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再統一後のベルリン都心部における大規模市立公園の整備及び管理運営の方針と実態に関する調査報告 ベルリン市の政策の潮流理解とグライスドライエック公園の事例調査を基に

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* 正会員 兵庫県立大学環境人間学部(University of Hyogo) 1.調査の背景・目的 1-1.調査の背景 わが国の大都市都心部では、近年、大規模な緑やオープ ンスペースの検討と整備が進んでいる。この背景には、国 内外の都市間競争の激化に伴う都市的空間の質的向上の必 要性、防災や賑わい創出を含めた緑やオープンスペースの 利用価値・存在価値の再評価、成熟社会における利用者側 の都市的アメニティ充実化の期待、などが関係していると 考えられる。この際に、特に都市公園法に基づく都市公園 は緑とオープンスペースの核となると想定されるが、人口 や建物の密度が既に高い大都市都心部では、都市基幹公園 のような大規模な都市公園を新規に整備することはニーズ が高いとしても物理的にも経済的にも合意形成は容易では ない。さらに、開園後の管理運営段階においても、当該都 市公園の特殊性や地域的文脈の尊重と公園利用者の安全・ 安心の確保を前提に、いかにして多様化し続ける利用者ニ ーズを調整するのか、同時に中長期的視点を持ちランニン グコストを適正化していくかが問われる。 そのため、現実的な選択肢としては、「緑の基本計画」な どの上位計画を前提に、整備段階では、都心や隣接空間で の産業跡地等の大規模な低未利用地を公園利用に用途転換 すること、既存の都市公園を時代環境や利用者ニーズに合 わせてリノベーションすること、周囲や都市(圏)全体の 緑のネットワークと関連付けシナジー効果を高めること等 が都市計画的対応策といえる。また、管理運営段階では、 2003 年以降の指定管理者制度や 2017 年の都市公園法改正 時に創設された「公募設置管理制度(Park-PFI)」などに基 づく、民間活力による公園管理者の財政負担の軽減と都市 公園の質的環境及び公園利用者の利便性の向上を目指す創 造的仕組みの一層の活用が考えられる。 このような大都市都心部での都市公園の整備、管理運営 段階での新たな試みはわが国でも既に実践されており、 2016 年の『新たなステージに向けた緑とオープンスペース 政策の展開について』1)で提唱された基本的考え方(1) も反映されていると理解できる。もっとも、今後のわが国 の大都市都心部での緑やオープンスペースの質的・量的な 充実化が目指されることを所与の条件として、大規模な都 市公園に注目が集まり、いわゆる公民連携が全ての段階で 求められるとしても、その程度や連携のあり方には、俯瞰 的・即地的になお議論や検討が必要だと思われる。 1-2.対象地の選定・対象公園の定義 そこで、本稿では諸外国の動向に注目したい。具体的に は、本調査ではドイツのベルリン市を取り上げる。その選 定理由は、①2018 年末時点で 891.1km2に 364.5 万人が居住 するドイツ国内最大の人口規模の都市であること、②近年 の人口動態はわが国の大都市と類似し都心部や都心近接地 域への人口の再集中化による人口増加と人口の多様化が同 時並行で進行していること、③ベルリンの壁の跡地や壁沿 いの低未利用地の活用策として都心部でも大規模な公園利 用がみられること、④ベルリン市では 2018 年 8 月から市内 の都市緑地整備及び管理運営の基本方針である『ベルリン の都市の緑に対する憲章』の策定が開始されていること、 ⑤一連の状況下では大都市都心部での公園整備や管理運営 等に関連して様々な主体間の連携や動きが成果・課題と共 に顕在化していると想定されること、からである。 なお、ドイツにはわが国の都市公園法に相当する全国共 通的法令が存在しないため法制度上の明確な定義は困難で ある。一方で、ドイツ全土の都市計画の基本法である建設 法典(Baugesetzbuch)では、公園(Parkanlage)は法定都市 計画の一項目である緑地(Grünflächen)の具体例として記

再統一後のベルリン都心部における大規模市立公園の整備及び管理運営の方針と実態に関する調査報告

ベルリン市の政策の潮流理解とグライスドライエック公園の事例調査を基に

-Research report of the large-scale public parks in the center area of Berlin after the reunification

- Analysis of policy trends and case study of the Park am Gleisdreieck -

太田 尚孝*・新保 奈穂美** Naotaka Ota, Naomi Shimpo The purpose of this study is to clarify the policy trends in public parks in Berlin after the reunification, using the Park am Gleisdreieck as a case study. A comprehensive literature review, field research and interview surveys revealed the following three points: 1) In Berlin, the quantitative and qualitative enhancement of the public park was planned and implemented in stages. 2) In the Park am Gleisdreieck, continuous public participation and public sector collaboration have led to the environmental protection and multiple uses for diverse generations. 3) Even if it can be understood that the public sector is proactively involved in the development and management of public parks in Berlin, the context and idea is still unclear.

