公会計における正味財産勘定に関する簿記的考察
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(2) 118 (118). 横浜経営研究 第26巻 第’1号(2005). おきたい.なお,文中では外国の学説を取り上. 預金,商品などの各帳簿から期末残高を確認し,. げて論じなかった帥.その理由は,日本におけ. あるいは帳簿外の財産を漏れなく確認して,財. る単式簿記の理解の不十分性が生み出す議論の. 産目録を作成した上で,正味財産の金額の二時. 混乱をまず整理しておきたいからである.. 点比較から利益を算定することができる.ただ. 1.公的意見における正味財産勘定. し,このような利益算定の方式が一般に企業で は採用されていないだけである.『企業会計原. 会計上一般に正味財産1(純資産)は資産と負. 則』は簿記法を特定していないが,現実問題と. 債の差額である.企業会計ではこの正味財産は. して収益・費用会計に対応するためには複式簿. 資本と呼ばれる.それに対して公会計における. 記でなければ実施困難であることから,実質上. 正味財産の合意された見解はない.そこで,正. は企業複式簿記の採用を想定していると考えて. 味財産ないし資本に対する主要な公的意見を確. 良い.. 認しておこう.. ②企業会計基準委員会討議資料『財務会計 1.i 営利企業に関する意見. ①企業会計審議会『企業会計原則』1949. の概念フレームワーク』2004年9月 長らくわが国におけるパラダイムを形成して. 年7月. いた『企業会計原則』が示す正味財産勘定の理. 『企業会計原則』では「貸借対照表の資産の. 解に変化の兆しが見られる.企業会計基準委員. 合計金額は,負債と資本の合計金額と一致しな. 会討議資料『財務会計の概念フレームワーク』. ければならない.」と簡潔に述べている.この. では「純資産(net assets)とは,資産と負債. 資本は「資本金に属するものと剰余金に属する. の差額をいう.これは報告主体の所有者である. ものに区別しなければならない.」.またこの剰. 株主(連詰財務諸表の場合には親会社株主)に. 余金は会計的には「資本剰余金と利益剰余金と. 帰属する資本と,その他の要素に分けられる.. に分かれる.」.ここで重要なことは拠出資本又. その他の要素には,報告主体の所有者以外に帰. は払込資本(資本金及び資本剰余金)と稼得利. 属するものと,いずれにも帰属しないものがあ. 益(利益剰余金)を区別することである.この. る.」と書かれている.伝統的な会計の考え方. 重要性は一般原則第三で「資本取引と損益取引. からすれば「報告主体の所有者以外に帰属する. とを明瞭に区別し,特に資本剰余金と利益剰余. もの」は存在しないはずであったが,所有主持. 金とを混同してはならない」と表現されている.. 分に属さない項目の存在が認識されたことの影. 損益計算こそが営利企業会計の究極の課題であ. 響は大きい9〕.. るから,この計算を可能とする資本と利益の峻. すなわち,この区分は,所有者に属する純資. 別が極めて重要なのである.. 産の増加額を純利益とし,これに所有者に属さ. 企業会計において正味財産は元手である払込. ない純資産の増減額を加味したものを包括利益. 資本と果実である稼得利益からなるという理解. とする意図がある.この関係は「純利益(net. が通説である.企業会計において企業目的の忠. income)とは,特定期間の期末までに生じた. 実な表現手段が正味財産であり,かつその構成. 純資産の変動額(報告主体の所有者である株主,. 要素が拠出資本と稼得利益である.つまり,企. 子会社の少数株主,及び前項にいうオプション. 業複式簿記はすぐれて組織目的に適合した簿記. の所有者との直接的な取引による部分を除く). 法であll t正味財産勘定は企業目的の象徴です. のうち,その期間中にリスクから開放された投. らある.. 資の成果であって,報告主体の所有者に帰属す. 単式簿記でも利益計算は可能である.現金,. る部分を言う.純利益は,純資産のうちもっぱ.
(3) 公会計における正味財産勘定に閲する簿記的考察(柴 健次). ら資本だけを増減させる.」のである.、このこ. (119) 119. 類されている.. とは「包括利益のうち,(1)投資のリスクか ら開放されていない部分を除き,(2)過年度. 行政型報告主体. に計上された包括利益のうち期中に投資のリス. 事業型報告主体. クから開放された部分を加え(リサイクル),. 行政代行型報告主体. (3)少数株主損益を控除すると,純利益が求. 収益獲得型報告主体. められる.」と表現されている.. 収支均衡型報告主体. このように特定期間における純利益と包括利 益の峻別に対応して純資産内部に区分を設ける. これらのうち政府は行政型報告主体そのもの. ものの,利益が純資産の増加額であるとする理. であり,かつ主たる利用者でもある.事業型報. 解に変わりない]°}.. 告主体のうちの収益獲得型報告主体は,収益獲 得を目的とする点において,営利企業と差がな. 日本においてパラダイム効果を発してきた. い.行政代行型報告主体と収支均衡型報告主体. 『企業会計原則』も,今後パラダイム効果を発. については,行政型報告主体と同様に収益獲得. するかもしれない『財務会計の概念フレームワ. が基本目的とならないという共通点を有する.. ーク』も,企業目的である利益追求が純資産の. ただし各主体が目指す目的は異なる.こうした. 増加額で示されると主張する点で共通している.. 状況を踏まえれば,おのずと貸借対照表の正味. つまり,企業会計に適した簿記は複式簿記であ. 財産の意義付けも異なると思われる.それにも. り,そのシン審ルが正味財産なのである.そし. かかわらず,『試案」ではそのような配慮はな. て企業活動を表するすべての勘定がこの正味財. されていない.. 産勘定と結びついている.これに対して,残念. すなわち『試案』では純資産は,剰余金(欠. ながら,公会計の領域では正味財産勘定に対す. 損金)累計額(基準適用初年度の開始貸借差額. る共通理解がないように思われる.. を含む)と固定資産再評価差額の累計額からな ると述べるにとどまる.収益獲得型報告主体以. 1、2 政府等の非営利組織. 外の報告主体に貸借対照表の作成を義務付ける. ①日本公認会計士協会公会計委員会研究報 告第7号『公会計原則試案』2003年2月.. ないとすれば,正味財産は基準適用初年度の開. この『試案』の目的は「公的部門における会. 始貸借差額のみになるm.要するに『試案』は. 計及び監査の基準を確立し,各種の公的部門に. 正味財産勘定については何も言及せず,資産負. おける会計における基準を統一し,公会計原則. 債差額であると述べるにとどまる.. とすれば,また,組織の性格上剰余金が発生し. (試案)を設定し,我が国の公的部門における 財務情報の明瞭かつ十分な開示に対して,基礎. ②大蔵省『国の貸借対照表作成の基本的考. を与えようとするものである.」.この『試案」. が指摘するように,現在のところ,公的部門の. え方』2000年10月 『基本的考え方』においては,現行の国の報. 会計に関する一一般基準は存在しない.『試案』. 告が一般会計・特別会計など会計ごとになされ. はこうした状況を踏まえた試みのひとつに過ぎ. ていることから国全体の財政状況を把握するこ. ないが,日本公認会計士協会が試案を提唱して. とが難しいこと,また,国の資産・負債につい. いることから影響力の大きい提言のひとつであ. ても個別に報告されており,国の全体像を把握. ると言える.. するととが難しいことを踏まえて,」「国民にと. この『試案』では報告主体は以下のように分. って利用可能な国の財政活動の基礎的・総合的.
