小学校体育科の対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性についての一考察 : 小学校第4学年器械運動「跳び箱パフォーマンス」を事例に
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.2. 令 和 2 年 2 月 February, 2020. 小学校体育科の対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性についての一考察 ― 小学校第4学年器械運動「跳び箱パフォーマンス」を事例に ―. 溝口 仁志・橋本 忠和*・小松 一保* 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 *. 北海道教育大学函館校授業開発研究室. A Study on the Correlation Between a Reciprocal Interaction and Interactive Learning of Physical Education in Elementary Schools MIZOGUCHI Hitoshi, HASHIMOTO Tadakazu* and KOMATSU Kazuyasu* Department of Advanced Teaching Practice, Graduate School of Education, Hokkaido University of Education *Department of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 筆者は,従前より体育科において子供同士が支え合う学習活動を意図的に設定し,互恵的な 協力関係を築く中で体育科の単元目標の達成を目指す授業実践を行ってきた。そして,その学 習活動は体育科における対話的な学びを具現化した一例と捉えている。一方で,体育科でも言 語活動が導入されたが,それ自体が目的化している事例も見受けられる。そこで,本研究は体 育科における「対話な学び」の形骸化を解消するため学習活動における互恵的な協力関係の視 点から自らの授業事例「跳び箱パフォーマンス」における言語活動と運動場面及び単元目標と の関連性を分析,検証することを試みた。すると,対話的な学びを通して互恵的な協力関係が 強化されるとともに単元目標達成に有効に機能していること,さらに事例の学習過程と中原淳 の組織開発の3ステップ「見える化,ガチ対話,未来づくり」との関連性を見出し,児童の対 話的で互恵的な学びのプロセスを把握することができた。. 1 はじめに 筆者は体育科において協同学習におけるジョン ソン等が指摘する「互恵的な関係は,自分自身の 成功と同時に他の仲間の成功への関与をもたら 1〉. す」 という「互恵的な協力関係」を視点に,授. 業実践の研究を進めてきた。そこではグループ学 習の形態を工夫することにより互恵的な協力関係 を構築・活用することで学習活動を展開してきた。 その「互恵的な協力関係」を重視した授業づく りの意図は,以下の3点である。 ①知識・技能習得に関わる教え合いの促進や運動. . 357.
(3) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. 課題解決に向けた相互作用による思考力向上。. 述等)と運動場面及び単元目標との関連性を「互. ②運動を苦手とする児童にとって安心して学べる. 恵的な協力関係づくり」を視点に分析することで,. 環境の要因となり,運動への意欲を高める。. 授業における有意な「対話的な学び」と「互恵的. ③児童間のコミュニケーション能力の向上から,. な協力関係づくり」との関連性を見出すことがで. よりよい人間関係づくりにも機能し,生徒指導. き,その学習活動のプロセスも可視化できるのは. や学級経営の面においても好影響を及ぼす。. ないかと思われる。さらに,その可視化により「互. 上記の「互恵的な協力関係」を意図した体育科. 恵的な協力関係づくり」を強化し,単元目標を達. のグループ学習の中で具体化する手立てとして,. 成する教師の働きかけの方向性を探ることができ. 自身の実践の中で活用してきたのが児童及び教師. るのでないかと考え「小学校体育科の器械運動に. 間での「対話」である。この体育科の学習活動に. おける対話的な学びと互恵的な協力関係づくりの. おける「対話」に関連して,小学校学習指導要領. 関連性」についての研究に取組んだ。. (平成29年度告示)総則編では,身に付けた知識・ 技能を定着させるとともに物事の多面的で深い理. 2 「対話的な学び」の有用性と危惧. 解に至るために子どもが対話し,それによって思. この章では,体育科における対話的な学びの有. 考を広げ深める「対話的な学び」を位置付けた授. 用性を平成29年度公示の学習指導要領を資料に整. 業づくりが求められている1。. 理するとともに,その言語活動の形式的導入によ. 例えば,小学校学習指導要領(平成29年告示). る対話的な学びの形骸化がもたらす危惧について. 解説体育編においては,器械運動領域において,. 森勇示の関連文献から抽出する。その上で,内在. 技がうまくできたときの動き方や気づいたことを. する危惧を解消する方向性を互恵的な協力関係を. 伝え合うことや,ボール運動領域においてボール. 視点に見出す。. をつなぐことについて考えたことを他者に伝える. 2-1 体育科における対話的な学びの有用性. 2. ことなどを示している 。ところが,体育科にお. 平成29年度告示,学習指導要領解説体育科編(以. ける言語活動の研究者である森勇示は,授業への. 降:小学校体育科編と表記)体育科における「対. 安易な言語活動の導入について「言語活動の単な. 話的な学び」について,小学校において以下のよ. る形式的導入となっていると考えられるものが. うに記されている。(筆者下線). 2). あった」 と授業事例と共にその懸念を示している。. 「運動や健康についての課題の解決に向けて,. 確かに, 森の指摘のように,授業の中に「対話」. 児童が他者(書物等を含む)との対話を通して,. という言語活動を形式的に導入するだけでは,筆. 自己の思考を広げたり深めたりするなどの対話. 者は重視してきた児童間の「互恵的な協力関係」. 2 的な学びを促すこと。」. の育成や体育科の単元目標を達成することはでき. この記述から,体育科における対話的な学びが. ないと考えられる。. 「思考を広げたり深めたりすること」を一つの目. そこで,本研究では「対話的な学び」に対する. 的としていることが読み取れる。そして,ここで. 危惧を解消すると共に,学習活動における「互恵. の「対話」と「思考」を関連付ける構造は,従来. 的な協力関係」に焦点をあて授業分析を行うこと. から体育科における「言語活動」のねらいとして. を通して,小学校体育科における「対話的な学び. 配慮事項において示される以下の内容と通じてい. と互恵的な協力関係との関連性」を明らかにする. る。(筆者下線). ことを目的とした。その授業分析の対象としては. 「筋道を立てて練習や作戦について話し合うこ. 小学校4年生の授業事例,器械運動領域「跳び箱. とや,身近な健康の保持増進について話し合う. パフォーマンス」を想定している。. ことなど,コミュニケーション能力や論理的な. すなわち,この検証事例の言語活動(対話・記. 358. 思考力の育成を促すための言語活動を積極的に.
