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脳 -分子・遺伝子・生理- (立ち読み)

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Academic year: 2021

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by

S

HOICHI

I

SHIURA

Brain and Neural Functions

N

OBORU

S

ASAGAWA

E

UGENE

F

UTAI 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。 本作品の全部または一部について、権利者に無断で、複製、公 衆送信、出版、貸与、翻訳、翻案および改編するなど、本作品 の権利を侵害する方法で利用することを禁止します。 電子書籍の不正コピーは法律により罰せられます。

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1.1 ヒトの脳■

 

脳の構造

 私たち人間の高次機能をつかさどる脳は,複雑な器官である.しかしなが ら,この脳の中に存在する神経細胞の動きを視覚化する技術も発展し,病気 の診断だけでなく,人間の意思決定のメカニズムも明らかになろうとしてい る.1 章では,脳の解剖から画像解析までを概観する.  1.1 ヒトの脳  ヒトの中枢神経系は,大きく分けて脳と脊髄に分類される.脳は,大脳, 小脳,中脳,間脳,橋,延髄に分類される.これ以外の神経を末梢神経とい う.末梢神経には,体性神経系と自律神経系があり,前者は感覚器から中枢 へ興奮を伝達する感覚神経と中枢から効果器へ興奮を伝達する運動神経に分 類される.また後者の自律神経には,交感神経と副交感神経がある.  大脳は,皮質とその奥にある大脳基底核,大脳辺縁系(海馬,扁桃など) に分類できる.大脳皮質は,中心溝と外側溝(シルビウス溝)によって分断 され,前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉に分かれている(図 1.1).理性や判 断は前頭葉,聴覚中枢は側頭葉,視覚中枢は後頭葉にある.大脳皮質は,厚 さ 2 ~ 3mm であり,そこには神経細胞が 6 層になって分布している.その 下の大脳白質は神経繊維の集まりで,左右の大脳皮質をつなぐもの,同側の 皮質内をつなぐもの,脳幹や脊髄につながるものなどがある.大脳基底核は, 大脳半球底部の白質の中に埋もれている灰白質の集団で,尾状核,被核,淡 蒼球などがあり,これらは一括して線条体と呼ばれる.海馬は記憶の一時的 な保存場所で,CA1 - CA4,歯状回などからできている.扁桃は情動との 関係が深い.  小脳は,大脳皮質や脊髄とつながり,運動を統合し姿勢を維持するはたら

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■1 章 脳の構造 は,多数の神経核が集積していて視覚 ・ 聴覚情報などを大脳皮質に伝える通 路となっている視床や,自律神経の中枢でありホルモン分泌も行う視床下部 から成り立っている.橋には,神経伝達物質であるノルアドレナリンを分泌 する神経の集団である青斑核や,セロトニン分泌神経が集まった縫線核があ る.延髄には,呼吸や心臓拍動の中枢がある.脊髄では,脳とは逆に,灰白 質は内側に,白質は外側に存在している.  大脳表面は,ブロードマンによって 52 か所の領域に分けられ,脳地図が つくられた(図 1.2).これは,丸く出っぱっているところに回,へこんでい 中心溝 一次運動野 A) B) 半球間溝 前頭葉 前頭葉 頭頂葉 頭頂葉 後頭葉 後頭葉 側頭葉 一次聴覚野 シルビウス溝 前頭連合野 一次体性感覚野 一次視覚野 一次運動野 中心溝 一次体性感覚野 頭頂・側頭・ 後頭連合野 一次視覚野 前 後 前 後 図 1.1 大脳皮質 上(A)および左横(B)から見た図.

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るところに溝という名をつけて領域化したもので,ほぼ機能部位に対応して いるものの番号の順や大きさに意味はない.たとえば聴覚野は 22 野,視覚 野は 17,18 野などと呼ばれており,通常使用するには便利であることは確 かである.興味深いことに,ヒトのヒトたる所以である言語の獲得に関係す る部分として,左のブローカ野(44,45)や左のウェルニッケ野(39,40 野) が同定されているが,左右対称ではないのは言語野のみである.  1.2 神経細胞(ニューロン)  脳には,一千億個の神経細胞があるといわれている.また,個々の神経細 胞の発火の大きさはほぼ一定であるが,発火の頻度が異なっている.典型的 な神経細胞を図 1.3に示す.神経の特徴は,1 つの細胞でありながら方向性 があるということで,丸い細胞体と軸索と呼ばれる長い突起をもっている. 細胞体の核でつくられた物質が軸索を通って運ばれていき,末端から分泌さ れる.とくに神経伝達物質と呼ばれる化合物によって,隣接した細胞との間 にシグナルが伝達される.また神経細胞には,他の神経からのシグナルを受 け取る樹状突起がある.神経細胞の形もさまざまで,樹状突起を無数の木の 45 44 22 40 18 17 44 39 10 11 9 8 6 4 3 1 2 5 7a 7b 19 18 19 46 38 47 20 37 43 52 41 21 42 図 1.2 ブロードマンの脳地図 (Kandel, E. R. et al., 1995 を参考に改変) 1.2 神経細胞(ニューロン)■

