はじめに 術前の絶飲水期間を短縮するにあたり,全身麻酔 に際して安全な経口的補水方法が望まれる.患者側 の安全に加え,麻酔科医の安全を考慮した術前の経 口的な飲料摂取の提案として,次の二つの条件を兼 ね備えた補水方法が望ましい.一つ目の条件は,輸 液療法と同等の水分・電解質補給効果を有する補水 方法であること.二つ目の条件は,摂取した飲料が 胃から迅速に小腸に排出される補水方法であること. これまでに,われわれは,術前の体液管理として, 水分・電解質補給効果が輸液療法と同等である経口 補水療法(oral rehydration therapy:ORT)を提案 してきた1).そして,術前 ORT に際しては,WHO の提唱する ORT の考え方に基づいた経口補水液 (oral rehydration solution:ORS)を使用してきた2). 一方,術後回復能力強化プログラムの一つである ERAS(enhanced recovery after surgery)protocol では,インスリン感受性を維持する目的で,術前に 高濃度の炭水化物含有飲料(hyper concentric car-bohydrate drink:HCHO)の摂取を推奨している3), 4). また,ミネラルウォーター(mineral water:MW) やお茶などを摂取させている施設もある.これらは いずれも clear fluids と呼ばれているが,clear fluids には属さない経口的サプリメント(oral nutritional supplement:ONS)を摂取させている施設もみられ る(表 1)5).今回,麻酔科医の安全を考えた術前経 口飲料摂取の提案を行うにあたり,摂取飲料の種類 日本臨床麻酔学会第 30 回大会シンポジウム
術前絶食期間を考え直そう~ Let's Reconsider Preoperative Fasting Period ~
術前経口補水療法は安全な術前体液管理方法である
─
13C 呼気ガス診断を応用した胃排出能検査法を用いた検討から─
谷口英喜
* [要旨]摂取飲料の種類による胃排出速度の違いに着目し,ミネラルウォーター(mineral water:MW),経口補水液(oral rehydration solution:ORS)および高濃度炭水化物含有飲料(hyper concentric carbohydrate drink:HCHO)に関して13C 呼気ガス診断を応用した胃排出能検査法 による検討を行った.その結果,ORS は MW に比べて,呼気中13CO
2/12CO2の基準値(投与前値) に対する変化量比がピークとなるまでの時間 Tmax(maximum drug concentration time)値が 速い傾向にあった(P=0.05).さらに,ORS は HCHO に比べて,Tmax 値が有意に速かった (P=0.04).よって,胃排出速度の点から経口補水療法(oral rehydration therapy:ORT)は,
患者および麻酔科医にとってより安全な術前の経口的な補水方法と考える. キーワード: 13C 呼気ガス診断,経口補水液,経口補水療法,術前経口補水療法,胃排出速度 著者連絡先 谷口英喜 〒 238-8522 神奈川県横須賀市平成町 1-10-1 神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科 * 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科
による胃排出速度の違いに着目して「各飲料間で, 経口摂取後から胃排出速度に相違がない」という仮 説を立て,13C 呼気ガス診断を応用した胃排出能検 査法(13C 法)6)による検討を行った. Ⅰ 対象と方法 <対象> 本試験は,神奈川県立がんセンター治験審査委員 会(IRB)での承認(20 研 31)を得た後,ヘルシンキ宣 言(2004 年)の精神を尊重して実施した.対象は健 康 成 人 ボ ラ ン テ ィ ア 10 名(男 6 名・ 女 4 名, 年 齢 36.7 ± 10.1 歳,BMI 23.9 ± 3.6kg/m[mean ± SD])2 とした. <方法> 研究デザインは,乱数割り付けによるクロスオー バー研究とした.試験方法は,第 44 回日本平滑筋 学会ワークショップにて示された13C 呼気ガス診断 を応用した胃排出能検査法(13C 法)の「標準法 -90 分法」に準じ(表 2)6),以下のように計画した. (1)試験日程 試験は13C 化合物の wash out 時間を考慮して,72 時間試験の間隔を設けて,3 日間に分けて行った. 