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平成21年度

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Academic year: 2021

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修士論文要旨

『読みの過程における読解方略の研究』

新潟大学大学院教育学研究科 長谷川 聡実

1 研究の成果

本研究では、中学校国語科「読むこと」の教育の現状と課題をふまえて、研究テーマを 次のように設定した。 <研究テーマ> 読みの過程における読解方略の研究 「中学校国語科『読むこと』の教育において、『読む』ということをどう捉え、どう指導 していくか」ということを再考するために、方略先行研究を手がかりに研究を進めた。 第1章では、中学校国語科「読むこと」の現状を教科書、指導書を使って次の二点につ いて明らかにした。 1 教科書では、「表現の工夫や題名、文章の構造や展開について考える」ことや「登 場人物の心情や行動を読み取る、考える」という活動が多く想定されており、「読む こと」の授業は読解中心の学習となっている。 2 読書指導は、<発展>として扱われることが多いということである。学習材の読 解を終えた後に、さらに深く読んだり考えたりするための活動の中に位置づけられ ている。 中学校国語科「読むこと」の教育の課題は、「狭い範囲の読み」(読解中心)の指導に重 きが置かれていることである。これをふまえて、中学校国語科「読むこと」の教育で扱う べき「広い範囲の読み」について考察した。 筆者が中学校国語科「読むこと」の教育で扱いたい「広い範囲の読み」とは、読解指導 を含む読書指導である。読解指導によって、生徒に「テキストを正確に読む力」、「解釈す る力」、「鑑賞する力」、「批判的に読み、評価する力」などを育成することができる。その 指導は価値のあることであるが、「読むこと」の教育は読解指導だけでは充分でない。なぜ なら、社会生活において読むという行為は読解だけを指すのではないからである。生活の 目的によってメディア(紙媒体だけではなく、電子媒体も含む)を選んだり、読み方を変 えるという行為も「読むこと」に含まれるからである。「広い範囲の読み」とは、このよう な「社会を生き抜くために必要な読み」を指している。

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国語科「読むこと」の教育は、読解指導を含む読書指導つまり「社会生活にいかすこと のできる読みの力」を育む指導を行う必要があるということを確認した。 このことから、本研究で目指す中学校国語科「読むこと」の教育と生徒像を以下のよう に設定した。 <中学校国語科「読むこと」の教育目標と目指す生徒像> 目標 社会生活にいかすことのできる読みの力を育成すること 目指す生徒像 読むことによって社会生活を向上させることのできる読み手 第2章では、まず「読む」ということの概念の確認をした。方略先行研究では、reading strategy の「reading」がさまざまに訳されていた。「reading」は、「読解」、「読み」と訳 されているが、「読解」とはどういうことを指すのか、「読み」とはどういうものなのか明 確に定義されていなかった。筆者はreading strategy の「reading」をどう捉えるかとい うことは、非常に重要な問題であると考えている。このような問題意識から、井関・海保、 犬塚の提示した方略項目を検討した。これらの項目は、テキストを理解し、解釈するため の方略ばかりではなかった。「読む前に目次をよく見る」、「内容が理解できているか確かめ ながら読む」など、テキストの下見をしたり、自分の読みをモニタリングするものも含ま れていた。これらは、「狭い範囲の読み」(読解)ばかりでなく、「広い範囲の読み」(読書) を対象にした方略なのである。よって、筆者は「reading」を「読書」と捉え、「reading strategy」を「読書方略」と訳すことにした。そして、本研究では、「reading strategy」 を、「読み手が、読みの目的に沿って意識的に選びとる読みの行為」と定義した。 方略先行研究を検討することによって明らかになったことは、次の三点である。 1 方略項目は、読む前、読んでいる時、読んだ後という読みの過程すべてを対象に しているが、「reading」を読解という狭い意味で捉えてしまっていること。 2 方略研究は、尺度の中にある代表的かつ典型的な方略のいくつかを取り出して、 所定の課題を与え、直接、読みの方略の指導・訓練をすることを目的にしているが、 それよりも方略使用の体験をとおして、その有用性や使用の意味を考え、自分の読 みを意識化させることが必要であること。 3 プランニング方略やモニタリング方略などのメタ認知方略は、読みの能力を伸ば し、自立した読者を育成するのに有効であること。 中学校国語科「読むこと」の教育を再考するという目的から、第1章では中学校国語科 「読むこと」の教育の現状を明らかにした。第2章では、先行研究を検討した。これらを

