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急性期脳梗塞フローチャート

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Academic year: 2021

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45 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 はじめに 筆者が専門としている脳血管内治療は変化の激し い分野であるが、その中でも脳梗塞急性期の治療は 近年になって著しく変貌している。筆者は、2018 年3月に「宮城県医師会冬期医学講座」にて「脳塞 栓超急性期症例に対する最新の脳血管内治療」と題 する講演を行い、その要旨を宮城県医師会報2018 年11 月号に論説として掲載した(実は3月の講演 から原稿執筆の間にも大きな変革があり講演内容と 講演要旨である論説の内容が異なっている)。これ らの内容を当院医師にも周知したく、上記講演と論 説に重複する部分が多々あるものの、脳塞栓超急性 期症例に対する最新の脳血管内治療を解説する。 MR CLEAN が転換点 脳梗塞急性期症例に対する脳血管内治療の歴史に ついては、上記の論説に詳しく述べたので参照され たい1)。 iv-tPA が認可されて以降、海外の大規模研究が 選択的カテーテル治療の優位性を示せなかったこと もあり2-4)、選択的カテーテル治療は窮地に追い込 まれていた。しかし、上述の海外大規模研究の敗因 は明白であった。なぜならこれらの研究は、iv-tPA のみで症状が改善した患者ではそもそも選択的カ テーテル治療を上乗せする必要がないはずなのに、 そのような患者も両方の群に均等に振分けられるか らである。そこでこの欠点を除外するデザインで Rescue Japan RCT が計画され5)、これが開始され た直後にMR CLEAN が発表された6)。この研究は まさに、iv-tPA が有効でなかった症例のみを対象 としており、いわばRescue Japan RCT と同じコ ンセプトでいち早く選択的カテーテル治療の上乗せ 効果を証明したのである。この結果を受けて同時期 に実施されていた同工の臨床研究も相次いでキー オープンされ、そのいずれもが選択的カテーテル治 療の優位性を証明した7-10)。この研究結果を踏まえ て「脳卒中治療ガイドライン2015」は、次回の改 訂時期を待たずに追補2017 として血栓溶解療法の 項目が改訂され、血栓回収療法が改訂前は「その他 の再開通療法」としてグレードC1 だったものが、 追補版では新規記載で一気にグレードA とされた。 効果が懐疑的とされていた急性期血栓回収療法が、 一気に標準治療に引き上げられたのである。現在主 流の血管再開通療法は、以前のような血栓溶解薬を 局所投与する方法ではなく、ステント型または吸引 型血栓回収デバイスを閉塞部位に誘導し血栓を機械 的に除去するものである。治療適応は発症8 時間 以内の前方循環の閉塞症とされている。この方法で の再開通率は、実臨床のデータにおいても80% 以 上である。 最新のエビデンス 2018 年の初めに、治療開始時刻を発症6時間以 降に限定した2つのstudy が相次いで発表され、 両方ともに良好な成績を示した11,12)。これらの結果 をうけて米国のAHA/ASA ガイドラインは既に発 症24 時間までの血栓回収療法を推奨する形に改訂 されている。わが国では現在のところそのような動 急性期脳梗塞フローチャート

短報

当院における脳梗塞急性期症例の

最新のフローチャート

江面正幸 国立病院機構仙台医療センター 脳神経外科

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46 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 きにはなっていない。その大きな理由は、上記の2 つのstudy は RAPID というソフトウェアで虚血コ アと低灌流領域を自動判定しその乖離がある症例を 組み入れ対象としているのであるが、日本ではこの ソフトウェアが使えないことによる。しかし、日本 脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管 内治療学会の3学会合同で策定する「経皮経管的脳 血栓回収機器適正使用指針」は3 月に改訂され第 3版となった(3 学会のいずれかのホームページか らのリンク参照)。この指針では発症16 時間まで をグレードA、発症 24 時間までをグレード B とし ている(図1)。但し上述の RAPID が適応判定に 反映できないことに留意するようにという注意喚起 が 付 さ れ て い る。 虚 血 コ ア と 低 灌 流 領 域 は diffusion MRI と perfusion MRI を撮れば推定可能 なので、当院ではMRI を撮ることにより発症 24 時間まで対処することに方針変更している。 現在のフローチャート(図2) 患者が搬送されてたら、一通りの救急対応を行 う。神経症状を呈する患者では一刻も早く脳CT を 急性期脳梗塞フローチャート 図2:当院の脳梗塞急性期症例に対する最新のフローチャート。