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■2 章 アミノ酸・タンパク質・DNA

 

アミノ酸・タンパク質・DNA

 脳の成り立ちを理解するために,まず,脳細胞(神経細胞)を構成する主 要成分を見てみよう.実は,神経細胞の組成は,体の他の組織の細胞とあ まり変わらない.表 2.1は,一般的な細胞内の分子組成をあらわしたもので あるが,水が 70 ~ 80%を占め,他の主要成分として,タンパク質,脂質, 核酸,糖とつづく.では,脳で特徴的な構造に由来する成分は何だろうか?  マウスなどで脳の解剖を経験したことがある人は,その組織が白色である ことを記憶していると思う.これは髄質の色である(神経細胞体が多いのは 皮質の部分で色も灰色である).髄質とは,神経繊維が集まっているところ で,グリア細胞(オリゴデンドロサイト)から形成され,神経細胞(ニュー ロン)を何重にも取り巻き絶縁することにより,迅速な電気信号の伝導を可 能にしている.その構成成分は,細胞膜からなることからその組成に似てお り,70% が脂質,30%がタンパク質からなり,脂質に富んでいる.本章では, 核酸(DNA,RNA),アミノ酸,そしてタンパク質を中心に,神経細胞(ニュー ロンとグリア細胞)の成り立ちを解説する. 表 2.1 哺乳類細胞の構成成分 重量(%) 水    70 タンパク質    18 DNA     0.25 RNA     1.1 多糖     2 脂質     5 低分子代謝産物     3 無機イオン     1 (Alberts, B. et al., 2008 より )

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2.1 タンパク質とアミノ酸■  2.1 タンパク質とアミノ酸  タンパク質は,20 種類のアミノ酸がペプチド結合でつながった長い分子 である.ヒトをはじめ哺乳類がもっているほとんどすべてのタンパク質は, L 型のアミノ酸から構成されている.それぞれのアミノ酸は,異なる側鎖を もち,疎水性,親水性(細胞内の中性 pH 付近ではアミノ基 NH3+やカルボ キシ基 COO-のように電荷を帯びる残基を含む)など,その異なる性質が タンパク質の構造と機能に大きく関与している(図 2.1 A,B).タンパク質 表面の電荷は,そのタンパク質の性状に大きな影響を与える.たとえば,酵 素反応において重要なはたらきを果たすし,後に述べるイオンチャネルが選 択的透過性を生み出すのも,チャネルの孔にこれらの側鎖が適切に並んでい るからである.  タンパク質の構造を決定するアミノ酸の配列情報は,多段階で捉えられ る.すなわち,タンパク質内のアミノ酸の並び(一次構造)は,核酸(DNA) の配列によって指定されている.一次構造に従ってペプチド結合でつながれ たアミノ酸はランダムな線状の分子として存在するのではなく,ほとんどの 場合,規則的に配置されたアミノ酸は高次な構造をとり,β シート構造や α ヘリックス構造などの二次構造を取る.アミノ酸側鎖の相互作用,すなわち 二次構造同士の結合により,分子構造はさらに三次元的に変化し,折りたた まれたり丸まったりして,タンパク質全体で三次構造を取る(図 2.1C).さ らに,タンパク質同士がさらに結合(会合)して,二量体(ダイマー)や多 量体(オリゴマー)を形成する場合も多く,これは四次構造と呼ばれる.  それでは,以上のような階層的な構造はどのようにしてできあがるのだろ うか? 表 2.2にタンパク質の高次構造を安定化する非共有結合についてま とめた.これらの結合エネルギーは,アミノ酸側鎖の間で形成されている. ペプチド結合などの共有結合と比べると,静電相互作用(プラス電荷とマイ ナス電荷間の力),水素結合(水素イオンのキャッチボール),疎水結合(疎 水残基間の引力)などは非常に弱いことがわかる.また,原子同士が近づい