日程によるバイアスを減らす目的で,乱数割り付け により摂取日程をボランティアごとに無作為に決定 した(図 1). (2)前処置 胃の内容物を減少させる目的で,前処置として, 試験前日は 21 時より絶食とした.そして,試験当 日は,試験開始 2 時間前までは水またはお茶のみ摂 取可能とした.試験は朝 9 時より開始した. (3)試験液の調整法 Sodium Acetate-1-13 C(Cambridge Isotope Labo-ratories, Inc.)100mg Na 塩を安定同位体として用 い,常温で保存された以下の試験飲料に,摂取直前 にそれぞれ溶解させ試験液として用いた. ① ミネラルウォーター(クリスタルガイザー,大 表 1 現在,医療現場で用いられている術前飲料 医療現場で用いられる 経口摂取飲料 定義 用途および術前使用法 認定組織 経口補水液 (oral rehydration solution:ORS) ・Na イオン濃度 40︲90mEq/L ・炭水化物濃度 1︲2.5% の両条件を満たしている ・輸液の代用 ・水分・電解質補給 ・Clear fluids の一つ ・術前 2︲3 時間前まで摂取可能 ・WHO ・ESPGHAN ・AAP 高濃度炭水化物含有飲料 (hyper concentric carbohydrate drink:HCHO) ・炭水化物濃度 12.5% (濃度は高くても低くても無効) ・アミノ酸・ビタミンを含まない ・術後インスリン感受性維持 ・Clear fluids の一つ ・術前 2︲3 時間前まで摂取可能 ・ESPEN 経口的サプリメント (oral nutritional supplement:ONS) ・経口的に栄養素を補給できる飲 料の総称 ・各種栄養剤がこのカテゴリーに 含まれる ・明らかな定義はない ・各種栄養素の補給 ・ 脂肪や繊維を含有した場合は, 術前飲料としては適さない (clear fluids に含まれない) ・術前 3︲4 時間以上はあける ・特になし 嗜好性に依存する飲料 ・Clear fluids に含まれる ・水,ミネラルウォーターおよび 炭水化物含有飲料 ・ジュース ・コーヒー,紅茶,緑茶など ・水分補給 ・術前 2︲3 時間前まで摂取可能 ・特になし ESPGHAN:European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition,AAP:American Academy of Pediatrics,ESPEN:European Society for Clinical Nutrition and Metabolism 〔文献 5)より引用・改変〕
塚ベバレジ株式会社)200mL:MW ② 経 口 補 水 液 OS-1(株 式 会 社 大 塚 製 薬 工 場 ) 200mL:ORS ③ 12.5 % 炭 水 化 物 含 有 飲 料 preOp(Nutricia) 200mL:HCHO 各試験飲料の組成を表 3 に示す. (4)試験液の摂取法 被験者は,試験液を 1 分以内に全量経口摂取した. 被験者は,試験飲料を摂取後には座位で,安静を保 った. (5)呼気試験実施方法 第 44 回日本平滑筋学会ワークショップにて示さ れた胃排出能検査の「標準法 -90 分法」に準じて計 測を行った.呼気は,安静座位にて 5 秒間呼吸を停 止させ,その後に呼気採取バッグ(赤外分光分析装 置用呼気採取バッグ,大塚製薬株式会社)に呼出し, 常温保存とした.測定は試験液摂取前,摂取後 5 分, 10 分,15 分,20 分,30 分,40 分,50 分,60 分,75 分,90 分に行った. 被験者呼気中の13CO 2/12CO2の測定は,炭酸ガス 炭素同位体比分析装置(赤外分光分析装置 UBiT-IR 300,大塚電子株式会社)を用いて分析を行った.計 表 2 液状食を用いた C 呼気ガス診断を応用した胃排出能検査法の 「標準法 -90 分法」(第 44 回日本平滑筋学会ワークショップより) 試験食 液状試験食 200kcal/200mL 13C 標識化合物 13C︲acetate(Na 塩) 100mg 測定方法 呼気採取 摂取前,摂取後 5,10,15,20,30,40,50,60,75,90 分 各測定ポイントの呼気中13CO2存在率を計測し,前値との差(⊿値)を求める 評価指標 呼気中13CO2存在率が最高となるまでの時間 Tmax(実測値) 〔文献 6)より引用・改変〕 図 1 被験者の試験日程と摂取飲料 被験者は試験を 72 時間ごと,3 日間に分けて実施した. 被験者の表記は No. 被験者番号,で示した.
