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荒木田麗女『三の女』の翻刻

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(1)Title. 荒木田麗女『三の女』の翻刻. Author(s). 雲岡, 梓. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第48号: A1-A15. Issue Date. 2016-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8219. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. Reprinting of "mitsunotomo" by Reijo Arakida. 雲 岡 梓. 北海道教育大学釧路校国文学研究室. 人が三種類の集を一つにまとめ、それによって『三の友』と題したことがわか. いつらねて、三の友と名づけ、ひめ置るゝ」と記されていることから、麗女本. にも唐国の歌にも思ひをのべて心をやり給ふけるを、あるじの君のひとつにか. 一、本文には、必要に応じて濁点を付した。. 一、本文には、読み易くするために適宜句読点を補った。. 一、底本の仮名遣はそのまま残した。. 一、漢字の旧字体や略字、異体字は、原則として現行の字体に改めた。. 【凡例】. 成立 天明七年。 序跋 源為正序・藤原散人序・橘光延跋・慶滋雅跋。 備考 朱筆にて書き入れあり。. 丁数 全五十九丁(遊紙なし)。 行数 一面十行。. KUMOOKA Azusa Department of Japanese Literature, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. (請求記号: W911.3-ミ 本稿は、富山市立図書館山田孝雄文庫所蔵『三の友』 )の翻刻である。本書には江戸時代中後期の伊勢の女流文学者、荒木田 -3168 麗女の発句・和歌・和文の三種が収められる。発句集には源為正の序文、和歌 集には藤原散人の序文が付され、全体の末尾には橘光延、慶滋雅による跋文が 記される。こうした形式から、もともと別個に作成された発句集・和歌集・和. る。なお、源為正・橘光延は麗女の連歌の弟子で、慶滋雅は夫の慶徳家雅。藤. 文集を一つに取りまとめたものと考えられる。橘光延の跋文中に「やまとの歌. 原散人については不明である。. 」は「々」に改めた。. また、反復記号にも必要に応じて濁点を付した。. 一、反復記号「ゝ」「〳〵」は底本のままとしたが、「 【書誌】. 一、底本のミセケチは「 」を付けて示した。 一、底本の漢字に付されている振り仮名はそのまま残した。振り仮名の仮名遣 一、書き入れは底本の表記に従った。. は底本のままであるが、適宜濁点を付した。. 底 本 富 山 市 立 図 書 館 山 田 孝 雄 文 庫 蔵 本。 一 巻 一 冊。 ( 請 求 記 号: W911.3-ミ ) -3168. 表紙 縦二十一・六×十五・四横(㎝) 。 印記 見返し「山田」 、一丁目表に「山田文庫」 、 「山田孝雄文庫」の印あり。 外題 「三の友」 。左肩に直書。 内題 「三の友」 。 . -1-. . 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第48号(平成28年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.48(2016):(1)-(16).

(3) 雲 岡 梓. 【翻刻】 三の友 かゞなべていく世々にや、其古へを仰げば、いや高き筑波山、はやましげ山の. 睦月五日、草堂会初発句に菊姓亭の心ばへを. 引や今朝長きためしの春霞 菊も今日若菜とつまん園の春. むつき七日、雨すこしふり出ければ よみ籠にも雨やはたまる若菜狩. 今しもさかふるはいとかしこき御代の道あるしるしといふもさらなりけらし。 爰に荒木田氏、此道に分いる志深き詞の花の香をしるべに、僕もさそはれて、. 引植て木だかきかげや松の春. 子の日に稚きものをそへて. づる野べに陰ふまぬばかりしたがふふし〴〵、時につけて云捨つる一句を聞も. 松はさぞ雪も手にみつ初子日. 春風の中に花をそふ山踏にはたよりなき所に道行るゝ折々、又秋の夜は月をめ し、あるは枝の雪をむつび、蛍を集る窓の中に手習すさびしをみもしけるを、. 子の日なりける日、鶯の鳴ければ 鶯やひかれて告る初子日 草堂会の発句 春にいざ友鶯のうた語り 花に匂ふ鶯の音や玉くしげ. おさなきものにはじめて内外の宮おがませ侍るとて、御裳濯川にて手水を させて 心すむ声きゝ初よ水の春. 源為正. 今はたこれかれかいつらね、拾ひあつむれば、伊勢の海きよき渚の玉の光とも いふならんかし。. 春 試筆. 春風の通ひ路とぢん厚氷. いつの間に柳千代へて門の松 五十に定ける年の始に. 梅がゝによしやすべての春の色. 唐衣春やよそほふ神の梅. 睦月廿五日、天満神渡唐の御影拝み奉るとて. 朝風や春の戸いそぐ軒の梅. 空冴つ睦月半も去年の影. 睦月十五日冴返て風あらかりければ、鳥の初音にといへる歌を思ひ出て. かぞへ来ぬ十とて五宿の春 去年養ひける子の、ことしは六旬になりきとて悦びければ 閏正月に忠品主の許より、おさなきものにもちゐかゞみを賜へりければ. かぞへしる睦月や千代の初日影. 社中の人々白黒を賦て初春歳暮の発句するとて、白を. 千代の春立そふ影やかゞみ山 年や返るかしらも雪の山烏. 白玉や簾よそほふ軒の梅 月を色風を匂ひや園のむめ. 同 雪やけさうけて衣も花の春. 主しらぬ香や誰卜し野べの梅. 春かぜや梅が香ならす小夜枕. 睦月十一日、明日立春なりければ. 玉松や初そら色を神の春. おられけり雨にも光春のはな. 紅梅を人の折ておこせければ 雪とちる花よ名のみに梅見月. 玉くしげ明なばけふや去年の春 社中試筆に草によせて. 今夜人待ずしもあらじ春の月. いとおもしろくて、夜よしとも告やらまほしければ. きさらぎの半の比まで、来んといふ人のおぼつかなくて待わたる程、月の. 木々は春いつまでかゝる月の雪. 花のえに何れをむめと春の月. 春に明てうれしき影やかゞみ草 注連の絵ある扇に書て人に参らすとて 朝日影岩戸や明し四方の春 同じ事 同. かけそへよことたち初る春の風. -2-.

(4) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. 日や透す袖の紅ゐ夕がすみ 立渡る山なみよろし春霞 睦月、文庫月次連歌余興に人々題を探りて発句するとて、霞を おなじ時、春曙. 朝霧に霞や色を暗部山 波かすり明仄やむべ春の海 糸遊や空に几帳の薄霞 二月文庫の会余興、稲荷詣. 暮春 明日や雲山は今日のみ春霞 今日のみと思はでもおし宿の春 度会忠品神主六七のことぶきに 四十杖にあまりて百や松の花 人の四十賀に 世々しゐて仕へんはじめ神の春 夏 卯月朔日に 夏をいつと今日も飼屋は朝霞. 分のぼる跡を雪まや稲荷坂 春の色は袖つく水よ川柳. かふるにも何卯花の色衣 山も今日立かふるきぬや若楓 卯月、なくなりし人の悼に. 如月十九日、遠からぬ所に火有て人の家焼けりと聞て. 鳴雁や帰りわづらふ花盛 雉子だに野火けつをなど春の草. 夏やたつ風も庭木の薄落木 鴨の羽や猶山かげの夏木立. 夏こえてまづ花さくや杜若. 藤浪や夏こゝもとに難波風. ておこせ給へりけるをめづらしう見て、やがて一会を催し侍るとて. 卯月、浪華の千秋師の許より庭に咲たりし白藤花をみよとて、一ふさ包み. 世のちりとなるぞあなうの花の露. 如月廿五日、天満神おがみ奉るとて神詠のおほん言葉をとりて. 朝もよひ木々に急ぐや花の雨. 人の芳野の花みんと出立ける日、雨のふりければ. 百色の木々をつゝむや花の雲 花の陰ありて行らん今日の雨 花の比、物へ行ける道に、都といへる村にて 里の名に都ごゝろや花錦. 桜咲山か霞も三重がさね. 明仄や月に別るゝ花の雲. 山彦に聞かなやまん子規. 道しある世をしらせばや郭公. 雨雲の空鳴もがなほとゝぎす. 梅も色それと若葉の立枝かな. 卯月廿五日、菅神の手向に. みよしのの山や梺の花の奥. かけてしるやめぐみの盛花の露. 白玉やたがまことより花の枝. 時鳥音ぞくらからぬ星月夜 幾声ぞやめばつかるゝ時鳥 若竹やまだ声ほそき軒の雨. 思ふ事多き比、花のちるを見て. 老の身のことしも逢ぬ花盛 よしやちれ有て世間花桜. わか竹のよそかけてしる庭の月. 若竹や露ぬきみだる風おもて. 弥生三日に. 白雲や跡まで花の弥生山. 家づとにおれとつゝじのゆるし色. 三月文庫会余興、躑躅. あやめ引けふや駒さへわざくらべ. 玉かざる露やあやめの軒の雨. 咲花にあやめわかるゝ汀かな. 本つ香や軒の菖蒲に伊香保風. 五月五日、草堂の会に. 散花や余波ふたゝび春の暮. 三千代まであふむのつきし花盛. 百鳥やけふばかりなる春の声. -3-.

