ロータリ耕うん作業における農用トラクタの
排出ガス評価手法に関する基礎研究
(第 3 報)* ──機関トルクの負荷方法と排出ガス ──清水一史
*1†・西川 純
*1・松尾陽介
*1・手島 司
*1 要 旨 代表的なトラクタ作業の 1 つであるロータリ耕うん作業について,負荷実態に基づいた排出ガス評価 手法の研究を行った。本報では,動力計を用いて耕うん時の機関トルクを再現する負荷方法の違いによ る排出ガスを確認した。その結果,耕うん時の機関トルク成分のうち,その大きさと時間を考慮して階段 状に並べ替えて負荷するステップ負荷法では,機関トルクを非常に良好に再現できるため,より安定した 排出ガス測定が可能であることが分かった。また,ステップ負荷法を用いることで,複数のほ場で得た負 荷を合成したり,合成した負荷を時間短縮できる可能性があることを確認した。これにより,ロータリ耕 うん作業時の機関負荷を再現する平均的な負荷を作成できる見通しを得た。 [キーワード]農用トラクタ,ロータリ耕うん,機関トルク,動力計,負荷方法,合成,合成短縮,排出ガスFundamental Studies on Exhaust Gas Evaluation Techniques for
Agricultural Tractors Engaged in Rotary Tillage Work (Part 3)
* ──Exhaust Gas Measurement during Engine Torque Loading with a Dynamometer ──Kazufumi SHIMIZU*1†, Jun NISHIKAWA*1, Yosuke MATSUO*1, Tsukasa TESHIMA*1 Abstract
We studied methods of evaluating tractor exhaust emissions while engaged in rotary tillage, a common agricultural task in Japan. In this report, we investigated the exhaust gas emissions by modeling engine torque during rotary tillage in the field by applying loads with a dynamometer to a tractor PTO shaft. We were able to model the loading method by sorting and applying the system torque components in stepwise fashion, and confirmed that it was feasible to measure emitted gases using this method. It was also evident that the load obtained in two or more fields could be compounded, resulting in time savings. Our result dem-onstrate that it is possible to apply an average load that represent rotary tillage and other agricultural tasks.
[Keywords]agricultural tractor, rotary tillage, engine torque, dynamometer, loading method, synthesis, short synthesis, exhaust gas
I 緒 言
農用トラクタ(以下,トラクタ)など機関定格出力 19 kW 以上 560 kW 未満のディーゼル機関を搭載したディー ゼル特殊自動車に対する排出ガス規制においては, ディーゼル特殊自動車 8 モード法(JIS B 8008-4:2009.,
以下,D8 法)や Non-Road Transient Cycle 法(JIS B 8008-11:2008.,以下,NRTC 法)が試験方法として用い られている。しかしながら,D8 法や NRTC 法は,建設 機械なども含めたディーゼル特殊自動車全般を考慮した 方法であり,農業機械の作業実態を十分に反映した方法 にはなっていない。また,トラクタの研究においても, * 2012 年 9 月農業環境工学関連学会 2012 合同大会(宇都宮大学)にて一部講演 *1 会員,独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター(〒331-8537 埼玉県さいたま市北区日進町 1-40-2 TEL 048-654-7000)
