野村総合研究所 情報技術調査室 副主任研究員
一瀬 寛英
(いちのせ ひろひで) 情報技術調査室にて IT 動向の調査と分析を行う IT アナリスト。専門は、IP ネットワーク関 連技術。現在は主に、IP 電話/ IPv6 /情報家電に対する調査、分析に従事。 1.デジタルに移行する家電機器 ... 14 2.デジタル情報家電の分類 ... 15 3.デジタル情報家電のネットワーク化の技術動向 ... 16 4.注目技術の動向 ... 20 5.企業向けサービスにおけるデジタル情報家電のコンテンツ視聴技術の提案 .. 26 6.終わりに ... 33 要旨 ブロードバンド時代、IT 技術は、まず生活者向け市場で普及が始まり、実績が積まれ、企業向け市場で利用される という流れになっている。今後はデジタル情報家電のネットワーク化に関する IT 技術が有力であると予想し、その動 向と今後の方向性を調査および検討した。その結果、デジタル情報家電のネットワーク化は、屋内 LAN で閉じた A/V ネットワークの利用から普及が始まり、遠隔地からのデジタル情報家電の利用が実用化され、最終的には電子タグとの 連携といったユビキタスネットワークとの融合といった方向性であることがわかった。注目技術としてデジタル情報家 電のコンテンツ視聴技術を取り上げ、さらに、企業向けサービスの提案として、e ラーニングや IP カメラで撮影した映 像といったエンタープライズコンテンツに対する適用を検討した。 キーワード: デジタル情報家電、ブロードバンド、ユビキタスネットワーク、A/V ネットワーク、DLNA、コンテンツ視聴技術、 SIPIn this broadband era, Information Technology has started at a market targeting home consumers, and upon gaining good achievements there would move on to be used in the business and enterprise markets. It is predicted that Information Technology for Networking Digital Information Home Appliances would be the promising market to come. In this regard, we investigated and examined its trend and directions in the future. The results have been that in the beginning Networking of Digital Information Home Appliances begin by Networking Audio/Video devices using closed circuit home LAN environment and becoming popular, followed by utilizing digital information home appliance from remote areas, and finally it heads for the unite with Ubiquitas Network such as implementing & coordinating electric tags. Furthermore, as a service to utilize the technology for digital information electric devices to be proposed to enterprise market, applying them to the content for the enterprises, such as e-learning materials or pictures taken by IP cameras have been studied. Keywords : Digital information home appliances, Broadband, Ubiquitas Network, A/V Network, DLNA, Contents watching
1.デジタルに移行する家電機器 近年、テレビ、CD プレーヤ、DVD レコーダ、 デジタルカメラなど、デジタル技術を組み込 んで高機能化された製品が広く普及しつつあ る。機器の種類や分野によりある程度の違い はあるものの、家電機器全般についてデジタ ル化の傾向が顕著であるといえよう(図 1、 図 2 参照)。 一方、パソコンも広く一般に普及しており、 最近では、パソコンで音楽や、ビデオ、テレ ビ放送を楽しむ利用者も増え、パソコンが家 電の仲間入りをしたとも考えられる。 また、情報通信技術の著しい進歩に伴い、 ブロードバンドや携帯電話通信といった高度 な情報通信サービスが急速に普及している。 我が国のブロードバンドサービスの世帯普及 率は既に 3 分の 1 を超えており、家庭におい てもブロードバンドサービスは一般的になっ ている(図 3 参照)。この点もデジタル情報家 電への進展を後押ししている。 デジタル情報家電は、来たるユビキタスネ ットワーク社会の実現においても不可欠であ る。そして、その用途は生活者向きサービス ばかりでなく、企業向けサービスでも新たな 可能性をもたらすであろう。 0 100 200 300 400 500 600 700 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 2000年末 2001年末 2002年末 2003年末 2000年末 2001年末 2002年末 2003年末 万 万 図1 DVDビデオとVTRの国内出荷台数 (出所:電子情報技術産業協会) 図2 デジタルカメラとフィルムカメラの国内出荷台数 (出所:カメラ映像機器工業会) デジタルカメラ フィルムカメラ DVDビデオ VTR 29.0% 1,364 16.6% 781 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 40.0% 35.9% 6.0% 1.3% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 2000年 12月 2001年 12月 2002年 12月 2003年 12月 2004年 8月時点 ブロードバンド契約数 世帯普及率 万 1,692 283 63 図 3 国内ブロードバンド契約数と世帯普及率 (出所:総務省資料をもとに作成)
