• 検索結果がありません。

日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究 : 紙工作における教材開発を通して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究 : 紙工作における教材開発を通して"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究 : 紙工作における教 材開発を通して. Author(s). 佐藤, 昌彦. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 55(1): 161-171. Issue Date. 2004-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/345. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第55巻 第1号. JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol,55,No,1. 平成16年9月 September,2004. 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究 一紙工作における教材開発を通して−. 佐 藤 昌 彦 北海道教育大学教育学部函館枚(美術科教育). A Study of Art Education Based on Characteristics of Japanese Culture −一DevelopmentofthePaperHandicraftSubjectM SATOH Masahiko DepartmentofArtEducation.HokkaidoUniversityofEducation,HakodateCampus. はじめに 本研究の目的は,日本の文化的特質に基づいた美術教育を構築するために,紙工作を例にあげて,その教 材開発に関する基本的な考え方と具体的な教材を提起するものである. 日本の文化的特質に基づいた美術教育の構築については,自他の文化を尊重する多文化美術教育の一環と して,これまでも継続的に研究を行ってきた.たとえば,1991(平成3)年の「地域の伝統的造形と鑑賞教 育」(上越教育大学造形美術数育研究第4号)は,地域の伝統的造形を鑑賞教材として再評価し,その効果 的な鑑賞指導法を明らかにすることによって,風土性を重視した美術教育カ たものである1).1997(平成9)年の「三春張子と鑑賞教育」(大学美術教育学会誌第29号)と「小学校に おける昼花火の実践と理論的考察」(美術科教育学会誌第18号)は,「地域の伝統的造形と鑑賞教育」で述べ. た見地に立って,東北における伝統的造形を取り上げ,鑑賞教材としての教育的意義を考察したものである2). また,2000(平成11)年の「ヤラス(樹皮の鍋)の教材化考(1)−アイヌ民族の伝統的造形の教育的意義と 造形教材としての可能性を探る一」(美術科教育学会誌第21号)や2002(平成13)年のトウムシコツパスイ(木 鈴つきの箸)の教材化考(1)−アイヌ民族の伝統的造形の教育的意義と造形教材としての可能性を探る−」. などは,東北から北海道へ考察の範囲を広げ,アイヌ民族の伝統的造形に関する教育的意義の検討を行っが). これらの研究は,地域の文化的特質に基づく美術教育の構築に向けて鑑賞教育の面から取り組んだものであ るが,今回は,それらの研究をもとに我が国における美術文化の継承と創造という観点から,造形表現力の 育成に焦点をあて,紙工作の基本的な考え方と実際の教材について検討するものである.なお,我が国の文 化芸術に関する研究は,2001(平成13)年12月に制定された文化芸術振興基本法に「二十一世紀を迎えた今, これまで培われてきた伝統的な文化芸術を継承し,発展させるとともに,独創性のある新たな文化芸術の創 造を促進することは,我々に課せられた緊要な課題となっている」とあるように,夷術教育に限らず,芸術. 全般にわたってその積極的な取り組みが求められているものでもある4).. 161.

(3) 佐 藤 昌 彦. 日本の文化的特質に基づいた美術教育を構築するための先行研究には,大橋暗也氏(上越教育大学名誉教 授)の「折紙を生んだ日本の文化的特質」(『秘俸千羽鶴折形〈復刻と解説〉』日本折紙協会)がある5)・大. 橋氏はそのなかで,日本建築や着物,扇などの事例をあげながら,日本の伝統的造形の背景にある文化的特 質は「限られた空間におけるフレックシブルな精神」であるとし,折紙が生まれ発展してきた背景もそこに あると述べている.今回は,そうした知見に学ぶとともに,これまでに筆者が行っできた地域の伝統的造形 に関する研究及び紙工作教材の開発に関する研究を踏まえることによって,我が国の文化的特質をベースと した紙工作における教材開発のポイントと教材例を提案するものである. 本稿では,日本の文化的特質や紙工作に関する考察の結果を「多文化の尊重と自我の形成」「日本の文化 的特質と紙工作の基本的な考え方」「紙工作における教材開発の実際」という順にそって論述を行った.. 1 多文化の尊重と自我の形成 紙工作における教材開発の基本的な考え方を考察する前に,なぜ,日本の文化的特質に基づいた美術教育 を構築する必要があるのか,という点について二つの視点から整理しておきたい.. (1)多文化の尊重と美術教育. 第一は,冒頭で述べた「多文化美術教育」の視点.多文化美術教育は多様な文化の存在を認識しそれらを 尊重する精神を美術教育の立場から育成するものである.筆者は,その重要性について,2003(平成15)年 7月,函鮨市芸術ホールで開催された「美術科教育学会『東地区』研究発表会in函館」の研究冊子におい て次のように指摘した.「我が国のみならず国際社会における実践課題は何か.多くの課題が考えられるが, 根本的な課題の一つは,地域や民族,宗教などのさまざまな違いを超えた『多文化尊重の精神』を,人類共 通の基盤として,次の時代を担う子供たちへ伝えていくことである.そしてさらに言えば,最も大切なこと は,そのような方向性を示すだけにとどまらず,実際にそう生きている姿を身を以って示すことである」. 民族対立などの悲惨な地域紛争が21世紀になっても依然として続く現状を考えれば,このような課題はいっ そう積極的に取り組まなければならないものと考える.また,多文化の共存共栄をめざす取り組みの事例と しては,2000(平成12)年9月にオーストラリアで開催されたシドニーオリンピックをあげた.先住民族ア ボリジニ. 出身のキャシー・フリーマンが聖火台への最終点火ランナーに選ばれ,民族和解を標模するシド. ニーオリンピックの象徴的存在になったからである.多文化美術教育にかかわっては,アイヌ民族の伝統的 造形であるムックリ(口琴)を例にあげ,その製作と演奏を体験した学生の感想から美術教育における教育 的意義について述べた6). こうした多文化の尊重や文化芸術の重要性については,先述した文化芸術基本法においても次のように明 記されている.「文化芸術は,人々の創造性をはぐくみ,その表現力を高めるとともに,人々の心のつなが りや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し,多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するもの であり,世界の平和に寄与するものである.更に,文化芸術は,それ自体が固有の意義と価値を有するとと もに,それぞれの国やそれぞれの時代における国民共通のよりどころとして重安な意味を持ち,国際化が進. 展する中にあって,自己認識の基点となり,文化的な伝統を尊重する心を育てるものである」7).さらに現 行の『中学校学習指導要領(平成10年12月)解説一美術編−』には,自国の文化に対する理解を深めること について「これからの国際化の時代において,さまざまな文化をもつ諸外国や民族との交流がこれまで以上 に頻繁になり,自国の文化のよさを外に向って発信する機会が多くなると考えられる.自国の文化を十分に 理解しないで他国の文化を理解することは一面的であり,自国の文化に愛情や誇りを感じることなくしては. 162.

