非定常流れの計測とデータ処理
豊橋技術科学大学・機械工学科 飯田 明由
工学における流体力学的な問題はほとんどの場合,乱流 であることが多い.乱流の特徴は,その3次元性とラン ダム性にあり,測定されたデータは一見すると捉えどこ ろがなく,データから物理的な現象を明らかにすること が難しい.特にNS方程式の強い非線型性により得られた データを決定論的に論ずることが困難なことが多く,乱 流の解析では統計的な手法を用いることが多い.本講習 では非定常流れの計測手法とデータ処理手法を概観し, 実際の計測事例を紹介しながら解説する.さらに,単な るデータ処理技術だけでは解決できない,物理的解釈に 関する注意点について述べる.1.非定常流れの性質(統計処理について)
時間とともに変動する流れを「非定常流」と呼ぶ.低 Re 数流 れを除けば,工学上重要な流れはほとんどが非定常流であ る.z
非定常流が原因で,変動する流体力が構造物に強い力 を及ぼすことがある 橋梁や超高層建築物などの構造物の渦励振,Flutter, Galloping, etc.z
非定常流が原因で,熱伝達や物質拡散が桁違いに促 進されることがある.z
非定常流は,定常流の基本的な性質に加えて,非定常 流特有の性質を持っている. 「層流」は「定常流」であるが,「非定常流」即「乱流」で はない.規則的な時間変動をする「非定常流」がある.z
非定常流は定常流からの類推を使うと理解しやすいが, 非定常流特有の性質には十分注意しなければならない.複 雑な非定常流(乱流)は直感的な理解が大変難しい. 例1)層流境界層と乱流境界層 図1 平均速度分布で見る層流境界層と乱流境界層 図 1 に示すように平均速度分布を見る限りは,乱流境界 層の方が壁面近くの剪断が強いだけで,たいした違いは無 いように感じるが,実際には,層流境界層の静的な世界に比 べて,乱流境界層には時々刻々と様々な秩序構造が現れて は,相互作用をして消えていく,実に多様で複雑な世界があ る.そのために層流境界層と乱流境界層とでは摩擦抵抗係 数や熱伝達係数に大きな差があるが,その違いを平均速度 分布だけから知るのは大変難しい.このように,非定常性は 我々の想像を越えた違いを生むことがある.ランダムデータの分類
乱流のように不規則に変動するランダムなデータを表す 一つの時刻歴を標本関数(Sample function)と言い,ランダ ム現象から生じたであろうすべての標本関数の集まりを不規 則過程(random process)と呼ぶ.不規則過程はさらに定常と 非定常に分類される.本講習会では非定常不規則過程に 着目する.エルゴート仮説
不規則過程現象の場合,現象は時々刻々と変化する.境 界層の例で述べたように,流れ場を時間平均してしまうと流 れの性質のすべてを知ることはできないが,瞬時値では情 報量が多すぎるため,なんらかのデータ処理が必要となる. 不規則過程は多数の標本関数の集合であるから,その性 質を調べるためには,標本関数の集まり(ensemble)の平均 値(mean value)μ∑
= ∞ → = µ N k N t x N k 1 1) ( 1 lim を用いる必要がある. ま た , 標 本 関 数 の 結 合 モ ー メ ン ト ( 自 己 相 関 関 数 autocorrelation function)も,標本関数の集まりを用いて ) ( ) ( 1 lim ) , ( 1 1 1 1 1 +τ =∑
+τ = ∞ → t x t x N t t R k k N k N と表す. 一般に実験データや数値解析データの平均値を求める 場合,時間軸上での平均を取ることが多い.しかし,上述の ように不規則過程について調べるには標本関数に対する平 均値を求める必要がある. たとえば,図2に示すような有限な体積Vを持つボンベに 圧力po,温度Toの空気を満たす.バルブを開くと,ボンベ内 の圧力が周囲の圧力に等しくなるまで,管Rから噴流が噴出 するような流れを考える場合,熱線流速計で測定したデータ の時間波形から平均値を求めるのではなく,このような実験 を何度も繰り返して,多数の標本関数を求める必要がある. 図2 乱流の実験例 1回1回の実験の結果をrealizationと呼ぶとする.バルブを開 いてからt秒後に,位置Mにおける速度の瞬時値を測定する.層流境界層
乱流境界層
S
p
o,T
oV
R
M
この測定によってx,tの組のおのおのに速度uに関する実験 値が得られる.実験毎に得られるu (realization)は異なる. 得られたu(u1,u2,u3)の性質は,位置x(x1,x2,x3),時刻tにおけ る確率密度 3 2 1 3 2 1 3 2 1, , , , , , ) (u u u x x x t dudu du f によって記述される. 確率密度を用いて,速度成分に関する数学的な期待値を あらわせば,
∫∫∫
= 1 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 3 2 1 1 ) , , , , , , ( ) , , , ( ) , , , ( du du du t x x x u u u f t x x x u t x x x u と記述できる.この期待値の定義は,すべてのrealization全 体についての算術平均を示している. 平均値に対応する基本流と速度成分の不規則運動との 組み合わせで流れ場を記述すると, ' i i i u u u = + である.速度変動に関する確率密度をgとすると, 0 ) , , ( ) , , , ( 1 2 3 ′ 1 ′= ′ = ′∫∫∫
u x x x t g u x t du ui i である.ここで速度変動u’の期待値は0である. 不規則過程について調べる場合,上記のように実験を多数 繰り返して,標本関数を多数調べる必要がある. しかし,このような実験は特殊な場合を除いて困難であり, 実験の再現性や計測の手間を考えると現実的な方法とは言 いがたい.そこで我々は通常,不規則過程を扱う場合,標本 関数のアンサンブル平均ではなく,時間平均を用いる. 不規則過程データの時間に対する平均及び自己相関関 数を∫
∞ → = T T t x t dt T 0 k ) ( 1 limµ
dt t x t x T t t R T T t + =∫
