電気現象を可視化する
MR 電気回路実験システムの提案
A Proposal for MR Electrical Circuit Experiment System to
Visualize Electric Phenomena
程 秋涛
1長谷川 忍
2,1Qiutao Cheng
1and Shinobu Hasegawa
2,11
北陸先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究科
1Graduate School of Advanced Science and Technology, JAIST
2北陸先端科学技術大学院大学
情報社会基盤研究センター
2Research Center for Advanced Computing Infrastructure, JAIST
Abstract: The purpose of this research is to implement an MR (mixed reality) electrical circuit experiment
environment to visualize electric phenomena, especially in high school level electrical circuit. There are some difficulties in understanding electrical phenomena such as learners cannot see such phenomena directly, they should conduct experiential learning but equipment in school is limited, and they must deal with complicated formula. To resolve these problems, we propose an environment that learners superimpose diverse electric phenomena as 3D virtual images on the electric circuit composed of the markers in the real world. In this paper, we will discuss survey of related work, preliminary design of the environment, and a couple of research questions as work in progress of this research.
1. はじめに
高等学校の物理において,コイルやコンデンサな どの電気部品を含んだ電気回路は,生徒にとって理 解が難しい内容である.これは,一般に電気を直接 見ることができないため,各瞬間の回路における電 気現象の様子をイメージしづらいことが原因の一つ として挙げられる[1]. また,電気現象のような物理現象を理解するため には,試行錯誤を伴う実験を通じて体験的に学ぶこ とも重要である.しかしながら,それを実現するた めの実験環境を準備することは学校にとって煩雑で 手間がかかる[2].図 1 に実験室における実験環境の 課題を整理したものを示す.通常の実験では,設備 面,安全面,効率面から様々な課題があるが,特に 実際の電気部品や計測器を使った実験では,誤配線 した場合にその箇所を特定・修正に時間を要するな ど,限られた学校教育の時間内で目に見えない電気 現象を観測・理解するために,効率性は重要な課題 となっているといえる. さらに,電気現象を構成する様々な物理量の間の 関係を示す数式についても理解する必要がある.こ れについては,しばしば実験環境とは別に講義中に 学ぶことがあり,経験的な学習との組み合わせが十 分に意識されていない. 図 1. 現実の実験環境における課題 このような問題を解決するため,近年,PC 上で仮 想的に電気回路の実験を行うシステムに関して, 様々な研究が行われている.前原らは電気回路の各 部の電位を3次元的なイメージで表現する教育用シ ミュレータを開発した[3].このシステムでは,直流, 交流,過渡現象を含めた回路に対して,電位の3 次 元的表示を時間的に変化させことができるものであ る.こうした PC 上の教育用シミュレータは実験機 材等の物理的制約を軽減するという観点からは効果 的であるが,反面,リアリティに欠けることという 欠点があることが知られている[4]. 一方,小薗らは複合現実感技術を用いて,複数の 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B508-06 - 30 -学生が共同で電気実験を実施できる仮想電気実験シ ステムを開発した[5].このシステムでは,電気部品 などの対象物をマーカで代用し,複合現実を用いて 仮想実験環境を構築してから,液晶プロジェクタと USB カメラを利用して,マーカを認識して仮想電気 部品間の導線を投影することで仮想的に電気回路実 験を行える.しかしながら,この手法では実験中の 電位や電流の時間的変化をリアルタイムで観察する ことが想定されていない.このため,学習者の実験 中の体験学習の効果について改善の余地がある. また,馬らはAR 技術を用いて電気回路実験を支 援する教育用ソフトウェアを開発した[6].このシス テムでは,対象とする学習内容に関する情報を画像 パターンとして埋め込むためのQR コードを含んだ マーカとスクリーンボタン(SB)が実装されており, 各 SB の操作に対応する内容の 3D モデルを表示で きる.しかしながら,このシステムでは現実環境と 同じように操作をしながら実験を行うことが考慮さ れていない. これらの関連研究に対する考察に基づいて,本研 究では,手軽に電気回路に対する試行錯誤を行うこ とができ,電気現象を適切な形で可視化する仮想実 験システムの開発を目指している.本稿では,仮想 電気回路実験システムに要求される要件について検 討した後,MR(Mixed Reality:複合現実)を利用した 仮想実験システムの設計方針および解決すべき課題 について議論する.
