産業組織論(企業経済論)
第8回
井上智弘
注意事項
次回(6/9)は,講義のはじめに小テストを行う.
» 内容は,完全競争市場の均衡を求める問題と(本日講 義を行う)独占市場の均衡を求める問題. 講義の資料は,授業終了後にホームページにアッ
プしている.
http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html
前回の復習
総余剰
= 消費者余剰 + 生産者余剰 + 政府の財政収支
消費者余剰
= 需要曲線の下の面積 - 支出額
生産者余剰
= 収入額 - 供給曲線の下の面積
生産者余剰は収入から限界費用の合計を引いた
ものであるため,短期では「利潤 + 固定費用」,長
期では「利潤」と等しくなる.
MC q P VC P' B A » 生産量ゼロの点から,1単位ずつ 生産を増やしていくと,限界費用 分が積み重なっていく.これは生 産量に応じた費用となるため,限 界費用曲線の下の面積は可変費 用と一致する. » 長期には,固定費用はゼロとなる ため,可変費用 = 総費用となる. » 収入 = P’×Q’ = □ACDOである ため,生産者余剰 = ⊿ACBとなる. C D 収入
完全競争では,限界費用が一定の場合には,生
産者余剰がゼロになる.
VC前回の復習
P q O MC一定 P’ Q’ 収入 VC前回の復習
政府の財政収支
» 税を課すときは,税収として正の財政収支が発生し,補 助金を与えるときは,補助金としての支出が負の財政 収支となる.
総余剰
= 需要曲線の下の面積-供給曲線の下の面積
需要曲線と供給曲線の高さが一致するところ(両者
が交わるところ)で取引が行われるときに,総余剰が
最大になる.
完全競争市場では需要曲線と供給曲線が交わると
ころが市場均衡となるため,完全競争市場では社会
的な効率性が実現される.
前回の復習
前回の復習
P* Q* B E S P Q O A D前回の復習
限界費用が一定であっても,完全競争市場におい
ては総余剰が最大化される.
» ただし,総余剰=消費者余剰となる. P q S P* E D 消費者余剰 =総余剰前回の復習
完全競争市場の均衡から外れたところで取引が行
われる場合,総余剰は小さくなる.
生産者に対して,生産量1単位当たり t の税金(
従量税)を課す場合
» 生産量1単位ごとに t だけ税金がかかるため,追加的 に1単位生産すると,生産費用に加えて t だけ税負担 の費用がかかる. » 税込みの供給曲線は t だけ上にシフトする.前回の復習
P’ Q’ B E S P Q O A D S’ F G P” t P* Q*前回の復習
税込みの供給曲線 S’と需要曲線 D の交点で取
引が行われるため,市場価格は P’となる.
生産者は受け取った価格から税金を支払うため,
P’- t = P”しか受け取れない.
» 消費者余剰 = ⊿AFP’ » 生産者余剰 = ⊿P”GB » 税収 = t×Q’= □P’FGP” » 総余剰 = 台形AFGB 死荷重
= ⊿FEG が発生する.
前回の復習
完全競争市場では効率的な資源配分(生産・消
費活動)が行われるため,政府が市場に介入する
必要はない.
しかし,市場では効率的な資源配分が行われない
場合がある.このことを市場の失敗という.
その1つの理由に市場支配力がある.
» 市場支配力とは,費用を上回る価格を設定することが できる力のことをいう. » 企業が市場支配力をもつケースの1つに独占がある.本日の内容
独占市場が生じる理由
独占企業の行動
独占市場が生じる理由
なぜ,市場で一社しか生産を行っていないのか?
独占企業が利潤を獲得している場合,他の企業も
市場に参入しようとするはず.それにもかかわらず,
一社しか生産を行っていない.
独占市場には,他の企業の同じビジネスへの参入
を防ぐ参入障壁が存在する.
