,地域社会を個人の行動と区別した形で明確に位置づけることと いうこつを整合した枠組みを提示することが問われることになる。 W 時空間構造化プロセス ここまでの時間地理学と地域社会研究の検討を踏まえ,本章では,個人の生 活空間と地域社会の時空間構造化プロセスの枠組みを提示したい。 1. 個人と地域社会の関係 まず最初に,内的過程の視点を導入して,第3章の最後に指摘した個人と地 域社会の関係の位置づけを試みたい。地域社会の定義の多様性についてはすで に述べた通りであるが,地域社会を基礎づける基本的な要件としては,①ある 空間スケールにおいて(空間性),②一人ではなく複数の人聞が関係しており (集団性),③何らかの形で個人の行動に影響を与える側面がある(主体の規 定要因),④しかし,また個人の行動の蓄積によって変化しうる動態的なもの として把握する必要があり(動態性), ([個人と地域担会は相互にっくり,つ (30) Lewis,前掲 4)。 (31) 十 時 厳 局 大 都 市 閣 の 拡 大 と 地 域 変 動 神奈川県横須賀市の事例 h 慶慮義塾 大学法学研究会, 1989, 396 P.196 香川大学経済論叢 392 くられる関係にある(再帰性)。⑥地域社会として定式化ごきるのは,複数の 個人の聞に共有されているという点にあると考えられ(共有性),⑦それは個人 間の内的過程を通じた相互作用によって実現されていく(内的過程,相互作用)。 したがって,地域社会を次のように定式化したい。 「地域社会とは,個人のある空間スケー/レの地域での活動の蓄積(個人聞の相 互作用と共通経験の蓄積)の結果,複数の個人に共有されている当該地域にお ける生活活動のパターン,社会ネットワーク,認知情報,場所感覚,ルール, 価値意識,規範の総体である。」 地域社会は,人々の日常の生活行動の結果,創り出される社会的構築物であり, 人々の新しい行動の蓄積によって,通時的に変化していく。しかしながら,逆 に,過去の人々の行動の蓄積の結果である地域社会は,そう簡単には変化し切 らないため,個人の中に蓄積されている地域社会は,相互作用を通じて人々の 行動に影響を及ぼす。重要な点は,地域担会はどこにあるのかという問いに対 しては,各個人の中にあるという答えになるという点である。地域社会は社会 的なものでありながら,個人の中に蓄積されているという点では個人的なもの であり,他方,個人の行動は他者との相互作用を通じて地域社会の両生産や変 自 由 容に寄与するという点では社会的であるというご重性を持っている。したがっ て,地域社会を詳細に分析するためには,個人の生活行動,社会ネットワーク, 場所感覚などを綿密に分析し,共有されている部分を検討するという方法をと 伽) ることになる。ただし,混住化社会研究で問われるような都市化が進行した現 代の地域社会では,同一地域に居住していても,空間スケーノレが異なる地域社 (3~ 会システムが重層的に存在していると考えられる点に,注意する必要がある。 (32) この伺人と地域社会の関係は,丸山(1981)が整理しているようなソシュールのラン グとパロールの二、重性に類似している。丸山主三郎ソシュールの思想h 岩 波 書 庖, 1981, 352 P. (33) ここでの,個人と地域社会の関係は,ギデンズのいう構造化理論で想定されているよ うな,相互生産関係にあるものとして定式化していることになる。川口・神谷,前掲 3。) Giddens, A,前掲16)。 (34) 原(1994)が指摘したように,同 tlh域に居住していても,異なる定着プロセスをた 196- 香川大学経済論叢 392 くられる関係にある(再帰性)。⑥地域社会として定式化できるのは,複数の 個人の聞に共有されているという点にあると考えられ(共有性),⑦それは個人 間の内的過程を通じた相互作用によって実現されていく(内的過程,相互作用)。 したがって,地域社会を次のように定式化したい。 「地域社会とは,個人のある空間スケー/レの地域での活動の蓄積(個人聞の相 互作用と共通経験の蓄積)の結果,複数の個人に共有されている当該地域にお ける生活活動のパターン,社会ネットワーク,認知情報,場所感覚,ルール, 価値意識,規範の総体である。」 地域社会は,人々の日常の生活行動の結果,創り出される社会的構築物であり, 人々の新しい行動の蓄積によって,通時的に変化していく。しかしながら,逆 に,過去の人々の行動の蓄積の結果である地域社会は,そう簡単には変化し切 らないため,個人の中に蓄積されている地域社会は,相互作用を通じて人々の 行動に影響を及ぼす。重要な点は,地域担会はどこにあるのかという問いに対 しては,各個人の中にあるという答えになるという点である。地域社会は社会 的なものでありながら,個人の中に蓄積されているという点では個人的なもの であり,他方,個人の行動は他者との相互作用を通じて地域社会の南生産や変
