物理的環境に埋め込まれた多人数インタラクションとして
の指揮に伴う言語行為分析
Analysis of Speech Acts constituting ‘commanding’ of a
multi-party interaction in a real environment
白土
峻平・寺岡 丈博・榎本 美香
Shunpei Shirato,
Takehiro Teraoka, and Mika Enomoto
東京工科大学メディア学部
School of Media Science, Tokyo University of Technology
Abstract: The purpose of this paper is demonstrate a general pattern of sequences of speech acts between
a commander and a large number of receivers carrying out the commanded action. We analyze interaction data in which multi-participants collaboratively drag huge trees (about 18M) from a mountain hill to a village for the fire festival at Nozawa Onsen in Nagano. In the result, we reveal that the basic sequence is lined with ‘a command to start an action’, ‘an acceptance of the command’, ‘a rallying cry to start the action’, and ‘a responding cry to start the action. In a smooth commanding, ‘a command to end the action’ is put at the end of the sequence.
1. はじめに
本研究では、多人数インタラクションにおける指 揮に用いられる言語行為連鎖を明らかにする。指揮 とは、辞書的な定義によれば、ある権限を持った個 人が、個人または多人数に対して意思表示をし、そ の意思に従わせることである。ここでは、大勢の被 指揮者たちを率いて活動の目標を達するために発さ れる指揮権をもった個人の言動を指揮とよぶ。野沢 温泉道祖神祭りの準備場面を対象とし、物理的な制 約をもつ環境の中で、御神木と呼ばれる長さ約18m の巨木の移動に伴う指揮者の発話とそれに対する被 指揮者たちの発話の連鎖の基本パターンを見出すこ とが本研究の目的である。 「文を口に出して言うことは、等の行為を実際に 行うことに他ならない」と提唱したオースティン[1] は、命令にしろ約束にしろその行為が遂行されたと 考えるためには、言葉を発している本人あるいは関 係する他の人々が、身体的・精神的な行為、あるい は引き続き何事かを言うという行為などの、等の遂 行的発言とは別の行為もまた遂行しなくてはならな いと指摘している。 榎本・伝[3]は、本研究と同様巨木の移動場面を分 析し、事例1 にみられる言語行為のやりとりを指揮 の典型としている。 【事例1】 03 指揮者: いいかあ [前準備終了の確認] 04 一同1: おい [前準備終了の承 認] 05 指揮者: このまんままっすぐバック させるからな [移動目標の提示] 06 一同: おい [移動目標の受諾] 07 指揮者: 行くぞ [行動開始の号令] 08 一同: おい [行動開始の応諾] 09 指揮者: せーの [行動開始の掛け声] 10 一同: ((縄を引きながら)) よいしょ [行動開始の合いの手] 11 指揮者: せーの [行動継続の掛け声] 12 一同: ((縄を引きながら)) よいしょ [行動継続の合いの手] ただし、そこではある指揮者のある1 回きりの指 揮場面しか取り上げられておらず、指揮者・被指揮 者による違いや引き出す環境の差異が、この言語行 為連鎖にどのように影響するかは明らかではない。 狭い曲がった道を抜けて木を引くのは困難であり、 その際には指揮もこの通りでないことが予想される。 本研究では、より多くの指揮場面を分析し、以下 を明らかにする。 1 被指揮者である木の引き手たちを指す。 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B403-081. 指揮に関わる一般的な言語行為連鎖を見出す 2. 円滑な指揮と非円滑な指揮を比較し、効率的に 活動が達成されるための指揮の工夫を見出す
