• 検索結果がありません。

症例報告 関西理学 12: 87 93, 2012 右膝関節の疼痛により防御性収縮が強く歩行の実用性を低下させていた右人工膝関節全置換術後の一症例 吉田拓真 1) 山下貴之 1) 石濱崇史 2) Physical Therapy for a Patient who Had Difficulty Wa

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "症例報告 関西理学 12: 87 93, 2012 右膝関節の疼痛により防御性収縮が強く歩行の実用性を低下させていた右人工膝関節全置換術後の一症例 吉田拓真 1) 山下貴之 1) 石濱崇史 2) Physical Therapy for a Patient who Had Difficulty Wa"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

右膝関節の疼痛により防御性収縮が強く

歩行の実用性を低下させていた

右人工膝関節全置換術後の一症例

吉田 拓真

1)

  山下 貴之

1)

  石濱 崇史

2)

Physical Therapy for a Patient who Had Difficulty Walking due to Pain-defense

Contraction of the Right Knee Joint after Total Knee Arthroplasty

Takuma YOSHIDA, RPT

1)

, Takayuki YAMASHITA, RPT

1)

, Takashi ISHIHAMA, RPT

2)

Abstract

We performed physical therapy for a patient who had great difficulty with walking due to pain-defense contraction of the right knee joint after total knee arthroplasty (TKA). This patient had much trouble restoring knee range of motion (ROM), even after TKA, because of a long period of suffering from pain in the right hip joint which limited the ROM. When walking, he could hardly move his knee joint and always showed knee flexion; his right hip joint was bent and his trunk leaned forward. He could not perform internal rotation of the right hip in the right stance phase. Instead, he elevated the left scapula and the left side hip joint and executed external rotation of the right side hip joint. We thought these problems resulted from limitation of ROM of the right knee joint, and we prescribed some exercises for ROM. Subsequently, ROM of the right knee joint and the joint position sense improved a little, but the patient still bent his right knee joint and showed no improvement of walking. After rethinking these problems, we concluded that we should provide therapy considering his habits before TKA. We set the bed in front of his trunk after he leaned against the bed because of relief of muscle hypertonia and position sense of knee joint. We asked the patient to lean against the bed to try and lengthen his hamstring. Subsequently, he showed less, compensatory motion of the trunk and pelvis, and internal rotation of the right hip joint gradually became possible, easing his walking difficulty. We have received the patient’s consent to publication of this report.

Key words: total knee arthroplasty, position sense, muscle hypertonia

J. Kansai Phys. Ther. 12: 87–93, 2012

1) 田辺中央病院 リハビリテーション部 2) 田辺記念病院 リハビリテーション部

受付日 平成24 年 4 月 10 日 受理日 平成 24 年 9 月 21 日

Department of Rehabilitation, Tanabe Central Hospital Department of Rehabilitation, Tanabe Memorial Hospital はじめに 右膝関節の疼痛により防御性収縮が強く、歩行の実用 性が低下していた右人工膝関節全置換術(以下TKA)後 の症例の理学療法を経験した。症例はTKA 後において、 術後の炎症反応による疼痛の防御性収縮だけでなく、術 前からみられていた筋緊張の亢進により、右膝関節は屈 曲位となっていた。そのため関節可動域(以下ROM)の 改善には至らず、歩行の実用性獲得に難渋した。このよ うな症例に対し術後の問題だけでなく、術前から筋緊張 を亢進させている習慣性に対して、理学療法を実施した。 その結果、右膝関節の疼痛およびROM が改善したこと

(2)

