本日は私の人生で初めてのコメンテーターの役をさせ ていただき、大変光栄です。しかし、今の緊張感は昨年 度の、台湾での審査会議の時と同じくらいです。昨年度 に立命館大学に留学する前は、台湾で障害者の団体で働 いていました。今晩はどうして私が、コメンテーターに なるのか、その理由は、多分この会場で私がただ一人の 台湾人だからだと思います。もう一つの理由は、さきほ ど長瀬先生もおっしゃったように、審査会議の時は私が 長瀬先生のアシスタントとして参加させていただいたと いうことだと思います。 さきほど、長瀬先生が 5 人の委員を紹介しました。委 員の多様性は、確かにジュネーブでの審査の時とは違い ますが、現時点の台湾にとってこの 5 人は一番素晴らし いチームだと思いました。まずは、その 5 人の中に、障 害の当事者も半分以上がいらっしゃいましたし、親と専 門家もいらっしゃいました。そして、各委員の専門と関 心の分野も違いますので、総合的に台湾の状況を見て、勧 告をしてくださいました。その 5 人の中で私が最初に知 り合ったのは、2011 年の時、北欧の障害者研究会(NNDR) で、アドルフ・ラツカさんと出会いました。その後は、 2013 年から仕事の関係で長瀬先生と連絡を取り始めまし た。 委員達は、審査会議の前に英語の資料を見ました。台 湾のことも漢字も詳しく分かっている長瀬先生は、英語 と繁体字中国語の資料を両方読んでいました。英語の資 料でわからないことも発見しました。例えば、最近日本 でも議論がある優生思想のことは、長瀬先生が両方の資 料を読んで、「優生」の言葉を発見しました。長瀬先生が 委員長になって、一番ぴったりだったと思います。そし て、「中華民国の不可視化」の前提で、5 人の委員がこれ から中華人民共和国へ行けなくなる可能性があることも 知ったうえで、審査のタスクを受けたことを、私個人か ら、そして台湾人として、この 5 人の委員にもう一度、尊 敬と感謝を申し上げます。 が座りました。審査会議の時は政府側と市民社会は、会 場へ来られない方への配慮をして、それぞれ、ネットで 同時中継を行いました。 次に、審査後の動きについて話したいと思います。ま ずは、審査会議の後、政府の担当の部(省)、つまり衛生 福利部が行政院に報告しました。そして総括所見の内容 によって、分業会議を行いました。主に、5 つの部を担 当しています。そして 6 つのグループに分けて、CRPD (障害者権利条約)の条項によって検討します。後は、人 権指標作成の研究案を委託して、専門家を招聘して勉強 会を行いました。そして、総括所見の分かりやすいバー ジョン作成を委託することも、今、交渉しています。あ と、これから施策や法律を改正するスケジュールも作り ました。2020 年 12 月 3 日までに第 2 回の国家報告を提 出して、2021 年の国際障害者デーの前、第 2 回の審査会 議を行う予定であります。 残念なことですが、審査会議で委員達は大型の入所施 設をやめようと、勧告をくださいましたけど、高雄市で 100 人以上の入所施設を造ることが進んでいくことに なってしまいました。 政府が行った総括所見の記者会見の直後は、市民社会 の 20 団体が行政院の前に集まって記者会見を行いまし た。そして 12 月、総統府の前で、徹夜して、翌日には人 権の旗をあげて CRPD を早急に実現することの声をあげ ました。後は、ある団体は 2 週間に 1 回、総括所見の勉 強会を今も行っています。そして、いくつかの団体は障 害者当事者の講師の養成をしています。その中に、知的 障害者を講師として大学や社会福祉団体、そして労工局 などに派遣して、当事者の立場から CRPD を説明してい ます。なお、学者も CRPD に関わる本を出版しました。 審査委員が気にしていた CRPD の分かりやすいバージョ ンも完成しました。この 2 冊の本は立命館大学生存学研 究センターの書庫に置きました。興味がある方は、書庫 にお越しいただいたら閲覧できると思います。 特集 2
障害者権利条約審査後の台湾
高 雅 郁 (立命館大学大学院先端総合学術研究科 一貫制博士課程)として障害をもつ当事者や運動団体の統合と分裂が見え てきました。そして 3 日間の建設的な対話で審査会議の 前にそれぞれの理解の相違点を審査委員も修正しまし た。審査委員会は、高い理想ではなく、台湾で実際に執 行できることを配慮して総括所見をまとめていました。 その後、政府の特定の部から他の部へ関心が広がるきっ かけとなったことも、今回の審査会議のとても重要な意 義であると思います。あとは、政府から地方において重 視され執行されるまではまだ遠いですが、今回の総括所 見は障害者運動団体にとって重要な根拠となります。 最後にもう一度、5 人の委員に感謝いたします。そし て、次回もう一度台湾の状況を見ていただきたいと心か ら期待しております。私の話はここまでです。どうもあ りがとうございました。
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12質疑応答