2. 分析資料
■収録場所 惣組織「野沢組」が存続する長野県高 井群野沢温泉村 ■収録日時 2013 年 1 月 13 日 ■収録場面 道祖神祭りに使われる御神木と呼ばれ る長さ約18m の木を山のゲレンデから村内の祭り会 場まで運搬する場面2.1. 道祖神祭り
毎年1 月 15 日に行われる野沢温泉の道祖神祭りは、 日本三大火祭りの一つに数えられ、国の重要無形民 俗文化財に指定されている。祭りのために用意され た巨木(御神木)を芯木として作られる社殿(図 1) に火を入れ、主に豊作祈願や厄払い、初子の成長を 願った奉納が行われる。 図1.社殿2.2. 分析対象
野沢温泉道祖神祭りの執行は数え 42 歳の厄年が 担うこととなっている。42 歳につらなる 3 世代のグ ループが注進となり3 年間に渡って祭りを準備する。 この3 世代のグループのことを「三夜講」と呼ぶ。 本研究の収録を行った年はちょうど、三夜講メンバ ーが 3 年目を迎える年であった(図 2 参照)。2013 年1 月に数えで厄年 42 歳となる「郷愛会」(下組) が世話人として幹事を務める。前年、前前年にこの 厄年を終えた、43 歳からなる「牡丹会」(中組)、44 歳からなる「月光会」(上組)も後見役として参加す る。また、来年度から新しく組織される三夜講の上 組にあたる数え年41 歳の「寶友会」が祭り作法を受 け継ぐ紐帯として見習い役で参加している。これに 数え年25 歳となる「元会」が加わる。 図2.三夜講構成図2.3. 分析場面 里曳き
社殿を作るために必要なブナの木(以下御神木) は全部で5 本あり、うち 2 本を 25 歳の「元会」と 42 歳の「郷愛会」が 2 つのルートに分かれてゲレン デから温泉街を通り会場まで曳きだす(図 3 参照)。 この作業のことを里曳きと言う。御神木を曳く沿道 の家からは御神酒を奉納され、その都度大声で披露 し道祖神の手締めが行われ、見守る人に御神酒が振 る舞われる。 この里曳きには御神木を曳く引き手たちとその引 き手たちを指揮する指揮者(委員長、副委員長)が 存在している。本研究では、この里曳きに見られる 指揮の言語行為について分析する。 図3.里曳きの様子 多くの里曳きが行われる中で、本研究で分析対象 とした場面は以下の5 つである。 ①見習いである「寶友会」の委員長指揮のもと、 ゲレンデから宴会場前まで御神木を曳き出す場面 ②42 歳「郷愛会」の委員長指揮のもと、御神木を ソリに乗せる場面 ③42 歳「郷愛会」の副委員長指揮のもと、御神木 をソリに乗せる場面④42 歳「郷愛会」の委員長指揮のもと、駐車場が 角にある道を曲がる場面 ⑤42 歳「郷愛会」の委員長指揮のもと、御神木を 全員で持ち上げて段差のある道路を変更する場面
3. 分析方法
注釈作成ソフト「ELAN」を用いて指揮者と被指 揮者の発話内容と動きの書き出し(アノテーション) を行う。長い映像のため、指揮が行われている5 つ の場面を取り上げアノテーションする。 発話内容は聞こえた通り、動きは見た通り書き出 す。 ■発話「いくぞ」「おい」「つるつるーっと」など ■動き:「御神木を曳く」「移動」「縄を持つ」など4. 分析結果
4.1. 典型的な指揮の流れ
分析の結果、表1 の指揮に含まれる言語行為連鎖 を見出した。表中「順番」は、その発話が生じると したら生起する位置の順序関係を表す。 表1 指揮に含まれる言語行為連鎖 順 番 発話者 言語行為タイプ 発話例 省 略 1 指揮者 前準備開始の合 図 いいか 可 2 指揮者 移動目標の提示 ~まで運び ます 可 3 被 指 揮 者 移動目標の受諾 はい 可 4 指揮者 移動方式の提示 このように 運びます 可 5 被 指 揮 者 移動方式の受諾 はい 可 6 指揮者 移動部位の提示 あそこを動 かします 可 7 被 指 揮 者 移動部位の受諾 はい 可 8 指揮者 前準備完了の確 認 いいか 可 9 被 指 揮 者 前準備完了の了 承 はい 可 10 指揮者 行動開始の号令 いくぞ 不 可 11 被 指 揮 者 行動開始の受諾 はい 不 可 12 指揮者 行動開始の掛け 声 せーの 不 可 13 被 指 揮 者 行動開始の合い の手 よいしょ 不 可 14 指揮者 行動再開の号令 いくぞ 可 15 被 指 揮 者 行動再開の受諾 はい 可 16 指揮者 行動継続の掛け 声 せーの 可 17 被 指 揮 者 行動継続の合い の手 よいしょ 可 18 指揮者 行動終了/中断 の号令 止まれ 可 1.