(5) 雲 岡 梓. 老の後あやめを髪に結とて はらへ捨て夏や余波も浅茅形. すが〳〵し罪も名越の祓ぐさ 秋. かけはへん菖蒲を今日のえびかづら 端午の日、稚き者のことぶきに芝虎のまねびとて、いさゝかなるもの造ら 初秋. 今日ぞまた蝉の羽にをく秋の露. せて 虎も今日手飼になつく五月哉. 秋浅き庭は一葉の塵もなし. 文月十六日、梅香寺に詣ける道まだ暑くて、秋をもたどるばかり也. 名もつらしけふ玉なしの里の秋. 文月十五日に. けふ祭る玉ゆら晴よ軒の月. 文月十五日、雨の中なりければ. 七夕や朝顔恥ぬ花かづら. さして行月もや浮木天漢. 年の恋つもりし淵や銀河. 篠舟や瀬々にちりうく川柳. 松風や荻の葉ならで漸の秋. 桐の葉や雨まづ落る今朝の秋. 初風や松より越る軒の秋. 六かあやめを. 月弓の引をしるべやあやめ草 今日ひけと根や水隠れし菖蒲草 五月始、三角先生身まかり給ひけるを、月の末聞付て 入跡や有明もうき夏の雲 同じ先生の悼奥田の家にいひ送り侍るとて 世々残す名をたち花のかほり哉 飛ほたるいかに契し五月晴 水無月朔日は氷室のまねびにいぬる冬のもちゐかゞみを取出て、つとめて. こえやめて茂る草葉は風もなし 神に備へ、人にもくはせなどするとて、ちいさく砕たるを見て 夏の日をわれてや涼し氷面鏡 氷室田や残す狩場の雪の跡. 草の露幾むすびして秋の花 下荻のをとにいでそよ軒の秋. 六月十一日の夜、物詣しけるに、雨けとていそぎ帰り来る道に、日比むつ まじく来通ふ人に逢たりしに、見へじとかくるゝやうなれば、しらずがほ. 朝顔やまがきの露もうす匂ひ. おさなきものとく起て、朝顔の花見はやしたる顔つきのいとうつくしうお. に行過て、又の日文もかゝず、たゞかうばかりいひやりける 見ずもあらぬ月を雲まや夏の雨. 見る人の顔かほおなじ匂ひかな. ぼへて 一本も花は幾秋萩の庭. 夏苅の芦辺は月の玉江かな 袖に影氷がさねや夏の月. 秋にのる心の駒やくつはむし. 籠の内をおのが野原やむしの声. おさなきもの虫を籠に入て飼侍りければ. 鈴虫や砌に律の笛のこゑ. 松虫や風に色どる秋の声. 小薄の袖よ野分の忍ぶずり. 袖の色も今日こそ秋の花すゝき. 文月廿七日、子なるもの祖父の服脱侍りければ. まづ汲て梅こそ秋の初紅葉. 文月廿五日、天満宮の手向に. 月を玉すゞしさまねく端居哉 月の明らかなる宵のほど、蝙蝠の飛かふを見て かはほりや下風見する夏の月 山松のふくめる雨の蝉のこゑ 風鐸に付侍るとて 松風や夏のしるしも一しぐれ 水無月、文庫月次会の発句に、泉 汲しれとわきて泉の秋の声 水無月廿四日、立秋なりけるに、庭の朝顔の咲はじめければ 林鐘末の五日、菅神の手向に. 一花に夏水無月や今朝の秋. -4-.

(6) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. 雨ふくむ外山を霧の立所哉 夕山や霧の匂ひもうす紅葉 身は隠れ声ぞ雲まに天津雁 誰里の新玉章ぞ天津雁 露もらぬ翅や雁のあま衣 葉月八日、大路は物見など人さはがしきに、日比の雨もひま有て、月さへ. 見る人や月に思ひも千々の秋 めづらしうさし出たりければ 松村元政身まかり給ふける悼. 山はいかに里も物見は月の秋 入やいかにいたくも更ぬ夜半の月 山水の心みするや秋の月 氷しく月や千里の波の秋 八月十五夜、夜蝕なりける秋 よし曇れ忌をうき名の今日の月 長雨のうち、葉月十三夜に 待侘ぬ十夜にあまりて三日の月 十五夜に 魚もしれも中の秋を水の月 天にみつ光いづこも月の宿 十五夜、雨のふりければ 月の名やぬれぎぬにして今日の雨 十五夜曇りて月のこゝろもとなかりければ 十六夜、曇りたりけるに. 今日をいかに萩さへ咲に庭の月 雲の波にさしかねし夜の月の舟 松に影夜べたちほそき葉月かな 八月廿五日、菅神の手向に かへりすむや影有明を都がた 長月十二日、雨の晴まもなく、いと物寂しうかきくらしければ 十三夜、空くもりて月のいともとなかりければ. 明日さへもかゝらばいかに月の雨 月の名も霜とまよふや菊の庭 九月十三夜に けふ月の桂のはなか庭の菊. 文庫の会余興探題、秋夜. 有明や我よと更る秋の色 長き夜や独まづしる楼の秋 おなじ時、稲妻 稲づまやねぶりゆるさぬ小田の庵. 葉月廿九日、あらましくて、人の家どもそこなはるゝおほかりければ 秋風やなべてうき世の嵯峨の庵. 長月十日比、うき世の嵯峨の庵に旅立給ふ給へる餞別に. 又、須磨明石も道の辺なりと聞に、所がらかもといひし淡路嶋もちかう見. 峯に生る松枝折せよ秋の山 給ふべければ 詠さぞ所も月の須磨明石. 夏の比より養ひて、おさなきものを重陽にことさらに爰にむかへ侍りて. 西のの国なる人、五十の賀とて望まれ侍る. 植て千代松ぞならばん宿の菊. 人のえさせける菊の画を又ひとに送るとて. 百をまつや半楽しむ菊の酒 千代むすべ君によるべの菊の水 長月十日、菊を翫ぶ図給して. はつ花もつむ我からや翁草. 長月廿八日、月次の会とて文庫に行たるに、山は日比の雨にもゆめ染る色. 今日ぞげに齢ひも返し菊の露 もなかりければ 同文庫月次会の発句、黄葉. 秋の雨のいかにふればか青葉山. 長月廿五日. 朝露や山の下染めうすもみぢ 錦はる梢や秋の手向山 行秋やとむる手力うつ砧 (ママ). 元結にむすぶや記念秋の霜 とまるよれあらば惜まん秋の暮 さそはれて秋ぞふり行夕時雨. 十月朔日、空の曇ければ. いつも聞鐘の音かは秋のくれ 冬. -5-.

