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大学発ICTベンチャー:1.大学発ICTベンチャーの現状と大学発ベンチャーの課題

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Academic year: 2021

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(1)特集. Special Feature. [大学発 ICT ベンチャー]. 1 大学発. ICT ベンチャーの現状と 大学発ベンチャーの課題. 基 応 専 般. 松田修一  日本の技術ベンチャー企業振興の流れ.  技術移転機関(TLO). :22 カ所対 130 カ所  .  技術移転件数. :69 件対 15,480 件.  1995 年我が国の科学技術振興政策の基本的な枠組.  インターネットが普及し始めたこととも相まって,大. みを与える科学技術基本法が施行された.これ以降活. 学発ベンチャーは,毎年 150 ∼ 250 社ペースで増加し,. 発な技術ベンチャー支援の動きがあった.. 3 年後には目標の 1,000 社を超えたが,2005 年度をピー.  ベンチャーを含む中小企業行政は,全体の底上げ. クに低迷が続き,さらに 2008 年のリーマンショック後. を常に念頭に置いていたが,出る杭をもっと伸ばす. の株式市場暴落もあり,年間 50 社前後と長期低迷し. ための 10 年間の時限立法が,1996 年「中小企業の. たが,現在増加傾向にあり,累積社数 2,000 社を超え. 創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」であ. ている.なお,米国では現在年間設立 800 社を超え. る.死の谷が深くて長期赤字を余儀なくされる技術ベ. ている(2015 年経済産業省調査)ので,2001 年当時. ンチャーの赤字繰り越しが 5 年から 10 年に延期され,. の過去の格差が,ますます拡大している.. 技術ベンチャーが証券市場から資金調達を可能にする.  本稿では,経済社会のイノベーションへの貢献が期. マザーズ等の開設の先駆け的な動きであった.. 待されている大学発 ICT(Information and Commu-.  また,大学機能は研究と教育が本務であるが,外部. nication Technology)ベンチャーの現状と大学発ベ. との共同研究を加速し,教員の研究成果の権利化を. ンチャーの課題を,過去の経済産業省等の調査を通し. 可能にするために,次のような制度が確立した.. て読み解くと同時に,大学発ベンチャー振興とその課. • 1998 年承認 TLO(Technology Licensing Organi-. 題について検討する.. zation= 技術移転機関) 大学等研究成果としての技術を民間企業等に移転す る機関 • 1999 年日本版バイ・ドール条項(産業活力再生特別.  大学発ベンチャーは,大学の保有する経営資源(教. 措置法による). 職員・学生,研究成果や知財・情報,インキュベーショ. 国の研究委託で開発し取得した特許等を大学等の. ン施設や資金)の活用による事業化や支援を受けて. 受託先の権利とする制度. 設立されたベンチャー企業と定義される..  さらに,科学技術振興政策の延長線上に,大学の.  大学の経営資源の活用の組合せにより,次のように. 研究成果を自ら事業化し,大学財政の自律化と経済社. 5 分類されている(2015 年経済産業省調査).なお,カッ. 会のイノベーションを促したのが,2001 年時点の閣議決. コ内の%は,各分類の過去 3 年間のほぼ平均値割合. 定で打ち出された「大学発ベンチャー 1000 社計画」で. を示している.. ある.この時点で,日米の比較をすると,次の通りである.. • 研究成果ベンチャー(60%):大学で達成された研.  大学発ベンチャー企業数 :128 社 対 2,256 社   508. 大学発ベンチャーの定義とその変化. 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018 特集 大学発 ICT ベンチャー. 究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を.

