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XバンドMP レーダによる地上吹雪の 定量的把握の可能性

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論 文

X バンド MP レーダによる地上吹雪の

定量的把握の可能性

大 宮

1*

,國 分 徹 哉

1, 2

,松 下 拓 樹

1

高 橋 丞 二

1

,松 澤

1 吹雪による被害を効果的に軽減するためには,その発生状況を面的かつリアルタイムに把握するこ とが望ましい.本研究では,高時空間分解能を有する X バンド MP レーダによる上空の観測データ から地上における吹雪の発生状況を定量的に把握することができるか,その可能性について検討した. まず,地上での降雪観測結果との比較によって,レーダ雨量から降雪強度を見積もるための補正係数 を提示した.次に,Dual ドップラー解析により上空の風向風速を求めた.求めた降雪強度と風向風 速から上空における飛雪流量を面的に推定し,地上での実測飛雪流量と比較した.その結果,落下中 の降雪粒子の風による移流を考慮することで,地上における飛雪流量の推定値と実測値の相関が向上 することが示された. キーワード:X バンド MP レーダ,DFIR,SPC,吹雪

Key words : X-band MP radar, Double Fence Intercomparison Reference, Snow Particle Counter, Blowing snow 1. はじめに 吹雪による災害は毎年のように発生しており, 人的被害のみならず,交通障害による人流・物流 の停滞など,社会的混乱や経済的損失をもたらす. 例えば,2013 年 3 月に発生した暴風雪では北海道 東部を中心に大きな被害があり,9 名の命が失わ れた.交通機関では JR 北海道で 361 本が運休し たほか,新千歳空港発着の 205 便が欠航した.道 路交通では国道が 22 路線 43 区間で,道道が 63 路線 69 区間で通行止めとなった(日本道路交通 情報センター調べ)ほか,オホーツク海側や太平 洋側東部を中心に 300 台以上の車両が立ち往生し た. 吹雪は空間的・時間的変動が大きい現象である (日本雪氷学会北海道支部,1991;金田ら,1998). したがって,円滑な冬期道路交通を確保するため には,道路管理者は吹雪の発生状況を面的かつリ アルタイムに把握し,的確な通行規制の実施やド ライバーへの情報提供を行う必要がある. 吹雪の強さを計測する方法を大別すると,吹雪 時に風で運ばれる雪の質量を計測する方法と,吹 雪時の視程低下の程度を計測する方法に分けられ る.雪の質量を計測する方法には,雪粒子を網目 の袋などで捕捉してその質量を計測する方法(石 本,2009 など)と,雪粒子により遮断される光を 利用して粒径と粒子数の連続的な測定値から質量 に換算する方法(Schmidt, 1977;佐藤ら,2005 な ど)がある.吹雪時の視程を計測する方法には, 空間に浮遊する雪粒子に対して赤外光を当てた時 の透過率や反射率を連続的に測定して視程に換算 する方法(竹内・福澤,1976;福澤ら,1987)や, 1 国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 〒062-8602 札幌市豊平区平岸 1 条 3 丁目 1-34 2 現所属:国土交通省北海道開発局 室蘭開発建設部 〒051-8524 室蘭市入江町 1-14問合せ先:[email protected]