独占市場が生じる理由
主要な参入障壁
① 生産要素の独占
② 規模の経済
③ 公的な規制
④ その他
» サンク・コスト » 企業の参入阻止戦略 » ネットワーク外部性独占市場が生じる理由
① 生産要素の独占
» その産業にとって決定的に重要な資源や生産要素を 支配する独占企業は,他企業の市場参入を妨げること ができる.② 規模の経済
» 生産量が増加すればするほど平均費用が低くなるよう な産業では,大規模な企業が有利となり,小規模な企 業を駆逐してしまう. » すでに設立されている企業は潜在的な参入企業よりも 費用面で優位性をもつ.独占市場が生じる理由
③ 公的な規制
» 政府の規制によって参入が制限され,政府が自ら市場 を独占したり,特定の企業に独占的な営業権を与えたり する場合がある. 通信,電気,ガス,水道などの公益産業 産業政策の一環 » 特許によって,一定期間,法的に独占が認められる.独占企業の行動
完全競争市場 → プライス・テイカー
独占市場 → プライス・メイカー
» 市場の需要はすべて独占企業の需要であるため,企業 は生産量を少なくすれば高い価格で販売することがで き,低い価格でよければ生産量を多くすることができる. » 独占企業は,需要曲線上のどの点の生産量と価格の 組み合わせも選択することができる.独占企業の行動
企業の利潤関数はπ(Q) = R(Q) - C(Q)である.
» R(Q) は収入 R が生産量 Q の関数として表されること を示す. » C(Q) は総費用 C が生産量 Q の関数として表されるこ とを示す. R(Q) = P×Q である.
» 完全競争では,価格 P を定数として扱ったが,独占で は,価格は生産量の関数として,P = P(Q) と表される. » P(Q) は逆需要関数である.独占企業の行動
以下では,逆需要関数と(総)費用関数を
と表す.ただし,a,b,c>0 の定数とする.
企業の利潤関数π(Q)は次の式によって表される.
P(Q) = a - bQ, C(Q) = cQ
π(Q) = P(Q)Q - C(Q)
= (a - bQ)Q - cQ = aQ - bQ
2- cQ
独占企業の行動
独占市場では,価格は生産量とともに需要曲線に
沿って変化する.
生産量を増やそうとすれば,価格を引き下げる必
要がある.
完全競争市場では,限界収入 = 価格となったが,
独占市場では生産量を増やせば価格が低下する
ため,限界収入は価格よりも小さくなる.
独占企業の行動
たとえば,P(Q) = 1000 - 10Q のとき
» R(Q) = (1000 - 10Q)×Q = 1000Q - 10Q2 となり, 限界収入は MR(Q) = R'(Q) = 1000 - 20Q となる. 以下では,P = P(Q) のような関数として表記する場合に限り, dP/dQ = P'(Q) と表す. » 生産量が Q = 10 のとき,価格は P(10) = 900 である ため,完全競争における限界収入 = 価格は900である が,独占における限界収入は MR(10) = 800 となる. すべての Q について,価格≧限界収入となる.
» ただし,Q≧0 の場合に限る.独占企業の行動
逆需要関数,限界収入関数,限界費用関数は次
のようになる.
逆需要関数:
P(Q) = a - bQ
限界収入関数:
MR(Q) = R'(Q) = a - 2bQ
限界費用関数:
MC(Q) = C'(Q) = c
需要曲線,限界収入曲線,限界費用曲線はこの
ようになる.
MR MC D O c a Q P独占企業の行動
注意点:
» 需要曲線は右下がりとなる(b>0 であるため) . » 生産量がゼロのとき(Q = 0),P(0) = MR(0) = a となる ため,Q = 0 のときには需要曲線と限界収入曲線は一 致する. » 限界収入曲線の傾きの絶対値(2b)は需要曲線の傾き の絶対値(b)よりも大きいため,限界収入曲線は需要 曲線よりも下になる. » 限界費用曲線は水平になる.π'(Q) = a - 2bQ - c = 0 → a - 2bQ = c
完全競争と同じように,企業は利潤を最大にするよ
うに生産量を決定する.
» 利潤関数π(Q)を Q で微分して = 0 として計算する. » π(Q) = aQ - bQ2 - cQより, » 独占企業の利潤を最大にする生産量をQMとすると,こ の生産量は,QM = (a - c)/2b となる.独占企業の行動
MR MC独占企業の行動
独占企業の生産量は完全競争の場合に比べて少
なくなり,価格は完全競争に比べて高くなる.
» 独占企業が設定する価格(独占価格)は PM = P(QM) = a - bQM = (a + c)/2 となる. » 完全競争では,企業の生産量は P = MC となるように 決まるため,a - bQ = c より,Q* = (a - c)/b となり,こ のときの価格は,P* = P(Q*) = a - bQ* = c となる. * M * M c P 2 c a P ,価格: Q b c a 2b c a Q 生産量: = − < − = = + > =