明治 32 年所得税法における納税主体―法人所得に対する所得課税の導入―(2・完)
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(2) 134 (398). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). た条約改正 が 初 めて行われた.同条約は,同. 地ニ資産營業又ハ職業ヲ有スルトキハ其ノ所得. 年 8 月 24 日批准,同年同月 27 日公布の上,明. ニ付テノミ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス」. 治 32 年 7 月 17 日から施行された.この条約に. 若槻は,政府原案における我が国の所得税の. より,領事裁判権が撤廃されたほか,関税自主. 納税義務者すなわち課税権の及ぶ範囲を, 「日. 権を部分的に回復し,さらに日英両国間での旅. 本ニ現在住ンデ居ルト云フ人ガ納税ノ義務ガア. 行や居住の自由が認められることとなった112).. ルノデアル,假令日本人デモ外國ニ居ル以上ハ. すなわち,この条約改正に伴い,外国人が本法. 義務ハナイガ,其代リ外國人デモ日本ニ住居ヲ. 施行地内に在留するいわゆる内地雑居が実現し. 持ッテ居ル以上ハ籍ガ外國人デアルト云フタメ. たのである113).. ニ納税ノ義務ハ免レナイノデアルト云フコト. 政府委員の若槻禮次郎は,明治 31 年 12 月 13. ヲ原則」115)とすると述べ,納税義務の存否は,. 日第 13 回帝国議会衆議院所得税法改正法律案. その者の国籍に因るのではなく,その者が国内. 審査特別委員会の冒頭で政府原案の趣旨説明を. に「住所」を有するか否かという居住性に着目. 行った114).この中で,まず,条約改正に伴い新. するとした.さらに,「現在住居シテ居ナクテ. たに広がった外国人への課税について,明治 20. モ,日本ニ營業スルナリ,或ハ・・・財産ヲ以. 年所得税法が規定していない点であることを. テ所得ガアルナラバ,其財産及營業カラ生ズル. 指摘し,改正法において納税義務者の定義と課. 所得ハ矢張リ日本ノ國法ニ従ッテ所得税ヲ納メ. 税所得の範囲を明示するとした.政府原案は,. ル義務ガアルト云フコトヲ定メマシタノガ納税. 第 1 条および第 2 条に納税義務者の範囲の定め. ノ義務ノアル範圍ヲ定メマシタ點」116)である. を置き,次のように立案した.. とし,たとえ国内に居住していない者であっ. 【政府原案による第 1 条および第 2 条】. ても,その所得の源泉が国内にある場合には,. 「第一條 帝國内此ノ法律施行地ニ住所ヲ有. 我が国の所得税法に従ってその所得に対して納. シ又ハ一箇年以上居所ヲ有スル者ハ此ノ法律ニ. 税義務が生ずるとしたのである.なお,若槻が. 依リ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス」 「第二條 前条ニ該當セサル者此ノ法律施行 . 112)日英通商航海条約第 1 条 に は,「兩締盟國 ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圓内何レノ所ニ到リ, 旅行シ或ハ住居スルモ全ク随意タルヘク而シテ其 ノ身體及財産ニ對シテハ完全ナル保護ヲ享受スヘ シ」とし,両国相互に旅行および居住の自由が定 められている.大蔵省印刷局編,前掲注(15),1 頁. 113)稲生典太郎『内地雑居論資料集成 1 』3 頁 (原書房,1992 年)によれば,「『内地雑居論』とい うのは,幕末より明治中葉─概ね明治三十二年の 所謂新条約実施に至る間に,かの『条約改正論』と 表裏一体をなして論ぜられた,当時の民間外輿論 の代表的なものの一つの謂いである」とし,「条約 改正論が正面切っての建て前的政治外交論である とすれば,内地雑居論は土俗的な本音の民族感情 論と即物的現実論となる」とする. 114)衆議院『第十三回帝国議會・衆議院所得 税法改正法律案審査特別委員會速記録(第一號) (明 治三十一年十二月十三日)』1 頁(衆議院事務局, 1898 年).. 「今度法人個人ヲ問ハヌデ一條二條ニ義務ヲ定 メタノデアリマス」117)と説明している通り,当 該政府原案における納税義務の有無の判断は, 法人についても同様に適用されるものであっ た.し た がって,明治 20 年所得税法第 1 条 が 「凡ソ人民ノ」118)として,その納税義務者を我 が国の国民という,いわば国籍で規律していた ことと比較すると,明治 32 年所得税法は,そ . 115)衆議院,同. 116)衆議院,同. 117)貴族院『第十三回帝国議會・貴族院所得税 法中改正法律案特別委員會速記録(第一號)(明治 三十二年一月十二日) 』1 頁(貴族院事務局,1898 年). 118) 「第一條 凡ソ人民ノ資産又ハ營業其他ヨ リ生スル所得金高一箇年三百圓以上アル者ハ此税 法ニ依テ所得税ヲ納ムヘシ 但同居ノ家族ニ屬ス ルモノハ總テ戸主ノ所得ニ合算スルモノトス」大 蔵省印刷局編,前掲注(1) ,217 頁..
(3) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). (399) 135. の者の本法施行地内の「住所」の有無に基づく. 所得税法上の「住所」が「生活ノ本據」である. 居住性と所得の源泉性という 2 つの局面から納. ことを明らかにしている.また,居所に関し. 税義務者と課税所得の範囲を規律するという点 で,我が国の課税権の及ぶ範囲の明確化が図ら. 1 年以上という年限を設けたことについては, 「住所ヲ有ッテ居ルト云フノハ本體デアリマシ. れたといえよう.. テ居所ト云フ方ハチョットシタモノデアルカラ. 両院の本会議において,納税義務者と課税所. 課税セヌ,最早一年以上モ居レバ住所ト云フモ. 得の範囲を定める当該第 1 条および第 2 条に関. ノニナルカラ夫レニハ課税ヲスルト云フ趣意デ. し,反対意見を唱える者は無く,最終的には政. 出来マシタノデ夫故ニ住所ニハ年限ヲ設ケナ. 府原案が修正されることなく可決した.ただ. イ」122)とした.つまり,居所を有することになっ. し,その解釈については,いくつかの質疑応答. た者に直ちに課税を行うことはないが,居所で. があった.まず,第 2 条に定める本法施行地内. あっても「一ヶ年以上モ日本ニ居ルナラバ既ニ. に住所を有しない者に対し「其ノ所得ニ付テノ. 其人ハ住所ニ似寄ッタモノヲ日本ニ定メタモノ. ミ」納税義務が生ずる点である.これに対し,. ト見做シテ」123),1 年以上という具体的な期間. 若槻は,「第一條ニ於テ人ガ日本ニ居ナケレバ. を明示することによって,その居所を住所に相. 課税シナイト云フコトヲ原則ニ現ハシ」119)と. 当するものとして定めたとみなして合理的に納. 述べるが,この原則のみでは,国内に住所を持. 税義務が生じると規定したのである124).. たずに国内で営業や職業活動を行い,財産を所 有することによって所得を得る者には納税義務 が生じないこととなるため,国内に住所を有す る者との間で課税上不公平が生ずる点を挙げ た.したがって,若槻は第 2 条によって課税が 及ぶ範囲について, 「日本ニアルダケノモノニ ハ課税スルト云フヤウナコトニシタイノガ第二 條ニ書イテアルノデス,ソレデ『ノミ』トシテ アリマスノハ,日本ニアルダケノモノニ課税ス ル,向フニアルモノニハ課税セヌト云フコトヲ 規定シ」120)と説明し,国内に住所を有しない 者であっても,その者の国内において生じた所 得に限っては課税対象とすると述べた. 次に, 「住所ヲ有シ又ハ一箇年以上居所ヲ有 スル者」における,住所と居所の相違点につい てである.若槻は,住所とは, 「民法ナドデモ 既ニ定メテゴザイマス通リニ生活ノ本據ノ在ル 所ガ住所デゴザイマスノデ,日本ノ此法律ノ施 行サレマスル所ニ以テ來テ自分ノ生活ノ本據ヲ 設ケル,斯ウ云フコトニ致シマス」121)と述べ, . 119)衆議院,前掲注(114),3 頁. 120)衆議院,同. 121)貴族院,前掲注(84) ,7 頁.ただし,若槻. . の 説明 の「住所」が,①所得税法上 の 固有 の 概念 ととらえるべきか,②民法からの借用概念ととら えるべきかは明白ではなく,いずれの解釈も妥当 するようにみえる. 122)貴族院,同. 123)貴族院,同. 124)居所 は,民法上次 の よ う に 規定 す る.明 治民法第 22 条「住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所 ヲ 以 テ 住所 ト 看做 ス」 .ま た,同法第 23 条「日本 ニ住所ヲ有セサル者ハ其日本人タルト外國人タル トヲ問ハス日本ニ於ケル居所ヲ以テ其住所ト看做 ス但法例ノ定ムル所ニ從ヒ其住所ノ法律ニ依ルヘ キ場合ハ此限ニ在ラス」と規定し,日本に住所を 有しない者は,居所をもってその住所とみなすと している. 梅,前掲注(33) ,60 頁及び 61 頁によれば,居 所の趣旨は,住所を規定した前条 21 条で, 「専ラ 事實ニ依リテ住所ヲ定ムルノ主義ヲ執レンカ故ニ 實際住所ヲ有セサル者ハ有ルヘカラサルカ如シト 雖モ一處不在,各地ヲ流浪スル者ニ至リテハ往往 其住所ト認ムヘキ土地ナキ場合アルヘシ是レ本條 ノ規定アル所以ナリ」としている.また,23 条に ついては,「外國ニ住所ヲ有スル者ニ付テハ日本ニ 於テ上ニ述ヘタル効力ヲ其住所ニ付スルトキハ實 際ノ不便少カラサルカ故ニ特ニ本條ノ規定ヲ設ケ テ居所ヲ住所ニ代用セリ」とし,外国に住所を有 し国内に居所を有する者には,住所によって効力 が生じるものについて,その居所を住所と代用す ると説明している..