(4) 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究. 他国の文化を尊重する心も芽生えにくい面がある」と記されている8).そして,美術としての文化遺産その ものやその背景にある日本文化の特質への関心を高めることは,硯代においても大きな意味をもつとともに, 将来においても新たな創造の糧やヒントになりうるということも示された.また,『高等学校学習指導要領 解説芸術美術編』においては次のように述べられている.「日本の文化遺産や伝統的な工芸などのよさや特 質を味わうとともに,異なる文化や伝統を理解し,国際社会の中で日本の文化を発信していく基礎的な知識 や感性をもつことができるよう,次のことを指導する.(ア)日本は古来,縄文土器をはじめとして世界に誇れ る様々な工芸のものづくりをしてきた永い歴史を有していることを理解すること.また,それらの歴史と背 景となった社会や文化をたどるとともに,その工芸品や芸術としての工芸品のよさや美しさ,伝統的な日本 らしさなどの特質を探り,味わうこと.(イ)日本の各地の文化遺産や工芸作品に見られる伝統性と表現の特質 について,時代,地域性,生活様式,伝統行事などと関連させながら理解すること.また,永い歴史の中で 愛好し受け継がれてきた伝統工芸のよさを味わい,日本の工芸における美意識や自然観を理解すること.(ウ) これらの学習を通して日本の文化や伝統を尊重していく態度を身に付け,国際社会に生きる日本人としての. 自覚と文化についての基礎的な理解と資質を高めること」9).こうした記述は,日本文化に関する学習が美 術教育においても多文化尊重の視点から積極的に行う必要があるということを示すものである.. (2)文化と自我の形成. 第二は,「文化と自我の形成との関係」に関する視点.文化は人間の自我を形成する母胎となるものであ るが,その結びつきを欠いた場合の弊害について述べたい.このことは「地域の伝統的造形と鑑賞教育」(上 越教育大学造形美術教育研究第4号)でも触れたが,ここではそうした事例として次の二つを取り上げた. 一つ日は,イヌイット(エスキモー)の音楽教育.小泉文夫は『民族音楽の世界』でアラスカでの二つの 音楽の授業を比較して次のように述べている10).「(ノームの村における音楽の授業)エスキモーの子供た ちは,先生が手本として出したあるひとつの音を聴いて,それと同じ音を出すことがどうしてもできない. 先生は『もっと高く』,『もっと低く』と指導するのだが,イヌイット(エスキモー)の子供たちにはまった くわかっていない.(中略)まったくでたらめな音程で歌い,先生がいくらていねいに教えてもついてこれ ない.もちろん教室には白人の子供もおり,彼らはふつうに歌うので,調子はずれのイヌイット(エスキモー) の子供といっしょに歌うと,惨憺たるカコフォニー(互いに関連のない音を同時に鳴らすこと)になるので ある」.ノームー帯に住むイヌイットは,微妙なリズムや音程のずれを聞き分ける耳をもっており,ほとん ど正確に大勢で声をそろえて歌ったり太鼓をたたいたりすることができるという.しかし,授業がイヌイッ トの音楽文化との結びつきを欠いていたために“惨傍たるカコフォニー”になってしまったのである.「(コ ツェビュの村における音楽の授業)驚いたことに,このコツェビュの小学校にはノームでみたような調子は ずれの子供は一人もおらず,ほとんどの子供がちゃんとしたメロディを歌っていた.むろん,それぞれ自分 が歌いやすい範囲で歌えばいいという教育なので,厳密に全員の声がぴったり合った合唱とは言えない.し かし,子供たちは実にのびのびと,楽しく明るく歌っている」.コツェビュの小学校における音楽の授業では, 机や椅子を全部片づけて中央に広いスペースをつくり,じかに床の上に子どもたちはすわり,先生は椅子に 腰をかけてギターを弾いていたという.このような状況は,イーグル(居住区)で机や椅子を使わず,毛皮 を敷いた床の上で生活するイヌイットの文化に沿うものであった.また,イヌイットは歌をうたうときに, 身振り手振りをまぜて歌うので,先生はなるべく子供たちに体を動かせるようにもしていたという.そのよ うな配慮によって,全員の声がぴったり合った合唱とは言えないまでも,のびのびと明るく歌うことができ たのである.こうした二つの村における音楽の授業は,文化の違いによって,音楽教育の設備もよく整い歌 の上手な先生が熱心に教えても,子倶たちの音程が合わずに授業についていけないという事態が起こってし. 163.