Keywords: Germany, Berlin, Park am Gleisdreieck, Park Management, Governance

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載されている。まず、当該自治体全域を対象とし、関係す る行政部局を拘束する土地利用計画(Flächennutzungsplan) では、公園が恒久クラインガルテン(Dauerkleingärten)、ス ポーツ・遊戯・キャンプ・水泳場(Sport-, Spiel-, Zelt- und Badeplätze)、霊園(Friedhöfe)と横並びで明記されている。 もっとも、個々人にも影響を与える地区詳細計画 (Bebauungsplan)では、「公的・私的な緑地 öffentlichen und privaten Grünflächen」の一例として同様に公園が位置づけら れている。いずれにしても、これ以上の詳細な言及はない。 そこで、本稿では冒頭の問題意識やわが国の都市公園と の法的・社会的・機能的な類似性もふまえ、本調査が対象 とするベルリン市の公園を「市立公園」と呼び、「公共の緑 及び余暇施設の保護、保全、開発のための法(以下、緑施 設法 Grünanlagengesetz)」の効力が及ぶ公園とする(2)。同 法は、1 つの自治体が州と同等の扱いを受ける都市州とし てのベルリン市(州)が州法として定めたものであり、対 象施設は、「全ての園芸上のデザインを施された施設、遊び 場、オープンスペース、森林に近いあるいは自然に近い用 地、広場及び小路」である。そのため厳密には公園以外の 形態もあるが、本調査内で実施したベルリン市及びベルリ ン緑の公社へのヒアリング調査では市立公園の管理運営に 関わる基本的規則と認識されていることが明らかになって いる。また、実態としても、「主に都市的空間の既成市街地 内において公共主体により計画的に整備され、自治体が整 備後に公共施設として指定し、公共の福祉の向上のために 一般開放型で利用される一定の空間境界を持つ緑地施設」 といえることから、適切な調査対象と考えられる。すなわ ち、ベルリン市内であっても立地や設置主体、目的が異な る自然公園や国立公園、あるいはクラインガルテン、コミ ュニティーガーデンなどは本稿の調査対象とはならない。 なお、2019 年末日時点では、市内全 12 区に 5,351ha(市域 全体の 6.0%)が緑施設法の対象施設であり、区面積に対す る緑施設法対象の面積割合は、首都機能や歴史的旧市街地 を有する都心のミッテ区が最大(13.4%)である2) 1-3.既往研究のレビュー ベルリンの市立公園に関する調査研究は、わが国の諸外 国における公園研究の一角を占める存在といえる。 古くは岩倉使節団がドイツ帝国の首都として急速に発展 するベルリンを訪問し、街路と同様に「公苑」が欧米都市 に共通する必要施設と報告3)するなど関心を寄せていたが、 現代的文脈では、1973 年に都市計画協会から日本の公園制 定 100 年記念事業として『ベルリンの公園』と題したドイ ツ人研究者及び実務家の論考を和訳した文献4)が起点と考 えられる。その後は、日本人研究者による西ベルリンの公 園緑地の現況報告5)、19 世紀前半に活躍し現在のベルリン の市立公園の礎を築いた宮廷造園家ペーター・ヨゼフ・レ ンネ6)、レンネの弟子として 19 世紀後半の造園行政を主導 したグスタフ・マイヤー7)、20 世紀初頭の大合併期の造園 行政及び造園教育を担ったエルヴィン・バルト8)といった 当時の計画思想を読み解く諸研究、従前とは異なる実用的 な衛生緑地として誕生したワイマール共和国期のフォルク スパルク(Volkspark)の概念理解9)が行われた。これらの 諸研究においては、東西分断期の東側への言及は少ないも のの、政治体制や社会経済環境の変化を反映する都市施設 として常に取り上げられていた。 だが、本研究の問題関心に通じる再統一後のベルリンの 市立公園に関しては、行政担当者からの概要的情報提供10) のみである。そのため、再統一後の都市全体の構造的変化 の中での市立公園を巡る政策的対応やマクロ・ミクロでの 客観的状況、基本的制度体系、具体的事例での成果や課題 などは、わが国では明らかにされていない。また、ドイツ の都市緑地政策の最新動向を扱った諸研究11)12)をみても ベルリンを含めた大都市の公園整備への関心は乏しい。 つまり、前節の選定理由に基づくわが国への示唆の可能 性に加えて、ニューヨークやロンドン、パリとも比較しう る欧米大都市の公園研究の一事例として、またこれまでの ベルリンの公園研究や近年のドイツの都市緑地政策研究を さらに発展させる意味でも、わが国における研究上の意義 は本調査にはあると言える。 1-4.調査の目的 以上の背景から、本調査は、冒頭のわが国の大都市都心 部での挑戦的課題や研究上の不足を念頭に置きつつ、マク ロ・ミクロの視点と公園施設の発展に関わる段階性に着目 し、再統一後のベルリン都心部の大規模市立公園の整備及 び管理運営の方針と実態を明らかにすることを目的とする。 1-5.調査の構成・手法 第 2 章では、分析の前提として再統一後のベルリンの市 立公園を巡る基本的枠組みを計画論と制度からマクロレベ ルで明らかにする。ここでは、再統一後の政策動向と現行 の管理運営の法制度の理解を主眼として、統計情報や法令 文、行政文書等の解読、2019 年 9 月実施のベルリン市担当 部局へのヒアリング調査(3)から把握する。 第 3 章では、再統一後のベルリン都心部の大規模市立公 園のあり方を考える場合に象徴的存在と理解できうるグラ イスドライエック公園(Park am Gleisdreieck)の事例調査か らミクロレベルの実態把握を行う。同公園を取り上げる選 定理由は、①立地環境は都心かつベルリンの壁に隣接しハ ード・ソフトの面で壁による影響を強く受けたと考えられ ること(図 1)、②従前は低未利用地であり、後背地は労働 者や外国人が集積するインナーシティであったが再統一後 のポツダム広場やこれに付随する巨大都市開発事業により 周辺環境が一変しており公園利用に関連して種々の課題を 抱えていると想像されること、③全体で約 32ha と広大であ り政策的にも第 2 章で示すように全市的なオープンスペー ス体系にも位置づけられていること、④ベルリン市が建築 主であり整備や管理運営にベルリン緑の公社(Grün Berlin GmbH)や市民団体が深く関与するなどベルリンの公園緑 地政策を理解する上でも重要であると考えられること、⑤ 供用開始から一定程度経過しておりその経緯や成果、課題 を体系的に理解するための調査が可能であったこと、から

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である。なお、事例調査では、行政文書や学術論文、会議 録、新聞記事、HP 情報等に基づく包括的文献調査と統計 情報の整理、2019 年 9 月実施のベルリン緑の公社の同公園 管理運営責任者へのヒアリング調査(4)、現地調査から、市 立公園としての整備及び管理運営の実態把握を行った。 図 1 ベルリン都心部とグライスドライエック公園の立地環境 出典:ベルリン市のオンライン航空写真(FIS-Broker)に加筆して作成 第 4 章では、調査のまとめと今後の調査課題を明示する。 まずは、各章で明らかになったことを整理し、調査のまと めとしてマクロ・ミクロの観点から再統一後のベルリンの 市立公園の現状と課題を論じる。最後に、ベルリンやドイ ツでの類似の調査がない中での基礎的調査としての本調査 の限界と課題を述べ、今後の調査課題を明示する。 2.再統一後のベルリンの市立公園に関わる政策・制度 2-1.再統一後の構造転換と市立公園 1989 年の壁の崩壊、1990 年のドイツ再統一、1991 年の ボンからベルリンへの遷都決議は、ベルリンの位置づけを 根本から変化させた(5)。これらは、戦前の欧州を代表する 400 万人を超える巨大都市の再来への期待となり、成長戦 略や投資につながった。だが、期待された人口成長は欧州 におけるベルリンの地政学的重要性の相対的低下や実体経 済の弱さ、オリンピック招致活動の頓挫から一瞬で終わり、 人口も 1993 年の 347.5 万人をピークに減少となった13) 市立公園に関わる全市的計画論では、再統一直後の都市 開発推進を企図する種々の空間整備提案を経て、1994 年 6 月に連邦自然保護法に基づく「景域及び種の保護プログラ ム(Landschafts- und Artenschutzprogramm)」として具体化さ れた。すなわち、ベルリンの壁沿いや工場跡地などに新た に公園施設を整備して形成される「都市内部の公園帯」と、 近郊レクリエーション地域(Naherholungsgebiet)の再整備 を含む「都市外縁部の公園帯」の二重の環状型公園帯 (Parkring)が構想された。このアイデアは、既存のクライ ンガルテンや霊園等とも関連付けることで一体的開発が期 待されており、その後も計画論の礎となった10) しかしながら、計画の実行主体である市の造園行政は、 1995 年頃から機能不全に陥っていた14)。この背景には東 西分断期のベルリンの特殊状況に伴う手厚い補助金がなく なり、予算の大幅な縮小化があった。加えて再統一後の大 規模な行政機構再編の中で西ベルリン市時代も続いていた 都市全体を管轄する自立的なベルリン伝統の造園行政組織 も解体された14)。結果的に、予算が減り細かく縦割り化さ れた行政体の中で人材育成も不足し、1990 年代後半から緑 地に関わる情報システム体系(GRIS)が段階的に整備され ても、市全体でも区行政レベルでも市民からの要望や苦情 に直接応えることが困難になった14)。そのため、従前の造 園担当部局が担っていた業務は他機関に委ねられ始めた 15)。市レベルでは、1985 年の連邦庭園博覧会(BUGA) の運営会社を母体とし、市が 100%出資する形で 1996 年に 設立されたベルリン緑の公社が全市的観点から重要な大規 模市立公園の整備や管理運営を引き受け始めた。区レベル でも管轄する市立公園の清掃等を外注することとなった。 2-2.成長都市への変貌と市立公園 ベルリンの市立公園は、ベルリンの社会経済環境の変化 に合わせて、21 世紀に入っても目まぐるしく変化した。 まず、2000 年策定の『都市発展構想(StEK 2020)』では 新規開発よりもストック活用や維持管理、既存施設の連携 が重視された16)。その一方で、ベルリン市全体では 1990 年代後半の人口減少とは異なり 2000 年代から大学や創造 産業の拠点、生活費の安さなどから人口増加が顕著になっ た。この人口の量的増加と共に、国際的な都市間競争や職 住近接の多目的な都市的街区への期待、地球環境問題への 対応、多様な居住者の社会的統合などから、ベルリン市で は他の大都市と同じように単に短期的な経済的価値ではな く、より戦略的に公園整備を行う必要性が高まった17)。例 えば、都市の成長傾向に対応するため、2011 年の『ベルリ ン都市景域戦略(Strategie Stadtlandschaft Berlin)』では、「美