(4) 120 (120). 横浜経営研究 第26巻 第11号(2005). な情報を,企業会計における貸借対照表の手法. 報告書の作成への将来展望,④マネジメント・. を用いて提供することとし,その際,最近の企. サイクルへの確立を掲げている.. 業会計の動向に即して国の貸借対照表にふさわ. 『機能するバランスシート』は一般会計・特. しいものをできる限り醇入して,財政状態の開. 別会計の複式簿記化をめざしているが,正味財. 示について国民に対する説明責任(アカウンタ. 産を「住民・行政責任の累積」と表現している.. ビリティ)を一層向上することとした.」とそ. すなわち,「経営責任ある人々の「責任の累積」. の目的が述べられている.. すなわち「住民と行政の責任」をこれまで今ま. 『基本的考え方』は国の貸借対照表の試行に. で遂行してきた累積であり,これらの責任の所. 係る考え方を示したものであるが,正味財産に ついては明確な考え方を示している.すなわち. 在であるとした」とある.しかしながら,この 抽象的な表現の意昧するところは明確になって. 「国の貸借対照表の場合,国にはもともと出資. いない.ここに大きな問題を抱えているといわ. の概念が存在しないので企業会計上の拠出資本. ざるを得ない.. 国の活動について損益計算に意味はないことか. それ以上に問題なのは,問題の認識である. ①単式簿記におけるストック情報の欠如は「単. ら企業会計上の稼得資本に関する取引も区分も. 式簿記でもストック情報を生産できるのにそれ. 存在しない.したがって,国においては企業会. ができていない現実が問題であること」と表現. 計上の資本の部と同様の意味ないし性格付けを. すべきであり,②現金主義によるコスト情報の. 行うことは原理的に適切ではない.」と述べて. 欠如は「現金主義によっては発生主義に基づく. いる.それゆえ,『基本的考え方』では正味財. コスト情報が欠如している」という当然の指摘. 産は単に「資産・負債差額」とされた.その上. であることを正確に伝えるべきであるのに,そ. で,この差額の性格付けは今後の課題とされた. れができていないことである.. に関する取引ないし区分は存在せず,また(略),. のである.なお,付随的な事柄ではあるが, 『基本的考え方』は単式簿記の範囲に各種資. この『機能するバランスシート』は,『公会 計原則試案』と同じトーンで書かれている箇所. 産・負債を含めている点で,『公会計原則試案』. も多い.その原因は両者の執筆陣に重複がある. や『機能するバランスシート』とは解釈を異に. か,世聞一般の誤解を共有しているかのいずれ. している]2>.. かであろうと思われる.. ③東京都『機能するバランスシート』,. 以上要するにいずれの公的意見においても正. 2001年4月. 味財産勘定の性格付けに成功していない.あえ. 『機能するバランスシート』では従来の地方. ていえぱ,『基本的考え方』が企業会計との類. 自治体の会計制度について,①単式簿記におけ. 似性を否定していること,単式簿記の理解が現. るストック情報の欠如,②現金主義によるコス. 金収支に限定されない点で,より理論に忠実で. ト情報の欠如,③住民への要領の公表について,. あるといえる.それに対して『機能するバラン. 一定のルールがないことによるアカウンタビリ. スシート」と『公会計原則試案』はムード先行. ティの欠如,④予算(plan),施行(do)が重. であり,理論構築が完成していないといわざる. 視され,検証・評価(check),見直し(action). を得ない.. が十分に実施きれていないことによるマネジメ ントの欠如を指摘し,それぞれへの対応として. 2.複式簿記に関する私論の展開. ①貸借対照表の作成,②行政コスト計算書の作. 本稿における理論課題を解くため,複式簿記. 成,③住民への情報公開のすばやい実施と年次. を単式簿記から区別する正味財産拗定の意義を.
(5) 公会計における正味財産勘定に関する簿記的考察(柴 健次). (121) 121. 論じる.なお,これを私論として示すのは先行. 2.2、複式簿記の形式に関する私論. 研究の紹介ではないからである.. ここでは簿記の本質を考察するために,複式 簿記を形式面から説明してみる.. 2.1複式簿記と単式簿記の異同. 私有財産制度を前提とするとき簿記は何より. 複式簿記の特徴を貸借複記に求める場合が多. 財産計算に資するものでなければならないと私. いが,資産の増減の記入方式と負債や資本の増. は考えている.会計史研究の成果に関係なく,. 減の記入方式を貸借逆にする理論的必然性はな. 論理必然的な歴史観を展開することが許される. い13).したがって,すべての勘定の増減を同じ. として,私たちの世界では資産の会計がまず成. ルールで記入しても一向に差し支えない.ここ. 立する.ついで信用経済への移行を加味すると,. では貸借複記は成立しないが,貸借複記による. 他人の財産であるはずの支払手段(現金等)が. ときと同じ情報は生産しうる.ただ,そのため. 自己の財産として利用可能になると共に自己の. の情報処理のプロセスが変わるのみである】’L).. 財産の将来における流出が確実になる.このこ. 逆に単式簿記においても資産の増減の記入方式. とから負債の会計が成立する.. と負債の増減の記入方式を貸借逆にすれば帳簿. ここでの議論においては,資産と負債の増減. 間をまたがる処理にはなるが一応貸借複記は成. に関する勘定記録がなぜ左右反対になるかは重. 立する.ただし,不等価交換取引に関してはこの. 要ではない.重要なことは,資産と負債の差額. 同一金額による複記の関係が成立しなくなる15}.. を認識することである.左右反対記帳を採用し. 現在我々が知る貸借複記のルールに基づく複. なくても個々の資産と負債の残高は確定できる. 式簿記は完結した論理体系を有している.その. し,それゆえ資産総額と負債総額の差額も確定. 複式簿記では貸借複記が重要なのではなくて,. できるからである.多くの経理ソフトや最新の. 貸借複記をもたらす基本構造が重要なのである.. XBRLなどは表示レベルにおいては伝統的な記. かかる基本構造は単式簿記における諸帳簿(勘. 帳方式や財務諸表の様式を踏襲しているけれど. 定)を有機的に結合させる正味財産勘定の導入. も,社会的な支持さえあればいつでも新しい方. によって決まるJG).正味財産勘定を導入し,同. 式を提案できるという意味で,伝統的簿記の制. 時に負債と同じ記入方式にすることにより,す. 約から自由を勝ち取る運動の象徴ですらある17).. べての取引を複記できるようになる.正味財産. 資産も負債も多くの種類があるので,記録場. 勘定がなければすなわち単式簿記では,資産と. 所である勘定は複数になる(あるいは帳簿が複. 負債の記入方式を逆にしたとしても,部分的に. 数になる).実際に複数の資産勘定(または帳. しか貸借複記が成立しないのである.. 簿)と複数の負債勘定(または帳簿)が独立し. 以上要するに正味財産勘定による諸勘定の有. て存在しうる,これは単式簿記であるIS}.しか. 機的結合が複式簿記を成立させる特徴である一. し,すべての勘定記録が有機的に結びつくと利. 方で,貸借複記は複式簿記の論理体系に組み込. 便性が格段に増す.その結合方法こそ複式簿記. まれた記帳ルールである.この複式簿記は,手. の本質である,. 作業による時代にあっては高度で正確な情報処. その本質は,すべての勘定記入の相手勘定た. 理を可能にし,コンピュータが普及した現在に. りうる特定勘定を導入する点にある、企業簿記. おいても依然として利便性の高い情報処理技法. の常識ではこの特定勘定は資本勘定となるのだ. である.ただし,コンピュータ簿記では伝統的. が,理論の汎用性を求めるならば,特定勘定を. な帳簿様式による表示を採用しつつ,データの. 正昧財産勘定として説明するのが良い.私は,. 蓄積と計算の方法についてはかかる帳簿様式に. 資産・負債増減の貸借反対記帳を所与とすれば,. 制約されることなく実行されうる.. 非営利簿記をも等しく説明したいので(理論の.