本稿では、まず、デジタル情報家電のネッ トワーク化の方向性について論じ、次に注目 技術としてデジタル情報家電のコンテンツ視 聴技術を取り上げ、この技術の企業向けサー ビスにおける適用を検討する。 2.デジタル情報家電の分類 デジタル情報家電は、非常に多岐にわたる ため、始めに、本稿で取り扱うデジタル情報 家電の範囲について述べる。 (1) IP ネットワークに接続して利用する 本稿では、直接または間接的に IP ネット ワークに接続するデジタル情報家電を扱い、 IP ネットワーク上で利用しないデジタル情 報家電は扱わない。つまり、そのネットワー クの形態は、「オール IP 網」、「IP 網と非 IP 網 のゲートウェイを介した接続」のどちらかに なる。 (2) 高速ネットワーク上で利用する ものを中心に扱う IP ネットワーク上で利用するデジタル情 報家電を、ネットワークの種類でさらに分類 した(図 4 参照)。横軸は、「LAN 上(屋内)」、 「WAN 上(屋外)」のどちらで利用するのかで ある。縦軸は、「高速」、「低速」のどちらのネ ットワークを利用するのかである。本稿では、 図の点線に囲まれた範囲、つまり高速なネッ トワークで利用するデジタル情報家電を中心 に扱う。 たとえば、オーディオビジュアル家電(以 下 A/V 家電)は、大容量コンテンツの配信の ために高速なネットワークを必要とする。現 :オールIP網 DVDレコーダ、ステレオ、テレビ マルチメディアPC など 携帯電話、ノートPC IP電話、IPテレビ電話 IPカメラ、オフィス機器 ソフトウェア ダウンロード センシング 操作、制御 :IP網と非IP網のゲートウェイを介した接続 高 速 低 速 今回の対象 LAN系(屋内利用) WAN系(屋外利用) A/V家電 情報通信家電 環境、白物家電 環境、白物家電 Web連携 図 4 デジタル情報家電の分類
在は技術の制限から屋内(LAN)での利用に なるが、今後は携帯電話やノート PC と連携 し、屋外(WAN)からの利用が予想される。 情報通信機器は、高速な WAN を必要とす るものが多い。IP 電話機や IP テレビ電話機 は、ブロードバンドや企業ネットワークとい った遠隔地で音声通話を行なう。IP カメラは、 映像をリアルタイムに遠隔地に配信する。コ ピー機などのオフィス機器は、障害対策のた めに、遠隔地からのメンテナンスや自動的な ソフトウェアの更新が必要となるであろう。 一方で、電子レンジなどの白物家電や、空 調や照明、防犯センサーなどの環境家電は、 機器のコントロール情報やセンシング情報の やり取りが主な用途と考えられ、常時接続は 必要であるが、低速なネットワークで利用で きる。 3.デジタル情報家電のネットワーク化の技術 動向 (1) パソコンやインターネットの技術の利用 従来の電話やテレビ放送のネットワーク 図 5 デジタル情報家電のネットワーク化に関連する標準化団体 【国際】 ITU (International Telecommunication Union: 国際電気通信連合) ISO
(International Organization for Standardization:国際標準化機構) IEC
(International Electro technical Commission:国際電気標準会議) 【域内】 ETSI (European Telecommunications Standards Institute: 欧州電気通信標準化機構) 【ドメスティック】 TTC (the Telecommunication Technology Committee: 情報通信技術委員会) ARIB
(Association of Radio Industries and Businesses :電波産業界) ANSI
(American National Standard Institute)
【特定の技術や製品】 ●ガイドラインの作成 DLNA(旧 DHWG)(Digital Living Network Alliance) デジタルコンテンツの相互利用 ECHONET
(Energy Conservation and Homecare Network) 設備系ネットワークの相互接続 宅内フォーラム (宅内情報通信・放送高度化 フォーラム) 情報家電や通信・放送ネット ワークを含む、多様な機器同 士の相互接続 ●伝送技術の開発 OIF(光) (Optical Internetworking Forum) HomePNA(電話線) (Home Phoneline Networking Alliance) PLC フォーラム(電力線) (Power Line Communications) HomePlug(電力線) Wi-Fi (無線 LAN) Bluetooth SIG ●ミドルウェア技術の開発 UPnP フォーラム
(Universal Plug and Play) インターネットの標準技術を 基盤とし、機器をネットワー クにつなぐだけで自動に機能 する技術
OSGi
(The Open Services Gateway Initiative) ユビキタスネットワークを介 して使用する多様な機器の機 能を柔軟に構築・変更する Java 言語に基づいたオープン なソフトウエア部品化技術 ●その他 CE Linux フォーラム (Consumer Electronics Linux Forum) Liberty Alliance (シングルサインオン) FIPA(エージェント) (Foundation for Intelligent
Physical Agents) 【広範囲な技術】 IETF(IP ネットワーク) (Internet Engineering Task Force ) IEEE(電気通信)
(Institute of Electrical and Electronic Engineers) 3GPP(携帯電話) (3rd Generation
Partnership Project) OMA(モバイル) (Open Mobile Alliance)
W3C(Web) (World Wide Web
Consortium) OASIS(XML) (Organization for the
Advancement of Structured Information Standards) ユビキタス ID センター (IC タグ) EPCglobal(IC タグ) (Electronic Product Code
global)
など など
など