(4) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性 3) 行うことに留意すること。」. 伝え合う身体的対話6)の重要性を認めた上で石垣. ここで注目すべきは,留意事項の記述には「思. 健二は以下のように指摘している。. 考力育成」に加えて, 「コミュニケーション能力」. 「それは現状の体育が『よく動いたね』ではな. という視点の記述があり,それが言語活動のねら. く『よく考えたね』と言われる体育へと,言う. いとして設定されていることである。. な れ ば『 頭 で っ か ち の 体 育 』 に 偏 重 し 始 め. したがって,小学校体育科における「対話的な. 7) た。」. 学び」とは,他者と主体的に関わる体験的な学習. 上記の文中で「頭でっかちの体育」と石垣が命. 活動を展開することを通じて,思考力とコミュニ. 名しているように,言語活動の過度な重視は,身. ケーション能力の育成を軸にした学びであると捉. 体運動に対する言葉の意図を形骸化させる点と内. えることができると思われる。. 実のない言葉を用いた上滑りの知識あるいは思考. 2-2 「対話的な学び」に対する危惧. の共有のみを強いて,身体運動ができない『頭でっ. 前節で示した「思考力」と「コミュニケーショ. かち』の児童を生み出す恐れがある。この状況は. ン能力」の育成という言語活動の有用性から,小. 森も指摘しているように「対話的な学び」自体が. 学校体育科の授業においては「対話的な学び」の. 目的化し,体育科の目標達成がなおざりにされる. 一環として話し合い等の言語活動がよく設定され. 状況を生み出す要因になっていると思われる。. ている。しかしながら,無条件に言語活動を体育. そして,この状況を改善する手立てとして森は. 科の「対話的な学び」として実施したとしても,. 過去の事例の分析から,その方向性として事例の. 森が「言語活動の充実イコール話し合い活動の導. 問題点と対応する以下の3視点を示している。. 4). 入ではない」 と指摘するように,その有用性が 具現化できるとは限らないようである。 同様に,森も下記の理由から体育科における安 易な言語活動への危惧を指摘している。 「記述活動や対話活動を安易に導入し,単に共 同体としての言語交流があればよしとする考え 方。そのことによる運動学習の抑制が体育の学 習に機能せず,結果として教科の目標を損ねる 5). こと。 」. ① 手段-目的関係の再検討 ・問題点:対話活動・記述活動の導入による 言語活動の目的化 ・改善の視点:言語活動は体育科の目標達成 の手段と位置付ける ② 言語活動と運動技能との関係 ・問題点:言語活動が運動技能を向上させる 学習に機能していない ・改善の視点:子供が「話し合い,教え合い」. 確かに, 「言語交流があればよし」とする指導. における運動の観察や,「学習カード」等. 者の安易な考え方が,必要感を伴わない形式的な. による運動の省察をできるようにするため. 話し合い活動の時間を生み出し,それによって運. の教師の指導. 動学習の機会を奪い,ひいては単元目標の達成に 有効に機能していなかったりする事例も見かける。. ③ 評価の観点との関係 ・問題点:評価の観点である「運動について. このままでは,「対話的な学び」が形骸化する. の思考・判断」を対話活動・記述活動で行. 怖れがあり,それを解消する手立てを考える必要. うことが多いが評価規準が曖昧で話し合い. があると思われる。. の活発さ,学習カードの記述量で評価する. 2-3 「対話的な学び」への危惧を解消する方. ケースがある. 向性とは 前節のように「対話的な学び」の形骸化への指 摘を裏付けるように,言語活動の偏重がもたらす 危惧を,身体運動を通して,身体的感じを刻々と. ・改 善の視点:「言語活動の充実」に至るた めの評価の観点の確立と実践との関係でそ の具体的活動を再考する8) この森が示す改善の視点を参考に,「対話的な. . 359.
(5) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. 学び」形骸化を防ぐ方向性として,下記のステッ. やってみよう」と新たな動きを提案し,それまで. プ(プロセス)に留意して体育科において言語活. 同じ方向に向かって行っていた側方倒立回転を,. 動を導入する必要があると考えた。. 相互が交差するような形で技を行ってみた。. ・第1ステップ:教師が「何のための言語活動. すると,それを見ていたチームメイトが「そっ. なのか」といった視点をもち単元目標との関. ちの方がかっこいい」と,運動者の2人が発想し. 連から言語活動の目的を明確にする. た交差する動きのよさを認める発言をしていた。. ・第2ステップ:教師の指導(目的の提示と価. その後「発表会でもこの技をやろう」「もっと動. 値付け,既習事項との対比等)を通して,子. きを合わせたいね」という,チームメイトが創出. 供が言語活動の目的や意義を理解し,主体的. した動きをチーム全体の動きの方向性として生か. な活動を促進する. す,互恵的で主体的な対話がなされ,再度,練習. なお,体育科においては上記の言語活動を有用. に取り組んでいた。(写真1). 的に導入する留意点に加えて,その学習を個人主 義的な観点で構想するのではなく共同体的な観点 で構想する学習観を提唱する細江文則の下記の指 摘から,学習活動における「互恵的協力関係」も 「対話的な学び」形骸化を防ぐ手立てと有意性が あると考えられる。(下線筆者) 「仲間と教え合ったり,励まし合ったり,ある いは共感したりという,他者や運動とのコミュ ニケーション,つまり『関わり合い』のなかで 『自分や仲間にとっての運動の意味を創りだし 9) ていくこと』に学習の価値をおく」. 写真1 相互が交差する形で技を行おうとしている 児童. この児童達の互恵的な学習活動の様相は,先の. すなわち, 細江が互恵的な「関わり合い」が「自. 細江が指摘する「『関わり合い』の中で自分や仲. 分や仲間にとっての運動の意味を創りだしてい. 間にとっての運動の意味を創り出していく」共創. く」と対話を通した「関わり合い=コミュニケー. 的な姿として捉えることができ,その互恵的な対. ション」を重視しているように,教師が意図的・. 話と,その中で価値を見出し,創出した運動の場. 計画的に互恵的な児童同士の協力関係場面を創. 面を抽出すると以下の様に整理できた。. 出・促進していくことで,運動の意味を創り出す. ① 対話で運動の意味を発見した場面. ことを通して,児童は対話の必要感やその価値を 実感すると思われる。. ・個別練習で動きをシンクロさせた2人の運 動を観察していた児童が「かっこいいと」. それは,筆者が指導した4年生が集団マット発. 自分の感じた価値を2人に伝える(対話). 表会に向け「側方倒立回転」の習得を目指しチー. ・2人は動きをシンクロさせることに運動の. ムで練習している学習場面からも見出すことがで. 意味を見出し,集団演技の発表に向けて練. きた。そこでは偶然に動きをシンクロさせた2人. 習に取り組む(運動の意味の発見). の「側方倒立回転」を観察していた児童が「今の. ② 対話から新たな運動の意味を創出した場面. かっこいい」と発言し,その同調した動きを集団. ・運動をしていた一方の児童が「逆からやっ. 演技に活用する価値を見出していた。そして,そ. てみよう」と新たな動きを提案する(対話). れを聞いた2人は動きの同調性を高めるため何度. ・相互に技が交差するような形で練習に取り. も技の精度を上げる練習に取り組み始めた。 さらに,練習する内に,一方の児童が「逆から. 360. 組む(創出した運動) ・チームメイトが「そっちの方がかっこいい」.