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画像処理による視程計測(Ishimoto et al., 1989)お よび視認性を数値化する方法(萩原ら,2005;永 田ら,2006),視程計を車に搭載して吹雪時に走り ながら計測する方法(福澤,1993)などがある. また,雪の質量計測や視程計測以外の方法として は,音を使った吹雪計測(Chritin et al., 1999;小 杉ら,2005 など)や大気電場計を活用した吹雪検 知(大宮ら,2018)などが挙げられる.しかし, これら従来の計測方法では,空間的・時間的変動 が大きい吹雪現象のごく一部を計測しているに過 ぎない.吹雪の発生状況を面的に判断するために 吹雪計や視程計を広域かつ多点に配置することは 非現実的であるため,現状では気象条件からの推 測(例えば,武知ら,2016)もしくは道路パトロー ル等による目視判断以外に手段がない. 吹雪の発生を面的かつリアルタイムに把握する 方法の一つとして,広域の降水分布を観測できる 気象レーダの活用が考えられる.一般的に,単偏 波レーダによる降水強度 R は,レーダ反射因子(ま たは反射強度)Z との関係式 Z=BRβ(Z-R 関係. B と β は定数)によって求められる(Fujiyoshi et al., 1990).二重偏波レーダ(MP レーダ)の場合 には,落下中の雨滴が空気抵抗によって扁平する 性質を利用し,偏波間の位相差変化率 KDP(ある いは比偏波間位相差 ϕDP)と降水強度 R の関係 (KDP-R 関係)から高精度な降水量が求められる (Maki et al., 2005;岩波・前坂,2013 など).ただ し,降雪時には MP レーダも Z-R 関係によって降 雪強度を算出している.MP レーダを用いること で高精度な降雨観測ができる一方で,降雪の観測 精度は相対的に劣る(岡村,1981;林ら,2014; 今長ら,2017;増田ら,2018 など).この原因の一 つは,降雪粒子は雨滴と異なり様々な形状と密度 を有すること,また乾湿に伴う性質の違いがある ためである(吉野,2002;中井ら,2015).これま で,降雪時のレーダ観測値と地上観測値の関係に ついては,両者の比較面積を広くとること(吉野 ら,1986),また,レーダ観測値の積算時間を長く とること(Fujiyoshi et al., 1990;佐々木ら,1999) で両者の相関が良くなることが報告されている. また,レーダによる降雪量推定の際には,降雪粒 子の落下速度や落下に要する時間および風による 移流を考慮することで,地上の降雪分布を良く再 現できることが指摘されている(岡村,1980;佐々 木ら,1999).一方,信号処理に関しては,降雪種 別の Z-R 関係の検討によって観測精度の向上を 図る取組み(Rasmussen et al., 2003;増田ら,2018; Yamashita et al., 2019 など)や,地域ごとに Z-R 関係を求めることの重要性が指摘されている (Fujiyoshi et al., 1990 など).また,逆に,多様な 降雪粒子形状による MP レーダの反射特性を利 用し,レーダ観測値から上空の降雪種類を判別す る手法についても提案されている(Dolan et al., 2013;Kouketsu et al., 2015 など). 気象レーダを用いて吹雪を直接観測した例は極 めて少ない.過去に,青森県津軽平野において吹 雪時の視程変動とレーダ反射強度の関係を調査し た例(Higashiura et al., 1993)や,レーダから得ら れた降雪雲の三次元気流構造および強風形成過程 と吹雪発生との関係を調べた例(真木ら,1992; 真木,2003)がある.また,フィンランドにおけ る吹雪時の視程障害による多重衝突事故の解析 に,C バンドレーダの観測値が用いられた例 (Juga et al., 2012)がある.しかし,気象レーダを 用いて地上の吹雪を面的かつリアルタイムに把握 しようとした試みはない. 日本国内では,集中豪雨や局地的大雨の監視強 化を目的に,X バンド MP レーダ(以下,X-MP) の全国配備が 2008 年より国土交通省によって進 められてきた(栗城,2010;Maesaka et al., 2011). 2020 年 3 月現在,全国で 39 基の X-MP が配備さ れ て い る.北 海 道 内 で は 2013 年 に 北 広 島 市, 2014 年に石狩市に設置され,現在はこの 2 基体制 でそれぞれ半径約 60 km の範囲の降水状況を常 時監視している.X-MP は,従来の観測で使用さ れてきた国土交通省レーダ雨量計の C バンド レーダ(以下,C バンド)に比べ,その空間分解能 は 16 倍(約 250 m メッシュ.C バンドは約 1 km メッシュ),観測頻度は 5 倍(約 1 分間隔.C バン ドは約 5 分間隔)であり,高解像度の降水分布が 得られるほか,情報配信までに要する時間が観測 終了から 1〜2 分間(C バンドは 5〜10 分間)と短 いことが利点である.X-MP を雪氷対策へ活用す る取組みとしては,X-MP から推定した降雪量を 的確な除雪体制の構築に活用することを目指した 今長ら(2017)の研究や,X-MP による降雪種判

