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日本のマネジメント・アプローチ導入によるセグメント情報開示と課題

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◆研究ノート

日本のマネジメント・アプローチ導入による

セグメント情報開示と課題

高辻 成彦(多摩大学大学院 博士後期課程) <論文要旨> 本論文では、日本のマネジメント・アプローチ導入によるセグメント情報の開示変化に ついて、機械業界100 社を対象に売上高、セグメント利益、受注高、受注残高の 4 項目を 検証した。マネジメント・アプローチ導入後では、機械業界100 社中、半数近くである 45 社に所在地別セグメント(売上高、セグメント利益)の情報開示の取り止めがみられた。 一方、受注高、受注残高では逆に所在地別で10 社以上の情報開示の増加がみられた。情報 開示の取り止めが生じた要因は、「マトリックス型の開示の誤謬」という、多角化企業が事 業別セグメントを報告セグメントとして選択し、所在地別セグメントの開示を取り止めた 動きがみられたためである。マネジメント・アプローチは、経営者の判断に依存するが故 に、5 つの情報開示上の問題点を抱えている。 <キーワード> マネジメント・アプローチ、セグメント、IR、機械業界 1 はじめに 1.1 マネジメント・アプローチとは 2010 年 4 月 1 日以降開始の事業年度(2011 年 3 月期決算)より日本では、マネジメン ト・アプローチの適用が開始された。2008 年に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)が企業 会計基準第17 号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」および企業会計基準適用指 針第20 号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」を公表したことを受け ての制度改正である。 マネジメント・アプローチとは、企業の経営者が企業グループの一定単位(セグメント) ごとの業績評価や資源配分などの意思決定を行う際に用いる財務数値を報告セグメントと して開示する考え方である。

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1.2 制度導入の背景や長所、短所 マネジメント・アプローチ導入の背景としては、1)セグメント情報を開示しない企業を 減少させること、2)国際会計基準審議会(以下、IASB)との会計コンバージェンスの一環 であること、などが挙げられる。IASB のセグメント会計基準は、アメリカの財務会計基準 審議会(以下、FASB)のセグメント会計基準とコンバージェンスしたものである。 米国では1998 年よりマネジメント・アプローチによるセグメント情報の開示が始まり、 国際財務報告基準(以下、IFRS)も 2009 年 1 月 1 日よりマネジメント・アプローチが適用 されていたことから、日本においても国際会計の流れに従って適用されることとなった。 マネジメント・アプローチ導入の長所と短所をまとめると、次の通りである。長所とし ては、経営者の観点でセグメントが公表されるため、経営者の観点で将来キャッシュ・フ ローの予想が可能になることや、単一セグメントの開示企業が減少することが期待された 点である。短所としては、企業の内部情報に基づく開示のため、企業間比較が困難になる 恐れがあることや、企業の内部情報を外部に公表することになるため、競争上不利益が生 じる恐れがあることである。 表1 マネジメント・アプローチの長所と短所 出所:筆者作成 2 先行研究 2.1 米国のマネジメント・アプローチの先行研究 米国では日本より早くマネジメント・アプローチが導入されたことから、セグメント情 報に関する研究も時期的に先行している。主な研究では、Herrmann and Thomas(2000)、 Street et al.(2000)、Berger and Hann(2003)などがある。

Herrmann and Thomas(2000)は、マネジメント・アプローチの導入により、調査対象企 業(100 社)のセグメント数が増加した企業は 50%、変化なしが 42%、減少が 8%との調査 結果を示した。セグメントを開示する企業が増加したことに加え、開示項目が増えたこと、 地域別セグメントを国別で開示する割合が増えたことなどを述べた。 Street et al.(2000)は、マネジメント・アプローチの導入により、調査対象企業(106 社) のセグメント数が増加した企業は52%、変化なしが 31%、減少が 6%、セグメント区分の 変更が11%で、平均セグメント数は 1.0 個増加したとの調査結果を示した。 経営者の観点で企業の将来キャッシュ・フローの予想が可能となる 単一セグメントの開示企業が減少する 企業の内部情報に基づく開示のため、企業間比較が困難になる恐れがある 企業の内部情報を外部に公表することになるため、競争上不利益が生じる恐れがある 長所 短所