(6) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性. と交差する動きのよさを認める発言をする. からその改善を図るため「みる・支える」の関わ. (対話). り方を重視している。この「みる・支える」の関. ・その後「発表会でもこの技をやろう」 「もっ. わり方は先の事例が示すように他者との「対話的. と動きを合わせたいね」という,集団演技. な学び」によって生まれやすいものと思われる。. に向けての合意形成を行う(対話). したがって, 「対話的な学び」と「共生の視点」. ・発表会でも相互に交差する技を表現したい. との関連性は強く,ひいては「互恵的な協力関係」. という思いをもち,個の技やペアのシンク. との接点も見出される。そこで,本研究では, 「対. ロの質を高めようと,さらに運動へ取り組. 話的な学び」の形骸化に対する危惧を解消するた. む(新たな運動の意味の創出). めに学習活動における「互恵的な協力関係」に焦. 以上のような体育授業における「互恵的な協力 関係」を大切にした学習観に基づいて展開される. 点をあて,代表者自身の実践事例(「跳び箱パ フォーマンス」)の授業分析を行うこととした。. 「学習者同士の対話」は言語活動の必要感を生み,. そして,この実践事例検証においては言語活動. 主体的に他者と関わる学習活動に繋がると思われ. (対話・記述等)と運動場面及び単元目標との関. る。また,その対話は子供が運動の意味を発見し. 連性を「互恵的な協力関係づくり」を視点に分析. たり創造したりするといった思考力を高めなが. することで,授業における有意な「対話的な学び」. ら,主体的な学習活動にも関連していくと考えら. と「互恵的な協力関係づくり」との関連性を見出. れる。したがって,平成29年度版学習指導要領が. すと共に,その学習活動における両者の互恵性と. 示す 「対話的な学び」にも求められている思考力・. 有効性を可視化することをねらいとした。. コミュニケーション能力等の育成が期待できる。. さらに,可視化により「互恵的な協力関係づく. 2-4 「互恵的な協力関係」と「共生の視点」. り」を強化し,単元目標を達成する教師の働きか. の関連. けの方向性を探ることを期待し,「小学校体育科. 前項では「対話的な学び」への危惧を解消する. の器械運動における対話的な学びと互恵的な協力. 方向性の1つとして「互恵的な協力関係」に着目. 関係づくりの関連性」についての研究を進めた。. し, 事例から対話と協力関係との接点を抽出した。. 次章は,その可視化ツールとして着目した,中. 本論で着目した「互恵的な協力関係」は,小学. 原淳が理論的視野から全ての組織開発の手続きに. 校体育科学習導要領(平成29年度告示)解説体育. おける共通点として見出した,「対話的な学び」. 科編の「体育科改訂の要点」において体育や保健. と通じる,お互いの意識や認識のズレを表出し,. の見方・考え方として,多様な関わり方を重視す. 腹をくくって「対話」をプロセスの中に位置づけ. る観点から,体力や技能の程度,年齢や性別及び. た10)「組織開発の3ステップ」を解説する。. 障害の有無等にかかわらず,運動やスポーツの多 様な楽しみ方を共有することができるよう指導内 容の充実を図ることとして示された下記の「共生 の視点」との関連が見出される。. 3 可視化する視点としての3ステップとは 「対話的な学び」と「互恵的な協力関係づくり」 との関連性を可視化する視点として,本研究では,. 「運動やスポーツを,その価値や特性に着目し. 中原淳の組織開発の3ステップ「見える化,ガチ. て,楽しさや喜びとともに体力の向上に果たす. 対話,未来づくり」に着目した。ここでは着目し. 役割の視点から捉え,自己の適性等に応じた『す. た背景と本実践事例における可視化のプロセスを. る・みる・支える・知る』の多様な関わり方と. 明確にするために中原の著作「組織開発の探究」. 2. 関連付けること」. を参照に組織開発の3ステップの概観を示す。. この文面では運動を体力の向上のみならず,自 己の学びに完結することだけでなく「共生の視点」. . 361.