(5) 佐 藤 昌 彦. まうことを示している. 二つ日は,帰国児童の言語上のトラブル.中津燈子は,シベリア,日本,アメリカと異なった文化の中で. 生活した体験をもとに,息子(研)の言語上のトラブルについて次のように語っている11).「研が無意識の 中に身につけた『日本語』のもととなった私の『日本語』は,いったいどういうものであったのか,と改め て考えてみると,私がソ連で『日本語』を習得した時,そういう『場』とか,『身ぶり」】とか,『しぐさ』と か,『物腰』という,文化的訓練を重ねあわせて受けるには,あまりに特殊な環境だった.そして,私の両 親をはじめ,まわりの人たちはそうしたことに気づかなかった.ごく自然に身につくためには,機会も,相 手も,場も,空気もそろっていなければならないのに,あまりに日本語とかけはなれた世界であったために, 大切な部分が欠落したか,あるいは不十分のまま,純粋に『言葉』の骨格だけの日本語を学習したのであろ う」.息子の研はアメリカで生まれ4歳で日本に帰国したが,すぐ日本に馴れるだろうという期待に反して, 「なぜ,ぼくが何か言うと皆笑うの?」「なぜ,ぼくが答えると皆怒るの?」などというように数々の不適 応に悩んだのである.言葉がコミュニケーションの役割を果たすためには,その青菜の背景に,「場」「雰囲 気」「しぐさ」「物腰」という,文化的訓練を重ね合わせて受けることが欠かせないことを教えている.単に 単語の組み合わせとして言葉を覚えるのではなく,生活の中で現実経験に沿いながら獲得していくことの意 味は大きい.今回の日本の文化的特質に基づく美術教育の構築も,こうした文化と眉我の形成との関係を重 視して教育を組み立てよう七するものである.. 2 日本の文化的特質と紙工作の基本的な考え方 (1)日本の伝統的造形と文化的特質. では,日本の文化的特質とは何か.そして,そのような日本の文化的特質に基づいて紙工作における教材 開発を行うためには,何を基本的な考え方とすればよいか.日本の文化的特質については,さまざまな視点 から考えることができるが,今回は冒頭でも触れたように「限られた空間におけるフレックシブルな精神」 を踏まえて検討したい.大橋氏は「折紙を生んだ日本の文化的特質」のなかで先述した精神について次のよ うに述べている.「日本建築の構造を支えているのは柱である.基本的な構造の骨組みができあがると建前(上 棟式)をやってその建物の一つの区切りを祝う.つまり,後はどのように真壁をつくり襖をつくり障子を置 くかによって内部が決まるのである.いわゆる間仕切りである.間を切るということは,限られた空間をい かに有効に使うかという思考そのものを意味している.しかも,仕切られた空間は,たえず襖を外し障子を 開けることによって変わるのである.限られた空間とはいえ,その利用の仕方は可変的なのである.畳もも ともとは文字通りたたんだものなのである.これは,石や煉瓦による厚い壁や床によって仕切られた空間で は絶対にできないことである.こめ間仕切りの論理は伝統的な日本の着物の裁ち方にも生きている.着物は 一反の布から着る人にあわせて身丈や袖丈を決め直線によって裁断する.したがって,着物をほどいてもう 一度縫い合わせれば,元の一反にもどるのである.それを洗い張りして染め直したり痛みやすい所と比較的 痛みにくい所とを差し替えたりして再び縫上げて使うことができるのである.限られた空間におけるフレッ クシビリティである.まさに折紙の論理であろう」.そしてさらに「季御寧(イ⊥・オリヨン)は,彼の著 書『縮み志向の日本人』の中で俳句や入籠や扇や折詰め弁当などによって日本人の志向の類型を説いている が,その中で彼は『世界のどの国にもウチワはあらた.どの民族もあの平たいウチワを畳んで縮めようとは 考えませんでした.日本人だけが扇を発明したということは,日本人だけがそういう発想をしたということ であり,それは,日本特有の文化構造を生み出す縮み志向を意味しているのです』といっている.日本文化 の一面をよく押さえている.しかし,私は縮みという一方向だけの不可逆的なものという考え方はとらない.. 164.