(2) 事業化する目的で新規に設立されたベンチャー • 協同研究ベンチャー(9%):創業者の持つ技術やノ. どったが,2015 年の調査から再び上昇し始め 1,749 社 → 1,773 社(2016 年)→ 1,851 社(2017 年)と増加して. ウハウを事業化するために,設立 5 年以内に大学と. いる.なお, 2018 年 3 月公表の調査では 2,093 社に増加,. 協同研究等を行ったベンチャー. 年間 100 ∼ 200 社のペースで新規に設立されつつある.. • 技術移転ベンチャー(4%):既存事業を維持・発展.  さて,大学発ベンチャーで最も多いベンチャーの業種. させるため,設立 5 年以内に大学から技術移転等を. は,ICT ベンチャーである.ICTとは 情報処理や通信. 受けたベンチャー. に関連する技術,産業,設備,サービスなどの総称である.. • 学生ベンチャー(21%):大学と深い関連のある学生. 従来パソコンやインターネット活用初期には情報処理や 通信に関する技術を指す言葉としては,IT(Information. ベンチャー • 関連ベンチャー(6%):大学からの出資がある等そ. Technology)が使われていたが,最近では情報通信技 術を利用した情報や知識の共有・伝達といったコミュニ. の他,大学と深い関連のあるベンチャー  大学の経営資源活用型ベンチャーの 60% が,大学. ケーションを含み,広く使われるようになった.. の研究機能の成果を事業化した「研究成果ベンチャー」.  過去 3 年間の大学発ベンチャーへのアンケートの有. である.大学研究者の研究成果を活用したベンチャー. 効回答数は, 300 社超であるが, その業種分類総社数 (複. が最も多いのは当然である.. 数回答可)は,延べ 2,500 社前後に達し,有効回答数.  次に多いのが, 「学生ベンチャー」の 21% である.. の 7 倍を超えている (表 -1) .この中で, ICTベンチャー (ア. 学生の範囲を 2001 年当時は卒業後 3 年以内に設定し. プリケーション,ソフトウェア)とバイオ・ヘルスケア・医. ていたが,現在キャリアの再構築をしたい社会人学生. 療機器が最も多い事業領域であるが,IoT や AI を活用. からの起業,修士や博士課程で学びながら研究室の. した情報収集・処理解析や画像解析等の技術は,ICT. 研究成果の事業化に挑戦する学生が増加し,大学と. ベンチャーのみならず, 「バイオ・ヘルスケア・医療機器」. 深い関連のある学生という表現になった.. も含むほとんどの業種に活用されるので,複数回答を求.  ベンチャー設立後 5 年以内に,大学との共同研究や. めた業種分類では,主たる業種が不明確になっている.. 技術移転で事業を展開している「共同研究ベンチャー」.  なお,帝国データバンクが 2017 年に調査した大学. 「技術移転ベンチャー」は 13% と少ない.一般技術べ. 発ベンチャー 858 社の業種分類は,サービス業 411. ンチャーに対して TLO(技術移転機関)機能が十分. 社(47.9%),製造業 292 社(34.0%),卸売業 120 社. 発揮されていない結果である.. (14.0%),その他 29 社(4.1%)である.この分類中.  多くの大学等のインキュベーション施設が増加し始め たが,大学による出資・リサーチ機能,さらにネットワー クを活用した「関連ベンチャー」は 6% と全体的には少 ないが,今後増加する可能性がある.  なお, 5 分類は相互に関係しており明確な分類は難しい.. 大学発ベンチャーの業種特性と ICT ベンチャー. ■表 -1 大学発ベンチャーの業種分類(出典:2017 年経済産業省「大 学発ベンチャーに関する基礎調査」より) 2015 年. 2016 年. 2017 年. ICT (アプリケーション, ソフトウェア). 業種分類. 546 社. 555 社. 559 社. ICT(ハードウェア). 163 社. 169 社. 176 社. バイオ,ヘルスケア,医療機器. 542 社. 540 社. 575 社. 環境・テクノロジ,エネルギー. 206 社. 211 社. 209 社. 化学・資材分野(バイオ除く). 176 社. 178 社. 178 社. ものづくり(IT ハードウェア除く). 358 社. 378 社. 381 社. その他サービス. 451 社. 467 社. 513 社. 計(複数回答可).  2008 年には累積総数が 1,807 社あった大学発ベン. 有効回答数(概算). チャーもリーマンショックの影響からか減少の一途をた. アンケート発送ベンチャー数. 2,442 社 2,498 社 2,591 社 311 社. 312 社. 315 社. 1,749 社 1,773 社 1,851 社. 1. 大学発 ICT ベンチャーの現状と大学発ベンチャーの課題 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018. 509.