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容に寄与するという点では社会的であるというご重性を持っている。したがっ て,地域社会を詳細に分析するためには,個人の生活行動,社会ネットワーク, 場所感覚などを綿密に分析し,共有されている部分を検討するという方法をと 伽) ることになる。ただし,混住化社会研究で問われるような都市化が進行した現 代の地域社会では,同一地域に居住していても,空間スケーノレが異なる地域社 (3~ 会システムが重層的に存在していると考えられる点に,注意する必要がある。 (32) この個人と地域社会の関係は,丸山(1981)が整理しているようなソシュールのラン グ と パ ロ ー ル の 二 重 性 に 類 似 し て い る 。 丸 山 主 三 郎 ソ シ ュ ー ル の 思 想1,岩波書 庖, 1981, 352 P. (33) ここでの,個人と地域社会の関係は,ギデンズのいう構造化理論で想定されているよ うな,相互生産関係にあるものとして定式化していることになる。川口・神谷,前掲 3)。 Giddens, A,前掲16)。 (34) 原(1994)が指摘したように,同一地域に居住していても,異なる定着プロセスをたOLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
393 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス ー
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時間地理学における内的制約 邸) 地理学においては,行動地理学(behaviouralgeography)が,環境と空間的 行動の関係の媒介変数として認知と意思決定過程の役割を重視するアプローチω
によって,内的過程に関する研究を行ってきた。先に述べたように, Hager-strandのオリジナノレな時間地理学には内的過程への視点が欠知していたが, その後, Predらによって内的過程の重要性が指摘され,また,地域社会の研 究においても,内的過程の重要性が指摘されている。内的過程に焦点をあてる ためには,行動地理学における認知と行動の枠組みを時間地理学に導入するこ とが有効で、あると考える。そこで,まずHagerstrandの提示した能力制約, 結合制約,権威制約という3
つのいわば外的制約に加え,認知制約と価値制約 という 2つの内的制約を提示したい。 認知制約とは,個人が認知している情報量と情報の正確度による制約であ る。メンタルマップがこれに相当し,量的尺度で計ることができる価値的に中 立な次元の制約と言える。認知が行動を制約するという視点は,行動地理学の 枠組みの中で表されているものである。 どっている場合がある。原 具 志 社 会 ネ ッ ト ワ ー ク と 社 会 空 間 か ら み た 住 民 の 定 着 過程一一堺市百舌烏梅北町5Tを事例に一一一J,地理学評論, 67 A, 1994, 701苧722. (35) 生田,前掲9),若林,前掲9,) Golledge and Stimson,前掲9。) (36) 行動地理学は広義には,実証主義に依拠した行動論的アプローチ(behavioural ap -proach)と,現象学に基づく人文主義的アプローチ(humanistic approach)の両方を含 んでいるが,外部カコらの観察や測定が可能な行動に研究対象を限定する行動主義(behav -iouism)のアプローチを指すことがある。若林,前掲9) 0 Trift (1981)は,行動地理 学を,空間的行動の説明で心理的過程を重視する能動的アプローチ (active approach) と時間地理学の制約概念を柱に空間的行動の社会的側面を重視する受動的アプローチ (reactive approach)から成るという見方を示しており,これを若林(1985)は「狭義の 行動地理学」と呼んど、いる。Thrift,N.,“Behavioral geographyぺ