(6) 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究. 畳むことは同時に開くことを前提としているからである.扇に限らず布団も毎朝たたんで押入れにしまい, 着物もそのつどい椅麗にたたんで箪笥に幾重にも重ねてしまう.そして,使うときにはそれらを再び広げて 使用するのである.畳む,折るという文化もこうした限られた空間におけるフレックシブルな精神から醸成 されてきたのである.私は,座る(正座)という習慣もこの折る美学から生まれたものだと考えている.折. 紙の生まれてきた背景も,また,そこにある」ともいっている12).こうした我が国の伝統的造形に関する 考察は,その背景にある日本の文化的特質を明確に示すものである. 大橋氏が指摘する「限られた空間におけるフレックシプルな精神」というような日本の文化的特質は環境 教育の面からも極めて重要な視点になるものと考える.なぜなら,限りある資源の有効活用は我が国だけで はなく地球的規模の大きな課題の一つとなっているからである.筆者がこれまで教育的意義を考察してきた 地域の伝統的造形においても,必要以上の材料は採取しないこと,自然を壊すことがないような方法で材料 を採取すること,自然の命(材料)が無駄にならないようにその特性を生かして製作すること,というよう な配慮がなされている.たとえば,三春張子の材料となる和紙をつくるためには楕の樹皮が必要となるが, 採取する際には,稽の木を根こそぎ切り取ってしまうのではなく,その年に成長した枝だけを切り取る.こ のような方法で採取するので,毎年,自然を壊さずに材料となる枝を同じ楕の木から採取できるのである. さらにアイヌ民族の伝統的造形であるヤラス(樹皮の鍋)の材料を採取するときには,「ヤラスをつくる ために材料を少しいただきます」と自然の恵みへの感謝の言葉を述べてから採取する.この行為はカムイノ ミ(カムイ=神,ノミ=祈り)と呼ばれるもので,厳しい北国の風土の中で人間は自然の恵みによって生か されていると考え,自然を敬いその恵みに感謝して暮らしてきたアイヌの人々の思いが込められている.ま た,白樺からヤラスの材料となる樹皮をはぐときには,はいだ後に木が枯れてしまわないように,必要最小 限の範囲に切り込みを入れ,表面の樹皮だけをはぐ.こうした採取の仕方はヤラスをつくるときだけに必要 となるのではない.アットウシ(オヒョウの木の皮でつくる織物)の材料となるオヒョウの木の皮を採取す る場合も同じである.萱野茂著『アイヌの民具』には次のように記されている.「立ち木が裸になるほどすっ かりはぎとることはしません.皮をすっかりはいでしまえば木は枯れます.木の周囲の4分の1くらいずつ. はぎ,残りの皮が風に吹きとばされないように,はぎ取った皮の一部で帯をしめておきました」13).アイヌ の人々は「自然の一部をいただく」という感謝の気持ちを込めて白樺やオヒョウの木の皮を採取してきたの である.なお,ヤラスをつくるためには,へりから裂けてしまわないように,白樺樹皮の皮目を見極めて折 ることが大切になる.1999(平成11)年8月,旭川市立旭川市民生活館で親子アイヌ民具工作教室「ヤラス (樹皮の鍋)をつくろう」が開催されたが,指導にあたった杉村満氏の次の言葉は,材料と製作方法との関 係を端的に示している.「皮目が縦になるように折ればすぐ破けてしまいますし,横になるように折れば相 当な力を入れてひっぱっても裂けないようなしっかりしたヤラスに仕上がります.使いやすくて形もよく,. そして丈夫で長持ちするようなヤラスをつくることが,自然の命を大切にすることにつながるのです」14). アイヌの人々の自然の恵みに感謝する精神は,材料の採取段階も含めて,ヤラスの製作過程全体に貫かれて いるのである.このような自然とのかかわり方に関する事例は,紙工作の教材開発においても,材料に関す る貴重な指針を提示しているものと考える.. (2)紙工作の教材開発に関する基本的な考え方. これまで述べてきたような日本の文化的特質を生かすためには,紙工作においてどのような考え方が基本 になるだろうか.結論から言えば,有り余るほどの多種多様な材料から発想するのではなく,必要最小限の 材料から発想を広げるような紙工作教材を開発するということである.つまり,子供の造形表現力を高める ために,少ない材料を最大限に活用する紙工作教材の開発ということになる.. 165.

(7) 佐 藤 昌 彦. では,少ない材料から発想を広げるためには何が教材開発(指導法を含む)のポイントになるだろうか. 以下にそのポイントとなる7項目について述べた(表1).これらは筆者がこれまでに検討してきた次のよ うな研究に基づいたものである.「工作指導における『基本形からの発想』に関する研究」北海道教育大学 紀要教育科学編第53巻第2号,「工作教材の開発における『制作条件の設定』に関する考察」学校教育学会 第8号,「工作教材における『基本的技術の指導』に関する考察」北海道教育大学教育情報科学第30号,「工 作指導における「部品の配置」とイメージの広がりに関する考察」北海道教育大学紀要(教育科学縮)第54 巻第1号,「工作指導における『小さな紙を活用した試作』に関する考察」北海道教育大学紀要(教育科学編) 第54巻第2号. 第一は,指導と自由の明確化.子供の造形表現力を高めるためには,何を指導し,何を自由にさせるか, それらを明確におさえることが必要になる.指導するところは紙工作における基礎・基本に関する内容,自 由にするところは子供の個性にかかわる部分である.「自由につくってみましょう」「思いのままにつくって みましょう」と言うのみでは,どうすればつくろうとするもののイメージを広げることができるのか,成功 するためには何が制作上の条件になるのか,イメージを形に表すためにはどのような技術が必要になるのか, などということについての指導が不十分になる.「自分にできるだろうか」「アイディアがわくだろうか」な どと不安をかかえる子供や「いつも何をつくったらいいのかわからない」などと工作に対して苦手意識をも つ子供は少なくないのである. 第二は,基本形からの発想.少ない材料から発想を広げるための最もベースになる手立てとして「基本形」 をあげた.導入段階で完成品だけを見せたのでは発想が固定しがちになったり,いろいろなものをたくさん 見せたのでは混乱しやすくなったりするからである.たとえば,「やじろべえ」には次のような三つの基本 形がある.一つ日はアルファベットのY字型の基本形.これまでの本学における教材研究に関する授業では, この基本形から,トンボやチョウ,飛行機,空飛ぶ忍者,天使などの発想が生まれている.二つ目は,逆Y 字型の基本形.両足を広げたカエル,長く伸びた髭,お相撲さんが押し合っている様子,二人で向かい合っ て餅をついている様子などの発想が生まれた.三つ目は,L型基本形.赤ちゃんを揺らしながらあやしてい る様子,小舟に乗って鬼ヶ島へ向う桃太郎一行,スノウボードで右や左に滑っている様子などの発想が生ま れている.初めにお手本があって,そのお手本と同じものをつくる場合には,基本形を提示しなくてもつく ることができるだろう.しかし,「創造」という観点に立って,子供の造形表現力を高めようとするならば, 基本形の提示は重要な意味をもつ. 第三は,部品の制作と配置.部品を一つひとつ制作することによってつくろうとするもののイメージを広 げようとするものである.そのポイントは四つ.一つ目は,目や口などの部品ごとに分けてつくること.二 つ日は,つくった部品を置いてみて,その状態から次に必要な部品をイメージすること.三つ目は,部品を 動かしてみて一番いい配置を決定すること.四つ日は,部品を制作途中で動かすことができるように,糊付 けは全体の配置が決まってから行うこと.たとえば,顔をつくる場合には,目や口,鼻などが部品になる. このような「部品の制作と配置」にかかわる授業のなかで受講生は次のような感想を述べた.「少しずつ部 品をつけ加えていくと,どんどんいろいろなことがひらめき,自分でさっきまで考えさえしなかったような ものができあがっていきました」「目などの部品を動かすことで,自分でも考えつかなかったような表情に. 気づくことができました.そして,次に必要な部品は何かをも思い浮かべやすくなりました」15). 第四は,制作条件の設定.成功するための条件を明確にするということである.紙皿,スチール缶を活用. し,輪ゴムの力で転がる教材「たてがみモンスター」を例にあげて述べたい16).その制作条件を設定する 際には次の二つの面から検討する.一つ目は,機能面.スムーズに転がるための条件ということである.具 体的に言えば次の三つ.①紙皿を二枚貼り合わせること.一枚では輪ゴムを巻けば巻くほど歪んで転がりに. 166.