(3) 特集. Special Feature. のサービス業の中に,典型的な ICT ベンチャーとして,. • グランドデザイン(夢)があること. 受託開発ソフトウェア業 98 社(11.4%) ,情報技術提.  大学発ベンチャーで表彰された ICT ベンチャーを示. 供業 57 社(6.6%) ,パッケージソフトウェア業 33 社. す(表 -2).. (3.8%) ,情報提供サービス業(1.6%)が含まれている..  大学の研究成果を事業化し,受賞した社長の特徴は,. 従来のリアルビジネスの Web 化やゲーム開発・運営ベ. 大学院学生として所属していた研究室の技術を社会実装. ンチャーは,その他サービス業に含まれている.. し,いかにマネタライズするかというビジネスモデルを研.  第 4 次産業革命の基盤技術である IoT や AI がい. 究者と経営チームとともに考え抜いた若い起業家である.. かなる業種にも活用される時代に入り,ICT ベンチャー.  会社設立は簡単にできるが,研究成果ベンチャー. の定義が曖昧になっているが,大学発 ICT ベンチャー. は,既存企業と連携して事業を拡大する BtoB ビジネ. は「情報通信技術の基本が大学の研究成果にあり,. スがほとんどである.BtoB ビジネスを軌道に乗せるに. ビジネスモデルに独創性と新規性があり,新たな市場. は,ベンチャーの有する大学の研究成果を含む技術に. を切り開いているベンチャー」と定義することができる.. 非代替性があり,既存企業と対等な Win-Win 連携を 進めることが不可欠である.技術の独創性や新規性を. 大学発ベンチャー表彰制度に見る ICT ベンチャー. 市場が評価し,世界に向けてのグランドデザイン(夢).  日本のイノベーションに貢献する可能性のある大学発. ウェア(株)は,国内外のモノづくり系企業とのネット. ベンチャーのロールモデルを提示するための「大学発ベ. ワークを構築し,2017 年の(株)PKSHA Technology は,. ンチャー表彰制度」が始まったのは 2014 年からである.. 各産業領域のトップ企業との事業・資本連携をしている.. 表彰対象のベンチャーを選考する基準は次の通りである.. 両社は,彼らの技術を高く評価する既存企業との Win-. • 外部機関との協力により成長しつつあること. Win 連携を実現し,日本のイノベーションに貢献する可能. • 特色のある経営を行っていること . 性が特に際立っているとの判断で,大臣賞を受賞された.. が描けるベンチャーが,表彰の対象になっている.  2014 年の文部科学大臣賞受賞のプロメテック・ソフト. • 新規性があること • 独創性があること. 経済産業省の調査から見える大学発 ベンチャーの進化. • 市場性があること • 将来性があること  • 社会的な貢献が高いこと.  大学発ベンチャーの年間設立件数は停滞後,若干. ■表 -2 大学発 ICT ベンチャーの表彰(出典:科学技術振興機構(JST) 「大学発ベンチャー表彰」各年度受賞者一覧より) 年度 2014 2015. 表彰名. 設立. 社長名. プロメテック・ソ 文部科学大臣賞 フトウェア(株). 2004. 藤澤智光 (39 歳). 東京大学大学院 粒子法を用い,今まで不可能であった流体の自由 工学系研究科 表面のシミュレーションを可能にした. 日本ベンチャー mplusplus(株) 学会会長賞. 2013. 藤本 実 (31 歳). 回路設計やソフトウェアを開発するだけでなく, 神戸大学大学院 光の振り付けであるメディアアートやライブの帯 工学研究科 同も事業の一環として行う. 2006. 池田貴裕 (39 歳). 在学中に大学内で起業,小型軽量キューブ型筐体 光産業創成大学 から太陽光線と同等の疑似平行光を発生し,さま 院大学 ざまな照明パターンを形成. 委員会特別賞. 2017. 510. 文部科学大臣賞. 会社名. パイフォトニク ス(株) (株)PKSHA Technology. 2012. 大学. 事業もしくは技術. 既存のソフトウェアやハードウェアを知能化させ 上野山勝也 東京大学大学院 る技術として,深層学習を中心としたアルゴリズ (38 歳) 工学系研究科 ムモジュールを提供. 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018 特集 大学発 ICT ベンチャー.

