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102 耳鼻と臨床 56 巻 3 号 群 表 1 対象と年齢分布年齢 ( 歳 ) 男 ( 人 ) 女 ( 人 ) 群合計 ( 人 ) Ⅰ Ⅱ Ⅲ

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全文

(1)

原 著

口角炎について

岸 本 麻 子* ・ 井 野 千代徳 ・ 多 田 直 樹

井 野 素 子 ・ 南

豊 彦**

日常診療でしばしば遭遇する疾患であるにもかかわらず、それを主訴として受診するこ とはまれである口角炎について、医師として何を診るベきかを細菌検査などより検討し た。口角炎は年齢によって受診する主訴、病原菌が異なることが分かった。29 歳以下の 年齢では、口内ないし咽喉頭異常感症に随伴し病原菌は主疾患の病原菌と同じであること が多い。30 歳以上では、口内乾燥症、ストレス性疾患である口内ないし咽喉頭異常感症に 多く見られた。細菌検査結果で 60 歳以上の症例ではカンジダ属が 35.1%に、MRSA が 19.3%に検出されたことが特徴的であった。口角炎はビタミン B2、B6などの欠乏で発症 しやすくなる。欠乏の原因とし胃腸障害、抗生剤の服用、ストレス、肝障害などがあり、 口角炎は、眼前の患者の背景を読むヒントとなり得るものと考えた。 Key words:口角炎、全身疾患、ストレス、カンジダ属、MRSA

は じ め に

口角炎は、日常診療において頻繁に遭遇する疾 患ではあるが、患者においては病識を強く持たず、 医師においてもあまり気に留めない疾患の一つで あろうと思われる。実際に、口角炎を主訴として 耳鼻咽喉科を受診する症例は極めてまれである。 しかしながら、口角炎は鋭敏に口腔環境を反映す ることが知られているほかに、患者の精神状態を 含めた全身状態をも映し出すことがある。従っ て、全身状態を見る医師として、特に口腔を重要 な診療域とする耳鼻咽喉科医にとって、口角炎は 決して看過すべきではない疾患である。筆者ら は、耳鼻咽喉科医として、主訴のいかんにかかわ らず、耳・鼻・咽頭そして口腔を診るように指導 され実際に行ってはいるが、咽頭・口腔では口蓋 扁桃とその周囲にのみ目が行き、口唇を含め口腔 内はややもすると儀式的に目を運ぶのみとなり自 省することも頻々である。実際、口腔は舌圧子な どを用いて見ようとして初めて見える部位もあ る。今回報告する口角炎も全身状態を示す所見の 一つとされているが、口角炎を有する患者は、物 言わずに何を治療者に語りかけているかを考える 目的で、細菌検査を中心に検討を試みた。その結 果を示しながら、治療法などにも言及し文献的な 考察を加えて報告する。

対象と方法

対象は小松病院耳鼻咽喉科外来で筆者らが確認 した口角炎症例のうち、細菌検査を行えた 80 例 である。その年齢分布、性差を表 1 に示した。症 例はすべての年代にわたるが高齢者に多いことが 分かる。年齢をⅠ群:0 − 29 歳、Ⅱ群:30 − 59 歳、Ⅲ群:60 歳以上の 3 群に分けてみると、Ⅰ群 が 7 人、Ⅱ群が 16 例、Ⅲ群が 57 人であった。性 差は男性が 26 人、女性が 54 人で女性に多かった。 * 岩野耳鼻咽喉科サージセンター、** 小松病院耳鼻咽喉科 別刷請求:〒 572-8567 大阪府寝屋川市川勝町 11-6 小松病院耳鼻咽喉科 井野千代徳

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なお、標本採取は口腔粘膜に触れないように口 角皮膚面を擦過して行った。培地は血液寒天培地 とチョコレート培地を用いた。 口角炎を理解するために、細菌検査結果を中心 に以下の手順で検討した。 1 )口角炎を認めた耳鼻咽喉科疾患 ( 1 )全体として ( 2 )年齢との関係について 2 )細菌検査結果 ( 1 )検出された菌種について ( 2 )検出された重複細菌の特徴について ( 3 )年齢と検出された菌種との関係について ( 4 )特殊な菌種(MRSA、カンジダ属)につい て口角部以外の病巣菌種との比較