(4) 136 (400). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). 上述のように,内地雑居は,具体的に外国人. か,が争点となったのである.なお,政府原案. の流入を伴う本格的なグローバル化の第一歩で. による第 3 条127)は,課税の対象となる所得の. あり125),一般市民における最も身近で実質的な. 種類を 3 種に分ける分類所得税であり,そのう. 「開国」であったと考えられる.このように,. ち 第 3 種 の 所得 は,300 円以上 か ら 10 万円以. 未曾有 の 社会的構造変化 を 嚆矢 と し て,明治. 上の所得範囲に 12 の税率段階を設け,各々単. 32 年所得税法 に お け る 納税義務者及 び 課税所. 純累進税率を定めた.. 得の範囲は,外国人であるか否かを問わず. 126). ,. 【政府原案による第 3 条】. 住所及び国内源泉所得の有無により規律される. 「第三條 所得税ハ左ノ税率ニ依リ之ヲ賦課ス. こととなったのである.. 第一種 法人ノ所得 千分ノ二十五 第二種 此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ爲ス公. 3. 2 明治 32 年所得税法 に お け る 公債社債 の 利子にかかる所得の位置づけ. 債社債ノ利子 千分ノ二十 第三種 前各種ニ屬セサル所得. 明治 32 年所得税法成立へ向けた帝国議会で,. 十萬圓以上 千分ノ五十五(中略). 最も時間を費やした論点が,第 3 条に第 2 種と. 三百圓以上 千分ノ十. して立案した公債社債の利子に対する所得への. 戸主及其ノ同居家族ノ所得ハ第三種ニ限リ之. 課税方法であった.つまり,当該公債社債の利. ヲ合算シ其ノ總額ニ依リ本條ノ税率ヲ定ム戸主. 子に対する所得を第 2 種として独立した種別の. ト別居スル家族二人以上同居スルトキ亦同シ」. 所得として取り扱うべきか,それとも明治 20. 政府委員の若槻禮次郎は,政府原案の概要説. 年所得税法と同様に個人の所得に含めるべき. 明に際して,第 3 条が 3 種の分類を設ける意図. . 125) 『時事新報(第五千六百六號) (明治三十二 年七月八日) 』3 頁(時事新報社,1899 年)で は, 条約改正に伴う外国人課税の問題に関し 2 つの記 事が掲載されている.①「改正條約と外人課税」で は, 「本邦居住外人は總て我國の法律に依りて支配 せられ各種の課税を免るべからざる事勿論なれ」と し,居住外国人にも邦人同様に課税が行われること を伝えている.②「諸税法と居留外人」では,居留 外国人に対して税法の主旨を英語,中国語等に翻訳 したもので質問者に示し犯則者がないようにして いると伝える.また所得税法にかかる調査員につい て「横濱神戸の如き居住外人の多き所にては或は外 人の調査委員に擧げらるヽこともあるならんと云 ふ」として,横浜神戸といった地域での外国人の調 査員登用の必要性も示唆している. 126)『日 本(明 治 34 年 7 月 4 日)〔復 刻 版〕』 ( 『明治 ニュース 事典第 6 巻』321 頁, (毎日 コ ミュ ニケーションズ,1985 年) )によれば,横浜在留外 国人の中に我が国の法律に服さず納税をしないも のがあったとし, 「マーテン氏は所得税及び営業税 の納入を拒み居りしが,これまた同日納入の手続き をなしたる由.もっとも外人中には,同人等の外 三十二, 三名あるが,いずれも至急に手続きをなす べしとて,市役所より催告したりと. 」と,在留外 国人に対する具体的な調査と徴収がなされていた ことを伝えている.. について,「會社ノヤウナモノヲ一ト通リニシ, ソレカラ公債ノ利社債ノ利トカ云フモノヲ簡便 ニシタイト云フノデ,サウ云フモノヲ一ノ種類 トシ,此二ツヲ除イテ其他ノモノヲ別ノ種類ト シテ詰リ三通リニ分ケテ税ヲ取ル」128)と説明し た.特に公債社債の利子については, 「先キニ 四十二條ノ所ニ規定ガアリマス通リ,是ハ仕拂 ヒマス時ニソレダケ差引イテ仕拂ヒ,サウシテ 政府ヘ徴収スルト云フヤウナ便宜ヲ設ケタイ」 と述べ,源泉分離課税の導入を示唆した129). 上述の通り,政府原案では,第 3 条上,第 1 種として法人の所得,第 2 種として本法施行地 において支払われた公債社債の利子にかかる所 得,そして第 3 種として第 1 種および第 2 種以 . 127)衆議院,前掲注(27) ,19 頁. 128)衆議院,前掲注(114) ,1 頁. 129)衆議院,同.政府原案 に 規定 す る 第 42 条 では,第 2 種の所得に関する所得税の徴収方法は, 「第二種ノ所得ニ付テハ其ノ金額支拂ノ際支拂者其 ノ所得税ヲ徴収シ其ノ都度之ヲ政府ニ納ムヘシ」で ある.衆議院,前掲注(27) ,21 頁..