測した13CO 2/12CO2から,(13CO2/12CO2測定値13CO2/ 12CO 2基準値(投与前値))/13CO2/12CO2基準値(投与 前値)× 1000[‰]を算出し13CO 2/12CO2の基準値に 対する変化量比( ‰)として示した6). (6)評価項目 呼気中13CO 2/12CO2の基準値(投与前値)に対する変 化量比( ‰)がピークとなるまでの時間,最高血中 濃度到達時間(maximum drug concentration time: Tmax)を計測した.Primary end point として試験 液間での Tmax の比較を実施した. (7)統計学的処理 統 計 学 的 処 理 に は SAS ver. 9.1(SAS Institute Japan)を用いた.数値は平均値±標準偏差値で表 記した.3 群間の Tmax 値の比較に関しては,多重 性を考慮して Dunnett 検定を行った.また,探索的 に各時点における呼気中13CO 2/12CO2を比較するた め Dunnett 検定を行った(有意水準:両側 0.05). Ⅱ 結 果 13C 法による呼気計測は,すべての飲料において 10 名で実施されたが,No.5,No.7,No.10 における HCHO 摂取における計測値が不安定であり計測不 能であった.呼気試験の計測結果を図 2 に示す.そ の結果,ORS と MW の比較では,ORS は MW に比 べて Tmax 値が速い傾向にあった[ORS vs. MW: 19.5 ± 6.4min(n=10) vs. 30.5 ± 9.6min(n=10),
P=0.05]. 一 方,ORS と HCHO の 比 較 で は,ORS は HCHO に比べて Tmax 値が有意に速かった[ORS vs. HCHO:19.5 ± 6.4min(n=10) vs. 32.1 ± 15.8min (n=7),P=0.04].
時点ごとの13CO
2/12CO2の比較では 5 分後に MW
に比べて ORS に有意差が見られ(P< 0.05),10 分 後,15 分後では ORS と MW,ORS と HCHO それぞ れにおいて ORS に有意差が見られた(P< 0.05).し かし,20 分以降ではいずれの比較においても有意 差は見られなかった. Ⅲ 考 察 従来,全身麻酔に関連した誤嚥性肺炎の発生を予 防する目的で,患者を術前夜から絶飲食とすること が慣例とされてきた7).しかし,手術前でも,摂取 内容および摂取時間を守った経口摂取方法を実施す ることで安全性が保たれることが明らかになっ た8), 9).現在では,米国および EU 加盟国では各国 麻酔科学会より,術前飲食のガイドラインが示され ている(表 4)5), 8), 9).いずれのガイドラインにおいて も,術前に摂取可能な飲料は clear fluids(水および 炭水化物含有飲料,牛乳を含まないコーヒー・紅茶, 表 3 各試験飲料の組成 ミネラルウォーター (MW) 経口補水液(ORS) 高濃度炭水化物含有飲料(HCHO) 商品名 炭水化物濃度 Na+ K+ Mg2 + Lactate- Cl- P 浸透圧 pH 単位 % mEq/L mEq/L mEq/L mEq/L mEq/L mmol/L mOsm/L クリスタルガイザー 0.0 0.5 0.1 0.4 - - - 約 0 7.1 OS︲1 2.5(ブドウ糖 1.8) 50 20 2.0 31 50 2.0 約 270 3.9 preOP 12.6(ブドウ糖 2.1) 2.2 3.1 0.0 - 0.2 0.0 約 260 4.9
食物繊維を含まないジュースなどをいう)に限定し ている.しかし,どの clear fluids を用いるかは, 施設の方針によって異なっている.本研究では,麻 酔科医の安全を守るという点から胃排出速度に着目 し,clear fluids のうち MW,ORS および HCHO の 比較検討を行った.今回使用した ORS の一つであ る OS-1 は,軽度から中等度脱水時の水分・電解質 補給に適した食品として,厚生労働省から個別評価 型病者用食品の許可を取得した飲料である.また, OS-1 の組成は米国小児科学会の指針2)に基づいて おり,ORT が有効である根拠となっている腸管に おけるナトリウム・ブドウ糖共輸送機構が十分に機 能するような組成となっている.つまり,ナトリウ ムイオン濃度とブドウ糖濃度のモル濃度比が 1:2 を超えない(ナトリウムイオン濃度:50mEq/L,ブ ドウ糖濃度:1.8%)組成で,一般の清涼飲料水に比 して脱水時に優れた水分・電解質補給効果が認めら れている2).これまでの研究から,ORS の吸収能力 に関する有用性は多く報告されてきたが1), 2), 10), 11), 胃排出速度に関する報告は少ない.一方,本研究で 用いた HCHO は,北欧を中心に周術期のインスリ ン感受性を維持する目的で,その術前摂取が推奨さ れている3), 4).このため,術前使用に関する安全性, 特に胃排出速度に関しては,およそ摂取後 2 時間以 内には胃から小腸へ排出されることは,多くの研究 結果から示されている12), 13).そして,本研究では, MW,ORS および HCHO の胃排出速度を比較した 結果,「各飲料間で,経口摂取後から胃排出速度に 相違がない」という仮説は否定された.さらには, ORS は HCHO よりもさらに胃排出速度が速いこと が明らかになった. 本研究で実施した13C 呼気ガス診断を応用した胃 排 出 能 検 査 法(13C 法 )は,1993 年 の Ghoos ら の 報 告14)により欧米を中心として広まり,近年本邦でも 中田らが中心となり多くの施設に普及するようにな った6).13C 法は,ラジオアイソトープを用いた定量 的・直接的な胃排出曲線とほぼ同等と考えられてい る6).13C 法は,手技的に簡便・非侵襲的で,被爆被 図 2 13C 呼気ガス診断を応用した胃排出能検査の計測結果