(7) 雲 岡 梓. はやもけさ誘ふや冬のはつ嵐. かき曇る空に名乗や時雨月 朝庭や氷かたしほ夜半の雪. 厚氷いつ淡雪と岩根水. 白きぬや岩ほにきする庭の雪. 明いそぐ光にしるし窓の雪. (衍字). 霜月廿五日、月次の会にて文庫にまかりけるに、けふなん出るなりときけ 鐘冴てけふもほどなし夕日かげ. 山やけふ秋の隠家神無月. 篠の葉や霰もさやに太山風. ど、いとあはたゞしう暮て、一条の長きしるしもなきなきやうなりしかば. 時雨にも松はみどりや冬の色. 雪じみや花にぞかへる狩衣. やま風もまだ冬たゝぬ錦かな 晴る夜や名を偽りの時雨月. 分ゆけば又跡うづむ落葉かな. 霜月ばかり、雪かすかに降すさみしつとめて. 交の淡雪めでよ歌の友. 草堂の会に. 幾時雨椎も葉がへん冬の山 余波やは有明の月に小夜時雨 秋冬に父に夫とにをくれぬる人を、神無月の末とぶらひて. 筏士にことゝひあへぬ落葉かな. しら波や雪ぞ名に引末の松. 露かけし袂をいかに時雨月. 飛散や鳥の上毛も夕もみぢ. ふり掩ふ夜床の雪やたく衾. 望月や水なき空に氷面鏡. 十二月十五日の夜、月のいみじうすみたる空を詠めて. 雪を花に春かたまけぬ冬木立. 三十年の後までとへと雪の跡. て. 亡父武遇神主三十三回忌に、光延、為正の主達催して追善の連歌し侍ると. かけてみる霜や瓦の松のはな 冬にまづ秀むはじめ松の声 冬草や紅葉の下に霜の花 百草やさきすさぶ野も霜の花 神無月紅葉さかりとて、山踏して 霜の後や色の千種を冬の山 移ふや冬の初しも庭の菊. 枝は雪おもきがうへに松の月. 月照雪といへる題にて. 草廬先生ひんがし山のかたにうつろひ住給ふと聞て、たよりにつけていひ. うつろへる月やきせ綿冬の菊. 有明や冬も梢の梅の雪. 埋火や灰のこまかに睦語. 獣や里にもなれて太山炭. あし引の道は幾筋雪の跡. 師走廿五日、児に代て手向に. 送り侍る 寒からじ月とすみよき家うつり 年寒き陰をみさほや松の月 神無月廿七日はじめて雪ふりければ 雪や花春の名ちらす神無月 空にけふしれと二度時雨月. 紀川や守る年さへ関もなし. うづみ火を夜半のあるじや水駅. 草堂歳末の会に. 冬田まで友やしたへる雁の声. 声たてゝ年をやらふる山颪. 閏十月朔日、雨の降ければ. 枯芦に色かす鴛の青羽かな 流藻やうきねの鴛の草枕 冬かけて夜霧やこもる川千鳥. かしの人のかきおき給ふめれど、鶯さへだみたる声になく片田舎なれば、本末. やまと歌は此国の風俗にて、いきとしいけるものいづれかよまざりけると、む. 鴛鳥や剣羽みがく床の霜 朝霜ややがて氷のにゐ結び. -6-.

(8) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. もかけ合ぬのみならんかし。しかはあれど、治れる世とて人の心ものびらかな れば、難波津のよしあしのわひだめもなく、浅香山浅きふかさもたどらで、思. 二月、旅だゝんとしけるあした、庭の梅を見て. けふは又みる人さへもあくがれてさきだつ梅の香をしたひける. 鳥の声かねのひゞきの外にまた夕ぐれいそぐ春雨の空. 春雨. 立ぬれぬそでさへしめる心地してのきばにかゝる花のはるさめ. ひ〳〵心々に言に出るおほかりける中に、荒木田氏の女なん、花の朝、月の夕 はさらなり、鳥の声、風音にもかならず思ひをのべ、心をやりてつれ〴〵をな (ママ). ぐさむるなかだちとし侍り。されどたゞいひすつるのみにて人にもかたらず、. 山里や誰つまごめに住ぬらんさくうのはなのつくる八重垣. 豊宮崎文庫月次の会、当座題を探て、卯花. 立かはる事もうからじ人なみにはなの香ふれし袂ならねば. 更衣の日. なれ〳〵し人こそしるべ花鳥はあひもおしまぬ春の別れを. 暮春. 忘れめや余所に宮ゐの春がすみたびの空には思ひたつとも. 弥生、旅の空に思ひ立なんとする比、まかり申めきて、内外の宮に詣て. 限りとて立かへてける藤衣かたみの色は花に残れる. 弥生の末、兄の服ぬぎける日、藤花をみて. やまぶきの花もながれて行水にこまかふ人の影も残らず. 款冬. 夕露も浅くは染じさくはなの山ぶきの瀬にかげはみゆとも. 水辺款冬. あかずみる春の日数はつもらねど花は砌のゆきとふりぬる. 落花. 年毎に同じ桜のかげ見へてかゞみくもらぬ春の池水. 池上花. 白雲を心にかけて鳥の音の聞へぬ山もはなにこそとへ. 尋深山花. 木のもとは手折ぬ花のうち散てころもに残すきさらぎの雪. 花見んとて山踏しけるに、何方もちりがたなりける其木の下にて. ふるさとにあたら桜のはな盛おもひ絶たる人ぞまたるゝ. 依花待人. 霞さへうす花染の山のはにかゝるさくらの盛をぞしる. 桜. 世の春を尽して馴んさくら花よしやかしらの雪とふるまで. 翫花. 柳 草廬先生五十賀に、先生は陶令の流れをくみ給ふよし聞へ給ふければ 五本の柳は門をさしこめておひらくの来ん道もしられず. 藤園散人. とめをくこともなけれど、まれ〳〵反期のはしにあるをひろひあつめて、三つ の数にあわせ侍る物ならし。. 春 年内立春 いつのまに枝にこもれる花さきて雪ふるとしに春のたつらん 元日 安永七年む月朔日、筆試るとて、夜べ、小塩井をけふ若水に汲初てといへ. 今朝はまづ神道の松ををとづれてまたうへもなき春のはつかぜ る歌をなん夢に見侍りしかば 若がへる影をうつしてよろづ代の春を汲しる小塩井の水 安永五のとし睦月朔日に 初春. いつのまに年や流れし春風も今朝立かへる水のしら浪. 若菜つむかれいは、かゝるもの目ちかゝらぬわたりまでといへる古事を思. 年波のふりみへ越る鈴鹿川八十瀬の氷けさやとくらし ひ出て 門松を. 一年に一度のぼる雲の上はわかれにのべの春やしるらん. 梅. 門ごとの春のしるしはきのふまでみねにさびしき松の色かは 打霞む垣ねにかへる梅がゝにさそひし風の絶まをぞしる 睦月廿五日、天満神の渡唐の御影拝み奉りて 神垣にうちゝるけふのしら雪は袖にもちたる梅かとぞみる きさらぎ廿五日、天満神拝み奉るとて、梅のさかりなりければ 折にあふ軒端の梅の花ざかりこゝろありとや神も愛らん 梅を 青柳のなびくまに〳〵梅がゝのかつ乱れつゝ春風ぞふく 花の香もかつ曇ける春霞たちえの梅の色わかぬまで. -7-.

