●算数科
共 に 算 数 を 生 成 す る 授 業 の 創 造
1 算数的表現を高め 「確かなる知」を育む, わたしたちは,子どもの算数的表現を高める学習指導をめざしてきた。算数的表現とは 「子どもが算, 数的活動や他者との相互交流をする中で表出した様々な算数科特有の表現 であり」 ,「図的」「操作的」「言 語的 「記号的」表現の4つに分けられると考えている。そして,これらの表現には,その子の知識や技」 能だけでなく,直観力や論理的思考力・判断力といった数学的な見方や考え方も表れている。 このような子どもの算数的表現を高める学習指導を進めていくためには,子どもの学びに即した評価活 。 , 「 」 「 」, 動が重要となってきた そこで 算数的表現から見える子どもの 直観力 や 論理的思考力・判断力 「知識・理解」を評価の観点とし,具体的な学習場面を想定しながら規準・基準を明文化していった。そ れは,算数的表現からその子の学びの状況を探り,それに培う学習指導を行うことで,その子の知識の理 解を図ったり,数学的な見方や考え方を深めたりできると考えたからである。 また,この評価観は,新しいカリキュラム観によるカリキュラム開発モデルを創り出すことを可能にし た。算数科における新たなカリキュラム観とは 「自分ならではの算数的表現を育む経験の総体」として, のカリキュラムである。つまり,子どもと教師の日々の創造的な活動の中に自分ならではの算数的表現を 見出し,その総体がカリキュラムであるとするものである。これをもとに,子どもの自己評価や子どもの 算数的表現から見取った教師による評価を組み込み 「カリキュラムの実践・評価・開発」モデルを設定, してきた。 以上のようなカリキュラム研究を経て,本年度は,日々の授業を重視することにした。それは,前述し たように,子どもと教師の日々の授業において,カリキュラムが実践・評価され,改善されながら創出さ れるからである。そこで,研究テーマを「共に算数を生成する授業の創造」とし,算数科における「確か 」 。「 」 ,「『 』 なる知 が育まれる授業を目指していくことにした 共に算数を生成する授業 は 分かち合う活動 を推進する教室文化が形成されている状況」,「算数的表現の高まりと共に,直観力,論理的思考力・判 断力がみがかれていく状況」,「子ども自身が,既習事項や生活経験とのつながりを意識して学習してい る状況」において成立する。そして,このような状況は,子どもと子ども,子どもと教師によるかかわり 合いを通して,子ども自身が算数を学ぶ意味や価値を生成していく中に生まれると考えている。2 「共に算数を生成する授業」が成立する条件 (1 「分かち合う活動」を推進する教室文化) 「共に算数を生成する授業」を成立させるためには,子どもと教師の日々の営みにより構成される環境 や状況(教室文化)が大きく関係してくる。その状況とは,子ども自身が自分なりの考え方や算数的表現 を創り出すことに,そして,それらを互いに交流し分かち合うことに,楽しさや意味を感じる文化が形成 されている教室であると言える。 そこで,わたしたちは,互いの数学的な見方・考え方や算数的表現を分け合い,共感し合い,共有し合 っていく活動(=分かち合う活動)を大切にしてきた。それは,子どもと子ども,子どもと教師の対話を 中心とした「学ぶこと」と「教えること」が授業の中で共鳴するような状況において,子ども自身が現実 の事象を数理的に処理するよさや,数学的な文化とのつながりを見出していくと考えているからである。 しかし,単に互いの考え方や算数的表現を交流する場を設定すれば,上記のような活動になるわけでは ない。例えば,自分の考え方を他者にわかってもらうためには,自らの解決方法や解決過程を明らかにし なければならない。また,他者の考えを理解するためには,他者と自分の考えを関係づけて聞かなければ ならない。つまり,そこには,直観力や論理的思考力・判断力が働いており 「分かち合う活動」を推進, していく原動力となっているのである。 (2)算数的表現を高め,直観力,論理的思考力・判断力をみがく 子どもの算数的表現には,今までに培い獲得してきた直観力,論理的思考力・判断力や知識・技能が表 れている。その中でも,算数的表現に見られる子どもの思考を重視していくことは 「共に算数を生成す, 」 。 , , , , る授業 を成立させる上で重要である そこで わたしたちは 直観力 論理的思考力・判断力の内実を 次の表1のように捉え,実践してきた。 直観力とは 「既習事項や生活経験,算数的活動などを通して問題解決の結果を予想したり,方法を見, 通したりする力」 と捉えている。具体的には,単なる「思いつき」程度のものから,少し遠くから「見1) 」 「 」 。 , 通す ことによって全体を見抜く 洞察力 まである 子どもの持つ既有知識や生活経験を生かしながら 数量や図形の関係を見抜く力へとみがいていきたいと考えている。 算数的表現 直 観 力 論理的思考力 判断力 操作的表現 ― 図的表現 ― 言語的表現 ― 記号的表現 思いつき ― 解決の見通し ― 類 推 ― 洞 察 一面的 ― 操作的 ― 映像的 ― 多面的 ― 創造的 帰納的な考え方 ― 類推的な考え方 ― 演繹的な考え方 単純化・一般化・数量化・図形化 ― 発展的・統合的・特殊化・記号化の考え方 集 合 の考 え ・ 単位 の 考 え ・表 現 の 考え ・ 操 作 の考 え ・ アル ゴ リ ズム の 考 え 概括的把握の考え・基本的性質の考え・関数の考え・式についての考え 表1 算数的表現に見られる直観力・論理的思考力・判断力の内実