1 )口角炎を認めた耳鼻咽喉科疾患 ( 1 )全体として(表 2 ) 口角炎の細菌検査を行った診察日の全病名につ いて調べた。最も多かった疾患は口内乾燥症で 17 名であった。口内ないし咽喉頭異常感症が 15 例(前者が 6 例、後者が 9 例)、次いで副鼻腔炎が 12 例、めまい症、咽頭ないし喉頭炎、外耳ないし 中耳炎が共に 7 例と続いた。口内乾燥症の中には 5 例の Sjögren 症候群が含まれた。 ( 2 )年齢との関係について(表 3 ) 次いで、年齢を 3 群に分け、疾患との関係につ いて検討し表 3 に示した。Ⅰ群では、咽喉頭炎、 口内炎の症例で口腔咽頭の急性炎症性疾患に随伴 した。その例を図 1 に示した。Ⅱ群では、口内乾 燥症が最も多く、次いで口内ないし咽喉頭異常感 症、アレルギー性鼻炎に認められた。アレルギー 性鼻炎に認められた口角炎を図 2 に示した。Ⅲ群 ではⅡ群と同様に口内乾燥症が最多で、次いで口 内ないし咽喉頭異常感症に多く、副鼻腔炎と続い た。口内乾燥症に認められた口角炎症例を図 3 に 示した。 口角炎が認められた中・高齢者の主訴は、口内 乾燥とストレス性疾患を思わせる口内ないし咽喉 頭異常感が多かったことは興味深い。 2 )細菌検査結果 ( 1 )検出された菌種について 検出された細菌の種類は全体で 16 種にのぼる。 その内、2 症例以上に認められた菌種は 10 種で あった。最も多く検出された細菌はα Strepto-coccus で 43 人(53.8%)、次いで MSSA が 27 人 (33.8%)、Neisseria 属が 26 人(32.5%)、カンジ ダ属が 21 人(26.3%)、CNS が 15 人(18.8%)、 MRSA が 12 人(15%)と続いた。 表 1 対象と年齢分布 7 年齢(歳) 男(人) 女(人) 群合計(人) Ⅰ Ⅱ Ⅲ 群 40 − 49 3 1 30 − 39 1 3 16 20 − 29 1 0 0 − 19 3 3 80 80 − 2 12 70 − 79 11 19 60 − 69 4 9 57 50 − 59 1 7 計

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( 2 )検出された重複細菌の特徴について(表 4 ) ① α Streptococcus(43 人) 同時に検出された細菌では Nisseria 属が 21 例(48.8%)で最多で、次いでカンジダ属が 16 例(37.2%)であった。α Streptococcus(以 下、α Strept と略す)のみが検出された例は 4 例(9.3%)であった。 ② MSSA(27 人) 同時に検出された細菌では、α Strept が 13 例(48.1%)が最多で、次いで Neisseria 属が 5 例(18.5%)であった。MSSA のみが検出され た例は 7 例(25.9%)であった。 ③ Neisseria 属(26 人) 同時に検出された細菌では、α Strept が最 多で 21 例(80.8%)、カンジダ属が 6 例(23.1%) であった。Neisseria 属のみが検出された例は 表 2 対象とした口角炎患者の主病名 口内乾燥症(Sjögren 症候群 5 例を含む) 17 例 口内ないし咽喉頭異常感症 15 例 副鼻腔炎 12 例 めまい症 7 例 外耳ないし中耳炎 7 例 急性咽頭ないし喉頭炎 7 例 頸部腫瘍 5 例 口内炎 4 例 突発性難聴 3 例 アレルギー性鼻炎 3 例 表 3 年齢群と主病名との関係 0 乾燥症 異常感症 副鼻腔炎 外中耳炎 咽喉頭炎 腫瘍 口内炎 突難 アレルギー性鼻炎 眩暈症 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 年齢群 2 1 0 0 1 3 1 0 0 0 0 4 0 3 0 0 13 12 11 5 2 5 1 2 0 6 4 3 1 図 1 14 歳、男性 両側の口角にやや湿性の口角炎を認める。 舌にも炎症所見が見られる。 図 2 40 歳、女性 左口角に乾燥した口角炎を認める。 アレルギー性鼻炎の症例。 (単位:人)