(6) 122 ( 122). 横浜経営研究 第26巻 第ユ号(2005). 経済性),正味財産勘定を主張するのである.. 特定勘定としての正味財産勘定が資産’・負債. ⑦普通預金100/現 金100. の全勘定の相手勘定となるということを仕訳で 示すと以下のようになる.. これに対して,資産同士でも不等価交換であ る損益取引の場合には,二取引が原則どおり用 いられる.. ①資産の増加㎜/正味財産の増加xxx ②正味財産の減少XXX/資産の減少XXX ③正味財産の減少xxx/負債の増加.xxx. ④負債の減少XXX/正昧財産の増加XXX ナ ここまでの議論で重要なことは,簿記は基本. ⑧正味財産100/商 品100 ⑨現 金120/正味財産120 この取引こそ企業目的を実現させる損益取引. 的に資産・負債アプローチを前提としているこ. である.このことを明確にするため,私たちは,. と,複式簿記では資産・負債のすべての勘定を. ⑧の正味財産の減少を費用すなわち売上原価と. 統合する正味財産勘定(企業会計においては資. 認識する一方で,⑨の正味財産の:増加を収益す. 本勘定)を導入することである.. なわち売上と認識する.. 先の等価交換取引は同額で相殺されることか 2.3複式簿記の形式に関する私論の応用. ら正味財産の増滅取引をすべて損益取引と認識. a 損益計算と複式簿記. しても損益の大きさは変わらない.その観点か. 営利企業簿記においては交換取引と損益取引. らは交換取引は利益のない損益取引にすぎない. の区別が重要である.また正味財産勘定は資本. とも言える.このような理解は組織目的に照ら. 勘定である.例えば資産同士の等価交換から損. して簿記の正味増減取引を意味づけるところか. 益は生じないけれども,前節の仕訳における① と②の二仕訳が行われていると考えて差し支え. ら生じる.ただし,このように説明する理論上 の利益がないので一般には主張されないだけで. ない.. ある.. b 正味財産増減計算と複式簿記 例:手持現金100万円を普通預金に預け入れ た.. 非営利組織簿記においては定義上損益取引の 概念がない.それにもかかわらず正味財産が変. ⑤正味財産 10⑪/ 現 金 100. 動しうる.たとえばi企業の損益取引に対応す. ⑥普通預金100/正味財産loe. るかもしれない取引として,貯蔵品を消費する 一方,提供したサービスの手数料を受け取る場. ここで⑤の正味財産を費用,⑥の正味財産を. 合を考えてみる.. 収益と認識しても(同額で相殺されるので純額 だけを問題にするなら)問題ないけれども,取 引自体に利益動機が欠如していることから,正 味財産の増減計算を行う必要性もない.そこで,. ⑩正味財産100/貯蔵品 100 ⑪現 金 120 / 正味財産 120. 貸借の正味財産勘定への記録が相殺され一仕訳 になる.. この⑩と⑪の正味財産を集計すれば期間にお ける正味財産純増額が計算される.ただし,非.
(7) 公会計における正味財産勘定に関する簿記的考察(柴 健次). (123) 123. 営利組織はこの正味財産純増減額の算定に関心. 理由は,多くの人々が複式簿記ついて共通した. があるわけではない.むしろ,資金の増減の方. 理解を有しているのに対して,単式簿記につい. に閲’c・を示している.それゆえ,上記二仕訳か. ては必ずしも共通した理解がないように思える. ら二つの財務表を誘導しようとする.つまり⑪. からである.. の資金取引における正味財Jwee減を集合して資 金収支計算書を,⑩の非資金取引における正味. 3.1単式簿記で単一資産の増減を記録する.. 財産増減を集合して正昧財産増減計算書を作成. 記録対象である個別資産について,残高と増. する.その際,資金収支差額は正味財産増減の. 加・滅少が記録される.その際,記録の単位が. 一部であるから,これを正味財産増減計算書に. 物量であっても,貨幣額であってもかまわない.. 振り替えれば,二つの財務表が一本化される.. 前者は物量会計の基礎を提供し,後者は貨幣会. こうした仕訳は公益法人で行われている.. 計の基礎を提供する.議論を簡単にするため貨. c 収支計算と企業複式簿記. 期聞を限定すると個別資産の残高と増減の関. 損益計算書と貸借対照表を誘導することで完. 係は以下のようになる.. 結している企業複式簿記からキャッシュフロー. 期首残高+期中増加一期中減少=期末残高. 計算書を誘導することはできない.あえて簿記. この関係式を満たす記録法を定めればその段. 記録からキャッシュフロー計算書を誘導しよう. 階から記帳が可能になる.便宜的に,我々の常. とすれば二つの方式がある.. 識を覆すことなく∴勘定形式で記録することと. 第一の方式はすべての勘定(財産に関する勘. し,借方を増加,貸方を減少と定めておく20).. 定と損益に関する勘定の双方)を資金収支を伴. そのつど残高も知りたければ残高欄を設ければ. うか否かが明確になるように二分することであ. よいが勘定における必須の項目ではない.. る.この方法では,期末において,すべての収. 貨幣経済に生きる個人及び組織にとって貨幣. 支連動勘定残高をキャッシェフロー勘定に振り. (支払手段)を持たなければ経済活動を行うこ. 替え,同額で元の勘定に振り戻すことになる.. とができないという意味で支払手段は重要な資. キャッシュフロ1−一勘定には二重の情報が蓄積さ. 産である.もちろん個人及び組織にとって支払. れるからその一方を捨ててキャッシュフロー計. 手段の増加が目的となりうるかどうかは簡単に. 算書を作成すればよい.. は決められない.それにもかかわらず経済活動. 第二の方式は資金収支を伴う取引が発生する つど,通常の仕訳に加えて,対照勘定を用いて. は支払手段の動きとして記録されうるのである.. 個人であろうと,営利企業であろうと,非営利. 備忘仕訳を行え’ぱよい,ここでも情報が貸借二. 組織であろうと,支払手段勘定さえ設ければ最. 幣会計の世界で話を進める19〕.. 重に蓄積されるので経済的ではないがキャッシ. 小限の記録は残せるというわけである.. ュフロー計算書を誘導することはできる.. 以上要するにすべての組織にとって支払手段. 3.財産計算における複式簿記の優位性:第一 の理論問題. (具体的には現金ないし預金)の記録が基本と. なる.それのみの記録であれば,単式簿記で十 分であろう.. 財産計算のおける簿記法の優劣を論じるため. 【複式簿記の優位性】. には,本来なら比較する簿記法の内容を先に特. この状況で正味財産勘定を導入し,その勘定. 定する必要がある.しかし,ここでは単式簿記. の記録方式を支払手段勘定と貸借逆として支払. による記録の特徴を確認しながら,最手邊に,複. 手段=正昧財産が常に成立するように複式簿記. 式簿記による記録の特徴を導き出すことにする.. を構築したとする.しかしながら,この段階に.
