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受容される人工知能の条件

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Academic year: 2021

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271 人 工 知 能  30 巻 3 号(2015 年 5 月) 4年前から人工知能学会の全国大会で「脳科学と AI」というオーガナイズドセッションの企画に加わっている. このセッションでは,脳科学と人工知能の橋渡しをすることを目標に,脳波や fMRI や NIRS などの脳計測に基づい た人間の認知特性や行動特性の理解や,計測データから人間の振舞いを予想するモデル化などに関してこれまで 50 件以上の研究発表が行われている.また筆者自身も脳波計測に基づく人間の認知特性のモデル化の研究開発を進めて いる.例えば,これまで自動車運転中の運転者の状態や音の刺激に対するユーザの反応の分析を行ってきた. ここで議論になるのが,脳計測の実験データに対して作成される推定式の精度が十分かどうかについてである.推 定式は各種の機械学習の手法によって構成され,機械学習のアルゴリズムを改善すると確かに推定精度は向上する. しかし,ある一定の精度で頭打ちになったときに,計測条件が悪いのか,推定手法に改善の余地があるのか,それと も人間自身がそういうものか,という点に行き当たる. 計測条件として注意深く実験プロトコルを設定し,機械学習手法の改善を重ねたとしても,何かしら残る部分がある. 最後は,脳神経細胞の複雑なインタラクションの総体として生成される人間の挙動のメカニズムはまだ詳細には解明 できない,として議論しきれなくなってしまう.また,たいていの議論では,多くの被験者に同一条件の実験を実施 し平均値の議論をして個人差には触れないのが通例であり,人間のモデル化の進め方として適切かという話になる.

近年,この状況をさらに難しくする技術が登場している.Deep Learning である.Deep Learning は,人間の一 つの機能である外界認識(自然画像や音声など)において,これまで人手でチューニングしてきた特徴量や推定方式 よりも推定精度が高くできたとされる.しかし,その代償として特徴量選択は人手を介さずに自動化され,内部演算 は人間の理解を超えている.このため,人間が理解できる範囲のルールで推定していた場合には問題にならなかった, 「どのように答えが求められるか理解できないけれど推定性能が高い」という状況にどう向き合うか,という新しい 問題が起きていると感じられる.つまり,データの計測条件や個人差も含めたあるがままのデータに対して,理解 できない処理方法によって,これまで以上にデータとの一致度が向上してしまうという状況である.Deep Learning のアルゴリズム自身は簡潔に記述できるが,その結果は与えられるビッグデータしだいで挙動は予想できない.ロバ ストな学習結果を得るためには十分なデータ量が必要という基本原理のみに従ってデータ収集競争が起きている. 今後,IoT(Internet of Things)時代を迎えてさらに大規模化する各種計測データ群と,大規模化するコンピューティ ングパワーによって,Deep Learning に代表される機械学習技術,広義の人工知能技術はさらに高度になる.ます ます多くの階層とパラメータを備えたモデルが計算実行でき,内部演算は理解できないが推定精度が高い事例をどん どん増やしていくだろう.その応用範囲は,高度な認識機能の代替から,自動運転に代表されるような意思決定や人 の認知状態の推定までいよいよ広がっていくことが想定される. 深化を続ける人の認知機能に関する人工知能技術が実際の応用場面に適用できるか,を本稿では受容と呼ぶことに する.応用場面への適用には,技術的な実現可能性以外にもその結果が社会的に受容されるか,の判断も必要だから である.これまでの品質保証の考え方に基づけば,あらゆる入力に対する安定動作の保証には,入力される特徴量は どのような因果関係によって処理されるかが明確である必要があった.これを社会的な受容の十分条件とすると応用 範囲が狭くなってしまう.近い将来,内部演算が理解できない人工知能技術を,例えば人間の意思決定支援に応用し てよいかなどが議論の俎上にのせられる,と思われる. この問いは,突き詰めると人工知能技術全般に対する見方の転換を迫ることになる.脳科学分野での認知処理のモ デルが最後まで不確かな部分を含んでいるように,機械学習で高度に洗練されたアルゴリズムの内部処理も見えなく なる.内部処理は見えないが性能の高さや安定性で応用場面への適用を判断できるかが,人工知能が受容される条件 になると考えられる.これは人工知能技術が人間と同じような基準で扱われることと意味が近くなってくると言える. 人間の脳内処理のメカニズムは完全に解明されたわけではないのに,あらゆる場面でその判断や意思決定は受容され ている,という構図に似てくる. 受容される人工知能技術の実現は,強い人工知能実現に向けた初期のマイルストーンとして解決すべき課題になる と考えている.

受容される人工知能の条件

森川 幸治

(パナソニック株式会社)

巻頭言

参照

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