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別に基づいた降雪把握の高精度化に関する増田ら (2018)の研究などが挙げられる. 本研究では,高時空間分解能を有する X-MP の 観測データのみから地上における吹雪の発生状況 を定量的に把握することができるか,その可能性 について検討を行った.なお,本研究で対象とす るのは降雪を伴う吹雪であり,降雪を伴わない吹 雪(地吹雪)については扱わない. 2. 研究方法 本研究では,北広島市および石狩市に既設の 2 基の X-MP による観測データ(合成レーダ雨量, ドップラー速度)から推定した飛雪流量と寒地土 木研究所所有の石狩吹雪実験場(北緯 43° 12 ,東 経 141° 23 )にて実測した飛雪流量の関係を比較 し,地上における吹雪把握の可能性について検討 する.図 1 にレーダ観測と地上観測の概念図を, 図 2 に 2 基の X-MP と石狩吹雪実験場の位置関 係をそれぞれ記す.なお,本研究で使用した X-MP 観測データは,地球環境情報統融合プログラ ム(DIAS)の Web ページ(http://www.diasjp. net/)より入手した. 次に,大まかな解析の流れについて述べる.ま ず,降雪時の X-MP 合成レーダ雨量(以下,レー ダ雨量)と地上における降雪観測結果を直接比較 し,上空における降雪強度を見積もる.次に,2 基の X-MP それぞれの観測によって得られた ドップラー速度を用いて Dual ドップラー解析を 行い,上空における風向風速を求める.そして, この降雪強度と風向風速から上空における飛雪流 量を推定する.最後に,推定飛雪流量と地上での 実測飛雪流量の関係について検討する. なお,「新版雪氷辞典」(日本雪氷学会,2014) によると,降雪強度とは「単位時間に単位面積に 降った雪の重さに等しい水の深さ」のことを指し, その単位はレーダ雨量と同じ mm h−1である. また,飛雪流量は吹雪の強さを示す指標の 1 つで あり,「風向に直交する単位面積を単位時間に通 過する雪の質量(単位は g m−2s−1)」のことを指 す. 3. X-MP レーダ雨量と地上降雪強度の関係 降雪時の X-MP レーダ雨量の精度向上に向け, これまでに多くの研究者によって降雪種別の Z-R 関係の検討がなされている(Fujiyoshi et al., 1990, 図 1 レーダ観測と地上観測の概念図. 図 2 X-MP と石狩吹雪実験場の位置関係.現在,北 海道内に配備されている X-MP は石狩局と北 広島局の 2 基であり,それぞれが半径約 60 km の範囲の降水状況を監視している.