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とおして見えた国語科「読むこと」の教育は以下のとおりである。 1 国語科「読むこと」の教育は、テキストの読解という狭い部分だけでなく、読 みの前・中・後のすべての過程を含めた「広い範囲の読み」(読書)を扱うべきで ある。 2 国語科「読むこと」の教育では、読書指導の目的に応じて、教科書以外の学習材 も取り入れる必要がある。 3 国語科「読むこと」の教育で大切なのは、学習者に読みの方略すべてを指導・訓 練することではなく、方略使用の体験をとおして、その有用性や使用の意味を考え、 自分の読みを意識化させることである。 第3章では、方略とテストにおける読解力との関係を調査した。「広い範囲の読み」を志 向する「読むこと」の教育と現在の「読むこと」の教育の差異について考えることが目的 である。調査は、テストにおける読解力正答得点と方略得点の相関を調べるものであり、 調査対象は中学生である。 使用した方略調査用紙は、秋田(2002)、井関・海保(2001)を参考にして作成した。読 解力正答得点は、標準学力検査(NRT)の「読むこと」領域の得点を使用した。方略得点 は、カテゴリー(A、B、C)ごとに集計し、読解力正答得点との相関を調べた。カテゴ リーの内容については、以下に示したとおりである。

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<方略カテゴリー対応表> 秋田のカテゴリー 井関・海保のカテゴリー A 読む行動をどれ だけ読む前、読み ながらチェック しているか 読み始める前に何をやっているか プランニング方 略 A メタ認知 読みながらどれくらい自分の読む心の動き に注意しているか モニタリング方 略 方略 B 文章の情報をど うやって取りこ んでいるか 内容の重要さや難しさに応じて自分の読み 方を変えているか ドキュメント作 法利用方略 B テ キ スト 情報 取り込み方略 文章に組み込まれたシグナルを利用してい るか 選択的注意方略 C 取り込んだ情報 を理解するため に何をしている か 単語や節、文レベルでどんなことをしてい るか 命題理解方略 C 精緻化方略 段落や文章全体の内容を理解するために何 をしているか 内容理解方略 文章から得られた情報を自分がすでにもっ ている知識とどのように結びつけ、理解し たり学ぼうとしているか 知識形成方略 調査の結果は、カテゴリーA(読む行動をチェックするための方略)とテストにおける読解 力の相関係数は 0.04 であり、ほとんど相関がないという結果であった。カテゴリーB(文 章の情報を取り込むための方略)についても相関係数は 0.10 であり、ほとんど相関がないとい う結果になった。カテゴリーC(取り込んだ情報を理解するための方略)の相関係数は、0.24 であり、カテゴリーCのみ弱い相関がみられた。 この結果は、「広い範囲の読み」を志向する「読むこと」の教育と現在の「読むこと」 の教育の差異を明らかにした。テストにおける「読むこと」についての課題は、「文 脈の中で語句の意味を理解すること」や「文章の構成や展開を把握すること」、「主 題・要旨の把握、見方・考え方」、「文章の内容把握や要約、情報収集」などを問 うものである。これらを読解力として、テストで測っているのである。これは、「読 むこと」の指導もまた、読解力の育成に偏っていることを示している。このテストで測 ろうとしている力は、読解力という「狭い範囲の読み」なのである。一方、方略項目は、 「読書をするときに読み手が、読みの目的に沿って意識的に選びとる読みの行為」を示 しており、「広い範囲の読み」を対象にしている。カテゴリーCは、理解をするための方 略群である。相関があったのは、このカテゴリーCだけであり、「読むこと」の指導が、

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いかに「狭い範囲の読み」しか扱っていないかということを表している。テストが測ろ うとしている読解力は「読むこと」の一側面しか測っていない。テストは、読解力が優 れているかを測るものであり、優れた読み手(「読むことによって社会生活を向上させる ことのできる読み手」を測るものではないのである。それは、「読むこと」の教育が、優 れた読解力を育てる教育であっても、優れた読み手を育む教育ではないということなの である。「読むこと」の教育はもっと「広い範囲の読み」を扱い、評価していくべきであ るということを本調査で確認した。 第4章では、以下の1~3を具現化した授業を提案した。 1 国語科「読むこと」の教育は、テキストの読解という狭い部分だけでなく、読 みの前・中・後のすべての過程を含めた広い範囲の読み(読書)を扱うべきである。 2 国語科「読むこと」の教育では、読書指導の目的に応じて、教科書以外の学習材 も取り入れる必要がある。 3 国語科「読むこと」の教育で大切なのは、学習者に読みの方略すべてを指導・訓 練することではなく、方略使用の体験をとおして、その有用性や使用の意味を考え、 自分の読みを意識化させることである。 提案した授業は、三つである。一つは「読み方を考える『読むこと』の授業」である。 二つ目は、「自分の読みをモニタリングする授業」、「目的に応じて本を選ぶことを学ぶ授業」 である。三つ目は、「読み方の違いを知る授業」である。これらは、読書指導として提案し た。三つの提案授業の概要を以下に示す。 〔提案1:読み方を考える「読むこと」の授業〕 資料と方略(読みながら文章に線を引く)体験と照らし合わせて読み、自 分の意見を書く授業である。二つの資料を批判的に読み、「自分なら~する」 という考えを学習者にもたせる活動を行う。この単元は、線を引くという方 略を身につけさせるのではなく、線を引く体験によって、自分の読み方を考 える学習として考えた。方略使用の有用性を判断するのは、学習者に任せた。 〔提案2:自分の読みをモニタリングする授業、目的に応じて本を選ぶことを学ぶ授業〕 この単元のねらいは、「本を読む前、読み終わった後の自分の読みをモニタ リングする。」、「目的に応じて本を選ぶ方法を知る。」というものである。知 っている知識や得た知識について考えることも大切であるが、「まだ自分が 知らないこと」、「もっと知りたいこと」を大切にし、次の読書へつなげたい