(5) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). (401) 137. 外の個人の所得と,3 種類に分類して課税する. ノハ無記名,是カラ追々無記名バカリニナッテ. こ と を 提示 し た.と こ ろ が,明治 31 年 12 月. 仕舞フデアラウ,シテ見ルトナカゝ之ヲ脱税ノ. 13 日 に 行 わ れ た 衆議院所得税法改正法律案審. ナイヤウニスルト云フコトハ殆ドムヅカシイコ. 査特別委員会を経て,同年同月 24 日に行われ. トデアラウト思フ,依テ是ハ最初ニ引クト云フ. た衆議院本会議では,当該第 2 種の所得を削除. コトハ極ク簡便ナ方法デ必要ナ處置デアラウト. されることが提案され,そのままほぼ異議なく. 思 フ」132)と 述 べ た.つ ま り,今後無記名 の 公. 可決したのである.つまり,衆議院は,課税の. 債の発行が増加することを念頭に置けば,公債. 対象となる所得を法人の所得と個人の所得との. 社債の利子への課税には,源泉分離課税を導入. 2 種類とし,政府原案の「本法施行地内におい. することこそが,実質的に脱税の排除に寄与. て支払われた公債社債の利子にかかる所得」 は,. し133),かつ簡便な方法であると強く主張した. 個人の所得に含めることを選択したのである.. のである134).また,曾我祐凖は,我が国に居. その理由は,主に 2 つあった130).1 つ目は,政. 住していない外国人が公債を所有している場合. 府原案の「本法施行地内において支払われた公. を想定し,「此修正ニナッテ見マスルト云フト. 債社債の利子にかかる所得」が,明治 20 年所. 公債ノ利子ヲ渡ストキニ税ヲ取ルノデナクテ向. 得税法において,既に個人の所得のうちの 1 つ. フデ所得ニナッテカラ取ル譯デアリマスガ,外. として課税が実施されており,特別に独立させ. 國人ニシテ外國ニ居ッテサウシテ日本ノ公債ノ. て課税することが必要ではないとしたことであ. 利子ヲ得ルモノガアレバソレハ税ガ掛ラナイト. る.2 つ目は,仮に政府原案どおりに第 2 種と. 云フコトニナリマス」135)と疑問を呈し,政府. して別個に課税するとした場合,少額の公債社. 原案のように公債の利子の支払いの段階で課税. 債を所有する者にさえも,その少額の利子に千 分の二十の税率を課し,必ずこれを徴収するこ ととなるので,その事務が煩雑であるというこ とであった.さらに,免税点なく,公債の所有 者すべてに納税義務が生ずるとしたならば,公 債の価額が下がるのではないかと憂慮した意見 が,当該反対意見を後押ししたのである. しかし,明治 31 年 12 月 27 日から始まった 貴族院本会議およびこれに続く貴族院所得税法 改正法律案特別委員会では,当該衆議院の結論 に反対し,公債社債の利子にかかる所得の源泉 分離課税に対する賛成意見が相次いだ. 尾崎三良131)は,分類所得税を趣旨とする政 府原案を評価したうえで, 「公債ナドト云フモ . 130) 『第十三回帝國議會・衆議院議事速記録(第 十四號) (明治三十一年十二月二十四日)』140 頁(衆 議院事務局,1898 年),瀧口蹄一発言. 131)尾崎三良 は,明治 20 年所得税法 の 成立時 においても,明治 20 年 2 月 2 日元老院第一読会に て 全部付託調査委員,同年 2 月 23 日元老院第二読 会にて全部付託修正委員を任命されており,所得. . 税法創設に深く関与した人物の 1 人である.尾崎 は,明治 32 年における所得税法の全文改正にあた り,その創設時の議論や現状生じることとなった 問題点を踏まえて発言を行っており,創設時から の通時的な課題解決に大きく貢献したと考えられ る.明治法制經濟史研究所編,前掲注(2) ,151 頁. 132)貴族院,前掲注(117) ,3 頁. 133)尾崎によれば,「株式ト云フモノハ今日ハ 先ヅ記名ノモノバカリデアルカラ脱レヤウハナイ ノデ,所ガ此公債ト云フモノハ多ク無記名デアル ニ依テ脱レ易イノデ…一體法律ノ上カラ成ルベク 脱税者ノナイヤウニシヤウト云フコトノ考ヲ付ケ ナケレバナラヌ」として,当時専ら無記名の公債 の利子について,脱税者が生じていたことを指摘 し て い る.貴族院『第十三回帝國議會・貴族院議 事速記録(第十號) (明治三十一年十二月二十七日) 』 84 頁(貴族院事務局,1898 年) . 134)尾崎三良 は,同趣旨 を 貴族院所得税法改 正法律案特別委員会および本会議で,一貫して主 張し続けた.貴族院,同および貴族院,前掲注(84) , 8 頁. 135)貴族院,前掲注(133) ,86 頁および 87 頁. な お,当該曾我 の 発言 に 対 し,政府委員目賀田種 太郎も,政府原案でなければ我が国に居住してい ない外国人に対して課税できなくなることを認め ている..
(6) 138 (402). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). を実施しなければ,我が国に居住していない外. 138) 税スル」. 国人が,公債から生ずる利子にかかる所得につ. としたのである.つまり,諸外国の例139)に倣. いて課税を免れる点を指摘した.. い,法人と自然人たる個人が別の「人」である. 最終的に,明治 32 年 1 月 16 日貴族院所得税. と捉えれば,法人が稼得した所得と個人が配当. 法中改正法律案特別委員会において, 水野遵が,. として受領した金額の両方に課税されるべきで. 第 3 条第 2 種である公債社債の利子にかかる所. ある.しかし,法人所得課税の導入期であるこ. 得を源泉分離課税とする政府原案の復活を提案. とに鑑み,政府原案は,敢えて法人所得に対し. し,これが可決された.さらに,同案は,明治. てのみ課税し,個人への配当に課税を行わない. 32 年 1 月 31 日衆議院本会議においても可決さ. ことで二重課税を想起させるような課税方法を. れたので,結果的には政府原案を承認する形で. 回避することを選択したのである140).. 成立することとなった.したがって,このよう. 具体的な取扱いは,政府原案の「第三条 所. な議論の末に,公債社債の利子にかかる源泉分. 得税ハ左ノ税率ニ依リ之ヲ賦課ス 第一種 法. 離課税は,明治 32 年所得税法においてはじめ. 人ノ所得 千分ノ二十五」として法人所得課税. て導入された.. および比例税率を明らかにし,また,非課税所 得として「第五条七 此ノ法律ニ依リ所得税ヲ. 3. 3 法人所得課税と配当の取扱い. 課セラレタル法人ヨリ受クル配當金」と規定. 明治 20 年所得税法は,個人所得のみを課税. することで配当の非課税141)を実現させている.. 対象としたが,明治 32 年所得税法の政府原案. すなわち,同法の適用を受けた法人から受領す. は,第 3 条の第 1 種として法人所得を定め,第 2 種の公債社債の利子と同様に,その源泉であ る法人所得に法人段階で課税する方針を示し た. 政府委員の若槻禮次郎は, 法人所得について, 株券を有し配当を受領する個人段階で課税する のではなく,所得の源泉である法人段階で法人 所得に課税することについて, 「會社ノ方デ取 レバ繁雑ガ少イ」136)と述べている.その理由 は,「法人ト私人トハ別人デアルカラ,法人ニ モ課税シ配當ヲ受ケル其人ニモ課税スルト云フ ノガ,法律ノ公平ナルモノデアル」137)のであ り, 「英吉利デモ独逸デモ皆サウヤッテ居リマ ス」としながらも, 「日本デハ法人ニ課税ヲシ テ配當ヲ受ケタ人ニ課税ヲシナイ」のは,これ まで法人所得課税が行われてこなかったことや 「人ガ違フカラ二重デハナイガ,稍々二重ノ如キ 感ヲ持ツカラ法律ヲ改正スルノニ,サウ一足飛ヒ ニ行カズニ…一個人カラハ取ラヌノデ,法人ニ課 . 136)衆議院,前掲注(19) ,3 頁. 137)衆議院,同.. . 138)衆議院,同. 139)片岡政一は, 「大陸系諸國の法人課税」につ いて, 「法人實在説の支持に基き,法人を自然人に 對立したる獨立の納税主體と認め,法人自體に擔税 力の標識を求め之に對し累進課税を爲すと同時に, 法人より分配さるヽ所得は之を社員權なる別個の所 得源泉より流出する資産所得と認め,法人自然人間 に人格的紐帯を觀念しない. 」と説明する.片岡政 一『税務會計原理』30 頁(文精社,1935 年) . 140)このように法人段階で法人所得に対して課 税 し,個人段階 で 配当 に 課税 し な い 方法 は,明治 17 年 12 月 に,大蔵卿松方正義 か ら 太政大臣三條實 美へ上申された「所得税則」の内容と一致する.こ の法案に附された当該法案に附された「所得税則説 明書」では, 「 (總説)所得税トハ會社又ハ一個人ノ 資産若シクハ勞力ヨリ生ズル一ケ年間ノ純益金高ニ 課税スルモノナリ」と述べ,所得税は,会社または 個人の資産もしくは勤労より生ずる所得に課する税 であることが明記されている.なお, 「所得税則説 4 4 4 4 4 4 4 4 4 明書」の総説では, 「會社ヨリ受クル利益(配當金) 等ハコノ税ヲ免除スルモノトス(傍點阿部) 」とし, 「會社」の所得には課税する一方で, 「會社」から受 領した配当は,株主の個人所得として課税されない ことと規定していた.阿部,前掲注(13) ,245 頁. 141)配当を非課税とすることで,直接国税の納 付額が減り,公民権を失う者が出るのではないかと 危惧する意見も出たが,若槻は「配當金ノミデハ公.