(9) 雲 岡 梓. 旅だゝんほどちかうおぼゆる比、庭の卯の花を見て 人はさぞ世をうのはなの宿とみんなれしあるじのいとひ出なば 庭の梅の実をむすびて黄ばみたる比、其木の下に卯つ木垣をなんしたりけ る。此比さかりにて、れいよりことに花多く咲たりければ 梅の色はうつりかはりし垣ねよりまだしら雪をみするうのはな 郭公一声 天彦のこたへもまたず鳴すてゝやまほとゝぎす里を出らん 五月はじめ、三角先生身まかり給へりときゝて 五月朔日、おさなきものゝかひ置し蛍をはなち侍るとて. いつのまに里をかれけんほとゝぎすふり行音だに惜まれし世に. 晩夏蛍といふ詩の題にて. 夜半に行蛍のかげも乱れ芦のかりにや秋の風をつぐらん 乱れとぶほたるの影はかすかにてなつの末葉の芦ぞひまなき 五月五日、あやめを枕にむすぶとて おのづから旅ごゝちするこよひ哉あやめの草のまくらむすびて 蝉 おのがねに涼しさ送る木の下は夏さへうすきせみの羽衣 夏の日、琴引人のなくなりにければ 五月廿四日、物へまかりける道にて、山の方をみやりて. ひく人も玉の緒絶し爪琴のしらべは蝉のねに残りけり. 六月朔日、氷室を. 夏も猶こずゑにうつす水鳥のかもの羽色は山かげにして ひむろ寺小野の山人けふこそは出て都のなつにあふらめ 夕顔 月をまつつまとこそみれ咲花もたそがれ契る軒のゆふがほ 水辺納涼 うたかたに秋やうかべる中河のながれすゞしき夏の夕ぐれ 水無月廿六日、おさなきものを去年養ひし日とて、生れたる日になぞらへ て、神の備へなど、いさゝかことたち侍るとて かぞふればことし二葉の撫子もはなこそ去年に咲増りけれ いかなる事にか、なべて家々に年のはじめのことぶきをなんまねぶなりと て、爰にも人なみ〳〵のいとなみし侍るもいとめづらしう、時は水無月廿 八日なりければ. . 年なみのなかばこゆると思ひしにはるをむかふる御祓なりけり 文月朔日に. 秋. 今朝よりや蝉の羽衣おりはへてひとへに秋の風ぞすゞしき 秋のはじめ、虫の鳴をきゝて 文月七日、川つら近き宿にて. ふき立て幾日もあらぬ秋風をなれまづしりて虫のなくらん. 文庫月次七月の題、七夕衣. 影だにも曇らぬ水に舎りなばこの川づらや星合の浜. うとかりしへだてもあらじ七夕の袖つく秋のあまの羽ごろも フ. 于蘭盆の心を. 空に見よ文月なかばの光りとてゆふ日のうつすそめ色の山. 思ふ事たがひて、旅にゆく事のとまりにける秋、魂祭る. 今年しも手向の水のあはれ世にふたゝびすまん身とや思ひし. 文月の末、蓮台寺といへる山里に滝見にまかりて 月草の花を見て. 風かけて涼しく靡く滝の糸はあきのしらべぞことに聞ゆる. 庭の萩の盛に. 春は山秋は野はらにうつり行ひとのこゝろや月草の花. をく露も夕べはわきて色そひぬ月と花とのみがく光りに. 霧のいとふかきあした、庭の萩の咲たるを見て. 秋霧のまがきもさすが心あるやけささく花をつゝみ残せる 野分だちたるあした、朝顔を見て. あたらしや一日ばかりの盛りさへ嵐ふき立庭の朝がほ. 桃の木に槿のはひかゝりて、花の咲ければ. 庭に植つる槿の、年毎にかはらず花の咲ければ. かゝりける契しあらば朝顔も三千とせ経べき花とならなん. 野分. 化ならじ露の契りもいく秋にむすぶまがきの朝がほのはな. なく虫のなみだやあへず乱るらん野わきになびく草むらの露 秋風. 夕ぎりにまがふ烟は山もとのさとに秋たつしるべなりけり 雁. 秋風の音づれそむるゆふべよりたゞやすからぬ露ぞこぼるゝ. なき渡る雁の泪やしぐるらんぬるゝかほなる山の端の月. 秋のはじめより草廬先生のをとづれのなきをいとおぼつかなく思ひわたる 比、雁の鳴ければ. -8-.

(10) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. 鹿. 玉章をかけて待こし秋かぜもそらだのめなる初雁のこゑ をじかなく尾上の月もかたぶきてあはれとぢむる明仄の空 八月十五夜、雨のけはひに曇りしかば 今夜さへ月もりかぬるあしの屋はいかにひまなき雲の八重茨 翫月 みな人のかしらの雪のあらましにかねてさへ行秋の夜の月 すむ影をひとりがためと詠めつゝ秋はねぬ夜ぞ月におほかる 閑居月 我のみと思ひてさせる柴の戸にあはれともなふ秋の夜の月 月の比山里にて 山水のこゝろにかなふ月かげのなどてうき世に行めぐるらん 身に思ふ事おほかりける秋、水の影いたう澄たるを滌みて. 神無月ばかり、兄武世のきみ河内国に旅立給ひける、あなたより文ありし 返事に. 分まよふ交野の霜の明仄はくさもみながら花やさくらん. 難波の方に旅立し人の文のかへり事に. 打払ひたびねやすらん置渡すしもゝひまなき芦の八重茨. 霜月の末、難波より白き鼠のちいさきをもて来りければ、たはぶれに. めづら敷よめの子鼠このはなの冬ごもりせぬ色かとぞみる. 霜月、人の五十の賀とて乞侍りしかば 初雪. かぞへしる千代を真砂の数に見よまじるあられは玉ならずとも. 雪. 降初し雪よりかはる松のいろはしぐれしまでの緑なりけり. ふる雪に遠方人の袖の色もわかぬばかりの野べの夕暮. をかはと思ひてねたりける夜の夢に、こゝにのみめづらしとみる初雪のと. 霜月廿四日、あすは天満神の御影拝み奉る日なれば、手向にはいかなる事. 九月十三夜に八月半の夜は手ならい書とゞめて、月の行ゑなどなづけしを. すみ侘て浮世しらるゝよもすがら月にうらやむ秋の山水. いへる古歌によりて、初雪といふ事を思ひそふべくみて覚ける又の日 年の暮に鏡をみがゝせて. めづらしき松の初雪こゝにのみはなのさかりをかけて見よとや. 思ひ出て 澄ぬべきゆくゑやかねてみせつらん八月に似たるけふのおもかげ 五十にたりける年の長月九日に. 歳暮. 行としのかたみの霜にます鏡かげすさまじき月ぞ残れる. はては身につもるをしれば徒にゆきてはかへる年とやはみる. 長月の比、幸田光隆ぬしのもとに菊の花をこひ侍るとて. 影うつす我さへしらぬおきな草はなのかゞみの谷の下水 一枝はかぜにもゆるせさくはなのあるじは園をうかゞはずとも. 白雪のちりかひくもる夕ぐれもとしのゆくてふ道はまがはじ. 恋. 年をへてつれなき三輪の神杉はいのるかひなきしるしなりけり. 祈恋. わがまつに通ふともなき爪ねこのねたしやこゝろ誰に引らん. たのめてもこぬ夜や空にしるからん人まつの戸を月のさしけり. 待恋. あらはればいかに化なる名取川かくてくちなん瀬々の埋れ木. 忍恋. けふさへに暮る余波はあまりある冬の日かずとおもひやはする. 師走二つありける年の暮に. とし浪のけふ行尽す江のみなみあすや春来る方となるらん. 除夜. 歳暮雪. 冬 神無月朔日に 神無月朔日も烈しかりければ. 色染し秋はきのふと思ふまにけさは木のはをあらし吹けり. 初冬. 紅葉ゝにそめしこゝろは山かぜのふきたつごとにまづぞ乱るゝ 松風の音も冬たつ山ざとはしぐれせぬ夜もいやはねらるゝ 月仙師わたりまして菊を給へりける折しも、神無月の空うら〳〵と晴たる ほどなれば、冬景似春花とつきなきふるごとを思ひ出て 神無月の比、夢の中に読ける. (ママ). 栂の尾のはるをつみしる深緑りふゆともいかゞ若草の色 霜深き冬野をゆけば暁のかねは外山に高く聞ゆる 木枯の吹すさびける夜、月を見て 山風に木のは晴行こずゑにはのこれる月ぞひとりくまなき. -9-.