k k + ∞ → 0 ( ) ( ) 1 lim ) , (1 1τ
τ
と定義し,時間平均値と標本関数の平均値が等しいと仮定し て,物理現象について検討することが多い. 以下にこのよう な仮定が成立する条件を示す. 不規則過程{x(t)}の時間平均値μと R が時刻 t1が変わる と と も に 変 わ る 場 合 , 不 規 則 過 程{x(t)} は 非 定 常 ( non- stationary)であるという.μと R が時刻 t に依存しない場合, 不規則過程{x(t)}は弱定常(weakly stationary),または狭い 意味で定常であるという.不規則過程{x(t)}の高次モーメント と結合モーメントが時間に関して不変な場合,不規則過程 {x(t)}は強定常(strongly stationary)または定常であるという. もし,不規則過程{x(t)}が定常であって,時間平均が異 なる時刻におけるものと等しいのであれば,不規則過程はエ ルゴート的(ergodic)であるという.数学的には定常過程のみ がエルゴート的である.エルゴート的な不規則過程はただひ とつの標本関数の時間平均からすべての標本の性質を調 べることができる. 物理現象を表す定常的なランダムデータの多くは,一般 にエルゴート的であることから,定常ランダムデータの場合, 時間平均値によって不規則過程の性質を記述することがで きる. 一方,非定常不規則過程を時間平均値によって現象を 記述することは厳密にはできない.そこである定常不規則過 程の標本関数 x(t)を用いて,非定常不規則過程 y(t)を y(t)=A(t)x(t) と記述できるものとする.ここで A(t)は標本関数の確率的な 倍率である. すなわち,共通な時間傾向を有する定常不規則過程を標 本関数とすることにより,非定常不規則過程を記述すること が可能であると仮定する. 一般には流体現象は定常でも,エルゴート的でもない.し たがって,計測データ及び解析データによって得られたいか なる時間平均値も,標本関数のアンサブル平均と等しいとい う保証はない.多くの場合,非定常不規則過程であっても十 分長い平均時間をとれば,弱エルゴート的とみなせるという 仮定の上で分析を行っている.したがって,乱流の統計解析 においては平均時間やデータの取得時間は非常に重要な 意味を持つ.ランダムデータの統計的性質
ランダムデータの統計的性質は基本的に以下の4つの統計 量によって記述される. (1)2 乗平均値 いかなるランダムデータの一般的な強さも 2 乗平均値(mean square value)によって記述される.dt
t
x
T
T T→∞∫
=
ϕ
0 2 2lim
1
(
)
2 乗平均値の平方根は実効値または rms 値と呼ばれる. 物理的データを静的(static)な成分と動的(dynamic)な成 分に分けて考えると,static な成分は平均値で記述される. 一方,動的な成分は平均値との差の 2 乗平均値で分散 (variance)で記述される.dt
t
x
T
T T∫
∞ →−
µ
=
σ
0 2 2lim
1
(
)
分散の正の平方根は標準偏差である. (2)確率密度関数 ランダムデータの確率密度関数は,ある瞬間に定まった幅の 中にデータがある確率を記述する.観測時間を T,信号を x (t)とするとき,信号の値が x∼x+∆xの間の値を取る確率は, 信号が x∼x+∆xの間にあった総和時間を Txとすると,Tx /T と考えられる.T が無限大に近づけば,確率は正確な値とな る. ∞ →=
∆
+
<
<
T xT
T
x
x
t
x
x
ob
[
(
)
]
lim
Pr
小 さ な∆x に 対 し て , 確 率 密 度 関 数 ( probability density function)p はx
x
p
x
x
t
x
x
ob
[
<
(
)
<
+
∆
]
=
(
)
∆
Pr
となる.確率密度関数は非負の実数関数である. 確率密度関数をマイナス無限大から x まで積分したものを 確率分布関数(probability distribution function)という.∫
−∞ ξ ξ = xp d x P( ) ( ) 確率密度関数と平均値の間には以下の関係がある.∫
∞ ∞ − = µ(x) xp(x)dx 一方,2 乗平均値に対しては,∫
∞ ∞ − = ϕ2(x) x2p(x)dx の関係がある. 確率密度関数が
−
−
π
=
2 22
)
(
exp
2
1
)
(
b
a
x
b
x
p
で表されるとき確率変数はガウス(正規)分布に従う.独立な 確率変数の和の確率分布は正規分布に近づく.これを中心 極限定理という.すなわち,データの数が十分多い場合,互 いに独立な(言いかえればランダムな)信号の確率密度は正 規分布に近づく.多くの物理現象はこの中心極限定理を満 たすことから,ランダムデータを正規分布と仮定して理論的 な考察を行うことが多い.仮に現象が正規分布でない場合 でも,正規分布からずれを3次及び4次のモーメントを使って 評価する.これらの高次モーメントの結合確率分布を用いて 現象を評価することもある. スキューネス(skewness): 平均値のまわりの3次モーメントをσ3で正規化したもの.平 均値のまわりの非対称性を示す指標.(正規分布の場合0) であり,スキューネスが0でない場合,正規分布からのずれを 表すことになる.(
)
µ
−
σ
=
∑
− = 1 0 3 31
1
N k kx
N
S
クルトシス(Kurtosis) 平均値のまわりの4次モーメントをσ4で正規化したもので, 波形の尖鋭度を表す指標.正規分布の場合3となることから, 正規分布からのずれを表すK-3をフラットネスと呼ぶ場合も 多い(正規分布の場合,フラットネスは0である.)(
)
µ − σ =∑
− = 1 0 4 4 1 1 N k k x N K (3)自己相関関数 ランダムデータの自己相関関数は,ある時刻のデータの値 が他の時刻の値に対して,どのような影響を持っているかを 表している.自己相関関数は時刻tとt+τにおける2つの値の 積を観測時間Tにわたって平均することで得られる.すなわ ち, dt t x t x T t t R T T k k∫