(8) 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究. くくなる.②スチール缶を使用すること.アルミ缶は軽すぎて空回りしやすい.アルミ缶よりも重いスチー ル缶を使用することによって空回りをふせぐのである.③紙皿のへりから約5mのところに穴をあけること. へりから離れすぎると,紙皿の底にスチール缶が接触して動きが鈍くなる.二つ目は発想面.「たてがみモ ンスター」の顔をつくるための条件として欠かせないものは何かということである.条件は二つ.①目と口 をつくること.目と口さえあれば,全体がどのような形になっても顔であることが誰にでもわかる.そして, 鼻や耳など,目と口以外の部品はそれぞれの状況に応じてつくるかつく一らないかを決定する.②たてがみを つくること.紙皿の形を生かしながら,モンスターとしてのインパクトをより強くすることができる. 第五は,基本的技術の指導.紙工作にかかわって「切る」「貼る」「折る」という三つの技術を取り上げた い.「切る」技術の基本は,はさみの根元でゆっくり切るということである.はさみの先で何度も小刻みに 切ると,切った後がギザギザになりやすい.これでは美しい仕上がりにはならず,子供が自信を失う原因に もなる.また,ゆっくり切ることによって,現在の状況を把握しつつ,次に進む方向を見極めやすくなる.「貼 る」技術の基本は,へりまで糊をつけるということである.子供は貼ろうとする紙の中心部分にだけ糊をつ けがちである.このようにすると,紙のへりがめくれてはがれやすくなったり,隙間に他の部分がはさまり 壊れやすくなったりしやすい.セロハンテープで貼るときにも同じことが言える.真ん中だけを押しつける のではなく,へりまでしっかり押しつけて貼るということである.なお,糊をつけるときには,はみ出すほ どたくさん出し過ぎないということも大切である.「折る」技術の基本は,へりに合わせて折り目をきちん とつけるということである.たとえば,ジャバラを活用した紙工作教材では,この技術がなければ伸縮自在 の仕組みをつくることができない.また,創作ブーメランの型紙を折紙でつくる際にもこうした「折る」技 術かなければ,美しい形のブーメランにはなりにくい.. 表1紙工作の教材開発に関する基本的な考え方 基本的な考え方. 概. 要. ① 指導と自由の明確化 何を指導し何を自由にするのかということである.指導する部分は基礎・基本に関する内 容,自由にする部分は個性にかかわる内容である.. ② 基本形からの発想 少. (卦 部品の制作と配置. な. い 材 料 か. ら の. ④ 制作条件の設定. 少ない材料から発想を広げるためにはどうすればいいか.発想を広げるおおもとになる形 として基本形を設定した. 基本形からの発想の次の段階として設定したものである.顔であれば,日や鼻,口などが 部品になる.身体全体であれば,手や足などが部品になる 成功するための条件を明確にするということである.機能面では,転がるための条件,音 が出るための条件,飛ぶための条件などがある.発想面では,鬼の顔に見えるための条件, へびに見えるための条件などというものがある.. ⑤ 基本的技術の指導 発想を形に表すためにはどのような技術が必要になるかということである.たとえば,「切. る」技術,「折る」技術,「貼る」技術などがある. (む 小さな紙による試作 基本形から発想する前の段階として行うものである.小さな紙で試作したものの中から気 に入ったものを選んで本格的につくっていく. ⑦ 小さなステップとそ 制作過程を小さなステップに区切って制作を進める方法である.制作にあたって「難しそ の積み重ね うだ」「自分にできるだろうか」というような不安があっても,小さなステップの積み重ね によって,そのような不安が少なくなっていく.. 第六は,小さな紙による試作.利点は主に五つある.①基本形をつくるためのポイントを事前におさえる ことができる.基本形をつくるためのポイントとは「制作手順」「制作技術」「基本的技術」を指している. ②つくろうとするもののイメージがわきやすくなる.これは目の前にある具体的な形をもとに次を考えるこ とができるからである.③短時間にさまざまな形をつくることができる. .このことは小さな紙を活用する際. の大きな特長になる.④気に入った形をベースにして次の段階へ進むことができる.その手立てには,主に 「試作したもののなかから一番気に入ったものを選ぶ」「試作したものをいくつか組み合わせる(形全体を. 167.