(8) 124 (124). 横浜経営研究 第2β巻 第’1号(2005). おいては,正味財産勘定は支払手段勘定と同じ. 能を通じて記録の安全性が高まることになる.. 情報しか生産し得ないので,導入に意義を見出. それゆえ,財産計算に限定しても(すなわち営. せない.. 利企業のみならず非営利組織に関しても)複式. 簿記は有用な簿記法であるといえる.ただし, 3.2単式簿記で複数資産の増減を記録する、. 単式簿記においても総資産ないし純資産の正確. 3.1の支払手段勘定を現金勘定と預金勘定に. な計算を行い,個々の資産・、負債の管理を怠ら. 分解するや否や単式簿記で複数の資産の記録が. なければ特に問題となるわけではない.. 行われることになる21).あるいは,商品,備品,. 有価証券等,多くの資産を記録する必要性が生 じて,それぞれの記録を開始したとする.この. 4.派生計算における複式簿記の特殊性:第二 の理論問題. 状況において,単式簿記でなんら不都合は生じ. 財産の変動から派生する概念である収益や費. ない.. 用の概念を捕捉しうる簿記法は定義上複式簿記. 【複式簿記の優位性】. でなければならない.それはなぜかという問題. すべての資産勘定の相手勘定として正味財産. が第二の問題である.. 勘定を用いるならば,3.1と異なる情報が生ま れる.すなわち,個々の資産の記録では総資産. 4.1 単式簿記の記録だけで利益を計算する. の記録が組み込まれていないが,複式簿記を導. 営利企業の場合,単式簿記を利用しても,財. 入すると正味財産勘定が総資産の金額を示すよ. 産目録を作成して正味財産の大きさを確定でき. うになるu).なお,自己検証機能もこの段階か. る.作成の過程で評価替えもできる.L単式簿記. ら備わる.. では,利益計算も基本的には財産計算の一部で ある.なお,財産計算と利益計算が重複する部. 3.3単式簿記で負債の増減をも記録する 3.2に続いて,重要な負債等も記録の対象と. 一する.便宜的に,負債勘定の記録法は資産勘定 の記録法と貸借逆にしておく23).. 分に限り,単式簿記においても収益・費用情報 を生産しうる.ただし,各帳簿から該当する金 額を拾い出す作業を必要とする.. 非営利組織の場合,正味財産の変化額のみで. 【複式簿記の優位性】. 組織活動の成果を測ることはない.しかし正味. 記録対象として負債が入っても議論に変化は. 財産の変化額を引き起こす活動によるコストは. ない.すなわち,すべての資産勘定の相手勘定. 関心を引く対象である.これが単式簿記だと,. として正味財産勘定を用いるならば,3.1と異. 例えば,現金や預金の減少によって測定される. なる情報が生まれる.すなわち,個々の資産及. 大きさとしてコストが決まってしまう.. び負債の記録では純資産の把握が困難であるが,. 【複式簿記の優位性】. 複式簿記を導入すると正味財産勘定が即純資産 の金額を示すようになる.. 営利企業の場合,利益を計算するという目的 を与えた瞬間に,複式簿記は独自の発展性を得 たことになる.すなわち財産計算の後に利益計. 以上要するに財産計算における複式簿記の優. 算が可能となるという手順が逆転して,利益計. 位性はすべての勘定を正味財産勘定で有機的に 束ねることから,正味財産勘定が総資産ないし. 算が先に行われその後の財産計算を決定付ける ようになる.非営利組織の場合,コストを発生. (負債が存在する場合の)純資産の金額を示す. 時点で認識するという目的を与えた瞬間に,複. ことが可能となり,理論的にはすべての勘定の. 式簿記は発生主義によるコスト情報を生産しう. 相手勘定となりうることから自動的自己検証機. るようになる. J.