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Berger and Hann(2003)は、調査対象企業が 2,999 社と最も多い。うち 75%がセグメント 数に変化がなく、増加した企業は23%、減少した企業は 1%との調査結果を示した。 米国の先行研究を総括すると、セグメント数に変化がない企業も一定数いるものの、セ グメント数が増加した企業が多いとの検証結果が得られている。 2.2 日本の制度導入時の分析 日本のマネジメント・アプローチは、2010 年 4 月 1 日(2011 年 3 月期決算)の制度導入 から10 年が経過しており、その先行研究は、1)制度導入時、2)制度導入後、3)制度定 着後、の3 時点に分けられる。セグメント分析そのものの先行研究はこれまで数多くある が、ここではマネジメント・アプローチに関するものに絞る。 日本のマネジメント・アプローチ導入時の先行研究は、円谷(2010)、東原(2010)があ る。円谷(2010)は、マネジメント・アプローチが適用されることで、米国企業での先行 事例と同様に、わが国においても単一セグメント企業の減少、報告セグメント数の増加に よってセグメント情報の開示がより充実する、と述べている。 一方、東原(2010)は、開示情報の充実が期待される一方、マネジメント・アプローチ によるセグメント情報は、企業の内部情報に基づく情報であるため、経営者の恣意性が混 入する可能性がある、と指摘している。 2.3 日本の制度導入後の分析 日本のマネジメント・アプローチ導入後の先行研究は、張(2012)、渡辺(2013)、渡辺 (2015)がある。張(2012)は、調査対象企業(1,079 社)の 2010 年 3 月期と 2011 年 3 月 期それぞれの報告セグメント数の変化を分析した。その結果、単一セグメントしか開示し ていない企業が導入前は294 社と最も多かったが、導入後は 109 社まで減少し、約 6 割に 相当する176 社は複数セグメントを開示するようになった、とした。新基準導入後は、セ グメント数が減少した企業はいるものの、同じセグメント数を開示している企業が最も多 いと述べている。 一方、渡辺(2013)は、調査対象企業(196 社)の報告セグメントを製品・サービス別、 地域別、マトリクス型、その他、非開示の6 分類から分析した。報告セグメントの種類で 最も多かったのは製品・サービス別(81.1%)だが、非開示企業は導入前の 8 社(4.0%)か ら導入後は13 社(6.6%)と若干増加しており、マネジメント・アプローチ導入によるマイ ナス効果の方が強かった、と述べている。 また、渡辺(2015)は、調査対象企業(196 社)について、マネジメント・アプローチ施 行初年度と直近年度(2014 年 12 月 1 日現在における直近の決算期の有価証券報告書)を 比較した。渡辺(2015)は渡辺(2013)の継続調査で、報告セグメントを製品・サービス

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別、地域別、マトリクス型、その他、非開示の6 分類から分析している。報告セグメント の種類で最も多かったのは、製品・サービス別で156 社(79.6%)だが、導入初年度より 1 社減少したと述べた。また、非開示企業は導入初年度の 13 社から直近年度は 14 社と、 前回調査からさらに若干増加した、と述べている。 2.4 日本の制度定着後の分析 日本のマネジメント・アプローチ定着後の先行研究は、中野(2018)、宇田・沈(2020) がある。中野(2018)は、事業別セグメントの開示率が向上したものの、地域別利益の開 示の取り止めがみられると述べており、制度導入のマイナス面を指摘している。 一方、宇田・沈(2020)は、報告セグメントの変化を 1)セグメント増加型、2)セグメ ント分割型、3)セグメント減少型、4)セグメント合体型、5)地域別型、6)事業社型、 7)セグメント名変更型、8)セグメント変化なし、の 8 つに類型化した。また、2010 年と 2011 年では、単一セグメントは 916 社から 424 社まで減少したとした。 3 本調査研究 3.1 調査項目 先行研究を総括すると、セグメントの開示企業は減少と増加の双方の分析結果が存在し ている。このように、制度導入から10 年を経過したものの、マネジメント・アプローチの 制度導入による情報開示の改善に関する分析には、さらに補充すべき点があるとみること から、本研究にて、改めて検証したい。 本研究では、先行研究を踏まえつつ、先行研究にない視点の調査を加えて行いたいと考 えている。それは、1)導入直前(2010 年 3 月期)、導入 5 年後(2015 年 3 月期)、導入 10 年後(2020 年 3 月期)の 3 時点を比較することで、セグメントの情報開示の時系列変化を 調査する、2)任意開示として売上高に付随するセグメント利益、受注高、受注残高はどう 変化したかを別途調査する、3)個別企業の情報開示の変化にも着目し、制度面の課題を抽 出する、の3 点である。これらは先行研究では十分に調査しつくしたとは言い切れない視 点と考えている。 受注高、受注残高は設備投資産業で用いていることから、機械業界の100 社を対象に分 析する。一部企業では見込み生産がなされているものの、受注生産が主である。また、グ ローバル展開している企業が多く、セグメントの分類方法が事業別(製品・サービス別)、 所在地別、仕向地別の3 分類でおおむね共通しており、変化を捉えやすいことが機械業界 を対象とする理由である。