(11) 雲 岡 梓. 浅からぬ思ひをそへて貴船川さはのほたるぞもへまさりける もえわたる思ひの色をわか草のはやくよりかく袖はしほれし 寄野恋 寄橋恋. たのめてし契を人はいなみのゝ露のたまゆらものおもへとや. 寄潟恋. さり共とたのみぞわたる橋ばしらたてしちかひのくちぬ限りは 夕しほの干潟に刈むみる目にもあかでぞしたふ人のおもかげ 恋学問努 あつめ来し窓の蛍もいたづらに思ひをそへてもえまさりける 恋老弥切. 紅ゐの涙のふかき窓の中はあつめし雪も消んとやする 今さらに駒のすさめぬうらみさへむすびそへける杜の下草. 四十になりける年. 夢にさへ別よとてやひとりねのまくらにかよふ暁のかね. あかつきの鳥の音を待ねざめして我身の老のはじめをぞしる 鶏. ながき夜のね覚の枕そばだてゝきくはうれしき鳥の声々 藻を. きぬ〴〵の思ひ絶たる暁は告る八こゑの鳥をこそまて. (ママ). 浮草はながれもあへず夕かぜのわたらぬ水に根をやとめけん. 墨吉なる人の、墨を給へりけるに、名にしおへば殊にすぐれたるもことは りと思ひ侍りて. 北海先生のあらはされける日本詩史につたなき詩の入けるをみて、先生の. 神風のふきつたへつゝ住吉のまつのけぶりの色を見せけり 許に申送りける. の木などなき所なれば、こはいづこのぞと、ずさなる者にとふに、花には. 卯月の比、庭の方に花あまたちりたるやうなり。いといぶかしう、さやう. うづもるゝ事を心の玉がしはいつのなみまにあらはれにけん. あらず、鯛のうろこなりとて、いみじうわらふ。さは目たがひけるにやと. 恋催道心. 年へても忘れがたみの一ことにこのちぎりをぞなをたのみける 憂事にみだれそめにし黒髪もすゑはまことの筋によりける. 其形見に見よとて兄のもとより衣を送られしかば、今は化なる事とおぼえ. のぼりにし煙の後のかたみさへむなしき空にきゆる浮雲. 夏の比、兄嫁の身まかり給へるに. いにしへの光を残す月かげに庭のをしへの跡を見せける. なき父の十あまり七回に正日は十五日なりければ. そへてやる風もおよばじ水無月もすゞしくかゝる雪の不二の根. 駿河の国におもむく人に扇をおくるとて. 旅ごろもしほるゝそでの露けくははらはぬ床をかけてしらなん. おなじ比. 山かぜも心してましさゝまくらまだふしなれぬひとよ二夜は. 枕. 神無月ばかり、夫君旅だち給ひける又の日、風あらましかりければ. 夕風の手にし通はゞふるさとに月まつ人のこゝろをもしれ. 京の方へ旅立ける人に扇を送るとて. 百年の三つが一つは過せどもよのうきかずはかぞへはてゝき. りぬるよとおぼゆるまゝに. 莫言三十是少年百歳三分已一分といへることを見いでゝ、我も三十にあま. ちる花にまがふにつけてさくら鯛春のかた見の名こそしるけれ. はいへど、土に散敷たるはさながらの花とみゆれば. せきかねて袖に流れし涙さへ末は御のりの水の尾の山 寄催馬楽恋といふ事を人のよませけるに 人しれずあはまし物をさゆりばのねどころいかに世にしられける 浅き名ぞまだきもりける越あへぬ関のあらがきひまおほくして 思ふ事侍りける比、ほとゝぎすを聞て みたびてふ声にぞまがふ時鳥物おもひまさる夕暮の空 日比かすかなる閨の中に、万里の思ひになやみて、たゞ一人明 暮るまゝに、心地さへなやましくて、髪もいたく落ければ 黒髪のながき契はかけながらなみだのすぢとなるぞ侘しき 同じ比、かしこのふみ有けるかへり事かくとて かきくらす涙のそむる水茎はいかにあやしき跡やみゆらん 夕恋といふことを人のよませけるに 浪花に行人の別おしみて. まつ人は思ひ絶たる宿ながら心にかゝる入逢のかね. 五月菖蒲を枕に結ぶにもまづ思ふ事ありて. えに深くよりにし物をかた〴〵になど漕わくる小舟なるらん. 暁鐘のねを聞て. 思ひやる旅ねの床の露けさにをとらぬ草の枕をぞする 雑. - 10 -.

(12) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. て 空蝉の世の夢ぎさへうすからでなみだも露ももろき羽衣 心安く聞へ通ひし人、秋の比おさなき子を失ひて、いくほどもなく夫の君 にさへ別れてなげかるなりと聞て いろ〳〵の露のあはれのかゝる世にをくれて人のさぞなげくらん 安永三年文月はじめ、兄嫁の身まかり給へる初の七日に 影隠す月の山辺はたとふべきあふぎも露も置かへてけり 春の比、子なるおさなきもの、じちの母にをくれて服忌たりけるをみて 其家にはちいさき女子どもなどあるを、心ぐるしう思ひやりて. 立いそぐ藤のたもとにはな染のころもうき世の春ぞしらるゝ. 又の年おさなきもの服ぬがせ侍るとて、二見浦につかはしける日. などてかく立急ぎけん夕がすみこゞゐの森のくもるばかりに 浅からぬ涙のふちもながれてはつゐに御祓の瀬にぞよりぬる 古歌ども見あつめける中に、死出の山路に面かはりすなといへる歌を見て 老の身は此世ながらの面がはりしでの山路はさもあらばあれ 二毛のいと見苦しう、鏡の影もはづかしうおぼへて 朝毎にむかふかゞみのちりならでつもらん老ははらひ侘にき 悟心禅師観世音の御法を授られしかば 藤堂大君六十の御賀に、松契多年といふ題を. 化ならじしめぢがはらに結びをくさせもがつゆのかごとばかりも. 洞津大僕君のあねぎみ武子、六十の御賀とて. 藤なみのまだきに咲て千代の色をまつにかけたる十かへりの花. 三角先生より孫女の手本にせん。歌書てよと紙をなんおこせ給へりしに. あはれなりみぬ世の春を写しゑやはなうぐひすになれしおもかげ. かはる名と人はいへども浜荻もおなじなにはのあしでなりけり. 万葉集の詞にて歌よめといふ人侍りしに 柳 鶯. くるめきにかけぬ物から青柳のいとながくこそうちみだれつれ. 花ぐみし春のかきねはうぐひすもおほろかにやはこゑの聞ゆる 郭公. ほとゝぎすながなく声をはしきやし世の人みなのまちこひぬらん 忍恋. うはべなき人をこゝだもこふるまにけながくなりぬいねがてにして. のむ水のかこにみし人かたもひのそこにのみわれ恋つゝあらん. 春の山ぶみ. きさらぎ半ば、なべて花盛なるに、けふは鶴の林のむかしとふ日と. て、寺々に法の会あれば、いと詣まほしくて花見がてら出立侍る道. のほど、市のうちさへ爰かしこの垣ね〳〵に咲出たるは、げに里ま. で雲のたなびきたるさまもめづらしう、遥なる山の方は、霞のひま. 〳〵鶴の子の松にむれゐるにやと、いとほのかなる心ざしの、所は. 三日月庵とて、夫なる人は露ばかりの草のゆかりかこつべきゆへ有. 庭よりとほりてのぼりける。さき〴〵目馴し所なれば、枝折もたど. て物せらるれば、まづ其家にをとづれ給へり。庵は後の山なりける. 〴〵しからず。花はかず〳〵にていみじき盛なり。見渡す山の桜は. 藤堂大君の御妹君なり 花契多春といふ事を三角先生よませ給ふけるに、三千とせといふくだ物に. ぬべく、二村山の秋の色にも匂ひまさりて目もあやなり。. みどりの梢に枝かはして、むら〳〵白きは都の春の錦にも立および. 常盤木にまじりたる、殊にはへ〴〵しう、柳などはなき所なれど、. そへて参らせ侍るとて 世間風おどりける比、祈りに. 匂ふ香の宿に三千代を契りつゝあくまで花になれてすむらん 天照す光りあまねき国の中にあらぶる神もいかで有べき. 錦はる山辺や花にむら霞. 所さへいとかごかに里はなれたるおもむきこよなくて、百鳥の声お. 年 比 た の め 聞 へ け る お ほ ん か た よ り、 と り わ き た る 御 か へ り 見 の 有 け る を、いといたうおどろきかしこまり侍る折さへ年の始なれば、まことに石. もしろく聞渡さる。. ぼつかなからず。. ば、空は霞もかゝらずいとよく晴て、遠き望ちかきながめすべてお. とばかり休らひて花見るほど、風などさのみけしきづきても見ヘね. 幽花開小陘風日霄林塘此裏無人到啼鶯弄衆芳. 上の古事をも遥に思ひ出侍りて やぶしわかぬ光りに春をしら雪のふりぬる宿も花をこそみれ 竹に鞠付たるゑの扇に 大納言成通卿の鞠を側に置て、笛ふき給へる像の賛に. 呉竹のしのにかゝれる庭まりをまつかのみとは誰かいひけん. - 11 -.