+τ = τ + ∞ → 0 ( ) ( ) 1 lim ) , (1 1 Rは常に実数値の偶関数であり,τ=0で最大値をとる. 自己相関関数は正弦波のような特別な場合を除いて,)
(∞
=
µ
R
となる.また,)
0
(
2=
R
ϕ
である. (4)パワースペクトル いかなるランダム信号もフーリエ級数に展開できることから, 正弦波(及び余弦波)の組み合わせとして記述することがで きる.したがって,時系列x(t)のランダムデータは周波数空 間で記述することができる.あるいは,x(t)を周波数f∼f+∆f の鋭い遮断周波数を持つ帯域フィルタを通過させた場合, 観測時間Tが無限に長ければ,dt
f
f
t
x
T
f
f
T T∫
∆
=
∆
ϕ
∞ → 0 2 2(
,
)
lim
1
(
,
,
)
となる. ここで小さな∆fに対するパワースペクトル密度関数(powerspectral density function)G(f)は
f
f
G
f
f
∆
=
∆
ϕ
2(
,
)
(
)
である.Gは実数非負関数である. パワースペクトルと自己相関関数の間には τ τ π τ = τ τ =∫
∞∫
∞ ∞ − τ π − d f R d e R f G j f 0 2 ) 2 cos( ) ( 4 ) ( 2 ) ( の関係があり,自己相関関数からパワースペクトルを求める ことができる.平均値及び実効値との間に以下の関係が成り 立つ. 2 / 1 0 ) ( = µ∫
+ − o df f G 2 / 1 ) (∫
∞+ = ϕ o df f G Fourier 変換を求めるには,以前はアナログ信号に対して 直接,狭帯域の Tracking Filter を用いたが,今日では A/D 変換器で Digitize した後に,計算機内で FFT (Fast Fourier Transform) によって求めることがほとんどである. ハードウェアでリアルタイムにパワースペクトルの FFT 演算 を行い表示してくれるスペクトルアナライザーも,実験の現 場では大変役に立つ.FFT のアルゴリズムに関しては,信 号処理の教科書に詳しい例が出ているので,参照すること. FFT 処理の前には,適当な Window 関数を時系列データ に掛けるのが普通で,乱流データのような連続スペクトル を持つ定常ランダム系列に対しては,Hanning Window が 最もよく使われる.2. 非定常流体計測において注意すべき点
上記の統計的手法は流体計測や乱流場の解析に固有の 問題ではなく,より一般的な数学的な手法である.以下に流 体計測に特有の問題について記述する.(1)レイノルズ応力
非定常流れを時間平均値から類推する場合,以下のような 新しい課題が発生する. 今,連続の式と Navier-Stokes 方程式0
=
∂
∂
x
u
j j i i j i j ix
x
u
x
p
x
u
u
t
u
∂
∂
∂
ν
+
∂
∂
ρ
−
=
∂
∂
+
∂
∂
1
2 に対して,全体の時間平均をとる.そのとき,各物理量を時 間平均した部分と,時間平均からの差の部分とに分けて書く ことにする.例えば,速度u
i に対してはu
i+ ′
u
i と書く.す ると,連続の式と Navier-Stokes 方程式はそれぞれ,0
=
∂
∂
x
u
j j i j j i i j i j ix
u
u
x
x
u
x
p
x
u
u
t
u
∂
∂
−
∂
∂
∂
ν
+
∂
∂
ρ
−
=
∂
∂
+
∂
∂
1
2 ' 'となる.第2の式を,「時間平均 Reynolds 方程式」と呼ぶ.連 続の式は時間平均をとる前の形をそのまま保存しているが, Navier-Stokes 方程式の方には付加的な項 j j i
x
u
u
∂
∂
−
' ' が加わる.この項は,時間平均された Navier-Stokes 方程式 には,付加的な応力− ′ ′ρ
u u i jが現れることを意味している.す なわち,Reynolds Stress は,非定常流を時間平均場(定常 流)からの類推で理解しようとする場合に現れるみかけの力 である. この付加的な応力を何等かの方法で知ることが出来れば, それを時間平均 Reynolds 方程式に代入して解くことにより, 時間平均の流れ場を知ることが出来る.z
Reynolds Stress に限らず,変動する場を平均場からの類 推で理解するためには,みかけの場を導入する必要がある.z
非定常流を理解する基本は,物理量の変動波形そのも のである.生の変動波形には測定で得られたすべての情報 が含まれている. 測定中は,常にオシロスコープで波形をモニターする習 慣をつけよう.計装上の誤り,ノイズの混入などは,波形を モニターしていれば大部分は回避できる.また,波形を丹 念に眺めていると,統計的処理では見つけることが難しい 現象を発見できることもある.z
変動波形,各種統計量,変動量のスペクトルなどを総合 的に判断しなければ変動場に対する正しい理解をすること は出来ない.統計量のみ,スペクトルのみの判断は過ちに陥 ることがある.(2) 乱流の渦スケールの定義方法
積分特性距離:乱流の渦の大きさを表す方法として,相関関 数の積分値を用いる方法がある.空間的に離れた2点の速 度の相関係数をR
ij(
r
)
=
u
′
i(
x
)
u
′
j(
x
+
r
)
とする.一様な場 ではRijは位置xに依存しないから,Rij(r)=Rij(−r)である. 空間の距離rが十分大きいとき,離れた2点の速度uiとujは統 計的に独立であるから0
)
(
lim
=
∞ →R
ijr
r である.逆に相関関数が0でないということは,速度uiとujに何 らかの関係があるということである.もちろんr=0のとき,[
2(
)
2(
)
]
1/2)
0
(
u
x
u
x
R
ij=
′
i′
j である.rが0ということは自分自身ということであり,このとき相 関は最大となる. 相関関数をRij(0)で規格化した,相関係数[
2( ) 2( )]