は、各サービスを提供するために、特定の標 準化団体で専用の技術が開発された。一方、 デジタル情報家電のネットワーク化で利用さ れる要素技術は多岐にわたる汎用的技術であ り、数多くの標準化団体で検討されている (図 5 参照)。デジタル情報家電のために独自 に開発および標準化されている技術というの は意外と少ない。IP ネットワークにおけるデ ジタル情報家電の自動検出や自動接続を実現 する UPnP(ユニバーサルプラグアンドプレ イ)くらいである。大部分は、パソコンやイ ンターネットのサービス向けに開発された技 術や、標準化団体によってデジタル情報家電 向けに拡張された技術である。これらの技術 は、電話やテレビ放送の技術とは異なり、段 階的に進歩し、新技術も次々に登場している。 そのため、多様なデジタル情報家電に対応し、 屋内や屋外にかかわらず多様なネットワーク 環境で利用できるような万能かつ完全なネッ トワーク技術がいきなり登場することはな い。数多くの標準化団体が、それぞれの最終 的な目標と、その時々で実用可能で認知され た技術を照らし合わせながら、最適な技術を 選択する。最終的に目標とするネットワーク は、段階的に実用化される。 (2) デジタル情報家電のネットワーク化の 実用化ロードマップ 各種標準化団体の活動から、デジタル情報 家電のネットワーク化の実用化ロードマップ ⇒2004年度以前 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度以降⇒ デジタル情報家電 のネットワーク化 はじまり 普及期 本格化 利 用 ス タ イ ル ネットワーク 屋内で閉じた利用 屋外から屋内への接続 ユビキタスネットワーク 機器 Audio/Visual向け機器が中心 生活家電やセキュリティ設備などの機器が加わる モノに付けられる電子タグと情報家電が連携 要 素 技 術 の 方 向 性 伝送技術 (有線無線) 既存の伝送技術の利用 ・無線LAN、イーサネット 多様な新伝送技術の利用 ・近距離無線通信の充実、電灯線通信など さらなる高速化と利便性の向上 ・第4世代携帯電話 ネットワー キング゙技術 LANにおける機器の簡易接続 ・UPnP ・A/Vネットワークアーキテクチャ(DLNA) WANにおける機器の簡易接続 ・ゲートウェイ技術の確立 ・IPv6、品質保証技術、SIPによる機器接続 自律分散(アドホック)ネットワーク ・拡張性、信頼性の高度化 セキュリティ 技術 アプリケーション/ サービス技術 コンテンツ 視聴 PC用既存セキュリティ技術の利用 ・暗号通信(IPSEC、SSL)、認証(RADIUS) ・簡易な著作権保護 A/Vネットワークサービス ・音声操作 ・家電向けマークアップ言語 遠隔機器制御サービス ・プレゼンス(SIP) ・家電向けWEBサービス コンテクストアウェア ・電子タグ技術 ・サービスディスカバリ 認証技術の高度化 ・ICカード、生態認証、Liberty Alliance など ・プライバシー保護の強化 さらなるセキュリティ機能の強度化 ・メタデータによるコンテンツの著作権保護 単純な認識技術に基づく視聴 (音の強弱、顔やモノの形状等) 複雑な認識技術に基づく視聴 (音声の文章化、声紋、ヒトや物体の動き等) 図 6 デジタル情報家電のネットワーク化の実用化ロードマップ
を作成した(図 6 参照)。ネットワーク化の実 用化の進展は大まかに 3 段階に大別できる。 ① はじまり:屋内で閉じた利用 2005 年度までは、屋内でデジタル情報家電 を利用するための LAN 技術が実用化される 段階である。特に、A/V 家電向けネットワー ク技術がこの傾向を後押しする(詳細は「4.注 目技術の動向」参照)。そして、無線 LAN の 普及は、LAN 配線の煩雑さを解消するため、 その意味は大きい。 しかし、この時期は、逆を言えば、屋内で 閉じた利用だけであり、屋外から屋内のデジ タル情報家電を利用することは困難である。 なぜならば、パソコンでも、屋外から屋内に 接続する技術は実用レベルに達していないか らである。たとえば、屋外からの接続を容易 にする次世代 IP プロトコルである IPv6 や、 屋内外の通信の信頼性を確保するための品質 保証技術やセキュリティ技術はまだ実用段階 にはない。また、非 IP の機器を IP ネットワ ークで利用するためのゲートウェイ技術も実 用化されていない。 一方で、A/V 家電のユーザインターフェ イスについては、携帯電話と同じように Web ブラウザで表示できるようなマークアップ言 語が実用化される。さらに、VoIP によって情 報家電と会話をしながら操作するような音声 リモコンを実現するマークアップ言語が実用 段階になる。 ② 普及期:屋外から屋内への接続が可能 2007 年度までには、前述した屋外から屋内 に接続するために必要な IPv6 や、品質保証 技術、セキュリティ技術が実用化される。無 線 LAN 以外の近距離無線通信や電灯線通信 など多様な伝送技術が実用化される。そして、 これらの伝送技術を利用する非 IP の機器を IP ネットワークに接続するためのゲートウ ェイ技術が実用段階になる。 巨大なインターネット上で端末を接続する ための手順として注目される SIP(Session Initiation Protocol)は、この時期にデジタル 情報家電の接続に対応し、ユーザやデバイス の状態を交換する SIP プレゼンス機能も実用 化される(詳細は「4. 注目技術の動向」参照)。 一方で、遠隔地に分散するデジタル情報家 電を、ネットワークに接続するためや、Web アプリケーションと連携させるために、Web サービスが利用されるようになる。デジタル 情報家電用の Web サービスが実用化される ことによって、デジタル情報家電は、ネット ワークから最適なサービスをダイナミックに 発見し、利用できるようになるのだ。たとえ ば、家電機器を遠隔制御するための設定情報 や、1 台の機器を複数の利用者が使う場合の ユーザインターフェイスの切り替え情報の提 供が考えられる。 以上から、この時期に、デジタル情報家電 のネットワーク化の基礎技術が整い、それに あわせて白物家電や環境家電が IP ネットワ ーク上で利用可能となる。
③ 本格化:ユビキタスネットワークの技術 が整う 2008 年度より、デジタル情報家電は、ユビ キタスネットワークと融合し始めるだろう。 ネットワークについては、装置自身が、個 別のユーザやアプリケーションに必要な機能 を把握(自覚)し、装置同士が必要な情報を 交換することで、自らネットワークの設定や 構成を更新する自律分散ネットワーク(アド ホックネットワーク)が実用レベルに達して いるだろう。 アプリケーションについては、電子タグ技 術が、この時期までにパソコンを中心とする システムの中で実用化されていることが予想 され、そこで成熟した技術がデジタル情報家 電のシステムの中で利用されるようになるで あろう。たとえば、洗濯機が衣類に付与され る電子タグの情報を読み込み、外部情報サー ビスを参照することで、生地や色に適したプ ロフェッショナルな仕上がりを実現すること が考えられる。 さらに、場所や時間、環境、人の嗜好など といったコンテクスト情報によって、その場の 状況に最適なサービスを提供するコンテクス トアウェアアプリケーションが実用化される。 以上、デジタル情報家電のネットワーク化 の進化について、3 段階のロードマップを示 した。デジタル情報家電のネットワーク化は、 数多くの標準化団体が、それぞれの最終的な 目標と、その時々で実用可能で認知された技 術を照らし合わせながら、最適な技術を選択 することで、着々と整備されていく。 ・DVDレコーダに録画した番組をPCで再生可能 ・もう1台E500Hがあれば、LAN経由で他のE500Hに録画した 番組の再生可能 ※NECのAX300(DVDレコーダ)や米TiVoの製品でも同様のこ とが可能