(13) 雲 岡 梓. 遠山の雪のすがたや花盛 さくはなの梢は雪と見ヘながらみ山からすの羽がへやはする. らふ事のつきなきやうなれど、草の色にもとゞめられ、鶯の声にも誘れぬる折. ふ袖の色々は、野に着て展敷錦にはへまさりて、きら〳〵しく、いとゞ立まじ. 空にさへ緑の糸遊び織比とぞ、人々もさこそはあくがれけめと見るに、ゆきか. 東風掃雨度山蛮日瑩花光白璧団吟枝径過清賞地伹看晴雪桂林端. 雪の匂はしさにて、とり〴〵に見捨がたし。. 山水の心を深くしめてし所なれば、かう世の外だちたる人の遊行所. まぢかき木の間に烏のゐたるがいとさだかなるもおかしくて、. には又なう思ひて、但人語の響を聞とかへす〴〵口ずさみて立事安. など口ずさみて、日も夕かげになりゆけど、うるはしき花のあたりに目のみと. 染てみる心ぞしばし花の春. まりて、帰らん心地もせず。さるは一杯の酒だに持て、さすがにさう〴〵しけ. なるをも、しゐて心をやりて、. 事よせて、花みる人々打むれて、道もさりあへず、たかきいやしき、. れど、よしや酔なすゝめそともいふぞかしとて、猶山踏もせまほしくて、. からぬ木陰なれど、こと方も床しう、御寺にもいそがるれば、山を. 老たるわかき、おの〳〵宿を霞の余所にしつるさまは、むべしも年. 下りつゝ錦の河内の渡りに出ぬ。あぜ伝ひにさまよひ行ば、物詣に. にまれなる盛いちじるくて、. 世儀の古寺のかたに到りて、大師の御堂にのぼれば、所々に花あり. 貴賤と親疎などいはんもよの常なれば、逢坂山にやとたはぶれつゝ、. に向ひたり。さらぬ所々にも夕ばへのけはひ殊におもしろければ、. て、豊宮崎の渡りにいたれり。文殿の花は行ふりに見やりつるに、いみしき盛. あいなしと人のいさめ給へば、やがて帰りなんとす。はじめの方ならず道かへ. とて、遠山鳥の尾なる日さへかたむくもあかずおぼゆるを、さのみしうねきも. 分入ていざかくまれん花の雲. て散もはじめぬけしき、いひしらずめづらし。人もあまたまよふは、. しるしらぬ人はあまたにみゆれ共こゝろはおなじ花によるらん. げにやすくも来にけりともいふばかりなり。. 猶あふ人おほく、すべて花の山辺をさがして行さまにて、家路にむきたるは我. 紅ゐや夕日色かす花さくら. きのふの雨の余波もなく、いさゝかふくめる露もなくて、立ならす. のみこそはと、いとはしたなき心地す。あたらしくのみ見て一枝の家づとをだ. たれもさぞ見る所とて花の場 陰は霞も隔てず、日にみがく梢々はいとゞしうあざやかにて、千顆. ちらぬまも家路まどはん桜狩. 見渡しつゝ行まゝに、. におらず。いかで風よりさきに今一度などいひかはして、猶行さきも花あれば、. 偽の名をけつ花や玉の枝. 万顆の玉の光り、えもいはずかゞやきたり。 薬師います堂にゆけば思ひしもしるく、仏の別れの心ばへある写し 絵かけ奉りて、僧達経よむめり。いと尊くてしばしぬかづきぬ。爰. 長峯とかやのあたりなれば、道すこし程ある心地して、人しげき大路はらうが. 葉月はじめ、月仙師訪はんとて夫君の寂照寺に詣給へるに従ひ出立侍る。寺は. 山行記. にらうがはしきまでつどひて、古寺などいふべくもあらず、いとは. は例も花みる所とて、いつもさかりの比は人しげきを、今日は殊更 れ〴〵しき花の場なり。さはいへど、. はしうむつかしとて、豊宮崎のかたより山道つたひ、羊腸ばかりの小坂などの. いとほいなくて、半関を開くと口ずさみつゝ、. 里に出などして寺にいたり、あないきこへさするに、師は外に出給ひつとある、. なく蝉や山辺にみつる秋の声. 扇もすつるばかりなり。. しう、市の中にはまだ入たらぬ秋の声も山にはいととくそなれぬるやうにて、. ぼりゆくもおかしう、あきらかなる日影は暑さを残しつれど、木の下風はすゞ. かへにへん塵の外てふ庭の花 今日の心ばへを 御仏の別れやかくる花の露 花のあたりに立休らふやうなれど、人さはがしければしづ心もなく、限なう今 き心地するに、又見しりて物いふ人のあるさへむつかしう、所せければ、のど. めかしきけしきはふるめいたる人のかりにも立まじらふべくもなく、はしたな かにもあらず、すなはちまかでゝ、しばし花みるばかり静なる所もがなともと. わ た り の 山 踏 し て、 秋 の 花 の 色 を も 見 ん な ど い ひ か は し て、 又 山 の 方 に 分 入. 秋に耐ぬ色と見なして、いたづらに隔るもいとさう〴〵しければ、つゐでに其. 秋かぜのひまなき庭のばせを葉は名をだにいかゞかきもとゞめん. 過しがたき花の陰は行もやらず休らひがちなり。雪の光、雲の容おちこちに見. めありけど、いづこも同じごと人しげく、猥がはしきのみなり。さはいへど見 渡して、遥なるは山の端ごとの白雲うるはしく、あはひちかきは際おほふ枝の. - 12 -.