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なかった。 ④ カンジダ属(21 人) 同時に検出された細菌では、α Strept が最 多で 16 例(76.2%)、次いで Neisseria が 6 例 (28.6%)であった。カンジダ属のみが検出さ れた例はなかった。

⑤ coagulase negative staphylococcus(CNS、 15 人) 同時に検出された細菌では、α Strept が最 多の 8 例(53.3%)で、次いでカンジダ属と Neisseria 属が 5 例(33.3%)と続いた。CNS のみが検出された例は 2 例(13.3%)であった。 ⑥ MRSA(12 人) 同時に検出された細菌では、カンジダ属が 2 例(16.7%)に、CNS が 1 例(8.3%)であっ た。MRSA のみが検出された例は 9 例(75%) であった。 Neisseria 属とカンジダ属は共に単独検出例は なく、最頻の重複菌もα Strept であった。その α Strept も単独検出例が少なく、その最頻の重 複菌は Neisseria 属であった。これらは口内の常 在菌と判断される。一方、MRSA は 75%の症例 が単独検出例であった。MSSA も単独検出例は 25.9%と他の菌種に比較すると高かった。 表 4 口角炎に認められた頻度の高い 6 菌種とその重複菌種 α Strept 13 例(48.1%) 4 例(9.3%) Neisseria 属 21 例(48.8%) 重複検出菌(−)例 最頻重複菌 最頻重複菌の検出例 α Strept(43) MSSA(27) Neisseria 属(26) カンジダ属(21) CNS(15) MRSA(12) 菌種(症例数) 9 例(75%) カンジダ属 2 例(16.7%) 2 例(13.3%) α Strept 8 例(53.3%) 0 例(0%) α Strept 16 例(76.2%) 0 例(0%) α Strept 21 例(80.8%) 7 例(25.9%) 図 3 61 歳、女性 両側の口角に湿性で白苔の付着を伴った口角炎を認める。 舌にも薄い白苔が見られる。口内乾燥症の症例。

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( 3 )年齢と検出された菌種との関係について 年齢を前記のようにの 3 群に分けて検出細菌と の関係を調べた。 ① 0 − 29 歳のⅠ群( 7 人)で最も多く検出さ れ た 細 菌 は、Neisseria 属 で 5 例、次 い で α Strept と MSSA が 4 例であった。カンジダ属、 MRSA が検出された例は認めなかった。 ② 30 − 59 歳のⅡ群(16 人)で最も多く検出 された細菌は、MSSA で 8 例、次いでα Strept が 6 例、CNS が 5 例、Neisseria 属が 4 例と続 い た。カ ン ジ ダ 属 が 検 出 さ れ た 例 は 1 例、 MRSA が検出された例も 1 例あった。 ③ 60 歳以上のⅢ群(57 人)で最も多く検出さ れた細菌は、α Strept が最多で 23 例、次いで カンジダ属が 20 例であった。今回対象とした 全症例で検出されたカンジダ属は 21 例であっ たが、その中で 20 例がⅢ群であった。すなわ ち、60 歳以上の口角炎患者の 35.1%にカンジ ダ属が検出されたことになる。同様に今回対象 とした全症例で検出された MRSA は 12 例で、 その中で 11 例がⅢ群であった。すなわち、60 歳以上の口角炎患者の 19.3%に MRSA が検出 されたことになる。MRSA が検出された高齢 者口角炎症例を図 4 に示した。 以上をまとめて、検出された細菌と年齢との関 係を表 5 に示した。 MRSA、カンジダ属は 60 歳以上の高齢者に多 く認められ、59 歳以下の若・中齢者には認められ な い か、ま れ で あ る こ と が 分 か っ た。一 方、 MSSA、Neisseria 属は若年者に多く、高齢者には 比較的に少ないことが分かった。α Strept は各 年代で多く認められた。 (4)口角部以外の病巣菌種と関係について ① MRSA に関して 12 例中の 5 例に口角以外の細菌検査が行わ れていた。3 例は外耳道湿疹で、2 例は鼻前庭 湿疹であった。結果、5 例共に MRSA が検出 されていた。先行感染である外耳道湿疹ないし 鼻前庭湿疹の MRSA が口角に移植されたもの と考えた。 ② カンジダ属に関して 口角炎の細菌検査でカンジダ属が証明された 9 例に唾液の細菌検査を行った。検体の唾液は 早朝唾液を用いた。結果、8 例に唾液中にカン ジダ属が証明された。口角に認められるカンジ ダ属は唾液に由来するものと思われた。 鑑別診断:口角炎とは口角部に認められる炎症 で診断も難しくないが、鑑別を要するものに口唇 ヘルペスなどのウイルス疾患がある。発症部位の ほか、各々の疾患は共に体調を崩した時に発症す ることが多いことも共通する。鑑別には、厳密な 発症部位と局所所見とが重要となる。口唇ヘルペ スは全くの口角に発症することはまれであり、口 角部に発症したとしてもやや上下にずれることが 多い(図 5 )。所見として、口唇ヘルペスは水泡形 成が認められることが特徴であるがその時期が過 ぎると認められなくなり鑑別が容易でない症例も ある。これらの症例でも顕微鏡下で創部に小さな 凹みが認められることがあり鑑別に役立つ。 治療:上記細菌検査結果より若年者と高齢者の 間に細菌の種類が異なる傾向にあることが分かっ た。それに沿っての対応となるが、実際は本疾患 を主訴としない患者に対して積極的な治療を提供 すべきか否か迷うところでもある。通常、口角炎 主訴としない患者にはその原因について簡単に説 明し、含漱を含めた口腔内の清掃を勧めるに止め ている。口角炎を主訴とする患者と治療を希望す る患者には初診時に細菌検査を行い、高齢者を省 いては通常の口内炎用の軟膏と含漱薬を処方す る。高齢者で口腔内所見よりカンジダ属が疑われ る場合は初診日より局所塗布用としてフロリード ゲルを投与する。本剤を極少量口角部に塗布す る。1 週後の再診日には細菌検査結果と局所の状 態を見て軟膏と含漱液の変更を考慮する。カンジ ダ属が原因とすればフロリードゲルの局所塗布で 劇的な改善が期待できる。内服薬は、原則として 投与しながらビタミン欠乏が疑われる例ではビタ ミン B2、B6などを投与する。