(9) 公会計における正味財産勘定に関する簿記的考察(柴 健次). (125) ユ25. 42 複式簿記の展開可能性 単式簿記が個々の財産の増減を記録する簿記. 「公益法人会計における複式簿記においては,. であるために,財産を総括したり,財産の変動. 合)の借入れを行ったとき,. 例えば,短期借入金(資金の範囲に含めない場. 原因を記録できない.これに対して,複式簿記 は正味財産勘定を組み込んだことから,派生概. (資金項目) (非資金項目). 念を記録できる.まず,正味財産の増減原因を. 現金預金 x×× 短期借入金 x××. 示す抽象的な概念を導き,その勘定を組み込む. の仕訳(資金項圏と非資金項目の仕訳)を行わ. ことによって,複数の派生計算を可能とする.. ず,次の二仕訳を行う.. 営利企業における損益計算がその派生計算の. (収支取引仕訳). 典型である.しかしながら,簿記の構造からい. (資金項目) (収支項目). えぱ派生計算ではあるが,企業目的そのものを. 1.現金預金 x××短期借入金収入 ×xx. 計算面で支えている.それゆえ,損益計算が主. (増減取引仕訳) 7. たる計算となる.これを簿記の上で実現できる. (増減項目) (非資金項目). のが複式簿記なのである.. 2.短期借入 ×x×短期借入金 xxx 金増加額. 5.公益法人会計基準の改正案から見る簿記の 論点. したがって,収支計算書に計上・表示される. 以上の論考から公益法人の会計実務を見てい. 収支取引は,資金項目と会費収入又は事業費と. こうと思う.そこでは一取引二仕訳が一般に行. の収支取引(企業会計上の損益取引)と,この. われている.これは正味財産勘定を考察する好. ような資金項目と非資金項目との取引に関する. 材料になる.. (一取引二仕訳による)収支取引との2種類が含 まれている.…」. 5.1 固有の簿記処理の消滅. 現行の公益法人会計基準が求める収支計算書,. 会計基準の改正によって収支計算書が求めら. 正味財産増減計算書及び貸借対照表の三種の財. れなくなるのでこのような簿記処理は不必要に. 務表を勘定から誘導するためには勘定体系と決. なる2’S).これによって簿記への理解度が高まる. 算の手順を工夫しなければならない.貸借対照. と手放しでは喜べない.つまり簿記の仕訳は特. 表の資産及び負債をそれぞれ資金項目と非資金. 殊な思考技術であるから,会計基準の改正は思. 項目に二分し,資金項目の変動から収支計算書. 考の変更をも迫るからである.. を,そして非資金項目の変動から正味財産増減. 某市の公益法人経理担当者による研究会の席. 計算書を誘導する.このため,資金項目と非資. 上で重要な質疑が行われた25).ある法人では非. 金項目の識別すなわち資金の範囲の決定が重要. 資金項目である基本財産中に蓄積された特定資. である.ところがこのような工夫を行っても資. 産(具体的には特定預金)の残高を期首に資金. 金項目と非資金項目の双方に関わる取引がある. 項目に振替えて期中運用し,・期末には元の特定. ため,これらについては一取引二仕訳というユ. 預金へ振り戻すという実務を定着させてきた.. ニークな簿記処理が採用される.. 基本財産を形式的・実体的に維持すべしとする. 日本公認会計士協会(1986),公益法人委員. 考えから特定預金の期中使用に難色を示す職員. 会報告第6号『資金の範囲について』から一取. がいる一方で,基本財産を実質的・金額的に維. 引二仕訳の例を引用しよう.. 持すればよいとする考えからは特定預金の効率 的運用を支持する職員がいだ6).いずれにせよ.
(10) 126 ( 126). 横浜経営研究 第26巻 第1号(2eo5〕. 期末と期首に項目間の交差取引が2重に仕訳さ. 5.3 公益法人からの教訓. れるので維持すべき基本財産への意識が強く焼. a.拘束性に依拠した正昧財産の区分. き付けられるということであった.. 維持すべき金額が借方貸方双方に記載される. 会計基準の改正によって,資金と非資金の関. 仕組みを考えてみたい.営利企業とは異なり何. 係及び維持すべき財産の借方表示と貸方表示の. らかの理由で出資の使途に制約が加わるとVう. 関係が事後的な分析対象とはなりえても,行動. 状況を想定されたい.もっとも厳しい使途制限. への制約要因とはならないように思えるので,. は受入資産の運用の余地がないので,固定資産. 企業人と同等の発想へと変換が必要である.. と正味財産の2箇所に同額での記載が求められ る.拘束がゆるく受入資産の運用が認められる. 5.2基本財産の維持への影響. ならば,固定資産と正味財産の2箇所に同額で. 現行の公益法人会計基準は,正味財産には基. の記載が求められるものの,運用益相当額はこ. 本金と当期正味財産増加額(減少額)を内書と. の拘束から開放される.以上の場合,簿記的に. して記載することを要求している.ここに基本. は,拘束資産と非拘束資産の2ロの会計単位に. 金とは法人が基本財産と定めた資産の合計額を. 分解可能である.すなわち,拘束資産会計(基. いう.さらには,固定資産は基本財産とその他. 本財産会計)では常に資産=正昧財産である一. の固定資産に区分して記載する.そこで,維持 b すべき基本財産の金額は借方と貸方に2重に表. 方で,非拘束資産会計(蓮用財産会計)では資 産一負債=正味財産である.つまり,正味財産. 記される.. を受入資産に対する拘束性の度合いで区分表示. 基本財産を維持するため,減価償却等による. するということは会計の分割可能性を示唆して・. 基本財産の減少を資金項目から振替えて補充す. いるのである.. 特徴がある.しかしながら維持すべき総額を正. と1うが正味財産で拘束性の度合いを区分表 示する一方で,資産側ではこれに対応する表示. 味財産の部に明示すれば,その運用形態である. をしない方法も考えられる野).正味財産の区分. るとすればその維持政策が明示化されるという. 資産を基本財産として括る意義はどこにあるか. に対応する区分を資産にも設けるか否かは,す. 考えてみる必要がある. J 一. でに述共たように,基本財産を形式的・実体的. これに対して,改正案では,正味財産を指定. に維持すべきか,実質的・金額的に維持すべき. 正味財産と一般正味財産に二分することを求め ている.・一方,固定資産の部は基本財産と特定. かの選択の問題である.企業会計においては,. 資産とその他に区分される.現行基準では基本. ,運用額(稼得利益)に区分することが企業の目. 財産に含まれていた特定資産が独立表示される・. 的をも表現している.一方,非営利組織におい. :2fで,正味財産における基本金の内書が求め. ては,正味財産を拘束性の度合いに応じて区分. られなくなった.. 表示することは,組織目的の財産的基礎を強固. 以上から,基本財産と特定資産と指定正味財. にする目的には貢献するけれども,組織目的そ. 正味財産を維持すべき金額(拠出資本)とその. 産の関係が固定的でないことがみてとれる.逆. のものを表現する区分にはなって一いない.した. に言うと,改正案はこれらの関係を明確に述べ. がって,正味財産の存在は必然ではない.拘束. ていないので.維持すぺき金額について後退だ. 度合いに応じた複数の会計単位ごとに財産目録. と批判される余地もある. 一一一. を調整すれば足りるからである. 1一. それにもかかわらず「東京都が『機能するバ ランスシー一抽で正味財産に[住民・行政責任 の累積」としているのは都の責任を綾小化して.