‰:13CO2/12CO2比の基準値(投与前値)に対する変化量比;(13CO2/12CO2測定値 13CO2/12CO2基準値(投与前値))/13CO2/12CO2基準値(投与前値)× 1000[‰] Tmax:maximum drug concentration time
ORS:oral rehydration solution,MW:mineral water,HCHO:hyper concentric carbohydrate drink
害および薬剤を用いないために副作用の心配がなく, 臨床現場においても安全な検査方法である.しかし, 呼気採取の際に,十分な息こらえの時間(5 秒以上) をおいてから採取しないと,不安定な計測結果を呈 する6).本研究で,被験者 No.5,No.7,No.10 にお いて 1 日目の計測結果が不安定で計測不能であった 原因は,呼気摂取方法に問題があったためと考えら れた. 本研究で着目した胃排出速度は,まず摂取した物 質により胃が進展する,容量負荷による影響を受け る.一度の摂取量が 600mL までは,摂取量に比例 して排泄速度が速くなると報告されている15).次に, 固形物であれば粉砕されるまでの時間も影響を受け るが,本研究で用いたのは液体であるので粉砕の時 間は考慮しなくてもよい.その次には,摂取した物 質に対して胃や小腸における化学的受容体が反応を 受け消化液が分泌され,分泌された消化液の種類に より消化管の運動が影響を受ける16).本研究では比 較検討を実施しなかったが,ONS に属する飲料で アミノ酸や脂肪を含有しているものでは,胃排出速 度が遅れることが MRI を用いた試験により報告さ れている13).本研究で用いた各飲料は,容量は 200mL に統一され,脂質やアミノ酸は含有されて はいなかった.しかし,HCHO では炭水化物濃度 が高濃度に含有されているために,化学的受容体が 反応を受け,胃蠕動運動を抑制する消化液が分泌さ れ,胃排出速度が遅れた可能性が考えられる.これ までにも胃排出速度はブドウ糖濃度が高くなるほど 遅れることが報告されている15).さらには,13C 法 では,胃排出能だけではなく,腸管における吸収, 肝臓における代謝,肺からの排出の影響も総合的に 評価してしまう17).特に,前述したように消化管に おける吸収能は,ナトリウム・ブドウ糖共輸送機構 に依存する2), 11), 18).本研究で用いた MW はナトリウ ムイオンとブドウ糖を含有していない.HCHO も ブドウ糖は 2.1%含有しているが,ナトリウムイオ ンはほとんど含有していない.このように MW や HCHO は,腸管における吸収も ORS に比して劣っ ていたことも影響され,13C 法では Tmax 値が遅い 結果が強調されたものと考えられる. 術前には,飲食機会の減少や,消化管の機械的洗 浄による影響を受け脱水傾向になりやすいために, なんらかの補水が必要であるといわれている19).さ らには,術後回復能力を良くするためには,手術室 到着時に体液バランスが正常であることが望ましい ともいわれている20).よって,著者は,術前の経口 表 4 各国麻酔科学会で規定している術前飲食のガイドライン概要 国 術前飲食に関するガイドライン 除外 英国 飲料は 3 時間固形食物は 6 ~ 8 時間 救急/消化管疾患 カナダ 飲料は 2 時間固形食物は 6 ~ 8 時間 - 米国 飲料は 2 時間固形食物は 6 時間 救急/消化管疾患 ノルウェー 飲料は 2 時間固形食物は 6 時間 救急/胃腸疾患 スウェーデン 飲料は 2 ~ 3 時間固形食物は前日深夜より 救急/胃腸疾患 ドイツ 飲料は 2 時間固形食物は 6 時間 〔文献 5)より引用・改変〕
的な液体摂取を患者にも麻酔科医にも安全に提供す る補水方法として,次の二つの条件を兼ね備えた方 法が望ましいと考える.一つ目の条件は,輸液療法 と同等の水分・電解質補給効果を有する補水方法で あること.二つ目の条件は,摂取した飲料が胃から 迅速に小腸に排出される補水方法であること5).こ れまでの研究から ORT は輸液療法と同等の水分・ 電解質補給効果があることが1), 2), 10), 11),さらに本研 究の結果から,ORS は他の飲料に比べて胃排出速 度が速いことが証明された.特に,摂取から 20 分 未満では他の飲料との差が顕著であり,手術開始時 間が予定どおりでないような手術前の症例に摂取さ せるには,安全性が他の飲料に比べてきわめて高い と考えられる.以上より,術前の体液管理方法とし て,ORT が最も適した経口的な補水方法と考える ことができる. 一方,Fearon らは周術期におけるストレス反応 を軽減し包括的に合併症を減らす手法として ERAS protocol の有用性を示した4).特に術前経口的に 12.5%の高濃度 HCHO を摂取することにより,術後 のインスリン抵抗性を減弱し周術期合併症発生を減 少させ,入院期間を短縮させることを報告してい る3), 4), 21).ただし,術前 HCHO 摂取の効果に関して は,大規模試験において,在院日数および疲労回復 度に関して placebo と差がなかったとも報告されて いる22).ORT で用いる ORS は,HCHO に比して炭