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口角炎は一般外来でしばしば遭遇する疾患であ るが、これを主訴として受診される患者はまれで ある。しかしながら、訴えることのないその口角 炎は、治療側に無言の情報を提供している。耳鼻 咽喉科医である筆者らは、主訴のいかんにかかわ らず、口腔を含めたすべてを診ることを習慣とし ているが、主訴と異なる部位において主訴を理解 する上であるいは患者を理解する上で重要なヒン トをそこに認めることがある。特に、口唇を含め た口腔には患者の心身を反映して多くの変化が出 現する。今回報告した、口角炎もその一つと捉え ることができる。口角炎は、文字どおり口角の炎 図 4 88 歳、女性 右口角に汚い痂皮を伴った湿性の口角炎を認める。外耳道炎の症例。 最近検査結果は、MRSA。 表 5 口角炎の年齢群と細菌との関係

α Strept(23) カンジダ属(20) Neisseria 属(17) MSSA(15) MRSA(11) MSSA(8) α Strept(6) CNS(5) カンジダ属(1) MRSA(1)

Neisseria 属(5) α Strept(4) MSSA(4) 検出菌種(症例数) Ⅰ Ⅱ Ⅲ 群 図 5 口唇ヘルペスの症例 右口角よりやや低い所に小膿胞を伴った発赤が認められる。