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Rasmussen et al., 2003;増田ら,2018;Yamashita et al., 2019 など).本研究では Z-R 関係自体の検 討は行わず,既存の関係式(Z=BRβ,B と β は定 数)から得られたレーダ雨量と地上観測結果の比 較によって降雪強度を求める.なお,2020 年 3 月 現在,現業で使用されている降雪時の B と β は, 石狩局,北広島局ともに B=90,β=1.67 である. 3.1 地上降雪強度の観測方法 地上での降雪観測には二重柵基準降水量計 (Double Fence Intercomparison Reference,以下 DFIR)を使用した.これは降水量計を八角形の 防風柵で二重に囲った観測システムのことであ り,世界気象機関(WMO)が二次基準として推奨 するものである.WMO は DFIR による実測値に 対して換算式(Goodison et al., 1998)を適用した値 を真値(BUSH Gauge 値(Sevruk,1987))として 扱ってよいとしている.本研究では,DFIR に Geonor 社製の重量式降水量計(T-200BMD)を使 用した.なお,解析には DFIR による実測値を BUSH Gauge 値に変換したものを使用している. 3.2 使用データおよび比較方法 3 節で述べるレーダ雨量と地上観測結果の比較 には,3 冬期分のデータ(2014〜2016 年度,12 月 1 日〜3 月 31 日)を使用した.ここでは 1 分おき に配信される DFIR 直上メッシュの X-MP レー ダ雨量(mm h−1)から求めた 10 分間降水量(mm) と,DFIR 観測によって 10 分おきに出力された降 雪強度(mm h−1)から求めた 10 分間降水量(mm) を比較した.なお,本研究の対象は降雪であるこ とから,地上気温が 0 ℃以下のデータのみを使用 した.レーダは上空のデータである一方,DFIR は地上のデータである.したがって,両者の比較 にあたっては,落下中の降雪粒子が風によって移 流される影響と,地上に到達するまでの時間差を 考慮に入れる必要がある(佐々木ら,1999).本節 では,風による移流の影響を極力なくすため,気 象庁が発行する「気象観測の手引き(気象庁, 1998)」に基づき,高度 10 m における 10 分間平 均風速が 0.3 m s−1未満の事例のみを抽出し,比 較に用いた.この手引きによると,0.3 m s−1 満の風速は「煙がまっすぐ昇る状態」と記述され ていることから,降雪粒子が風から受ける影響は 小さく,その移流量は無視できるとみなした.降 雪粒子が地上に到達するまでの時間差を見積もる ためには,レーダによる降雪粒子の観測高度と降 雪粒子の落下速度に関する情報が必要である.冬 期における X-MP 石狩局の最低運用仰角(θ0= 1.1°)と石狩吹雪実験場までの距離から求めた石 狩吹雪実験場上空におけるレーダビーム高度,す なわちレーダによって降雪観測が可能な最低高度 は約 340 m であった.降雪粒子の落下速度は粒 径や降雪種(雪片,あられなど)によって異なる 値を示すが,雪片についてはおおむね 0.7〜1.2 m s−1,あられについてはおおむね 1〜3 m s−1 あることが多い(梶川ら,1996;Ishizaka et al., 2013).この落下速度とレーダ観測高度 340 m か ら得られる時間は約 2〜8 分間であることから, 降雪粒子がレーダによって観測されてから地上に 到達するまでの時間を一律 5 分間と定め,比較時 にはその時間差を考慮に入れた.なお,ここでは 落下中の降雪粒子の変態等の影響(昇華や融解に 伴う質量変化や粒径変化)や,あられの落下に伴 う下降流の強化については無視している. 3.3 比較結果と考察 X-MP 観測と DFIR 観測から求められた 10 分 間降水量の関係を図 3 に記す.これより,降雪時 の X-MP 観測値は実際の地上観測値よりも大き くなる傾向が示された.図中の実線は近似直線を 示す(式(1)).その決定係数 R2は 0.55(データ 数は 109)であることから,この近似式は地上降 雪強度を概ね良く説明しているといえる.以降, 図 3 X-MP による上空観測(レーダ雨量 P(mm))と DFIR による地上観測(降雪強度 P (mm))から 得られた 10 分間降水量の関係.図中の破線は 1 対 1 の等値線を,実線は近似直線を示す.