Institute of Agricultural Machinery, Bio-oriented Technology Research Advancement Institution, National Agriculture and Food Research Organization, 1-40-2, Nisshin, Kita-ku, Saitama-shi, Saitama, 331-8537, Japan
稼働実態に基づいた排出ガス評価方法を検討する必要性 が示されている(積ら,2006)。 そこで本研究では,農業機械による作業のうち,代表 的なトラクタ作業の 1 つであるロータリ耕うん作業(以 下,耕うん)について,耕うん時の機関トルクを電気動 力計(以下,動力計)により再現,負荷し,稼働実態を 反映した排出ガスの測定,評価を室内試験で行う手法を 開発することを目的に種々の試験を行った。 第 1 報では,機関の機関回転速度と機関トルクの関係 を事前に把握することで機関回転速度から機関トルクを 推定できること,耕うん時の機関トルクを動力計により 良好に再現できること,耕うん時の機関トルクを動力計 により再現することで耕うん時の排出ガスを良好に測定 できる可能性があることを確認した(清水ら,2013a)。 第 2 報では,動力計を用いて,負荷方法による耕うん 時の機関トルクの再現性を確認した。その結果,耕うん 時の機関トルクをそのまま再現する負荷方法(以下,再 現負荷法)では,動力計により機関トルクを十分に再現 することはできず,再現する機関トルクや使用する機関, トラクタや動力計などによりトルクの再現性にバラツキ を生じるおそれがあると考えられた。一方,耕うん時の 機関トルク成分のうち,その大きさと時間を考慮して階 段状に並べ替えて再現させる負荷方法(以下,ステップ 負荷法)では,機関トルクを非常に良好に再現できるこ とを確認した(清水ら,2013b 審査中)。 本報では,第 2 報(清水ら,2013b)で得た,様々なほ 場における耕うん時の機関トルクをステップ負荷法,再 現負荷法,機関トルクの平均値を与える負荷方法(以下, 定負荷法)により再現して,その時の排出ガスを測定, 比較した。更に,ステップ負荷法を用いて,同一ほ場で の複数回試験や様々なほ場で得た機関トルクの合成や, 合成した負荷の時間短縮の可能性を確認するため,ス テップ負荷法及び再現負荷法により合成した負荷方法 (以下,ステップ負荷法(合成),再現負荷法(合成))と, ステップ負荷法(合成)を時間短縮した負荷方法(以下, ステップ負荷法(合成短縮))による排出ガスについても 測定,比較した。 II 試験方法 1.各負荷方法による排出ガス測定 様々なほ場における耕うん時の機関トルクを,第 2 報 (清水ら,2013b)で検討したステップ負荷法,そのまま 再現させる再現負荷法及び D8 法で使用されている定負 荷法により再現して,その時の排出ガスを測定,比較し, 動力計による機関トルクの再現性の良否,機関トルク成 分の大きさや時間の考慮の有無が排出ガスに及ぼす影響 を確認した。 供試トラクタは,第 1 報(清水ら,2013a)に仕様を記 載したトラクタを,供試燃料は,国内で一般的に使用さ れている JIS2 号軽油(以下,軽油)を用いた。 生物系特定産業技術研究支援センター(以下,生研セ ンター)の実験室内に供試トラクタを据え付け,トラク タの PTO 軸を動力計((株)明電舎 FC-R,吸収動力 55 kW)に接続した。 試験は,第 2 報(清水ら,2013b)において設定したほ 場,PTO 速度段,作業速度などの異なる 15 試験区で得 られた機関回転速度をもとに,第 2 報(清水ら,2013b) Ⅱ 1.(2)において算出した耕うん時の機関トルクに相当 する負荷(以下,機関負荷相当トルク)を,ステップ負 荷法,再現負荷法及び定負荷法により変換し,動力計で PTO 軸に負荷して行った。計測項目は,PTO トルク, PTO 回転速度,燃料消費量,吸入空気流量,一酸化炭素 (以下,CO),二酸化炭素(以下,CO2),酸素(以下, O2),窒素酸化物(NOx),炭化水素(以下,THC)の各 濃度及び粒子状物質(以下,PM)の捕集量とした。試験 区の内訳を表 1 に示す。 