88 吉田拓真,他 で筋緊張の亢進が軽減し、歩行の実用性の向上が得られ たので報告する。なお、本論文の作成に際し、趣旨を症 例に説明のうえ了解を得た。 症例紹介 症例は、両変形性膝関節症と診断された50 歳代の男 性である。現病歴は、X-10年から右膝関節の疼痛が強く、 他院にて両変形性膝関節症と診断された。X-2 年に当院 にて右膝関節の骨切り術を施行するが、右膝関節のROM と疼痛の改善には至らず、X年に右TKAを施行した。術 後2日目より理学療法開始となったが、疼痛によりROM の改善が得られず、術後3 週の間に 3 回の授動術を施行 した。理学療法開始にあたり荷重については、医師より 全荷重許可の指示であった。しかし、術後の歩行は疼痛 のため数mの距離でも近位監視が必要であり、病棟内の 移動手段は車椅子移動であった。他の日常生活活動(以 下ADL)は修正自立であった。術前の歩行は、連続歩行 が30分以上になると右膝関節の疼痛が悪化し、徐々に歩 行速度は低下、交通機関に乗り遅れることもあった。症 例の主訴は「体が揺れて上手く歩けない」であり、ニー ドは「歩行動作の安定性、速度、社会に容認される動作 の向上」であった。 理学療法評価(術後 3 週後) 1.姿勢動作観察 1)立位姿勢(図1) 体幹前傾 ・ 左側屈位、腰椎は過度に前弯し骨盤前傾位 であった。左肩甲帯は挙上位、両肩関節は軽度屈曲位、両 肘関節軽度屈曲位であった。両股関節屈曲・外転・外旋 位(右>左)、両膝関節屈曲位(右<左)、左膝関節内反位 を呈していた。また、立位保持は右膝関節の疼痛により、 10分以上は困難であった。 2)歩行動作(図2) 右立脚相では右膝関節の屈曲 ・ 伸展がみられず、右膝 関節屈曲位のままであった。右立脚初期から中期にかけ て、右膝関節の膝蓋骨上部に疼痛を強く訴え、右股関節 は外旋位のままで内旋がみられず、右肩甲帯の伸展とと もに、左肩関節伸展と左肩甲帯挙上 ・ 伸展を同時におこ ない、体幹は左回旋しながら右側屈し、大きく右前側方 へ傾斜した。少し遅れて骨盤左挙上させるとともに、左 足関節底屈して踵離地となった。その後、左膝関節屈曲 位のまま、左股関節屈曲 ・ 外転 ・ 外旋、左足関節背屈し て左下肢を素早く前方に振り出し、左足底が接地する前 に体幹左側屈しながら左挙上位の骨盤が下制して、勢い よく足底から接地して左立脚相へ移行した。この時の右 立脚相では、右股関節の伸展がみられず、屈曲 ・ 外転 ・ 外旋位のままで、振り出された左下肢は右下肢よりも前 方に振り出されることなく歩幅は短縮していた。左立脚 相では膝関節屈曲位から軽度伸展、ほぼ同時に左股関節 は屈曲・外転・外旋位から軽度伸展・内旋、少し遅れて 体幹は軽度左側屈、骨盤は軽度右挙上して、右下肢は股 関節を屈曲 ・ 外転 ・ 外旋位、膝関節屈曲位のまま、右下 肢を前方に振り出していた。歩行中の視線は下方を注視 し、歩行速度は22.5 m/minであった。以上のように、体幹 が左右に傾斜するため(特に右側)、患者は「体が揺れて 図 1 立位姿勢 体幹前傾 ・ 左側屈位、腰椎は過度に前弯し骨盤前傾位で あり、左肩甲帯は挙上位、両肩関節は軽度屈曲位、両肘関 節軽度屈曲位、両股関節屈曲 ・ 外転 ・ 外旋位(右>左)、 両膝関節屈曲位(右<左)、左膝関節内反位を呈していた。 図 2 歩行動作 右立脚初期から中期では、右膝関節は屈曲位のままで右股関節 は内旋がみられず、右肩甲帯を伸展させ、左肩関節伸展と左肩 甲帯挙上・伸展を同時におこない、体幹左回旋・右側屈しながら、 身体を右前側方傾斜させて体重移動をおこなっていた。

(3)