(7) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. 3-1 中原の組織開発と対話的で互恵的な学び との関係 3-1-1 組織開発の必要性. その学習プロセスと成果を分析する視点にも転用 できると考えられる。 3-1-2 組織開発の3ステップとは. 中原は,著書の中で組織のメンバーの考え方が. 中原は,著書の中で組織開発には様々な手法や. 一様で無くなり,「多様化」や仕事の専門化,細. 手続きが存在しているとし,それらの組織開発の. 分化による「個業化」の進む組織の求心力として. 手法や手続きには共通点が見いだせると主張して. 組織開発の必要性を指摘11)しているのであるが,. いる。その共通点を「組織開発の3ステップ」と. これはグルーバルな社会における「多様化」する. し,以下のように整理している。(図1). 学習課題に対応するため「個業化」による学習か ら脱却し協働的な学びへの対応を求められている 教育現場=授業における互恵的な協力関係の授業 開発と共有する理念が見いだせると思われる。ま た,彼は組織開発を簡便的に理解するために「組 織 」 を「Workさ せ る た め の 意 図 的 な 働 き か 12) け」 と説明している。そして「組織をWorkさ. せる」状態を「バラバラのメンバーが組織やチー 13) とし,その「う ムとして体を成し,うまく動く」. まく動く」状況を下記のように示している. 図1 組織開発の3ステップ15) 筆者編集. ① 見える化 チームや組織の課題を可視化,目に見える形に. ・メンバー同士に相互作用があること. すること。質問紙調査やヒアリング,対話などの. ・共通の目標に向かってメンバー同士が動いて. 方法がある。組織の課題の多くは,日常的に目に. いること14) この彼の手立ては,目標を達成するために,組 織のメンバーが目標を共有し相互的にWorkする 意図的な働きかけのことであり,この視点は本授. することができないことが多い。このように隠れ ているものを顕在化することである。16) ② ガチ対話 見える化した組織的課題に,みんなで向き合い,. 業開発における「互恵的な協力関係づくり」と共. その問題の解決や解消を目指して話し合うこと。. 通していると思われる。. ここではお互いの意識や認識のズレを表出させ,. さ ら に, 彼 は 組 織 開 発 の プ ロ セ ス の 中 に, 「フィードバックによる対話」や「アクションプ. 違いを把握することが重要17)とされる。 ③ 未来づくり. ランを計画・実施する対話」を位置づけている。. ガチ対話によって,お互いの意識や認識のズレ. これは本研究テーマにおける,下註の小学校体育. を明らかにしたところで,そのままでは,組織と. 科学習指導要領(平成29年度告示)解説体育科編. してはまとまらない。そこで組織の合意をつくる. の「対話的な学び」と通じるもと考えられる。. 必要がある。組織をどうしていくのか,どうした. 「運動や健康についての課題の解決に向けて,. いのかを当事者が自分事として決めていく。この. 児童が他者 (書物等を含む)との対話を通して,. 時行われるのが議論であり,議論は決めるための. 自己の思考を広げたり深めたりするなどの対話. コミュニケーションである18)とされる。. 2 的な学びを促すこと。」. 次項で説明する「組織開発の3ステップ」にお ける「ガチ対話」とそれに関連する他のステップ のありようは,本研究で「対話的な学び」と「互 恵的な協力関係」とを関連づける学習を構想し,. 362. 次節では,この3ステップのように対話を取り 入れた組織開発における「対話」そのものの価値 を整理する。.
(8) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性. 3-1-3 「対話の価値」=対話型組織開発の 視点から. 「知識を相互に関連付けてより深く理解した り,情報を精査して考えを形成したり,問題を. Bushe&Marshak(2009)は,組織開発(以下. 見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基. 「OD」と記す)のアプローチの特徴を理解する. 2 に創造したりすることに向かう。」. ために診断型と対話型のODに分けることを主張. そこで,本研究は次章において本節で示した「対 話的な学び」と互恵的な協力関係の関係性から中. している。. 原の3ステップの「見える化・ガチ対話・未来づ. 表1 OD実践の基本構造の比較19). くり」の視点で,4年生「跳び箱パフォーマンス」 の指導と活動の内容を分析し,そこでの対話的学 びと互恵的な協力関係を可視化することとした。. 4 実践事例の分析 4-1 実践事例の概要 ⑴ 対象児童:函館市内の小学校4年生1クラス の児童(35名)を対象に授業と調査を行った。 ⑵ 実施時期:平成27年7月~9月 表1が示すように対話型ODの特徴は,OD実践. ⑶ 授業単元名:「跳び箱パフォーマンス」. 者による診断がなされないこと,および,語られ. 4-2 実践事例の展開. ることや関係性が変化することによる変革が特徴. ⑴ 単元目標. であるとされる。また,対象となるシステムの多. フェアプレイ(全力・ルール順守・相手尊重・. 様なメンバーが集い,対話を通してメンバー間の. 安全第一)で開脚跳びと台上前転を中心に取り組. 会話の質や関係性が変わり,共通した新しい考え. む活動を通して,自分の力に合った課題をもち,. 方が創造されることで変革が起こっていくと考え. 技のポイントや動きのこつを理解しながら,技が. られている。そして,表1にあるこの対話型OD. できるようになる楽しさや,ペアやチームで動き. における「新たな気付き,知識,可能性を自らが. を合わせたりリズムよく跳んだりする楽しさを味. 創出する」という視点は小学校学習指導要領(平. わうことができるようにする。. 成29年度告示)総則編の主体的で対話的で深い学. ⑵ 単元の計画(表2). びが目指す下記の「深い学び」に通じると考える。. ペアでのシンクロ跳びやチームでの連続跳びな. 表2 単元計画. . 363.
(9) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. どの「跳び箱パフォーマンス」を成功させること を目指し学習を展開していく。単元の序盤は「跳 び箱パフォーマンス」に必要な基本的な支持跳び 越し技(開脚跳び・台上前転)の習得を中心に学 習を展開する。その際,自分の力に合った練習が できるよう,基本的な支持跳び越し技に関連した 易しい運動を取り入れたり,易しい場や条件の下 で段階的に取り組めたりできるようにする。そこ では,多くの技に取り組むのではなく,開脚跳び と台上前転を中心とした取り組みにより,技のポ イントや動きのこつの共通理解を図り易くする。 これにより,子供は視点をもって友達の運動を 見たり,自分の見つけた動きのこつが友達の運動 へ生かされたりすることで,子供同士の相互作用 のよさを感じることができると考えた。. ケートを行った。結果を以下に示す。 「跳 び箱ができるようになるための簡単なト レーニングがしたい・・・21/30名」 「開脚跳びや台上前転などの技ができるように なりたい・・・11/30名」 「技 を 美 し く, ダ イ ナ ミ ッ ク に し て い き た い・・・17/30名」 「友 達 と 技 の コ ツ を 教 え 合 っ て 学 習 し た い・・・18/20名」 「チームで工夫して跳び箱を使ったパフォーマ ンスをしてみたい・・・20/30名」 「とにかく一人で練習したい・・・3/30名」 「クラスのみんなが跳び箱を跳べるような学習 にしたい・・・23/30名」 上記のアンケートの項目には教師側の意図が強. 単元の中盤からは,習得した技を生かして「跳. く働いており,児童に対して対話的な学習活動を. び箱パフォーマンス」を創作していく。その中で,. 意識させる効果の期待も背景にあった。その教師. 友達と動きを合わせて跳んだり,集団で意図的に. の想定通り,「友達と教え合う」ことや「クラス. 連続してリズムよく跳んだりするなどの児童同士. のみんなが跳び箱の技ができる」ようになる学習. の相互作用を促進するとともに,跳び箱運動の楽. を期待していることが把握できた。また,1/ 3. しみ方の広がりを感じられるようにする。また,. 以上の児童が「チームで工夫して跳び箱を使った. 互いの動きを意識しながら運動することで,運動. パフォーマンスをしてみたい」という方向性を支. を観察する力や自分の体をコントロールするなど. 持していることから,跳び箱パフォーマンスの活. の調整力を育むことができる。これにより,一連. 動を取り入れることへの抵抗感は少なかったと考. の動きとしてスムーズに跳び越えることにつな. えられる。一方で,「跳び箱ができるようになる. がっていくと考えた。. ための簡単なトレーニングがしたい」という技の. そして,単元の終盤は互いの跳び箱パフォーマ. 獲得のための基本技能の定着を図りたい要望があ. ンスの交流会を行い,単元を通した学習の成果を. ることを踏まえ,学習活動の比重のかけ方を見直. 振り返ることができるようにする。. すことにした。以上のアンケート結果を基にし,. ⑶ 事前の児童の様相. オリエンテーションで児童へ学習の見通しをもた. 児童の跳び箱運動に関わる実態把握のため事前 アンケートを実施し,その結果は次の通り。. せることにより,自分達の意見が学習活動に取り 入れられていることを認識させた。. 「跳び箱運動が好き・・・25/30名」. 4-3 実践の内容. 「開脚跳びができる・・・25/30名」. 〈3ステップに関するところは下線〉. 「台上前転ができる・・・16/30名」. ⑴ 1・2時間目. 上記の結果から,跳び箱運動が好きな児童の割 合が高く,台上前転ができない児童が半数近くい ることが把握できた。また,「跳び箱の学習では どんな学習にしたいか次の中から選んでください (いくつでもOK)」として学習方法に関するアン. 364. 〔主な学習活動〕 ①学習課題を確認する ②会場準備 ③感覚づくり運動 ④振り返り.