(4) 増加しているが,大学発ベンチャーの質的向上は,次. リスクに挑戦していることがデータから見て取れる.. の通り明確になっている..  ただし,大学発ベンチャーのアンケート発送先であ る約 1,800 社のうち,有効回答数は約 300 社のみであ. 収益構造の改善とその理由. る.1,500 社近くはで回答を寄せていない.このほと.  大学発ベンチャーの収益改善調査を行った 2015 年. んどが,少額の補助金を確保しながら,資金の続く限. 調査で注目すべきは,黒字(単年度黒字と累積赤字解. り細々と経営をしているリビングデッド状況の小規模の. 消含む)企業が,26.6% から 55.6% に増加しているこ. 大学発ベンチャーであると推測できる.非代替的な技. とである(表 -3).. 術の保有があれば,その技術を活かすことができる第.  大学発ベンチャーの設立件数を競った 2004 年当. 三者に譲渡し,最適な人に経営を引き継ぐ等経営資源. 時と 2015 年とを比較すると,有効回答の大学発ベン. の有効活用を加速する必要がある.. チャーの収益構造が明確に改善している.PoC(外部 に技術を証明できる試作品等)完了後,市場性を確 認した後の会社設立が多くなった.また,大学発ベン チャーを支援する仕組みである産学連携組織の整備,. 上場している大学発ベンチャーの株 式時価総額と大学との関係. 大学支援のベンチャーキャピタルの設立,既存企業と.  最新の経済産業省調査(2018.3 公 表)によると,. の事業連携や資本連携を支援する民間の大学向け橋. 大学発ベンチャーのうち 57 社が上場している. 「研究. 渡し機能等が充実し, 「死の谷」を乗り越える方法を学. 成果ベンチャー」のうち,Win-Win 連携を成功させて. んできたことが,収益改善の要因になっていると考える.. 上場をし,時価総額上位 4 社の大学発ベンチャーを挙 げると次のようになる(表 -5).. 規模拡大と攻めの姿勢.  このように売上高と株 式時価総 額を比較すると,.  2017 年経済産業省の調査(途中集計速報値 256 社). 6 ∼ 170 倍である.伝統的な大企業の多くは,売上. から,有効回答数の平均値で 5 年前と企業規模を比. 高と時価総額がほぼ同額であるが,有力大学発ベン. 較すると次の通りである(表 -4) . . チャーは,100 倍に達することが珍しくない.創業メ.   資本金・正 規 社 員・売 上高が 5 年前と比 較し約. ンバが多くの株式シェアを占め市場流通株が少ない状. 2 倍増加し,営業赤字が拡大している.大学支援のベ. 況で,将来の成長可能性が高く評価された結果,株. ンチャーキャピタルの充実,リスクマネーの確保による. 主から高い評価を受けて高株価が付く.このような上. 顧客視点の製品やサービスの積極的な開発の姿勢など,. 場後も急成長が期待できる大学発ベンチャーは,国内 外の大手企業が事業や資本の Win-Win 連携を加速さ. ■表 -3 大学発ベンチャーの収益改善状況の推移 調査対象 年度. 事業 事業 事業 単年黒字 単年黒字 開始前 開始前 開始後 累積赤字 累積解消 (PoC 前)(PoC 後) 単年赤字. 2004. 23.2%. 28.6%. 21.6%. 11.1%. 15.5%. 2015. 3.9%. 7.1%. 33.4%. 24.1%. 31.5%. ■表 -5 上場大学発ベンチャーの株式時価総額の上位(単位:億円) 順 位. 資本金. 正社員数. 売上高. 営業利益. 5 年前(設立時)*. 29,696. 5. 67,987. △ 2,041. 2017 年(現在). 63,878. 9. 120,255. △ 10,040. *設立から 5 年未満の場合には,設立時または最初の事業年度の 状況を記入. 上場市場. 時価総額. 売上 高. 大学技術. 1. ペプチドリーム 東証一部 (株). 5,399. 48 東京大学. 2. サイバーダイン マザーズ (株). 2,290. 16 筑波大学. 3. (株)PKSHA Technology. マザーズ. 1,552. 9 東京大学. 4 (株)ユーグレナ. 東証一部. 786. 139 東京大学. ■表 -4 5 年間の大学発ベンチャーの企業規模比較(単位:千円) 年度. 企業名. 注:2018 年 2 月 16 日終値の株式時価総額,売上高は最新事業年. 1. 大学発 ICT ベンチャーの現状と大学発ベンチャーの課題 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018. 511.