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症であるが何故に口角であるかは、その解剖学的 な形態にも依存するところもある。口角に生理的 な力を超えた力が及んだ時、すなわち扁桃摘出術、 ラリンゴマイクロサージェリー、歯科治療などに おいて口角亀裂が生じ、そこに細菌が付着し口角 炎が発症することは容易に推測することができ る。逆に、高齢者においては、歯牙の欠損、義歯 の磨耗などで咬合が深くなることで口角に皺が形 成され、そこに唾液の貯留によって細菌が付着し て発症することもある(図 6 、図 7 )。通常の会 話・摂食などでも口角部にはその形態によりかな りの力が及び他部位に比して損傷されやすいこと は想像に難くない。口角炎の全身性の病因からみ れば、吸収不良性疾患、鉄欠乏貧血そしてビタミ ンの欠乏などの部分症状として発症することが知 られている。それら病因の原因となると多岐にわ たるが、口角に亀裂が生ずることは病的であり、 その亀裂に細菌が感染することも正常とは言えな い。従って、 1 )組織の脆弱化、 2 )口角亀裂へ の感染が本疾患で重要な要素となる。そこで、 各々について文献的な考察を加えて私見を述べ る。 1 )組織の脆弱性 口角炎の発症にビタミン不足やストレス、ホル モン異常などの関与が指摘されている。そのビタ ミンの不足では、ビタミン B1、B2、B6、B12、ナイ アシン、ビオチンの六つが口角炎に関係があると される。ことにビタミン B2、B6が不足すると、 皮膚・粘膜の局所の免疫機能や細胞の維持機能の 破綻を来しやすく口角炎などが生じやすくなる。 ビタミン B2が不足する要因として極端なダイ エット、消耗性疾患のほかに肝疾患や糖尿病のあ る人は B2から補酵素型への変換が阻害されてい ることがある。テトラサイクリンやペニシリン、 クロルプロマジン、経口避妊薬ではこれら薬剤が フラビンと複合体を形成したり補酵素への変換を 阻害するために B2欠乏を生じる。抗生剤の服用 やストレスなどによって腸内細菌の増殖が抑制さ れ、腸内細菌による B2の生産が低下して小腸か らの B2吸収量が低下するとされる1)。ビタミン B6が不足する要因としてアルコールを多量に飲 んでいる人では、アセトアルデヒドが B6の活性 型の分解を促進するために B6欠乏を生じること がある。特に、肝障害を合併している場合に多く 見られるという。さらに、多くの薬剤(イソニア ジド、ペニシラミン、L-ドーパなど)が B6阻害剤 として知られている。また、B6を活性型にする 経路には B2も関与しており、B2欠乏になれば B6 欠乏になるという1)。B 2、B6の欠乏は、細胞維持 機能が低下して口角亀裂が生じやすいことに加え 局所免疫機能の低下で感染が容易となる条件を提 供している可能性がある。 今回の筆者らの検討では、成人の口角炎を認め た患者では口内異常感症、咽喉頭異常感症の患者 に多く認められた。これら疾患は心因性疾患でも あり前記したとおり、ストレスによりビタミン B2、B6の欠乏になって本症が発症した可能性も あると考えた。 2 )口角亀裂への感染 口角亀裂が生じ、そこに細菌が付着して口角炎 が発症すると考えるが、その細菌は何処に由来す るものでいかなる細菌であるかを検討する。今回 の口角炎の細菌検査より口内の常存菌ないし病原 菌が起炎菌となることが多いことが分かった。若 年者においては扁桃炎、咽頭炎の細菌が原因にな ることが多く、高齢者では唾液中のカンジダ属が 原因となることが少なくない。前記したとおり、 高齢者になると歯牙の脱落、義歯の不適合などで 咬み合わせが深くなり口角部に皺が生じやすくな り折れ目の上皮が脆弱化する。そこに唾液が貯留 して発症する例も多い。若年者の口角炎でカンジ ダ属が検出された例は皆無であった。興味あるこ とは、今 回 検 討 し た 80 症 例 の 中 で 12 例 に MRSA が認められたことである。ほとんどが高 齢者であったが、その内 5 例が外耳道ないし鼻前 庭に炎症を認め、そこからも MRSA が検出され た。発症経緯より外耳道ないし鼻前庭の MRSA が口角亀裂に移植されたものと考えている。一般

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外来でもしばしば遭遇する伝染性膿痂疹(トビヒ) の 3 割が MRSA との報告2)があるが、高齢者の 口角炎で顔面の他所にも炎症巣を認める症例に対 しては MRSA 感染症を考慮して積極的に細菌検 査を行うべきと考えている。 次いで、口角炎の細菌検査結果について海外の 報告と比較してみる。それを表 6 に示した。 1985 年 の ス ウ ェ ー デ ン よ り の 報 告3)で は、 Staphylococcus aureus が 64 人中 40 人(62.5%) に認められ、カンジダ属は 45 人(70.3%)に認め られた。1990 年のスリランカよりの報告4)では、 Staphylococcus aureus が 49 人中 11 人(22.4%)、 Candida が 24 人(49.0%)に認められた。当科で の 結 果 は、Staphylococcus aureus が MSSA、 MRSA を合せて 80 人中 39 人(48.8%)、カンジ ダ属が 21 人(26.3%)であった。3 者を比較して 図 6 73 歳、女性 両側の口角の皺形成が著明に認められる。 図 7 図 6 の症例で、開口時の所見 左側はやや湿性で、右側は乾燥している。 表 6 他国の口角炎の細菌に関する報告との比較 24 人(49.0%) スウェーデン 1985 64 人 40 人(62.5%) 45 人(70.3%) 国 年 対象人数 S.aureus カンジダ属 Ohman Warnakulasuria 筆者 日本 2008 80 人 39 人(48.8%) 21 人(26.3%) スリランカ 1990 49 人 11 人(22.4%)