(10) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性. 1時間目と2時間目を連続して実施した。これ は1時間目のオリエンテーションで会場準備につ いて指導し,準備ができた状態で2時間目を実施 することで十分な運動量を保障するためである。 1時間目のオリエンテーションでは,学習の目 的と見通しをもてるよう,掲示物(図2)により 説明した。 (見える化) 具体的には,まず,アンケー トの結果を示しながら「跳び箱パフォーマンスを 成功させよう」という中心課題を提示した。跳び 箱パフォーマンスの概要を理解できるよう,ルー ルとイラストを用いて示した。さらに,課題1と 課題2を示し学習の流れを児童と共有すると共 に,一単位時間の学習の進め方を説明した。 チーム決めは,事前の希望調査を基に教師が 提案し,児童の承認を得て決定した。跳び箱パ フォーマンス会場図を掲示(図3)し,準備・片. 図2 オリエンテーション掲示物. 付けに責任が持てるよう役割を明確して会場準備 を行った。 準備運動を兼ねて,両足踏切や腕支持感覚など 跳び箱運動の感覚づくりをサーキット形式で行っ た。 (写真2)それぞれの場での運動の方法と目 的を説明,演示した後,その運動を行った。 そこでは,意欲的にそれぞれの場で感覚作りの 運動に取り組んでいた。なお,正しい動きができ ていない児童には個別指導を行い,全体へは正し い動きを繰り返すことで跳び箱運動ができるよう. 図3 跳び箱パフォーマンス会場図. になることを説明した。さらに,学習カードを活 用し振り返りを行い,その場面でチームの役割を 決める場を設けた。 ⑵ 3時間目 〔主な学習活動〕 ①感覚づくりの運動 ②学習課題の確認 ③開脚跳びの練習 ④振り返り(全体→個人) 感覚づくりの運動を10分間確保した。その後開. 写真2 跳び箱運動の感覚づくり. 庭科室のイス)を活用した練習であった。 (写真3). 脚跳びのポイントを子供と対話を通じて確認し,. すなわち,丸イスであればどの子も「腕支持」→. 開脚跳びの習得を課題とした学習を展開した。跳. 「またぎ越し」ができたので,この動きを繰り返. べない児童に関しては,スモールステップで指導. し,身に付けさせることを意図した。その後,イ. を行った。そこで,効果的であったのは丸いす(家. スの数を増やし「連続でのまたぎ越し」→「イス. . 365.
(11) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. 写真3 家庭科室のイスを活用した練習. 写真5 「跳び箱パフォーマンスみんなのフェアプレイ」 写真4 実演の観察を通した開脚跳びのこつの共有. を重ねて高さを出したまたぎ越し」→「着地の距 離を伸ばしたまたぎ越し」の順に行い。最終的に は 「イスを連続で跳んだ後に2段の跳び箱を跳ぶ」 運動により,開脚跳びの感覚を身に付けていく様 子が見られた。 全体の振り返りでは,児童の実演の観察を通し た開脚跳びのこつの共有(写真4)と友達のがん ばりを認める発言を価値付けた。(見える化・未 来づくり). 写真6 児童の実態に応じて段階的に練習できる場 の設定の工夫. ぞれの場で練習を進めていた。(写真6). また, 「跳び箱パフォーマンスみんなのフェア. 苦手な児童を中心に個別指導を行った際には,. プレイ」 (写真5)と題し,互恵的相互作用に関. 腰が高く上がらないつまずきが多く見られたの. わる学習場面の写真や児童の学習カードの記述を. で,台に手をつきその場で数回ジャンプして腰を. 掲示し,互恵的相互作用の誘発を意図した意識付. 高く上げる感覚をつかんでから,回転するような. け(見える化・未来づくり)を行った。. 指導を行った。また,着地が前のめりになってい. ⑶ 4時間目. る児童が多く,着地を安定させるために回転のス. 〔主な学習活動〕 ①学習課題の確認. ると,同じ場で練習している児童に対して,アド. ②台上前転の場を準備. バイスを行う場面が表出(ガチ対話)していた。. ③台上前転の練習 ④振り返り(全体→個人). (写真7). 台上前転の動画を見て,技のポイントを確認し た。 (見える化)易しい場や条件の下で段階的に 取り組めることができるよう場の設定を工夫し た。すると,横に移動するたびに難易度が上がっ ていくため,子供達は自分のレベルに合ったそれ. 366. ピード調整に課題意識が向くよう声がけした。す. ⑷ 5時間目 〔主な学習活動〕 ①感覚づくり運動 ②学習課題と学習の進め方の確認 ③チーム別練習(パフォーマンス) ④全体ふり返り.