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3.2 報告セグメントの調査結果 まず、報告セグメントの導入状況を確認したい。報告セグメントは導入5 年後(2015 年 3 月期)、導入 10 年後(2020 年 3 月期)の 2 時点になる。なお、報告セグメントの開示と は、売上高とセグメント利益の双方を開示していることを意味する。事業別売上高のみを 開示している場合でも、事業別セグメント利益を非開示としている場合には、ここでは開 示なしとなる。100 社の報告セグメントを確認すると、以下の通りとなった。 2015 年 3 月期では、事業別が 66 社、所在地別が 23 社、開示なしが 11 社で、2020 年 3 月期では事業別が67 社、所在地別が 22 社、開示なしが 11 社で、マネジメント・アプロー チ導入後の報告セグメントの開示企業社数は89 社のまま、社数に変化はみられなかった。 非開示企業としている会社の理由の多くは、単一セグメントであることである。 表2 報告セグメントの開示状況 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 3.3 売上高の調査結果 次に、導入直前(2010 年 3 月期)、導入 5 年後(2015 年 3 月期)、導入 10 年後(2020 年 3 月期)の 3 時点を 100 社の売上高セグメントから分析すると、以下の通りとなった。 表3 売上高の非開示社数の変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 セグメント非開示企業は、3 時点共に 0 社であり、セグメント売上高情報の開示は当初 から進んでいるセクターといえる。開示社数を事業別(製品・サービス別)、所在地別、仕 向地別の3 種類のセグメント種類別でみると、事業別では、2010 年 3 月期から 2015 年 3 月期では97 社→93 社、所在地別では 73 社→28 社、仕向地別では 93 社→88 社と、社数は 導入後 定着後 2015年3月期 2020年3月期 事業別 66 67 所在地別 23 22 なし 11 11 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 種類数 0 0 0 増減 0 0 0 売上高

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いずれも減少した。特に大きく減少したのは所在地別で、2010 年 3 月期では事業別と所在 地別の双方を開示していた企業が事業別のみにする動きが多くみられた。2020 年 3 月期 は、2015 年 3 月期に比べ、所在地別はさらに減少したが、2 社程度であり、制度導入が所 在地別の減少に大きく影響していることがうかがえる。背景としては、制度改正として、 報告セグメントとして1 種類のセグメントを開示すれば、所在地別セグメントの開示は制 度上必須ではなくなったためと考えられる。 表4 売上高の開示社数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 表5 売上高の開示セグメント数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 3.4 セグメント利益の調査結果 次に、セグメント利益を分析する。3 種類のセグメント種類別でみると、事業別では、 2010 年 3 月期から 2015 年 3 月期では 67 社→68 社、所在地別では 73 社→28 社と、売上高 同様、所在地別は大幅に減少したが、事業別は若干増加した。 表6 セグメント利益の非開示社数の変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 97 93 93 所在地別 73 28 26 仕向地別 93 88 90 売上高 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 3.55 3.30 3.32 所在地別 2.77 1.13 1.05 仕向地別 3.94 4.24 4.39 売上高 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 種類数 9 10 11 増減 0 1 2 利益

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表7 セグメント利益の開示社数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 表8 セグメント利益の開示セグメント数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 3.5 受注高の調査結果 次に、受注高を分析する。セグメント非開示企業は、制度導入直前の2010 年 3 月期の段 階で100 社中 32 社だった。売上高は 0 社、セグメント利益は 9 社であるため、売上高やセ グメント利益ほど開示は進んでいないが、背景としては、見込み生産であるとしている会 社が20 社含まれているためである。 受注高の開示社数を3 種類のセグメント種類別でみると、事業別では、2010 年 3 月期か ら2015 年 3 月期では 68 社→58 社と減少したが、所在地別では 2 社→15 社と増加した。 事業別セグメントと所在地別セグメント双方を従来、売上高で開示していた企業が、制 度改正で報告セグメントとして所在地別セグメントを選択した結果、受注高も同様の開示 方法に合わせる変更を行ったことが背景と考えられる。 表9 受注高の非開示社数の変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 67 68 69 所在地別 73 28 25 仕向地別 0 0 0 利益 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 2.33 2.33 2.35 所在地別 2.77 1.13 1.05 仕向地別 0.00 0.00 0.00 利益 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 種類数 32 31 31 増減 0 -1 -1 受注高