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みると筆者らの報告は S. aureus で他者の報告の 中間であり、カンジダ属では他者の 1/2 から 1/3 と低い検出率であった。結果の差異の原因は不明 であるが、対象とした症例の年齢分布に 3 者の大 きな差異はないが、筆者以外の報告は歯科からの ものであり対象患者の種類が異なっていた可能性 は除外できないと考えている。一方、他者の報告 で MRSA への言及は見られなかったが、実際に 認められなかったとすると当科で 15%の患者に 認められたことは特筆すべきことである。 最後に口角炎を見て、医師として何を診なくて はいけないかを今回の検討より以下にまとめてみ た。 1 ) 若年者の口角炎は、口腔・咽頭の感染に引 き続いて起こることが多く、細菌も口内常 在菌かその起炎菌である。 2 ) 60 歳以上の口角炎の原因菌としてカンジ ダ 属 の 検 出 率 は 35% を 超 え、MRSA も 19%を超えている。 3 ) 60 歳以上で口角以外の顔面にも炎症巣が ある場合は、口角炎の原因菌が MRSA で ある可能性が高い。 4 ) 口角炎を有する中・高齢者は唾液腺機能が 低下していることが多い。 5 ) 高齢者の口角炎は、過咬合にて形成される 口角皺に唾液が貯留して発症することもあ る。 6 ) 口角炎を有する患者は、ビタミン B2、B6 を中心としたビタミン不足、ストレス、鉄 欠乏貧血などがある可能性がある。 7 ) B2、B6の不足には胃腸障害、抗生剤の服用、 アルコール肝障害、ストレスなどが影響し ている可能性がある。

1) 玉井 浩:口角炎・口内炎とビタミン B 投与.小児 内科 36:832-833,2004. 2) 和田紀子:たかが“とびひ”されど….薬剤耐性菌 の増加で 3 割が MRSA.日経 Medical(5):18-19, 2005.

3) Ohman S-C et al:Angular cheilitis − A clinical and microbial study −. J Oral Pathol 15:213-217, 1986. 4) Warnakulasuriya KA et al:Angular cheilitis in a

groupof Sri Lankan adults − A clinical and mico-biologic study −. J Oral Pathol Med 20:172-175, 1991.

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Angular cheilitis:A clinical and microbiological study

Asako KISHIMOTO*, Chiyonori INO, Naoki TADA, Motoko INOand Toyohiko MINAMI** *Iwano Surgery Center of Otorhinolaryngology, Toyonaka 561-0852, Japan

**Department of Otorhinolaryngology, Komatsu Hospital, Neyagawa 572-8567, Japan

Although we often encounter patients presenting with angular cheilitis in routine clinic practice, such patients seldom mention this as a chief complaint. We investigated what doctors should notice in such patients and examine them from a clinical and microbiological study. The chief complaints and the identified microbes associated with angular cheilitis were found to differ by age. In cases under 29 years of age, angular cheilitis was frequently associated with either oral or pharyngeal disease, and the identified microbes were often the same as ones as identified for the chief disease. In cases more than 30 years of age it was often found in patients with either dry mouth or an abnormal sensation of mouth and/or pharynx which is probably caused by stress. Microbiological studies revealed Candida to be detected in 35.1% and MRSA in 19.3% of the cases who were more than 60 years of age. Angula cheilitis tends to be caused by a Vitamine B2or B6deficiency. While, in addition, these deficiencies can also be caused by gastrointestinal lesions, the administration of antibiotics, stress, liver lesions, and so on. We therefore consider it important for physicians to accurately identify angular cheilitis in order to understand the background of the patients.

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