Wrigley,N and Ben -net, R J ed, Quantztatzve geograjJhy a Brztish vzeω, Routledg巴andKegan Paul, London, 1981, 352-365 (37) Desbarates(1983)も,制約を「態度と矛盾した行為を生じさせる圧力や障害」と定 義した上引で,外的制約とともに内的制約を考慮し,社会心理学の理論を援用して,議論 を行っており, Thriftのいう能動的アプローチと受動的アプローチを統合する視点とし て評価されて¥)る。若林,前掲9),Desbarates, J,“Spatial choice and constraints on behavior", Annalso}the AssoczatioηofAmeriwn GeograJうhers,73, 1983, 340-357 393 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス ー197-2
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時間地理学における内的制約 邸) 地理学においては,行動地理学(behaviouralgeography)が,環境と空間的 行動の関係の媒介変数として認知と意思決定過程の役割を重視するアプローチω
によって,内的過程に関する研究を行ってきた。先に述べたように, Hager-strandのオリジナノレな時間地理学には内的過程への視点が欠知していたが, その後, Predらによって内的過程の重要性が指摘され,また,地域社会の研 究においても,内的過程の重要性が指摘されている。内的過程に焦点をあてる ためには,行動地理学における認知と行動の枠組みを時間地理学に導入するこ とが有効でbあると考える。そこで,まずHagerstrandの提示した能力制約, 結合制約,権威制約という 3つのいわば外的制約に加え,認知制約と価値制約 という 2つの内的制約を提示したい。 認知制約とは,個人が認知している情報量と情報の正確度による制約であ る。メンタルマップがこれに相当し,量的尺度で計ることができる価値的に中 立な次元の制約と言える。認知が行動を制約するという視点は,行動地理学の 枠組みの中で表されているものである。 どっている場合がある。原 具 志 社 会 ネ ッ ト ワ ー ク と 社 会 空 間 か ら み た 住 民 の 定 着 過程一一堺市百舌烏梅北町5Tを事例に一一一J,地理学評論, 67 A, 1994, 701苧722. (35) 生田,前掲9),若林,前掲9),Golledge and Stimson,前掲9。) (36) 行動地理学は広義には,実証主義に依拠した行動論的アプローチ(behavioural ap -proach)と,現象学に基づく人文主義的アプローチ(humanistic approach)の両方を含 んでいるが,外音防コらの観察や測定が可能な行動に研究対象を限定する行動主義(behav -iouism)のアプローチを指すことがある。若林,前掲9) 0 Trift (1981)は,行動地理 学を,空間的行動の説明で心理的過程を重視する能動的アプローチ(active approach) と時間地理学の制約概念を柱に空間的行動の社会的側面を重視する受動的アプロ チ (reactive approach)から成るという見方を示しどおり,これを若林(1985)は「狭義の 行動地理学」と呼んごいる。Thrift,N.,“Behavioral geographyぺ
Wrigley,N and Ben -net, R J ed, Quantztatzve geogr<<ρhy a Brztish vzew, Routledg巴andKegan Paul, London, 1981, 352-365 (37) Desbarates(1983)も,制約を「態度と矛盾した行為を生じさせる圧力や障害」と定 義した上、で,外的制約とともに内的制約を考慮し,社会心理学の理論を援用して,議論 を行っており, Thriftのいう能動的アプローチと受動的アプローチを統合する視点とし て許価されている。若林,前掲9),Desbarates, J,“Spatial choice and constraints on b巴havior",Annalso}the AssoczatioηofAmeriwn GeograJうhers,73, 1983, 340-357198 香川大学経済論叢 394 それに対し,価値制約とは個人が持っている価値観や意味づけによる制約で ある。人生観,倫理観,場所感覚,などがこれに相当し,質的な検討を必要と するもので,文字通り何らかの価値や意味づけを表しており,価値的に中立で はない。