しい都市」「創造的ランドスケープ」「都市的自然環境」の 基本方針が掲げられた。そして、短期的目標年として 2017 年の国際庭園博覧会(IGA)(6)に向けた成長時代に相応し い都市緑地整備が宣言された18) 再統一後から 21 世紀初頭のベルリン市におけるマクロ 的な土地利用動態では、1991 年から 2010 年までに全体で は 3,835ha が新規・用途転換問わず開発されたが、既成市 街地内の緑地の増減は-22ha であった19)。同期間の郊外 部への新市街地型の土地利用が 392ha であったことからも 再統一後のベルリンでは相当程度の市街地拡大が生じてい た。この意味で、2011 年以降にグライスドライエック公園 が都心部において再統一後初となる総面積 32ha の大規模 市立公園として誕生したことは、ベルリン市にとって大き な意味を持っていたといえる。 いずれにしても、全体に影響を与える大規模市立公園に 関しては、2016 年末の「景域及び種の保護プログラム」の 中で計画的に整備されつつあることが報告された(図 2)。 つまり、2 重の環状型公園帯とティアガルテン(約 210ha) を中心点とした東西南北の緑の軸(Grünzug)が今や都市全 体の骨格的存在といえる「ベルリン・オープンスペース体 系(Berliner Freiraumsystem)」を形成していた。

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図 2 ベルリン・オープンスペース体系(2016 年時点) 出典:参考文献20)P.96 を基に作成 もっとも、数多くの市立公園の維持管理を担う区行政で は、関連予算は 2000 年代に入っても増加せず、専門知識を 持つ職員数も公園内の保全計画に対する戦略性も乏しいこ とが指摘されていた21)。この中で、2016 年末に市は全市 的観点から市立公園を含めた緑地で必要とされる樹木や芝 生等の保全水準指針22)を示した。これにより、多様なベ ルリンの緑に合わせて種類や規模、季節等にも配慮した形 で剪定や養生の周期が明確化され、GIS も活用した緑の保 全を誰もが行えることが期待された23) 2-3.新たな市立公園像の模索 ベルリンの人口成長はさらに加速し、実績値として 2008 年から 2017 年に約 35 万人増加(+10.4%)し、特に首都機 能や旧市街地を含むミッテ区、プレンツラウアー・ベルク など再統一後に都市更新事業が進んだパンコウ区で顕著で あった(図 3)。今後の人口予測でも、人口の高齢化は一定 程度は進展するものの都心とその周辺部での人口増加が続 き、中位推計でも 2030 年には 382.8 万人に達する24)。そ のため、2019 年 8 月に更新された居住に関わる『都市発展 構想(StEP Wohnen 2030)』では 2030 年までに 19.4 万戸を 既成市街地を中心に供給されることが目標値となった25) 図 3 ベルリン市内の人口変動(2008 年~2017 年) 出典:参考文献26)P.24 を基に作成 この中で、ベルリン市では 2020 年 4 月に既存の個別計画 の上位に置かれる政治的宣言として、2030 年までの緑空間 の整備方針『ベルリンの都市の緑に対する憲章(Charta für das Berliner Stadtgrün)』を公表した27)。同憲章では、数値 目標と共に 2030 年までに目指される市立公園像も明記さ れた。つまり、市が保有する大小様々な緑地施設に関連し て、全市民が半径 500m 以内に住宅に近接した緑(6 ㎡/人) に達することができ、市街地に近接したより大規模な緑(7 ㎡/人)には半径 1,000m 以内とされた(7)。新規都市開発を 行う場合にも、上記の基準と同等の緑地への近接性を考慮 に入れることや、より戦略的で効率的な緑地の維持管理方 法の検討も明記された。質的には、市立公園には全ての利 用者が容易に到達でき、多様な利用を可能にし、歴史性や 文化的価値を含めたデザイン性、ニーズに応じた多機能化 (スポーツ、自然体験、生物多様性等)と共に公園間の連 携を重視することが目標となった。憲章の『行動プログラ ム』でも、市立公園内のイベント実施に関わる統一的基準 の策定、違法薬物の密売問題等の問題解決のために現地滞 在型のパークマネージャー制度の恒常化、気候変動対応型 のパイロット事業の実施等の試みも明記された28)。他方、 市立公園の整備や管理運営は公民連携や市民の DIY 的活 動が一層推進されることが期待されつつも、民間主導の発 想はみられなかった。 2-4.緑施設法の概要と現状の課題・市民ニーズ 以上の経緯を経てベルリンでは近年、都市のさらなる成 長を見越して積極的かつ戦略的な市立公園の整備が行われ 始めているが、管理運営面で下支えするのは冒頭の本調査 の対象公園の定義で示した緑施設法である。 具体的には、緑施設法では「第 1 条 概念定義と効力」「第 2 条 公共物としての指定と廃止」「第 3 条 公共の緑及び余 暇施設の目録」とした後、第 4 条から第 7 条に施設利用規 定が設けられている(表 1)。なお、2016 年秋の行政機構改 革を経て、市立公園の担当官庁は市では環境・交通・気候 保護省(SenUVK)であるが、市が直轄的に関わるのはベ ルリン緑の公社が管理運営を担うグライスドライエック公 園を含めた主要 9 公園(8)のみである。その他数多くの市 立公園は原則、区行政の公園緑地担当課が管轄する。 表 1 緑施設法の主な規定内容 項目 具体的内容(本調査に関わる重要部分のみを抜粋) 4 条 保護、保全 及び開発 ・行政区は施設の規模や重要性に応じて当該公園の保全活動、あるいは保 全指針を立案する。 5 条 安全確保の 義務 ・施設の安全確保上の監督、建設、維持管理はベルリン市が義務を負うが、 利用に際しては個々人の自己責任となる。 6 条 施設の利用 ・利用者は植栽や設備に被害を与え、他の利用者に危害を加え、侵害して はならない(例:投てき、ペットの放し飼い、車両の走行)。 ・自転車、スケートボード、ボール遊び、水浴び、ボート、乗馬、バーベ キューなどの行為は、特別に指定された場所のみで行う。 ・区行政は、施設全体や施設の一部に対して、特定の利用種類や利用時間 の制限を行うことができる。 ・例外的に担当部局の許可により条件付きで認められる行為もある。 7 条 秩序に反す る行為 ・第6 条に規定された秩序に反する行為には、区の担当部局は最大で5,000 €を罰金として徴収することができる。 出典:緑施設法から作成

