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リーガーの計算構造観再考-香川大学学術情報リポジトリ

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リーガーの計算構造観再考

井 原 理 代

し は じ め に

20世紀の会計観を支配した動態論を確立したシュマーレンバッハの徹底し た批判者とされるリーガーの貸借対照表論の解明を試みて久しい。リーガーの 見解のほとんどはシュマーレンバッハ批判に終始し,リーガー自身の主張はそ の批判のうちに潜在化して明確に捉え難いためである。 20世紀の終駕とともに動態論そのものが揺らぐなかで,その批判者の論を解 き明かすことはもはや無意味かもしれない。しかし,その揺らぎのなかだから こそ,固定的な枠組みに捕われることなく自由にその所説を解釈することも許 されるかもしれない。そうした解釈はこれまで不分明なままのリーガー貸借対 照表論の会計学説史上における位置づけを明確にするとともに,新たな意義を 見い出せるかもしれない。 そう考えて,固定的な枠組みとして捉えられがちな複式簿記システムに対す (1) るリーガーの見解を特異なものとして明らかにすることを試みてきた。そこで, 本稿では,そのようなリーガーの特異な簿記観に基づき,あわせて動態論の計 算構造観の特徴づけに用いられてきた収支計算ないし収支概念をめぐる考察に 依拠することによって,計算構造観の特異性を浮き彫りにしたいと考える。 (1) 拙稿「ドイツ財務会計の計算構造 Rieger貸借対照表論に依拠してー」興津裕康編著 『財務会計システムの研究』税務経理協会, 1999年 8月, 102~113 頁。 拙稿「リーガーの簿記観再考Jr産業経理JVol 60 No.. 3, 2000年10月, 2~ 1l頁。

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-54- 香川大学経済論叢 438

2

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リーガー簿記観における残高勘定と損益勘定

リーガーの特異な簿記観をとりまとめると,次のようにいえよう。 (1) 複式簿記におけるすべての勘定の借方側と貸方側はそれぞれ同じ内容を 持ち,借方記入は費用,貸方記入は収益とみなされる。 (2) ここに費用とは,財貨が貨幣で費やすものであり,収益とは財貨が貨幣 でもたらすものである。

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)

すべての勘定の借方記入には「からJ,貸方記入には「へ」という語が付 与され,それゆえ,勘定記入は貨幣転換過程を示すものである。 (4) 一期間のこのような勘定記入に基づき行われる決算では,まず残高勘定 (2) が設けられ,期末の資産・負債・資本をすべて貨幣に擬制的に転換した結 果を表わす。 その意味で,残高勘定は,擬制費用と擬制収益を表示する一つの擬制さ れた清算現金勘定として'性格づけられる。

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)

決算では,残高勘定によっても貸借が平均せず締切りのできない勘定の ために,次に損益勘定を設ける。損益勘定は,期中の貨幣転換の記入不履 行を補充するものであり,そこに記入されるのは実際費用と実際収益であ る。 (3) このようなリーガーの簿記観,とりわけ損益勘定を明解にするため,前稿で はきわめて簡単な設例を用いたが,ここでは,彼の簿記観全体をより鮮明にす るため,その前例に一つの取号│と決算整理事項を加え処理を行って,彼の簿記 観と一般的な簿記観を比較してみよう。 [期中取引] ① 現金¥

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を元入れして開業した。 (2 ) リーガーの決算手続についての説明によれば,この段階では期末の資産・負債のみが残 高勘定に表示されることになっているが,すでに制稿[1999年, 112頁]で示したように, 資本も同様に表示されるべきだと考える。 (3 ) 拙稿 [2000年], 9 ~1O頁。

(3)

② 営業費¥ 100を現金で支払った。 ③ 備 品 ¥ 80を購入し,代金は次期に支払うことにした。 ④ 受取手数料¥ 150を現金で受取った。 (4) [決算整理事項] i )備品の減価償却高 ¥