1/2 ) ( ) ( ) ( ˆ x u x u x u x u r R j i j i ij ′ ′ ′ ′ = で表す.相関係数はr=0のとき1となり,十分遠方では0にな る.相関係数は距離rが離れるにしたがって,速度uiとujの関 係が薄れていく割合を示している.図3に相関係数の模式図 を示す.この図はrだけ離れた位置で,速度がどの程度影響 を及ぼすかを示している.もちろん,乱流は非定常の現象で あるから,rが大きいときでも速度間に関係がある場合もある し,rが小さくても無関係である場合も考えられる.しかし,相 関関数は平均的に関係の強さを表していると考えられるので, 相関関数とR軸及びr軸に囲まれた範囲は,2点の速度が何 らかの関係を持っている領域である. 一方,相関係数が1となるような十分大きな相関を持つ場 合,流体の運動は一体となって動いているはずである.相関 係数を積分して得られた“流れが何らかの関係を持つと期待 される領域”の面積は,相関係数が1,すなわち流体が一体 となって動く場合の面積に置き換えた場合,図4における長 さr=Lの領域に相当する.Lは積分特性距離(integral scale) と呼ばれ,瞬間的に一体として動く流体塊の程度を示す.乱 流理論では積分特性距離が重要な役割を果たす. -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 1 2 3 4 5 6 r R ij f(r) g(r) 図3 相関係数の模式図 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 1 2 3 4 5 r R ij f(r) Integeral scale L 図4 相関係数と積分特性距離∫
−∞∞ ′ ′ = R r dr x u x u L j i ij ( ) ) ( ) ( 2 1 乱流の特性距離としてテイラーが導入した微分特性距離(テ イラーのマイクロスケールλ)も広く使われている.テイラーの マイクロスケールは 2 2 2 ) ( 1 1 ∂ ′ ∂ ′ = λ i i i ij x u x u で表される.テイラーのマイクロスケールは積分特性距離より 常に小さい.積分特性距離は乱流塊が一体となって動く範 囲を表し,エネルギーを保有した渦の大きさを表している. 一方,テイラーのマイクロスケールは積分特性距離ほど明確 な意味を持っていないが,乱れ強度の減衰,すなわち散逸 と強い結びつきを持っていること,測定が比較的容易なので, 乱流の研究では広く利用されている.(3) 乱流レイノルズ数
一般に乱流の基礎研究ではレイノルズ数はテイラーのマイク ロスケールと乱れのRMS値を用いて表される.すなわちν λ = λ '2 Re u を用いることが多い.先に示した可視化写真の幾何学的レイ ノルズ数に対して,Reλ=70と800である.大気乱流は一般に 1000程度であり,極めて大きな乱流レイノルズ数となる. 積分特性距離に基づくレイノルズ数は ν = u L L 2 ' Re で表される. ここで,実際の計測という立場から考えると,空間的に離 れた2 点の相関を測定するよりも,空間に固定された一点の 時系列データを取得する場合のほうが容易な場合が多い. たとえば,センサを挿入して流れ方向に離れた 2 点の速度 を計測する場合,下流のセンサには,上流に置かれたセン サの影響が現れてしまう. 一般に熱線流速計やレーザー流速計では時間分解能が 高いことから,時系列データを空間データに変換する方法が あると,実験を行う上で都合がよい. このような時系列データを空間データに置き換える方法にテ イラーの凍結仮説を利用した方法がある. 乱れが主流速度に比べて小さい場合,空間微分は時間 微分を用いて以下のように記述できる.
t
U
x
c∂
∂
−
=
∂
∂
1
ここで Ucは渦の平均移動速度を表し,convection velocity と呼ばれる. 風洞実験では一般に主流流速が用いられ,噴流や境界 層の場合,主流速度の0.8 倍の速度などが用いられる.この 関係を用いると空間に関する微分や物理量の変化を時間微 分に置き換えられるので,測定が用意になる.ただし,この 仮定が成り立つには,渦の移動流速が乱れ強度に比べて十 分大きい場合に限られる.このような仮定の元では,乱れの 空間的な構造が,“凍結”してセンサを通過するため,センサ によって時系列データとして記録された実験データから空間 的な性質を予測することが可能になる.この仮説はテイラー (1938)によって提案されたことからテイラーの凍結仮説と呼 ばれている.(4) 位相平均法及び条件付抽出法
周期的な成分を含むが,それ以外のランダムな成分も含 むような信号は,信号の周期性を利用して,S/N 比を改善す ることができる. 原信号をx(t),これに含まれている周期成分の周期をTと すると,位相平均法はT
t
iT
t
x
N
t
x
* N i<
<
+
=
∑
=0
,
)
(
1
)
(
1 * * を求めることに他ならない.周期Tとその高調波の成分は位 相を揃えて重ね合わされるために強化され,それ以外の成 分はランダムな位相同士が重ね合わせられるために減衰す る.これは一種の非常に狭帯域の Band-pass Filter と言える. 位相平均の良い所は,周期成分の一周期の中とはいえ,流 れの動的な特性を調べることが可能なことで,時間平均に比 べるとはるかに豊かな情報をもたらしてくれる.例えば,比較的 Reynolds 数の低い Bluff Body の後流が あったとしよう.熱線で測った信号には比較的安定した周期 成分に乗ってランダムな成分も含まれているだろう.このとき, 後流の周期的な振る舞いを知りたいとすると,位相平均法は 有力な手段になる. 位相平均をさらに一般化したもので,流れ場がある条件を 満たした時刻の前後,ある期間の信号を毎回取り込み,位 相平均と同様にアンサンブル平均を取ったものである. 周期性がはっきりしている位相平均の場合と異なり,デー タを取り込むべきイベントがいつ発生するかわからないので, イベント検出の手段と,データ取り込の手段の2つの測定系 統を持たなければならない. 検出された各イベントも,位相が揺らいでいたり,強い乱 れによって本来の信号が覆い隠されていたり,全く別の現象 がたまたま捕らえられただけだったりする可能性があるので, 統計的信頼性をあげるために色々な工夫をしなければなら ない. それでも,適切な処理を行えば,十分に発達した乱流の中 の秩序構造の平均像を,かなりの統計的信頼性で捕らえる ことができる.70年代から80年代にかけての乱流研究の中心 的技法として,大いに活躍した実績がある.