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レーダ雨量 P(mm h−1)と降雪強度 P (mm h−1 の関係には式(1)を用いることとする. P =0.71P (1) X-MP による観測結果が地上での実測値よりも 大きかった一因として,Z-R 関係における係数 B,β が関与していた可能性がある.本研究では 現業で使用されている降雪時用の B,β(B=90,β =1.67)に基づいて変換されたレーダ雨量を使用 しているが,例えば Yamashita et al.(2019)は, β を 1.67 に固定した場合に降雪種の違いによっ て異なる B の値を提案しており,雪片時は B= 50.12,あられ時は B=100 としている.ここで, 図 3 のプロットに対して近似式の傾きが 1.00 と なる B について試算したところ,その値は B= 63.45 となった.本研究では降雪種観測は行って いないが,この結果より,解析対象とした降雪事 例時の降雪種は雪片の割合が多かったものと推測 される.また,これまで,佐々木ら(1999)など によってレーダ降雪量の積算時間を長くとること でレーダ降雪量と地上降雪量の相関が良くなるこ とが報告されているが,本観測では積算時間を長 くしても相関関係の向上は確認されなかった.こ れは,本研究の DFIR に使用した降水量計(重量 式降水量計)の分解能が 0.1 mm であるのに対し, 佐々木ら(1999)が使用した計器(溢水式雨量計) の分解能が 0.5 mm であったためと考えられる. つまり,積算時間(計測時間)を長くとることで 地上の計器に捕捉される降雪の総量が増加するた め,分解能の粗さに伴う計測誤差が相対的に減少 したものと解釈できる. 4. X-MP による上空の飛雪流量推定 4.1 飛雪空間密度の算出 飛 雪 流 量 Mf(g m−2s−1)は,飛 雪 空 間 密 度 n(g m−3)と水平方向の風速 V(m s−1)の積で与 えられる(式(2)). Mf=nV (2) 本研究では落下中の降雪粒子は昇華しないと仮 定しているため,n は高度によらず一様である. n は降雪フラックス Mv(g m−2s−1)を降雪粒子の 落下速度 w(m s−1)で除することで求められる (式(3)).ここで,Mvは単位時間に単位面積を 通過した(落下した)降雪粒子の質量に等しい. n=Mv/w (3) Mvは降雪強度 P (mm h−1)の単位変換によっ て求めることができ,両者の関係は Mv=0.28P として表すことができる.よって,レーダ雨量 P と Mvの関係は式(1)を用いて式(4)で表される. さらに式(3)に式(4)を代入することで式(5)が 導出される.以上より,飛雪空間密度 n は X-MP レーダ雨量 P と降雪粒子の落下速度 w より得ら れる. Mv=0.20P (4) n=0.20P/w (5) 4.2 上空における風向風速の算出 次に,飛雪流量 Mfを求めるために必要な上空 の水平風速 V(m s−1)を X-MP 観測データから算 出する. 4.2.1 Dual ドップラー解析 気象レーダによって得られるドップラー速度 は,風によって流されている粒子によって反射さ れた電波のドップラー効果から求められた粒子の 移動速度である.一般的にはドップラー速度と風 速を等しく取り扱うことから(石原,2001a),本 研究においても降雪粒子の水平速度と水平風速が 等しいものとして扱う.ここで,1 基の X-MP か ら得られるドップラー速度はレーダビームに沿っ た方向のみの風速成分であるため,その風がレー ダ基地局に対して近づくものか,遠ざかるものか, についての情報しか得られない.そこで,2 基の X-MP(石狩局,北広島局)から得られるドップ ラー速度を用い,石原(2001b)のアルゴリズムに 基づいて Dual ドップラー解析し,上空 500 m に おける風(以下,Dual 風)の 2 次元分布を求める. 以下,2016 年度冬期に発生した吹雪 24 事例を対 象とした解析結果を述べる.本解析で求められた 高度 500 m における Dual 風(2017 年 2 月 17 日 22:00 の事例)を図 4 に示す.ここで,Dual ドッ プラー解析の対象領域は図 4 中における 2 つの円 内(ただし,円の重なり部分は除く)である.こ の対象領域は,2 基のレーダからの交差する角度

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ができるだけ平行にならないように 30°〜150° に 定めたものであり,それぞれの円の半径は約 30 km である.なお,図 4 の解析対象領域内におい て風が示されていない領域があるが,それは当該 時刻において降雪粒子が存在しなかったために Dual 風を算出することができなかったことを意 味する. 4.2.2 Dual 風と毎時大気解析値の比較 Dual ドップラー解析により算出した風向風速 の妥当性を確認すべく,気象庁の毎時大気解析(以 下,HANAL)による 950 hPa 高度面(高度約 500 m)での風向風速と比較を行った.図 4 と同日同 時刻における HANAL の風向風速を図 5 に記す. 両図の比較により,Dual 風は風向,風速ともに HANAL と概ね一致していることが確認できる. 4.2.3 高度 340 m における風速の算出 Dual ドップラー解析によって求めた風向風速 の高度は 500 m であるが,3 章で述べたように, X-MP によって降雪観測が可能な最低高度は約 340 m である.そこで,ここでは大気が中立状態 にあると仮定し,風の対数則にならって高度 500 m の風速から高度 340 m の風速を求めた(カルマ ン定数 κ=0.4 と仮定).ここでは,石狩吹雪実験 場周辺の地表面状況を考慮し,道路橋耐風設計便 覧(日本道路協会,2007)に基づいて地面粗度長 を一律 0.05 m(地表粗度区分Ⅱ)とした.仮に高 度 500 m の風速が 10 m s−1であるとすると,地 面粗度長 0.05 m で計算した高度 340 m の風速は 約 9.6 m s−1である.一方,同様の試算を山岳域 や都市域(地表粗度区分Ⅳ)の地面粗度長 1.0 m で行った場合は約 9.4 m s−1,海上(地表粗度区分 0)の地面粗度長 0.001 m で行った場合は約 9.7 m s−1であり,地面粗度長 0.05 m の時の 9.6 m s−1 に対する差異は最大で 0.2 m s−1程度である.以 上より,地面粗度長を一律で扱うことによる推定 飛雪流量への影響は小さいと考える. 4.3 上空における飛雪流量の推定結果 次に,4.1 節で求めた飛雪空間密度 n と 4.2 節 で求めた高度 340 m における風速 V から,式(2) より高度 340 m における飛雪流量 Mfを面的に求 めた.なお,ここでは降雪粒子の落下速度 w を 1.2 m s−1として計算した.図 6 に飛雪流量の推 定結果を示す. 5. 地上における飛雪流量の実測 飛雪流量観測には新潟電機株式会社製の Snow Particle Counter 95(以下,SPC)を使用した. SPC は非接触で光学的に吹雪粒子の粒径および 個数を計測する機器であり(Schmidt, 1977),測 定可能な粒径範囲は 0.05 mm〜0.5 mm である. 図 7 に SPC の外観を,図 8 にセンサー部分の詳 細を示す.図 8 に示す投光部から受光部に向けて 近赤外光が照射されており,その範囲内(2 mm× 図 5 気象庁毎時大気解析(HANAL)による 950 hPa 高度面(高度約 500 m)の風向風速(2017 年 2 月 17 日 22:00 の事例). 図 4 Dual ドップラー解析により求めた高度 500 m における風向風速(2017 年 2 月 17 日 22:00 の 事例).解析対象領域は図中における 2 つの円 内(ただし,円の重なり部分は除く).