2. 仮想電気回路実験システムの要件
ここでは,高等学校レベルの電気回路を対象とし て, 前述した関連研究の課題を解決し,経験を通じ て電気現象をイメージできる仮想的な学習環境を検 討する上での要件について議論する. まず,電気現象を直接観察することが難しいとい う課題に対しては,特に電位や電流の時間的変化を いかに観察できるようにするかということが重要で ある.電気現象の説明にはしばしば電位を水位,電 流を水流として表現する水流モデルが利用されるが [7],2 次元的に表現可能な電気回路に対して水流モ デルは図 2 に示すように電位(水位)の高さを表現す る必要があるため,3 次元的な表現を行うことが望 ましいといえる. 次に,実験中の試行錯誤における煩雑さを軽減す るという観点からは,電気部品や計測器を学習者が 容易に組み合わせることができる必要がある.この ような実験を行うキットなども市販されているが [8],繰り返しスムーズに実験を行うという観点から は誤った回路を構成したときに,外部からの支援を 行うことが難しい.そこで,本研究ではCG(Computer Graphics)を利用した仮想的な表現手法に注目する. 図2. 電気現象の可視化 表 1 に仮想化技術の比較表を示す.VR(Virtual Reality:仮想現実)では,仮想空間上の全ての情報を CG で表現するため,3 次元的な電気現象の可視化に は適していると考えられる.しかしながら,電気回 路の構成を変更する際に CG を操作する必要があり, 試行錯誤の煩雑さという点では適していない.また, AR(Augmented Reality:拡張現実)は,スマートフォ ンのカメラなどを通して現実世界に CG を重ね合わ せることができる.AR マーカなどのカメラに映っ た対象物を操作することで CG を操作できるため, 試行錯誤の煩雑さは軽減できる.一方で,複雑なCG を提示することはスペック的にも困難である.これ ら の こ と か ら , 本 研 究 で は 透 過 型 の HMD(Head Mount Display)を利用して現実世界に立体視可能な 仮想空間を融合するMR 技術を利用することが適し ている.このような仮想空間であれば,電位や電流 の時間変化についても様々な表現方法で提示するこ とが可能であり,さらに仮想空間上で数式との関係 を考えさせるといった学習を行わせることも考えら れる. 表1. 関連技術の比較3. MR 電気回路実験システムの設計
3.1 体験学習モデル
MR 電気回路実験システムの利用場所として学校 の教室や実験室を想定した場合,前述したシステム - 31 -要件を達成するためには,(A) 3 次元的な仮想表現, (B) 電気回路の試行錯誤のしやすさ,が重要になる. そこで本研究では,図3 に示すように現実世界で回 路の構成要素を表現するマーカと呼ばれる画像を並 べ,かつ,マーカ型ビジョンベース MR 技術[9]を利 用して3 次元仮想空間に様々な付加情報を表示する アプローチを取る.この手法は,現実世界に配置し たマーカを認識することでマーカとカメラとの相対 的な位置関係を推定し,提示する 3D モデルの配置 をリアルタイムに決定するものである..つまり,学 習者はHMD を装着し,現実環境において複数のマ ーカを手で操作することで電気回路を構築する.さ らに,HMD の前面カメラを使って机の上に配置した マーカを撮影することで,学習者は従来見ることが できなかった電気現象を視覚的に捉えることが可能 になる. 図 3. 体験学習の構想図
3.2 システムアーキテクチャ
現在構想しているMR 電気回路実験システムのア ーキテクチャを図4 に示す.まず,初期化処理とし て HMD の前面カメラを起動し,マーカの認識用デ ータを読み込む.次に,マーカが認識できたらCG 画 像を生成する.さらに,マーカと生成したCG 画像 の位置合わせ処理を行い,マーカで構成された電気 回路に応じた3D モデルを表示する.4. システムの開発に向けて
本研究では,認識精度が高いマーカを作成できる ライブラリ「Vuforia」と,マーカに同期して 3D モデ ルを重ね合わせ表示するための 3D ゲームエンジン 「Unity」をベースにシステムを開発する[x].現在検 討している主な開発手順を以下に示す. 図 4. MR 実験システムのアーキテクチャ4.1 マーカの作成
マーカの作成に当たっては,HMD カメラで読み取 りやすいだけでなく[10],学習者にとってもわかり やすいものを作成する必要がある.そのため,マー カは認識用のID パターンを持つだけでなく,対応す る電気部品(オブジェクト)の情報も付加する.マ ーカの認識精度を向上させるため,画像のサイズや 図形の種類,配色,配置などを考慮し,Vuforia を利 用して画像ファイルとして作成する.4.2 シーンの構築
シーンは,Unity 3D で用いられる用語であり,マ ーカに関する情報と表示する 3D モデルの関係を 記述する.マーカ画像を属性として設定することで シーンを構築する.4.3 マーカの認識