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0

ii)営業費の前払高 ¥10 まず,期中取引の仕訳を考えると, リーガーの簿記観も一般的な簿記観も同 ーであるが,その解釈は,次のように異なると考える。 取引 仕 訳 般的な簿記観 リーガーの簿記観 ① (借)現金 100 現金という資産の増加100と (資本金という形態から) (貸)資本金 100 資本金という資本の増加100 現金という形態で費やされた100と (現金という形態へ) 資本金という形態でもたらされた100 ② (借)営業費 100 営業費という費用の発生100と (現金という形態から) (貸)現金 100 現金という資産の減少100 営業費という形態で費やされた100と (営業資という形態へ) 現金という形態でもたらされた100 ③ (借)備品 80 備品という資産の増加80と (未払金という形態から) (貸)未払金 80 未払金という負債の増加80 備品という形態で費やされた80と (備品という形態へ) 未払金という形態でもたらされた80 ④ (借)現金 150 現金という資産の増加150と (受取手数料という形態から) (貸)受取手数料 150受取手数料という収益の発生150 現金という形態で費やされた150と (現金という形態へ) 受取手数料という形態でもたらされた150 次に決算手続を考えると,リーガーの簿記観は一般的な簿記観とはきわめて 大きな違いがみられる。それは,次のように整理できょう。 (4 ) 決算整理事項についてのこの表記は一般的な見解によっており,リーガーの簿記観か らすれば, i)備品の擬制収益¥ 60,ii)営業費の擬制収益¥ 10とすべきであり,しかもそ の金額については,彼の主張する「今日の価値」基準によるべきであろう。だが設例上の 表記ゆえ,一般的な見解によることにする。

(4)

56 香川大学経済論叢 440 決算 手続 一般的な簿記観 リーガーの簿記観 (借)減価償却費 20 (借)残高 150 (貸)現金 150 ー 残 転 (貸)備品 20 高 換 (借)前払官業費 10

(貸)営業費 10

I

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制 (借)損益 20 を (貸)減価償却費 20 I

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~ (貸)営業費 90

修正仕訳 (借)残高 60 (貸)備品 60 (倍)残高 10 (貸)営業費 10 収益諸勘定の振替仕訳 損益勘定への費用 (借)未払金 80 (貸)残高 80 (倍)資本金 100 (貸)残高 100 (借)受取手数料 150 (貸)損益 150 J¥ の 損 期 主主純 勘 矛)1I (借)損益 40 定 益 │ で の 貸 ) 資 本 金 40 の 算 当 定 ハ u d 佳 A H v a A を 官 同 金 残 淋 ぽ 借 期純利益の算定 残高勘定での当 (借)残高 150 (貸)現金 150 (借)損益 20 (貸)備品 20 諸勘定の振替仕訳 残高勘定への資産・負債・資本 損益勘定による期中の 記入不履行の補充 ハ H V

費-ω

一 業 一

ω

珍 コ e A U ぬ 広 一 。 。

ω

品 一 日 払 一 高 備 一 前 一 金 残 高 ) 一 高 ) -ι ) 残 慎 一 残 慎 一 利 明 借 一 借 一 倍 (借)損益 90 (貸)営業費 90 (借)受取手数料 150 (貸)損益 150 (借)損益 40 (食)資本金 40 (借)資本金 100 (貸)残高 100 (借)資本金 40 (貸)残高 40 以上の仕訳処理に基づき,リーガーの場合についてのみ勘定記入を示すと, 次のようになる。

(5)

資本金 残 高 残高から 100

I

① 現 金 へ 100 (期末の擬制費用)

I

(期末の擬制収益) (期末の擬制費用) 川期中の実際収益) 現金から 150 未払金へ 80 残高から 40損益へ 40 備品から 60 資本金へ 100 (期末の擬制費用) 日期末補充した 営業費から 1C 資本金へ 40 期中の実際収益) 損 益 現 金 (期末補充した (期末補充した ①資本金から 100②営業費へ 100 期中の実際費用) 期中の実際収益) (期中の実際費用) (期中の実際収益) 備品から 20受取手数料へ 150 ④受取手数料から 150残高へ 150 営業費から 90 (期中の実際費用) (期末の擬制費用) 資本金から 40 備 品 ③未払金から 80

I

残高へ 60 (期中の実際費用) I (期末の擬制費用) 損益へ 20 (期末補充した 期中の実際収益) 未払金 残高から 80I ~備品へ 80 (期末の擬制費用)

I

(期中の実際収益) 営業費 ②現金から 1∞ 残 高 へ 10 (期中の実際費用) れ期末の擬制費用) 損益へ 90 (期末補充した 期中の実際収益) 受取手数料 損益から 150I @:現金へ 150 (期末補充した い期中の実際収益) 期中の実際費用)

(6)