(7) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). (403) 139. る配当については,個人段階で課税されないの. そして,政府原案は,非課税所得を規定した. である.. 第 5 条に関し,「第五條六 外國又ハ此ノ法律. なお,法人所得課税が,千分の二十五の比例. ヲ施行セサル地ニ於ケル資産營業又ハ職業ニ依. 税率 と し た 理由 は,政府委員目賀田種太郎曰. ル所得但シ此ノ法律施行地ニ本店ヲ有スル法人. く,法人というものは大小あるが「大抵此先ヅ. ノ所得ヲ除ク」と定め,本法施行地内に本店を. 一個人ト致シマシテ五千圓以上ノ邊ノ所ガ片ッ. 有する法人の国外源泉所得は非課税所得から除. 方ノ法人ニ匹敵スルヤウニ思ヒマシテ…通ジテ. 外され課税所得とするとした.. 142). 是ハ一率デ然ルベキ」 だからである.つまり,. 衆議院議員望月長夫は,この第 5 条第 6 項の. 法人所得の平均金額を一個人の 5 千円の所得の. 本文と但し書きとの関係に対し,次のような例. 段階に相当すると想定すると,その税率が千分. 示で課税の存否に関する質問を行った.「例ヘ. の二十五であるので143),累進税率ではなく144). バ三菱合資會社ト云フ名前デ本店ヲ此方ニ持ッ. 比例税率を適用することとしたのである.. テ居テ,サウシテ外國ニ店ヲ有シテ居ルト,其. . 権ヲ得テ居ル人ハ極メテ少クハナイカ」と述べ,影 響がないとしている.貴族院『第十三回帝國議會・ 貴族院所得税法中改正法律案特別委員會速記録 (第一號) (明治三十二年一月十二日) 』5 頁(貴族院 事務局,1899 年) .なお,大日本帝国憲法第 35 条は 「衆議院ハ選擧法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル 議員ヲ以テ組織ス」 〔大蔵省印刷局編『官報號外(明 治二十二年二月十一日) 』4 頁(内閣官報局,1889 年) 〕と 定 め,衆議院議員選挙法明治 22 年 2 月 11 日法律第 3 号の第 6 条に選挙人の資格を掲げる〔大 蔵省印刷局編,同 9 頁〕 .選挙権 は 年齢満 25 歳以上 の「日本臣民」の 男子 で 直接国税 15 円以上 を 納 め る 者 と 規定 す る.明治 23 年 7 月 1 日,第 1 回衆議 院議員総選挙における有権者数は,全人口のわずか 約 1.1%に過ぎなかった. 「国民参政 125 周年・普選 90 周年・婦人参政 70 周年選挙 の あ ゆ み こ れ か ら」 総務省 179 号 2 頁,4 頁(2015 年) . 142)貴族院,前掲注(133),87 頁. 143)大蔵省編纂『明治大正財政史第六巻』1223 頁(財政經濟學會,1937 年)の 第 1 表累年所得税 表 に よ れ ば,明治 32 年度 の 第 1 種所得金額 の 総 計は,60,809,987 円で,この納付人員は 6,133 名で あった.し た がって,平均所得金額 は 9,915 円 で, 個人所得である第 3 種所得に照らすと,5 千円以上 1 万円未満 の 税率段階 に 入 り,そ の 税率 は 千分 の 二十五である.このように,法人所得に対し定め た税率は,明治 32 年度の結果と符合するため,ほ ぼ想定どおりであったと考えられる. 144)若槻禮次郎 に よ れ ば,法人所得 に 累進税 率による課税を採用しなかった理由は,規模の大 きな法人が大きな収入を得たとしても,その使用 している資本の金額に対していうと僅かな利益に しかならないため,累進税率によって課税するこ とは穏当ではないからであると説明している.貴 族院,前掲注(141),4 頁.. 外國ノ店ノ収益ハ矢張本店ノ總益金ノ中へ勘定 シテ課税スルケレドモ,岩崎彌之助ト云フ一個 人ノ名前デ外国ニ店ヲ持テバ,其外國ノ店ノ 収益ニハ課税セヌ」145).若槻は,この国外源泉 所得に関する「個人」および「法人」に対する 課税可否の例示に対し,当該第 5 条第 6 項の解 釈がまさにこの例示の通りであると述べた.つ まり,当該但し書きの主意は, 「法人デアリマ スト云フト,總テ總勘定ヲシテ總體ノ計算ノ上 デ,損益ヲ勘定スルコトニナッテ居ルモノデア リ…本店デ一纏メニシテ總決算ヲシタ,ソレ ニ就イテ課税シテ行クト云フコトガ便利デ」146) あるので, 「法人」については本店で総決算し た所得に課税するのが便利であるので国外源泉 所得も課税対象となると述べる.なぜなら,「法 人ノ決算ト云フモノハ,決算期毎ニ其決算期ノ 計算デ課税」するので「總體ノトコロデ課税 ヲシタガヨカラウ」147)という理由からである. つまり,法人所得は各事業年度の決算を通じて算 出されるので,国外の損益も含めて本店で計算 し,これに課税するという考えを示したのである. また,第 5 条第 6 項の本文は,ちょうど第 2 条と表裏の関係であるとし,「第二條ガ外國ニ 居ル人デモ此方ニ資産ガアレバ,其資産ダケハ . 145)衆議院,前掲注(114) ,4 頁. 146)衆議院,同. 147)衆議院,同..
(8) 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). 140 (404). 課税スルト斯ウ云フコトヲ第二條ニ定メタト同. 3. 4 小 括. ジク,又此方ニ居ル人デモ資産ガ向フニアレバ. 本章では,明治 32 年所得税法の成立にあた. 向フノ政府デモソレニ課税スルト云フコトニ. り中心となった 3 つの論点を取り上げ,同法の. ナッテ居ルニ相違ナイカラ,外国ノ課税ハ日本. 立法趣旨とその議論の変遷を整理した.まず,. ノ方カラ見レバ或ハ一ノ支出デ重複シタ所ガ構. 「内地雑居と納税義務者の範囲」では,その納. ハヌト云フコトガアルカモ知レマセヌガ,其人. 税義務者が,明治 20 年所得税法でいわば我が. 一己人ニ取レバ随分負擔ハ重クナル勘定デスカ. 国の国民であるか否かという国籍による規律か. ラ,ソレデ向フニアル所得ニハ又ソレ相應ナ負. ら,新たに住所または国内源泉所得の有無とい. 擔ガアルニ相違ナイカラ,ソレハ課税セヌ方ガ. う 2 つの判断基準へと大きく転換したことをま. 148). 宜カラウ」 と述べた.すなわち,第 2 条では,. とめた.また,「明治 32 年所得税法における公. 国内に住所を有しない者であっても当該国内に. 債社債の利子にかかる所得の位置づけ」では,. おいて稼得した所得には本法により課税される. 当該所得が,分類所得税上独立した種別となる. のであるから,いわばその裏側に相当する,国. のかそれとも従来どおり個人所得の一部とされ. 内に住所を有する者が国外において稼得した所. るのか二転したが,今後無記名の公債社債の発. 得に対しては課税しないとしたのである.つま. 行が増えることや外国人による投資も考慮し,. り,国内に住所を有する者は,国外で稼得した. 最終的に第 2 種所得として源泉分離課税が導入. 所得に対しその所得の源泉地国での所得課税が. されることとなった経緯を整理した.そして,. ,同一所得に対する国際的. 「法人所得課税と配当の取扱い」では,法人所. な二重課税を回避する観点から,個人が本法施. 得は,政府の意図として第 2 種所得に対する課. 行地外で営業や資産,職業によって稼得した所. 税の方針同様,その法人所得の源泉たる法人段. 得には非課税とすることとしたのである.. 階で課税することを確認した.法人所得課税は,. 想定されるため. 149). そ の 後大正 9 年全文改正 に 至 る ま で,明治 32 . 148)衆議院,同. 149)国内に居住する者が,国外で稼得した所 得に対して,その源泉地国で所得課税されること への気づきは,既に明治 20 年所得税法創設時の議 論にみられる.村田保は,明治 20 年 3 月 1 日元老 院第二読会にて,自身が日本政府の命により法律 調査にベルリンへと赴いた際の,国際課税にまつ わるエピソードを述懐している.村田は,ベルリ ンの収税員から「日本人及ヒ何國人ニ論ナク現ニ 普漏士國ニ來リ居レハ納税セサル可カラス殊ニ日 本政府ノ命ヲ以テ我國ノ法律ヲ取調ルナレハ其業 務ノ爲メニ得ル俸給ニハ當然ニ納税スクヘ若シ不 服トナラハ市廳ニ出訴セヨ」〔明治法制經濟史研究 所編,前掲注(2),205 頁〕といわれ,3 か月分の 所得税 70「マ ル ク」を 徴収 さ れ た.こ の こ と は, プロイセンの法によって,彼の地で外国人である 村田が,納税義務者と判断されたことを示し,課 税が及んだことを明らかにしている.つまり,非 居住者にも国内源泉所得に対し課税されたことを 示している.村田の発言には,国際課税の観点に 立ち,勤労所得に関する源泉地国課税にまつわる 発見があったことを示唆している.. 年所得税法に改正を加えつつ,所得税法の目的 から法人の性質により 2 種の区分を設け,それ ぞれ異なった課税方法を実施している.そこで 次章 で は,明治 32 年所得税法 か ら 大正 9 年全 文改正前までの経過を整理し,法人所得課税導 入期における法人所得課税の変遷と構造を検証 する. 第 4 章 明治 32 年所得税法から大正 9 年全文 改正前までの経過 明治 32 年所得税法施行後,法人所得課税 に 変更を加えたのは,日露戦争の戦費調達を目的 とした非常特別税法の創設および改正であっ た.こ の 非常特別税法 は,明治 37 年 4 月 1 日 法律第 3 号 150)(以下, 「明治 37 年非常特別税 . 150)明治 37 年 4 月 1 日法律第 3 号.大蔵省印 刷局編『官報第六千二百二十二號(明治三十七年.