上手く歩けない」と訴え、歩行動作の安定性の低下や社 会に容認されにくい動作方法を認め、歩幅の短縮もあり 速度も低下していた。 2.検査・測定 疼痛検査は、右膝関節にビジュアル・アナログ・スケー ル(以下VAS)4 cmの安静時痛と8 cmの運動時痛がみら れた。CRPは3.91 mg/dl.(正常域は0.00 ~ 0.30)であった。 運動時痛は、右膝関節屈曲時に膝蓋骨上部、右膝関節前 面の術創部に伸張痛を認めた。右膝関節伸展時ではハム ストリングスに伸張痛を認めた。固有感覚検査は、右膝 関節の位置覚重度鈍麻(3/10)であった。その他の関節に 鈍麻は認めなかった。筋緊張検査は、筋緊張の亢進とし て、両側ハムストリングス ・ 大腿直筋 ・ 大腿筋膜張筋 ・ 腸腰筋・外旋六筋・多裂筋(全て左側よりも右側で亢進)、 左僧帽筋上部線維 ・ 左腰方形筋に認められた。筋緊張の 低下は右中殿筋に認められた。ROM検査(P : Pain)は、 右膝関節屈曲70°P・伸展–25°P、右股関節屈曲100°P・伸 展5°P・内旋0°P・内転20°・外転30°であった。徒手筋力 検査(MMT)は、右膝関節伸展4 ・ 屈曲4であった。その 他の筋に筋力低下は認めなかった。 問題点の要約 症例の右膝関節は、術後の炎症反応により安静時から 疼痛の訴えが強く、防御性収縮としてハムストリングス と大腿直筋、腸腰筋の筋緊張を亢進させて膝関節と股関 節を屈曲位で固定させていた。症例は疼痛に対して非常 に敏感であり、防御性収縮は他動での関節運動が困難と なるほどの強さであった。また膝関節屈曲時には膝蓋上 嚢の癒着と術創部の皮膚の瘢痕化により伸張痛を認めて いた。立位 ・ 歩行では、膝関節の疼痛による防御性収縮 として、ハムストリングスと大腿直筋、腸腰筋の筋緊張 が亢進し、右膝関節を屈曲位で固定させていた。また多 裂筋の筋緊張を亢進させて、腰椎部は前弯を強め、両側 股関節は屈曲 ・ 外転 ・ 外旋位となった。このため、右立 脚相では右股関節の内旋運動が乏しく、骨盤の側方移動 を伴う体重移動が困難となっていた。股関節の内旋につ いて、中村ら1)は、立脚初期から中期にかけて、骨盤は垂 直軸 ・ 水平面に関して回旋運動をし、股関節の内旋は立 脚相初期に最大となると述べている。症例は股関節の内 旋運動が乏しいことで骨盤の側方移動の代償として右肩 甲帯を伸展させるとともに、左広背筋と左僧帽筋上部線 維の筋緊張を亢進させ、左肩関節伸展と肩甲帯挙上 ・ 伸 展を同時におこない、体幹左回旋、右股関節を屈曲 ・ 外 旋により体幹を右前方傾斜させての体重移動となってい た。このため、右下肢への体重移動が乏しく、遊脚される 左下肢が立脚である右下肢を超えて振り出されることは なかった。患者からは「体が揺れて上手く歩けない」と の訴えがあり、歩行動作の安定性 ・ 速度の低下から、社 会に容認されにくい動作となった(図3)。 図 3 問題点の要約

(4)