z
熱線風速計を例にとると,条件検出用のプローブと流れ 場計測用のプローブの2群のプローブを使うシステムになる. 図5 は,高い Reynolds 数の円柱後流の乱れた大規模渦 構造を調べるためのプローブの配置例である.まず,上流側 に渦検出用のプローブを置く.このプローブはあまり乱れが 強くない所で渦の通過時刻を知るためのもので,熱線の出 力 波 形 を Band-pass Filter に通して,その信号の Zero-Crossing を見てやるだけで,かなり正確に渦が通過する位 相条件を決めることができる. 下流に配置してあるのは8チャンネルのX型プローブで,こ れで流れと直角方向に広がりを持つ渦構造が作る速度変動 の2成分を計測することができる.上流の渦検出プローブが 渦通過の情報を与え,それをトリガーにしてXプローブアレイ がトリガー前後のある期間の信号を全て取り込む.これを数 百回程度くり返し,更に統計的信頼性を上げるための分散 低減処理を施してアンサンブル平均をとると,統計的平均と しての渦の空間構造を見ることができる. 図 3.1 条件付き抽出法による乱流後流の測定 渦検出用プローブ 渦構造測定用 X プローブアレイ 図6 は乱流境界層の中に見られる大規模秩序構造の代表 的なものである Ejection や Sweep を捕らえるためのプロー ブの配置である.この秩序構造を捕らえるために,現段階で は最も定義がはっきりしている検出法である「4象限法」を用 いる.これは,流れ方向と高さ方向の速度変動をそれぞれ′
u
とv
′
として,それらの絶対値が十分大きいときに,その符 号の組み合わせによってイベントが発生したか否かを決める ものである.即ち,u
′
とv
′
をそれぞれ座標平面のx
軸とy
軸に当てはめたときに,図
5
0
'
and
0
'
<
v
>
u
のときには第2象限のイベントとして Ejection が,0
'
and
0
'
>
v
<
u
のときには第4象限のイベントとして Sweep が発生した,と見 なす方法である.前者では平均流速よりも遅い流塊が壁から 遠ざかる向きに,後者では平均流速よりも速い流塊が壁に 近づく向きに運動しているところを,それぞれ熱線プローブ が検出したことになる.このイベントを検出すると同時に,下 流の梯子型プローブで境界層高さ方向の広い範囲で瞬間 的 な 速 度 分 布 の 時 間 変 化 を 追 い か け る と ,Ejection や Sweep の空間構造がわかってくる. Ejection/Sweep 検出用Xプローブ 梯子型プローブ 平板 Trip Wire 図 3.2 条件付き抽出法による乱流境界層中の秩序構造の測定乱流データの縮約手法について
非定常流,特に乱流のデータは,波形として保存しておく にはあまりにも量が多いだけではなく,人間が流れの物理を 解釈するためにもあまりに複雑で冗長な情報を含んでいる. このため,物理的に意味のある情報だけを取り出し,記憶と 思考の節約を図る必要がある.この情報の抽出・圧縮を「デ ータの縮約 (Data Reduction)」と呼ぶ. 縮約手法は数学的な操作を利用するが,数学的操作自 体には物理的解釈の背景や制約が取り込まれているとは限 らない.従って,純粋に数学的な操作を行った後では,必ず 結果の物理的解釈を行うべきである.これを怠ると,数学的 には正しくても物理的には意味が無い,あるいは誤った結果 を得ても気がつかない,ということがありうる. 乱流場の直交分解 乱流場がいくつかの基本的な構造が重ね合わされて出来 ている,と考えることはさほど不自然ではない.このとき,それ ぞれの基本構造が何であるのか,それを調べるための手法 が直交分解である. 基本構造の重ね合わせで複雑な全体を再構成しよう という立場に立つと,それぞれの基本構造が独自の性 質を持っていて,どの基本構造も決して他の基本構造 の重ね合わせでは表現できない,という条件を満たす 必要がある.即ち,各基本構造は互いに独立でなけれ ばならない.互いに独立であれば,適当な直交化手法 で互いに直交する(共通な成分を持たない)基本構造 の組を再構成できる.直交化された基本要素の組を使 って初めて「基本構造」という概念が意味を持つ.z
Fourier 変換は最も基本的な直交分解法である. 暗室内に白色光(太陽光)を入れ,三角プリズムに当てる と光の波長ごとに屈折率が異なるため,プリズムの背後に波 長の長さ順に7色の光の帯が映し出される. プリズムは白色光の中に含まれる各波長の光の成分毎に 光を分解する役割をしている.分光された光の強さ(明るさ) は白色光に含まれる各波長の光の強さを表している.このよ うにプリズムは光の波長と強さを分離する装置である.さて, フーリエ変換では信号は周波数と振幅(強度)に分解されて いることを思い出そう.すべての光の波長が集まった白色光 では各波長の成分の持つ光の色がわからなくなる.これはち ょうど,ランダム信号には特徴がないことに似ている.ランダ ム信号は副速な種々の波長の波の合成と考えられる.不規 則波形はフーリエ変換という数学的プリズムを介して,信号 をスペクトルに分解することに他ならない. 図7 プリズムを通過する白色光 図8 フーリエ変換による信号の周波数分解 Fourier 変換の基本要素は,無限に長い台を持ち,互い に相似な周期関数である三角関数の組である.台が無限に 長いので,無限に長い信号の直交分解に向いている.定常 ランダム系列は専ら Fourier 変換によって解析されることが 多い.また,基底が全て周期関数であるために,周期関数の 解析には最も適している.数学的道具立てや,各種アルゴリ ズムも整っており,最も使い易い直交分解法の一つである. しかし,基底関数の台が有界でないために,非定常・間欠 的な信号を直交分解しても物理的に意味のない係数が現れ ることがあり,解釈には十分な注意が必要となる.端的な例 をあげよう.デルタ関数の Fourier 変換は周波数軸上いたる 所で一定の値をとる.するとデルタ関数はあらゆる周波数の 三角関数を均等に重ね合わせたものだ,ということになる.こ れは数学的にはもちろん正しいのだが,デルタ関数は原点 以外では値を持たないために,原点以外の場所でその直交 分解を考えることには意味が無い.原点のごく近傍でしか値 を持たない関数を,台が無限に広い直交基底で分解するか ら,このようなことが起きる.したがって,非定常現象のスペク トル解析の結果の解釈には十分な注意が必要である. 非定常現象の解析ではこのような不都合を回避しようとし て , あ る 有 限 の 期 間 の 信 号 だ け を 取 り 出 し て 解 析 す る Windowed Fourier Transform,Gabor Fourier Transform など と呼ばれる手法が用いられてきた.しかし, Fourier 変換は 本質的に定常ランダム系列を扱うための数学変換であるた めに,無理をしている点は否めない. 有界区間での直交分解の代表的なものには Tchebychev 多項式があって,非常によく使われる.円筒座標系で調和 関数を記述するには,専ら Bessel 関数が用いられるし,球 座標系では Legendre 関数で展開するのが普通である.実 際の問題にはこれら様々な直交展開法を組み合わせて使う ことになる.例えば矩形チャンネル流を,流れ方向とスパン 方向を周期境界条件の下で,壁方向をすべり無しの境界条 件 で 数 値 的 に 解 く 場 合 に は , 流 れ 方 向 と ス パ ン 方 向 を Fourier 級数で,壁と垂直な方向を Tchebychev 級数で展開図6
プリズム
フーリエ変換
して計算することが多い.これは,各方向毎に最も適した直 交分解法を選択した結果にほかならない.このように,直交 分解には状況に応じてそれぞれ自然な基底というものが存 在する.