(9) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). 法」 )により公布され,同日より施行された.. (405) 141. の性質を整理する.. 同法は各種租税の増徴または新設を行い,所得 税法については,第 1 種所得である法人所得と 第 3 種所得である個人所得に対して,従前の税額 のほか更にその 7 割を増徴することを定めた. 151). 4. 1 明治 38 年非常特別税法 に お け る 法人所 得の区分. .. ここでは,明治 38 年非常特別税法における. 非常特別税法は,翌年 1 月には第二次増徴と. 法人所得の区分と政府原案におけるこれら区分. し て,明 治 38 年 1 月 1 日 法 律 1 号. 152). (以 下,. 「明治 38 年非常特別税法」と い う. )を もって 改正された.この改正の特筆すべき点は,法人. の法人の性質を整理する. 4. 1. 1 第 1 種所得における 2 種の法人区分と 税率. 所得課税に関し,第 1 種所得における法人を 2. 明治 38 年非常特別税法 は,第 1 種所得 で あ. 種の区分に分け,それぞれ課税方法と増徴割合. る法人所得に関し,法人を甲乙 2 種の区分に分. を異にしたことである.このように法人を 2 種. かちそれぞれの税率を増徴した.甲に属する法. に 区分 す る こ と は,大正 2 年 4 月 8 日法律第. 人とは,株主 21 人以上の株式会社又は株主及. 13 号所得税法中改正法律. 153). (以下, 「大正 2 年. び社員の数 21 人以上の株式合資会社であり155),. 所得税法」という. )においてもさらなる変更. 甲には従前の税額に加えその 15 割が増徴され. を加えて定められており,所得税法上の 「法人」. た156).一方,乙に属する法人とはその他の法. に対する課税の方針が示されている.したがっ. 人 す な わ ち 合名会社,合資会社,株主 20 人以. て,本章では法人に 2 種の区分を設けた,明治. 下の株式会社,株主及び社員の数 20 人以下の. 38 年非常特別税法 と 大正 2 年所得税法 を 取 り. 株式合資会社をいう.乙には,所得金額に応じ. 上げ 154),それぞれの立法趣旨と課税方法を整. 8 つの税率段階を設けた上で,それぞれの単純. 理し,2 種の区分が示唆する所得税法上の法人. 累進税率に 8 割から 40 割の増徴がなされた157).. . 四月一日)』1 頁(印刷局,1904 年).な お,同法 により法人所得に対する税率は,4.25%となった. 151)大蔵省編纂,前掲注(145),1001 頁 に よ れば,増税収入の大半は地租,所得税,営業税といっ た確実な財源に仰ぐことが絶対必要であったとし ている.また,戦時非常で急遽増税するにあたっ ては,誤謬を避けるためにも現行の課税標準を基 礎として増徴することを選択したとある. 152)明治 38 年 1 月 1 日法律第 1 号.大蔵省印 刷局編『官報號外(明治三十八年一月一日)』1 頁 (印刷局,1905 年).なお,同法により個人所得に かか る 第三種所得 は,10 の 税率段階 に 分 け ら れ, 10 割から 27 割の増徴がなされた. 153)大正 2 年 4 月 8 日法律第 13 号.大蔵省印 刷局編『官報第二百四號(大正二年四月八日)』173 頁(印刷局,1913 年). 154)大正 7 年 3 月 23 日法律第 5 号 は,法人所 得に対する各段階の税率を増加させているが,甲 乙の 2 種の区分の趣旨と課税方法は,大正 2 年所 得税法と同一である.このため,同法については 本稿 で は 言及 し な い.大蔵省印刷局編『官報第 千六百八十九號(大正七年三月二十三日)』458 頁 (印刷局,1918 年).. 【明治 38 年非常特別税法】 「第二條 左ニ掲クル租税ニ付テハ関係法規 ノ定メタル税額ノ外左ノ割合ノ税額ヲ増徴ス 三 所得税 . 155)条文上 21 人以上という人数は,法人の規模 の分界として示したものである.衆議院『第二十一 回帝國議會・非常特別税法中改正法律案外七件委 員會會議録(速記)第二回(明治三十七年十二月 六日) 』8 頁(衆議院事務局,1904 年) . 156)この増徴の結果,甲の税率は 6.25%となっ た. 157)乙の所得金額それぞれの増徴割合および これによる税率は,次のとおりである. 所得金額 5 千円未満(8 割増徴,4.5%) ,所得金 額 1 万円未満(9 割増徴,4.75%) ,所得金額 1 万 5 千円未満(10 割増徴,5%) ,所得金額 2 万円未満(12 割増徴,5.5%) ,所得金額 3 万円未満(17 割増徴, 6.75%) ,所得金額 5 万円未満(23 割増徴,8.25%) , 所得金額 10 万円未満(30 割増徴,10%) ,所得金 額 10 万円以上(40 割増徴,12.5%) .大蔵省印刷 局編,前掲注(152) ,1 頁..
(10) 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). 142 (406). 第一種 所得. 株主一人当たりの配当は多額ではないため,甲. 甲 株主二十一人以上又ハ株主及社員. に属する法人には比例税率で増徴するのが望ま. ノ數二十一人以上ヲ以テ組織シタ. しいと説明する.. ル株式會社又ハ株式合資會社 所. また,若槻は,合名会社や合資会社といった. 得税法ニ依ル税額十五割. 乙の法人に単純累進税率を適用する意図につい. 乙 其ノ他ノ法人. て,「合名會社,合資會社ト云フヤウナ,少數. 所得金額五千圓未滿 所得税法ニ. ノ人デ組織シテ,而シテ多大ノ利益ヲ得テ居ル. 依ル税額八割(中略) 所得金額十萬圓以上 所得税法ニ 依ル税額四十割」. 者ニ對シテ,累進ノ税率ヲ適用シタノハ,其物 ノ一箇人ノ所得税ノ,権衡ヲ取リマシタノデ, 之ヲ同様ニシヤウト云フ趣意カラ出マシタ,第. 4. 1. 2 政府原案における法人の性質. 二ニ…合名會社ナンド云フヤウナ少數ノ人デ組. 政府委員の若槻禮次郎は,明治 37 年 12 月の. 織シタモノデ,十万圓以上カラアルヤウナ所得. 第 21 回帝国議会で政府原案における第 1 種所. ノアル人ハ,餘程確實ナ營業ヲシ,又同時ニ確. 得の法人に甲乙 2 種の区分を設けた理由につい. 實ナ収入ヲ得テ居ル人デアリマスカラ,之ガ是. て次のように説明した.. ダケノ率ニナッタトキニ,歳入ガ減ッテ政府ガ. 「合名會社,合資會社,株主 ノ 数 ガ 二十人以. 豫期ノ歳入ヲ得ルコトガ出來ヌト云フコトハナ. 下ノ株式會社…サウ云フ所ニ澤山所得ノアル場. イ,必ズ取レルト云フ確信ヲ以テ立案ヲシマシ. 合ニ於テ,之ヲ配當致シマストヤハリ之ヲ受. タ」159)と 述 べ る.つ ま り,合名会社 や 合資会. クル人ハ相當ノ大ナル所得ヲ受ケルノデアリマ. 社が少人数の組織である点で,最終的に配当と. ス,是ニ反シテ乙ノ株式會社ハ所得ハ一應大キ. してその利益を享受する一個人に着目すると,. ク出テモ,之ヲ各株主ニ配當致シマスト,各株. 第 3 種所得として累進課税される個人事業者の. 主ノ受ケルモノハ左程大キクナラヌ,サウ云フ. 事業所得と権衡を保つ必要があり,このため単. 所ニハ累進率ヲ適用シテ,重クスルコトガ出來. 純累進税率の適用を企図したのである160).な. ルカラ,甲ニ在ルモノハ一律ニ増税シテ,乙ニ. お,政府委員の見地からは,明治 37 年当時の. 在ルモノハ配當ガ稍々大キナ歳入ガ得ラレルカ. 合名会社のうち十万円を超える所得を生じる事. ラ,之ヲ累進率ニシテ負擔セシメテモ宜イト云. 業を行っているものは,堅実な経営のもとで所. フノデス」 .. 得を得るためその担税力が期待でき,その税収. 若槻は, 株主が受領する配当の多寡に着目し,. が確実に歳入に繋がると確信できるものであった.. 158). 乙に属する合名会社,合資会社及び株主が 20 人以下の株式会社が大きな所得を得てこれを株 主又は社員に分配すると仮定すると,受領する 人数が少ないため一人当たり多額の配当を得る ことになるので,その担税力を考慮して累進税 率で増徴するのが望ましいとする.一方,甲に 属する株主 21 人以上の株式会社又は株主及び 社員の数 21 人以上の株式合資会社は,その所 得が大きくても多数の株主に分配することで, . 158)衆議院,前掲注(155),7 頁.. . 159)衆議院『第二十一回帝國議會・非常特別 税法中改正法律案外七件委員會會議録(速記)第 三回(明治三十七年十二月十二日) 』21 頁(衆議院 事務局,1904 年) . 160)衆議院『第二十一回帝國議會・非常特別 税法中改正法律案外七件委員會會議録(速記)第 六回(明治三十七年十二月十六日) 』33 頁(衆議院 事務局,1904 年) .若槻によれば,個人所得に対す る累進税率と権衡を図るということを検討すると, 乙の法人の累進税率は,個人所得に対する税率の 半分より少し多いところで権衡が取れるとの見解 を示している..