CO,CO2,O2,NOx,THC の各濃度は,自動車排出ガ ス測定装置((株)堀場製作所 MEXA-9400D)により,粒 子状物質(以下,PM)の捕集量は,PM を部分希釈式 PM 捕集装置((株)堀場製作所 MDLT-1302TM)に設置 した炭化フッ素被膜ガラス繊維フィルタ(以下,PM フィ ルタ)より捕集し,温度 23℃,湿度 50 % の PM 秤量室 内に 1 時間以上 PM フィルタを放置後,PM 秤量室内の 電子天秤(ザルトリウス・メカトロニクス(株)SE2-F) により,燃料消費量は,容積式の流量検出器((株)小野 測器 FP-2140H)と流量指示計((株)小野測器 DF-210A) により,吸入空気流量は,層流形空気流量計((株)山田 製作所 LFM-10)によりそれぞれ測定した。各排出ガス の排出量は吸入空気流量,燃料流量及び各排出ガスの濃 度あるいは PM 捕集量から,空気過剰率は,燃料質量流 量と吸入空気質量流量からそれぞれ計算により求めた。 また,PTO トルク及び PTO 回転速度は,動力計の計測 制御部により測定し,機関回転速度は,PTO 回転速度と 減速比から計算により求めた。 なお,PM 捕集量の測定にあたり,PM 捕集時間が短い と,試験前後の PM フィルタ質量の差が小さく,PM フィ ルタに含まれる水分量のわずかな差が相対的に大きく影 響し,捕集量にバラツキが生じるおそれがあるため,JIS B8008-1 には一定量以上の PM を捕集することが定め られている。本試験においても,JIS 規格(JIS B8008-1: 2009)に準拠した一定量以上の PM を捕集するため,測 定時間を 10 分以上とした。そのため,測定時間が 10 分 以上になるようステップ負荷法では,低負荷側から負荷 を与えるステップと高負荷側から負荷を与えるステップ (これを 1 セットとする)を,複数セット繰り返した。そ の他の負荷方法についても,ステップ負荷法と測定時間 が同じになるよう繰り返し負荷を与えた。 2.負荷の合成,時間短縮による排出ガス測定 前報において,同一ほ場で複数回実施して得た機関ト ルクや様々なほ場で得た機関トルクを負荷して,それら
の平均的な排出ガス排出量を得たい場合,周波数を考慮 しないステップ負荷法では,機関トルクの分布として負 荷するため,複数回分の機関トルクを合成し,平均的な トルク分布として時間短縮したものを負荷して測定でき る可能性があることを述べた(清水ら,2013b 審査中)。 そこで,様々なほ場における耕うん時の機関トルクを ステップ負荷法,再現負荷法により合成したステップ負 荷法(合成),再現負荷法(合成),更にステップ負荷法 (合成)を時間短縮したステップ負荷法(合成短縮)によ り,その時の排出ガスを測定,比較した。 図 1 にステップ負荷法(合成),ステップ負荷法(合成 短縮)及び再現負荷法(合成)それぞれの負荷方法を示 す。図 1 における再現負荷法(合成)は,仮の試験区 α と試験区 β をそのまま合成したもの,ステップ負荷法 (合成)は,仮の試験区 α と試験区 β を合成したものを 階段状に並べ替えたもの,ステップ負荷法(合成短縮) は,ステップ負荷法(合成)の時間を 1/2 に短縮したも のである。 試験区は,表 1 に示す宇都宮大学附属農場での試験区 D∼L で得た機関回転速度と第 1 報(清水ら,2013a)Ⅱ の 2.で得た回帰式を用いて求めた機関負荷相当トルク を,トルク変動幅はそのままで,平均トルクが同一(PTO トルク 200 Nm)となるよう調整した上で,表 2 のとお り合成したものとした。 試験は,表 2 の機関負荷相当トルクを,再現負荷法(合 成),ステップ負荷法(合成)及びステップ負荷法(合成 短縮)により変換し,動力計で PTO 軸に負荷して行っ た。上記Ⅱ 1.と同様,計測項目は,PTO トルク,PTO 回 転速度,燃料消費量,吸入空気流量,CO,CO2,O2,NOx,
THC の各濃度及び PM の捕集量とした。また,各排出 ガスの排出量は吸入空気流量,燃料流量及び各排出ガス の濃度あるいは PM 捕集量から,空気過剰率は,燃料質
Fig. 1 Loading method 図 1 負荷方法 B A 試験区 生研センター 鴻巣市農家
Table 1 Test breakdown
作業速度 (m/s) PTO 速度段 平均機関トルク※(Nm) 表 1 試験区の内訳 宇都宮大学 試験ほ場 試験場所 変動範囲機関トルク※(Nm) C ※機関回転速度を用いて推定した機関トルク 45.5 水田(既耕) 野菜畑(未耕) 1 64.6 水田(未耕) 0.33 46.7∼86.5 4 67.4 1 D F H J L N 水田(既耕) 76.4 81.8 43.7 77.5 75.0 1 4 1 1 4 4 45.8 35.5∼59.8 0.34 56.2∼87.5 0.46 35.5∼63.5 0.34 40.7∼87.0 0.14 61.4∼86.9 0.47 34.6∼61.3 0.34 63.1∼87.8 0.63 46.7∼88.6 0.14 48.0 0.63 1 E 51.9∼83.8 66.0 0.34 1 G 普通畑(未耕) 34.6∼66.6 63.8∼87.2 82.4 0.14 4 I 普通畑(未耕) 鳥取大学 35.5∼65.0 49.1 0.64 1 K 0.33 1 O 水田(未耕) 鳥取農総研 50.2∼85.3 68.4 0.34 1 M 48.4∼84.5 63.5