立岩:今の二人の話について、質問がある人はどうぞ。 会場:ご報告ありがとうございます。審査のこと等のお 話いただいたんですけれども、実際に台湾においてど ういうところがポイントになってるか、今の問題点や 大きな課題について教えていただけたらなと思いま す。 長瀬:大変ありがとうございます。差別の定義の中に、き ちんと合理的配慮を盛り込んでいくことと、この審査 を含めてですけれども、独立した人権機関を作って、そ の中で障害の問題を扱っていくことの二つが最重要事 項です。それは我々 5 名が合意して非常に重要なフォ ローアップ事項という、1 年以内に報告してください という事項として取り上げました。 ただ全般として私がもう少し、これも重要だなと思 いましたのは、「意識の向上」、8 条に関するところで した。これは台湾の障害者団体・市民社会からご指摘 があったのですけれども、例えば、バリアフリーは台 北の地下鉄等進んでいて、それは非常に素晴らしいと 思います。ただバリアフリーの枠組み自身がまだまだ 社会モデル的な、社会の障壁を除去することで障害者 の人権を確保する、という社会モデル、もしくは権利 委員会はよく人権モデルという言葉を使ってますけれ ども、そうした枠組みにまだまだなってない気がする んですね。いろんな施策、バリアフリーにするにして もその枠組みが、まだまだ慈善モデル、親切にしてあ げるというアプローチが強い。 それは日本もまさにそうですけれども、一朝一夕に 変えられるものではないんですけれども、そこを、一 つ優先的な課題として取り組んでいくということは必 要で、それは大きな課題じゃないかと思いました。条 文的には、8 条の「意識の向上」で、特に総括所見 31 (b)、「障害者への否定的な画一的見方を具体的に対象 にした公衆の意識啓発プログラム」の実施だと思いま す。もっと具体的には、「マスコミや司法制度をはじめ とする公務員、警察」、障害者にいろんな、医療サービ スを提供する人達、これは優生学的なものとも一番関 施されていて、それは素晴らしいことだと思うのです が、特にまだまだ大きな課題として、根っこの意識の 部分を社会モデル的、人権モデル的なものに変えてい くのは、一つ大きな課題かなと思いました。 高:課題としては色々な課題がありますけど、だいたい 長瀬先生がおっしゃったようですよね。そして、イン クルーシブ教育も問題になっています。普通学級に 行っても、支援が足りないこともかなりあって、だか ら障害の学生が教室に座るままで、それは今も問題に なっています。ある例として、直近の新聞記事があり ました。今年(2018 年)4 月に、台湾で障害者向けの 公務員試験がありました。ある視覚障害の方は事前に 試験主催の政府側(考試院)に、自分の必要なニーズ、 試験用紙の字体の大きさは 20 にする必要ということ を申し込みました。政府側も「試験用紙の字体が拡大 できる」と答えましたけど、試験の当日に、その視覚 障害者がもらった試験用紙の字体が、事前に申し込ん だ時の返答とは全然違い、その試験が続けられなかっ たので、受験を止めてしまいました。その後、政府側 からはその視覚障害のある方に連絡して、今回の件は 無しにして欲しいということもありました。障害者権 利条約の審査会議を行っても、政府の中に意識がまだ 変わっていない公務員もいらっしゃいます。これが今 一番の問題になっているかなと思います。 立岩:高さんの報告の中で、このプロセスの中で障害者 団体間の差異とかそういうものがあらわになったと か、そういったことがあったというふうに仰ったと思 いますけれども、それは具体的にはどういったこと だったのか、教えていただけますか。 高:台湾では、障害者の自立生活運動は 2007 年から始 まったと言えます。その時から、若年層の障害者運動 が始まりますが、その運動より以前に障害者福利法を 改正するために、台湾の障害者にかかわる当事者や団 体も運動を行いました。新たな障害者運動にかかわる 人たちは、以前の障害者団体がやっていることを、あ まり認めないこともありました。自分が台湾の障害者 運動の先駆者と思っている人もいます。今回の審査の 時も、新たな運動団体と昔からの運動団体が、争うとで、一緒にパラレルレポートを出しました。今回のパ ラレルレポートは、主に三つの団体が集まって提出し ました。おおまかに言うと、三つの団体に分けていま した。その中には、障害者連盟を中心に、昔からの運 動団体が集まって 1 部のパラレルレポートを提出しま した。そのほか、新たな運動団体も集まって、1 部の パラレルレポートを提出しました。 立岩:ありがとうございます。このレポートっていうの は、どこかで全文を、まあ中国語はなかなか僕ら分か らないんで、英語なり、どういうふうに見れたりする のかなとか。 長瀬:今日お配りさせていただいた第 1 条から 12 条まで は、前号の『福祉労働』に掲載をしました。次号の掲 載のために今、13 条から 24 条ぐらいまでを次号の『福 祉労働』に掲載、残りをさらに次々号に掲載し、その 後、ある程度時間がたった段階で、arsvi.com に、翻訳、 日本語に翻訳したものを掲載したいと思います。 立岩:ありがとうございました。そういうことになった らまた、紹介させていただきますし、『福祉労働』に出 るみたいなので、『福祉労働』買って、関心のある方は 読んでいただければと思います。