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25 mm×0.5 mm)が計測領域である.この領域を 吹雪粒子が通過すると,それに応じて受光部に到 達する光量が減衰する.通過粒子が全て球体かつ 計測領域内に同時に複数粒子が入らないとの仮定 のもと,光量の減衰量および減衰回数から,計測 領域を通過した吹雪粒子の粒径および個数が求め られ,1 分おきに 1 秒毎の飛雪流量が出力される. 本研究の解析対象は降雪起因の吹雪粒子であり, 地吹雪粒子(一度地面に降り積もった雪が風に よって舞い上げられた粒子)は対象としていない. そこで,地吹雪粒子が計測に混入することを極力 防ぐため,SPC の設置高度を 7 m とした.Naaim-Bouvet et al.(2012)による降雪を伴う吹雪時の観 測結果によると,高度 3.4 m での飛雪流量は風速 の強弱に影響を受けにくいことが示されている. これは高度 3.4 m では吹雪中に含まれる地吹雪成 分が少ないことを示すものであり,したがって高 度 7 m にまで達している地吹雪粒子は十分に少 ないものと見なせる. 次に,飛雪流量の実測結果に対する留意点を記 す.SPC は計測領域を通過する粒子が全て球体 であると仮定して飛雪流量を算出しているが,降 雪粒子の大半は非球体である.非球体の場合は実 際の粒子体積と等価球の体積が一致しないため, 飛雪流量は過大評価される.佐藤ら(2005)によ ると,粒子が回転楕円体の場合には非球形度が増 すほど,角柱状の場合には薄い板状になるほど, または細長くなるほど,その影響が大きくなると 指摘している.一方で,粒径 0.5 mm を超える粒 図 8 SPC センサー部の詳細. 図 6 X-MP データに基づいて求めた上空 340 m における飛雪流量分布(2017 年 2 月 17 日 22:00 の事例). 解析領域内におけるグレー部分は飛雪流量の計算結果がゼロであったことを示す.

図 7 Snow Particle Counter(SPC)の外観.SPC に

は風向舵が取り付けられているため,センサー 部分は常に風向に直交する.