量流量と吸入空気質量流量からそれぞれ計算により求め た。また,PTO トルク及び PTO 回転速度は,動力計の 計測制御部により測定し,機関回転速度は,PTO 回転速 度と減速比から計算により求めた。 なお,ステップ負荷法(合成短縮)は,ステップ負荷 法(合成)の時間が 1/2 になるよう,隣り合う 2 つの時 系列データを平均して作成した。また,測定時間や負荷 の繰返しは,Ⅱ 1.と同様とした。 III 試験結果及び考察 1.各負荷方法による排出ガス 全 15 試験区で得た耕うん時トルクをステップ負荷法, 再現負荷法,定負荷法により負荷して排出ガスを測定し た結果を以下に示す。 NOx,THC,CO2,PM 及び CO の各排出量について は,平均機関トルクや空気過剰率などの異なる試験区に よる有意差(危険率 1 %)が認められ,各排出量へ著しく 影響を及ぼすことを確認した。 なお,各試験区における試験開始から終了までの燃料 消費量は,各負荷方法の平均±0.5 %,吸入空気流量は, 各負荷方法の平均±0.3 % の範囲内にあり,差はなかっ た。また,試験中の吸入空気流量の変動率は,ステップ 負荷法で平均 0.8 %(最小 0.3 %∼最大 1.2 %),再現負荷 法で平均 0.6 %(最小 0.2 %∼最大 0.9 %),定負荷法で平 均 0.2 %(最小 0.2 %∼最大 0.3 %)であった。 ⑴ NOx,THC 及び CO2 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法(以下,各 負荷方法)による NOx排出量の関係を図 2 に,各負荷方 法による THC 排出量の関係を図 3 に,各負荷方法によ る CO2排出量の関係を図 4 に,各負荷方法による NOx濃 度の最大値,最小値の関係をそれぞれ図 5,図 6 に示す。 ステップ負荷法に対する再現負荷法の排出ガス排出量 の差は,NOxで−2.858∼4.783 g/h,THC で−0.047∼ 0.059 g/h,CO2で−68.7∼308.3 g/h であった。また,ス テップ負荷法に対する定負荷法の排出ガス排出量の差 は,NOxで−0.707∼4.263 g/h,THC で−0.056∼0.066 g/h,CO2で−138.1∼147.2 g/h であった。 NOx排出量については,ステップ負荷法と定負荷法と の間に有意差(危険率 5 %)が認められ,ステップ負荷法 に比べ定負荷法が大きい傾向があった。 CO2排出量については,ステップ負荷法と再現負荷法 との間,再現負荷法と定負荷法との間に有意差(危険率 5 %)が認められ,再現負荷法は,他の負荷方法に比べ大 きい傾向があった。 しかし,各負荷方法による NOx及び CO2排出量の差 は非常に小さく,同程度と判断できた。 THC 排出量は,負荷方法の違いによる有意差が認め られなかった。 次に,NOx濃度を例にみると,濃度の最大値について は,全 15 試験区において,ステップ負荷法によるものが, 他の負荷方法によるものより高い値に,一方,濃度の最
Fig. 2 Relationship of NOxamount using the stepwise
loading method, the modeled loading method and the constant loading method
図 2 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による NOx排出量の関係
Fig. 3 Relationship of THC amount using the stepwise loading method, the modeled loading method and the constant load method
図 3 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による THC 排出量の関係
P Q R
Table 2 Test breakdown 表 2 試験区の内訳 S 合成する試験区 試験区 F+I+L D+G+J D+E+F G+H+I J+K+L T