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表10 受注高の開示社数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 表11 受注高の開示セグメント数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 3.6 受注残高の調査結果 次に、受注残高を分析する。開示社数を3 種類のセグメント種類別でみると、事業別で は、2010 年 3 月期から 2015 年 3 月期では 66 社→55 社と減少したが、所在地別では 0 社 →15 社と増加した。仕向地別セグメントはまったく情報開示がなく、0 社である。 表12 受注残高の非開示社数の変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 表13 受注残高の開示社数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 68 58 58 所在地別 2 15 14 仕向地別 0 0 1 受注高 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 2.15 2.01 2.01 所在地別 0.08 0.56 0.56 仕向地別 0.00 0.00 0.06 受注高 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 種類数 34 33 34 増減 0 -1 0 受注残高 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 66 55 55 所在地別 0 15 14 仕向地別 0 0 0 受注残高

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受注残高では受注高と同様、所在地別セグメントの増加がみられた一方、事業別セグメ ントは減少がみられた。 表14 受注残高の開示セグメント数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 3.7 調査のまとめ 売上高、セグメント利益、受注高、受注残高の4 項目を 3 時点で機械業界の 100 社を調 べた結果、以下のことが分かった。 (1) 報告セグメントの非開示企業社数は、2015 年 3 月期、2020 年 3 月期共に 11 社で変化は みられない (2) 報告セグメントを非開示としている企業の非開示の理由は、「単一セグメントのため」 とする企業が多い (3) セグメント非開示企業は、売上高では 3 時点いずれも 0 社で、機械業界はセグメント情 報の開示が進んでいるセクターである (4) セグメント利益の非開示企業は 3 時点で 1 社ずつ増加した (5) 受注高、受注残高の非開示企業はセグメント利益以上に多い (6) 売上高、セグメント利益の開示社数は、事業別セグメントでは制度改正後は若干の増加 がみられた (7) 売上高、セグメント利益の開示社数は、所在地別セグメントでは制度改正後は大幅に減 少した (8) 受注高、受注残高の開示社数は、事業別セグメントでは減少し、売上高、セグメント利 益とは反対の動きが生じた (9) 受注高、受注残高の開示社数は、制度改正後に所在地別セグメントでは増加し、売上高、 セグメント利益と反対の動きが生じた 全体を総括すると、マネジメント・アプローチの導入によって改善したのは、売上高、 セグメント利益の事業別セグメントのごく一部と、受注高、受注残高の所在地別セグメン 導入直前 導入後 定着後 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 事業別 2.01 1.80 1.80 所在地別 0.00 0.55 0.55 仕向地別 0.00 0.00 0.00 受注残高