(5) 特集. Special Feature. せ,オープンインベーションを成功させた典型事例であ. 業戦略・知財戦略等を構築し,グローバル市場を見据. る.しかし,日本の大学は,大学発ベンチャー設立時. えた事業化(ベンチャー企業の設立)を支援後 3 年で. または特許等専用実施権譲渡時にエクイティ投資(現. 行うことを目指している.. 金出資,特許等の現物出資,またはベンチャー成功の 場合に出資権を行使する新株予約権取得)を行った実. 4 大学に対する投資ファンド組成の資金支援. 績がほとんどない.このために,上場後に 1,000 億円.  2013 年,研究成果の事業化により設立された大学. を超える株式時価総額がついても,大学所有の株式を. 発ベンチャーへ現金出資するため,東京大学・京都大. 売却して,大学が研究開発から特許取得まで先行投. 学・大阪大学・東北大学の 4 大学に対して 1,000 億円. 資した資金の回収する道は,エクイティ投資がないため. の補正予算の傾斜配分が行われた.研究成果の特許. に存在しない.大学の収入は,特許等を活用した売上. 化や大学発ベンチャーの設立社数が多い 4 大学を選定. 高の 2 ∼ 3% のロイヤリティ収入のみであるから,株式. し,各大学が現金出資というエクイティ投資の道を開く. 時価総額が大学の財政に寄与しないのは残念である.. ために,国が予算措置をした.大学は, 「教育」と 「研究」 を本務としているが,研究成果の社会実装を自ら行い,. リサーチ大学からアントレプレナー シップ大学に向けての改革. 現金出資をすることによって,成功の際のキャピタルゲ.  現在,研究成果の事業化(大学発ベンチャー設立). 態系)の実現と,研究成果の社会実装による経済の. に大学が正面から取り組むための改革が進んでいる.. イノベーションという「社会貢献」を期待されている.. イン(株式売却益)を,大学の次なる研究開発費に再 投資することを可能にする自律実走型エコシステム(生. 研究成果の論文発表で存在感を示すリサーチ大学か ら,産業界等との産学連携で研究開発資金を確保し,. グローバルアントレプレナー人材の育成支援. または研究成果を事業化し,設立された大学発ベン.  大学の研究開発は世界との競争の中で行われてい. チャーに大学が自らエクイティ投資をし,成功(上場や. る.研究成果の事業化にあたり,特許を含む知財戦略,. 企業売却)時に,ロイヤリティ収入に加えて株式時価. 最適な経営チームの組成,世界市場を目指した事業戦. 総額をも取り込むアントレプレナーシップ大学への改革. 略を構築できる経営者(グローバルアントレプレナー). に向けて,国は,次のような支援を行っている.. の選定が必須条件であるが,労働市場の流動性が低 い日本では経営人材が決定的に不足している.日本. 512. 大学研究成果の事業化への後押し支援. の大学の「教育」に欠けていた世界に通用する経営人.  2012 年文部科学省は,大学発新事業創出プログラ. 材不足を解消するために,2014 年にグローバルアント. ム(START 事業)を発足した.. レプレナー育成促進事業(EDGE)がスタートし,13.  研究者の研究成果(シーズ)を,市場や顧客のニー. 大学が選定された.さらに,2017 年から次世代アント. ズに合致するように,大学研究者と学外専門家が共. レプレナー育成事業(EDGE-NEXT)に引き継がれ,. に事業化に向けて協力し,大学発新事業である大学発. 5 校(東北大学,東京大学,早稲田大学,名古屋大学,. ベンチャーを創出することを支援する事業である.ベン. 九州大学)を主幹事校に選定した.主幹事校は,国. チャーの起業前段階から研究開発・事業育成のための. 内大学の複数校,さらにスタンフォード大学やバブソン. 国の資金(ギャップファンド)支援と民間の事業化ノウ. 大学等の経営人材育成ノウハウを持っている海外大学. ハウ等支援を組み合わせることにより,既存企業では. と連携し,また技術ベンチャー支援を専門としている. リスクは高いがポテンシャルの高いシーズに関して,事. ベンチャーキャピタルや経営人材育成ノウハウを持って. 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018 特集 大学発 ICT ベンチャー.