水化物含有濃度が少ない傾向にあり,インスリン抵 抗性に与える影響に関しては,今後さらなる検討が 必要と考えられる. Ⅳ 結 論 麻酔科医の安全を考えた術前経口飲料摂取の提案 を行うにあたり,飲料の胃排出速度に着目して「摂 取後各飲料間で,経口から胃排出速度に相違がない」 という仮説を立て,13C 呼気ガス診断を応用した胃 排出能検査法を用いて検討した.本研究の結果,仮 説は否定され,胃排出速度の検討結果より,ORS が MW および HCHO よりも胃排出速度が速いこと が明らかになった.よって,ORT は,患者および 麻酔科医にとって,より安全な術前の経口的な補水 方法と考える. おわりに 術前 ORT を実施することで,輸液療法と同等の 水分・電解質補給効果を提供することが可能で, ORS は胃から迅速に小腸に排出される.よって, 術前の経口的な液体摂取を患者にも麻酔科医にも安 全に提供する補水方法として,ORT は最も適した 経口的な補水方法と考える. 本研究は,平成 21 年度日本静脈経腸栄養学会研 究助成金の援助により実施した.また,本研究の要 旨は,日本臨床麻酔学会第 30 回大会(2010,徳島) のシンポジウム「術前絶食期間を考え直そう」にて 発表し,本論文はそれに加筆したものである. 参考文献 1) Taniguchi H, Sasaki T, Fujita H, et al.:Preoperative fluid and electrolyte management with oral rehydra-tion therapy. J Anesth 23:222-229, 2009 2) Celeb KK, Glass R, Bresee JS, et al.:Managing acute gastroenteritis among children:oral rehydration, maintenance, and nutritional therapy. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 52(No. RR-16):1-16, 2003
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Management Method:Gastric Emptying Rate Assessed by 13C Acetate Breath Test Method Hideki TANIGUCHI Department of Nutrition and Dietetics, Kanagawa University of Human Services Gastric emptying rate is an interesting value which varies with the kind of consumed liquid. We in-vestigated the gastric emptying rate of various drinks by 13C acetate breath testing. Gastric emptying was measured for mineral water(MW), oral rehydration solution(ORS), and high concentration car-bohydrate drink(HCHO). The results showed that the maximum concentration time(Tmax), which is the time to reach a peak value of 13CO 2/12CO2 in the expired air relative to the baseline(value before consuming a drink), tended to be fast in the ORS as compared with the MW(P=0.05). Also, the Tmax was significantly faster in the ORS as compared with HCHO(P=0.04). Based on the results of the gastric emptying rate, oral rehydration therapy(ORT)is considered to be a safe oral rehydration method for patients, as well as for anesthesiologists.
Key Words : 13 C Acetate breath test, Oral rehydration solution, Oral rehydration therapy, Preopera-tive oral rehydration therapy, Gastric emptying rate