(9) 佐 藤 昌 彦. 組み合わせたり,よいと思う部分を組み合わせたりする)」という二つの方法がある.⑤つくることへの不 安をやわらげる.本番前の試作ということで「失敗したらどうしよう」というような心配をせずに思いきっ て取り組めるからである. 第七は,小さなステップとその積み重ね.これは創作の基本的なプロセスを小さなステップに分け,それ らのステップの積み重ねによって,造形表現力を高めようとする指導法である.その利点は四つ.①ステッ プごとにねらいを一つにしぼるために集中しやすい,②夢中して取り組むためにそれぞれのねらいが達成し やすい.③一つひとつのねらいの達成は制作全体の成就感に結びつきやすい.①少しずつ進むために「自分 にもできるだろうか」というような不安をやわらげやすい.未知のことに取り組もうとするときには「いい 発想が思い浮かぶだろうか」「自分なりにいいものができるだろうか」などというように不安な気持ちにな りやすいが,こうした小さなステップによる指導は子供の自信へつながるものと考える.. 3 紙工作における教材開発の実際 少ない材料から発想を広げる紙工作教材として,本稿では筆者がこれまでに教材化したものの中から20教 材を取り上げた(表2).これらは主に我が国の伝承玩具や各地の伝統的造形をもとにしたものである.教 材化の視点は,前述したように,「少ない材料からの発想」を基本的なコンセプトとして,「指導と自由の明 確化」「基本形からの発想」「部品の制作と配置」「制作条件の設定」「基本的技術の指導」「小さな紙による 試作」「/トさなステップとその積み重ね」という7つのポイントをおさえた.表2に示したものの中から10 教材を取り上げてその概要を述べたい.「ロープウエー」は,凧糸を持った手を上に振り上げると,ぶら下がっ た人形や動物,乗り物などが遠くへ飛んでいき端までいくとまた手元にもどってくる教材である.「おはな し人形」は,紙袋の中に手を入れて開いたり閉じたりすると,色画用紙でつくった顔がお話をしているかの ように動く.「虫の国へようこそ」は小石とアルミ線を組み合わせてつくる教材である.「熱気球」は,薄某 紙または図引紙を使ってつくるもので,アウトドア用の小さなガスコンロを熱源とした.「びっくりバタバタ」 は,沖縄の伝承玩具をもとに教材化したもので,袋を開けるとバタバタというような音がする.「口出しお面」 は,三春張子の「半面ひょっとこ」を教材化したものである.半面ひょっとこでは数枚の和紙を貼り合わせ た「合わせ紙」を使用するが,本教材では画用紙一枚でつくることができるようにした.「紙とんぼ」は折 紙を活用して多様な形を発想できるようにしたものである.「すてきなモビール」はわずかな風の動きをと らえて形がさまざまに変化する教材である.「ミニ凧」は,四角形や六角形というような凧ではなく,鳥や 昆虫など,いろいろな形の凧を発想できるようにした.「昼花火」は,日中打ち上げる花火であり,パラシュー トをつけた“旗物”と袋状になってゆらゆら舞い降りてくる“袋物”をつくることができるようにした.な お,本稿で取り上げた紙工作教材は『楽しい. 工作メニュー10選・第1集』〔明治図書出版株式会社〕17)及び『楽. しい工作メニュー10選・第2集』〔明治図書出版株式会社〕18)に掲載したものである. 表2 紙工作における教材開発の実際 教材名 ロープウエー. 材料. 要. 牛乳パック,色 凧糸を持った手を上に振り上げると,ぶら下がった人形や動物などが遠くへ飛 画用紙,プー んでいき,端まで行くと戻ってくる.手の振り上げ具合や端を結ぶ高さなどを変 リー. 2 おはなし人形. 概. えることによって,スピードをあげたり距離を伸ばしたりすることができる.. 紙袋,色画用紙 紙袋の中に手を入れて開いたり閉じたりすると,色画用紙でつくった顔がお話 をしているかのように動く.腹話術や人形劇に発展させることができる.. 3 虫の国へようこそ 小石,アルミ線 小石とアルミ線などを組み合わせて想像上の虫をつくる.素材そのもののよさ や面白さを生かすことができるように着色は最小限におさえた.. 168.