「前準備完了の合図」:前準備を催促するための言 語行為で、問いかけに対して受諾がないものを言う。 (例:いいか) 2.「移動目標の提示」:指揮を行う上での補足的役割 を担う。対象物が最終的にどこまで移動されるのか、 目標地点を提示する場合に発せられる。(例:○○ま で運びます) 3.「移動目標の受諾」:「移動目標の提示」に対する 返答。 4.「移動方式の提示」:指揮を行う上での補足的役割 を担う。対象物を移動させるにあたってどのように 移動させるのか、注意点や移動させ方を発する。 (例:○○に気を付けて運ぶぞ) 5.「移動方式の受諾」:「移動方式の提示」に対する 返答。(例:はい) 6.「移動部位の提示」:指揮を行う上での補足的役割 を担う。対象物を移動させる際、どこを持ち上げて 移動させるのかを発する。(例:○○から持ち上げる ぞ) 7.「移動部位の受諾」:「移動部位の提示」に対する 返答。(例:はい) 8.「前準備完了の確認」:対象物を移動させるにあた ってその前準備ができているかの確認を被指揮者に とるための言語行為。指揮者の「いいか」という言 葉に対して被指揮者から「はい」などの受諾がある もの。(例:いいか) 9.「前準備完了の了承」:「前準備完了の確認」に対 しての返答。(例:はい) 10.「行動開始の号令」:対象物を動かすための号令。 この「行動開始の号令」は指揮が行われる上で省略 されてはならない物の一つである。基本的に、指揮 者がもう準備ができただろう、と判断した場合に言 う。(例:いくぞ) 11.「行動開始の受諾」:「行動開始の号令」に対する返答。この受諾がないと12 番に進むことができない。 (例:はい) 12.「行動開始の掛け声」:「行動開始の受諾」があっ て初めて行われる言語行為である。対象物が動き始 める手前に指揮者が発する言葉。(例:せーの) 13.「行動開始の合いの手」:「行動開始の掛け声」に 対になる被指揮者からの言語行為。この言語行為が 行われていると同時に対象物も動く。(例:よいしょ) 14.「行動再開の号令」:移動目標まで対象物を移動 できずに何らかのトラブルで指揮が中断され、再開 したい場合に行われる言語行為。目的は10 番の「行 動開始の号令」と同じ。(例:いくぞ) 15.「行動再開の受諾」:移動目標まで対象物を移動 できずに何らかのトラブルで指揮が中断され、再開 したい場合に行われた「行動再開の号令」に対する 返答。目的は11 番の「行動開始の受諾」と同じ。 16.「行動継続の掛け声」:一度の「行動開始の掛け 声」で対象物を移動目標まで移動できない距離の場 合は、「行動継続の掛け声」を何回も行うことで移動 目標まで移動させる。初めの1 回は「行動開始の掛 け声」で1 回目以降、指揮が終了されるまでは「行 動継続の掛け声」となる。目的は12 番の「行動開始 の掛け声」と同じ。(例:せーの) 17.「行動継続の合いの手」:「行動継続の掛け声」の 対になる言語行為。2 回目以降の「せーの」という 指揮者からの言葉に対して発せられる言葉。(例:よ いしょ) 18.「行動終了/中断の号令」:「行動終了の号令」は 対象物を移動目標まで運び終えたときの言語行為で、 「行動中断の号令」は何らかのトラブルで移動目標 までたどり着くことができずに指揮を中断する場合 の言語行為である。(例:止まれ) 以上のことから、指揮に伴う言語行為は18 タイプ あるといえる。
4.2. 指揮の省略
4.1 の表 1 において、省略の可否を示した。分析し た場面でそれぞれの言語行為が行われた回数を合計 すると、表2 のようになる。 表2 各言語行為の回数 No 指揮の名称 回数 1 前準備開始の合図 14 2 移動目標の提示 6 3 移動目標の受諾 3 4 移動方式の提示 11 5 移動方式の受諾 9 6 移動部位の提示 10 7 移動部位の受諾 4 8 前準備完了の確認 5 9 前準備完了の了承 5 10 行動開始の号令 16 11 行動開始の受諾 16 12 行動開始の掛け声 15 13 行動開始の合いの手 15 14 行動再開の号令 9 15 行動再開の受諾 3 16 行動継続の掛け声 17 17 行動継続の合いの手 17 18 行動終了/中断の号令 16 15 回の木の移動のうち、10~13 の 4 つの言語行為 は必ず出現していた。これらの4 項目は対象物(こ こでは御神木)のアクションが起きるきっかけにな るための言語行為であり、必須の項目といえる。 ただし、10、11 が 16 回と 1 回ずつ多いのは、一 度発された「行動開始の号令」の後、再度「移動方 式の提示」が入り、もう一度「行動開始の号令」が なされたためである。