・Digital Living Network Alliance(DLNA、旧Digital Home Working Group)のガイドラインに準拠 (家庭用普及機としては業界初) ◇バッファローのLinkStation(メディアプレイヤ) ・PCのメディアコンテンツをA/V機器で閲覧する LAN ◇松下電器 DIGA DMR-E500H(DVDレコーダ) LAN
Media Center対応PC Media Center Extender対応A/V機器 AirMac Express メディアコンテンツの配信 音楽コンテンツの配信 メディアコンテンツの配信 メディアコンテンツの配信 ◇アップルコンピュータのAirMacExpress(無線LAN機器) ・PC内の音楽ソフト(iTunes)とステレオを接続
◇マイクロソフトのWindows Media Center Extender
・ PCやインターネットのメディアコンテンツをA/V機器で閲覧 ◇フィリップスのStreamium製品(テレビ、ステレオ) 映像コンテンツの配信(DLNA準拠) 映像コンテンツの配信 (DLNA準拠) インターネット インターネット ・インターネットのメディアコンテンツを直接視聴 LAN LinkStation UPnP DIGA UPnP LAN 図 7 A/V ネットワークの製品例
4. 注目技術の動向 (1) A/V ネットワークから始まる デジタル情報家電のネットワーク化 パソコンのマルチメディア対応が浸透し、 音楽やテレビ放送をパソコンで視聴するスタ イルが定着してきた。そのため、パソコンや インターネットのコンテンツをステレオや大 画面テレビなどの A/V 家電に転送し、視聴 したいというニーズが出てくることは自然な 流れである。デジタル情報家電のネットワー ク化は、A/V ネットワークが牽引する。 ① 製品例 既に A/V ネットワークを実現する製品は 市場に数多く提供されている(図 7 参照)。 ¡ 米アップルコンピュータ社では、パソコン 内の音楽コンテンツをステレオに配信する 無線 LAN 機器を提供。 ¡ バッファロー社は、パソコンで録画したテ レビ番組を、テレビで閲覧できるメディア プレイヤを提供。 ¡ 米マイクロソフト社は、デジタルデバイス とデジタルコンテンツを自然な形で連携さ せる「シームレスコンピューティング」の 実現に向けて技術開発。Windows Media Center 対応パソコンは、映画や写真、音楽 などのデジタルコンテンツを集中的に保存 および管理し、各種デジタル家電にコンテ ンツを配信することが可能。 ¡ 蘭フィリップス社は、インターネットのメ ディアコンテンツを直接視聴する UPnP 対 応のテレビやステレオを提供。 ¡ 松下電器産業は、DVD レコーダで録画し たテレビ番組を、パソコンやもう 1 台の DVD レコーダに配信できる製品を提供。 同様の機能は、米 Tivo や NEC の製品でも 実現できるが、Digital Living Network Alliance(DLNA)の相互接続ガイドライン に準拠した家庭用普及機としては業界初の 製品。
② Digital Living Network Alliance 相互接続 ガイドライン
DLNA は 、旧 Digital Home Working Group(DHWG)として 2003 年 6 月に設立さ れた。HP、インテル、マイクロソフト、ノキ ア、松下電器産業、フィリップス、サムスン 電子、ソニーを設立メンバーとし、現在 179 社(2004 年 9 月末時点)の会員がいる。 DLNA は、本年 6 月に、デジタル情報家電 のオープンな相互接続環境を実現すべく、業 界標準技術に基づいた技術的な製品設計ガイ ドライン「ホーム・ネットワーク・デバイ ス・インターオペラビリティー・ガイドライ ン ver.1.0」を発表した(図 8 参照)。製品例で 紹介した松下電器産業の DVD レコーダのよ うに、このガイドラインに準拠した製品の間 では、デジタルコンテンツを煩わしい操作な しで手軽に楽しめる。 今回策定されたガイドラインは、LAN 環 境におけるメディアサーバとその中のコンテ ンツを再生する機器間の相互接続について定
義している。先に述べたように、デジタル情 報家電の標準化団体の大部分は、それぞれの 最終的な目標と、その時々で実用可能な技術 を照らし合わせながら、最適な技術を選択す ることに重きをおいている。DLNA も同様で あり、この設計ガイドラインは、IP や無線 LAN、UPnP などのように認知された標準技 術を活用する。また、ガイドライン ver.1.0 で は音楽、写真、ビデオの必須メディアフォー マットを規定している。今後は、屋外からの 接続技術や新たなメディアフォーマットの追 加が予定される。 DLNA は、設立から 1 年で最初の相互接続 ガイドラインを発表し、1 年半で認定製品の 提供開始と、非常に展開が速く、既に実用化 段階に入っている数少ない標準化団体であ る。今後、注目すべき標準化団体の1 つである。 (2) コンテンツ視聴の高度化 ① 高度化の必要性 ネットワーク技術が整備されデジタル情報 家電が実用化されたとき、始めて表面化して くる課題もある。本稿で注目したのがデジタ ル情報家電の普及がもたらす HDD に保存さ
【 Home Networked Device Interoperability Guidelines v1.0(2004年6月発表)】
Digital Rights Management /Content Protection メディアフォーマット メディア転送 デバイス検出と制御 ネットワークプロトコル 物理ネットワーク DLNAで検討中 DRM/CP技術 DLNAメディアフォーマット DLNA技術候補 必須:JPEG, LPCM, MPEG2
オプションナル:PNG, GIF, TIFF, MP3, WMA9, AC-9, AAC, ATRAC3plus, MPEG1, MPEG4, WMV9
HTTP [デバイスごと] UPnP A/V v1 [ベース] UPnP Arch v1 IPv4 Ethernet IEEE802.11a/b/g DRM/CP Interoperability JPEG2K MPEG4 UPnP Arch v2 IPv6 IEEE802.11e/i Future Potential Technologies 2004 2005 2006+
図 8 DLNA 相互接続ガイドライン
