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第39回発展途上国研究奨励賞の表彰について

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第39回発展途上国研究奨励賞の表彰について

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジア経済

59

3

ページ

91-93

発行年

2018-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00050587

(2)

091_第39回発展途上∼表彰.mcd Page 1 18/08/18 11:05 v5.51

第 39 回発展途上国研究奨励賞の表彰について

「発展途上国研究奨励賞」は発展途上国に関する社会科学およびその周辺分野の調査研究水準の 向上と研究奨励に資するために,アジア経済研究所が 1980 年に創設しました。 表彰の対象は,発展途上国の経済およびこれに関連する諸事情を調査または分析した著作とし, 次の①あるいは②に該当するものとします。 ①前年 1∼12 月の 1 年間に国内で公刊された日本語または英語による図書,雑誌論文,調査報告, 文献目録 ②前年 1∼12 月の 1 年間に海外で公刊された日本人による英文図書 2018 年度は各方面から推薦された 31 点を選考し,最終選考で下記の作品が第 39 回受賞作に選ば れました。表彰式は 7 月 2 日にアジア経済研究所において行われました。 〈受 賞 作〉 『国宝の政治史―「中国」の故宮とパンダ―』(東京大学出版会) 家永真幸(東京女子大学現代教養学部国際社会学科国際関係専攻准教授) 〈選 考 委 員〉 委員長:田中明彦(政策研究大学院大学学長),委員:上田元(一橋大学大学院社会学研究科教授),栗田 禎子(千葉大学文学部教授),高原明生(東京大学公共政策大学院院長),藤田幸一(京都大学東南アジア 地域研究研究所教授),深尾京司(アジア経済研究所所長) 〈最終選考対象作品〉 最終選考の対象となった作品は受賞作のほか,次の 1 点でした。 1.『権威主義体制と政治制度―「民主化」時代におけるエジプトの一党優位の実証分析―』(勁 草書房) 著者:今井真士(文教大学国際学部非常勤講師) 『アジア経済』LⅨ-3(2018.9) 91

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092_講評.mcd Page 2 18/08/18 11:07 v5.51 ●講 評●

家永真幸『国宝の政治史―「中国」の故宮とパンダ―』

高 原 明 生

国共内戦の結果,今は北京と台北に分かれて 保存され展示されている故宮の文物も,そして 日中国交正常化直後に上野動物園に贈られてき たパンダも,日本人には大変馴染みが深い。故 宮博物院の参観は,北京と台北を訪れる観光ツ アーの定番メニューであるし,中国と言えばパ ンダを思い浮かべる人も多いことだろう。『国 宝の政治史―「中国」の故宮とパンダ―』 (東京大学出版会)は,故宮の文物とパンダが国 宝と見なされるようになった政治力学に着目し, 中国の主権と国民統合をめぐる政治に,ユニー クな角度から光を当てた好著である。 本書の第 1 の特徴は,何と言っても,現在の 中国の分断状況が孕む複雑さを歴史的に解明す る上で,故宮文物とパンダを並べて分析の俎上 に載せた創意にある。これまで著者はパンダ外 交の専門家として名を馳せてきたが,今回の著 作においては更なる研鑽に基づく学術的な発展 が認められる。文物と動物が政治的なシンボル に祭り上げられ,利用されていくプロセスを分析 することを通して分断国家の政府間関係を考察 するという着眼は独創的で,魅力に富んでいる。 そして第 2 の特徴として,故宮文物とパンダ が国宝とされていく過程や,中台関係において 政治シンボルとして操作されるプロセスの歴史 的な検証がきわめて堅牢であり着実であるばか りではなく,平明でわかりやすいことが挙げら れる。著者は,先行研究を読み込み,各地に散 らばる史資料を丹念に掘り起こした。この作業 を通じて,緻密で説得力があり,かつ平易な議 論の展開に成功している。 ただ,その一方で,本書においてもう少し説 明があったらよいと思われる部分がないわけで はない。中台関係には経済や軍事などさまざま な側面がある。また,そこには「一つの中国」 など他のシンボルや概念も存在する。国宝とい うシンボルをめぐる政治が,そうした他の側面 や,他のシンボルや概念とどのようにダイナ ミックに相互作用したのかについては,必ずし も判然としない。また著者は終章において,そ うした政治史的な文脈とは別に,古い美術品の 破壊や動物の絶滅を心苦しく思う人間の価値観 こそが国宝を国宝たらしめてきた力学だという 趣旨のことを結論として述べている。その命題 は基本的には間違っていないのかもしれないが, 本書のまとめとしては,やや唐突な印象を与え る。 しかし,こうした問題の指摘は言わば望蜀の 嘆であり,文化の政治学の発展に重要な貢献を 行った本書の価値を大きく損なうものではない。 本書は,文物と動物が国宝とされ,分断国家間 の象徴的な政治争点を成してきた歴史的な事情 を丹念に検証した,独創的な労作であり,アジ ア経済研究所第 39 回発展途上国研究奨励賞に ふさわしい著作としてここに高く評価する次第 である。 (東京大学公共政策大学院院長) 92