(10) 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究 4 熱気球. 薄紙(薄薬紙, 8枚の笹塑(薄紙)を貼りあわせてつくる教材.凧糸をつけていかないと,ど または図引紙), んどん遠くへいってしまうほど空高くあがる.空気をあたためるための熱源は, 障子紙 アウトドア用の」、さなガスコンロを活用した.. 5 びっくりバタバタ 針金,翰ゴム, 袋を開けるとバタバタバタと音を立てて,中からへびの頭やしっぼが見え隠れ. 5円玉,封筒, する教材である.へびの他にもトカゲ,恐竜,怪獣など,音が出る仕組みから発 色画用紙. 想して,開けてびっくりするようなものをつくる.. 油粘土,画用紙 鼻から上だけを隠すお面.口を動かすことによって,顔の表情がさまざまに変 わる.クラスのお楽しみ会,劇,踊りコンクール,幼稚園訪問,老人ホーム慰問 など,多くの場面で活用することができる. 7 紙とんぽ ボール紙,折紙, 二枚羽根だけではなく三枚羽根や四枚羽根の紙とんぼをつくることができる. 竹ぐし 飛んだ高さや距離,滞空時間などを競い合う. 8 すてきなモビール カラークリ ア 材料は半透明の薄いカラークリアシート(または色画用紙).わずかな風の動 シート,竹ひご, きをとらえて形がさまざまに変化する.抽象的な形の他に,魚,飛行機,虫,自 糸 動畢,小鳥,人間などの具体的な形をつくることができる. 9 ミニ凧 つや紙,竹ひご, 昂や昆虫など,子供が思い描いた形を凧にすることができる.本教材で高める 凧糸 力は主に次の二つ.一つは,大空に揚げてみたくなるような面白い形を発想する 力,もう一つは,小さな凧でも大空に映えるような配色を工夫する力. 6 口出しお面. 10 畳花火. 薄紙(雁皮紙な 昼花火は日中打ち上げる花火.本教材では旗物と袋物を取り上げた.放物は, ど). 大空に打ち上げた花火の玉からドンドンドンという音とともにパラシュートのつ. いた作品が降りてくる.袋物は袋状になった作品がゆらゆら舞い暗りてくる. 田 はなれたりとびつ ミニカップ,磁 磁石の反発する力や引き合う力を活用した教材.はなれたりとびついたりする いたり 石,色画用紙 動きから,面白い組み合わせを思い浮かべることができる. 12 あきかんコロコロ 空き缶(スチー 回転する空き缶に床屋さんの店先にあるようなだんだら模様を貼ったりスト ル缶),輪ゴム, ローの先に色画用紙でつくった旗をたなびかせて海賊船に見立てたりしていろい ストロー,色画 ろなものをつくる.また,空き缶に穴を開けずに動く仕組みを制作するので,低 用紙 学年の教材として設定することができる. プラスチックの 指先にのせたり机の上に飾ったりすることができる.指先などでゆらゆら揺れ 13 下敷き,ゼムク る様子から面白い形のやじろべえを思い浮かべる.発想を広げるために,三つの リップ,色画用 基本形を示した.一つ目は,Y型基本形.二つ目は,逆Y型基本形.三つ目は, 紙 L型基本形.. 1 4 ポールペン紙でっ 使用済みの 使用済みのボールペンを活用してつくる教材.ねらいは次の二つ.①ポールペ ぼう ボールペン,丸 ンを活用して,できるだけ遠くへ飛ぶ紙でっぼうをつくる.②面白い的を発想し, 棒 ,色画用紙 それを色画用紙でつくる. 15 紙ひこうきのファツ 色画用紙,ゼム 二つの基本形から様々な形の紙飛行機をつくることができる.飛ぶ距離(遠く ションショー クリップ へ飛ばそう)や滞空時間(なが−く飛ばそう),着地の正確さ(目的地に着地さ せよう)などを競い合って遊ぶ. 16 タコダンス. 水玉風船,ペン 材料は水玉風船とペンシルバルーン.静電気の力を活用して空中を飛びまわる シルバルーン ものをつくる.ペンシルバルーンはねじるところを変えたり重ね合わせるところ を変えたりすることによっていろいろな形をつくることができる.. 17 まほうどんぶり プラスチック 「タコダンス」と同じように静電気の力を活用した教材.「電気ナマズ」「カミ コップ,アルミ 箔,色画用紙. 18 ルスタンド. マーブリングの技法を活用してつくるキャンドルスタンド.ペットボトルに マーブリングをほどこした和紙を巻きつける.コンピュータで措いた画像をカ. ラー印刷したものやステンドグラスのようにしたものなどをペットボトルに巻き つけることもできる. 19 ができる.おばけの作例としては「こわいおばけ」「のんきなおばけ」「まぬけな ロ おばけ」「ゆかいなおばけ」など. 20 パタパタカ−ド ボール紙,色紙, 縦につながっているカードが一枚ずつ裏返しになっていく.一年生を迎える会 クリアファイル, でのプレゼント,病院で入院している友達へのお見舞い,祖父・祖母へのプレゼ 割り箸 ント,父・母へのプレゼントなどとしてつくることができる.. おわりに 日本の文化的特質に基づいた美術教育を構築するために,紙工作を例にあげて,その教材開発に関する基 本的な考え方と具体的な教材についての検討を行ってきた.. 169.