90 吉田拓真,他 理学療法① 理学療法は右膝関節の疼痛軽減と立位・歩行時の右膝 関節屈曲位の改善、右立脚相での股関節内旋による骨盤 の側方移動を伴う体重移動の獲得を目標に実施した。ま た理学療法は術後3 週が経過しながら、疼痛の訴えが強 く術直後と比べても膝関節のROM に改善が得られな かったことから、医師による硬膜外麻酔を実施した後、 理学療法をすすめていくこととなった。具体的には以下 のように理学療法を実施した。 1) 術創部皮膚、皮下組織の短縮に対してダイレクトスト レッチング 伸張刺激により疼痛が発生するため、術創部の皮膚を 短縮させたなかで皮膚の柔軟性を確保し、長軸方向と短 軸方向にダイレクトストレッチングを実施した。 2) 膝蓋上嚢のモビライゼーション 膝蓋上嚢の癒着を改善させるため、皮膚上より深部 に圧迫を加えていきながら、長軸方向へのモビライゼー ションを実施し、膝蓋上嚢の弾力性回復を促した。 3) ハムストリングス ・ 大腿直筋 ・ 腸腰筋に対してダイ レクトストレッチング 関節運動では防御性収縮が強く出現するため、まずは ダイレクトストレッチングにより筋緊張の減弱を図った。 具体的には上記対象筋に対して、治療者の手掌面をあて がい、小さい範囲でゆっくりと長軸方向へストレッチン グを実施した。 4) 右膝関節自動介助運動でのROM練習 1)から 3)の治療により伸張性や可動性が改善された 後、防御性収縮が起こらない範囲のなかで実施した。具 体的には、まず筋を短縮させるために膝関節と股関節を 屈曲位にさせ、その後ゆっくりと伸展方向に自動介助運 動を繰り返しおこなった。 5) 歩行練習 疼痛に対して敏感であったため、平行棒内にて上肢で 下肢への荷重を調節しながら、徐々に上肢での支持を外 していき2往復実施した。 6) アイシング 治療後の炎症反応を抑えるために、アイスパックにて アイシングを30分実施した。 結果① 右膝関節の安静時痛はVASにて3 cm、運動時痛はVAS にて6 cmに軽減し、CRPは1.74 mg/dlに軽減した。ハム ストリングスと大腿直筋、腸腰筋の防御性収縮に減弱が みられた。 ROM検査では制限が重度で残存しているも のの右膝関節屈曲は80°、伸展は–20°に改善した。また右 膝関節の位置感覚も中等度鈍麻(4/10)へと改善がみら れた。しかしながら、立位や歩行などの荷重場面ではハ ムストリングスや大腿直筋、腸腰筋の筋緊張は治療前と 同様に亢進したままであり、他動運動時の抵抗感も残存 していた。また『膝が伸びているかわからない』との訴 えもあり、立位や歩行の右立脚相に変化は得られなかっ た。 問題点の再考 理学療法により、非荷重位では右膝関節の疼痛や筋 緊張、関節可動域、関節位置覚に改善が得られるものの、 荷重位では治療効果がいかされず、立位や歩行の右立脚 相に改善を認められなかった。そこで改善が認められな かった要因について、再考をおこなった。阪本ら2)は術 後の構築学的な関節再建だけでは、術前の異常な筋活動 パターンはただちに改善しないと述べている。症例にお いても変形性膝関節症と診断され、TKAを施行するまで 約10年が経過していることから、術前の姿勢や動作の習 慣性が術後の姿勢や動作に影響を与えているのではない かと考えた。また『膝が伸びているかわからない』とい う訴えにも着目をした。非荷重位では重度から中等度鈍 麻に改善がみられたのに対し、荷重位では右膝関節の位 置が全く感知できていないことから、ハムストリングス の筋緊張の亢進している立位では、深部感覚に与える影 響が強いのではないかと考えた(図4)。 以上より、理学療法では、術後の問題だけでなく術前 からの姿勢や動作に着目するとともに、右膝関節の位置 感覚にも主眼を置いた治療の展開が必要だと考え、理学 療法の内容を変更して実施した。 理学療法② 理学療法①で充分な改善が得られなかった立位のなか で、筋緊張亢進の減弱と右膝関節の関節位置覚の改善を 図った。肢位は立位にて前方に位置させたベッドに体幹 を屈曲させてもたれさせ、下肢の閉鎖性運動を利用した。 閉鎖性運動ついては、香川ら3)は、膝関節位置覚は開放 性運動よりも閉鎖性運動において正確に機能すると述べ、 河村4)は関節固有受容器への刺激、複合関節運動の学習 などの利点を併せ持つと述べている。そして膝関節への 感覚入力をより意識化させるために、視覚からの情報を 遮断させて治療をおこなった。また姿勢 ・ 動作様式の習 慣性として、腰椎前弯し骨盤の前傾を強めるため、体幹 部のアラインメントが下肢のアラインメントに影響を及 ぼさないように配慮した(図5)。今回、硬膜外麻酔は、医 師より授動術のなかで膝関節周囲の軟部組織の癒着が剥 離したと判断され、理学療法②前後で使用はされなかっ た。

(5)