Wavelet変換
画像データなどの圧縮に用いられる離散ウェーブレ ット変換は正規直交系であり,乱流などの非定常デー タの直交成分分析に利用することができる.ウェーブ レットとは小さな波(さざなみ)のことであり,分析 対象とする信号波形とさざなみの相関を調べる手法で ある.さざなみが時間波形のどの時刻で相関を持つか を調べることにより,波形の性質を調べる. 乱流解析で一般的に用いられる連続ウェーブレット は正規直交基底を満たさないため,数学的には直交分 解ではない.しかし,さざなみ波形の性質を直感的に 理解しやすいこと,周波数分析との対応がわかりやす いなどの理由から広く利用されている. Wavelet 解析によりあるサイズ以下の渦成分を取り除 きデータを再構築する場合などは直交基底を満たす離 散ウェーブレットが適しているが,間欠的な現象を調 べるような場合は連続ウェーブレットを利用しても実 用上大きな問題はない.図 10 に波形解析の一例を示す. 図 9 Wevelet の原理 図 10 波形解析事例 図 11 は二次元平板翼周りの空力音源分布を離散ウェー ブレット変換を用いて画像処理(多重解像度解析)した結果 の一例である.翼の周囲にははく離に伴う音源項が分布して いるが,wevlet 変換によってスケール毎に音源項を分解す ることができる. 図11 離散ウェーブレット解析の応用例z
ランダム系列のデータ自身から直交基底を作る方法もある.統 計 学 で Singular Value Decomposition や Singular Spectrum Analysis と 呼 ば れ , 乱 流 分 野 で は Proper Orthogonal Decomposition と呼ばれる手法で,数学的には Karhunen-Loeve 展開と総称される直交分解法である.デー タ自身から統計学的手法で直交基底を構成し,元のデータ を展開するもので,特定の基底関数系を前提としない.主に 乱流の秩序構造,ランダムデータに潜む統計的秩序パター ンの抽出に使われる. これまでに,乱流境界層の秩序構造の抽出,地球大気大 循環のパターンの分類,などに使われ,成果をあげてきてい る.人間がひと目見ただけでは,どこにどういう秩序パターン があるのかわからない,というほど乱雑な場を解析する手法 として,他に無い特徴を持っている.しかし,純粋に数学的 な操作なので,結果の解釈には十分な注意を要する.
データ計測上の注意点
実際の計測における注意点を以下に示す.現在では非定 常データの計測にはADコンバータを使用し,得られたデー タはパソコンで処理されることが多いと思われる.前述の統 計量の計測やFFTなどによる周波数分析も簡単に行なうこと ができる.しかし,先に述べたように不規則過程のデータ処 理では,平均化処理が重要である.特に,非定常不規則過 程が弱エルゴート的とみなせる程度に長い平均時間を取る 必要がある. 以前はペンレコーダで波形を記録し,オシロスコープで波 形を観測することが行なわれていたが,最近では計測器から PCにダイレクトに信号が送られ,生データではなく2次加工さ れたデータが画面上に表示されることが多い.もちろん便利 なツールを使うことは研究の効率を向上させるので,有効に 使うべきであるが,時々生波形を確認したり,平均時間が十 分であるかのチェックを行なったほうが良い. 生波形のチェックは主にノイズや信号のひずみなどのチェ ックとして必要である.特にインバータやデジタル機器が増 えている昨今ではデータにノイズが乗ってしまうことも少なく ない.また,カルマン渦の発生に影響を及ぼすはく離せん断 層内の不安定波形のように2次加工したデータからは見つけ にくい信号波形を観測できるような場合もある.特に,新しい計測装置や実験条件の場合,必ずオシロスコープで波形を 観測する習慣をつけるべきである. 時間平均の長さをどのように設定するべきかについては, 現象の時定数を考慮するということになるが,簡単な方法とし て,平均回数を段階的に変えて,データがどのように変わる かを調べてみると良い. たとえば,16回から初めて,64回,128回,256回,512回, 1024回,2048回...と平均回数を変えていく.スペクトル解 析で顕著になるが,平均回数を変えていくと平均値はある値 に収束する場合がほとんどである.平均回数を変えても,平 均値が変わらない場合は,平均時間が十分長いとみなせる. 念のため,同じ実験を数回行い,平均値がほぼ一定とな る平均回数を見つけると良い.もちろん,得られた平均時間 が観測している現象の時定数とどのような関係にあるのか調 べることも重要である.
サンプリング定理
ランダムデータは通常,離散的に取られたサンプル値の 列によって処理・解析される.具体的にはパソコン等に設置 されたA/Dコンバータによってアナログ電気信号がパソコン にデジタルデータとして取り込まれる.この際,A/Dコンバー タの性能を表す数値として,サンプリング周波数10kHz,量子 化16ビットなどと表示される.量子化16ビットというのは測定 電圧レンジ(たとえば±5V)を216=65536に分割することであ る.したがって,この場合,電圧の分解能は0.15mVである. 一方,サンプリング周波数は電圧を測定する時間刻みの逆 数である.デジタルデータでは,サンプリング周波数より高い 周波数の信号を再現することはできない.したがって,デー タを取得する場合,サンプリング周波数が重要となる. 不規則過程x(t)が時刻0からTまで記録され,その他の時 間では0だと仮定すると,そのフーリエ変換は dt e t x f X∫
j f ∞ − πτ = 0 2 ) ( ) ( と表せる.x(t)を周期Tで繰り返し現れる周期関数と仮定する と, T f j e An t x()=∑