患者来院ᴾ

ᶇᶔᴾᶐᶒᵋᵮᵟ適応の可能性ᴾ

発症ᵒᵌᵓᵋᵐᵒ時間ᴾ

従来のᴾ

保存的ᴾ

治療ᴾ

ᶐᶒᵋᵮᵟᴾ

静注療法ᴾ

主幹動脈閉塞ᴾ

脳血管撮影ᴾ

血管内治療ᴾ

造影ᵑᵢᵡᵲᵟᴾ

(胸部から頭部まで)ᴾ

ᵫᵰᵧ撮影ᴾ

(ᵮᶃᶐᶄᶓᶑᶇᶍᶌ含む)ᴾ

ᶐᶒᵋᵮᵟ適応ᴾ

除外理由がᴾ

時間的要素のみᴾ

No

Yes

Yes

Yes

Yes

No

No

No

No

Yes

ᵡᵲ撮影ᴾ

図1  ICA または MCA M1閉塞例における治療適応の推 奨グレード    (経皮経管的脳血栓回収機器適正使用指針第3版よ り転載)

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47 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 確認したいところであるが、脳CT を行うより早く 済ませておかなければいけないことも多い。まず血 管確保である。これは一般的な救急処置として必要 だという側面とは別に、後に示すように脳CT に引 き続きすぐに造影CT を施行する可能性があるから である。このため20G かそれより太い留置針であ る必要がある。また血液検査もすぐに済ませる必要 がある。これもiv-tPA の適応の可否を判断する際 に血小板数やPT-INR が律速段階になることがある からである。それらが完了すれば脳CT を行う。脳 CT で最初に判断すべきは、iv-tPA の可能性がある かないかである。発症4.5 時間以内で、問診と脳 CT で禁忌項目が除外されれば、残る除外項目は急 性大動脈解離の合併だけであり、これは大動脈の造 影CT を行うことで診断できる。またもし血栓回収 療法を企図する場合は、そもそも閉塞血管があるの かないのかが大きな分岐点になり、これも脳の造影 CT で判断できる。そこで iv-tPA の可能性がある患 者においては、脳CT に引き続き脳から胸部の造影 CTA を行う。これにより iv-tPA の適応があれば iv-tPA を行い、またもし頭蓋内閉塞血管があって それが再開通療法の適応部位であればiv-tPA に引 き続き、脳血管撮影室に移動し血栓回収療法に移行 する。このフローに沿って治療した症例を図3に提 示する。iv-tPA は 1 時間かけて行うものであり、 逆に言えば1時間経過しなければ効果が無いとは判 断できないが、最近のトレンドではiv-tPA の効果 判定のために1 時間待つのは不利益が多いと考え られている。 最初の脳CT にて iv-tPA の適応が無い場合に、 その理由が発症から4.5 時間以上ということだけで ある場合は、発症24 時間以内であれば、血栓回収 療法の適応がある可能性がある。このため、この場 合はperfusion MRI を含む MRI 検査に移行する。 MRI にて diffusion-perfusion mismatch が確認さ れれば、血栓回収療法に移行する。このフローに 沿って治療した症例を図4に提示する。 まとめ tPA が適応となって以降、発症 4.5 時間までの脳 梗塞に対するtPA 静注療法は広く知られて来たと 思われるが、今や発症24 時間までは血栓回収療法 急性期脳梗塞フローチャート 図4: ウェイクアップストローク症例。73歳女性、前日 23時に就寝、8時起床時失語あり。発症2時間に て来院。CT にて早期の脳梗塞を認める(A,B)。