58 香川大学経済論叢 442 このうち残高勘定と損益勘定について, 般的な簿記観との違いに着目して 考察を加えたい。両勘定はリーガーの簿記観の特異性を集約しており,その考 察は,リーガーの計算構造観を説くよすがになると思われるからである。そし て指摘できるのは,次の4点である。第1に,残高勘定と損益勘定の設定の順 序についてである。一般的には,まず損益勘定の設定と処理がなされ,その後 残高勘定のそれとなるが,リーガーにあっては全く逆である。第 2に,当期純 利益の算定についてである。一般的には,それは損益勘定によるのに対し,リー ガーにあっては残高勘定によっている。第3に,残高勘定の性格についてであ る。一般的には,残高勘定は期末の資産・負債・資本残高を集合したものであ るのに対し,リーガーにあっては期末に各項目をすべて貨幣に擬制的に転換し た結果を示すものとなる。リーガーでは,残高勘定の借方側は,仮に清算した 場合に(現金や備品,営業費という形態から)現金という形態で費やされるで あろう貨幣額を示し,他方,その貸方側は,その場合に(未払金や資本金とい う形態へ)現金という形態でもたらすであろう貨幣額を示すとともに,その両 者の差額計算として,擬制された清算現金という形態での貨幣額による当期純 利益の算定が行われることになるのである。 さらに第

4

として,損益勘定の性格があげられる。正確にいえば, リーガー (5) にあっては,一般的な費用・収益概念が否定されているのだから,損益勘定も ありえないというべきかもしれない。しかし,彼は複式簿記システムの枠組み を踏襲して損益勘定を用いている。それにもかかわらず,その性格は一般的な 損益勘定とは決定的に異なるといわざるをえず,またそうでなければならない はずで、ある。一般的には,損益勘定は期中の一般的な費用および収益を集合し, その両者の差額計算として当期純利益を算定するものである。これに対し,リー ガーでは,損益勘定は,期中の貨幣転換を記入すべきでありながらそれを欠い ているため,総括的に記入するものとなる。その意味で,損益勘定は記入不履 行だった期中の実際費用および実際収益を期末に補充記入したものと捉えられ (5 ) 拙 稿 [1999年].104~105 頁や拙稿「リーガーの会計構造観の二元性 J r国民経済雑誌』 第172巻第 4号. 1995年 10月. 1 ~20 頁を参照されたい。

(7)

るわけであるが,ここに実際費用・実際収益が一般的な費用・収益概念でない ことはいうまでもない。このことをより明確にするため,その補充記入は,本 来は,期中の貨幣転換の記入を欠いている勘定問で行われるはずだということ に着目しよう。設例を用いて,その記入を示すと,次の点線部分の記入になる。 残高から 残高から 資本金 100① 現 金 へ 100 40 1:受取手数料へ 40 受取手数料 !備品から l④現金へ 20 I 150 ハ H U A H v -nudA4 ら ら 一 、ヵヵ 費 金 一 業 本 一 営 資 一 備 品 ③未払金から 80 1

:

ー :受取手数料へ 20 残高へ 60 営業費 ②現金から 100 1

:

一一 :受取手数料へ 90 残高へ 10 本設例では,このように期中の記入を欠いている貨幣転換を跡づけ本来の補 充記入が可能であるかもしれないが,実際上はそれは不可能であるために登場 するのが損益勘定であると考えられる。すなわち,備品勘定の貸方記入「受取 手数料20J,営業費勘定の貸方記入「受取手数料90Jおよび資本金勘定の貸方 記入「受取手数料40Jに相当する記入を可能ならしめるために,損益勘定の借 方側が用いられ,受取手数料勘定の借方記入「備品から 20Jr営業費から 90J 「資本金から 40Jに相当する記入を可能ならしめるに,損益勘定の貸方側が用 いられていることになる。それゆえ,あえて敷市すれば,一般的な損益勘定の 借方側は一般的な費用の期中発生額,貸方側は一般的な収益の期中発生額を示 すのに対し,リーガーの損益勘定の借方側は, (一般的な費用から)一般的な収 益として費やされたはずの貨幣額,貸方側は, (一般的な収益へ)一般的な費用