(11) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). (407) 143. 4. 2 大正 2 年所得税法における法人所得の区分. が採用されることとなった.一方,乙の法人は. ここでは,大正 2 年所得税法における法人所. その所得金額に対し比例税率 6.25%が課された.. 得の区分と政府原案におけるこれら区分の法人. 4. 2. 2 政府原案における法人の性質. の性質を整理する.. 第 30 回帝国議会 に お い て,大蔵大臣高橋是. 4. 2. 1 第 1 種所得における 2 種の法人区分と. 清は,株式会社が合名会社・合資会社に比し税. 税率. 率が低い理由に関し,国際間の貿易の競争のた. 大正 2 年所得税法は,非常特別税法による二. めには小さな資本を合同して大きな資本への結. 度の増徴で顕著となった低所得者に対する税負. 合が必要であるとし,この点で株式会社組織が. 担の 軽減及 び 個人課税と法人課税の権衡を図. 最も必要であるので,株式会社には低い税率を. 161). ,非. 立案したとしている164).このことは,政府が. 常特別税法による増徴額に調整を加えて本法に. この当時,所得税法上法人を 2 種に分けるにあ. 織り込まれた.同法は,課税所得と税率を定め. たり,国家の成長戦略も踏まえてその法人の性. た第 3 条の第 1 種法人所得において,法人を甲. 質に着目し,課税方法を検討したことを示唆し. 乙の 2 種の区分に分け,甲の法人を合名会社及. ている.. び合資会社とし,乙の法人は株式会社,株式合. 政府委員の菅原通敬は,株式会社及び合名会. 資会社及びその他の法人とする.ただし,株式. 社・合資会社への課税方法並びに税率の違いに. 会社,株式合資会社で,株主又は株主及び社員. 関 す る 問 い に 対 し,ま ず 合名会社・合資会社. の数が 20 人以下で組織されるものについては,. の性質を説明した.合名会社・合資会社とは,. る,い わ ば 非常特別税法 の 整理 で あ り. その所得に対して第 1 種甲の税率を適用する.. 「二人以上ノ組合ニ依ッテ出來テ居ルニ違ヒア. 甲の法人は,所得金額について 10 の税率段階. リマセヌケレドモ,自分ノ家族デアルトカ,或. 162). を設け. 163). ,所得税法上初 め て 超過累進税率. . 161)大蔵大臣高橋是清 は,大正 2 年所得税法 の議論に先立ち,明治 41 年及び 43 年にも整理案 を提出してきたがいずれも可決に至らなかった経 緯 を 述 べ た.大蔵省印刷局編『官報號外(大正二 年三月十二日)』102 頁(印刷局,1913 年). 162)甲の所得金額はそれぞれ次の超過累進税 率が適用される. 5 千円以下 の 金額(4%),5 千円 を 超 え る 金額 (5%),1 万円 を 超 え る 金額(6%),1 万 5 千円 を 超 え る 金額(7%),2 万円 を 超 え る 金額(8%), 3 万円 を 超 え る 金額(9%),5 万円 を 超 え る 金額 (10%),7 万円を超える金額(11%),10 万円を超 え る 金額(12%),20 万円 を 超 え る 金額(13%). 大蔵省印刷局編,前掲注(153),173 頁.なお,第 1 種所得(法人所得)の 甲 の 最高税率段階 は「 20 万円を超える金額」で,税率が 13%だが,同法の 第 3 種所得(個人所得)の 最高税率段階 は「 10 万 円を超える金額」に対し 22%である. 163)超過累進税率 に よ る 課税方法 は,相続税 法明治 38 年 1 月 1 日法律第 10 号 に よって,我 が 国の租税法上初めて導入された.大蔵省印刷局編 『官報號外(明治三十八年一月一日)』13 頁(印刷 局,1905 年).なお,超過累進税率の効果とは,「超. ハ親族デアルトカ,或ハ極ク自分ノ近親ノモノ デアルト云フヤウナモノガ集マッテ一ノ事業ヲ シテ,サウシテソレニ依テ所得ヲ生ジテ往クト 云フモノデアル」165)と言及し,これらは家族 を中心とした近親者で組成され事業を行う組織 であると指摘している.つまり,実質的には家 族の協力で所得を得る第 3 種の個人事業所得と . 過額累進率は最進歩したるものにして,單純なる 累進率に於ける前階級と後階級との間の大なる不 権衡を矯め所得の多額なるに從て税額の割合遞次 累進し,各所得者間負擔の公平を保つを得るの利 益あり. 」と説明されている.武本宗重郎『改正所 得税法釋義』79 頁(同文館,1913 年) . 164)大蔵省印刷局編,前掲注(161) ,102 頁.政 府委員菅原通敬によれば,株式会社は多数の株主 から零細な資本を集め事業をするものであり,そ の事業による利益も多数の人に分配するので,こ の所得にはあまり高い負担を配するわけにはいか ないと説明している.衆議院『第三十回帝國議會・ 所得税法中改正法律案委員會議録(速記)第二回(大 正二年三月十二日) 』8 頁 (衆議院事務局,1913 年) . 165)衆議院,同 7 頁..