れるコンテンツの急増である。実際に生活者 向け製品では、個人が所有する HDD 容量は 1 テラバイトが目前である(図 9 参照)。企業で も、セミナービデオや製造工程学習ビデオな どの e ラーニング、企業代表者から従業員に 向けたスピーチ、財務広報や商品宣伝などの 企業 PR、IP カメラで撮影したデジタル画像 といったように映像コンテンツを扱う機会が 急増し、取り扱うコンテンツの総容量は 1 テ ラバイトを超えていくだろう。そこで、1 テ ラバイト以上のデータの中から、希望するコ ンテンツやシーン、内容を短時間で特定およ び閲覧するためのコンテンツ視聴の高度化に 関する技術が必要となる。 ② コンテンツ視聴のスタイル コンテンツを視聴するスタイルは、大まか に「頭だし視聴」と「ダイジェスト視聴」に大 別できる。 頭だし視聴とは、希望する特定の“コンテ ンツ”や“シーン”を検出し、見始めることが できる視聴スタイルである。特定のコンテン ツやシーンを何回も確認したりするときに有 効である。 一方、ダイジェスト視聴とは、希望する特 定の“内容”を検出し、長時間のコンテンツ を短時間に要約して視聴するスタイルであ る。コンテンツの概略を短時間で把握すると きに有効である。 この 2 つの視聴スタイルは共に、音や映像 の特徴をトリガーにして、コンテンツの中か らその特徴にマッチする部分を抽出する検索 技術の利用が基本となっている。トリガーと なる検索キーには次のものが考えられる。 450 400 400 350 300 300 250 250 200 150 160 100 120 100 50 80 60 30 40 40 5 10 20 40 60 120 160 250 80 30 40 30 12 20 0 2000年 1月 2000年 7月 2001年 1月 2001年 7月 2002年 1月 2002年 7月 2003年 1月 2003年 7月 2004年 1月 2004年 7月 [GB] ノートPC(NEC) デスクトップPC(NEC) iPod HDD内蔵DVD(松下) 図 9 製品別 HDD 容量の推移 (出所:各メーカーのプレスリリースより作成)
¡曲名 ¡テロップ/スライド ¡顔の画像 ¡音声(文章化されたもの/声紋) ¡物体の形状 ¡音の強弱(曲調/音声/効果音など) ¡人や物体の動き(激しさ/停止など) ¡時刻/時間 通常は、人手を煩わせないために、各種特 徴は自動的に認識および検出される。さらに、 検索キーとして利用するために自動的にメタ データ化される。メタデータは、検索だけでな く、コンテンツのカテゴライズにも利用できる。 ③ 自動認識と検索機能の事例 デジタルコンテンツの検索キーは、内容の 複雑さによって実現の困難さに差がある。し かし、既に実用レベルに達しているものもあ るので紹介する。 ¡曲名の検索 英グレースノートは、音楽の波形特性の分 析によって、楽曲を検索する技術を開発。 既に、携帯電話などの音声受信が可能な端 末に曲を聴かせるだけで、曲名や演奏者や 作曲者などの情報を教えてくれるサービス を提供している。このサービスは、曲や写 真、ビデオといった大容量コンテンツのダ ウンロードサービスへ の展開も可能である。 ¡テキストおよびテロップの自動検出 パイオニアは、ニュース番組の冒頭テロッ プを自動検出し、テロップごとに関連映像 を分類する技術を開発。ユーザは、興味を 持ったトピックの映像のみを閲覧できる。 ¡顔画像の自動認識とトラッキング 顔画像認識ソフトウェアのリーディングカ ンパニーの 1 つである米ニブンビジョン は、動画の中からでも顔認識を検出するこ とができる。さらに、鼻や口、眉毛など、 顔の各部位も認識し、その動きをリアルタ イムに追跡することも可能とする。この技 術は、既にボーダフォンの携帯電話の 1 つ のアプリケーションである「ムービー変装」 に採用されている。 ¡顔画像からの検索 NEC は、人物の顔画像を検索キーとし、 映像中からその人物が登場するシーンを 検出するシステムを開発している。たとえ ば、携帯電話で撮った顔写真を検索キーと することもできる。映像コンテンツの中の 顔の特徴をメタデータ化することによっ て実現している。通常のパソコンで 24 時 間の映像の中から、特定の顔を 1 秒で検索 することが可能。同技術は、映像中の登場 人物を自動的に探し出す技術として、マル チメディアコンテンツの内容記述方式の 国際標準規格 MPEG-7 に採用が決定して いる。 ¡映像とテキストの自動マッピング NEC は、音声認識技術を活用して文章化さ れる映像内の音声と、その映像に関する議 事録やプレゼンテーション資料などのテキ
ストコンテンツを自動的にマッピングする 技術を開発。既に、議会映像検索システム として応用しており、テキスト検索で希望 の場面の議会映像や議事録を短時間で容易 に再生することを可能としている。 ¡物体の形状の認識 米ニブンビジョンは、カメラで撮影したオ ブジェクトの画像を元に、物体の形状やそ の動き、向きを認識する技術を開発。たと えば、空港などでの安全検査で特定の形状 の物体を危険物として検出することに利用 できる。 ¡曲調による曲のカテゴライズ パイオニアの HDD カーナビの音楽プレー ヤ機能は、CD から HDD への録音時にキー やビート、コード、音圧などから「明るい、 ノリがいい、静か、悲しい、癒し」といった 曲調を自動検出し、メタデータ化する。こ れによって、ユーザはフィーリングにあう 曲だけを聴くことができる。 ¡ 音や映像の特徴からダイジェスト映像の作 成 NTT や KDDI は、音の強弱や、人や物体の 動きの特徴を検索キーとしてダイジェスト 映像を作成するシステムを開発。たとえば、 サッカービデオの中で、歓声が大きく盛り上 がっている部分の要約映像や、シュートシー ンだけを抽出した要約映像が作成できる。 ¡タイムスタンプをキーとする頭だし視聴 NTT ドコモが開発している地上デジタル 放送対応携帯電話は、お気に入りのシーン にタイムスタンプを付けることができる。 さらに、同じコンテンツを持っている人に、こ の情報をメールなどで送付すると、同じシ ーンから視聴することができるようになる。 ④ コンテンツ視聴技術の方向性 コンテンツ視聴技術の進化の様子を、デジ タル情報家電のネットワーク化の実用化ロー ドマップ(図 6 参照)の下部に示す。検索技術 を利用する頭だし視聴やダイジェスト視聴の 高度化は大きく 2 段階に大別できる。 まず、2006 年度までに、音の強弱や、顔や 物体の形状など、比較的単純な自動認識技術 によって得られる検索キーに基づく視聴が実 用化される。 その後に、2008 年度までに、音声の文章化 や声紋、人や物体の動きなど、比較的複雑な 自動認識技術によって得られる検索キーに基 づく視聴が実用化される。 (3) 機器間の柔軟な接続を実現する SIP デジタル情報家電を巨大なインターネット 上で利用する場合、機器間を接続する技術が 重要であり、SIP(Session Initiation Pro-tocol) という新技術が注目されている。SIPは、イン ターネット技 術 の 標 準 化 組 織 で あ る I E T F (Internet Engineering Task Force)で標準 化されているため、Web などインターネット上 で提供されるサービスと相性がよい。実際に、 SIP は、IP 電話機を接続する標準的プロトコ ルの第一候補であり、既に国内外の多くの製