事例2 にこれを示す2。 【事例2】 20 委員長: 上あがっていくからな [移動目標の提示] 21 委員長: ((各移動場所の配置を見て回る)) 22 委員長: いいか [前準備完了の確認] (0.57 秒) 23 委員長: 頭ふったとき(?_気をつけて) [移動方式の提示] 24 一同: おーい [移動方式の受諾] →25 委員長: いくぞ [行動開始の号令] →26 一同: おーい [行動開始の受諾] 27 委員長: ケツしっかり(?) [移動方式の提示] 28 一同: おーい [移動方式の受諾] →29 委員長: いくぞ [行動開始の号令] →30 一同: おーい [行動開始の受諾] 31 委員長: せーの [行動開始の掛け声] 32 一同: よいしょ [行動開始の合いの手] この場面は2.3 に示した⑤御神木を全員で持ち上 げて段差のある道路を変更するこの里曳き最大の見 せ場である。委員長は慎重に木の根元付近や頭部付 2 事例内における左列番号は、本文中で引用するための通し番号 であり、他の事例についても同様である。事例間の生起順とは無 関係である。近についている引き手たちの配置を見て回った後 (21)、「頭ふったとき(?_気をつけて) 」(23)と頭部付 近の引き手に注意し、「いくぞ」(25)の「行動開始の 号令」を発する。引き手たちから「おーい」(26)と 「行動開始の受諾」があるが、さらに根元付近の引 き手たちに「ケツしっかり(?)」(27)と移動方式の提 示を行い、「おーい」(28)の受諾を経て、2 度目の「行 動開始号令」である「いくぞ」(29)を発している。 1 の「前準備開始の合図」は被指揮者への催促の 言語行為であり、一つの指揮に何回も繰り返し行わ れることがあるため、14 回と多い数字になっている。 また、それら以外の項目に関して、被指揮者が対 象物の動かし方や移動方向をあらかじめ認識してい る場合、指揮者はそれに言及しない。 14 から 17 の項目は行動を継続する場合のみ行わ れる言語行為であり、継続されない場合は省略され る。 18 の「行動終了の掛け声」は 16 回となっていた が、本来は「行動開始の号令」「行動再開の号令」の 後には必ず動きを止める「行動終了の掛け声」が行 われるはずなので、単純に考えれば24 回は出現する はずである。それに比べて実際の回数が少ないのは、 指揮者が「行動終了の掛け声」を発する前に、引き 手が木の移動を停止した場合で、このケースについ ては5.3.2 に詳述する。
5.3. 円滑な指揮とは
前節に「指揮」とはどのような流れで行われてい るのかを述べた。では、「円滑な指揮」とはどういう ものなのか、指揮者の違う二つの場面から述べる。5.3.1. 円滑な指揮
指揮の経験のある委員長側の指揮を見る。 図4 駐車場が角になっている道を曲がる場面 図4 では、委員長が、引き手たちに注意点を言い ながら④駐車場が角になっている道を曲がる場面で ある。ここでの実際の発話が事例3 にあたる。 【事例3】 40 委員長: それでここ回っていくけん 危なくなったら言ってくれ[移動目標の提示] 41 一同: おい [移動目標の受諾] 42 委員長: そーっと行くからな[移動方式の提示] 43 一同: おい [移動方式の受諾] 44 委員長: じゃあそーっと行くぞ [移動方式の提示] 45 一同: おい [移動方式の受諾] 46 委員長: つるつるーっと [行動開始の号令] 47 一同: よいやさのさ [行動開始の受諾] 48 委員長: よいさ [行動開始の掛け声] 49 一同: よいさ [行動開始の合いの手] 50 委員長: 止まれ [行動終了の号令] 委員長の[移動目標の提示](40)、[移動方式の提 示](42, 44)には必ずそれを受諾する一同の発話が遂 になっている。また、一度開始された行動の末尾に は必ず50 のような[行動終了の号令]がある。また、 一度に移動させる距離も短く、移動目標・移動方式 で提示された内容を引き手たちが簡単に実行できる ようになっている。細かく指示を区切ることが円滑 な指揮の特徴であるといえる。5.3.2. 非円滑な指揮