(11) 佐 藤 昌 彦. 考察を行うにあたっては,まず,日本の文化的特質に基づいた美術教育の必要性を,多文化美術教育や文 化と自我形成との関係から検討し,次に,日本の文化的特質に関する先行研究や筆者がこれまでに行った地 域の伝統的造形などに関する研究をもとに,紙工作における教材開発の基本的な考え方を提起した.その結 果として,紙工作教材の開発においては,「少ない材料から発想を広げる」というコンセプトを基軸として, 造形表現力を高めるための七つのポイントを設定した.第一は,指導と自由の明確化.第二は,基本形から の発想.第三は,部品の制作と配置.第四は,制作条件の設定.第五は,基本的技術の指導.第六は,小さ な紙による指導.第七は,小さなステップとその積み重ね.その趣旨は実例をあげて論述した. また,教材開発の実際については,「少ない材料から発想を広げる紙工作教材」として20教材を取り上げた. たとえば,大空に打ち上げる教材としての「昼花火」,空中に浮かぶ教材としての「熱気球」や「タコダンス」, 飛ぶ教材としての「紙ひこうきのファッションショー」,音が出る教材としての「びっくりバタバタ」,走る 教材としての「あきかんコロコロ」,光る教材としての「すてきなキャンドルスタンド」や「おばけちょう ちん」などである.これらは主に我が国の伝承玩具や地域の伝統的造形がもとになっている. 今後の課題は二つある.一つは,紙工作における教材開発のポイントと本稿で取り上げた20教材について 継続的に検証を行うことである.もう一つは,日本の文化的特質に基づいた美術教育の全体構造を明確にす るということである.具体的には,紙工作以外の領域も含めて表現と鑑賞の両面から検討していきたい.こ うした取り組みは現代における美術教育の意義をより広い視野から提起できるものと考える.. 註 1)佐藤昌彦「地域の伝統的造形と鑑賞教育」『造形美術教育研究』第4号,上越教育大学,1991,pp.47−5乳 2)佐藤昌彦「三春張子と鑑賞教育」『大学美術教育学会誌』第29号,大学美術教育学会,1997,pp.117−126.佐藤昌彦「小 学校.における昼花火の実践と理論的考察」『美術教育学会誌』第18号,美術科教育学会,1997,pp・125−136. 3)佐藤昌彦「ヤラス(樹皮の鋼)の教材化考(1)一アイヌ民族の伝統的造形の教育的意義と造形教材としての可能性を探る−」. F美術科教育学会誌』第21号,美術科教育学会,2000,pp.135−146.佐藤昌彦「トウムシコツパスイ(木鈴つきの箸)の 教材化考(1)−アイヌ民族の伝統的造形の教育的意義と造形教材としての可能性を探る一」『美術科教育学会誌』第23号,美 術科教育学会,2002,pp.85−96, 4)文化芸術板興基本法.第1粂にはその目的が次のように示されている.「この法律は,文化芸術が人間に多くの恵沢をも たらすものであることにかんがみ,文化芸術の振興に閲し,基本理念を定め,並びに国及び地方公共団体の責務を明らかに するとともに,文化芸術の振興I土関する施策の基本となる事項を定めることにより,文化芸術に関する活動(以下F文化芸 術情動』という.)を行う者(文化芸術活動を行う団体を含む.以下同じ.)の自主的な活動の促進を旨として,文化芸術の 振興に関する施策の総合的な推進を図り,もって心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とする」. 5)大橋暗也「折紙を生んだ日本の文化的特質」『秘博千羽鶴折形〈復刻と解説〉』日本研紙協会,1991,pp.136−137. 6)美術科教育学会「東地区」研究発表会in函館.函館市芸術ホール.2003.7.26.全体テーマは「地域から今後の美術教育 を考える」.研究冊子掲載の各テーマは以下のとおり.宮脇理(元筑波大学教授)「地域主義と文化の現在」.佐藤昌彦(北 海道教育大学助教授)「多文化尊重の精神と美術教育」.紀谷義彦(前北海道上磯町立上磯小学校校長)「美術教師への期待」. 青野昌勝(前北海道立函館美術館館長)「子どもと美術館とのかかわりを求めて−もう一つの美術教育をつくるために−」. 仲瀬律久(聖徳大学教授)「地域から美術教育を考える」.大橋暗也(上越教育大学名誉教授)「アイヌ文化に学ぶ」.柴田和 豊(美術科教育学会代表理事)「第4回美術科教育学会『東地区』研究会に寄せて」. 7)文化芸術振興基本法,前掲書4) 8)文部省F中学校学習指導要領(平成10年12月)解説一美術編−』開隆堂出版株式会社,1999,p.98, 9)文部省『高等学校学習指導要領解説美術編』株式会社教育芸術社,1999,pp.136−137. 10)小泉文夫『民族音楽の世界』日本放送出版協会,1985,pp.89−94. 11)中津庶子rこども・外国・外国語』文蛮春秋,1979,pp,27−40. 12)大橋,前掲昏5),pp,136−137. 13)萱野茂『アイヌの民具』Fアイヌ民具』刊行運動委員会,1978,p.35.. 170.

(12) 日本の文化的特質に基づいた美術教育に関する研究 14)佐藤,前掲書3),pp.138−139. 15)萬谷隆一・佐藤昌彦「教育実習事前指導における『授業づくり』のポイントについて(1トー工作指導の観点から−一」F北海. 道教育大学紀要(教育科学桶)』第54号第1号,2003,pp.39−49. 16)佐藤昌彦「成功体験を支える条件設定の鍵は何か」『教室ツーウェイ』7月号,明治図書出版株式会社,2003,p.64. 17)佐藤昌彦F楽しい 工作メニュー10選・第1集』明治図書出版株式会社,1998,pp.ト110. 18)佐藤昌彦F楽しい 工作メニュー10選・第2集』明治図書出版株式会社,1999,pp.1−120.. (函館校 助教授).

(13)

参照

関連したドキュメント

※ 硬化時 間につ いては 使用材 料によ って異 なるの で使用 材料の 特性を 十分熟 知する こと

5 タンク、タンクキ ップ、ワイパー ッド、 ーター ッド、スプレー ボトル、ボトルキ ップ 洗い する.

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

モノづくり,特に機械を設計して製作するためには時

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

形状別に分別協力率をみると、「リターナブルびん」については、100%が空き缶・空きびんに排

2030 プラン 2030 年までに SEEDS Asia は アジア共通の課題あるいは、各国の取り組みの効果や教訓に関 連する研究論文を最低 10 本は発表し、SEEDS Asia の学術的貢献を図ります。.