机上に配置したマーカの位置を認識させる手法は ARtoolKit の手法を参考に[10],Vuforia のライブラ リを利用して,撮影した画像と認識用データを比較 してマーカを認識する[11].また,マーカと HMD カ メラの相対的な位置関係を Vuforia のライブラリを 使って推定する[6].また取得した位置情報から電気 回路のオブジェクト間の接続関係と回路としての接 続関係を同定するアルゴリズムを構築する. なお,マーカの認識は,カメラの姿勢,カメラと マーカの間隔,マーカを照らす光の状態など様々な 状況に影響される.そのため,複数のマーカの組み 合わせや学習者の移動に対応できるように,様々な 角度からのマーカの読み取り実験を行う予定である. - 32 -4.4 3D モデルの作成
マーカで構成された電気回路から 3D モデルを生 成するにあたっては,3D モデルの適切な組み合わせ と幾何的整合性を検討する必要がある.幾何的整合 性とは,仮想物体と現実シーンの間の空間的な整合 性を意味する.具体的には,学習者の視点の位置や 向きが変わっても,仮想物体が現実シーン中の想定 した3次元座標に正しく表示され続けるようにする ことである. 電気回路の学習に必要な内容を 3D 表示するため のモデルは,文字や画像などの 2 次元情報と周期的 に変化する電位や電流の状態を示すアニメーション などから構成される.HMD カメラによって取得され たマーカと学習者の位置関係から,構築したシーン の3 次元空間の表示位置を指定する.5. おわりに
本稿では,イメージのしづらい電気回路の学習者 に対して,仮想空間に回路構成のためのヒントや, リアルタイムの電位や電流を3 次元表示することが できる実験環境を提供することで,高等学校レベル の電気回路の理解を促進する本研究の構想について 述べた.HMD を利用した MR 環境を構築すること で,現実空間における複数のマーカの操作を繰り返 し行って電気回路を構築し,仮想空間上で現実には 見えない電気現象を可視化することが可能となり, る.電気現象の理解の促進が期待される. 図 5. MR 電気回路実験システムの研究課題 開発を進める上では図5 に示すようないくつかの 技術的課題が想定される. 1. 組み合わせた電気回路マーカの読み取り:電気 回路を構成するために複数のマーカを組み合わ せて回路として認識するための手法を検討する. 2. 電気現象の表現:学習者の理解を促進する電気 現象の適切な表現手法を提案する. 3. 電気回路からの 3D モデルの生成:ユーザーの視 点や位置が変わっても,3D モデルを現実シーン 中の想定した 3 次元座標に正しく表示する手法 を調査・実装する. さらに,仮想実験環境の開発と評価を通じて,体 験学習を通じた学生の実践能力を高め,教科書から 学んだ知識と理論を深めることに役立つことを示す ことを目指して研究を進めていきたい.参考文献
[1] 大内田恵児、中満貴之、前原俊信:電位を可視化する 電気回路シミュレータ教材の開発, 日本物理学会講 演概要集, Vol. 64 ,No.2 pp.309, (2009)[2] Ahmed Mohamed Elsayed and Shinobu Hasegawa: An Instructional Design Model and Criteria for Designing and Developing Online Virtual Labs, International Journal of Digital Information and Wireless Communications (IJDIWC), Vol. 4, No. 3, pp. 355-371 (2014).
[3] 前原俊信: 立体視型電気回路シミュレータ教材の開 発, 日本理科教育学会全国大会要項, 第 62 回,pp.431, (2012) [4] 近藤智嗣: 複合現実感技術の教育応用, 電子情報通 信 学 会 技 術 研 究 報 告, EID , 電 子 デ ィ ス プ レ イ 106(338),pp.45-50, (2006) [5] 小薗和剛: 複合現実感技術を利用した仮想電気実験 システム(MR 実験室)の構築, 日本教育工学会研究報 告集, 第 10 巻,第 1 号,pp.57-60, (2010) [6] 馬文鵬,伊藤陽介: 電気回路を対象とする拡張現実技 術を用いた実験学習支援システムの有用性,日本産 業技術教育学会誌,第 59 巻,第 1 号, pp.9-18,(2017) [7] 奥村英樹: AR 教材の分類とその特徴に関する一考察, 四国大学紀要, B38 pp.1-11,(2013) [8] アドウィン:”キットで遊ぼう電子回路 No.1 基本編 vol.1”, http://www.adwin.com/product/ECB-100T.html (2017.10.5 access). [9] 馬文鵬, 伊藤陽介, 林秀彦: 拡張現実技術を用いた実 験学習支援システムの構築, 日本産業技術教育学会 誌, 第 58 巻,第 2 号, pp.109-117, (2016) [10] 加藤 博一: マーカー追跡に基づく拡張現実感 システムとそのキャリブレーション, 日本バーチャ ルリアリティ学会論文誌, Vol. 4, No. 4, p.607-616, (1999) [11] 加 藤 博 一 : 拡 張 現 実 感 シ ス テ ム 構 築 ツ ー ル ARToolKit の開発, 電子情報通信学会技術研究報告, PRMU, パターン認識・メディア理解, 101(652), pp.79-86, (2002) - 33 -