1) ハムストリングスを把持し筋の伸張感を与えたなかで、 膝関節の自動介助運動 治療者はハムストリングス遠位部を把持して長軸方向 に伸張感を与え、筋が伸ばされたという感覚入力を手が かりに膝関節の自動介助運動を実施した。 2) ローラーボードを使用して股関節・膝関節屈曲位から の股関節伸展・内旋、膝関節伸展の自動介助運動 下肢の運動を先導するために、ローラーボードを用い た。右立脚相での股関節屈曲からの股関節伸展 ・ 内旋運 動を想定して、1)と同様にハムストリングスの伸張感 図 4 問題点の再考 図 5 理学療法② 理学療法②では、症例の前方にベッドを配置させ、ベッド上のクッションにもたれさせ た肢位とした。治療者がハムストリングスを把持して長軸方向に伸張を加え、膝関節の 自助介助運動をおこなった。その後、右下肢をローラーボード上にのせ、右膝関節の伸 展に合わせて、股関節を屈曲位から伸展・内旋方向の自動介助運動を実施した。

(6)

92 吉田拓真,他 を手掛かりに膝関節伸展と股関節伸展・内旋運動のなか でハムストリングスと大腿直筋、腸腰筋の筋緊張の減弱 を図った。そしてこれらの筋の筋緊張減弱が得られてき たら、前方のベッドにもたれさせた体幹部を徐々に起こ し、同様に下肢の運動を繰り返しおこない、歩行練習へ と移行した。 結果② 立位では、両膝関節の屈曲位は残存するものの軽減、 両股関節屈曲 ・ 外転 ・ 外旋や腰椎の前弯、骨盤前傾、体 幹前傾 ・ 左側屈も軽減した。歩行では、右立脚相で右膝 関節の屈曲位での固定が軽減し、右股関節内旋 ・ 伸展に ともなう骨盤の右側方移動が可能となった。その結果、 左肩関節伸展と肩甲帯挙上・伸展により体幹を右前方傾 斜させての体重移動に改善が得られ、左遊脚下肢は右立 脚下肢を超えて振り出すことも可能になり歩幅も延長し た。患者の「体が揺れて上手く歩けない」との訴えも少 なくなり、歩行速度も22.5 m/minから82 m/minと向上が みられ、歩行の安定性および社会に容認される動作、速 度についても改善が得られた。また右立脚初期から中期 にかけて認めていた右膝関節の膝蓋骨上部の疼痛も軽減 し、歩行中の視線も下方を向くことなく可能となった(図 6)。 検査測定では、疼痛検査は、右膝関節のVASは安静時 痛で3 cmから2 cmへ、運動時痛は6 cmから2 cmに改善 した。固有感覚検査は右膝関節の位置覚は中等度鈍麻 (6/10)に改善した。筋緊張検査はハムストリングスや大 腿直筋、大腿筋膜張筋、腸腰筋、外旋六筋、多裂筋の筋 緊張亢進は減弱した。右中殿筋の筋緊張低下は改善した。 ROM検査は右膝関節屈曲90° ・ 伸展–15°、右股関節の伸 展10° ・ 内旋5°に改善し、他動運動時の防御性収縮も軽 減が得られ、抵抗感も減弱した。 考 察 症例は、変形性膝関節症と診断されてから約10 年が 経過し、右TKAを施行した50歳代の男性である。歩行は、 右膝関節や右股関節が屈曲位で固定されたままであり、 右立脚相における股関節の内旋運動による骨盤の側方移 動が不十分となっていた。代償として右肩甲帯を伸展さ せるとともに、左肩関節伸展と左肩甲帯挙上 ・ 伸展を同 時におこない、体幹左回旋 ・ 右前側方傾斜して右側方に 大きく重心移動をおこなう特徴的な歩容を呈していた。 阪本ら2)は、術前のアラインメント異常や運動パターン などの影響によって、術前に異常な筋活動パターンが存 在し、手術によるアラインメント正常化後もそれが残存 すると述べているとともに、術後の構築学的な関節再建 だけでは、術前の異常な筋活動パターンはただちに改善 しないことを意味していると述べている。症例において も、TKAを施行し3週間が経過しているにもかかわらず、 特徴的な歩容に大きな改善が得られていない要因は、術 後の問題ではなく術前の運動パターンが強く影響を及ぼ していると考えられた。骨盤の側方移動について、中村 ら1)は正常歩行において、立脚初期から中期にかけては、 骨盤は垂直軸 ・ 水平面に関して回旋運動をし、股関節の 内旋は立脚初期に最大になると述べている。また立脚初 期から中期にかけては、股関節の前額面の内外転と矢状 面での伸展も含めた複合運動がなされる。症例は歩行に 必要な股関節の内外転の充分な可動域を有していた。ま た股関節の伸展には関節可動域制限があったものの、膝 関節屈曲90° の可動域制限が残存していることを考える と立脚相での股関節の充分な伸展は得られにくく、股関 節伸展よりも股関節内旋の制限が大きな問題ではないか と考えた。そのため、股関節の内旋の制限が骨盤の側方 移動を制限させている大きな要因であると判断した。こ のため、体幹を右前方に傾斜させることで体重の移動を 代償するが、本田ら5)は、骨盤回旋量の減少が歩行時の 重心側方移動を増大させると述べており、症例において も股関節内旋運動による骨盤の回旋が乏しいため、体幹 を傾斜させ、側方への重心移動を大きくした歩行になっ ていると考えられた。この歩行となっている要因として、 右TKA 施行後、関節痛は消失するものの右膝関節にみ られている疼痛から、安静時においてもハムストリング スや大腿直筋、腸腰筋の防御性収縮により、膝関節と股 関節を屈曲位で固定させていた。中西ら6)は、術前の痛 みの経験や記憶などの心理的要因が運動イメージを歪め、 術後の痛みを発生させていると述べており、症例におい 図 6 結果②後の歩行 右立脚相では右膝関節伸展がみられ、右股関節内旋 ・ 伸展にと もなう骨盤の右側方移動が可能となった。その結果、体幹左回 旋 ・ 右側屈しながら、身体を右前側方に傾斜させる体重移動に 改善が得られた。

