44th Symposium on Human-Environment System HES44 in Nara, 5-6 Dec., 2020
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欧州における気候コミュニケーション-「生活の質」の観点から
木原浩貴
1), 松原斎樹
2)1)
京都府地球温暖化防止活動推進センター,
2)京都府立大学
Climate communication in Europe -
From the perspective of "quality of life"
Hirotaka KIHARA
1), Naoki MATSUBARA
2)1)Kyoto Center for Climate Actions, 2)Kyoto Prefectural University
Abstract: It is necessary to eliminate the "psychological climate paradox" to improve the acceptance of
a decarbonized society. According to a hearing survey of advanced areas in Europe, it was confirmed that climate variability measures are being implemented as means to improve the quality of life, and communication that forces residents to endure is intentionally avoided.
Key words: Psychological climate paradox, Climate communication, Quality of life, Europe
要旨:脱炭素社会の受容度向上のためには「心理的気候パラドックス」を解消する必要がある。欧州の脱炭素型 の地域づくりを進める地域のヒアリング調査を行ったところ,気候変動対策は生活の質を高めるための手段とし て行われており,住民に我慢を強いるコミュニケーションは,意図的に避けられていることが確認できた。 キーワード:心理的気候パラドックス,気候コミュニケーション,生活の質,欧州
1.はじめに
気候変動に関する科学的解明が進み,危機感が高ま ったとしても,人々の認識の中での気候変動問題の重 要性は高まらないと報告されている(Lorenzoni,et al,2006)。この原因は情報不足ではなく,様々な心理 的 障 壁 で あ る ( 例 え ば Pidgeon,2012; Newell et al,2010)。 Stoknes(2014)は,「心理的気候パラドックス」を 生み出す障壁を,①距離,②フレーミング,③認知的 不協和,④拒否,⑤アイデンティティの5つに整理し, 障壁に応じた気候コミュニケーションを行うことの重 要性を論じている。 国際的な対話型調査の結果によれば,気候変動対策 を「生活の質を高める」と回答した人の割合は,世界 平均では 66%であったのに対し,日本では 17%であっ た(図 1)。Stoknes の指摘の通り,認知的不協和が心 理的気候パラドックスの要因ならば,日本においては, 諸外国に比べて大きな障壁を抱えている可能性がある。 これは,江守(2020)も指摘するところである。 筆者らは,アンケート調査を行い,日本人の多くが 気候変動対策を「我慢を伴う個人の環境配慮行動」と 捉えていること,この認識が心理的な障壁となり,脱 炭素社会の支持が高まりにくくなっている可能性が高 いことなどを明らかにしてきた(木原ら, 2020)。 本研究では,この状況を改善するための気候コミュ ニケーションの方法を探るため,欧州の脱炭素社会づ くりの先進地地域を訪問し,その担い手の言葉から, 気候コミュニケーションの方法や意図を把握すること を試みた。 図1 気候変動対策の捉え方の国別比較(WWvies Climate and Energy2015 調査結果より作成)
2.方法
2015 年から 2019 年にかけて,ドイツ,スイス,オー ストリア,イタリア,ベルギーを訪問し,脱炭素型で 持続可能な地域づくりを進める先進的な自治体,自治 体公社,エネルギーエージェンシー等,計 71 ヶ所のヒ アリング調査を行った。調査で得られた担い手の言葉 から「気候変動対策と生活の質」「気候コミュニケーシ ョン」に関連する言葉を抽出し,考察を行った。G-1
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3.結果