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近年のベルリンの市立公園の管理運営や利用に関しては、 現場からの課題も指摘されている。例えば、都心部等での イベント開催に関わる構造的課題である29)。今や都市マー ケティングともなっている多種多様なイベントが十分な事 前準備と事後配慮を欠いたまま実施されることで当該公園 だけではなく周辺環境にも悪影響(例:ゴミ処理、騒音、 渋滞等)を与えており、制度的にも緑施設法の第 6 条に基 づく例外的な利用許可手続きの煩雑さが場合によっては無 許可での施設利用につながっていると批判されている。そ の他にも、ミッテ区の担当助役は、造園部局の業務をアウ トソーシングする傾向が、区全体としてコスト削減にも区 行政の能力向上にもつながらないことを主張している30) 利用者や市民ニーズでは、前述の憲章策定の中で市民ア ンケート調査が 2018 年 10 月にオンライン形式で実施され た31)。サンプリング型の抽出方法ではないため代表性に欠 けるとしても、回答(N=709)の 94%が居住地の近くに公 園等の緑があることが「とても重要」としている。一方、 回答(N=707)の 57%が「生活圏内に十分な緑がない」、 居住地から近接する公園に関しては回答(N=632)の 59% が「清潔さが足りない」、48%が「十分に管理されていない」 とさらなる量的・質的充実化を求めている(9) 3.グライスドライエック公園の事例調査 3-1.施設の概要と歴史的経緯 ポツダム広場の南側に位置するグライスドライエック公 園は 4 つのエリアから構成される。2011 年 9 月から段階的 に供用開始が行われ、施設整備は全て完了している。同公 園は、24 時間開放型で入園料は不要である(図 4・図 5)。 図 4 グライスドライエック公園の主な設備 出典:参考文献32)33)を基に作成 歴史的には、グライスドライエック公園の周辺一帯は、 旧市街地や 17 世紀後半から格子型で計画的に建設された 市街地の外縁部であった。19 世紀以降になると、ベルリン の急激な都市発展に伴い同地にはポツダム及びアンハルト 方面の長距離鉄道駅が置かれた。戦前には、都市内鉄道や 地下鉄とも接続され地区名の語源でもある「鉄道路線の三 角形」として一大交通結節点となった。そのため、駅舎や 関連施設は空爆の対象となった。敗戦後の東西分断及び 1961 年のベルリンの壁の建設以降は、周囲を東独に囲まれ た西独の飛び地と化した西ベルリン側に組み込まれ、同地 の交通機能と賑わいは失われた。結果として、戦災や面的 整備を免れた鉄道施設は残存し、同時に自然発生的な植生 や生態系がみられ、その他のベルリンの壁沿いの都市的空 間と同じような独特の文化的魅力を秘めた土地となった。 図 5 グライスドライエック公園内の現状 出典:2019 年9 月の現地調査時に撮影 3-2.再統一後の整備プロセス 都心近接の広大な低未利用地を市立公園にするというア イデアは、1995 年に連邦庭園博覧会を同地で開催すること を念頭に 1990 年 10 月から翌年 4 月にかけて国内外のラン ドスケープアーキテクトのワークショップや展覧会の中で みられた34)。だが、2000 年の夏季オリンピック開催(10) や巨大都市開発事業を優先するベルリンでは連邦庭園博覧 会の優先度は低く、最終的に開催中止となった35)。その後 は、ポツダム広場の建設のために資材置き場となり、ある いは中央駅の建設とも関連する南北の長距離鉄道網の再編 事業時に合わせて地下での大規模土木工事が行われた。 この状況が一変するのは、2005 年 9 月にベルリン市都市 開発省、フリードリヒスハイン・クロイツベルク区、不動 産企業の Vivico Real Estate 社がグライスドライエックの都 市開発事業のための枠組み契約(Rahmenvertrag)を結んだ ことにあった。同契約は、ポツダム広場の建設事業に関わ る代替的措置であるが、1999 年に複数の既存市民組織や関 連団体が統合化されたグライスドライエック市民連合体 (Aktionsgemeinschaft Gleisdreieck)や区行政の反対活動、 透明性のある意思決定プロセス等により、事業者主導の開 発推進型ではない土地利用が決められた36)。この契約に関 連して、事業者側は総額 2,400 万€を支払うことになり、公 園整備につながる土地購入費や計画づくり、関連インフラ 施設を含めた整備費用の資金源となった37) 2005 年 12 月には、建築主でもあるベルリン市が主催者 となり、総額 14.5 万€の二段階型のランドスケープアイデ ア・実現コンペがオープンな形で実施された。86 名の参加