(14) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. つゝ、しほりもおほゝしき梺めぐりを、そこはかとなくたどりゆけば、花をそ ふなる春の心地して、たよりなき所も中〳〵おかしう、さらにめなれぬ草の花 どもの盛りなるを見めでつゝ、行もやられず。. 石路崔嵬古仏楼門前秋色擁林丘暮蝉声混清泉冷近滌香沐駆暑流 又、 風青き竹の林は秋もなし. しく、木々の梢もはつかに黄ばみつるは、まだ浅き秋のけしきなり。谷の流れ. 若なつむ生田の春にや、などたはぶれて、猶わけゆくに、萩すゝきなどはまだ. いつもめづらしうのみ見渡されぬ。深くなりゆかん梢の秋をこそとはめ、と、. らしつる道なれど、山の木立、風の気色、四の時にうつり行て、同じ色ならず、. 山水のあかずおぼへき。日比ことにゆかしうするわたりにて、年ごとにふみな. 日影もやう〳〵傾くやうなれば、又鹿鳴比に、などいひ契りて帰らんとするも、. いさぎよく、岩にふるゝ声いとすゞしう、早田は穂にいでゝ打靡く秋風も青や. かへす〴〵聞へかはして、心のとまるまゝに、家路もことに急がれず、色鳥な. 分まよふ秋の花野のよそめこそみちさまたげの色にみゆらめ. かに、玉散露も清げなり。かたへの山は松のみみどりふかうしげり合、こと木. どはまだ声せぬ程にて、蜩のみかしがましきまでなきかはしたり。. まゝに、又右の方になりぬ。. かへさは分なれし道とてたど〳〵しからず、初みし松山はうらおもて打まはる. 柿の葉はまだ染あへぬ山里のこずゑ秋ある日ぐらしの声. はありともなく秋もしらずがほなる姿も又おかし。野遊のおもむきもこよなき 西風芦荻戦蕭瑟送秋光澗水瑠璃碧山林纐纈黄陰雲理鳥道峻阪似羊腸好景逼. まゝに、山行の心ばへを、 人処詩狂漫作章. りつ。爰もありし所には引かへ、里ちかく山浅きこゝちすれど、いとしめやか. 世儀寺は道の行手なれば、又そこに立寄て、寺々拝みめぐり、薬師の御堂に上. 風のをとを秋のしらべや峯の松. たあれど、まだ紅葉ははるかなるほどにて、野遊の人もなければ、いとしめや. などすゞろごとをさへしつゝ、蓮台寺といへる一村に出ぬ。爰は柿の園生あま かに夕日さびしきけはひなり。. に世はなれたる心ばへこよなく、峯の松風澗の水音、 えもいはずすゞしげにて、. 山院秋涼早西風谷梵声世塵曽不到仙桂露華清. 俗物の眼にあたるなく、心もすむさまなり。. ぞ. 秋さびし鳩なく園の薄紅葉 日比相しれる里人の家に到りつ。とばかり休らひて、人々木実ひろひなどしつ る、いと興あり。あるじはねもごろにあへしらへど、市遠き所なれば、酒など. 暮ちかきけはひもあはたゞしくて、そこおも立つゝ山を下りぬれば、秋風のを. やがてそこなる大悲の御堂に詣侍る。山すこしのぼりて、堂はちいさく物ふり. かへり見せられて、但よく心静なればと、浮世の中の物さはがしさも思ひしら. さの所せう、昼の余波もなく、三伏の比にもかはらぬやうなるに、先山の陰も. とは遠ざかり、市近うなるまゝに、西の空にかゞやく日影いみじう晴て、あつ. たるしも殊に尊く、往昔一条院の御代の比とや、内外の宮の祭主にて、神祇大. れて、有つるひぐらしの声は何ばかりのかしがましさかはと、耳につきて急し. 山下孤村趣最深市朝遥隔卜雲林莫言清興欠杯酒風景驚人足賞心. もなきぞさすがすさまじかりける。. 副なる大中臣の永頼神事につかふまつりて、此国に下り給ひし折、いみじき願. う、まいて萱になく虫の声、夕ぐれやいかならんといとゆかし。. なり。所はしも殊に見所ありてゆへづきたる、其世よりかゝりけるにや。げに. 力をあらそふ立合に、勝負をいどむなりけり。軍とかまことしきものゝふの道. あり。はだかにて世におそろしき志賀のあらおらばかりのおのこの二人づゝ、. すまひとて、いとむくつけきわざのいひしらずなめげに、さうぞくもときつる. 相撲の記. 山わけて里にも通へ秋の風. を立て、神に祈申給ひけるに、験ありて夢の中に観音の御像を拝奉りけるによ りて、此寺をなん建給ひ、普賢菩薩すへ奉り、法華三昧不断に行し所なりとい ひ伝ふれど、今は誠に形ばかりなる御堂に法の煙もかすかなるさまは、そこば. 門前の山河はあらためざる物をと、おしあてに昔の俤にみなしつるは、いとな. くの星霜をへにけるほどしるく、むかしの跡とて尋る人もなき、いみじう哀れ. つかしうおぼへて、. ぎたるしつらひもよしありて、いと涼しき風吹とをり、蜩の声打みだれ、塵の. 寺は方丈などかはらかにかき払ひて、山ぶみする人休らはすべく設たり。事そ. ひしをなん、事の始めなどきこえて、其後神亀の比ほひ、国々に召事とは始め. にも召るゝ事とか。垂仁天皇の御時、当麻の蹶速に、野見の宿祢を合せさせ給. にふれはふべくもなく、いとおゝしう世づかぬすさみなれど、昔よりおほやけ. ぐれたるなん、かゝる事はするとて、ゆめらう〳〵しうあてなるおほんあたり. に も 似 ず、 無 下 に 品 な き 賎 の 男、 山 が つ 共 の 中 に、 力 い み じ う、 た け た ち す. 外なる秋の色は殊に心もとまりて、爰かしこ見めぐりつゝ、れいの思ふ事も忍. 山風もたへせぬ鐘をさそひつゝむかしの秋の声残しけり. びあへず、さがなく聞へ出るも物狂はしきや。. - 13 -.

(15) 雲 岡 梓. てと聞ゆるは、なにとなうなつかしう、かた〴〵に花をかざすらんも今めかし. 物にやあらん。立合のけはひはかはらぬむくつけさなめれど、葵の花のさし合. 衛大将達に具せられて、よそほしう引つらねけり。とりさらばいとやさしき見. にはれ〴〵しう、玉敷の庭に参るほど、すまひ共は犢鼻の上に狩衣をきて、近. 下がしもまで左右片分て、人の数つかひなども定まれるにや、召合せの日は殊. 本手とて、さし次は脇手にや、さてのもなべてにはあらず、力こはきかぎり、. 取より抜手までひまなう召せ給ひ、あるが中に力増り、ゆゝしげなるをなん、. のつかさは物のねをとゝのへ、舞の人々はめづらしき手を尽し、すまひ人は内. く、文月の末かならずきこし召なるも、年毎の事にて御作法うるはしく、雅楽. 田舎の民共の又うへもなき雲の上にさへ思ひおよびて、召るゝなるがやん事な. させ給ひ、防人共仕ふまつりしにや、中比は節に会の数にも入て、さばかりの. りもなき事のめづらしもすべなくも、かた〴〵にいはん方なけれど、しゐて心. よすがなるがはた捨がたく、松の台のと、すこしは情もこもれるを、かうゆく. 相撲人と、壁の中なる蛬、軒のつまなる蝉の声なるに、そは侘つゝも心をやる. あらず聞物から、つましさもしゐていはれず。 紙破れたる窓に影さし出たるに、. ぞくやうもあらねど、まだみぬ事のすゞろにゆかしう、人のさまもなべてには. へるながら、次家のうちの人々立さまよひ見さはぐほど、女のがりにもさしの. つゝよすが、我どち心のまゝにと思へるなめり。爰には芦垣の隔もうすくおぼ. の事とか。何のよそほしさもなく、物みる人をもかたうせいして、門さしこめ. 試むなりけり。誠しうはれ〴〵しきいどみはこと所にて有とて、是はうち〳〵. おぼしく、苫のひまあらく、いひしらずおろそかなり。其うちにてとり〴〵に. て、雲ゐの庭の張筵にはあらで、かりそめなるしつらひは、かりほの庵にやと. れば、人々日毎にそこに来つゝ、残れるあつさの堪がたう、曇なき日を礙ふと. タブサキ. う、ひさご花のけしきつとなるらんさへおかしかりぬべし。小とりつかひなど. をやりて其おそろしき声きかじのまぎらはしに、. いにしへは文月のまゝなど聞へしに、 まだなかばにだにあらぬもいとめづらし。. 楽戯場頭秋色雄相当両々起剛風坐疑雲外鳴雷動決勝歓声四面充. もいひて、其日過れば又抜手も御らんずなりとよ。寛平の比より、童相撲とて 総角どもをなん召るゝ折もありつかし。神事などにも仕ふまつる聞ゆるは、そ こらの人にことなり、えもいはず大きにこえふとり、浅ましうたけたかく、鬼. はつ秋の小とりつかひは夕顔の折過さじといそぎ立けん. むかしはやん事なき人さへ好み給ひ、いみじき相撲にも立まさりてふるまひ給. か何ぞと見るばかり、おそろしき猛男のかた〴〵に来迎ひて、劣らじ負じと心 をおこし、いどみかはしつるさまは、いはん方なうむくつけうて、見る人さへ. しか下つかたのあつかひぐさにて、都も鄙も春秋となく年毎に所もさだめず、. ひ し な ど も 聞 へ し に、 何 れ の 御 代 よ り か、 お ほ や け の 御 儀 式 も た へ 〴〵 に 成. 爰かしこにて難波の芦のかりそめなる小屋しつらひつゝ、まねびばかりの事を. 汗も流れ、身もふるはれたり。かたみに山を裂き罪を被るちからの劣り勝るけ おどろ〳〵しう、足踏は鳴神の轟くばかりなるや。いにしへのひし〳〵と聞へ. なん、こと〴〵しうきこえさはぐならし。此程の八月のころなるさへやうかは. 行、つゐにをともなく成て、今は召事もなきにや、おさ〳〵聞へもなく、いつ. し物の足をともかくはあらじと、世づかぬ心地のみしつゝ、しゐて目とゞむべ. ぢめしなければ、いかゞはたはやすからんやは。恐しき獣の吠るにやと覚へて. くもなし。おのこは是を興ある事にもてはやしつゝ、たかきもくだれるも、お. りておぼゆるまゝに、. 移るてふ色となかけそすまひ草あきとて月の影はさすとも. とな童こぞりて心も空にあくがれまどひ、きびしうあはめのゝしるをも聞ず、 わりなき物のはざまをもあながちにもとめてうかゞひありきつるほどに、夕つ 方などは所せげに競ひあつまり、いとらうがはしうどよみたるや、此見さはぐ. すさみのみなりき。ことし安永五とかぞふる文月十日あまり、近きわたりにて. はらざめり。君子の徳にはあらず、小人の強なりといひてしも、ひたすら戯の. の世の帝も好ましうし給ひしとぞ。弱強を把て勝負を観るなるは、爰なるにか. つるは事なめり。はた唐土にも角觝とか聞へて、秦の世などにや物しけん、漢. おそろしう胸うちさはぎて、手習など心のまゝにもあらず、常にあなかまと聞. ましう、せんかたなく、まいていふかひなき心は戯言としる〳〵、何となう物. 人うとく、浮世の余所に思ひなし、こゝら静なる住ゐになれぬる人は、俄に浅. の ま め 〳〵 し さ に、 た と し へ な し や。 は か な き 羽 に も 匂 ふ め る 桜 の は つ 蝶 に. て胡蝶にはなれず伴ひありくやうなるもおかしう、はた化なる色にはそまぬ心. おしなべて我物がほに思ひわたして、野等となる古里に春風を領すとか、すべ. かき賎しき品わく心つゆもなく、四の時につけつゝ咲かはる花は色々なるを、. のすさめぬ杜の下草をもしたひゆき、世にもてはやさるゝも捨られたるも、た. れ、露にやどれるを、おのがわざにて、花といへば人さへからぬ野辺の叢、駒. 風 月 の た め に な さ け た つ 世 の 人 に は こ よ な う 立 ま さ り て こ そ は、 花 に た は ぶ. くすさみこそ何にもあらず、あなづらはしけれ。限りなくゆうなる心ありて、. 此ごろすこし心地たがふやうにて、よろづむつかしう裁縫わざも怠り、よみか. 鳥虫のことば. 相 撲 も の し て 人 々 に 見 す る な り と 聞 へ し ほ ど に、 国 々 の す ま ひ 共 来 あ つ ま り. の. 相撲共、 声のひゞきうちまぜて、 ゆすりみちたり。市の中にも隠れ家だゝしう、. て、かりなる旅舎には此家の隣なる所をしたり。又籬の東なる家の庭いと広け. - 14 -.