2πτ/ したがって, TAn dt d e t x T n X =∫
j f T = ∞ − πτ 0 / 2 ) ( ) ( よってすべてのtに対するx(t)が決まり,すべてのfに対してX (f)が定まる. 一方,フーリエ変換X(f)が周波数-B∼Bの間に存在する場 合を考える.上と同様に考えれば, BCn df d e f X B n x B B B nf j 2 ) ( ) 2 ( =∫
/ = − π となり,x(n/2B)よりすべてのfに対するX(f)が求まる.したが って,x(t)を記述するために必要なサンプルの数はBT
T
B
N
2
/
1
2
=
=
となる.したがって,周波数Bの信号を記述するにはN/T=2B の周波数でデータを取得する必要があり,測定したい周波 数の2倍以上の周波数でサンプリングする必要がある.(サン プリング定理) サンプリング定理は,時間的に連続な信号とそれをサンプ リングする速さの関係について情報が保たれる限界を示すも ので,「信号に含まれる最高周波数成分の2倍以上の周波 数でサンプルしなければならない」ということを示している.サ ンプリング周波数が信号の周波数の2倍より低くなると,エイ リアシング(折返しひずみ)が生じます.(古い映画等で馬車 の車輪が実際の回転方向と反対向きに回って見える現象) したがって,実験を行う場合,測定するべき周波数(見たい 現象の周波数)の2倍以上(一般に2.5倍程度)でサンプリン グする必要がある.なお,市販のFFTアナライザー等では表 示されている周波数が測定できるように内部で2.5倍強のサ ンプリングを行っている場合が多い.フィルタリング処理
自分が調べたい信号が,ある特定の周波数帯域にある場合 には,フィルターで他の信号を取り除くことができる.信号の 前処理としてよく使われる.z
Low-Pass, High-Pass, Band-Pass, Notch, など,どの周 波数帯域を通過させるのか取り除くのかによってフィル ターの種類が別れる.また,Cut-off 周波数前後の遮 断特性の鋭さ,振幅や位相の特性などにより,様々な 種類のフィルターが使い分けられる. Cut-off 周波数付近での波形の歪みを嫌う場合には, 直線位相特性を持つフィルターを使う必要がある. Bessel フィルターが代表的なものである.波形の歪み (位相特性)をあまり問題にしなければ,遮断特性が鋭 く通過帯域中のリップルも小さいフィルターを選ぶこと になる.z
A/D 変換器の前段には必ず Anti-Aliasing Filter と呼 ばれる一種の直線位相型 Low-pass フィルターを置か なければならない.z
アナログ信号を扱う電気的なフィルターが長い間一般 的だったが,信号を A/D 変換器で Digitize することも 多くなり,フィルタリングをコンピュータで行うディジタ ル・フィルターもこれからは普及していくだろう. ディジタル・フィルターには大きく分けて,FIR(Finite Impulse Response) と IIR(Infinite Impulse Response) の 2種類がある.前者はアルゴリズムが単純で簡単な実 装ができるため,1-chip DSP などにも組み込まれること が多い.ただし,アナログフィルターとはかなり異なる特 性を持つ.後者はアナログ回路のフィルターに近い特 性を持ち,比較的少ない演算量で必要なフィルター特 性を出すことができる.3. 具体的な計測事例
熱線流速計
加熱した金属細線を気流中に挿入すると,気流によっ て金属細線から熱が奪われる.奪われた熱量と気流速 度に一定の関係があると仮定し,熱量から流速を推定 する方法が熱線流速計の原理である.金属細線には直 径 1μm から 5μm 程度のタングステン線や白金線が使 用されることが多く,センサ部分以外を被服したタイ プもある.図 11 に示すように金属細線をプロングと呼 ばれる金属製の支柱により支持したものをセンサとす る.プロングを介して金属細線に電流を流すとジュー ル発熱により金属細線が加熱される.このように金属 細線を加熱することから熱線流速計という名前がつけ られている。 金属細線の電気抵抗を Rw、電流を I とすると、流速 U、温度 Taの流れの中に金属細線が置かれた場合の熱平衡 式は以下のようになる.
)
(
4
2 2 a w w w w wd
h
T
T
t
T
g
c
d
R
I
+
π
−
∂
∂
ρ
π
=
ここで d は熱線の直径、cwは熱線の比熱、ρwは熱線の 密度、h は細線表面における熱伝達率である。ただし、 こ こ で は 熱 線 の 長 さℓ は 線 径 d に 比 べ 十 分 長 く (ℓ/d>200)、熱線上の温度分布が一様とみなせると仮 定する。 金属細線の電気抵抗は温度差に関する1 次式で近似で きることが知られており、{
1
(
w o)
}
o wR
T
T
R
=
+
β
−
と表すことができる。熱線流速計には定温度型と定電 流型があり、前者は細線温度 Twを一定にし、後者は電 流 I を一定に保つ方式である。電気回路としては I を一 定に保つ定電流型が簡易であり、初期に開発された熱 線流速計はこのタイプであるが、現在ではフィードバ ック制御に優れた定温度型が一般的である。定温度型 では細線の温度 Twを一定に保つように回路を構成する ことにより、熱平衡式は)
(
2 a w wd
h
T
T
R
I
=
π
−
と簡略化できる。熱線(円柱)周りの強制熱伝達に関 する実験式(Collis と Williams)より熱伝達率 h は、 a f n a a wT
T
BU
A
T
T
T
h
d
)
(
2
)
(
)
Re
56
.
0
24
.