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という思いから構想した単元である。「KWL チャートを使って自分の読みを モニタリングする」という学習で終わるのではなく、モニタリングの結果分 かった「まだ知らないこと」、「もっと知りたいこと」を次の読書につなげる 学習に発展させたいと考えたのである。 〔提案3:読み方の違いを知る授業〕 「予測して読むことによって、説明文と物語文の読み方の違いを知る」 学習である。文学が伝えるのは経験それ自体で、経験するには感覚と想像力 を用いなければならない。説明文が伝えるのは知識で、知るには判断力と推 理力を働かせなければならないというアドラー(1997)の主張を実際に体験 する活動にし、考える単元にした。 本研究で設定した中学校国語科「読むこと」の教育の目標は、「社会生活にいかすことの できる読みの力を育成すること」であった。第4章で提案した三つの授業は、どれも生徒 が読み方について知り、読みについて考える学習である。生徒の「読む」能力を育成する ことが、「読むこと」の教育である。生徒が、さまざまなテキストを読めるようにならなけ れば、「読むこと」の教育を行ったとはいえない。「読む」能力とは、読解力(正確に読む 力、解釈する力、鑑賞する力、批判的に読み、評価する力など)だけではない。読解力も 含む読書力である。読書力には、自分の読みをモニタリングしたり、目的に応じてメディ アを選んだり、読み方を変える能力も含まれている。このような読書力をつけることが、 「社会生活にいかすことのできる読みの力を育成すること」であり、「読むこと」の教育の 目標である。 第4章で提案した三つの授業は、この目標を達成し、「読むことによって社 会生活を向上させることのできる読み手」育成のための授業であると考えている。

2 今後の課題と展望

(1) 提案授業の検証 「中学校国語『読むこと』の教育において、『読む』ということをどう捉え、どう指導し ていくか」ということを再考することが本研究の目的であった。「どう指導するか」という 授業の具体案を提案することで、本研究は終わっている。この授業は、生徒に読書力を本 当につけさせることができるのだろうか。そのための手だては有効であるのだろうか。対 象学年の設定は適切なのだろうか。提案授業は、かたちだけのものであってはならない。 実施可能で読書力育成のために有用であるかということを実践によって検証されなければ ならない。検証によって、授業は改善され、発展していく。なによりも生徒の「読む」能 力を育成することが「読むこと」の教育の使命である。これからの生活の中で読書が生き

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る一つの技能として力を発揮するために「読むこと」を学ぶ場を授業で提供しなければな らない。また、授業を検証し研究を続けていくためには、教師の読書力も高めなければな らない。読書人とは、「本を使って生きていく人」である。教師もまた研究論文や文献、授 業で使う学習材の数々を選びこれらを使って「読むこと」の教育を行う能力を磨かなけれ ばならない。読書人としての良いモデルを生徒に示すことも重要であると考える。 (2)評価とカリキュラムの問題 「読むこと」の教育の現状を考えると、読書指導は<発展>として扱われることが多い。 読書指導を「読むこと」の教育の中心に据えるためには、評価とカリキュラムを変えてい く必要がある。評価について考えると、現行のテストは読解力を測るものであり、読書力 を測るものではない。テスト以外のワークシート、ノート、授業での見取りなどからも読 書力を評価することはできるであろう。しかし、テストこそ読書力を測るものにしていく べきであると考える。なぜなら、テストが変わらなければ、授業も変わらないからである。 テストが変われば、必ず授業も変わる。これは、授業が変わらなければテストは変わらな いともいえるが、高校入試の問題によって、授業が変わってもテストは変わらないことは 現実の問題としてある。 指導と評価は一体のものである。読書力をどう測り、どう指導していくかという読書指 導カリキュラムと読書力評価の開発は、今後の優先課題である。 (3) 今後の展望 高度な情報化社会を迎えた今、「読み」の対象は多様化している。「社会生活にいかすこ とのできる読みの力」を育成する国語科「読むこと」の教育は、この「読み」の対象を的 確に捉え授業で扱っていく必要がある。「読み」の対象の多様化は、教科書だけでは対応で きない。教師は、現代における「読み」の対象は何か、その対象はどのように読むのか、 その対象を使ってどう授業をし、読書力をつけるのかということについて考える必要があ る。読書力をどう測り、どう指導していくかという読書指導カリキュラムと読書力評価の 開発に向けて、このような視点をもって臨みたいと考えている。

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