小値については,ステップ負荷法によるものが,他の負 荷方法によるものより低い値になった。THC 及び CO2 濃度の最大値,最小値についても同様,濃度の最大値に ついては,ステップ負荷法によるものが最も高い値に, 濃度の最小値については,ステップ負荷法によるものが 最も低い値になった。これは,ステップ負荷法では,機 関トルクを非常に良好に再現できること,再現負荷法で は,再現するトルク振幅が小さくなること(清水ら, 2013b 審査中),定負荷法では,負荷の変動がないことに よるものと考えられた。このことから,トルクを非常に 良好に再現できるステップ負荷法は,再現負荷法や定負 荷法に比べ,負荷するトルクに応じた NOx,THC 及び CO2の各濃度を安定的に測定できると考えられた。 ⑵ PM 各負荷方法による PM 排出量の関係を図 7 に,空気過 剰率と各負荷方法による PM 排出量の関係を図 8 に示す。 PM 排出量については,ステップ負荷法と定負荷法と の間に有意差(危険率 1 %)が認められた。ステップ負
Fig. 4 Relationship of CO2amount using the stepwise
loading method, the modeled loading method and the constant loading method
図 4 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による CO2排出量の関係
Fig. 5 Relationship of maximum NOxdensity using the
stepwise loading method, the modeled loading method and the constant loading method 図 5 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による
NOx濃度〔最大値〕の関係
Fig. 6 Relationship of minimum NOxdensity using the
stepwise loading method, the modeled loading method and the constant loading method 図 6 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による
NOx濃度〔最小値〕の関係
Fig. 7 Relationship of PM amount using the stepwise loading method, the modeled loading method and the constant load method
図 7 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による PM 排出量の関係
荷法に対する定負荷法の PM 排出量の差は,−0.198∼ 0.061 g/h と,15 試験区中 13 試験区において,ステップ 負荷法より定負荷法の PM 排出量が少なく,特に高負荷 で空気過剰率が小さくなる試験区において,この差が顕 著であった。PM 排出量は,空気過剰率が 1 に近い領域 (試験したトラクタでは,空気過剰率 1.35 程度以下)で, 急激に増加する(清水ら,2013b 審査中)。このため,変 動するトルクを負荷する場合,負荷するトルク平均値よ りも高負荷側,すなわち空気過剰率が小さくなる領域の 方が,平均値よりも低負荷側で空気過剰率が大きくなる 領域に比べ,PM 排出量に及ぼす影響が大きいと考えら れる。このことから,空気過剰率がより小さくなるトル クを負荷できるステップ負荷法に比べ,その領域を負荷 しない定負荷法では,PM 排出量がより少なくなるおそ れがあり,特に高負荷で空気過剰率が 1 に近づく領域に おいては,PM 排出量の再現が非常に難しくなると考え られた。 また,ステップ負荷法に対する再現負荷法の PM 排出 量の差は,−0.106∼0.084 g/h と,15 試験区中 11 試験区 において,ステップ負荷法より再現負荷法の PM 排出量 が少なかった。ステップ負荷法と再現負荷法との間に有 意差は認められなかったが,再現負荷法では,機関トル クを安定的に再現することは難しく,再現するトルク振 幅が小さくなることが明らかになっている(清水ら, 2013b 審査中)。このため,再現負荷法では,定負荷法ほ どではないものの,トルクを非常に良好に負荷できるス テップ負荷法に比べ,PM 排出量が少なくなるおそれが あると推察された。 ⑶ CO 各負荷方法による CO 排出量の関係を図 9 に,各負荷 方法による CO 濃度の最大値の関係を図 10 に,空気過 剰率と各負荷方法による CO 濃度の最大値の関係を図 11 に示す。 ステップ負荷法に対する再現負荷法の CO 排出量の差 は,−0.348∼0.290 g/h,ステップ負荷法に対する定負荷 法の CO 排出量の差は,−0.382∼0.416 g/h であった。 前述の NOx,THC 及び CO2の各排出量に比べて,機関 トルクの負荷方法によるバラツキが若干大きい傾向に あったものの,CO 排出量については,負荷方法による 有意差は認められなかった。