(12) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性. 写真7 アドバイスを行う児童. 写真9 ホワイトボードを使って動きの確認をして いるチーム. フォーマンス動画からよりよいパフォーマンスに していくために,「友達と動きを合わせて」(シン 写真8 シンクロ跳び. クロ跳び)と「リズムよく連続で」(連続跳び) の2つ視点を提示した。(見える化)前時との違. 子供の実態を踏まえ,感覚づくりの運動をより. いとして,ホワイトボードを用意したためか,ホ. 開脚跳びと台上前転に近いものに変更した。また,. ワイトボードを使って動きの確認をしているチー. パフォーマンスの取り組みをスタートした。パ. ムが見られた。(ガチ対話)(写真9). フォーマンスを行う場を2カ所つくり,パフォー. “パフォーマンスに取り組むチーム”“技の習. マンス中は楽曲を流した。その場が使えないとき. 得を目指すチーム”“ホワイトボードを使って話. は,感覚づくりの場で技の習得・習熟の活動を. し合いをするチーム”といった多様な学習が展開. 行った。. されていた。そこで,教師は動画を撮りながら,. パフォーマンスに関して,同じタイミングや動. 各チームのパフォーマンスを見て友達と動きが. きで跳ぶシンクロ跳び(写真8)をしているチー. 合っている児童を称賛するとともに「こつはある. ムがあったので,称賛し,動きを広めることを意. のか?」ということを問いかけ思考を促した。ど. 図した。 (未来づくり)全体の振り返り場面では. のチームもシンクロ跳びを中心に活動していた。. 撮影したシンクロ跳びの動画を見て,シンクロ跳. すると,振り返りでは「友達と動きを合わせて跳. びに思考が向くように意図した。(見える化). ぶ(シンクロ跳びの)こつはあるか?」という問. ⑸ 6時間目. いに対し「声をかける」「アイコンタクト」「着地. 〔主な学習活動〕 ①感覚づくり運動 ②学習課題と学習の進め方の確認 ③チーム別練習(パフォーマンス) ④全体ふり返り 課題の確認の場面では, 「他のチームとパフォー マンスを見せ合いたいか?」ということを問いか. をそろえる(決めポーズをとる)」「歩数を合わせ る」という意見が出された。(ガチ対話)また, 学習カードに書かれている内容を共有するために 一覧表にまとめて配布した。(見える化) ⑹ 7時間目 〔主な学習活動〕 ①感覚づくり運動. けた。 「まだ見せられるような感じになっていな. ②課題の確認. い。 」 「もっと自分たちで練習したい。」という声. ③チーム別練習(パフォーマンス). が多く,この時間はチームのパフォーマンスを高. ④交流会. めることを課題とした。 (ガチ対話)前時のパ. ⑤ふり返り(全体→個人). . 367.
(13) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. ⑤ふり返り(全体→個人) 課題の確認場面にて,あるチームの動画を見て テンポのよい(跳ぶ間が短い)跳び方に着目でき るよう意図した。(見える化)前時の学習の流れ と同様だったため,子供たちは見通しをもちなが ら活動していた。また,易しい場では跳べるが, 大きな跳び箱だと跳べない児童がいることが「見 写真10 相手チームへアドバイスする場面. 子供の課題意識として「着地を友達とそろえる」. える化」で明らかになり,その児童の技能向上も 目指しつつ学習を展開した。 振り返りでは, 「アドバイスをされたこと」を. 「最後にポーズを決める交互に跳ぶ」 「同じ技ば. 中心に行った,交流会による協働的な学びのよさ. かりをやらない方がよい」といったパフォーマン. を感じることができるように意図した。(未来づ. スを意識した振り返りの言葉が多く見られた。そ. くり)「よい所やアドバイスをたくさん言ってく. こで,他のチームとパフォーマンスを見合うこと. れたことがうれしかった」という児童の学習感想. で他チームのよさや他チームの課題意識が高まる. の記述があり,互恵的相互作用の価値を実感して. よう,パフォーマンス交流会を取り入れた。. いる様子を見ることができた。. そこでは,各チームが以下の3つの役割をロー テーションすることで行った。役割は①発表チー ム②アドバイスチーム③作戦・振り返りチームと. ⑻ 9時間目 〔主な学習活動〕 ①感覚づくり運動. 定め,リーダーの話し合いでローテーションの順. ②課題の確認. 番を決定した。しかし,初めての活動だったので. ③チーム別練習(パフォーマンス). 説明に時間がかかってしまい,練習等の十分な時 間の保障ができなかった。. ④交流会 ⑤ふり返り(全体→個人). ただ,アドバイスチームは感想をホワイトボー. 導入の課題の確認の場面では,児童の学習カー. ドに書いたり,iPadを活用して動画撮影したりす. ドの記述からフィニッシュポーズをチームで決め. ることで,発表したチームにとって価値ある明確. たいという気持が強いことを感じたため,フィ. なフィードバックになるような工夫を行っている. ニッシュポーズがうまく決まった時の動画を活用. チームもいた。 (見える化・ガチ対話) (写真10). し,ゴールイメージをもてるようにした。(見え. そして撮影した動画を給食時間や休み時間にも. る化)また,前時同様に間が空くことなくテンポ. 自由に学級で見ることができるようにした。. よく跳び箱を跳ぶことを課題意識としてもつこと. これは,教師は動画から子供の姿を見取ること. ができるよう,前時にテンポよく跳んでいるチー. ができ,次の学習への課題意識を高める資料(見. ムの動画を見る場面を設定した。さらに,前時の. える化)としても役立った。. 交流会において他のチームの励ましや拍手などの. ⑺ 8時間目. 肯定的な行動に触れ,価値付けた。(未来づくり). 〔主な学習活動〕 ①感覚づくり運動. ションが多く行われていた。その内容は動きの確. ②課題の確認. 認や励まし・アドバイス等と共にアイコンタクト. ③チーム別練習(パフォーマンス). などで動きを誘発する様子が見られた。 (ガチ対話). ④交流会. 368. チーム練習場面では児童同士のコミュニケー. 交流会ではパフォーマンスをみる側の言動に,.