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-60ー 香川大学経済論叢 444 としてもたらされたはずの貨幣額を示す。さらに端的にいえば,一般的な損益 勘定の借方側は一般的な費用勘定の借方記入,貸方側は一般的な収益勘定の貸 方記入に相当するのに対し,リーガーの損益勘定の借方側は一般的な収益勘定 の借方記入,貸方側は一般的な費用勘定の貸方記入を意味すると考えられるの (6) である。そして,このようなリーガーの損益勘定では,当期純利益が一般的な 収益と費用との差額ではなく,備品や営業費から費やされたはずの貨幣額と同 様,企業者の給付から費やされたはずの貨幣額として捉えられていることを指 摘しておきたい。 以上,リーガーの計算構造観を解明するべく,残高勘定と損益勘定の特異性 について考察してきたが,それは必ずしも明瞭になっていない。彼のあまりの 特異さゆえに明瞭でないとも思われるが,その大きな要因として勘定の借方記 入および貸方記入を意味する費用概念および収益概念があげられるであろう。 その概念,したがってまた勘定の記入内容がなお不分明であるといわざるをえ ない。そこで,特にわが国において動態論の計算構造観の特徴づけに用いられ てきた収支計算ないし収支概念をめぐる考察を辿ることにする。そうした特徴 づけは,動態論の本質が収支計算の徹底化にあることに由来すると考えられる が,リーガーの計算構造観は,動態論の範鴎で捉え難いとはいえ,貨幣計算に (8) 終始するということから,それは決して無益ではないであろう。これまでの収 支計算ないし収支概念をめぐる考察を通して,リーガーの残高勘定と損益勘定 の特異性の明瞭化を進めるとともに,彼の計算構造観を特徴づけてみたいので ある。 (6 ) リーガーにあって,一般的な費用・収益概念が否定されているということは前述の通り である。それゆえ,このような表記は問題であるが,リーガーの損益勘定を鮮明にするた め,ここでは彼の想定しているのであろう「営業費という形態で費やされた貨幣額」と一 般的な営業費は実際上同じと考えこの表記を用いた。しかし,両者の概念上の違いをなお ざりにするものでは決してない。 (7) 拙 稿 [1995年]や拙稿「動的貸借対照表論のー異型j i会計』第138巻 第2号, 1990年 8月, 12~24 頁を参照されたい。 (8 ) 拙 稿 [1995年・1999年]。

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3

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動態論における収支計算・収支概念

わが国において,収支計算の徹底化を本質とする動態論をその収支計算ない し収支概念により考察し特徴づけた貴重な先進研究が多く著されている。ここ では,そのような研究を本格的に始められた山下勝治博士の見解,山下学説を 展開された谷端長博士の見解,および収支概念により体系的に動態論を分析さ

れた新田忠誓教授の見解を辿ることにする。 山下博士は,シュマーレンバッハ理論とワノレプ理論を対象として,ごつの収 支計算および二つの収支概念を明断に説かれる。博士によれば,両概念では, 「収支計算に基づく損益計算」という同ーの表現が用いられているが,その収 支計算は同一の内容をもつものであるかと問われている。そして,-収支計算に 基づく損益計算」といっても,両理論では全く異なるこつの表裏の関係を意味 していると指摘される。シュマーレンバッハ理論では,損益計算の構造を説く 出発点に収支計算を採り,費用収益は支出収入によって量られるとし,その典 型的な場合として収支計算即損益計算という関係が成立する全体損益計算をあ げられる。そのうえで,このような全体損益計算の場合に考えられた収支計算 即損益計算の考え方は期間損益計算の場合においてもまた,原則的には,同様 に妥当するものとされる。それゆえ rそこに言ふ収支計算とは,現金そのもの の収支計算ではなくして,現金の収入したもの,支出したものと言ふが如き現 金増減の原因計算であると言ふことである。現金残高を計算しようとする具体 的な収支計算ではなくして,その増減を収支として抽象的に計算しようとする ものである。……その言ふ収支計算の性格は,抽象的な収支額の計算と言ふが 如き抽象計算である。複式簿記上の損益計算と同様な性格をもっ。ここに収支

ω

計算的思考の一つの典型的な考へ方がある。」 (9 ) 山下勝治著「二つの収支計算思考」神戸大学会計学研究会編『シュマーレンパツノ、研究』 中央経済社, 1954年8月, 123~143 頁。 (10) 谷端長著『動的会計論』森山香庖, 1978 年 5 月,特に 235~252 頁。 (11) 新田忠響著『動的貸借対照論の原理と展開』白桃若手房, 1995年7月。 (12) 山下勝治著「前掲稿J,132'~133 頁。

(10)