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者の中から、2006 年 7 月に最終的に選定されたのは、「緑 の休憩時間」をモットーに既存の地域資源を活用しながら 多目的利用が可能なデザインを提案したアトリエ Loidl で あった(11)。この際に特筆すべき試みとしてコンペと並行 して多面的かつ積極的な市民参加が行われた38)。参加は、 設計競技の前段階の 2005 年春の市民アンケート調査から 始まり、インターネット上でのフォーラム、まち歩き、ワ ークショップ、シンポジウムといった従来型の方法だけで はなく、「グライスドライエックの公園に…心が弾む」と名 付けられたメッセージキャンペーンによるイベント型の参 加手法も試みられた。さらに、市の都市開発行政の長やコ ンペに参加中の提案者とも市民が直接意見交換を可能にす る機会なども設けられ、関係者が立場を超えて一緒に新公 園の計画づくりを行った。この市民参加の経験が、その後 のより具体的な整備計画づくり期への継続的な市民や利用 者との協働関係の構築や、現在の管理運営の礎となった。 もっとも、計画内容がより詳細になるにつれ、市民や利 用者の望みやアトリエ Loidl の提案の全てが受け入れられ たわけではなく、周辺地域との一体性にも疑問が示された 39)。具体的には、市や区行政の行財政や他主体との合意形 成上の困難さから、東西公園間の架橋は最低限のものとな り、より管理がしやすく経済的コストを重視した芝生や施 設の整備となった。また、公園の東側のクロイツベルク区 と西側のシェーネベルク区では、前者が社会参画や多民族 で活気があるのに対し、後者は受け身的で貧困者や社会的 問題地区が存在するなど居住者コミュティが異なることか ら、新公園がその懸け橋になりうるのかが懸念された。 3-3.管理運営の仕組みと主体間協働 2008 年から市立公園としての公園整備事業が段階的に 開始され 2014 年まで続いた。その後は、公園整備の重点が ハード整備から管理運営に移行していった。 2014 年 12 月には、公園運営に関するあらゆるテーマを 議論し解決策を模索する利用者会議(Nutzer*innenbeirat) が 3 年任期で発足した。同会議は、10 名の市民、8 名の公 園内及び周辺地区の団体代表者、4 名の市や区行政等の公 的機関や実質的マネジメント業務を担うベルリン緑の公社 の代表者から構成された。このうち、10 名の市民代表者は、 16 歳以上でベルリンに居住していれば所属や年齢等を問 わず誰でも立候補することが可能であり、19 名の候補者の 中から立会演説会等を通して投票方式で選出された40)。も っとも、利用者会議は 2015 年 5 月の会議規約41)の序文に 明記されているように2007年1月からハード整備に合わせ て組織化された公民のプロジェクト実施協議体の発展的組 織と位置づけられていた。この点に関しては、同会議が完 全なボトムアップ型ではなく独立性に対する批判42)があ り、またその敷地形状からボトルネック公園と命名された 南側の整備では十分な市民参加が行われず従前の環境が侵 害されたことへの市民団体からの否定的見解43)もあった。 それでもなお、少なくとも公園の主要部分では計画からハ ード整備、管理運営に至るまで主体間連携が行われ、市民 参加も重視されていたと理解できる。 一方、ベルリン市から委託される形で公園の実務的な管 理運営を行うベルリン緑の公社では、「公園及び経営マネジ

メント Park- und Betriebsmanagement」をグライスドライエ ック公園にて展開することとなった。業務の柱は、マーケ ティングや利用者調査、利用者サービス、ハード整備、イ ベント管理であり、これらは緑の公社が管轄する他の大規 模市立公園にも共通する。グライスドライエック公園の固 有の内容としては、2011 年の東公園の開園に合わせて『公 園保全コンセプト(Pflegekonzept)』の策定があげられる44) 同コンセプトは、現在では公園全体に対する樹木や植生の 管理、生態系の保全、芝生の養生、関連施設の修繕等の基 本的指針に発展している45)。また、同公園を会場とする唯 一の長期間の大規模イベントである地元ラジオ局のサマー イベント(Radioeins Parkfest)が 2012 年から 10 日間程度で 東側の公園一帯で毎年実施されており、その運営も緑の公 社が担っている。より日常的な公園運営では、緑の公社は 利用者サービスの向上に資する内容(例:施設内の清掃や 施設修繕、売店やトイレ、子供用遊び場、コインロッカー の追加的設置、利用者会議の運営支援)が主である46)。公 園施設の管理運営にとって重要な治安や秩序に関わる事柄 に関しては、緑施設法の規定に基づき、市や区行政、警察 の任務とされる。なお、ベルリン緑の公社のグライスドラ イエック公園に関わる年間予算額(2019 年)は 125.9 万€ である47)。その内訳は、人件費が 12.3 万€(9.8%)、保守・ 保全費が 58.5 万€(46.5%)、運営費が 52.5 万€(41.7%)、 広報費が 2.6 万€(2.1%)となっている。 3-4.現状の評価・課題・展望 グライスドライエック公園は、2011 年 9 月の東側の開園 時にベルリン市のプレス記事48)に基づくと、都心近接の 多目的、かつ参加型で整備された新しいタイプの市立公園 であり、全市的観点からも南北の緑のネットワークの要素 としてその意義は大きかった。その後も、主に上記の観点 から 2015 年のドイツ・ランドスケープアーキテクチャ賞に 代表される数々の表彰を受け、建築批評家からもベルリン の「ラフで荒々しさ」を残しつつ現代的なニーズにも合致 しているためニューヨークのハイライン公園、コペンハー ゲンのスーパーキーレン公園と同等の「21 世紀の都市型公 園」と呼べる存在と評価された49)。都市計画分野からもド イツで近年注目を集めている総合的・分野横断型でプロセ ス重視の「統合的都市開発 Integrierte Stadtentwicklung」を都 市緑地整備の中で具現化した革新的事例50)、あるいは他の 大型都市開発事業にも参考になるようなプロセスに関連付 けられた類例のない市民参加手法として認識51)されるな ど、外部からの評価はきわめて高かった。 しかし、開園当初に将来的課題として懸念52)されてい た利用者数や注目度の増加に伴う不適切な公園利用の問題 がその後、顕在化した。ベルリン緑の公社の HP53)で公開 されている 2017 年から 2019 年末までの利用者会議(計 12 回)の議事録を確認すると、2017 年に東側の売店施設への

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不法侵入により 7,000€の被害が生じ、クラインガルテンや カフェにも同様の事件があり警察との協議が必要となった。 2018 年にはトイレが壊され、違法薬物の使用も確認された。 2019 年にも公園利用者が何者かに襲撃される事件やカフ ェやクラインガルテンへの不法侵入が続いた結果、西側の 売店施設が閉鎖に追い込まれるに至った。これらの犯罪行 為は、市内の 13 大規模市立公園の 2014 年 1 月から 2019 年 11 月までの統計資料54)からも読み取れる。同期間のグ ライスドライエック公園の犯罪件数は 4 番目に多い 919 件 (13 公園の合計:14,262 件)であるが、2019 年では 496 件と全体で 2 番目に多い。特に、同公園では「器物損壊、 ひったくり、侮辱的行為」が 413 件(83.3%)と 2014 年か ら 2018 年の計 111 件をはるかに上回っている。これに関連 して、ベルリン市からの提供資料からは現在同公園では年 間 20 万€から 25 万€が公園内の物的被害対応として必要と され、うち 5 万€が落書きの撤去費用と試算されている。他 方、利用者会議議事録からは、違法行為以外にもゴミ問題 の解決策の検討、自転車と歩行者の共存化、ドックラン施 設の整備が議題になっていることも読み取れた。 この中で今後の同公園を展望するには、公園管理の担い 手や周辺環境にも注視する必要がある。まず、利用者会議 に関しては、意義や可能性は認めつつも、より頻繁な会議 実施や予算も含めた透明性や正当性を有する会議運営の要 望も示されている55)。周辺環境では 2005 年の都心全体に 関わる「都心改造マスタープラン Planwerk Innenstadt」の公 園周辺の低未利用地を建築物により高密度化する提案が、 今や実現されつつある。例えば、2019 年末の時点で不動産 会社による Flottwell Living(270 戸)や Gleis Park(178 戸)、 住宅建設組合方式の Möckernkiez(471 戸)等の大型開発事 業が公園に接する形で誕生している。もっとも、これらは 分譲・賃貸問わず全て平均的所得以上の価格帯であり、建 築物として公共空間や他者に背を向けるデザインも含めて 否定的見解もみられる56)。また、地下鉄グライスドライエ ック駅周辺では、2025 年から2026 年の完成を目指して90m の超高層オフィス棟を含む 7 棟の大規模複合開発事業の Urbane Mitte am Gleisdreieck が民間資本で進められており、