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子については全て 0.5 mm の粒子として計算処理 される.また,粒子が計測領域の端をかすめて通 過した場合にも粒径は過小評価されるため,これ らの場合には飛雪流量が過小評価される(佐藤, 1991).他にも,計測領域に同時に複数粒子が入っ た場合にも計測誤差の要因となり得る.このよう に,SPC による実測値にも様々な計測誤差が含ま れていることに留意すべきであるが,本研究は レーダデータから地上吹雪を把握できるか否かを 議論するものであり,量的精度に主眼をおいたも のではない.そこで,本解析では SPC によって 出力された飛雪流量の値をそのまま使用した.な お,参考までに,本観測で計測された粒子の大半 は 0.5 mm 以下であり,計算処理によって過小評 価された飛雪流量は 1 % 未満であった. 6. 上空の推定飛雪流量と地上実測値の比較 X-MP データに基づく上空の推定飛雪流量と地 上における実測飛雪流量を比較し,X-MP を用い た吹雪観測の可能性について検討する. 4 章において,X-MP データから上空における 飛雪流量の面分布を推定した(図 6).しかし,降 雪粒子は雨滴よりも軽くて密度も小さいため,風 による移流の影響が大きい,すなわち上空におけ る飛雪流量の面分布をそのまま地上に適用するこ とはできない可能性が高い.そこで本章では,上 空と地上の飛雪流量を比較するにあたり,降雪粒 子の移流を考慮しない場合とした場合,その両方 について検討した. 6.1 移流を考慮しない場合の比較結果 移流を考慮しない場合,すなわち石狩吹雪実験 場の直上メッシュにおける推定飛雪流量と地上で の実測飛雪流量の比較を図 9 に示す.この結果, 両者には明瞭な相関がないことが確認された(相 関係数 R は 0.24).なお,この比較では 3.2 節で 述べた降雪粒子が地上に到達するまでの時間差 (5 分間)についても考慮してある(後述の,移流 を考慮した場合(6.3 節)についても同様). 6.2 降雪粒子の移流に関する検討 降雪粒子の移流について,地上に到達した吹雪 粒子がレーダ観測高度 340 m においてどこに位 置していたのかを推定する. はじめに,4.2.3 項で求めた上空 340 m におけ る風速を用い,対数則によって地上までの間にお ける水平風の鉛直分布を求めた.次に,実際に地 上で観測された吹雪粒子を時間を遡って上空方向 に逆移流させ,その移流距離と方角について計算 し,高度 340 m における吹雪粒子の位置を推定し た.その概念図を図 10 に記す.水平風の鉛直分 布の計算には,10 m の厚さを持つ空気の層が鉛 直方向に 34 層重なっていると仮定し,それぞれ の層に対して対数則に基づく風速推定を行った. 地面粗度長は 4.2.3 項と同様,一律 0.05 m と仮 定した.吹雪粒子の推定位置の分布を図 11 に示 す. 6.3 移流を考慮した場合の比較結果 推定位置における上空の推定飛雪流量と石狩吹 図 10 高度 340 m における吹雪粒子の位置の推定 方法(概念図). 図 9 風による移流を考慮しなかった場合の,X-MP データから推定した上空の推定飛雪流量と SPC により実測した地上飛雪流量の比較.図 中の破線は 1 対 1 の等値線.