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■2 章 アミノ酸・タンパク質・DNA 鉄 β2 α2 α1 β1 ヘム C COOH H R H2N A) :側鎖(種々の基) R :カルボキシ基 COOH :アミノ基 H2N C) ① 一次構造  ポリペプチド鎖のアミノ酸配列 ② 二次構造  (αヘリックス) R R R R R R R R N N N O O O O R O O R N N O N R O O ③ 三次構造  タンパク質の一本鎖の空間的構造  (ヘモグロビンのβ鎖) ④ 四次構造  4 本の鎖が集まってオリゴマータンパク質の  ヘモグロビンを形成 CH3 C C +H3N H OH CH2 N COO- O H C C H O CH2 N H C C H O COO- H N H C H アラニン チロシン アスパラギン酸 グリシン H COOH C H2N R H NH2 C HOOC R L 型 D 型 図 2.1 アミノ酸とタンパク質 A:アミノ酸の D 型と L 型の違い.地球上のタンパク質は細菌の細胞壁などをのぞけば, ほぼすべて L 型のアミノ酸で作られている.B:20 種類のアミノ酸とその略号.C:タ ンパク質の構造の階層性.①一次構造とは,ペプチド結合でつながったアミノ酸配列の こと.②ペプチドの規則的な配置を二次構造といい,代表的なものに,αヘリックス(ら せん状)とβシート(シート状),ループ構造が知られている.③二次構造が組み合わさり, タンパク質一本鎖の立体構造,すなわち三次構造が決定する.④タンパク質によっては, 何個かのタンパク質が集まってタンパク質複合体を形成する場合はその構造を四次構造 と呼ぶ(図は東京大学生命科学教科書編集委員会編『生命科学』, 2009 を参考に作図).

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2.1 タンパク質とアミノ酸■ アスパラギン酸 (Asp/D) C CH2 -O O COO- C +H3N H リシン (Lys/K) CH2 NH3+ CH2 CH2 CH2 COO- C +H3N H アルギニン (Arg/R) C NH CH2 NH2 CH2 CH2 +H2N COO- C +H3N H グルタミン酸 (Glu/E) C CH2 -O O CH2 COO- C +H3N H セリン (Ser/S) OH CH2 COO- C +H3N H アスパラギン (Asn/N) C CH2 O NH2 COO- C +H3N H グルタミン (Gln/Q) C CH2 O CH2 NH2 COO- C +H3N H トレオニン (Thr/T) OH HC CH3 COO- C +H3N H チロシン (Tyr/Y) OH CH2 COO- C +H3N H ヒスチジン (His/H) CH NH+ C CH2 HC HN COO- C +H3N H フェニルアラニン (Phe/F) CH2 COO- C +H3N H トリプトファン (Trp/W) CH2 N H COO- C +H3N H ロイシン (Leu/L) CH H3C CH3 CH2 COO- C +H3N H アラニン (Ala/A) CH3 COO- C +H3N H バリン (Val/V) CH H3C CH3 COO- C +H3N H イソロイシン (Ile/I) CH H3C CH2 CH3 COO- C +H3N H CH2 SH COO- C +H3N H H COO- C +H3N H CH2 CH2 S CH3 COO- C +H3N H CH2 CH2 H2C C H COO- +H3N B)

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■2 章 アミノ酸・タンパク質・DNA に弱いが,タンパク質の構造の安定化には,この分散力が大きく寄与してい ると考えられている.  2.2 イオンチャネル・ポンプ  ニューロンは,細胞外環境に対して負の静止電位を保っており,それを変 えることにより電気信号を伝達することができる.5 章で学ぶように,活性 化状態,すなわち “ 発火(fire)” したニューロンでは,一時的に活動電位が 逆転する.このニューロンの電気信号が,脳の機能を生み出すと言っても過 言ではないだろう.これからは,とくにニューロン間の情報伝達で重要なは たらきをするタンパク質について見ていこう.細胞に電位を維持させること に役立っているのは,第 1 には,神経細胞の膜イオン透過性がイオンによっ て異なることである.たとえば,静止状態では,ほとんどの神経細胞の細胞 膜は高い K+透過性と低い Cl透過性,そして非常にわずかな Naと Ca2 + の透過性をもっている.この膜イオン透過性は,細胞表面に存在する膜貫通 タンパク質;イオンチャネルの数,状態(活性化もしくは不活性化状態), 構造によって決まっている.イオンチャネルは,一般的には 4 ~ 6 つの似た タンパク質(サブユニット)から形成され,中央にイオンの通り道となる孔 (pore)を形づくっている(図 2.2A).サブユニットの構成はチャネルごと に異なり,それが多様な特性を生み出すのに役立っている.イオンチャネル の重要な特性の 1 つは,イオン選択性である.それは,pore の内面に並ぶ 側鎖の性質によって決まると考えられている. 表 2.2 タンパク質の構造と機能に重要な結合エネルギー エネルギー(kJ mol- 1 1. 共有結合(C-C, C-H) 340 ~ 450 2. 非共有結合 静電引力(COO-H3N) ~ 40 ~ 200 水素結合 ~ 2 ~ 20 疎水結合 ~ 3 ~ 10 分散力(Van der Waals 力) ~ 0.4 ~ 4

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