Fig. 10 Relationship of maximum CO density using the stepwise loading method, the modeled load-ing method and the constant loadload-ing method 図 10 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法によ
る CO 濃度〔最大値〕の関係 Fig. 8 Relationship between excess air factor and PM
amount
図 8 空気過剰率と PM 排出量の関係
Fig. 9 Relationship of CO amount using the stepwise loading method, the modeled loading method and the constant loading method
図 9 ステップ負荷法と再現負荷法及び定負荷法による CO 排出量の関係
また,CO 濃度の最大値については,他の試験区に比 べて空気過剰率が小さくなる領域を負荷した試験区 H 及び試験区 N において,ステップ負荷法による濃度の 最大値が最も高い値となった。CO 濃度や排出量につい ても,PM 排出量と同様,空気過剰率が 1 に近い領域(試 験したトラクタでは,空気過剰率 1.20 程度以下)で,急 激に増加する(清水ら,2013b 審査中)。再現負荷法は再 現するトルク振幅が小さく,定負荷法は負荷変動がない ため,NOx,THC 及び CO2の各濃度と同様,ステップ負 荷法に比べ CO 濃度の最大値が低くなったと考えられ た。このため,空気過剰率がより 1 に近い領域において は,急激に排出量が変化する PM と同様に,ステップ負 荷法に比べ,再現負荷法や定負荷法では,CO 排出量(濃 度)が少なく(低く)なるおそれがあると推察された。 2.負荷の合成,時間短縮による排出ガス 排出ガス試験の結果を表 3 に示す。 NOx及び PM の各排出量については,試験区の違いに よる有意差(危険率 1 %)が,CO2排出量についても試 験区の違いによる有意差(危険率 5 %)が認められた。 このことから,平均トルクが同じ試験区であっても,負 荷変動の異なる試験区の違いにより,排出ガス排出量に 影響を及ぼすおそれがあることを確認できた。一方,負 荷方法の違いによる有意差は認められなかった。 ステップ負荷法(合成)に対する再現負荷法(合成) の排出ガス排出量の差は,CO で−0.172∼0.324 g/h, CO2で − 36. 2∼50. 8 g/h,THC で − 0. 051∼0. 042 g/h, NOxで−0.233∼0.863 g/h,PM で−0.019∼0.017 g/h と, ステップ負荷法(合成)及び再現負荷法(合成)におけ る CO,CO2,THC,NOx及び PM の各排出量に差はな かった。また,ステップ負荷法(合成)に対するステッ プ負荷法(合成短縮)の排出ガス排出量の差は,CO で −0.200∼0. 341 g/h,CO2で −58.1∼44. 0 g/h,THC で −0.036∼0. 054 g/h,NOxで −0.541∼0. 823 g/h,PM で −0.038∼0.030 g/h と,ステップ負荷法(合成)及びステッ プ負荷法(合成短縮)における CO,CO2,THC,NOx及 び PM の各排出量にも差はなく,ステップ負荷法(合成) 及びステップ負荷法(合成短縮)においても,排出ガス を良好に測定できた。このことから,ステップ負荷法を 用いることで,様々なほ場で得た負荷を合成したり,合 成した負荷を時間短縮できる可能性があることを確認で きた。また,様々なほ場で得た機関トルクをステップ負 荷法により平均化することで,ロータリ耕うん作業を代 表する負荷等を作成できる見通しを得た。
Fig. 11 Relationship between excess air factor and maximum CO density 図 11 空気過剰率と CO 濃度〔最大値〕の関係 7.197 7.521 CO 排出量 (g/h) P
Table 3 Results of exhaust gas test