「円滑な指揮」と対照される「非円滑な指揮」を みる。 図5 副委員長指揮による指揮 図5 は、村内の雪道ではないところを曳いて木 が傷まないように③御神木をソリに乗せる場面であ る。事例4 に実際の発話を示す。 【事例4】 60 副委員長: 頭からお願いします[移動部位の提示] 61 一同: うい [移動部位の受諾] 62 副委員長: いいか [前準備開始の合図] 63 副委員長: (?)ソリ側 [移動部位の提示] 64 一同: うい [移動部位の受諾]65 副委員長: いいか [前準備開始の合図] 66 副委員長: いいか [前準備開始の合図] 67 副委員長: 手前行くぞ [移動部位の提示] 68 副委員長: いいかほんじゃあ一個目いくぞ [行動開始の号令] 69: 一同: おい [行動開始の受諾] 70 副委員長: せーの [行動開始の掛け声] 71 一同: よいしょ [行動開始の合いの手] 「頭からお願いします」(60)は、木の頭部部分をま ずソリに乗せるという意味である。しかし、その後 副委員長が何度も「いいか」(62, 65, 66)と言ってい るが、それらに対して引き手たちから受諾の発話が みられない。また、「手前行くぞ」(67)と移動部位の 提示がなされるがこれにも受諾がない。指揮が円滑 に通っていない場合、このようになんども前準備開 始の合図がなされることと同じ内容の発話が繰り返 される。そして、指揮者の発話に対して、引き手た ちが木を動かす態勢変化もみられない。この場面で は、指揮者はソリの手前側に居る人々にだけ木を上 げる、ソリを下に入れるという行動を求めているの であるが、誰が何をすればよいのかが発話中に明示 されていない。このことが、受諾や態勢変化をしに くい状況をつくっているといえる。 次に、事例5 に「行動終了の号令」がなく、勝手 に動きが止まってしまう例をみる。 【事例5】 80 寶友委員長: 頭だけひきあげます [移動部位の提示] 81 一同: おーい [移動部位の受諾] 82 寶友委員長: つるつるっとー [行動開始の号令] 83 一同: よいやさのさ [行動開始の受諾] 84 寶友委員長: よいさ [行動開始の掛け声] 85 一同: よいさ [行動開始の合いの手] 86 寶友委員長: よいさ [行動継続の掛け声] 87 一同: よいさ [行動継続の合いの手] 86-87 を 6 回繰り返す 88 ((一同の動きが止まる)) (29 秒) 89 寶友委員長: すみません これは見習いである寶友委員長が①ゲレンデから 宴会場前まで御神木を曳き出す場面である。一同は 寶友委員長の「よいさ」という掛け声にあわせて木 を曳いているが、88 で委員長の掛け声が止まると、 その辺りで木を曳く態勢が解かれ、一同が戸惑う様 子がみてとれる。このように「行動終了の号令」が かからない場合、指揮体系が一瞬あやふやになるこ とがあり、この場合次の指揮が再び開始される時に 時間がかかり、指揮の円滑さを損なう。
6. おわりに
指揮に伴う言語行為は18 種類に分類することが できる。18 種類の言語行為のうち、省略することが できない指揮は「行動開始の号令」「行動開始の受諾」 「行動開始の掛け声」「行動開始の合いの手」で、そ れ以外の指揮は指揮者、被指揮者にとって必要でな い情報の場合は省略ができる。 そして、円滑な指揮を行うためには、指揮一つ一 つを単純なものとし、被指揮者にとってわかりやす くすること、また、被指揮者の受諾が行われること が重要である。さらに被指揮者たちが常に指揮者の 権限下におかれるためには、「行動終了の号令」も大 切である。つまり、指揮に必須の「行動開始の号令」 までに、被指揮者たちがどう動けばよいのかを明示 すること、一度開始された行動は「行動終了の号令」 によって終わることが円滑な指揮をもたらすといえ る。謝辞
2012 年 10 月、突然に申し出た撮影であったにも 関わらず、「どうぞご覧になってください」と心よく 撮影を許可してくださった郷愛会副委員長、またこ んな分析をさせて頂いていますと草稿をお見せした とき「言ったことが全部字になってる!」と恥ずか しがりながらも、その後も撮影を許してくださって いる郷愛会委員長に心より感謝申し上げます。また、 見ず知らずの我々に「お疲れ様です」と温かい言葉 を常にかけてくださる寶友会委員長のお力添えあっ て今日の研究にいたったことをここに記してお礼申 し上げます。参考文献
[1] AUSTIN, J. L. (1962). HOW TO DO THINGS WITH
WORDS. LONDON: OXFORD UNIVERSITY PRESS. (坂
本 百大 訳 (1978). 『言語と行為』. 大修館書 店.). 第三章 発語内行為の構造 PP 124-127 [2] 榎本美香・伝康晴(2013). 文化伝承を支える 多世代協働インタラクションにみられる「指揮」 と「指導」の分析, 日本認知科学会第30 回大会 発表論文集, PP.122–131.