(16) 荒木田麗女『三の友』の翻刻. 日のあざやかなるあした、風のさはやかなるゆふべもあれど、心のみはれ〴〵. すてゝ、ともすればよりふしなど、枕がたさる事なくて、五月雨は隙おほく、. て、常にやゝとなづさふ筆もさし置がちに、机のあたりは塵ばみぬるまゝに打. げりあふ草の花々にすがり、床夏の籬には蝶の色々に打まじりてちりかふも倦. り行て、日影のさしも菅の根なる春を送りつゝ、夏の色なる卯花、杜若よりし. 日古人の心もおかしう興ある事には聞へめり。藤、山吹、つゝじなど次々うつ. しめゆふ園生、垣内にさらなり、さして見る花瓶のほとりまで飛めぐれり。今. みのゝいなむ事なくゆるされける。ひらきみるまき〳〵は玉よする浦浪のかへ. るゝがゆかしくて、一日此ふみ見ん事をしかまのあながちに望みければ、いな. り給ふけるを、あるじの君のひとつにかいつらねて、三の友と名づけ、ひめ置. 春秋ごとに数つもれり。又、やまとの歌にも唐国の歌にも思ひをのべて心をや. うるはしき色音、月雪のくまなき光をあはれみ、は山しげやまのしげき言の葉、. し給ふによと、僕もはつかに跡をとめ、随ふ事とはなりぬ。されば年比花鳥の. つかふまつる内の宮人、荒木田氏の即女、筑波の道に心ざしふかく分入て枝折. の松の蔭ふかき御裳濯川の清きながれたへせずつたへ来て世々を重ね、榊もて. 天雲たな引までおひのぼれる神路山にいく年月をわたりて、いやさかふる百枝. 跋. しからず、五月の空にはよからぬ神のありときけば、さすがにうしろめたけれ. す〴〵もひろふかひありと、みるめにあかずふみのぬしのとゞめをもわすれ、. たらひて、かつ〴〵尋ねそむるより、柳桜の色香の盛りは殊に時をえて、人の. ば、さのみまめやかなるなやましさにもあらぬ物から、暮がたき日もさらにし. みじかき筆をもかへり見ずして、しりへにしるすつみさりがたくこそは。. (ママ). られて、只一人打ながむるは常の事なれど、かゝる折は物いひあはすべき友も. あめあきらかなる七旬とかぞふる年水無月. 橘光延. あらまほしく、つれ〴〵もまぎらはさん方なくて、暑さいまだ所をからねど、 長き日は愛すべくもなく、冷じうて、ほどなき庭など、せめて見出したるに、 其物としもなくあやしき花に、虻といふ虫の飛来て花にすがれば、はら〳〵と. ム ニ 此 ノ編者清渚荒木田氏弄翰也幼名隆後 チ改 レ 麗 ト其 ノ先出 于天見通命 一 矣正四位上 二. 音して打ちりたる、いとおかしう、白き花なれば木のもとははたれなどいはん もつきなからず。是なん名さへ人にしらるべくもなく、まいて世の人の翫ぶ花. ヲ 一. カラ . ニ 榎倉武遠第五女 ヲ而為 二 叔正四位下武遇養女 一 以 テ配 二 嗣子 一 如松武遇老後嗜 二 連歌. スルモノ . ニ ト 人口 一 者為不 レ 少. 数にだに、入としもなく、無下に品おくれたる物おしも、あながちにたづねよ. スト 二. ニ 其端 一 云尓. テ ニ 好況潜多年其 ノ余波及 二 詩歌 一 膾 二 炙 レ 一. 焉、 女 モ亦随 翁 ノ所 テ 二. テ ト 録 レメ之以 名 三 二 友 焉因題 リニ . 聞へし日影のあたゝかげ、ことにうかれて、猶残れる菊の香をとめ、霜をかけ. 図書館に、深く御礼申し上げます。. [付記]本稿の執筆にあたり、『三の友』の翻刻を許可して下さった富山市立. 慶滋雅. 天明七丁未年林鐘初旬. 矣令猥. るさまの哀なれば、 やがてこゝちのまぎらはしに、 これと賞る言のはだゝしう、 手習すさみ侍る、いで飛鳥むしのはつかなる身は見る目風さへいと涼し。秋は しもとりわけ八千草の花の時とて、萩、女郎花、朝顔などより夜を長月の菊の 庭までさま〴〵なる花にむつるゝ、さこそうれしからめと、みるもいみじうな. たる顔が花、一花のこるなでしこまでかゝづらひつる、羽に置露の氷れる蝶と. ん。冬さへまだ木枯も吹たゝで、初霜深からぬ神無月などは、春花に似たりと. 共に、よはりゆくもいひしらず哀れなり。さるはかうかぞへ尽す樹、草の花は. ) なお、本稿は平成二十八年度科学研究費補助金(若手B・課題番号 16K16757 による成果の一部である。. 人も皆みながしてめではやすめりし。さるたぐひならで、をれど名をだにしら ぬをば、人はゆめ見も入ず、花といはんもつきなきばかりにしつれど、さやう のくだ〳〵しき陰をさへくまなう求めてなづさひよりぬる心のあまねさぞ、い とあらまほしく、中々に物好みしさはぐ世の人のこゝろ浅さのなづらひなるべ くもあらず、こよなしと見るまゝにおのづからこゝちも忘るゝばかりなり。か う あ や し き 花 を し も 又 な き さ ま に て、 雨 の ひ ま だ に あ れ ば 飛 か へ り 来 つ ゝ、 其わたりはなれぬもいみじく、よきもあしきも花だにあれば外にもとむる物な く、夏野のくさのしげき世の事もしらでやすげなるぞ、殊に目とまりておぼえ うらやまし飛かふ虫の春秋をつくして花になるゝ心に. ぬ。. - 15 -.

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