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つの外的制約は,能力制約が各個人の問題 であるのに対し,結合制約は,個人一人だけではなく複数の個人に関係する問 題であり,さらに権威制約は,単なる複数の個人ではなく,複数の個人に外在 する社会的なものを問題としている。 こうした点からみると2
つの内的制約は,内的ゆえに各個人の問題であると いう基本的な特徴では能力制約と類似するが,特に地域社会の問題では,複数 の個人に共有されているから制約として効果を発揮する点では複数の個人と関 係し結合制約と類似している。また,共有された価値観などは多分に社会的な ものである点では,権威制約に類似している。こうした点は,内的制約が媒介 としていると考えられる,個人と社会の二重性という特徴をよく表していると 言うことができる。 さらに,言うまでもなしこれらの諸制約の聞には相互影響関係が認められ る。能力,結合,権威のいわば外的制約が,認知と価値の内的制約の規定要因 になる。また,認知と価値の内的制約が,能力,結合,権威の外的制約を形作 る。例えば,メンタノレマップの研究は,他の諸制約による認知制約への影響の 分析と言うことができるし,行動地理学における居住地選択や庖舗選択の研究 の一部では,認知制約の結合制約への影響を扱っているということになる。3
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生活空間の時空間構造化プロセスモデル これまでの検討の結果を踏まえ,さらに,概念のフローとストックの区別す る視点を導入して,時間地理学と行動論的アプローチ結合し,地域社会を詳細 に検討するための,個人の生活空間分析の総合的理論枠組みを提示する。その 枠組みの特徴は,①内的過程と外的過程の横断,②相互作用=個人間の横断, ③動態的視点ニ時間の横断,④フローとストック=時間次元の横断,⑤個人と 『 閉 198 香川大学経済論叢 394 それに対し,価値制約とは個人が持っている価値観や意味づけによる制約で ある。人生観,倫理観,場所感覚,などがこれに相当し,質的な検討を必要と するもので,文字通り何らかの価値や意味づけを表しており,価値的に中立で はない。H
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つの外的制約は,能力制約が各個人の問題 であるのに対し,結合制約は,個人一人だけではなく複数の個人に関係する問 題であり,さらに権威制約は,単なる複数の個人ではなく,複数の個人に外在 する社会的なものを問題としている。 こうした点からみると2
つの内的制約は,内的ゆえに各個人の問題であると いう基本的な特徴では能力制約と類似するが,特に地域社会の問題では,複数 の個人に共有されているから制約として効果を発揮する点では複数の個人と関 係し結合制約と類似している。また,共有された価値観などは多分に社会的な ものである点では,権威制約に類似している。こうした点は,内的制約が媒介 としていると考えられる,個人と社会の二重性という特徴をよく表していると 言うことができる。 さらに,言うまでもなしこれらの諸制約の聞には相互影響関係が認められ る。能力,結合,権威のいわば外的制約が,認知と価値の内的制約の規定要因 になる。また,認知と価値の内的制約が,能力,結合,権威の外的制約を形作 る。例えば,メンタノレマップの研究は,他の諸制約による認知制約への影響の 分析と言うことができるし,行動地理学における居住地選択や庖舗選択の研究 の一部では,認知制約の結合制約への影響を扱っているということになる。3
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生活空間の時空間構造化プロセスモデル これまでの検討の結果を踏まえ,さらに,概念のフローとストックの区別す る視点を導入して,時間地理学と行動論的アプローチ結合し,地域社会を詳細 に検討するための,個人の生活空間分析の総合的理論枠組みを提示する。その 枠組みの特徴は,①内的過程と外的過程の横断,②相互作用=個人間の横断, ③動態的視点ニ時間の横断,④フローとストック=時間次元の横断,⑤個人とOLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