(12) 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). 144 (408). なんら違いがないので,合名会社・合資会社に. 此間ニ負擔ノ不権衡ヲ生ズルコトニナル,元來. は所得金額の多寡に応じて,超過累進税率によ. 納税義務者─實際ニ納税ヲ致スモノハ誰デアル. り課税することで,法人所得課税と個人所得課. カト云フト,各個人デアルノデアリマス,唯今. 税との権衡を図ろうとしたのである.また,株. 法人ノ課税ト云フコトニナッテ居リマスケレド. 式会社または株式合資会社と冠していても少人. モ,是ハ唯税金取立ノ便宜ノタメニ致シテ居ル. 数で営まれるものは,事実上少人数の家族で組. ニ過ギナイノデ,目的トスルトコロハ各個人ノ. 成した合名会社・合資会社と変わらないので,. 所得デアルノデアリマス,會社ニ於テ天引シテ. 「株式會社,株式合資會社ニシテ株主又ハ株主. サウシテ各個人ニ行渡ッテ,各々個々ニ税金ヲ. 及社員ノ數二十人以下ヲ以テ組織シタルモノナ. 徴収スルト云フヤウナ煩雑ヲ除カウト云フ趣旨. ルトキハ其ノ所得ニ對シテ第一種甲ノ税率ヲ適. ニ外ナラヌノデアリマス」169).. 166). 167). 用ス」 という要件. に該当するものは,合. 菅原曰く,そもそも法人所得と個人所得とを. 名会社・合資会社の区分である甲の法人として. 区別することでその間に所得税負担の不権衡が. 課税に服するものとし,恣意的な法人区分の変. 生じるのであるから,法人所得については元来. 更による税率の軽減ができないよう規定を設け. の納税義務者であるその配当を受ける個人に着. た168).. 目することで両者の権衡を保つこととした,と. 菅原は,法人所得課税と個人所得課税につい. その指針に言及している.つまり,法人所得に. て政府原案の意図を次のように説明する.. ついて法人段階で課税するということは,租税. 「法人所得ト云フモノト,個人所得ト云フモ. の徴収の便宜によるものであり,その所得の源. ノトノ區別ヲ廢シテシマヒタイ,法人所得ト個. 泉である会社に課税することで個人段階での徴. 人所得ト云フ兩様ノ區別ヲシテ居ルガタメニ,. 収による煩雑を除こうという趣旨である.なお, この発言からは,法人とは実質的に個人の集ま. . 166)大蔵省印刷局編,前掲注(153) ,173 頁. 167)政府原案〔大蔵省印刷局編,前掲注(161) , 100 頁〕では, 「株式會社,株式合資會社ニシテ株主 又ハ株主及社員ノ數二十人以下ヲ以テ組織シタルモ ノナルトキ,拂込株式金額又ハ拂込株式金額及現實 ノ出資金額ノ二分ノ一以上カ同一人又ハ親族間ノ拂 込又ハ出資ニ係ルトキハ其ノ所得ニ對シテ第一種甲 ノ税率ヲ適用ス」と立案されていた.しかし最終的 に, 「拂込株式金額又 ハ 拂込株式金額及現實 ノ 出資 金額ノ二分ノ一以上カ同一人又ハ親族間ノ拂込又ハ 出資ニ係ルトキ」という部分は,議論の末採決によ り削除された.なぜなら,その議論では,当時既に 外国人が株式の半数以上を所有する株式会社が存在 したので,そのような現状に対し重い税負担となる 甲の法人の累進税率が適用されるとなると,外国人 が投資を手控え,外資輸入の弊害になるとした意見 がいくつか挙げられたからである.衆議院『第三十 回帝國議會・所得税法中改正法律案委員會議録(速 記)第六回(大正二年三月二十四日) 』38 頁,39 頁(衆 議院事務局,1913 年) . 168)衆議院,前掲注(164) ,4 頁.こ の 規定 に ついては,個人が甲の法人の低い税率を享受しよう としていわゆる「法人成り」する場合においても抑 止力となるとしている.. りであるとする点で,法人擬制説的見解を示し ていると考えられる. したがって,菅原曰く,大正 2 年所得税法は, 非常特別税法で顕著となった所得税負担の不権 衡について, 「法人ノ名義ニ於テ所得シテ居レ バ負擔ガ輕イガ,個人ノ名義ニ於テ所得シテ行 クト負擔ガ重イト云フコトニナルノハ,ドウモ 餘リニ不権衡デアリマスカラ,成ベク法人課税 ノ方ヲ引上ゲ,個人課税ノ方ヲバ引下ゲテ,両 方カラ相接近セルモノニナラシメヤウト云フト コロニ,ツマリ此立案ノ趣旨ガアルノデアリマ ス」170)と し た.つ ま り,法人 の 名義 で 所得 を 得れば負担が軽いが,個人の名義で所得を得る と負担が重いというのは不権衡であるので,法 . 169)衆議院『第三十回帝國議會・所得税法中改 正法律案委員會議録(速記)第四回(大正二年三 月十八日) 』26 頁(衆議院事務局,1913 年) . 170)衆議院,同 26 頁..
(13) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). 人所得課税については税率を引き上げ個人所得 課税については税率を引下げ,両者の負担を接. (409) 145. 5. 1 法人所得課税における合名会社・合資会 社の位置づけ. 近させることで権衡を図ることを趣旨としたの. 本稿第 1 章 1. 2 の と お り,明治民法・明治. である.. 商法において「法人」が明定されたことによ り,その法的根拠をもとに明治 32 年所得税法. 4. 3 小 括. は,初めて法人所得課税を導入した.同法によっ. 本章で取り上げた明治 38 年非常特別税法と. て納税主体となった「法人」とは,明治商法に. 大正 2 年所得税法は,ともに第 1 種所得である. 定める「会社」であり,株式会社,株式合資会. 法人所得を,法人の会社種別により甲乙 2 種の. 社,合名会社及び合資会社として限定列挙され. 区分に分けた.一方の株式会社,株式合資会社. る.合名会社及び合資会社は,人的会社である. には比例税率を適用し,他方の合名会社・合資. ことを理由に西欧諸国ではその法人格の有無が. 会社には明治 38 年非常特別税法においては単. 区々であるが,我が国の私法上「法人」とされ. 純累進税率(大正 2 年所得税法においては超過. たことは,我が国の「法人」立法の大きな特徴. 累進税率)を適用することとした.この目的は,. である.. 株式会社・株式合資会社に対しては,産業振興. 明治 32 年当時における会社の総数(および. を背景とした株式会社組織の拡大のために,比. 払込資本金額)171)は 7,621 社(1,028,297 千円). 例税率による税制優遇を図ることにあった.そ. であり,この会社種別の内訳は,株式会社 3,685. して,合名会社・合資会社に対しては,実質的. 社( 945,276 千 円),合 資 会 社 3,290 社( 51,844. に近親者で組成される少人数の組織の性質を有. 千円),合名会社 646 社(31,187 千円)である.. する点から,第 3 種所得として課税される個人. 全会社の払込資本金額における株式会社の占め. 事業者との権衡を図るため,累進課税が行われ. る割合は 90%を超えるが,会社数でいうと人. たのであった.このように,法人所得課税の導. 的会社である合名会社と合資会社の合計数は,. 入期においては,所得税法上の独自の見地から. 会社全体の 52%を占める.つまり,この当時. 納税主体たる法人の性質について示唆がある.. においては,会社資本の多寡では株式会社が既. したがって,次章では,法人所得課税の導入期. に大きな割合を占めていたものの,会社の種別. における納税主体たる「法人」にはどのような. では人的会社が過半数を占めており,当時の産. 性質があるかを,会社の種別および法人所得課. 業構造上人的紐帯が色濃く認められる合名会社・. 税の構造から考察する.. 合資会社が中心となっていたことが分かる172).. 第 5 章 考 察 本章では,本稿第 1 章から第 4 章の検討を踏 ま え,次 の 2 つ の 点 を 考察 す る.ま ず,明治 32 年所得税法 か ら 大正 9 年全文改正 ま で の 法 人所得課税における合名会社・合資会社の位置 づけを明らかにする.そして,法人所得課税が 法人段階で行われた理由を検証することで,法 人所得課税の導入期における納税主体としての 「法人」とは,いかなる性質を有していたかを 考察する.. . 171)矢部,前掲注(16) ,34 頁. 172)安岡,前掲注(52) ,69 頁では「日本にお いては合名会社を法人とする方が経済界の安定の ためには有効であった」と指摘する.これは,三 井家や安田家といった当時の財閥に次のような利 点があったことが理由であり,①同族が合名会社 を組織した場合も,構成メンバーの死亡や引退に より,組織が動揺しなくてすむ②社員のなかに未 成年者や法律上の無能力者が加わっても,集団と してカバーすることができる③大規模な同族的な 合名会社,合資会社においては家が所有の主体で あり,家制度は法律によって会社として法人化す ることにより,制度的補強を受けたことになる, からである..