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093_受賞のことば.mcd Page 1 18/08/27 13:06 v5.51

●受賞のことば―家永真幸

このたびは,由緒ある発展途上国研究奨励賞 に拙著をご選出たまわり,まことに身に余る光 栄です。選考委員,アジア経済研究所の先生方 をはじめ,ご関係者の皆様に心より感謝申し上 げます。 本書は,「故宮文物」と「パンダ」の政治利用 の歴史を論じたものです。これらに「中国」と いう国家を代表させる価値観は,実は大陸時代 の中華民国において形成され始めました。しか し,中華民国は 1949 年に台湾に移転する一方, 大陸には中華人民共和国が誕生したため,故宮 文物やパンダがいかなる「国」の宝なのかをめ ぐる解釈は,これまでの歴史のなかで複雑に交 錯してきました。本書はその歴史を調査するこ とで,「国宝を国宝たらしめてきた政治力学」を 明らかにし,ひいては「中国」の近代国家建設 を「対外関係」と「国民統合」の両面から通観 できるような視座の提示を目指しました。 本書の執筆過程で筆者に最も手応えがあった のは,中華民国の南京国民政府が 1930 年代後 半に至るまで,パンダにほとんど価値を見出し ていなかった史実を発掘した点です。その後, パンダは「外国人がありがたがっている」事態 への対応として,急速に中国を代表するシンボ ルに浮上していきます。その経緯からは,かつ ての清朝の宮殿であった北京の紫禁城に,中華 民国の博物館として「故宮博物院」が成立する 過程とも,多分に共通点が見出されました。 故宮文物もパンダも,それらを国家が囲い込 んで国外への「流出」を防ぐとともに,適切な 「管理」を施すということが,ある種の「文明国 標準」だと認識されました。そのことが背景と なり,両者は中華民国という国家のコレクショ ンに組み込まれていきます。両者はその後,冷 戦下での中国分断国家問題や,台湾の民主化・ 本土化過程のなかで,さまざまな政治的争点を 形成してきました。しかし,「それら美術品や 動物は適切な管理能力を持つ文明国によって排 他的に管理されるべきだ」という価値観は,い まだに台湾海峡両岸で共有されているように見 えます。近年,グローバル化にともないヒト・ モノ・カネ・情報の「越境」は活発化していま すが,地球を有限個の「文明国」によって切り 分ける思考法を私たちが乗り越えるには,まだ 時間がかかるのかもしれません。 本書では,故宮文物とパンダの共通性を強調 するあまり,とりわけ前者について多くの含蓄 を論じ漏らしてしまったのではないかという反 省もあります。また,「伝統の継承」と「文明国 標準の採用」の間でどのように折り合いをつけ るかという問題は,本書が扱った「国宝」形成 という狭い事例にとどまらず,もっと幅広い領 域で見られるものです。とりわけ,土地やモノ の「所有」や,政治における「民主」・「自由」 といった概念は,その重要な焦点であり続けて いるように思えます。これらの問題も射程に入 るところまで議論を高められるかどうかが,本 書の向後の課題となります。 略歴 1981 年 東京都生まれ 2004 年 東京大学教養学部卒業 東 京 医 科 歯 科 大 学 教 養 部 准 教 授 (2012∼18 年),東京大学大学院総合文 化研究科より博士(学術)取得(2015 年)を経て, 2018 年 4 月より 東京女子大学現代教養学部 准教授 主要著作 『パンダ外交』メディアファクトリー,2011 年。 「故宮博物院をめぐる戦後の両岸対立(1949-1966 年)」『日本台湾学会報』第 9 号,2007 年。 93

参照

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