(11) 公会計における正味財産勘定に閲する簿記的考察(柴 健次). (127) 127. いるように思える.都の責任は資産及び負債の. 多くの勘定の明細記録は財務表の位置づけは与. 管理及び予算執行を通じた行政の遂行に求めら. えられていないが,明細表としては与えられる.. れるべきである.決して正味財産の大きさでは. これに対して正味財産の増減計算書ないし増. ない.. 減原因計算書は単なる明細表ではない.期中に. b、資産・負債の区分に対応した正味財産の区分. が,正味財産全体の増減に関しては目的的計算. 前項では正味財産の区分から資産の区分を行. として構想されるので単純なる明細表にはなら. うか否かに言及した.これとは反対に資産の区. ないのである.第一に正味財産全体の純増加額. は正味財産の構成項目の増減記録もありうる捌. 分から(負債も含めた区分から)正味財産の区. は個々の資産や負債の純増減額の総和であると. 分を設けるか否かを議論しうる.. いう関係に着目すれば,正味財産増減計算書は. 営利企業会計では利益追求という目的に関し. 資産負債の純増減額で構成される30).第二に正. て資産・負債に区分は設けられない.一方,資. 味財産全体の増減を引き起こす資産負債の増減. 産運用前の正味財産が維持すべき資本としてく. をカテゴリ化して名称を与えれば(すなわち抽. くられる.資産運用後の正味財産増加額が資本. 象的勘定を導入すれば)それらから正味財産増. と区別されて利益と表示される.その利益の明. 減原因計算書が導出される31).. 細表が損益計算書である.この損益計算書は正. 正昧財産の増減を資産負債の増減で説明する ことも,資産負債の増減の意味づけによっそ説. 味財産増減原因計算書という意味合いを有する.. 公益法人では,正味財産の増減を2段階で説 明している.資産(負債を含む)を資金と非資. 明することも可能であることは理解できたであ. 金に区別すると理屈ではこれに対応して正味財. うな,資産負債区分に対応する正味財産の区分. 産も2区分になり,それぞれの区分に応じて増. もありうる.経常的支出と投資的支出に対応す. 減明細を説明可能だが実際にはそのようにして. る流動区分と固定区分,資金と非資金の区分な. いない.まず,資金領域で資金計算書を作成し,. どである.. ろう.次に,事実上の会計の分割をもたらすよ. その純増減をもって正味財産増滅計算書の一項 目としている.単純化すれば,基本財産は維持. c.予算を複式簿記に取り入れる可能性. すべき金額とその増減額に2分され,後者の説. 現金勘定は予算の代替をできるか否かで議論. 明がまず正味財産増減計算書で行われ,さらに. が分かれる.一般に現金勘定は他の資産勘定と. その計算書の一項目が資金計算書で詳しく説明. 同じく個別財として扱われるので,現金管理の. されるという構図である2S).. 観点からその増減の明細を詳細に記録し報告し. 以上の説明は,現実に即したものである.こ. たとしても,そのことによヨて予算・決算の代. れに対して,以下のような議論が可能である.. 替はできない.. すなわち,簿記で使用する勘定科目は簿記から. 複式簿記の中に予算を位置づけ,その執行を. 誘導する財務諸表に対応させて決めれば良いの. 記録し,最終的に予算との差額を明らかにする. であるが,簿記が基本的に財産の増減記録の技. には,予錬勘定を導入しないといけない.それ. 術であるという持論からすれば,簿記技術的に. ができなければ,予算は予算としておき,会計. は貸借対照表こそが基本財務諸表であり,他の. は予算とは別に行われなければならない.この. 財務諸表はそこから派生される.たとえば,貸. 意味でも「現金主義に基づく単式簿記から発生. 借対照表に記載される個別の資産や負債の明細. 主義に基づく複式簿記へ」とその移行を主張す. 記録(増減記録)はいつでも導出できる.その. るには重要な課題を解決しなければならない.. 代表がキャッシュフロー計算書である.その他. 予算=会計とするなら予算勘定を他の諸勘定と.
(12) 128 (128). 横浜経営研究 第26巻 第1号(2005). 有機的に結合しなければ複式簿記が成立しない. 額も税収もフローであり次期へ繰り越すことは. からである.. ないので,帳簿を締め切れば簿記は一巡する.. これに対して改訂公益法入会計ではこの問題. それゆえ,歳出予算をまかなうのに過不足な. を回避している.すなわち予算は会計の将外に. い税収が確保される限り,正味財産は計算され. あり,それゆえ予算は財務諸表から外れるので. ないということが確認できる.逆にいうと,税. ある.予算を会計と切り離すなら,政府会計に. 収が過大であるとき正味財産(現金)が形成さ. おいても同じ手法を用いるごとができる.. れる.. 6.行政会計における正味財産勘定の理解 公会計のうち行政責任を有する者(首相,知. 6.2 無借金の場合:税収=消費支出+投資支出. 事,市長等)が報告主体となる場合に貸借対照. ここでは6.1の条件を変える.過大な税収は ない.歳出予算は消費支出ど投資支出を求めて. 表を作成するとしてそこに示された正味財産勘. いる.この場合の決算等式は,. 定の意味を検討することにする.手順として,. 予算執行額=税収 . 』 一. 正味財産がいかに形成されるかを追っていく... 6.t無借金の場合:税収=消費支出. 消費支出+投資支出=消費支出対応税 収+投資支出対応税収 投資対応支出を負債勘定に振替えるならば,. 予算化された行政サービスに伴うすべての支. 決算等式は以下のように二分される,. 出が消費支出であり,その支出はすべて税収で. 消費支出=消饗支EES対応税収(フロー表). まかなわれるとする.期末に現金の残高もなく,. 投資支出=投資支歯対応税収(ストック. 未収の税金もない.このとき,期末の貸借対照. 表). 表に記載すべき事項はない.毎期毎期こういう. すなわち,投資=負債(前受金相当の. 状況が続くとすれば,貸借対照表は永久に作成. 税収). されない.. このように貸借対照表は作成可能だが,過大な. そのように永久に貸借対照表が作成されない. 税収がないので正味財産は形成されない.. 状況においても,それゆえ,一般には複式簿記. 一方,投資支出対応税収は負債ではないとい. の作成を要求されない状況にあったとしても,. う理由で資本を形成するという理解にたつなら,. 予算とそれをまかなう税収を複式簿記上で表現. 決算等式は以下のように二分される.. できないであろうか.. 消費支出=消費支出対応税収(フロー表). 開始残高は以下のとおりである.. 投資支出=投資支出対応税収(ストック. 歳出予算=歳入予算. 表). 税収が入るごとに. すなわち,投資=資本(非永続的な資. 予算未執行額÷現金預金=税収+未収税. 金提供). 金. この場合,投資支出対応税収が資本を形成す. 歳出予算が執行されるごとに. るが,これは出資とは言えないので,性格付げ. 予算執行額+予算未執行額+現金預金=. に困難を伴う.この投資支出対応税収を拘束し,. 税収+未収税金. 投資を実体的に維持しなければならないといっ. 予定通り税金が収納され,予算が全額執行さ. た理論を構築することは可能だが,法律の裏づ. れたあかつきには,. けを要する.投資は維持されなくて良いなら,一. 予算執行額=税収. その減価償却に対応して資本計上の投資支出対. となる、これが決算書等式である.予算執行. 応税収を減額するなど,何らかの方式で減額を.