THC 排出量 (g/h) CO2排出量 (g/h) NO(g/h)x排出量 表 3 排出ガス試験結果 Q 負荷方法 S 試験区 PM 排出量(g/h) 7.062 135.891 ステップ負荷法(合成) 再現負荷法(合成) ステップ負荷法(合成短縮) ステップ負荷法(合成) 14189.3 136.171 再現負荷法(合成) 0.812 1.080 ステップ負荷法(合成短縮) 14200.2 136.611 ステップ負荷法(合成短縮) ステップ負荷法(合成) 14187.2 7.173 7.145 7.068 7.247 7.310 6.940 再現負荷法(合成) 135.051 135.011 136.854 136.802 135.248 14176.7 14169.9 14140.6 14121.2 14082.7 14072.3 135.599 1.096 0.823 0.972 0.837 0.951 0.822 1.057 0.791 0.986 0.844 0.939 0.811 0.962 0.811 0.989 0.786 134.736 0.873 14125.9 7.345 ステップ負荷法(合成) 0.957 134.778 0.797 14104.5 7.062 再現負荷法(合成) R 0.971 0.977 134.470 0.811 14153.6 7.163 ステップ負荷法(合成短縮) 再現負荷法(合成) T 0.956 136.807 0.790 14140.9 6.969 ステップ負荷法(合成) 0.814 14071.8 7.186 ステップ負荷法(合成短縮) 1.006 135.051 0.828 14113.6 7.101 0.995 136.071
VI 摘 要 トラクタ作業の 1 つであるロータリ耕うん作業の機関 トルクを動力計により再現して,排出ガスを評価するた め,本報では,様々なほ場で得た機関トルクを,ステッ プ負荷法,再現負荷法及び定負荷法により再現して,排 出ガスを測定,比較した。更に,様々なほ場で得た機関 トルクの合成や時間短縮の可能性を確認するため,機関 トルクを再現負荷法(合成),ステップ負荷法(合成)及 びステップ負荷法(合成短縮)により再現して,その時 の排出ガスを測定,比較した。その結果,以下の結論を 得た。 1)トルクを非常に良好に負荷できるステップ負荷法は, 再現負荷法及び定負荷法と比べ,NOx,THC 及び CO2の各排出量に差はなかったが,各濃度の最大値 は高く,最小値は低くなることから,負荷するトルク に応じた濃度を測定できることを確認した。また, PM や CO の各排出量についても,特に排出量の変 化が大きい空気過剰率が 1 に近い領域において,ス テップ負荷法に比べ,再現するトルク振幅が小さく なる再現負荷法や負荷変動がない定負荷法では再現 が難しいことが明らかとなった。これにより,機関 トルクを非常に良好に再現できるステップ負荷法は, より安定した排出ガス測定が可能であることを確認 できた。 2)ステップ負荷法(合成),ステップ負荷法(合成短縮) においても排出ガスが同等であることが明らかと なった。ステップ負荷法を用いることで,様々なほ 場で得た負荷を合成したり,合成した負荷を時間短 縮できる可能性があることを確認した。また,様々 なほ場で得た機関トルクをステップ負荷法により平 均化することで,ロータリ耕うん作業を代表する負 荷等を作成できる見通しを得た。 References JIS B 8008-1:2009.往復動内燃機関─排気排出物測定─第 1 部: ガス状排出物及び粒子状排出物の台上測定 JIS B 8008-4:2009.往復動内燃機関─排気排出物測定─第 4 部: 各種用途の定常状態における試験サイクル JIS B 8008-11:2008.往復動内燃機関─排気排出物測定─第 11 部:オフロード機関のガス状排出物及び粒子状排出物の過 渡状態における台上測定 積 栄,杉浦泰郎,森本國夫,落合良治,重田一人,藤井桃子, 古谷 正,清水一史,2006.乗用トラクタの稼働実態に即し た排出ガス評価法に関する基礎研究.農業機械学会誌,68 (6), 130-137. 清水一史,西川 純,松尾陽介,手島 司,千葉大基,高橋弘行, 原野道生,2013.ロータリ耕うん作業における農用トラク タの排出ガス評価手法に関する基礎研究(第 1 報).農業機 械学会誌,75 (5), 326-333. 清水一史,西川 純,松尾陽介,手島 司,土師 健,原野道生, 2013.ロータリ耕うん作業における農用トラクタの排出ガ ス評価手法に関する基礎研究(第 2 報).農業機械学会誌, 75 (6), 403-409. (受付:2012 年 6 月 21 日・受理:2013 年 7 月 2 日・ 質問期限:2014 年 1 月 31 日)