0
(
+
0.45=
+
=
λ
π
+ と表すことができる。ここで Re は細線直径に基づくレ イノルズ数、λは熱伝導率である。これらの式から、熱 線の出力 E=IRwと流速 U の間に以下の関係が成り立つ。(
)
{
}
n o o E C B U= 2− 1/ ここで定数 n は一般に 0.45∼0.5 程度の値である。 上記のことからわかるように熱線流速計は速度と熱 伝達の実験相関式から速度を推定する手法であり,利 用に際しては,実験定数 Bo,Co,n を校正によって求めなく てはならない.また,定数は流速だけでなく,気流の 温度の関数でもあるため,流速が一定であっても,温 度が変化すると出力が変化してしまう.したがって, 熱線流速計による計測では必ず校正が必要になる. LDV やピトー管のように流れ場の基本的な性質(ドッ プラーシフトやベルヌーイの式)を利用したものでは ないという点に注意する必要がある. 現在広く使われている定温度型熱線流速計の基本回 路を図 12 に示す.熱線はホイットストンブリッジの抵 抗として組み込まれているため,流速の変化に応じて 熱線が冷却され,熱線の抵抗が変化する.このため, ブリッジ間に電流が流れるが,作動増幅器によりトラ ンジスタをスイッチングし,ブリッジに加える電流を 変化させ,熱線が一定温度になるようにフィードバッ ク制御を加える.定温度型熱線流速計はフィードバッ ク制御により応答性に優れた特性を示すが,熱線自身 が閉回路を構成しているため,長いリード線を使うと 発振しやすいという欠点がある.フィードバック回路 の高周波における安定性を調整するため,フィードバ ック回路に調整機構を設け,矩形波信号に対する応答 性の確認を行う必要がある. 熱線流速計のカタログを見ると周波数応答 100kHz と いうものが少なくない.もちろん,フィードバック回 路としては 100kHz 程度の応答周波数が得られるが,実 際にはプロングや金属細線の熱容量の問題もあり, 100kHz の応答を保障することは容易ではない.特にリ ード線が長いと前述のように発振しやすい.高い周波 数の測定を行なう場合は,ケーブルの長さや他の計測 器との干渉などに十分な注意が必要である.5kHz から 10kHz 程度の計測であれば特に大きな問題が生じること はない. d Prong Wire element dx x l Tp Tw Heat conduction in Heat conduction out Heat to cross-flow Heat generated Heat accumulated 図 11 熱線周りの概略図R
LR
1R
3R
WR
2R
GTr
E
iE
-+
図 12 定温度型熱線流速計の回路図の一例高速 PIV
流れの中に十分小さく軽い粒子を混入すると,粒子群 が流れに追従して移動するので,この粒子群の運動を 連続撮影することにより,粒子群の移動距離から速度 場 を 推 定 す る こ と が で き る . こ の 計 測 手 法 が PIV (Particle Image Velocimetory)である. PIV 計測では二 次元または三次元の速度場が得られることから,流れ 場の空間分布計測が可能である.従来は,レーザーパ ルスの出力間隔の制限から毎秒数コマから数十コマ程 度のデータしか取得できなかったが,近年ではレーザ ー光源の高出力・高速化,CCD カメラの高解像度化, 高速化に伴い,毎秒数千コマから1 万コマ程度の撮影が 可能となった.撮影した画像の分解能が 1024×512pixel, 相関を求めるためのイメージ画像が 16×16pixel の場合, 約 2000 点の速度ベクトルが得られる.PIV 計測の利点 は多点同時計測が容易に行えることである.システム の高速化に伴い,およそ2000 点の速度ベクトルを 1 秒 間に数千点計測することが可能である.速度場のデー タが得られることから渦度の時間変動の計測も可能で ある. 高速 PIV を実現するには高速カメラ,高速で照射す ることができるパルスレーザーが必要である.高速カ メラは広く普及しているので,カメラの性能が問題と なることはすくない.ポイントはカメラとレーザー照射のタイミングであり,一般にフレームストラドリン グ(フレーム間にまたがった撮影方法)が使われてい る.フレームストラドリング法では,図 13 に示すよう にカメラのシャッターが閉じる直前に1 回目のレーザー を照射し,2 回目の撮影は次にカメラのシャッターが開 いた瞬間に行なう.このようにすることにより,フレ ームとフレームの間の短い時間間隔で画像を取得する ことができる.従来のようにシャッターが開いたとき にレーザーを照射する方法に比べて,2つのレーザー 照射時間を短く設定することができる. 一般に PIV 計測では2つの画像間における粒子群の 移動距離が4 ピクセル程度になるように撮影することが 多い.このため,高速の気流や小さな流れ場を撮影す る場合,レーザー照射時間及びフレーム間隔を短くす る必要がある.フレームストラドリング法を用いるこ とにより,レーザー照射時間,フレーム間隔ともに 1µsec 程度にすることができる. 図 13 フレームストラドリング法のタイミングチャート 図14 は赤外線レーザーと赤外線カメラ(IDT SX4) を用いて撮影した円柱周りの流れの計測結果である. 気流速度 10m/s,カメラのフレームレートは 5kHz であ る.レーザー照射時間は 8µsec,フレーム間隔は 2µsec である.このような画像を時系列で取得することがで きるため,渦の挙動を詳しく調べることができるなど, 流れ場の時間−空間的な情報を瞬時に得られることか ら高速 PIV は非定常流れ計測の主要なツールとなりつ つある. 元画像 速度ベクトル 図 14 高速 PIIV による円柱周りの流れの計測結果
静圧変動計測
壁面静圧を測定するには,壁面に小さな孔を開けて壁面 に垂直に作用する単位面積あたりの流体力を求める必要が ある.一般的な空気流の場合,1mm 以下の小孔にすること が多く,0.8mm や 0.5mm 程度の孔を開けて測定する.測定 孔は面に対して垂直に開けられていること,バリなどがないよ うに仕上げる必要がある. 静圧孔には,一般にテフロン・チューブやビニールチュー ブを接続し,このチューブによってマノメータや圧力変換器 に接続される.チューブの長さが極端に長い場合や,管径 が小さい場合,圧力が平衡状態に達するまでに長い時間を 要するため,注意が必要である.実験装置の配置の問題か らチューブの長さは様々な制約を受けるが,極力短くしたほ うが良い.たとえば,著者らの実験では,内径1mm,長さ2m の圧力チューブを使用して圧力を計測した場合,圧力計の 指示値が一定値に落ち着くまでに 3 分ほどの時間が必要で あった. 圧力が一定になるまで待って実験すると,その間に気流 温度や実験条件が時間とともに変化してしまうこともあるので, チューブの長さはできるだけ短くしたほうが良い.しかし,製 品開発などでは,装置と計測室の間が離れていることも多く, 事前に圧力が一定になるまでどの程度の時間が必要か確認 し,あまり時間がかかるような場合で複数の測定点がある場 合は,圧力計を複数用意するなどの配慮が必要である. 図15 は NACA0012 翼に 40 個の静圧孔を開けた翼面静 圧測定用のモデルである.各静圧孔は内径0.4mm のステン レスチューブによってモデル外部に引き出され,ビニールチ ューブを介して圧力センサに接続した. 図 15 静圧孔および静圧管を埋め込んだ翼モデル (NACA0012) 変動圧力の計測には,通常の圧力タップの代わりに半導 体圧力センサを使用する.このような計測に広く使われてい るのが,Kulite 社製の半導体圧力センサである.図 16 に示 すように翼内部に埋め込むことが可能である(ただし,若干 高価であり,アンプを含めると1ch あたり 40 万円前後の費用 が必要である). 半導体圧力センサを壁面に埋め込んで使用する場合の 応答周波数は数kHz から 20kHz 程度になる場合が多い. 定格の圧力レンジは数 kPa 程度のものが多く,低速の流れ 場で使用する場合は注意が必要である. 筆者の経験では Kulite のセンサは直線性が高く,校正を すれば低圧力域での実験の再現性は良い.ただし,メーカ ーから送られてくる校正データの値と,低圧領域での感度は 必ずしも一致していない. φ0.5 図 16 壁面静圧変動測定装置p d 圧力変換器 l V p d 圧力変換器 l V