品やサービスで採用されている。 SIP を利用することで、デバイス同士を接 続するとき、別のシステムと連携して、認 証/暗号通信/ QoS を利用するためのネッ トワーク設定などを自動的に実行することが 可能になる。たとえば、NTT が開発している ネットワーク家電の接続プロトコル「m2m-x」 (mono 2 mono for x)は SIP をベースとして
おり、機器間の接続時に、アクセス管理/ファ イアウォール/暗号通信といったセキュリテ ィ機能をオートマチックに設定できる。 SIP には、もう 1 つ重要な機能がある。ユ ーザや機器間の状態を交換する「プレゼンス 機能」である。 プレゼンス機能を IP 電話に利用する場合、 コミュニケーションを始める前に相手の状態 を確認することで、適切なコミュニケーショ ンを行うことができるようになる。たとえば、 相手の置かれている状況(在席、外出中、移 動中など)を確認し、相手が一番利用しやす い方式(IP 電話、携帯電話、ボイスメールな ど)へ発信することが可能となる。 デジタル情報家電の場合は、機器の状態通 知に利用される。デジタル情報家電は、基本 的にコンピュータであり、ソフトウェアによ って制御される。よって、バグ対応やセキュ リティ対策などでソフトウェアの更新がどう しても発生し得る。しかし、これらは利用者 からは気が付き難いことであり、たとえ、気 が付いたとしても利用者の手を煩わせること は避けたい。そのために、デジタル情報家電 から、メーカーなどのサポートセンターに自 動的に状態を通知する仕組みに SIP プレゼン スが使われる。これによって、機器が故障し た場合、自動的にメーカーの管理システムに 通知し、利用者が気付く前に、ソフトウェア コピー機 DVDレコーダ インターネット プレゼンス トナー交換 ソフトウェアの 自動アップグレード オンサイトサポート 【デジタル情報家電とSIPプレゼンス機能の連携】 機器の状態通知にSIPプレゼンスを利用 プレゼンス 故障 図 10 機器の管理やサポート、メンテナンス
プログラムの更新による自動修理や、必要な らばオンサイトサポートが可能となる(図 10 参照)。 また、このような状態通知機能は、コピー 機のトナー交換など、消耗品の自動発注とい った利用者の意向を先取りするようなサービ スにも展開できる。 5.企業向けサービスにおけるデジタル 情報家電のコンテンツ視聴技術の提案 (1) IT 技術の成長は生活者向け市場から ブロードバンドの普及が始まった 2000 年 以降、IT 技術の成長の構造に変化が生じた。 1990 年代、IT 技術は、最初に企業向け市 場で普及し、その後に生活者向け市場で普及 するような構造になっていた。たとえば、電 子メールや Web アクセスなど、初期のイン ターネットアプリケーションが相当する。 しかし、2000 年以降その構造が逆転した。 IT 技術は、家庭向け市場で普及し、その後に 企業向け市場で普及するようになった。たと えば、携帯電話インターネット、ブロードバ ンド、無線 LAN、IP 電話などが相当する(こ れらの技術は、最初は企業向けに開発された が、その利用は伸びなかった)。生活者の方が 企業よりも高度な IT 技術を先に利用するよ うになったのだ。 この現象は、インターネットに接続するため の回線速度が大きく影響したと考えられる。 1990 年代のインターネット接続の回線速 度は、企業側は 64k ∼ 1.5Mbps であったのに 対して、生活者側は 64kbps 以下であった。つ まり、企業側は快適な環境で、生活者側はス トレスがたまる環境であった。 一方、2000 年以降は、企業側が 0.5M ∼ 10Mbps であるのに対して、生活者側はブロ 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 2000年 (12月末) 2001年 (12月末) 2002年 (12月末) 26.0% (世帯利用率) 79.1% (利用率) 96.1% (利用率) 2003年 (9月末時点) BB加入者数 インターネット利用企業数 インターネット利用事業所数 利用サイト数の逆転 利用サイト数の逆転 [万] 図 11 企業および事業所のインターネット利用と、家庭のブロードバンド利用の比較 (出所:総務省)
ードバンドの普及によって、1M∼100Mbps に なった。つまり、企業側はストレスがたまる 環境で、生活者側が快適な環境になったのだ。 回線速度の向上は、ただ通信環境を快適に するだけではない。IP 電話やインターネット 放送など大容量の帯域を必要とするアプリケ ーションが利用できるようになる。つまり、 アプリケーションに対する発想が変わり、新 しい IT 技術にもチャレンジすることができ るようになるのだ。 また、IT 技術の成長は、利用実績に大きく 依存する。利用されるサイト数やユーザ数が 多い方が速く成長する。現在、インターネッ トを利用する企業および事業所の数は、ブロ ードバンドを利用する家庭の数よりも少な く、2001 年から 2002 年の間で逆転している (図 11 参照)。つまり、新しい IT 技術をチャ レンジできるフィールドは生活者向け市場の 方が多いことになる。 また、企業は利用する IT 技術やサービス に対して、安全や確実という信頼性を要求す る。そのため、新しい IT 技術やサービスの利 用は慎重になる傾向が強い。 以上のようなことが要因となり、今後、IT 技術は、まず生活者向け市場で実用が始まり、 実績が積まれ、企業向け市場で利用されると いう流れになるだろう。よって、企業で普及 が予想される IT 技術を見つけ出すには、既 に市場が立ち上がっているブロードバンドと 携帯電話に加えて、次はデジタル情報家電が 有力であると予想される。 (2) 事例紹介 デジタル情報家電は、生活者側でも最近普 及し始めたばかりであり、企業での利用事例 は非常に少ない。しかし、最近 IP カメラや IP テレビ電話を利用する事例が出てきたので紹 介する。 【三井住友銀行IPカメラで1200拠点を遠隔集中監視】 ・デジタル画像をデータセンターのストレージ(1ペタバイト以上)に一括保存、管理 ・店舗ごとのビデオテープ交換など保守、システム維持、更新費用で、数億円の削減を見込む ストレージ 1ペタバイト VPN 装置 VPN 装置 VPN 装置 企業ネット インターネット VPN デジタル画像配信 店舗(全国400拠点) データセンター (ソニー) ATMコーナー(全国800拠点) 図 12 IP カメラの利用事例