62- 香川大学経済論叢 446 これに対し,ワノレプ理論では,損益計算の構造を説く出発点は,企業活動を 給付と支払との対流とみる見方を採り,収支計算は,流出入する給付の反対の 流れとしての貨幣の入と出を把握するものである。そこでは,企業会計は,そ のような収支計算とその反対の給付計算というこつの系統による損益計算の一 元的な構造として理解され,その収支計算は,給付計算の反対面としての現金 収支計算と捉えられる。それゆえ,ワノレプ的収支計算は,-シュマーレンバッハ 的収支計算と抜本的に異り,ここでは,現金の収支計算乃至現金的収支と言ふ 性格をもっと言ふことである。家計の現金出納計算と同様である。従って,そ こではこの収支計算が現金残高を計算し,その残高の期首のそれとの差額が損 (13) 益を示す。」 こうして,山下博士は,シュマーレンバッハ理論とワノレプ理論について,-同 じく収支計算と言っても,一方が,現金収支の原因乃至裏としての収支損益計 算的思考に立ってゐるのに対し,他方が現金そのものの増減計算的思考に立っ てゐたと言ふことである。一方が抽象的な損益計算の別名として収支計算を理 解しようとするのに対し,他方が具体的な現金増減計算乃至現金出入計算の別 ( 14) 名として収支計算を理解しようとしてゐる」と述べ,二つの収支計算からニつ の動態論として特徴づけておられる。 次に谷端博士は,シュマーレンバッハ理論とコジオール理論を対象として, (15) ニつの費用支出,収益収入概念および二つの収支概念を明確に描き出される。 シュマーレンバッハ研究をきわめて精搬に展開された博士は,シュマーレン ノてツハの「商人は,原則として,費用支出と貸借対照表支出(残高支出) に,収入収益と貸借対照表収入(残高収入)…"に分ける」という叙述に注目 し,しかし彼がいかなるものを費用支出・収益収入と呼び何を貸借対照表支出 (13) 向上, 137頁。 (14) 向上, 138頁。 (15) 谷端博士は,二つの費用支出・収益収入概念について質的特質と量的特質の二商から考 察しておられるが,ここでは,本稿のために必要な質的特質からの考察のみに言及す る。 (16) 谷端長著『前掲脅.J 235頁。

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(残高支出)・貸借対照表収入(残高支出)と称するかについては規定がないと して指摘される。そこで,シュマーレンバッハの貸借対照表図式・損益計算書 図式を分析した結果,彼にあっては損益勘定に記帳される支出・収入を費用支 出・収益収入と呼び,貸借対照表に計上される支出・収入を貸借対照表支出(残 高支出)・貸借対照表収入(残高収入)と名付けている。換言すると,シュマー レンバッハは,収支計算は,収支の中で貸借対照表収入(残高収入)と貸借対 照表支出(残高支出)を貸借対照表に引き渡すことによって,収益・費用計算 となり,費用支出・収益収入は,このようにして生ずる費用収益計算を表わす 損益計算書上の概念という。その結果 iシュマーレンバッハの費用支出・収益 収入概念はいわゆる費用・収益に該当する概念で(あり),……いず、れも損益計 算書に現れる損益計算書上の概念であるから,支出・収入という語を帯びては いるが決して現金自体の出・入(減・増)を表わす概念ではない。これら両概 念は,このような現金自体の出入を麗らすに至った原因概念で(あり), ..収・ (17) 支の表概念である」ということになる。このような立場からすると i損益計算 ( 1 曲 書の借方側が支出であり貸方側が収入である」とともに I貸借対照表もまたそ ( 19) の借方側が支出,貸方側が収入と解されねばならない」と主張される。例えば, 材料

1

0

万円を購入し期末在高

2

万円の場合,

1

0

万円という支出(原因)が

8

万 円と 2万円の2つの支出(原因)に分解されて,それぞれ損益計算書と貸借対 照表の借方に現れると考えられるからである。 これに対し,コジオ}ノレ理論では,費用支出と収益収入という概念をその基 底におき,貸借対照表をこのような両概念による一つの損益計算として解明さ れようとする。そして,その費用支出・収益収入概念を収支の裏概念として, すなわち費用となる現金の支出それ自体,収益となる現金の収入それ自体と捉 えられる。コジオールにおける費用支出・収益収入は,費用・収益に対応し, 費用・収益の実体を構成する支出・収入そのものを意味し,それゆえにシュマー レンバッハのように損益計算書に現れる損益計算書上の概念ではなくて,貸借 (17) 向上, 237~238 頁。 (18)(19) 同上, 238頁。

(12)