(14) 146 (410). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). 明治 32 年所得税法を軸とした法人所得課税. 人以上ノ組合ニ依ッテ出來テ居ルニ違ヒアリマ. 導入期の変遷を概観すると,当初の明治 32 年. セヌケレドモ,自分ノ家族デアルトカ,或ハ親. 所得税法においては,会社の種別を問わずいず. 族デアルトカ,或ハ極ク自分ノ近親ノモノデア. れも第 1 種所得の「法人」として比例税率が適. ルト云フヨウナモノガ集マッテ一ノ事業ヲシ. 用され, 「法人」は等しく取り扱われたと考え. テ,サウシテソレニ依テ所得ヲ生ジテ往クト. られる.しかし,その後,明治 38 年非常特別. 云フモノデアル」174)と捉え,これらは家族を. 税法及 び 大正 2 年所得税法 は, 「法人」を ①株. 中心とした近親者で組成される法人であると. 式会社・株式合資会社と②合名会社・合資会社. 言及する.そして,その課税方法については,. の 2 種に区分し,かつ①のうち株主又は株主及. 「合名會社合資會社ノ利益ノ所得ト云フモノハ,. び社員の数が 20 人以下で組織されるものは②. 三五人ノ間ニ分配セラルゝ家族同様ノ間ニ分配. の区分の課税に服するとし,法人の性質による. セラルゝノデアリマスカラ,之ニ對シテ比較的. 区分ごとに課税方法を定めた.. 重イ累進税率ヲ配スルハ,決シテ負擔ニ相當シ. 政府委員菅原通敬は,大正 2 年所得税法審議. ナイコトハナイト思フ」175)と,累進税率の適. において,2 種の法人区分の特徴をそれぞれ次. 用が負担に見合うと理由づける.つまり,合名. のように述べている.. 会社・合資会社の本質が,少数の近親者と共に. 株式会社とは,「多數ノ株主ヨリ零細ナル資. 事業を営むという点にあるとすれば,個人事業. 本ヲ集メ,ソレニ依ッテ事業をスルモノデアッ. 者が家族と共に営む事業と何ら変わるところが. テ,其タメニ出來タトコロノ利益ト云フモノハ. ない.それゆえ,合名会社・合資会社が,多額. 多数ノ人ニ分配セシムルノデアリ・・・所得金. の利益を得て少数の株主または社員に分配する. ハ少サクテモ其會社ノ千分ノ六十ト云フ税率ノ. 場合には,彼らが受領した配当の多寡に見合っ. 負擔ヲ受ケテ往クコトニナリマスカラ,之ニ對. た課税が行われる必要がある.つまり,配当を. シテハ餘リ高イ税率ヲ配スル譯ニハ往カヌ」173). 受領する一個人と個人事業者との間の課税中立. と説明する.つまり,株式会社とは,多数の株. 性において権衡が保たれなければならない.そ. 主から零細な出資を集約して事業を行うもので. こで,合名会社・合資会社にかかる法人所得課. あり,その利益の配当は,多数の株主に対して. 税は,個人所得課税の負担に見合うように超過. 分配される.この結果,株主一個人が受領する. 累進税率(明治 38 年非常特別税法は累進税率). 配当は少額であったとしても,その会社の法人. を適用したのである.. 所得に千分の六十という税率を負担していくこ. 法人所得課税の導入期における産業構造のな. とになるので,これに高い税率を課することは. か で,三井合名会社 は,明治 42 年 10 月 11 日. 出来ないという配慮から,法人所得には比例税. に同族十一家の出資により資本金 5 千万円で設. 率により課税するとしたのである.なお,この. 立された176).安岡重明の研究によれば,同時. 背景には,本稿第 4 章 4. 2. 2 で指摘した大蔵大. 期における財閥の会社形態について,我が国の. 臣高橋是清による政府の方針の説明のとおり,. 「財閥の本社は明治四十二年(1909)から大正. 国際貿易競争に臨み,株式会社組織の拡大を目. 十年(1921)ごろにかけて,会社制度を採用し,. 的とした,株式会社への税制優遇の意図が反映. 主として合名会社,合資会社の形態をとった.. されている. これに対し,合名会社・合資会社とは, 「二 . 173)衆議院,前掲注(164),8 頁.. . 174)衆議院,同 7 頁. 175)衆議院,同 8 頁. 176)安 岡 重 明『三 井 財 閥 史 近 代・明 治 編』 220 頁(教育社,1979 年) ..
(15) 明治 32 年所得税法における納税主体(本多). (411) 147. 株式会社制度を採用したのは大正四年に設立さ. 払込資本金 10 万円未満 の 零細企業 で あった. . れた渋沢同族株式会社(資本金 330 万円)くら. このように,合名会社・合資会社は,家族によ. いで, (中略)他は貸借対照表を公表する必要の. る出資の独占や出資の閉鎖性を特徴とし,合名. ない合名・合資会社を選んだのである. 」177)と. 会社・合資会社として「法人」となることによ. 指摘する.また,財閥が合名会社・合資会社形. り,社員の入社・退社と関係なく会社は永続性. 態を採用した理由を, 「税制上の不利をしのん. をもち,一部の業務執行者により会社が経営され. でまで財閥本社を合名会社,合資会社にしてお. る180)こととなる.これらの点で,合名会社・. いたのは,外部から資本を集める必要がなかっ. 合資会社は,家業と家産の維持・温存に寄与す. たことと経理の秘密保持のためであり,この性. るものであった181).. 向は決して日本の財閥に特有のものではなかっ. 法人所得課税の導入期において,政府委員の. た」178)と言及する.明治 42 年当時の合名会社・. 若槻禮次郎は, 「合名會社ナンド云フヤウナ少. 合資会社は,いわゆる三井合名会社のような巨. 數ノ人デ組織シタモノデ,十万圓以上カラアル. 額の資本金を有する少数の会社と僅少な資本金. ヤウナ所得ノアル人ハ,餘程確實ナ營業ヲシ,. を有する多数の会社で構成されており,払込資. 又同時ニ確實ナ収入ヲ得テ居ル人デアリマス. 本金額の上位 25 社の合計だけで,全合名会社・. カラ,之ガ是ダケノ率ニナッタトキニ,歳入ガ. 合資会社 6,707 社の合計払込資本金額の約 50%. 減ッテ政府ガ豫期ノ歳入ヲ得ルコトガ出來ヌト. を占めていた179).その一方で,全体の 95%は,. 云フコトハナイ,必ズ取レルト云フ確信ヲ以テ. . 177)安岡重明「総論日本財閥の歴史的位置」安 岡重明編『日本の財閥』10 頁,21 頁及び 22 頁(日 本経済新聞社,1976 年).明治商法第 192 条「取締 役ハ第百九十條ニ掲ケタル書類ヲ定時總會ニ提出 シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要ス 取締役ハ前項ノ 承認ヲ得タル後貸借対照表ヲ公告スルコトヲ要ス」 と定め,株式会社は貸借対照表の公告を要求され る.大蔵省印刷局編,前掲注(31),10 頁. 178)安岡,同 23 頁.なお,安岡によれば,「会 社の経理の秘密保持は,日本の財閥のみならずい かなる財閥といえども熱心に求めたところであっ て,かのロスチャイルド商会のごときも,貸借対 照表を公表したのは,ようやく第二次大戦後であっ た」とする. 179)合名会社(会社数,払込資本金):資本金 10 万円未満(2073 社,27,426 千円),資本金 50 万 円未満(140 社,21,992 千円),資本金 100 万円未 満(14 社,7,120 千円),資本金 500 万円未満(11 社, 13,500 千 円), 資 本 金 500 万 円 以 上(4 社,66,000 千円).し た がって,合名会社合計 は,(2,242 社, 136,038 千円). 合資会社:資本金 10 万円未満(4,303 社,39,812 千円),資本金 50 万円未満(142 社,22,052 千円), 資本金 100 万円未満(10 社,5,749 千円),資本金 500 万 円 未 満(8 社,11,500 千 円),資 本 金 500 万 円以上(2 社,27,500 千円).し た がって,合資会 社合計は,(4,465 社,106,614 千円). 株式会社:資本金 10 万円未満(3,348 社,95,616 千 円), 資 本 金 50 万 円 未 満(1,095 社,211,053 千. 立案ヲシマシタ」182)と,大きな所得を稼得す ることが期待される合名会社に,確実な担税力 を認めて累進課税を立案したとしている.この ことからも,政府の意向として新たに法人区分 を設けたことは,合名会社・合資会社への課税 を強化したことであると理解できる. 明治 38 年非常特別税法及 び 大正 2 年所得税 法での合名会社・合資会社への課税は,法人所 得課税でありながらも,法人の背後で「法人」 を構成する少人数の「社員」の存在をより意識 した課税が行われている.なぜなら,所有と経 営が一致する合名会社・合資会社においては, 人的会社としてその「社員」の個性が重視され . 円) ,資本金 100 万円未満(209 社,136,546 千円) , 資本金 500 万円未満(152 社,279,634 千円) ,資本 金 500 万円以上(32 社,401,662 千円) .したがって, 株式会社合計 は, (4,836 社,1,124,512 千円) . 〔矢 部,前掲注(16) ,34 頁〕 . 明治 42 年における全会社数に占める合名会社・ 合資会社の割合は 58%である. 〔矢部,同 36 頁お よび 37 頁〕 . 180)安岡,前掲注(52) ,68 頁. 181)安岡,同. 182)衆議院,前掲注(159) ,21 頁..
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もちろん, 「習慣的」方法の採用が所得税の消費課税化を常に意味するわけではなく,賃金が「貯 蓄」されるなら,「純資産増加」への課税が生じる
︵原著三三験︶ 第ニや一懸 第九號 三一六
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なお、相続人が数人あれば、全員が必ず共同してしなければならない(民
〔追記〕 校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」
所得割 3以上の都道府県に事務所・事 軽減税率 業所があり、資本金の額(又は 不適用法人 出資金の額)が1千万円以上の
所得税法9条1項16号は「相続…により取 得するもの」については所得税を課さない旨
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