(14) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性. 「いいね。今の(シンクロ跳び)はタイミングが 合っていた」といった相手を評価する様子が見ら れた。また, 上手に跳べなかった児童に対して「あ ~おしい!○○さん(技を)決めたいね」といっ た肯定的な声がけがあった。 ここでの振り返り場面では,①できたことやこ つ②フェアプレイヤー③次に向けての3つの視点 を意識して全体に問いかけた。フェアプレイヤー として新たな技である閉脚跳びをパフォーマンス に取り入れようとしていたチームが取り上げられ た。今後の跳び箱運動の技の広がりを意図して, 児童に閉脚跳びを実演して共通理解を図った。 (未 来づくり) ⑼ 10時間目 〔主な学習活動〕 ①感覚づくり運動. 図4 技能に関する児童アンケート. ②課題の確認. づいて調査した。結果,開脚跳びは9名が通常の. ③チーム別練習. 跳び箱4段以上で跳ぶことができ,台上前転は14. ④交流会. 名が通常の跳び箱4段以上で跳ぶことができたと. ⑤単元のふり返り. の回答であった。また,学習する前は,小さな跳. 単元の最後の時間であったので学習成果を共有. び箱で開脚跳びでは2名,台上前転では5名がで. し合えるようパフォーマンス交流会を位置付けた。. きなかったが,学習後は小さな跳び箱で全員がで. 交流会中は,児童の応援や拍手などの行動が多. きたとの回答であった。(表3)(図4). くみられた。それぞれのチームによって,交流会. 以上の結果から,児童の技能の向上が図られて. のパフォーマンスに満足している様子や失敗があ. いたか分かる。この要因を児童の対話の内容を視. り,くやしさを感じている様子がみられた。. 点に分析を行った。すると,単元4時間目の台上. 単元での振り返りでは,跳び箱パフォーマンス を通して学んだことをテーマに感想を伝え合っ た。 「跳び箱パフォーマンスを通してチームワー クが高まった」 「できなかった技ができるように. 前転の練習を行う場面で児童同士に次のような対 話が表出していた。 児童A「手 はもっと前についた方がいいんだ よ。」. なった」 「また,来年も跳び箱パフォーマンスを. 児童B「ここ?」. やりたい」などの発言が見受けられた。. 児童A「うん,で,もっとジャンプする」. 4-4 実践の分析. 児童B(着 手をしながら数回その場でジャン. ここでは,中原の組織開発の3ステップ「見え る化・ガチ対話・未来づくり」の視点から見た実 践事例での「対話的な学び」の価値を抽出・整理 する。 4-4-1 技能面と「対話的な学び」の価値. プする) 児童A「も っともっと高く。腰が上に上がん ないとできないよ。」 児童B「もっと高くか。」 児童A「がんばれ。」. 学習前と学習後で開脚跳びと台上前転の技能が. 上記は一例だが,様々な場所で児童同士が対話. どのように変化したか,児童へのアンケートに基. しながら練習している様子があった。技ができる. . 369.
(15) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. 児童ができない児童にアドバイスしたり,できな. 13名,②が13名③が7名であった。この結果から,. い児童ができる子にこつを聞いたりしながら活動. 児童は学習を通して,一定の相互的な協力関係を. している様子が見られた。このような児童間の対. 自覚していることが読み取れた。. 話により,技能の習得が促進されたと思われる。. この要因を「対話的な学び」を視点にして,考. ただ,このような対話が引き起こされた過程に. 察を試みた。すると以下の2点が明らかになった。. は,その前の「見える化」が大きく関与していた. ① 「チーム内における意志の伝え合いの活性化」. と推測される。すなわち,台上前転の練習を行う. チーム内でアドバイスチームが撮影した動画を. 前に動画を活用して技のポイントを明確にした. 見ながら次のような対話がなされていた。. り,友達の良い動きを観察したりしていた。そし. ・「○○と○○,シンクロしてるじゃん」. て,児童はこのポイントを踏まえて,対話をして. ・「着地がそろっているからいいね」. いた。つまり,動画や友達の模範演技などの「見. ・「もっと,開脚跳びも入れた方がいいんじゃ. える化」による,課題の明確化と技能ポイントの. ない」. 理解が「ガチ対話」につながり,その結果,技能. ・「ああ。台上前転が多いね」. の向上が図られたと考えられる。. ・「もっと間を開けずに跳ぼうよ。あとフィニッ. 4-4-2 相互的な協力関係における「対話的 な学び」の価値. シュポーズね」 ・「フィニッシュどうしようか」. 単元の終了時に児童には,学習感想を書いても. こ の 対 話 内 容 か ら, 自 分 た ち の チ ー ム の パ. らった。その記述内容から,相互的な協力関係に. フォーマンスをよりよくしようと互恵的に考えを. 関わる記述を抽出することで,本単元の「対話的. 伝え合い,自分たちの成果や課題を明らかにしよ. な学び」と相互的な協力関係の形成の関連を検証. うとしている様子が見られた。. した。そして以下の視点に基づいて,相互的な協. ② 「他チームへのアドバイスの活性化」. 力関係に関わる記述を抽出した。 ①友達同士の関わりにより,単元目標の達成に つながったといった内容の記述 ②友達同士で協力し合えたり,仲が深まったり したといった内容の記述 ③友達のよさを認めたり,友達から認められた りしたといった内容の記述. 単元7時間目の各チームの跳び箱パフォーマン スを見合う活動場面において,アドバイスチーム という役割を設けた。具体的な役割は,他のチー ムの跳び箱パフォーマンスを観察して,感想をホ ワイトボードに書いたり,iPadを活用して動画撮 影したりすることだった。 これにより,発表したチームにとって価値ある. なお,児童には「跳び箱パフォーマンスの学習. フィードバックになるように意図した。実際の対. 感想を400字程度で書いてください。」と指示した。. 話内容としては,「シンクロしていたよ」「○○さ. その結果は29名の作文のうち①に関する記述が. んと○○くんの台上前転がタイミングばっちりで. 表3 技能に関するアンケート結果. よかった」等の良さを認める様子が見られた。 さらに「もっと,間を開けずに跳べたらいいん じゃない。」「フィニッシュポーズを決めた方がい いよ。 」 などアドバイスをしている様子も見られた。 このような対話内容から相手チームのパフォー マンスをよりよくしたいといった,互恵的な協力 関係が構築されている様子が見られた。 以上のような互恵性のある対話が引き起こされ た要因には,次のような点があると考えられる。. 370.