同公園にも大きな影響を与えることが予測される(図 6)。

図 6 Urban Mitte am Gleisdreieck の開発事業

出典:参考文献57)58)を基に作成 現状の課題対応に関して、ベルリン緑の公社へのヒアリ ング調査からは、①公共施設としての市立公園では監視カ メラ設置や誰かを排除することは困難であり犯罪行為に対 する対処方法は限られ巡回強化や周辺地域とも連携しボト ムアップ型の間接的介入に限定されること、②ベルリンで は市立公園の管理運営はあくまで公の仕事と理解されてお り民間企業が主導するアイデアはなく制度上でも不可能で あること、③公園利用者の増加は今後も見込まれるがパー クライフを求めて周辺に移り住んで来た人達の中には想像 以上の公園利用者が既に存在し混雑や夜間の騒音等で既に 不満が高まっていること、④新規の住宅開発事業は完成間 もなく面的なジェントリフィケーションは現時点では生じ ていないこと、が明らかになった。 4.調査のまとめ・今後の調査課題 4-1.調査のまとめ 第 2 章では、再統一後のベルリンの市立公園に関わる基 本的枠組みをマクロレベルで明らかにした。計画論的潮流 では、1994 年の二重の公園帯構想を基盤として、人口動態 やベルリンの社会経済環境の変化に合わせながら拡充化と 実現化のために数々の政策や宣言が打ち出されたと理解で きる。この中で、都心部の大規模市立公園は、東西分断後 の新たなベルリンを創造するという役割をこえて、今や成 長都市となったベルリン市民の QOL や都市としての魅力 を向上させるために欠かせない存在といえる。もっとも制 度面では、緑施設法によって市立公園は一定の秩序は保た れているとしても、利用ニーズが高い市立公園などではそ の運用には課題もあった。加えて、計画や制度を担うため の行政組織の充実化や能力向上は常に問題視されていた。 今後は2020年4月の憲章の実行性が問われることに関連し て、公と民、市と区との連携のあり方が議論されると見込 まれる。その具体的な場として、グライスドライエック公 園を代表例に都心部の大規模市立公園があらためて注目さ れると考えられる。 第 3 章では、再統一後のベルリン都心部における大規模 市立公園の事例調査をグライスドライエック公園に即して 行った。同公園は、ベルリン市が直接的に関わり、規模や 立地条件、開発時期等からも多くの市民の関心を呼んだ。 計画段階から実質的な市民参加やコンペ方式、既存施設の 有効活用が試みられ、都心部での多目的な市立公園が実現 した。この際に、ベルリン市が継続的に公園整備を主導し、 潜在的利用者とも協調しながら取り組んだことは、総論と してその後の高評価や物理的な用途コンフリクトを抑制し たと考えられる。また、管理運営段階でも、再統一後に先 行事例がない中でのマネジメント発想は革新的であったと いえる。だが、現状では急増する違法行為への対応が求め られ、施設周辺の都市開発事業も含めて、新たな管理運営 の仕組みの検討と周辺環境との調和の段階に入っている。 すなわち、グライスドライエック公園は大都市都心部の大 規模市立公園として、整備段階だけではなく、管理運営段 階でも公共施設という性格を前提に、戦略性と創造的試み が今や必要とされていると理解できる。

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本稿が注目したベルリンは都市が東西に分断された歴史 性を有し、グライスドライエック公園もベルリンの壁との 近接性から特殊解であるとも理解できる。それでもなお、 都心部の低未利用地の公園利用や従前環境の文脈重視、主 体間協働と市民参加型の計画手法、管理運営上の困難性と 対策、周辺地域との一体的視点の必要性等は、わが国の大 都市都心部でも共通課題と思われる。また、規模や機能か ら考えると、グライスドライエック公園は日本の都市公園 の分類の中では、都市基幹公園の総合公園と比較可能な存 在ともいえる。このような認識の上で、ベルリンではグラ イスドライエック公園を含めて大規模市立公園の整備や管 理運営が公社方式のいわゆる業務委託で実践している。管 理運営上の課題はあるとしても公共主導であり続けること は、大都市都心部の都市公園では民間企業側にもメリット が多いことから積極的協働が都市公園経営の有力な選択肢 とされ、これがともすれば「正解」とみなされるわが国に は注目に値する。本稿ではベルリンが日本と異なる理由や 考え方を十分に調査できていないが、これらを明らかにし、 より実質的な各国との比較的視点の中でわが国の都市公園 の整備や管理運営方法の特徴が先進性や課題と共に評価さ れることが期待される。その上で、21 世紀の大都市におけ る緑とオープンスペースのあり方が議論され、持続可能な 大都市都心空間づくりを行うことが求められる。 4-2.今後の調査課題 今後は、英語圏で public park に相当するといえるドイツ の öffentliche Parkanlage の歴史的・現代的な概念整理や、ベ ルリン市の財政構造及び区レベルでの公園緑地行政の分析、 グライスドライエック公園周辺の地域コミュニティの時系 列的変化、あるいは利用者会議へのヒアリング調査が必要 である。また、グライスドライエック公園の事例を批判的 に理解するためにも、19 世紀にレンネにより整備された都 心部の大規模市立公園のティアガルテンや、2008 年に閉鎖 のテンペルホーフ空港跡地を利活用したテンペルホーファ ー・フェルド公園、その他の規模や立地、管理主体が異な る市立公園との比較調査も求められる。 【謝辞】 本調査は、公益財団法人大林財団2018 年度研究助成「ドイツにおける新 たな都市緑地整備プログラムの展開と計画的・非計画的緑地の最適解の解 明に基づくわが国への示唆」及びJSPS 科研費 JP20K04852「ベルリンの壁 跡地の空間利用と21 世紀のオープンスペース整備論に関する研究」の助成 を受けたものです。 【補注】 (1) 具体的には、「新たな時代の都市をつくる緑とオープンスペースの基本 的考え方」として、成熟化社会においては緑とオープンスペースの多 機能性の再認識と都市の特性に応じた発揮が必要であり、このために 重視すべき観点として「ストック効果をより高める」「民との連携を加 速する」「都市公園を一層柔軟に使いこなす」が掲げられている。 (2)ベルリン市が都市州としてベルリン州でもあることから、ベルリン市を ベルリン州、市立公園を州立公園とも表記することは当然可能である。 それでもなお、他の広域州とスケール感や日本の行政体系との相違も 含めて、日本の読み手の理解を優先し本稿ではベルリン市、市立公園 とする。また、緑施設法の正式名称は、Gesetz zum Schutz, zur Pflege und zur Entwicklung der öffentlichen Grün- und Erholungsanlagen である。