以下に結果の一部を示す。 3.1 ウィーン市 市は脱炭素の目標を掲げて取組を進めており,人口 が急増しているが,総エネルギー消費量は減少してい る。コンパクトな街を維持し,地域熱供給を充実させ, 断熱改修により住宅の省エネルギー化を図っている。 景観保全地区でも太陽光発電の設置は可能であり,ソ ーラー屋根台帳で設置を後押ししている。市のスマー トシティプログラムを担当する Eva Dvorak 氏は「ウィ ーンが目指すのは生活の質が高い街であり,誰もが充 実した健康・福祉サービスを得られる必要がある。室 温を 22 度から 18 度に下げて我慢しろというのでは決 してなく,誰もが暖かい住宅に住めなければならない。 貧しい人も豊かな人も,同じ快適性を得られる街でな ければならない。ウィーンには移民が多い。そうした 人たちも担い手として巻き込んでスマートシティづく りのプロセスをすすめていく」と語っている。 3.2 アイゼンカッペル・フェラッハ村 オーストリア南部に位置するアイゼンカッペル・フ ェラッハ(Eisenkappel-Vellach)村は,人口は約 2,400 人,急峻な山に囲まれ,高速道路や鉄道網から離れた 交通の不便な場所に位置する。若者の流出や人口減少 が続いていたが,現在では,ヨーロッパにおける気候 変動対策の評価システムであるヨーロピアン・エナジ ー・アワードの上位 10 位以内になり,注目を集めてい る。2001 年から整備を開始した地域熱供給は,90%の 建物が接続しており,木質チップを燃料として給湯さ れている。各戸でボイラーを使っていた時期に比べて 村の空気がきれいになり,観光産業の競争力も向上し ている。既存の学校に大規模な断熱改修を施して「学 校センター」を整備し,使用しなくなった小学校にも 断熱・バリアフリー回収を施して高齢者住宅として活 用している。村営住宅の老朽化対策と同時に断熱改修 を行い,屋根は賃料をとって市民出資太陽光発電事業 に貸し出している。副村長の Gabriel Hribar 氏は,「所 得が多くない若者が村に留まって起業などにチャレン ジするためには,安い家賃で快適に過ごせる村営住宅 が重要」,「エネルギー対策は,村が生き残っていくた めの手段だ。ただし,当初から住民の理解があったわ けでは無かった。村営住宅の改修を実施し,生活の質 が劇的に改善して,少し理解を得られたかな」と語る。4.おわりに
今回調査対象とした先進的地域においては,気候変 動対策は生活の質を高めるための手段として使用され ており,生活の質への脅威とは認識されていなかった。 また,こうした地域の気候コミュニケーションは,公 共施設や公営住宅の脱炭素化によって生活の質の向上 のイメージを発信し,住民との議論によって地域社会 の未来像を描き,具体的な対策(断熱改修等)を促す ものといえる。もちろん,無駄を省くための情報発信 もなされているが,住民に我慢を強いる呼びかけは, 意図的に避けられている。 気候コミュニケーションにおいては,気候変動問題 の脅威について伝え,個人が実施できる気候変動対策 に関する情報を提供することが必要だが,それだけで は豊かな暮らしや地域社会のイメージができず,心理 的気候パラドックスを生み出す原因になりかねない。 一連の調査からは,脱炭素は前提としながらも,魅 力的な地域や暮らしのイメージを描き,共有し,実現 するプロセスそのものが,今後の気候コミュニケーシ ョンの重要な役割であると考えられる。5.文献
江守正多. 2020. 気候変動問題への「関心と行動」を問 い直す-専門家としてのコミュニケーションの経験 から, 環境情報科学, 49(2), 2/6 木原浩貴, 羽原康成, 松原斎樹. 2020, 情報提供に よる脱炭素社会の支持度の変化 -心理的気候パラ ドックスに着目して-, 人間と生活環境誌 27(1), 27/37Lorenzoni, I., & Pidgeon, N. F. 2006. Public views on climate change: European and USA perspectives. Climatic change, 77(1-2), 73/95.
Newell, B. R., & Pitman, A. J. 2010. The psychology of global warming: Improving the fit between the science and the message. Bulletin of the American Meteorological Society, 91(8), 1003/1014.
Pidgeon, N. 2012. Public understanding of, and attitudes to, climate change: UK and international perspectives and policy. Climate Policy, 12(1), 85/106.
Stoknes, P. E. 2014. Rethinking climate communications and the “psychological climate paradox”. Energy Research & Social Science, 1, 161-170.
<連絡先> 木原浩貴
京都市中京区西ノ京内畑町 41-3
京都府地球温暖化防止活動推進センター [email protected]