① IP カメラ 本年より、三井住友銀行が防犯カメラに IP カメラを採用した(図 12 参照)。全国 1200 か 所の店舗や ATM コーナーに IP カメラを設 置し、店舗で撮影されるデジタル画像をデー タセンタへリアルタイム配信し、遠隔集中管 理する。ビデオテープ交換など従業員の作業 負担がなくなるほか、システム維持、更新費 用も数億円削減される。 同様の IP カメラの利用が企業向けサービ スで増えており、建設現場や駐車場などでも 利用されている。 ② IP テレビ電話 世界最大手のネットワーク関連機器メーカ ーである米シスコシステムズ社は、企業向け IP 電話の分野でも最大手になり、「カラーデ ィスプレイ」と「タッチパネル機能」がついた IP テレビ電話のソリューションも積極的に 展開している(図 13 参照)。たとえば、ポーラ ンドのシェラトンクラクワホテルでは、232 の客室すべてに、シスコ製の IP テレビ電話機 を設置し、次のようなカスタマサービスを提 供している。 図 13 IP テレビ電話の利用事例 (出所:シスコシステムズ) ・カラーディスプレイ ・タッチパネル機能 ¡ 電子メールやボイスメール ¡ ホテルから送信されるテキストメッセージ の閲覧 ¡ 電話やミニバーなどの勘定チェックや、会 議室など設備の予約 ¡ ホテル施設案内、両替率、市内案内、天気 予報など、ホテルが提供する情提コンテン ツの配信 「カラーディスプレイ」と「タッチパネル機能」 がついた IP テレビ電話は、ホテル、店舗、倉 庫、工場、無菌実験室など、一般にパソコンを 利用するのが困難な環境からでも、業務アプ リケーションやコンテンツ配信を利用できる。 (3) エンタープライズコンテンツに対する デジタル情報家電技術の適用 デジタル情報家電の技術を企業向けサービ スへ利用することとして、エンタープライズ コンテンツへの展開を提案する(図 14 参照)。 現在、企業では映像コンテンツをパソコン で閲覧することは一般的になっている。これ は通常 1 人での利用となるが、集合研修など 1 人でなく集団で閲覧することや、工場のラ インなどパソコンを設置できない場所で閲覧 することもあるはずだ。BtoC サービスに利 用する場合、顧客はリビングの大画面テレビ で映像コンテンツを閲覧することを望むこと もあるだろう。そこで、A/V 家電を中心にデ ジタル情報家電はエンタープライズコンテン ツの新たな配信チャネルとして期待される。 エンタープライズコンテンツは、次の 5 つ
を想定する。 ¡ セミナービデオや製造工程学習ビデオなど e ラーニング ¡ 企業代表者から従業員に向けたスピーチビ デオ ¡財務広報や商品宣伝など企業 PR ビデオ ¡テレビ会議の録画ビデオ ¡IP カメラで撮影したビデオ 検討するデジタル情報家電の技術は次の 4 つである。 ¡A/V 家電 ¡IP テレビ電話 ¡コンテンツ視聴技術 ¡ コンテンツ視聴技術対応のネットワークス トレージサービス A/V 家電と IP テレビ電話はデジタル情報 家電の機器を利用するパターンである。コン テンツ視聴技術は、デジタル情報家電向けの 技術をパソコンで利用するパターンである。 ネットワークストレージは、デジタル情報家 電向けの技術で他社との差別化を図るパター ンである。 ① A/V 家電の利用 ここでは、エンタープライズコンテンツを A/V 家電で視聴することを考える(図 15 参 照)。 現時点で現実的なものは、コンテンツを DVD にコピーして、従業員や顧客に郵送す ることである。DVD プレーヤは「1.デジタル に移行する家電機器」で示したように既に一 般的な A/V 家電であり、DVD 媒体も 1 枚 100 円以下になっている。また、DVD プレー ヤの巻き戻しなどの機能は、パソコンのコン テンツ視聴の機能より優れている。 一 方 、ネ ッ ト ワ ー ク 上 の コ ン テ ン ツ を A/V 家電で視聴する方法は 2 種類ある。1 つ は、コンテンツを LAN 内のパソコンに一度 保存し、パソコンから LAN 上の A/V 家電に コンテンツを配信する方法である。もう 1 つ ①A/V家電 ②IPテレビ電話 ③コンテンツ視聴技術 ・自動認識、メタデータ化 ・検索 ・頭だし、ダイジェスト視聴 ④コンテンツ視聴技術対応 ネットストレージサービス エンタープライズコンテンツ に展開(映像、音声) デジタル情報家電の技術 デジタル情報家電 の利用 ・eラーニング ・スピーチ ・企業PR/IR/商品CM ・社内会議 ・IPカメラ -店舗カメラ -防犯カメラ 他社差別化 PCで利用 図 14 IP カメラの利用事例
は、遠距離のコンテンツサーバから A/V 家 電へ直接コンテンツを配信する方法ある。 デジタル情報家電のネットワーク化の実用 化ロードマップ(図 6 参照)で示したように、 前者の方法は既に実用化レベルに入っている が、後者の方法の実用化は 2007 年頃になるだ ろう。 ② IP テレビ電話の利用 ここでは、エンタープライズコンテンツを IP テレビ電話に配信することを考える(図 16 参照)。 IP テレビ電話は店舗や倉庫、工場、学校、 ホテルなど、パソコンの利用が困難な環境へ、 パソコン用のコンテンツを比較的容易に配信 コンテンツサーバから配信される コンテンツを直接視聴 PCから配信される コンテンツを視聴 現状 ∼ 2005年度 2006年度 ∼ 2007年度 技 術 レ ベ ル DVDを郵送 コンテンツサーバ コンテンツサーバ コンテンツの ネット配信 コンテンツの ネット配信 郵送 PCに保存 LAN LAN メディア プレーヤ メディア プレーヤ DVDで視聴 コンテンツサーバ コンテンツサーバ コンテンツの ネット配信 コンテンツの ネット配信 LAN リアルタイム通信 LAN LAN 映像コンテンツ の配信 映像コンテンツ の同報配信 タッチパネル用 業務アプリ (XML) 企業PR/IR/商品CMなど 警告情報、商品CMなど 店舗/倉庫/運輸/製造/自治体/学校/ホテルなど 業務アプリ(XML) タッチパネル 企業ネット インターネットVPN 工場・支店 店舗 家 本社データセンター 工場・支店 店舗 図 15 A/V 家電によるエンタープライズコンテンツの視聴 図 16 IP テレビ電話によるエンタープライズコンテンツの視聴
できる。そして、IP テレビ電話は、基本仕様 として、カラーディスプレイを備えているの で、販売店舗の店員へ、新商品を説明する場 合、詳細なイメージが伝わりやすい。また、 自治体など公共機関では、コンテンツの同報 配信機能によって、環境災害時など警告情報 や行方不明者の探索にも利用可能である。 さらに、IP テレビ電話のタッチパネル機能 に対応する業務アプリケーションを組み合わ せることで、インタラクティブなリアルタイ ム通信が実現できる。通信機能付きの PDA で業務アプリケーションを利用することがた びたび検討されるが、IP テレビ電話はその代 案になる。 ③ コンテンツ視聴技術の利用 ここでは、エンタープライズコンテンツをパ ソコンで視聴するときに、頭だし視聴やダイ ジェスト視聴の技術を利用することを考える。 コンテンツ別に必要となる検索キーを検討 した(図 17 参照)。デジタル情報家電のネッ トワーク化の実用化ロードマップ(図 6 参照) で示したように、顔、テロップ/スライド、物 体の形状、時刻/時間/タイムスタンプ、音の 強弱といった単純な認識技術に基づく視聴な らば、早期に検討可能である。よって、今回 取り上げたエンタープライズコンテンツに対 しては、既に頭だし視聴やダイジェスト視聴 を検討できる段階にある。 ④ ネットワークストレージサービス 今後、映像コンテンツなど大容量のデータ を保存するストレージサービスが次々と出て くることが予想される。しかし、単にデータ を保存するだけのサービスであるならば、価 格競争になりがちである。競合他社のサービ スと差別化する付加価値が必要となる。そこ で、頭だし視聴やダイジェスト視聴に対応し たネットワークストレージサービスによっ て、他者との差別化を図ることを検討する。 これを実現するために必要な機能は、コン テンツがネットワーク上のストレージにコピ ーされるとき、コンテンツの音や映像の特徴 を自動的に認識および検出し、メタデータ化 検索キー (メタデータ) コンテンツ 顔 テロップ スライド (PPT) 音声 物体の 形状 時刻 時間 タイム スタンプ 音の 強弱 ヒトや物 体の動き 声紋 文章 eラーニング ○ ○ ○ ○ ー ○ ○ △ スピーチ ○ ○ ○ ○ ー ○ ○ △ 企業PR/IR/商品CM ○ ○ ○ ー ○ ○ △ 社内会議 IP カメラ ○ ○ ○ ○ ー ○ ○ △ 店舗カメラ ー ー ー ー ○ ○ ー ○ 防犯カメラ ○ ー ー ー ○ ○ ー ○ 図 17 コンテンツに適用可能な検索キー
することである(図 18 参照)。この機能をネ ットワークストレージサービスに採用するこ とで、ユーザは各種検索キーに基づく頭だし 視聴やダイジェスト視聴が可能となる。 また、ユーザが個別に設定するタイムスタ ンプなどの検索キーを、メールやホームペー ジなどで、他のユーザに伝えることで、映像 の特定シーンの共有も可能となる。さらに、 このとき、検索キーのほかにコメントをつけ てネットワークに配信するようなシステムを 構築することで、映像コンテンツのブログサ ービスの提供も可能となる。 (4) 適用における課題 前節で、エンタープライズコンテンツに対 するデジタル情報家電の技術の適用を提案し た。しかし、利用する技術は、生活向けに開 発されているため、企業向けに展開する場合、 安全や確実という信頼性の要求に対する課題 を補足しなければならない。以下の内容が検 討項目として挙げられる。 ① 製品の選定と導入手順の計画 市販品を利用する場合、同類の製品であっ ても、相互接続性が保てないことがあり、製 品の選定には注意が必要である。たとえば、 D V D 媒 体 は 、メ ー カ に よ っ て 利 用 可 能 な DVD プレーヤを制限する場合もあるので注 意が必要である。 また、ネットワーク上でコンテンツを配信 する場合、受信機によって視聴できるコンテ ンツのメディアフォーマットが異なる場合も ある。 IPカメラなどは、個人が勝手にネットワーク に接続してしまい、正規に導入した IP カメラ のシステムに悪影響を及ぼす可能性もあり、 導入手順や運用ルールの計画が必要である。 エンタープライズコンテンツ (映像、音声) ネットワークストレージ 自動メタデータ作成 ユーザ同士で情報共有 ブログサービス 企業ネット インターネットVPN 頭だし視聴 ダイジェスト視聴 タイムスタンプ作成 コメント記述 図 18 コンテンツ視聴技術に対応したネットワークストレージサービス
② 画質、音質 コンテンツは、配信先が従業員なのか、顧 客サービスであるかによって、要求される品 質は異なる。一般的に顧客サービス向けの場 合は高い品質が要求される。そのため、コン テンツのメディアフォーマットの選択や、配 信ネットワークの設計に十分な検討が必要で ある。 ③ 停電対策、システムの冗長化 デジタル情報家電は、当然ながら電気で作 動するため、停電があると機器は停止してし まう。IP カメラは、防犯カメラなど停止が許 されない用途で利用することもあり、停電時 でも作動するような対策が別途必要となる。 また、停電だけではなく断線など突然の障 害に対応するためにシステムの二重化が必要 であるか検討すべきである。 ④ 保守管理の有無 デジタル情報家電を利用するシステムも信 頼性を要求する場合、保守管理が発生するこ ともある。保守メニューを作成すべきである。 6.終わりに 以上、デジタル情報家電のネットワーク化の 実用化ロードマップ、注目技術の動向、企業向 けサービスにおけるデジタル情報家電のコン テンツ視聴技術の提案とその課題について述 べた。 全体を通じて、デジタル情報家電のネット ワーク化は、パソコンやインターネットで成 熟した技術や先進的な技術、特に生活者向け サービスの技術を取り込みながら段階的に進 むということがポイントである。それゆえ、 当面、デジタル情報家電のネットワーク化の 開発やサービスの提供には、パソコンやイン ターネットの技術の獲得が必要となる。たと えば、セキュリティや Web コンピューティ ングのミドルウェアといった技術は、現在の デジタル情報家電ではあまり必要とされない 技術であるが、デジタル情報家電によるイン ターネット上で情報のやり取りが頻繁に行わ れるようになったときには、このような専門 技術の獲得が必要となるだろう。また、デジ タル情報家電を企業向けにサービス展開する 場合、安全や確実という信頼性を確保するこ とが必要となる。この点においても、パソコ ンやインターネットのサービスから学ぶ点は 多い。デジタル情報家電とパソコンやインタ ーネットは別々の世界ではなく、今後、ます ます結びつきが強くなっていく。そして、既 存のパソコンやインターネットの技術を保有 している企業との積極的なパートナリング戦 略が実施されるだろう。 デジタル情報家電のネットワーク化は、現 時点では、屋内 LAN 上でのパソコンと A/V 家電の連携が中心であるが、その範囲はイン ターネットへと広がり、連携する機器もパソ コンに加えてデジタル情報家電同士へと広が る。携帯電話がインターネットに接続される ことによって、電子メールや Web アクセス
など通話以外の目的にも使われるようになっ たのと同様に、デジタル情報家電も、常にイ ンターネットに接続されるようになると思い がけない使い方が生み出されるに違いない。 デジタル情報家電のネットワーク化が数年の うちに新たな展開を見せるのは間違いない。 ●参考文献● [1]Philips の Streamium ホームページ http://www.streamium.com/
[2]Digital Living Network Alliance ホー ムページ
http://www.dlna.org/home/
[3]パイオニア技術情報誌「PIONEER R&D Vol.14 No.1」2004 年 4 月発行 [4]NEC 技術論文誌「NEC 技報 Vol.57
No.3」2004 年 6 月発行 [5]NTT サイバーコミュニケーション総 合研究所ホームページ http://www.ntt.co.jp/cclab/ [6]KDDI 研究所ホームページ http://www.kddilabs.jp/ [7]Cisco Systems ホームページ http://www.cisco.com/