(6) いる民間企業と協働し,世界に通用する大学の研究成. ベントを含む交流も活発に行われている.. 果の事業化を担う経営人材や既存企業の新規事業を.  しかし,欧米や中国の大学を基点にした特定地域. 担う人材育成の教育プログラムの実践・普及と統括す. のように,多様な大学発ベンチャーやベンチャー支援. る機能を担っている.5 年間の次世代アントレプレナー. 機関が活発に活動するような集積が形成され,その集. 育成事業が終了した段階で,参加各大学は,外部資. 積で,原野に草木が群生するように新たなベンチャー. 金を呼び込む寄付講座等の自己収入を確保し,若手. が次々と創業をされるような情況を意味する簇業(そう. 研究者や社会人の教育も対象とした経営人材育成プロ. ぎょう)は,日本では緒についたばかりである.また,. グラムを継続することができる体制を確立し,財務上. 世界の新市場に対して新技 術で挑 戦する PKSHA. の自律実走が期待されている.. Technology やメルカリに代表されるユニコーンベン チャー(上場前に時価総額 1 千億以上を達成したベン. 大学発ベンチャーの簇業(そうぎょう)☆ 1 状況への期待. チャーをいう)が日本でも生まれ始めている.ユニコー ンベンチャーは,原野の 1 本の大木のように突然現れ るわけではない.草木が群生するようなソーシャルベン.  このように 1998 年以降,国立大学法人が「教育」 「研. チャーも含むすそ野の広いベンチャー集積地域と挑戦. 究」 「社会貢献」の 3 大機能を推進するにあたり,国か. するアントレプレナー(起業家)を評価する社会的風土. らの運営費交付金の増減に反映されない外部資金等の. の高まりの中から生まれてくることを忘れてはならない.. 自己収入を確保するために,自己収入獲得のインセン.  このようなユニコーンベンチャーが,大 学発ベン. ティブがはたらく制度づくりを行ってきた.最近の事例が,. チャー簇業中から輩出し始めたことは,世界の大学間. 大学の研究成果を事業化する START 事業,4 大学へ. 競争の中で,日本の大学評価を高める「世界最高水準. の投資ファンド組成支援,グローバルに活躍できる経営. の研究・教育の実現」のために,国からの運営費交. 人材の育成プログラムである EDGE-NEXT 事業である.. 付金の増減に反映されない外部資金等の自己収入を.  2018 年経済産業省調査では,2,093 社という過去. 確保することを可能にしたといえる.大学の研究成果. 最高の大学発ベンチャー数の存在が確認された.大学. の事業化の成功資金等で,大学の教育・研究資金の. 別で見ると,最大のベンチャー輩出大学は東京大学の. 一部を生み出す自律実走型のアントレプレナーシップ. 245 社である.これに京都大学,筑波大学,大阪大学,. 大学への変革支援の効果が出始めたといえる.. 九州大学と続いている.最近新聞紙上で 「本郷バレー」.  ただ,大学研究者のベンチャーへの関与方法,大. という言葉が出るようになった.東京大学を基点とし. 学知財の取り扱い方法,ベンチャーへの資金供与の方. た本郷地域に,東京大学の研究成果を活用したベン. 法,大学の社会貢献機能の見える化等,明確にしなけ. チャーに加えて,ベンチャーを支援する多様な機関 (キャ. ればならない課題は多いが,キラリと光る大学の研究. ピタル,コンサルティング,弁護士・公認会計士,金融. 成果は多い.大学発ベンチャーが地域のベンチャー簇. 機関等)が集積している.本郷バレーでは,これら支. 業の中核になるような未来を期待したい. . 援機関を活用したい多様なベンチャーとのマッチングイ ☆ 1. 簇業(そうぎょう)とは,西澤昭夫他著「ハイテク産業を創る地域 エコシステム」 (有斐閣,2012)で使われた.また,三団体緊急提言「21 世紀型の新たな成長戦略に向けて高付加価値型ベンチャー企業の簇 業」 (2013 年)で, 「1 社 1 社の創業ではなく,原野に草木が群生 するような集積での創業」という意味で使用している.ここで三団 体とは,日本ニュービジネス協議会連合会(JNB),日本ベンチャー キャピタル協会(JVCA),日本ベンチャー学会(JASVE)である.. (2018 年 2 月 26 日受付). ■松田修一 [email protected] 公認会計士として監査法人サンワ事務所(現トーマツ)入所し, 中堅・ベンチャービジネス経営支援.博士学位取得後,1986 年早稲 田大学助教授,1991 年教授.2012 年退職.現在,複数社社外役員 および各省庁・機構の審議会・委員会委員.. 1. 大学発 ICT ベンチャーの現状と大学発ベンチャーの課題 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018. 513.

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