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トの一部で、情報開示が進んだ、とは言い難い結果となった。 売上高とセグメント利益、受注高と受注残高とで異なる動きが生じた背景は、売上高、 セグメント利益の報告セグメントでの選択は事業別セグメントが6 割強を占めたが、約 2 割を占める売上高、セグメント利益の報告セグメントを所在地別セグメントに選択した会 社は、受注高や受注残高もまた所在地別セグメントを選択した、という2 つの動きが生じ たためと考えられる。 以上の調査結果から、マネジメント・アプローチの導入で報告セグメントが定められた ことにより、受注高、受注残高の開示方法も影響を受けたことがうかがえる。 本調査研究を踏まえると、制度改正により、 (1) 多角化企業は事業別を報告セグメントとして選択し、所在地別セグメントの開示を取 り止めた (2) 専業企業は所在地別を報告セグメントとして選択し、受注高や受注残高を所在地別に 切り替えた (3) 一部企業は制度改正に関わらず、セグメント利益の開示を取り止め続けた とする動きが発生したものと考える。多角化企業が事業別を報告セグメントとして選択し、 所在地別セグメントの開示を取り止めた動きを「マトリックス型の開示の誤謬」と筆者は 呼ぶこととする。 多角化企業では、カンパニー制などの事業別組織で事業を管理することから、ある事業 の収益管理は徹底するが、所在地別では、同じ国や地域で複数の事業が存在する場合、そ の所在地の管理責任者はいないことから、収益管理が行き届かなくなる、というものであ る。例えば、中国であれば、事業別管理と、中国という所在地の管理の2 つの視点での管 理が必要だが、所在地の視点が軽視される、ということである。実際には、社内では継続 的に集計して対外的には非公表としている可能性はあるものの、本調査では、制度改正後 に所在地別セグメントの情報開示が45 社も減っている。 4 分析による問題点と可能性 4.1 事例からみるマネジメント・アプローチの問題点 これまでの分析を踏まえた上で、マネジメント・アプローチの問題点を事例から取り上 げたい。 マネジメント・アプローチは、企業の経営者が企業グループの一定単位(セグメント) ごとの業績評価や資源配分などの意思決定を行う際に用いる財務数値を報告セグメントと して開示する考え方である。個別企業の経営者の情報開示方針に依存することになる。外 部からみることのできる事象からは、「マトリックス型の開示の誤謬」という、多角化企業

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が事業別を報告セグメントとして選択し、所在地別セグメントの開示を取り止めた動きが 生じたと前項で指摘した。マネジメント・アプローチを制度として導入しているにも関わ らず、実際の社内で行われているマネジメント・アプローチが開示されていない恐れが、 情報開示上の課題としてあるとみている。具体的には、次のような問題点が考えられる。 4.2 同一業界内の比較が困難になる可能性 第一が、同一業界内の比較が困難になる可能性である。同じ業界で各社の業績比較をし ようとする場合に、情報開示の仕方が異なっていると、比較分析ができないことが起こり 得る。このような事態が起こる背景は、1)社内の意思決定のためのセグメントであること、 2)競合に情報を知られたくないこと、などが考えられる。100 社の中では、軸受(ベアリ ング)業界がその例として挙げられる。 軸受業界は、事業別セグメントの開示区分や、受注高、受注残高の情報開示が異なって いる。軸受同士の利益率を比較することは困難である。受注高および受注残高の開示をみ ると、主要4 社の情報開示により違いが出ており、軸受で受注高、受注残高を比較するこ とが難しいことが分かった。4 社の情報開示方針はまちまちであり、軸受業界として各社 の軸受の事業分析をすることは難しい。 表15 軸受業界の事業別セグメントの情報開示区分 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 表16 軸受業界の受注高、受注残高の情報開示 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成 4.3 見込み生産を理由とした受注高の非公表が残る可能性 第二が、見込み生産を理由とした受注高の非公表が残る可能性である。100 社の中では、 工作機械業界がその例として挙げられる。工作機械業界では、業界団体である日本工作機 械工業会が毎月10 日前後に業界の月次受注高を公表しており、その翌朝、日刊工業新聞に て、主要7 社が各自の月次受注高を公表している。工作機械の業界団体が業界統計として 集計しているため、会員企業は受注高を集計し、業界団体に提出していることになる。し かし、各社の公表資料をみると、業界団体とは異なる開示が見受けられる。実態としては、 コード 社名 6471 日本精工 産業機械 自動車 その他 6472 NTN 産業機械 自動車 補修 6473 ジェイテクト 機械器具部品(ステアリング、駆動、軸受) 工作機械 6474 不二越 機械工具(工具、工作機械、ロボット) 部品(ベアリング、油圧機器) その他(特殊鋼、その他) 事業セグメント名 コード 社名 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 6471 日本精工 事業別受注高、受注残高を開示 非開示 非開示 6472 NTN 事業別受注高、受注残高を開示 所在地別受注高、受注残高を開示 所在地別受注高、受注残高を開示 6473 ジェイテクト 工作機械のみ開示 工作機械のみ開示 工作機械のみ開示 6474 不二越 事業別受注高、受注残高を開示 事業別受注高、受注残高を開示 事業別受注高、受注残高を開示