(7)

ても関節痛が消失しているものの、防御性収縮が残存し ている要因として術前からの習慣性が強く影響を及ぼし ているのではないかと考えた。また「膝が伸びているか わからない」との訴えもあり、感覚検査から右膝関節の 位置覚は重度鈍麻であった。位置覚の重度鈍麻について は、TKAにより関節包、関節軟骨、関節半月、脂肪体な どの関節受容器が切除され、残存している受容器は筋紡 錘・皮膚・靭帯となったことや、筋緊張亢進が持続的に おこなわれたことで筋の伸張性が低下し、筋紡錘も充分 に位置覚の効果器と機能していない可能性も考えられた。 これらの問題点に対する理学療法において、①疼痛に よる防御性収縮を出現させないこと、②位置感覚を入力 しながら習慣化した膝関節屈曲固定から脱却させるこ とで、歩行の実用性向上が図れるのではないかと考えた。 治療の肢位は、立位にて前方のベッドに体幹を屈曲しも たれさせ、多裂筋の筋緊張が減弱した状態とした。また 患部を視覚で確認できないようにしたことで、視覚によ る予測的な筋緊張亢進が起こらないように注意した。掛 水ら7)は、視覚の関与が種々の感覚系と作用し痛覚閾値 を上昇させる可能性が示唆されると述べており、視覚に よる代償的な筋緊張亢進が起こらないなかで理学療法を 施行する必要があったと考えた。 具体的には、ハムストリングスを把持したなかで筋の 走行に合わせ膝関節の屈曲・伸展の自動介助運動をおこ ない、伸張感を与えた。岩村8)は、位置感覚は関節受容 器だけではなく筋受容器も関与するとともに、筋が伸張 されると、その筋が伸張される方向に関節が動くように 感じると述べ、症例においてもセラピストによるハムス トリングスへの伸張感を与えた右膝関節の自動介助運動 により、関節位置覚の受容器である筋受容器が活性化し、 位置感覚の改善が得られたと考えられた。また右膝関節 の運動に合わせて、右股関節の伸展 ・ 内旋運動を複合さ せたことにより、ハムストリングスだけでなく大腿直筋 や腸腰筋の筋緊張減弱も可能になったことについて、河 村ら9)は、大腿四頭筋は閉鎖性運動において単関節筋で ある広筋群と二関節筋である大腿直筋では全く作用が異 なった活動様式を示され、閉鎖性運動時には大腿直筋の 活動は著明に抑制されると述べている。症例においても 荷重位での膝関節の運動にともなう股関節と膝関節の同 時伸展運動による閉鎖性運動により、股関節屈筋群であ る大腿直筋の筋緊張減弱が図れた。膝関節の屈曲 ・ 伸展 運動が荷重位でみられるようになったことにより、膝関 節 ・ 股関節の屈曲位固定が解消されたと考えられた。そ のため歩行時の股関節固定も解消され、右立脚相の右股 関節の内旋運動が可能となり、骨盤側方移動をともなう 体重移動が向上した。このため右肩甲帯を伸展、左肩関 節伸展と左肩甲帯挙上 ・ 伸展の運動は減少し、体幹左回 旋・右前側方傾斜して右側方に大きく重心移動する動作 も軽減した。その結果、右立脚相での側方への不安定性 が軽減し、歩行速度も改善が得られたのではないかと考 えられた。 おわりに 1) 右膝関節の疼痛により防御性収縮が強く歩行の実用 性を低下させていた右人工膝関節全置換術後の患者 を担当した。 2) 右膝関節のROM改善を目的に理学療法を実施したが、 動作の変化が得られなかった。 3) 問題点の再考において、術前からの習慣性に配慮し たハムストリングス ・ 大腿直筋の筋緊張、位置覚に 着目して理学療法をおこない、動作に改善が得られた。 