64 香川大学経済論議 448 対照表に現れる貸借対照表上の概念であることになる。したがってまた,シユ マーレンバッハの貸借対照表の借方側が支出であり貸方側が収入であるとは反 対に,コジオーノレの貸借対照表の借方側は収入を表わし貸方側が支出を表わす ことになるというのである。 このように,谷端博土は,シュマーレンバッハ理論とコジオール理論につい て,同じく費用支出・収益収入概念が用いられていても rシュマーレンバッハ のいう費用支出・収益収入とは,あくまでも損益計算書上の概念であってい1 収・支の表概念であり原因概念に他ならない。 川いところが,がコジオール のいう費用支出・収益収入は,損益計算書上の概念ではなくて,反対に貸借対 ω) 照表上の概念で(あって),……収・支の裏概念であり結果概念に他ならない」 と述べ,二つの費用支出・収益収入概念からこつの動態論として特徴づけてお られる。 さらに新田教授は,二つの収支計算ないし二つの収支概念を用いて,動態論 ( 2)1 のさまざまな学説を見事に,総括的に分析しておられる。教授が収支計算に着 自立) 目するのは,それが動態論にとって rそのアルファでありオメガである」から である。それにもかかわらず「その収支計算が一つではなくて,収入支出の見 方によってごつある。すなわち,収支の原因を見る収支原因計算書と,収支の 邸) 事実を見るいわば収支(現金)増減計算書のこつである」ことを指摘される。 新田教授は,動態論の分析にあたり考察の視点として,明らかにしなければ ならないのが,収支の見方,すなわち貨幣認識の分析であると主張され,それ を二つの全体損益計算の考察から導出される。一つの全体損益計算とはシコ マーレンバッハのそれであり,それは全体損益計算と同じものと評されるが, (2~ そこでは「彼が収支計算という場合,収入支出の原因を見ているといえる」と (20) 同上, 248~249 頁。 (21) 新田教授の御研究は二つの収支計算ないしニつの収支概念を重要な視座として,動態 論を総括的に考察されたものであり,本稿でいわばその視点にのみ言及することに心臆 するものがあるが,拙稿の運びからあえて限定的に辿ることにしたい。 (22) 谷端長著『前掲書J,5頁。 (23) 新田忠誓著『前掲舎J

22頁。 (24) 同上, 15頁。

(13)

される。例えば,給料3,000マルクを現金で支払った場合の仕訳を考えると, (借)給料3,000 (貸)現金3,000となるが,前者は,労働給付の対価に対し て現金が支出されたこと,つまり現金支出をもたらすに至った原因を表わし, 後者は現金が減少したこと,つまり現金支出の事実を表わす。この場合,損益 計算書に収容され,全体損益計算書すなわち全体収支計算の構成要素となるの は前者だからである。それゆえ,シュマーレンバッハでは I利益はこれら収支 の差,すなわち収入余剰として計算されるのである。この場合,あくまでも収

ω

入余剰であり決して事実としての現金在高でない。」このような考察によって, シュマーレンバッハの収支の見方が明らかになるが,いまだ期間計算における 貸借対照表の特徴づけがなされていない。これに対するべく,新田教授は,前 掲の例, (借)給料3,000 貸)現金3,000について期間損益計算の立場で考 察を加えられる。この給料への支出3,000マルクのうち 1,000マルクが前払分 であったとすると,その前払分1,000マ/レクが支出・未費用として貸借対照表 に収容される。そしてこの前払給料は,費用に記入した給料3,000マルクとい う原因の記入の修正を意味していると解されることから,貸借対照表には,支 出または収入の原因としての性格を持つものが収容されることになると説かれ るのである。 これに対し,いま一つの全体損益計算書とはコジオーノレのそれである。その 全体損益は Iあらゆる現金収入支出(利益の払出を除く)差額計算によって与 帥 飢 えられる」というコジオールの主張から I現金の計算そのものに固執している」 と指摘される。このことは,コジオールでは財の動きをそれと平行して流れる 収入支出の動きに代替させて把握しようとする立場から当然のなりゆきといえ よう。コジオールがみているのは,前掲の例, (借)給料3,000 (貸)現金3, 000でいえば I後者の現金3,000マルクつまり支出の事実,よりていねいにい

ω

うと現金減少そのものなのである」ということになる。それゆえ,コジオーJレ (25) 向上。 (26) 向上, 19頁。 (27) 同上。 (28) 同上, 20頁。