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経営者は受注高に基づいた経営判断をしているにもかかわらず、制度開示では非開示とし ている可能性を否定できない。 表17 工作機械業界の受注開示状況 出所:有価証券報告書、決算説明資料、日刊工業新聞等を基に筆者作成 4.4 単一事業のセグメント利益の非公表が残る可能性 第三が、単一事業のセグメント利益の非公表が残る可能性である。100 社の事業別セグ メントの開示企業数では、売上高とセグメント利益とでは20 社以上の乖離がみられる。売 上高では事業別セグメントを開示しているが、セグメント利益では非開示としている企業 が20 社以上存在している。セグメント利益を非公開としている企業に最も見受けられるの は、単一事業であることを理由とした非開示である。 100 社の中の例としては、機械工具業界がある。主要プレイヤーとしては、オーエスジー (6136 東 1)、ユニオンツール(6278 東 1)、日進工具(6157 東 1)などがあり、いずれ もエンドミルという機械工具を製造し、エンドミルの売上高は開示しているが、利益は非 開示としている。 4.5 所在地別セグメントを作成しても非開示とする可能性 第四が、所在地別セグメントを作成しても非開示とする可能性である。製造業の場合、 内部管理上のセグメント構成としては、子会社別が基本である。理由としては、事業別(製 品・サービス別)や地域別に子会社を設立して事業展開するためである。 専業(単一の製品・サービス)の会社の場合には、所在地別で管理することになる。事 業別に区分けする必要性が低いためである。多角化企業(複数の製品・サービスを扱う会 社)の場合には、事業別で管理することになる。地域別の区分けもあるが、事業として評 価する必要があるためである。 一方、多角化企業では、事業別セグメントを選択するケースが多い傾向がある。事業別 で開示しているため、所在地別では作成していても、非開示とする経営判断が可能である。 マネジメント・アプローチ上、社内判断としては、所在地別利益を参考材料にしていても、 対外的には開示を止めている可能性がある。 理由としては、1)事業別組織の場合、所在地別の管理責任者がいない、2)所在地別の コード 社名 2010年3月期 2015年3月期 2020年3月期 備考 6101 ツガミ 見込み生産のため 非開示 見込み生産のため 非開示 見込み生産のため 非開示 業界新聞に月次受注高 を公表、矛盾 7718 スター精密 見込み生産のため 非開示 見込み生産のため 非開示 見込み生産のため 非開示 決算説明資料に受注台数 を公表、矛盾 6141 ソディック 見込み生産のため 非開示 事業別受注高、 受注残高を開示 事業別受注高、 受注残高を開示 決算説明資料に受注台数 を公表

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開示は、子会社別の業績をそのまま開示する形に近いため、社内管理に止めておきたい、 との心理が働きやすい、などが考えられる。したがって、マネジメント・アプローチ上は 活用しているのに、非開示としている可能性が否定できない。 4.6 有価証券表報告書での実績値開示で外部評価に遅れが生じる可能性 第五が、有価証券報告書での実績値開示で外部評価に遅れが生じる可能性である。上場 企業の公表の順序としては、決算短信を決算発表時に公表した後、第1 四半期から第 3 四 半期では四半期報告書を公表し、第4 四半期では有価証券報告書を公表する。 有価証券報告書で初めて受注高、受注残高の実績値を掲載している会社は、2020 年 3 月 期時点では、受注高は23 社、受注残高は 25 社存在する。3 月期決算の会社の場合、決算 発表は4 月下旬~5 月中旬の間に行われるが、株主総会の実施時期は 6 月下旬が多いため、 6 月末にならないと受注高、受注残高の実績値が不明な状態が生じている。 5 総括 本調査研究では、主に次のことを明らかにした。先行研究では、マネジメント・アプロ ーチ導入により、プラス効果としては、単一セグメントの開示企業が減少したことが張 (2012)、宇田・沈(2020)によって示され、事業別セグメントの開示率が向上したことが 中野(2018)によって示された。反面、マイナス効果としては、非開示企業が若干増加し たことが渡辺(2013)、渡辺(2015)によって示され、地域別利益の開示の取り止めがみら れたことが中野(2018)によって示され、プラス面とマイナス面が存在していた。 地域別利益の開示の取り止めがみられたことは、多角化企業が事業別を報告セグメント として選択し、所在地別セグメントの開示を取り止めた「マトリックス型の開示の誤謬」 が発生したことによるものとみる。一方、今回、取り上げた機械業界100 社においては、 従来からセグメント別の情報開示が比較的進んでいるセクターで、マネジメント・アプロ ーチ導入前の段階で売上高のセグメント非開示企業は0 社だったこともあり、非開示企業 の減少はみられなかった。したがって、非開示企業の多いセクターで単一セグメントの開 示企業が減少したものと思われる。 今回取り上げた機械業界100 社においては、所在地別セグメントの非開示の数が最も多 かったことより、マネジメント・アプローチ導入によって、情報開示は後退したものと考 える。制度導入により、セグメント開示の選択を原則、1 つにすることとなったため、情報 開示の改善効果よりは、管理部門の作業負荷軽減効果の方が強く働いたものと考える。 また、マネジメント・アプローチの問題点としては、次の5 点を取り上げた。 (1)同一業界内の比較が困難になる可能性がある