(16) 対話的な学びと互恵的な協力関係との関連性. 一点目は, 「見える化」である。児童がよいパ. 話」を軸とした学びのプロセスを教師が構築. フォーマンスかどうかを評価するには,一定の基. するのか,子供の学びに対する教師のポジ. 準が必要である。今回は「シンクロ」に焦点化し. ションや関わり方を示す必要があった。. て,動きがそろっているかという視点を動画や友. ・今回の事例が特殊な例とならないために,ど. 達の演技などにより,「見える化」することで,. の教師も共有できるように一般化していくこ. シンクロしているかを視点として,子供自身が評. とが求められる。. 価者となることができた。そして,このことが互. 5-2 課題解決の方向性. 恵的な協力関係につながる対話を生み出したと考. 上記の課題解決の方向性として,着目したのが,. えられる。さらに,チーム内での対話においても,. 井庭崇が下記に示す「ジェネレーター」としての. アドバイスチームが撮影した動画により「見える. 教師の立場である。. 化」され,対話を生み出したと考察する。 二点目は,対話の内容に肯定的な要素と次の方. 「クリエイティブ・ラーニングを実現する教育 においては,教師の役割も変わってくる。教師. 向性を見出す要素を取り入れることである。具体. は生徒・学生がつくることを支援するとともに,. 的には,自分たちのチームのよさや強みを伝え. それだけでなく一緒に問題に挑戦し,一緒につ. 合ったり,相手チームのよさや強みを伝え合った. くることに取り組む仲間となる。知識を教えた. りすることや課題点を共通理解したうえで,自分. りスキルを身につける機会をつくったりする. たちは「どうしたいか・どうなりたいか」といっ. 『ティーチャー』 (teacher) や 『インストラクター』. た未来志向型の対話を行うことが重要である。つ. (instructor)ではなく話し合いの流れを促す. まり,対話的な学びを通して「未来づくり」を実. 『ファシリテーター』 (facilitator)でもなく,. 現することが,互恵的な協力関係を構築すると想. 一緒に「つくる」ことに参加する『ジェネレー. 定された。. 21) ター』 (generator)というべき存在になる」. 確かに,本実践においても活動の方向性を見出. 5 研究のまとめ. す「未来づくり」の段階においても,また,課題. ここでは,全焼の実践事例の分析と考察から本. を共通理解する「見える化」においても,教師は. 研究の成果と課題を抽出・整理する。. 子供と共に「何をするのか」「どうするのか」を. 5-1 本研究の成果と課題. 対話し,活動を振り返ったり,起きていることや,. ① 成 果. 起きたことを児童にタブレットの動画等をつかっ. ・体育科における互恵的な協力関係を構築する には,対話的な学びが必要であることが明ら かになった。. て説明したりしながら,共によりよい運動を創造 する手立てを考えていた。 今後は,この「ジェネレーター」としての学び. ・ガチ対話=可視化されたチームの問題を関係. への関わり方について,先行研究を参照にしなが. 者全員が一堂に会してその現場で真剣にガチ. ら実践的な研究を進めるとともに,子供のみなら. 20). ず,対話を軸とした教師間の組織の活性化につい. ンコに対話していく. 学びを成立させるた. めには, 「何をしなければならないか」とい. ても,その考えを転用していきたい。. う「見える化(自分たちの課題の共通理解)」 と「どうなりたいか」という「未来づくり(ポ ジティブなねらいの共有化)」が必要である ことが見出された。 ② 課 題 ・どのように「ガチ対話=真剣でガチンコの対. 参照文献 1 文部科学省,2017, 『小学校指導要領(平成29年度告 示)総則編』 ,東洋館出版社 2 文部科学省,2017, 『小学校学習指導要領(平成29年. . 371.
(17) 溝口 仁志・橋本 忠和・小松 一保. 度告示)解説体育科編』,東洋館出版社. 14)上書,p.41 15)上書,p.40. 引用文献 1)ジョンソン.D.W. /ジョンソン,R.T. /ホルベック, E.J., 2010,『学習の輪―学び合いの協同教育入門―』, 二瓶社,pp.14-15 2)森勇示,2012,「体育科における言語活動の充実への 懸念:愛知教育大学保健体育講座研究紀要」,愛知教 育大学,p.12 3)上書,p.167 4)上書,p.8. 16)上書,p.41 17)同上 18)前掲書,中原淳・中村和彦,p.42 19)ジャルヴァース.R. ブッシュ /ロバート.J. マーシャ ク/中村和彦訳,2018, 『対話型組織開発』 ,英治出版, p.86 20)前掲書,中原淳・中村和彦,p.48 21)井庭崇,2019, 『クリエイティブ・ラーニング」 ,慶 應義塾大学出版,p.16. 5)上書,p.8. . (溝口 仁志 函館校教職大学院生). 6)田中愛・高橋浩二・石垣健二ほか,2017,「実践から. . (橋本 忠和 函館校教授) . の体育・スポーツ哲学の再検討(2年目):日本体育・. . (小松 一保 函館校特任教授) . スポーツ哲学会第38 回大会シンポジウム報告」,日本 体育・スポーツ哲学会,p50,https://www.jstage.jst. go.jp/article/jpspe/39/1/39_49/_pdf(2019年 8 月10日 取得)「身体的対話」について以下のように説明。「人 間は言葉によってその意味を伝え合うが,言葉を越え たところで何かを伝え合っているということが重要と なる。私自身は体育やスポーツの実践の中では,言葉 でというよりも,身体同士で伝え合っていると考えて いる。それは身体運動を実践する自己―他者のかかわ りが,単なる対話ではなく『身体的対話』であり得る ということである。その対話を『身体的』にしている ものが『身体的な感じ』である。身体運動を実践する 場合には言葉の意味よりも,身体的な感じを刻々と伝 え合っており,それを言うために身体的対話という概 念が重要となる。」 7)上書,p.52 8)森勇示,2012,「体育科における『言語活動の充実』 への懸念」 , 「愛知教育大学保健体育講座研究紀要 No.37」愛知教育,p.12 森は,この論文において2012年の時点においてWeb上 で下記の公開された事例を分析している ・川崎市総合教育センター研究紀要22号(2010年) ・大 阪市教育委員会指導部:言語活動の充実を図る実 践事例集(2011年) ・北九州市教育委員会:授業改善ハンドブック (2010年) ・熊 本県立教育センター:保健体育研究紀要第38集 (2009年) 9)細江文利,1999,『子どもの心を開くこれからの体育 授業』.大修館書店,pp.177-208 10)中原淳・中村和彦,2018,『組織開発の探究』,ダイヤ モンド社,pp.40-41 11)上書,p.39 12)上書,p.34 13)上書,p.35. 372.
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