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66 香川大学経済論議 450 の収支の見方はその事実を見ており,現金在高が利益を表わすというのである。 このようなコジオールの収支の見方に立って,期間計算における貸借対照表を 特徴づけると,それは,修正された,事実としての収入支出計算による損益決 定貸借対照表として'性格づけられる。前掲の例の前払給料が1,000マノレクある 場合を考えると,現金3,000マルクの記入について,前払給料に該当する 1,000 マノレクだけ現金が少なくなり,戻し収入として貸借対照表に計上される。同様 にして貸借対照表は,修正された,事実としての収入と支出によって損益決定 を行う役割をもつものと特徴づけられることになる。 以上きわめて粗雑であるが,動態論の特徴づけ,より正確にはその損益計算 書と貸借対照表についてという意味で,動態論の計算構造の特徴づけに用いら れてきた収支計算ないし収支概念をめぐる考察を辿ってきた。これによってわ れわれは,三つの考察が三様でありながら,基本的には一つの分析に至ってい るといえるのではないかと考える。それは,収支計算ないし収支概念の捉え方 はこつに分かれるということに他ならない。一方は,収入・支出を現金自体の 出・入(減・増)をもたらす原因概念と捉え,したがって収支計算は抽象的な 現金増減の原因計算であり,収益費用計算に他ならないとして理解するもので ある。他方は,収入・支出を現金の出・入(減・増)それ自体をあらわす結果 ないし事実概念と捉え,したがって収支計算は具体的な現金増減計算そのもの とみなされるものである。

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.リーガーの収支計算・収支概念と計算構造観

あらためていえば,リーガーの計算構造観の基底をなす会計観は,貨幣思考 であり,彼によれば企業計算は貨幣計算の域に終始し,したがって簿記の職務 は貨幣転換運動の計算であり,その結果算定される成果計算も貨幣余剰計算と 主張される。このようにリーガーの計算構造観は貨幣思考を基底とするのであ れば,それは前節で検討した収支計算ないし収支概念を用いて特徴づけられる であろう。しかし,事はさほど簡単で、ないことに気づかざるをえない。 前述のように,収支概念は現金出入をもたらす原因概念と現金出入自体の結

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果概念,同時に収支計算は抽象的な・現金増減原因計算と具体的な現金増減計算 の二様に捉えられる。このうちリーガーにあっては,貨幣思考を基底とし,収 益・費用概念を否定しているからには,原因概念としての収支概念ないし現金 増減原因計算としての収支計算に基づくはずは全くない。 では,リーガーの計算構造論は,結果概念としての収支概念ないし現金増減 計算としての収支計算に基づくと特徴づけられるのであろうか。その答は,半 ば正しく,半ば正しくないといわざるをえない。それゆえに,事は簡単でない のである。確かにリーガーの計算構造観における収支概念は決して現金出入を もたらす原因概念ではありえず,現金出入自体の結果概念に属するとはいえる かもしれないが,しかしそのものでもないと考えられるからである。敷桁すれ ば,リーガーにおける収支計算は決して現金増減原因計算ではありえず,現金 増減計算に属するとはいえるかもしれないが,しかしそれ自体でもないと考え るからである。 あらためて,収支計算のこつの捉え方に着目すると,それは一方で抽象的計 算と現金増減原因計算,他方で具体的計算と現金増減計算がそれぞれ一体化し ている。また,収支概念の二つの捉え方をみると,それは一方で原因概念と抽 象的概念,他方で結果概念と事実ないし具体的概念がそれぞれ一体化している。 これに対し, リーガーの計算構造観は抽象的な現金増減計算,ないし抽象的な 結果概念としての収支概念に依拠すると考えられないで》あろうか。彼は,貨幣 計算を首尾一貫して強調しながら,現金(baresGeld)という概念を排除し,自 らの貨幣計算は一つの抽象的貨幣計算(einabstrakte Geldrechnung)と主張し ている。そうならば,リーガ)における収支概念は抽象的な結果概念であり, 収支計算は抽象的な現金増減計算ないし貨幣計算と捉えられるであろう。そし てその収支計算とは,抽象的な貨幣計算ゆえ貨幣額の出・入(減・増)計算と 考えると,その収入概念は貨幣額の入であり,その支出概念は貨幣額の出であ ることになる。 ここで,リーガーの簿記観における勘定の借方記入と貸方記入を想起しよう。 借方記入を意味する費用とは, (他の形態から)ある形態で費やされた貨幣額で