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(2)見込み生産を理由とした受注高の非公表が残る可能性がある (3)単一事業のセグメント利益の非公表が残る可能性がある (4)所在地別セグメントを作成しても非開示とする可能性がある (5)有価証券表報告書での実績値開示で外部評価に遅れが生じる可能性がある マネジメント・アプローチは、企業の経営者が企業グループの一定単位(セグメント) ごとの業績評価や資源配分などの意思決定を行う際に用いる財務数値を報告セグメントと して開示する考え方である。個別企業の経営者の情報開示方針に依存することになるため、 これら5 点は、経営者自らが情報開示の改善に動かない限りは、制度上は問題点として残 ることになる。先行研究では、東原(2010)は、開示情報の充実が期待される一方、マネ ジメント・アプローチによるセグメント情報は、企業の内部情報に基づく情報であるため、 経営者の恣意性が混入する可能性がある、と指摘している。マネジメント・アプローチは、 経営者の判断に依存する制度であるため、5 点の問題点を制度として克服するには、別の 制度を創設する、または現行の制度を改正する必要があろう。 <参考文献>

Herrmann, D., and W. B. Thomas .2000. An analysis of segment disclosures under SFAS No. 131 and SFAS No.14, Accounting Horizons, Vol.14 No.3.

Street D. L., N. B. Nichols and J. Gray .2000. Segment disclosures under SFAS No.131: Has business segment reporting improved? , Accounting Horizons, Vol. 14 No. 3.

Berger, P. G. and R. Hann .2003. The Impact of SFAS No. 131 on Information and Monitoring, Journal of Accounting Research, Vol. 41 No.2.

円谷昭一. 2010.「事業セグメント情報にみるディスクロージャー制度の展望―IR を踏まえ た基準作成の必要性―」『プロネクサス総合研究所レポート』4 東原英子. 2010.「マネジメント・アプローチによるセグメント情報の有用性」『摂南大学経 営情報研究』18(1) 張櫻馨. 2012.「マネジメント・アプローチの適用がもたらす セグメント情報の変化」『横浜 市立大学論叢. 社会科学系列』63(1-3) 渡辺剛. 2013.「わが国におけるセグメント情報開示の実態と課題」『福岡大學商學論叢』58(3) 渡辺剛. 2015.「わが国におけるセグメント情報開示の現状と課題」『福岡大學商學論叢』59(4) 中野貴之. 2018.「セグメント情報の実態」『法政大学キャリアデザイン学部紀要』(15) 宇田有輝・沈政郁. 2020.「マネジメント・アプローチが報告セグメントと多角化指標に与え た影響」『京都産業大学経済学レビュー』(7) (投稿受理日:2020 年 9 月 30 日,掲載決定日:2020 年 10 月 22 日)

表 7  セグメント利益の開示社数の種類別変化  出所:有価証券報告書等を基に筆者作成  表 8  セグメント利益の開示セグメント数の種類別変化  出所:有価証券報告書等を基に筆者作成  3.5  受注高の調査結果    次に、受注高を分析する。セグメント非開示企業は、制度導入直前の 2010 年 3 月期の段 階で 100 社中 32 社だった。売上高は 0 社、セグメント利益は 9 社であるため、売上高やセ グメント利益ほど開示は進んでいないが、背景としては、見込み生産であるとしている会 社が 20 社
表 10  受注高の開示社数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成  表 11  受注高の開示セグメント数の種類別変化 出所:有価証券報告書等を基に筆者作成  3.6  受注残高の調査結果    次に、受注残高を分析する。開示社数を 3 種類のセグメント種類別でみると、事業別で は、2010 年 3 月期から 2015 年 3 月期では 66 社 →55 社と減少したが、所在地別では 0 社 →15 社と増加した。仕向地別セグメントはまったく情報開示がなく、0 社である。  表 12  受注残高

参照

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