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雪実験場で実測した地上飛雪流量の比較を図 12 (図中「移流あり」)に示す.この結果は図 9 の移 流を考慮しなかった場合に比べてプロット数が少 ない(図 9:24 個,図 12:11 個)が,これは吹雪 粒子の推定位置(図 11)の一部が Dual ドップラー 解析の対象領域から外れた等により,飛雪流量を 計算することができなかったことによる.そこ で,これらの事例を除いた 11 事例について,「移 流なし」として改めて図 12 中に付記した.この 結果より,移流を考慮した場合の推定飛雪流量は 地上での実測飛雪流量を過大評価する傾向にある ものの,両者には正の相関があることが確認され た.相関係数 R は 0.62(p 値=0.04),二乗平均平 方根誤差 RMSE は 2.16 g m−2s−1(「移流なし」 の RMSE は 2.98 g m−2s−1),図中に実線で示す 「移流あり」の近似直線の傾きは 0.47(決定係数 R2は 0.31)であった. 以上の結果は,X-MP 観測によって得られる データのみから地上における吹雪の発生状況を面 的かつリアルタイムに把握できる可能性があるこ とを示すものである. 7. まとめと今後の展望 本論文では,X-MP を用いた吹雪の定量観測の 可能性について明らかにすることを目的とし, レーダデータと地上観測結果を解析した.本研究 より,一般配信されている X-MP レーダ雨量から 上空における降雪強度を算出するための補正係数 について提案した.また,Dual ドップラー解析 によって求めた風向風速を用い,上空における飛 雪流量を面的に推定した.その推定値を地上の実 測値と比較したところ,風による降雪粒子の移流 を考慮することにより,両者の間には正の相関が あることが示された.この結果は,X-MP 観測に よって得られるデータのみから地上における吹雪 の発生状況を面的かつリアルタイムに把握できる 可能性があることを示すものである. 本研究で実施した Dual ドップラー解析は 2 基 以上の X-MP による観測データを必要とするた め,解析できる領域が限られている.そこで,今 後は 1 基の X-MP から風向風速を推定できる VVP 法(Waldteufel and Corbin, 1979;立平・鈴 木,1994 など)と VAD 法(Browning and Wexler, 1968)を用いてより広域にわたる風向風速解析を 行うほか,複数地点における SPC 地上観測を実 施し,推定飛雪流量との面的比較を行う予定であ る.また,同時に,目視やディスドロメーターに よる降雪種観測および飛雪流量の人力観測を行う ことで,飛雪流量の推定精度向上に努める.最終 的にはレーダデータのみから地上における面的な 吹雪情報をリアルタイムに把握するためのアルゴ リズムを構築し,地上吹雪の発生把握技術の社会 実装を目指す. 図 12 風による移流を考慮した場合の,X-MP デー タから推定した上空の推定飛雪流量と SPC により実測した地上飛雪流量の比較.移流を 考慮した場合の結果を黒三角で示してあるの に対し,この事例に対応する移流を考慮して いない結果について黒バツで記した.実線は 「移流あり」の結果に対する近似直線を示す. 図 11 高度 340 m における吹雪粒子の推定位置.

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本研究において,(一財)日本気象協会の丹治和 博氏をはじめとする各位には,データ解析におい てご協力をいただきました.(国研)防災科学技術 研究所の中井専人氏,(国研)農業・食品産業技術 総合研究機構の井上聡氏には,二重柵基準降水量 計の設置においてアドバイスをいただきました. 本稿の校閲にあたり,2 名の匿名査読者から大変 有益かつ丁寧なご指摘をいただきました.この場 をお借りし,皆様に対して深くお礼を申し上げま す. 本研究で利用した X バンド MP レーダのデー タセットは,文部科学省の委託事業により開発・ 運用されているデータ統合解析システム(DIAS) の下で,収集・提供されたものです. 本研究の一部は,(一財)河川情報センターの令 和元年度研究助成を受けて実施したものです.

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Possibility of quantitative blowing snow estimation using the X-band multi-parameter radar

Satoshi OMIYA1*, Tetsuya KOKUBU1, 2, Hiroki MATSUSHITA1,

Joji TAKAHASHI1and Masaru MATSUZAWA1

1Civil Engineering ResearchInstitute for Cold Region, PWRI, 1-3-1-34, Hiragishi Toyohira-ku Sapporo, Hokkaido 062-8602

2Present Affiliation: Muroran Development and Construction Department of Hokkaido Regional Development Bureau, 1-14 Iriecho, Muroran, Hokkaido 051-0023

Corresponding author: [email protected]

Abstract: Blowing snow affects road traffic because it induces multiple collision accidents and causes

vehicles to become stuck in snowdrift on the road. To mitigate damage from snowstorms effectively, it is desirable to obtain spatial and real-time information on occurrences of blowing snow. In this study, we discussed whether it is possible to spatially obtain real time information on surface blowing snow based on data observed in the sky by a weather radar with high temporal and spatial resolution (X-band MP radar). Radar data and results of surface observation were analyzed, and an improved correction coefficient for obtaining surface snowfall intensity using radar precipitation data was proposed. Snow mass flux at a height of 340 meters was spatially calculated from radar data, and compared with measured surface snow mass flux. As a result of this study, it was shown that the correlation between the calculated value and the measured value was improved by considering the advection of the falling snow particles due to the wind. (2019 年 9 月 15 日受付,2020 年 1 月 23 日改稿受付,2020 年 3 月 17 日再改稿受付,

図 7 Snow Particle Counter(SPC)の外観.SPC に は風向舵が取り付けられているため,センサー 部分は常に風向に直交する.

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