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-68- 香川大学経済論叢 452 あり,貸方記入を意味する収益とは, (イ也の形態へ)ある形態でもたらされた貨 幣額に他ならない。こうした脈絡からすれば,前者は抽象的な結果概念として の収入であり,後者は同様な概念としての支出といえないだろうか。その意味 でこの収入概念は貨幣額の流入,この支出概念は貨幣額の流出と読み替えてよ いものであろう。いまこのような貨幣額の流入と流出という表現を用いて,リー ガーの簿記観で設けた設例を読み替えると,それはわかりやすくなるように思 われる。 期 中 取 引 流入・流出概念による解釈 (借)現金 100 資本金から現金として流入した100と (貸)資本金 100 現金へ資本金として流出した100 (借)営業費 100 現金から営業費として流入した100と (貸)現金 100 営業費へ現金として流出した100 (借)備品 80 未払金から備品として流入した80と (貸)未払金 80 備品へ未払金として流出した80 (借)現金 150 受取手数料から現金として流入した150と (貸)受取手数料 150 現金へ受取手数料として流出した150 決 算 手 続 (借)残高 150 現金から「清算現金」として流入するであろう150と (貸)現金 150 「清算現金」へ現金として流出するであろう150 (借)残高 60 備品から「清算現金」として流入するであろう60と (貸)備品 60 「清算現金」へ備品として流出するであろう60 (借)残高 10 営業費から「清算現金」として流入するであろう60と (貸)営業費 10 「清算現金」へ営業費として流出するであろう60 (倍)未払金 80 「清算現金」から未払金として流入するであろう60と (貸)残高 80 未払金へ「清算現金」として流出するであろう60 (借)資本金 100 「清算現金」から資本金として流入するであろう60と (貸)残高 100 資本金へ ri青鉾現金」として流出するであろう60 (借)資本金 40 「清算現金」から資本金として流入するであろう40と (貸)残高 40 資本金へ「清算現金」として流出するであろう40 (借)損益 20 備品(減価償却費)から損益(受取手数料)として流入し (貸)備品 20 たはずの20と損益(受取手数料)へ備品(減価償却費)と して流出したはずの20

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(借)損益 90 営業費から損益(受取手数料)として流入したはずの90と (貸)営業費 90 損益(受取手数料)へ営業費として流出したはずの90 (倍)受取手数料 150 損益(営業費等)から受取手数料として流入したはずの150と (貸)損益 150 受取手数料へ損益(営業費等)として流出したはずの150 (借)損益 40 資本金から損益(受取手数料)として流入したはずの40と (貸)資本金 40 損益(受取手数料)へ資本金として流出したはずの40 このような収支概念を用い,あわせて前節における収支概念をめぐる考察に 依拠すると,リーガーの計算構造観の特異性をつぎのように指摘できる。シュー マレンバッハの計算構造では,損益計算書の借方側は支出(抽象的原因概念), 貸方側は収入(抽象的原因概念)であり,貸借対照表も同様に借方側は支出(抽象 的原因概念),貸方側は収入(抽象的原因概念)を表わすと特徴づけられる。他方 ワルプとコジオールの計算構造では,貸借対照表は借方側は収入(具体的結果概 念),貸方側は支出(具体的結果概念)であるのに対し,損益計算書は反対に借方 側は支出(抽象的原因概念),貸方側は収入(抽象的原因概念)を表わすと特徴 づけられる。これに対しリーガーの計算構造では,貸借対照表の借方側は収入 (抽象的結果概念),貸方側は支出(抽象的結果概念)であり,損益計算書も同 様に借方側は収入(抽象的結果概念),貸方側は支出(抽象的結果概念)を表わ すと特徴づけられるのである。リーガーの計算構造がシューマレンバッハのそ れと全く反対に特徴づけられるのは,あまりにも当然のことと首肯するところ である。

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.

むすびに代えて

以上,われわれは,リーガーの計算構造について,彼の簿記観に基づき,そ のうえに収支計算ないし収支概念の捉え方を用いて考察してきた。その結果, リーガーの計算構造では,貸借対照表も損益計算書も,彼の勘定の性格づけと 同様に,それぞれの借方側は,抽象的結果概念であり貨幣額の流入を意味する 収入を表わし,他方貸方側は,抽象的結果概念であり貨幣額の流出を意味する 支出を表わすものと特徴づけられることを明らかにした。収入支出という表現

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70 香川大学経済論叢 454 を用いれば,貸借対照表も損益計算書もそれぞれの借方側は支出であり,貸方 側は収入を表わすもとの捉えられるシュマーレンバッハの計算構造とは,まさ しく対極にあることが浮き彫りになるのである。 そして,このようにみると,貸借対照表も損益計算書も新たな解釈が可能に なるように思われる。貸借対照表は,将来どのように収入(貨幣額の流入)と 支出(貨幣額の流出)があるかを表示し,損益計算書は,どのように費用項目 が発生したかではなしどのようにその貨幣額が流入し回収されたか,他方ど のように収益項目が生じたかではなく,どのようにその貨幣額が流出し使途さ れたかを表示すると解される。このような解釈が許されるとすれば,それは, 現今求められている未来志向の会計観であり,歴史に埋もれたリーガー貸借対 照表論の現代的意義といえるかもしれない。

参照

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