4) 症例の術前からの問題である姿勢、アラインメント、 動作の問題点を考慮し治療を展開していくことの重 要性を再認識した。 文 献 1) 中村隆一 ・ 他:基礎運動学第 6 版.p370,医歯薬出版, 2007. 2) 阪本良太・他:変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換 術後の膝伸展不全について.神戸大学大学院保健学研究科 紀要 24: 29–39, 2008. 3) 香川真二・他:立ち上がり動作を用いた変形性膝関節症の 関節位置覚測定.理学療法学30(Suppl 2): 428, 2003. 4) 河村顕治:変形性膝関節症における温熱と CKC 運動の効果. 日本リハビリテーション医学会学術集会 47: 862–866, 2010. 5) 本田 瞳・他:歩行時骨盤回旋運動が重心側方移動に与 える影響― 床反力左右成分からの検討 ―.理学療法学 33(Suppl 2): 228, 2006. 6) 中西俊一・他:感覚入力の操作により歩容が改善した一症例. 東海北陸理学療法学術大会誌 24: 91, 2008. 7) 掛水真紀・他:痛覚刺激に対する視覚情報と痛覚入力の予 測における抑制効果について.理学療法学 38(Suppl 2): 832, 2011. 8) 岩村吉晃:タッチ.p34,36,医学書院,2001. 9) 河村顕治・他:大腿直筋の CKC サイレント現象とシーティ ングベルトによるハムストリングスの活性化.吉備国際大 学保健科学部紀要 13: 57–61, 2008.

参照

関連したドキュメント

We found that the use of algorithms for causality assessment, the grades and expressions used to describe causality, and criteria for determining whether reactions were ADRs or

(2) カタログ類に記載の利用事例、アプリケーション事例はご参考用で

PBMC from the patient did not produce HO-1 even when they were stimulated by an optimum concentration of cadmium, further indicating that the patient has a genetic abnormality in

にて優れることが報告された 5, 6) .しかし,同症例の中 でも巨脾症例になると PLS は HALS と比較して有意に

 6.結節型腫瘍のCOPPとりこみの組織学的所見

15762例目 10代 男性 下市町 学生 (県内) 軽症 県内感染者と接触 15761例目 10代 男性 天理市 学生 (県内)

10例中2例(症例7,8)に内胸動脈のstringsignを 認めた.症例7は47歳男性,LMTの75%狭窄に対し

ABSTRACT: [Purpose] In this study, we examined if a relationship exists between clinical assessments of symptoms pain and function and external knee and hip adduction moment