(3) ヒアリング調査は2019 年9 月13 日(金)9 時から10 時に行い、対象

者はベルリン市環境・交通・気候保護省自然保護及び都市緑地担当課 (Senatsverwaltung für Umwelt, Verkehr und Klimaschutz, Abteilung Naturschutz und Stadtgrün)の責任者である。

(4) ヒアリング調査は2019 年9 月12 日(木)14 時半から16 時に行った。 (5) 再統一直後の西ベルリンの人口は206.8 万人、東ベルリンは127.9 万人 と大きな差がみられたが、行政区域としては西側が4.8 万ha、東側が 4.0 万ha と大差がなかった。 (6)2017 年の国際庭園博覧会は、ドイツ連邦庭園博覧会協会の HP 情報 (https://www.bundesgartenschau.de/, 最終閲覧日:2020 年4 月9 日)に基 づけば、2017 年4 月から10 月まで旧東側のマルツァーン・ヘーラスド

ルフ区のテーマパーク型庭園施設「世界の庭園」(Gärten der Welt)を中

心に開催され、会期期間中に約200 万人の来場者数を数えた。 (7)ベルリン市が定期的に公表している『環境アトラス Umweltatlas』の2017 年時点の解説書に基づくと、「住宅に近接した wohnungsnah」とは概ね 徒歩5 分から10 分で達することができるあらゆるオープンスペースで ある。利用者はモビリティが乏しい子供や高齢者、何かしらのハンデ ィを有する人たち、あるいは短期的休憩を行う就業者が想定されてい る。この中で、緑地規模としては 0.5a 以上のものが指定されている。「市 街地に近接した siedlungsnah」とは、「住宅に近接した」ものを補完する 役割を持ち、半日ないし1 日中滞在することが可能なオープンスペー スである。緑地規模は10ha 以上とされ、50ha 以上では複数の区住民に とって重要な施設を含むものとなる。 (8)グライスドライエック公園以外には、空港跡地を公園利用するテンペル ホーファー・フェルド公園、補注(6)の「世界の庭園」、1985 年の西 ベルリンでの連邦庭園博覧会の会場であったブリッツ公園などである。 (9)利用者や市民の公園への関心と需要の高さ、管理水準への不満は2019 年5 月の二回目のオンライン・アンケート調査でも同様であった。 (10)しかしながら、ベルリンは1993 年9 月時点でオリンピック招致合戦に 敗退し、これが1990 年代後半のベルリンの衰退の一因にもなった。 (11)図4 のように4 つの公園施設で面積や供用開始時期に加えて、施設整 備や整備費用等は異なるが、共通して構想・計画は、アトリエ Loidl で あり、建設施工はBreimann Bruun Simons 社を中心とした連合体、PJ マ ネジメントはベルリン緑の公社・ベルリン緑の財団となっている。 【参考・引用文献】

※略記の正式名称は以下の通り。GBG=Grün Berlin GmbH、SSU= Senatsverwaltung für Stadtentwicklung und Umwelt、SUVK=Senatsverwaltung für Umwelt, Verkehr und Klimaschutz、SS=Senatsverwaltung für

Stadtentwicklung、SSW=Senatsverwaltung für Stadtentwicklung und Wohnen。

1) 国土交通省(2016)『新たなステージに向けた緑とオープンスペース政

策の展開について(新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公

園等のあり方検討会最終とりまとめ)』

2)Öffentliche Grünflächen in Berlin - Übersicht der Objektarten in den Bezirken,

Stand: 31.12.2019 3) 田代順孝(2018)「都市が公園を生み、公園が都市を育てる(10)ベルリン 型パークダイナミズム、空地創出、公園緑地統合、成長制御政策融合」 『都市公園』(220), 82-87 4) 佐藤昌(1973)『ベルリンの公園』計画評論 (9), 財団法人都市計画協会 5) 勝野武彦(1981)「西ベルリンにおける公園緑地の現況と問題点」『造園 雑誌』45(2), 22-27 6) 赤坂信(1985)「ベルリンの都市造形における造園家 P. J. レンネの歴史 的役割り」『造園雑誌』49(5), 1-6 7) 白幡洋三郎(1983)「グスタフ・マイヤーとドイツ19 世紀中葉の造園界」 『造園雑誌』47(5), 13-18 8) 白幡洋三郎(1982)「エルヴィン・バルトの生涯とその造園上の業績」『造 園雑誌』46(5), 37-42 9) 田村和彦(2018)「フォルクスパルクの思想 : ベルリンの公園緑地をめ ぐって」『国際学研究』7(1), 3-14 10) Renker Ursula, 仲村昌弘[訳](1999) 「ヨーロッパにおける緑の首都--ベルリン」『都市緑化技術』(33), 6-10 11) 太田尚孝ほか(2020)「ドイツにおける緑空間の計画的整備の新展開 — 「未来の都市の緑」の創設背景と実践状況に注目して-」『兵庫県立大 学環境人間学部 研究報告』(22), 47-66 12) 大村謙二郎(2020)「ドイツにおける都市計画の変化と都市の緑」『ラ

(9)

ンドスケープ研究』84(1), 20-23

13)太田尚孝ほか (2010) 「再統一後のベルリンにおける都心改造に関する

研究 : 「都心改造マスタープラン Planwerk Innenstadt」を巡る議論とプ

ロジェクトの実現に注目して」『都市計画論文集』45(3), 109-110

14)Strauss, Stephan (2019) Gärtnern und Verwaltung: Niedergang einer grossen

Berliner Tradtion, In: Bodenschatz, Harald et.al. (Hrsg.), 100 Jahre Groß-Berlin / Band 3: Grünfrage und Stadtentwicklung, Lukas, Berlin, 201-205

15)Polinna, Cordelia (2019) Auf dem steinernen Weg zu Grünen Metropolen, In:

Bodenschatz, Harald et.al. (Hrsg.), 100 Jahre Groß-Berlin / Band 3: Grünfrage und Stadtentwicklung, Lukas, Berlin, 172-180

16)ベルリン市環境・交通・気候保護省の HP:Geschichte des Berliner

Stadtgrüns(https://www.berlin.de/senuvk/umwelt/stadtgruen/geschichte/de/stadt gruen/index.shtml) 2019 年12 月26 日最終閲覧

17)Nagel, Reiner (2014) Strategische Perspektiven für das städtische Grün, In:

DGGL (Hrsg.), Zukunft Stadtgrün, Callwey, München, 22-26

18)SSU (2016) Strategie Stadtlandschaft Berlin (Statusbericht 2015), Berrlin 19)SSU (2011 )Flächenentwicklung in Berlin 1991-2010-2030, Berlin 20)SSU (2016) Landschaftsprogramm Artenschutzprogramm Begründung und