(13) 公会計における正味財産勘定に閲する簿記的考察(柴 健次). 〔129) 129. 求められる.これは資本に計上しつつ,事実上. 題が別途生じる.もし,寄付相当額を維持すべ. 負債として扱うに等しい.いずれにしろ,投資. きとするなら,すでに議論したように,会計の. に対応する金額を資本に計上するには無理があ. 分割の可能性もある.それをあえて単一の会計. り,仮に計上したとしても,それは非永続的な 資金提供を示す一時的資本項目た過ぎない.. を行うならば,正味財産は拘束すべき寄付額と 過大税収額の双方を示すことになる.. 以上から,投資支出対応の税収を見込んで税 法と予算が議会で可決されれば,そして議決の. 6.5 結 論. 範囲内に投資支出対応税収が納まる限りこれを. 以上から,過大税収と寄付により正味財産は. 過大税収と認識しないとすれば,①の結論はこ l こでも有効である.すなわち,税収が過大であ. 収も建設国債も投資の利用とともに減少する性. 形成される.負債に計上される投資支出対応税. るとき正味財産が形成される.認められた投資. 格を有すると考えられる.投資支出対応税収を. 支出対応税収は負債を形成する.. 過大税収とみなす場合には,過年度世代の負担. 6.3 借金の意義付け. 計上されるという不整合を生み出す.. 債券を発行するなどして資金を調達し,これ. 東京都は正味財産を住民・行政責任の累積を. が資本に計上され,後年度世代の負担が負債に. を消費支出に充てる(赤字国債)か投資支出に. 意義付けているが,寄付がなければ,これは累. 宛てる(建設国債)としよう.. 積過大税収の大きさを示すことになる.. 赤字国債の場合には,決算貸借対照表は,正 おわりに. 味負債=赤字国債となる.この正味負債を解消 するに足る将来税収が確保されない限り,正味. 本稿では,単式簿記と複式簿記の相違点を正. 財産は形成されない. 1. 味財産勘定の有無に求めている.財産計算に限. 建設国債の場合には,決算貸借対照表は,投. 定すれば,単式簿記も複式簿記も同様に機能す. 資=建設国債となる.ここにおいても正味財産. るが,複式簿記では極めて技術的・形式的な勘. は形成されない.このケースは,投資支出対応. 定であるとはいえ正昧財産勘定の導入のメリッ. 税収で投資を実行したときと資産効果は同じで. トを確認できる.すなわち,正味財産勘定の増. あるが,投資支出対応税収で投資を行ったとき. 減の具体的計算ないし増減原因の抽象的計算を. 現在の国民が投資から得られる便益に対して前. 財産計算に優先させるには複式簿記の導入が不. 払いを行ったに等しいので当該税収は負債であ. 可欠になる.. る.これに対して建設国債を発行して投資を行. 利益の追求すなわち資本の増大を目的とする. った場合,現在の国民は資金負担することなく. 営利企業にとって,正昧財産が目的の具体的表. 投資の利益を享受できる.すなわち,将来の国. 現である資本を有する企業複式簿記(資本の増. 民に返済を委託する形で現在の負債を負担する.. 減と増減原因の2重計算を可能とする複式簿. いずれにしろ国債はマイナスの正味財産(す. 記)の意義はきわめて大きい.これに対して政. なわち正味負債)を形成する. 府等非営利組織にとっては,正味財産勘定を樽 入したとしてもこの勘定が組織目的を表現する. 6.4 寄付の意義付け. のではないので,複式簿記は必ずしも必須の簿. 税収でもなく,国債でもなく,寄付によって. 記法ではない.しかし,正味財産の増減と増減. 投資が形成される場合がある.この場合,投資. の記録を行い,.また,発生主義的会計思考を導. と同額の正味財産が形成される.ただし,この. 入することによってこれまで生産されなかった. 正味財産および投資を維持すべきかどうかの問. 情報が生産される意義は大きいといえる,.
(14) 横浜経営研究 第26巻 第ユ号{2005). 130 (130). わが国における公的意見を見ても正昧財産を. 畿郵政局貯金局rビッグバン後の郵便貯金事業. 積極的に意義付けていない.議論のきbかけに. のあり方についての多面的検討と今後の課題』 柴健次(2000)「非営利簿記と営利簿記に関する一考 察」『公会計研:究」第2巻第1号. 柴健次(2000)「わが国における地方自治体の貸借対 照表導入問題」関西大学経済・政治研究所『研. なればと思い,形式論で正昧財産を検討したが,. 税による世代閥の公平を基礎に考えるなら,国 債発行による投資的支出も税による投資的支出. 究双書』 第119冊.. も同列に扱わなければならない.これを前提と するとき,正味財産は過大な徴税によるか寄付 によって形成されるといえる.ただし,以下の 論点が未検討である.. ①年々の消費支出ないし投資支出に経済性 が欠ける場合にも実質的に過大徴税が存 在する.この点の議論が足りない.. ②最適な課税政策と公会計の議論が同じ土 俵で行われていない.政策との連動性が 生まれれば,政策志向的簿記・会計の理 論も構築されると期待できる.. ③情報技術の進展に伴い,複式簿記の特殊. 注. 1)日本でよく話題になるイギリスの資源会計・ 予算においては採用すべき簿記法は問われて・ いない.イギリスでは歴史家や簿記研究者を 除けば簿記法の相違に関心を寄せる学者は少 ないように思える.事実,彼らは簿記法が会 計士の領分だと考えているようだ.これに比 し,日本は簿記法に対する関心が極めて高い. しかし,不思議にも単式簿記に閲してはあま り熱心に議論する様手は見られない.批判の 対象となるばかりである. 2)後出の『機能するバランスシート1の主張が その典型である.. 性は失われる傾向にある一方で,一般的. 3)すでにここで定義を書いている.現金の増減 ではなく,財産の増減である.決して単式簿. 情報処理技術が公会計を一変させうる.. 記は「小遺帳のようなもの」ではない.. この議論が足りない.. 以上,課題を示し本論を終えたい.. 4)現金出納帳の支出に対する適用から支出を伴 うコストは認識できる.. 柴健次(2004)「曇董法入会計基準の改正と公会計数 革の言畠点」大阪府立大学『経漬研究」第5Q巻第 1号. 襲健次(⑳θ3)「イギリスの資源会計・予欝制度と財. ‘5)単式簿記と複式簿記の相違を説いた好著に片 野一郎『簿記のてほどき匡(同文舘)がある. そこでは単式簿記の帳簿劔として,現金出績 帳,当座預金患納帳,売掛金元帳,商轟有高 鰻,買掛金元帳などを挙げている. 6)特殊勘定による有機的詰合を欠くなら取91の 複式記帳に函果性すら見鐙しがたい. 7)故意なのか無理解なのかはわからない. 8)公会計改革の議論を簿記・会計の計欝構造か ら取り上げた亀井孝文ぎ公会計改革論匡白構 書房を参照されたい. 9]所有主持分(従来⑳資本}と撞権者持分(負 擬}暴タLに詩分を認めるとすれば,それを資 本の部の纏逮要素としをくてもよいので註な いかという会計上の問題と,欝三の持分を撰 護する法的根拠の閥題の解墾という法舞上の. 」藪糞革」担本公認会計士協会ぎJICPAジャ. 問題を提起している.. ーチロ、 鷲健義[20⑪3)「私企嚢会言†と公会計の研究交流」森 田書店1会計」第ユ63巻第5号. 襲璽嚢(2⑪03)嶽「撰藷の会計掌一市場経漬における. 16)その龍の包括郭益恵いずれかの鶏P駐こ穆スタ から醸麓されるなら将来の魂蓋の見越しに女. 最近の論文’:. 公会計の専門家である隅田一豊先生の退桂を 祝して刊行される本号に寄稿するにあたり公会 計の広範な論点を一本に纏め上げるのは困難で,. あるので,ここでは簿記的考察を行った.暴下 に,最近の論文を承すことにより先生への感謝 の童を表したい.. る、一亥,企業が欝散してもその{Lkの包鍾科. 闘度設計の誘相」申央経済栽. 藷顧{20◎1)「数聴会諏こおける重輩霞霊点一イギ. 益が簗三妻i時分として残るとすれぱ.それま での難鰍こ資本の部に欝上していてよいかど うかの議議が必要にな6.後妻の可龍牲が姦. リス否蜜源童計・予嚢とベス}・バリューに学 ぶ二と」暴率会討憂究苧会f会討』藥」60巻簗4. 註れば,刮益{ま義資産の璽擢額であると理解 もて差し支えない.. 暑.. 11}鐘鐘す墓麟灘鐙賛警楚慧熱こ正味鍵産すな わち費捲差額麟軽轟とすれぱ,翼蔑権を霧す. 嚢量醸ζi鶉1)f郵甦事嚢会詩のあ畢霧…こヨいて」遼.