395 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス -199ー 社会の横断,⑥空間スケールの横断という,相互に関連する6つの横断的視点 を総合するところにある。 以下, 1I買に
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の命題という形で,論じていくことにする。 個人の生活空間を,顕在的,可視的,外的な次元である活動空間だけでなく, 潜在的,認知論的,内的次元を加えて位置づける。よって, 命題1
個人の生活空間は,顕在的に現れた生活活動の空間的軌跡としての活 動空間,生活活動の結果ある地域に関して獲得している認知情報であ るメンタノレマップ,生活活動の結果ある地域に関して持っている場所 感覚からなる。 生活空間は,固定的なものではなく,動態的に変化していくものととらえる 必要がある。動態的な変化を定式化するため,フローとストックを区別する視 点を導入し,諸概念の相互関係を位置づける(第1図,第l表)。 ここでフローとはある単位時間をとったときに現れる個々の行動の次元を意 味し,ストックとはある時点において,それ以前の一定期間の活動の結果,蓄 積されているものの次元を意味する。通勤や購買,友人との交遊,余暇などの 活動はフローの次元の概念であり,社会ネットワーク,メンタルマップ,場所 感覚はストックの次元の概念である。 時間地理学の枠組みでは,時空間の軌跡がパスとして描かれる。フローとは, このパスをある一定の単位時間でとらえたものであり,またストックとは,こ のパスの過去から現在までをすべて集計したもの,およびその結果,内的に蓄 積されているものということができる。ストックの各概念はそれぞれフローの 自 国 概念をある基準で集計したものということができる。例えば,社会ネットワー クはコミュニケーション行動に注目して集計することで得られるものであり, メンタルマップは,すべての生活活動の結果,収集される認知情報を集計した (38) 積分という概念をあてはめることが可能ではないかと考える。 395 地域社会と生活空間の時空間構造化プロセス -199ー 社会の横断,⑥空間スケールの横断という,相互に関連する6つの横断的視点、 を総合するところにある。 以下, 1I買に1
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の命題という形で,論じていくことにする。 個人の生活空間を,顕在的,可視的,外的な次元である活動空間だけでなく, 潜在的,認知論的,内的次元を加えて位置づける。よって, 命題1
個人の生活空間は,顕在的に現れた生活活動の空間的軌跡としての活 動空間,生活活動の結果ある地域に関して獲得している認知情報であ るメンタノレマップ,生活活動の結果ある地域に関して持っている場所 感覚からなる。 生活空間は,固定的なものではなく,動態的に変化していくものととらえる 必要がある。動態的な変化を定式化するため,フローとストックを区別する視 点を導入し,諸概念の相互関係を位置づける(第1図,第l表)。 ここでフローとはある単位時間をとったときに現れる個々の行動の次元を意 味し,ストックとはある時点において,それ以前の一定期間の活動の結果,蓄 積されているものの次元を意味する。通勤や購買,友人との交遊,余暇などの 活動はフローの次元の概念であり,社会ネットワーク,メンタルマップ,場所 感覚はストックの次元の概念である。 時間地理学の枠組みでは,時空間の軌跡がパスとして描かれる。フローとは, このパスをある一定の単位時間でとらえたものであり,またストックとは,こ のパスの過去から現在までをすべて集計したもの,およびその結果,内的に蓄 積されているものということができる。ストックの各概念はそれぞれフローの 自 国 概念をある基準で集計したものということができる。例えば,社会ネットワー クはコミュニケーション行動に注目して集計することで得られるものであり, メンタルマップは,すべての生活活動の結果,収集される認知情報を集計した (38) 積分という概念をあてはめることが可能ではないかと考える。200 香川大学経済論叢 396 時間 フ口、一 ストック(個人) 社会空間 ストック(地域社会) 第