Erläuterung 2016, Berlin

21)Faensen-Thiebes, Adreas (2013) Es fehlt nicht nur das Geld. Organisatorische,

fachliche und ökologische Mängel in der Berliner Grünflächenpflege, In: Stadt +Grün, Jg.62, Nr. 1, 25-29

22)SUVK (2017) Handbuch Gute Pflege, Berlin

23)Ruddeck, Karin et.al. (2017) Das "Handbuch Gute Pflege". Pflegestandards für

die Berliner Grünflächen und Freiflächen, In: Stadt + Grün, Jg.66, Nr. 6, 27-32

24)SSU et.al. (2016) Bevölkerungsprognose für Berlin und die Bezirke 2015-2030,

Berlin

25)SSW (2019) Stadtentwicklungsplan Wohnen 2030, Berlin 26)IBB Berlin (2019) IBB Wohnungsmarktbericht 2018, Berlin

27)SUVK (2020) Charta Stadtgrün: Eine Selbstverpflichtung des Landes Berlin,

Berlin

28)SUVK (2020) Handlungsprogramm Berliner Stadtgrün 2030, Berlin 29)Jung, Birte (2019) Park und Party? Ziele und Handlungsempfehlungen.

Nachhaltige Nutzung öffentlicher Grünflächen in Berlin., In: Stadt + Grün, Jg.68, Nr.6, 11-16

30)Weißler, Sabine (2019) Berliner Stadtreinigung entmüllt Grünflächen. Was

bedeutet das für die Bezirke? Ein Erfahrungsbericht. , In: Stadt + Grün, Jg.68, Nr.2, 15-18

31)Umfrage 1 zu Themen der Charta für das Berliner Stadtgrün

(https://mein.berlin.de/projects/umfrage-test/)2020 年6 月25 日最終閲覧

32)GBG (2015) Flyer Park am Gleisdreieck 2015, Berlin

33)ベルリン緑の公社の Übersicht Nord-Süd-Grünzug を示す地図

(https://gruen-berlin.de/sites/default/files/downloads/uebersichtsplan_nordsuedgr uenzug_150505.pdf)

34)Bundesgartenschau Berlin 1995 GmbH (1991) Gleisdreieck morgen. Sechs Ideen

für einen Park., Berlin

35)Berliner Abendblatt, Gewonnen haben die Gärten der Welt, abendblatt-berlin.de,

2016/10/01, 2020 年6 月25 日最終閲覧

36)山口美貴ほか(2006)「大規模都市開発における行政・企画提案主体・

市民による協議の実態と課題:再開発等促進区と都市計画契約を活用し

たB プランの協議プロセスの比較を通じて」『都市計画論文集』41(3),

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37)SS (2007) Park auf dem Gleisdreieck Wettbewerbsdokumentation, Berlin 38)Schröder, Thies et.al. (2006) Bürgerbeteiligung zum Park auf dem Gleisdreieck,

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39)Rada, Uwe (2009) Was vom Wunsch übrigblieb. Park auf dem Gleisdreieck

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40)https://gleisdreieck-blog.de/の19 Kandidaten für den neuen Nutzer_Innenbeirat

für den Park am Gleisdreieck und den Flaschenhalspark, 5.11.2014, 2020年6月 30 日最終閲覧

41)Beiratsvereinbarung, Nutzer_Innenbeirat Park am Gleisdreieck und

Flaschenhalspark, Stand: 08.05.2015

42)https://gleisdreieck-blog.de/のWahlen zum Nutzer_innenbeirat für Gleisdreieck-

und Flaschenhalspark, 19.10.2014, 2020 年6 月30 日最終閲覧

43)Pressemitteilung Aktionsgmeinschaft Gleisdreieck e.V., zur Eröffnung des

Flaschenhalsparks, 21.3.2014

44)GBG (2011) Park auf dem Gleisdreieck: Pflegekonzept zur Entwicklung der

Vegetationsflächen im Ostpark, Berlin

45)GBG (2015) Pflegekonzept / Monitoring zum Park auf dem Gleisdreieck zum

Park auf dem Gleisdreieck (Ost- und Westpark), Berlin

46)ベルリン緑の公社のHP(https://gruen-berlin.de/projekt/park-am-gleisdreieck)

2020 年6 月25 日最終閲覧

47)利用者会議の議事録(Nutzer*innenbeirat, Protokoll zur 1. Sitzung 2019 vom

18.02.2019)

48)Der Park am Gleisdreieck - Berlins neuer City-Park, 02.09.11, Pressemitteilung 49)Heilmeyer, Florian (2014) Stadtpark für das 21. Jahrhundert. Park am

Gleisdreieck Berlin, Werk Bauen + Wohnen, 101, 66-71

50)Danielzyk, Rainer et.al. (2017) Multifunktionales Grün in der integrierten

Stadtentwicklung. Planerische Ansätze, Instrumente und Beispiele, In: Geographische Rundschau, Jg.69, Nr.5, 24-30

51)Selle, Klaus (2015) Anmerkungen zur Zukunft der Bürgerbeteiligung, In:

Lichtenstein, Andrea et.al. (Hrsg.) Gleisdreieck Park Life Berlin, transcript, Bielefeld, 250-261

52)Sauerbrei, Carsten (2012) Grün statt Gleis. Park am Gleisdreieck, In: db, Jg.146,

Nr.3, 24-29

53)Beteiligungsmöglichkeiten Park am Gleisdreieck

(https://gruen-berlin.de/park-am-gleisdreieck/beteiligungsmoeglichkeiten) 2020 年6 月26 日最終閲覧

54)ベルリン市議会における2019 年11 月11 日のMarcel Luthe (FDP)議員か

らの質問に対する回答書(Drucksache 18 / 21 548)

55)https://gleisdreieck-blog.de/のRückblick auf 5 Jahre Nutzerbeirat – Vorschläge für

den zukünftigen Parkbeirat, 2.03.2020, 2020 年6 月30 日最終閲覧

56)Crone, Benedikt (2019) Wohnen am Gleisdreieck, In: Bauwelt, Jg.110, Nr. 9,

20-25

57)COPRO Projektentwicklung GmbH (2016) Glesdreieck Städtebauwettbewerb

2015, Berlin

58)Stumm, Alexander (2019) Urbane Mitte in Berlin, In: Bauwelt, Jg.110, Nr. 9,

図 6 Urban Mitte am Gleisdreieck の開発事業  出典:参考文献 57)58) を基に作成 現状の課題対応に関して、ベルリン緑の公社へのヒアリ ング調査からは、①公共施設としての市立公園では監視カ メラ設置や誰かを排除することは困難であり犯罪行為に対する対処方法は限られ巡回強化や周辺地域とも連携しボトムアップ型の間接的介入に限定されること、②ベルリンでは市立公園の管理運営はあくまで公の仕事と理解されており民間企業が主導するアイデアはなく制度上でも不可能であること、③公園利用者の増

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