論理的思考力・判断力とは 「帰納的・類推的・演繹的な考え方や一般化・記号化などの数学的な考え, 方」のことである。一般的に,低学年は一面的な見方・考え方をする傾向にあるため,操作的な活動や体 験を学習の中核に据えて数学的な見方・考え方を広げていくようにしている。そして,論理的な操作や思 考が可能となりはじめる中・高学年においては,他者との分かち合う活動を学習の中核に据え,物事を多 面的に捉えたり,多様な考えを関連づけたりしながら新たな発見や創造を生む力へと高めていきたい。 (3)既習事項や生活経験とのつながりを意識する 「個の追究活動」や「分かち合う活動」を通して獲得した知識や技能,数学的な見方・考え方を,その 後の学習や生活場面で生きて働くようにするためには,それらを活用する場が必要である。活用する場と しては,生活場面や他教科との関連も考えられるが,算数科では,学習内容の関連を特に重視したい。な ぜなら,算数科は学習内容の系統性が強い教科であり,学習したことを次の単元で用いたり,同じ単元に おいても発展的な問題に取り組んだりすることは,子どもの学びに沿った学習を展開していく上でも不可 欠であると判断したからである。 例えば 「小数のわり算」において,小数÷整数や小数÷小数の計算の仕方を考える学習があるが,そ, こでは,直観力や論理的思考力といった思考面,そして,既有知識や技能が生かされる。つまり,整数の わり算に直せば計算できるという見通しを持ち,既習事項である小数のかけ算を使って整数に直し,計 算する活動を通して,わり算の意味やきまりといった新たな気づきを獲得していくのである。 しかし,そのような考え方や知識・技能を活用していることを子ども自身が実感として持っていなけれ ば,次の学習に生かそうとしたり,算数を学ぶ意味や価値を生成したりしていくことにはならない。 そこで,教師は,単元全体を通して,今までの学習や生活経験で培ってきた数学的な見方・考え方,そ して,知識・技能とのつながりを,子どもに意識させていく働きかけをしていくことが大切である。 3 共に算数を生成する授業づくり 「共に算数を生成する授業」をつくるには,どの子もが数理的な事象や自分の考え方を多様に表現でき るようになることが重要である。そのためには,教師は,図的・操作的・言語的・記号的といった算数的 表現を,子ども自身が自由に使いこなせるように指導したり,互いの算数的表現を分かち合うことの意義 を感じさせたりしていく必要がある。そこで,わたしたちは,次のようなことを大切にしてきた。 ○算数的表現を創り出そうとしている子どもの姿を大切にし,励まし,認める働きかけをしていく。 ○ガイドブックやクイズづくりなど,他者に伝えることを意識させた学習テーマを設定し,複数の算数 的表現を使って,自分の考えた過程を表現させていくようにする。 , , ○分かち合う活動で出された多様な算数的表現を関連づけ それぞれの算数的表現のもつ良さや意味を 子ども自身に実感させる働きかけをしていく。 ○算数的表現に見られる考え方や知識・技能を意味づけ,価値づける働きかけをして,子ども自身に意 識化させたり,数学的な文化とのつながりに気づかせたりしていく。 ○子どもからわきあがってきた問いを大切にし,その子の納得を引き出す働きかけをする。
(1)子どもの算数的表現を相互に関連づける 「 ( )」 1年生単元 繰り下がりのあるひき算 15−8 の授業を例に説明する。ひき算につながる身近な 問題場面を知った子どもたちは,今までの学習や 生活経験で培ってきた数学的な見方・考え方や知 識・技能を使って問題を解決していく。そして, 自分の考えた解決方法を,様々な算数的表現を使 って説明しようとする。例えば,おはじきやタイ ルなどを使っての操作的表現で説明したり,その 過程や結果を図的表現でイメージ化して説明に用 いたり 「, 10 −8= , +2 2 5= 」と記号的表現7 や言語的表現を使って説明したりする子も出てくる。教師は,これらの表現を交流させながら,以下に示 すような,それぞれの表現の良さに目を向けさせたり,4つの表現を相互に関連づけて,つながりに気づ かせたりしていくことが大切である。 