(15) 公会計における正味財産勘定に閲する簿記的考察(柴 健次). (131) 131. る政府においては過年度の過大な徴税の結果 であり,課税権を有しない主体においては過 年度の寄付の結果である.ただし,政府等が 開始貸借対照表を作成するに際して非金銭債 務(具体的には過大な徴税や前払いしての徴r 税のうちそれらに見合いの政府サービスが提 供されていない部分)を認識しない場合には,. なわち複式簿記でないものが単式簿記である.. 正味財産が過大になる.. 21)より正確には異なる性質の資産を記録する複 数の単式簿記が存在すると表現してもかまわ. 12)国では資産・負債の種類ごとに「国の債権の 現在額総報告」,「国有財産増減及び現在額総 計算書」,「物品増減及び現在額総報告」,「国. の債務に関する報告書」など個別に報告して いる.. 13)歴史的事実であり,理論の産物ではない.た だし,情報処理科学の理論からすると,複式 簿記が伝統的に採用してきた記録法がコンピ ュータ処理を前提にして相対化され,表示の 部分のみ伝統的手法を模倣する時代に突入し てきている.そこでは貸借逆記入という技術 さえ存在し得ないであろう.貸借逆仕訳が成 立する要件としては,紙という物理的空間の 制約があると考えられる.歴史家による解明 を期待したい.. 14)すべての勘定の増減記入の方式を統一する一 方で,勘定ごとの残高を集計する際にいわゆ る貸借対照表等式の左辺と右辺の金額的検証 が可能になる確認システムさえ導入すれば, 問題なく同じ情報を生み出しうる.ただ,手 作業の世界において,慣れ親しんだ簿記法が 存在しているにも関わらず,論理的に同一情 報を生み出すもうひとつの簿記法を考案し, これを普及させる実務的意義がないだけであ る.. 15)単式簿記の世界では資本の記入がなされない. 資産と負債の特定の2勘定問で同額で交換が 起きると,そして重要なことだが資産の帳簿 と負債の帳簿で増減記入の方式を逆にしてお くならば,その限りにおいて貸借複記は成立 しているだろうけれども,だからといって資 産と負債の記入方式を逆にする意義は見出し がたい. ・. 16)別言すれば,複式簿記から正昧財産勘定(企 業なら資本勘定と収益・費用勘定)を取り去 ってみればそれに残るのは単式簿記である.. 17)紙という制約された世界の中で編み出された 複式簿記にあっては取引の認識から財務諸表 の作成に至るまで一定の記帳ルールが守られ ているが,デジタルの世界にあってはデータ、 がどのように保存されていてもモニターには 紙時代の慣れ親しんだ帳簿等が表示されるの で一定の記帳ルールが守られていると信じや. 19)したがって物量から貨幣額への換算について は議論の対象に含めないこととする.. 2田増加と減少さえ識別できればどのような記録 法でもよいと考えられるが,議論を簡潔にす るために情報処理の一般的な理解はとらない ことにする.. ない.. 22)単式簿記と複式簿記で記録対象はまったく同 一でかまわない.唯一異なる点は複式簿記に おいては正昧財産勘定が存在することである. 複式簿記における個々の資産勘定(補助簿を 想定されてもよい)ないし個々の負債勘定 (補助簿を想定されてもよい)がそれぞれ独立 した帳簿となっていると考えるとよい.例え ば,5種類の資産に関する帳簿と3種類の負 債に閏する帳簿の合計8冊の独立1した帳簿群 となロていると考えるとよい.しかし,いつ まで行っても,単式簿記には正味財産に関す る帳簿が存在しないのである.. 23)ここを問題にしだすと複式簿記以前の記録法 の発展にまで視野が広がるので議論は収拾が つかなくなる.機会を改めて論じたい. 24)理論的にはキャッシュ.フロ・一計算書を誘導 するために適用可能である.. 25)ここでは匿名としておく.取引事例はごく一 般的なものである.. 26)この場合,期末には常に特定預金残高が維持 されていないといけない.あるいは普通預金 が特定預金残高を常に超過していればよく, 問題化するのは維持すべき金額に食い込む場 合である.これに対して,特定預金の利用を 一切禁止すると資金の非効率を生む.. 27)営利企業会計はまさしくそのようになってい る.そこで維持すべき金額が資本である.資 本の運用を目指す企業に対して保有資産の使 途を逐一拘束していない.すなわち,受入資 産を実体的に維持するのではなくて,金額的 に維持する発想が浸透している.非営利組織 の場合にはこのような発想は採用されにくい.. 28)企業会計における損益計算書や公益法人会計 における正味財産増減計算書ならびに資金計 算書を正味財産勘定の下位勘定に置く説明が すべてではないことは承知であるが,この論 文ではこれらを対等に論じることから生じる 問題を論点としていないので省略している. 29)企業会計流にいえぱ資本取引のこと. 30)企業会計ではこの財務表は作成されない. 31)企業会計では損益計算書が該当する.. すい.しかしそれは幻想であろう.. 18)単式簿記の定義を消極的に想定している.す. 〔しば けんじ 関西大学商学部教授〕. 〔2GO5年3月28日受理〕.
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