引き続きMRI を施行。Diffusion image では CT

所見と一致した部位に高信号を認めるが(C,D)、 perfusion image ではそれより広い範囲で低灌流域 が存在するのがわかる(E,F)。いわゆる diffusion/ perfusion ミスマッチの状況である。MRA で左中 大脳動脈閉塞を確認(G)。引き続き血管撮影室に 移動し血栓回収療法を行い、完全な再開通(TICI grade 3)をえた(H: 血栓回収前、I: 終了時)。 B A C H I G F D E 図3: MRI をスキップし、造影3DCTA で対処した症例。 85歳男性、左麻痺にて発症。発症2時間にて来院。 CT にて異常なし(A,B)。単純 CT に引き続き造影 3DCTA を施行(C)。右中大脳動脈閉塞を確認。 大動脈に解離はなくtPA 静注療法を開始した。引 き続き血管撮影室に移動し血栓回収療法を行い、 ほぼ完全な再開通(TICI grade 2b)をえた(D: 血 栓回収前、E: 終了時、F: 血栓が付着したステント 型血栓回収デバイス)。 A B A C D E F

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48 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 を考慮する時代に突入している。発症24 時間とい うことは、これまでは積極的治療の適応外とされて きた起床時に認識される脳梗塞(ウェイクアップス トローク)の大部分は検討対象になるということで ある。急性期治療に関わる脳血管内治療医はそのよ うな意識変革をしている。脳卒中患者を診療する際 は、脳卒中が専門でない医師もこのようなことを念 頭におき診療にあたっていただくことが肝要であ る。 文献 1.  江面正幸 脳梗塞急性期症例に対する最新の 脳血管内治療 宮医報2018;874:887-891 2.  Broderick JP, Palesch YY, Demchuk AM, et

al. Endovascular therapy after intravenous t-PA versus t-PA alone for stroke, N Engl J Med 2013;368:893-903

3.  Ciccone A, Valvassori L, Nichelatti M, et al. Endovascular treatment for acute stroke, N Engl J Med 2013;368:904-913

4.  Kidwell CS, Jahan R, Gombein J, et al. A trial of imaging selection and endovascular treatment for ischemic stroke, N Engl J Med 2013;368:914-923

5.  吉村紳一 海外の ongoing trial と国内の試み In: 坂井信幸、江面正幸、松丸祐司、他 編  脳血管内治療の進歩2015 東京:診断と治療 社 2014;144-151

.  Berkhemer OA, Fransen PS, Beumer D, et al. A randomized trial of intraarterial treatment for acute ischemic stroke, N Engl J Med 2015;372:11-20

.  Campbell BC, Mitchell PJ, Kleinig TJ, et al. Endovascular therapy for ischemic stroke with perfusion-imaging selection, N Engl J Med 2015;372:1009-1018

8.  Goyal M, Demchuk AM, Menon BK, et al. R a n d o m i z e d a s s e s s m e n t o f r a p i d endovascular treatment of ischemic stroke, N Engl J Med 2015;372:1019-1030

9.  Jovin TG, Chamorro A, Cobo E, et al. Thrombectomy within 8 hours after symptom onset in ischemic stroke, N Engl J Med 2015;372:2296-2306

10.  Saver JL, Goyal M, Bonafe A, et al. Stent-retriever thrombectomy after intravenous t-PA vs.t-PA alone in stroke, N Engl J Med 2015;372:2285-2295

11.  Nogueira RG, Jadhav AP, Haussen DC, et al. Thrombectomy 6 to 24 hours after stroke with a mismatch between deficit and infarct, N Engl J Med 2018;378:11-21

12.  Albers GW, Marks MP, Kemp S, et al. Thrombectomy for stroke at 6 to 16 hours with selection by perfusion imaging, N Engl J Med 2018;378:708-718

参照

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