また,このような算数的表現の良さや,それぞれの表現のつながりを理解した子どもたちは,これから の学習においても,自ら多様な算数的表現を使おうとしていくだろう。そして,それぞれの算数的表現を 行き来しながら,自分の算数的表現を更新していくと思われる。 (2)直観と論理を意味づけ,価値づけし,子どもに意識化させる 分かち合う活動は,自分の考えた過程や結果を,算数的表現を使いながら筋道立てて表現していくこと から始まる。筋道立てて表現するとは 「自らの活動(操作)の順序にしたがって,矛盾のないように分, 析したり再構成したりして説明すること」 と捉えている。そして,この筋道立てて表現する力を高める2) ためには,算数的表現から見える直観力や論理的思考力・判断力といった数学的な見方・考え方を意味づ けたり,価値づけたりして,それらの思考の仕方を子ども自身に意識化させていく必要がある。 ここで,5年生単元「面積」を例に,筋道立てて表現する力を高める指導について紹介する。 この単元は,三角形や平行四辺形・台形などの面積の求め方を既習の長方形や正方形の面積の求め方に 帰着させて考えることを通して,公式の意味理解を深めていくことが主なねらいである。このようなねら いを達成していくためには,一人一人が考えた面積の求め方を分かち合い,共通点や相違点を見出してい く中でよりよい求め方を吟味していくことが必要となる。つまり,面積の求め方に関する自分の考えを他 操作的表現:半具体物を使って自力解決するとともに,繰り下がりの過程や必要性を明らかにする。 図的表現 :自力解決した過程を振り返るとともに,繰り下がりの要点や結果をイメージ化する。 言語的表現:繰り下がりの方法をわかりやすく示したり,徹底したりする。 記号的表現:他の表現で表したことを簡潔で厳密に表現する。 【図的表現】 【記号的表現】 【言語的表現】 【操作的表現】 ● ● ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 10−8= , + =2 2 5 7 15−8=7 こから ことって・・ 10 8 のこった2こと5こで こ7 図1 「ひき算」における算数的表現のつながり
者に納得してもらえるように,図的表現や記号的表現 などを使いながら表現していくことを学習目標とさせ るのである。すると,子どもたちの算数的表現には, 筋道立てて表現する工夫が現れてくる。 例えば 「まず,この三角形になる部分をこちらに, 移動させると・・」とか 「ここに直角三角形を付け, 加えて,長方形にして・・ (図2)といった言語的」 表現や図的表現などである。 教師は 「まず,次に」といった筋道立てて表現している言葉や図を板書したり,聞き手の子に問い直, したりしていきながら その子の直観や論理的思考を意味づけたり 価値づけたりしていく そして, , 。 ,「長 方形にして」といった考え方に着目させることで,全ての平面図形の面積が,長方形や三角形といったも とになる形に帰着させて,演繹的に考えれば求められることに気づかせていくのである。 また,他者を意識し筋道立てて表現させていくことは,自分の考え方や理解をメタ的に捉えることにも なる。そして,このような学習経験が,その子の算数的表現を高めたり,直観力や論理的思考力・判断力 をみがいていくことになるのである。 (3)子どもの納得を引き出し,主体的な学びを形成する 前述した「面積」の学習で言えば,もとになる形に帰着させれば様々な平面図形の面積が求められると 気づいた子どもたちは 「では,ひし形は?, 」,「六角形も?」と,自ら追究しようとしていく。そのよう な子どもからわき上がってきた問いは,学習の最終段階に限らず取り組ませていくことが大切である。そ , , 。 , , れは 時には 他学年の学習内容にまで及ぶ場合も出てくる その場合も 全ての子の課題としなくとも , , 。 個別にかかわり指導していくことは その子の納得を引き出し 主体的な学びを形成していくことになる また,授業の最後には「確かめ問題」を行い,その時間に学んだことがどれだけ理解できているかを, 子ども自身が確かめるようにしている。教師も 「確かめ問題」における子どもの解決状況を把握し,次, の学習の計画を立てていく。つまり,子ども一人一人の学びの状況を常に探り,その状況に合わせて学習 の流れや学習形態を柔軟に変更していく教師の構えが,子どもの学習意識を高め 「共に算数を生成する, 授業」をつくることになると考えている。 (植田 悦司・原 雄一郎・中地 吉人) 《引用文献》 1) 前田伊久夫・北井良・吉栖和哉「直観と論理をつなぐ算数科学習の展開 ,平成」 11年度 提案要項・学習指 p.57 導案集,兵庫教育大学附属小学校, ) 前田伊久夫・中野明博「 自ら算数を創りだす子ども』を育てる算数科カリキュラムの構想 ,平成 年度 2 『 」 9 pp.49-50. 提案要項・学習指導案集,兵庫教育大学附属小学校, 図2 筋道立てて表現する工夫例