1. はじめに
1 ) 研究の背景と目的 中国は 2000 年に高齢化社会に突入し, 2019 年 1 月 に発表された国家統計局のデータによると, 2018 年 末では 60 歳以上の高齢者人口は 2.49 億人で全人口の 17.9%を占め, 65 歳以上の高齢者は 1.66 億人とその 割合はまだ 11.9%と依然 「高齢化」 の段階に留まっ てはいるものの, その規模や高齢化の進展スピードと 言う点において, これまでどの国も経験したことのな い社会を迎えようとしている. 人口構成においても, 労働人口が 2012 年から 7 年に渡り減少し続けている. また介護を要する重度の障害のある高齢者は 1000 万 人以上いるとされており, 中国政府の苦悩もさらに大 きなものとなると言える. このような急速な高齢化に対し政府も急ピッチで関 連する機関の改革, 社会保障システムやサービスシス テムに関する政策や制度の整備を進めているが, 効果 的な社会保障制度, 財源不足等の問題解決策の道筋は 未だ立っていない. 特に近年では都市部の社区において 「社区養老站 (サービスターミナルステーション), 以下社区養老サー ビスステーション」 の建設が進められ果たす役割が期 待されている. この背景には, 社会経済環境の変化に よる一人暮らしの高齢者の増加や家族による介護能力 の弱体化などが挙げられる. つまり, 伝統的な介護体 制が崩壊する中, 社区のような住み慣れた地域におけ る新しい介護体制構築に対する期待や要求が高まって いる. そこで政府が現在推し進めるのは, 基本的には 政府が施設を用意し, サービスは事業者が請け負う形 で低価格サービスを提供する体制である. これはある 意味で民間企業の経営手法を公共部門に提供して効率The Study of Social Well-Being and Development 第 15 号 2020 年 3 月 論文要旨 急速なスピードで高齢化が進む中国において, 現在中国政府は急ピッチで関連する政策や制度の整備を進め ている. 中でも最近注目されているのが社区における養老サービス提供システムの構築である. 行政は, この 過程において住民や様々な社会資源を動員し参画させることの重要性を説いているが, 実態は業者への委託が 中心であり, 公設民営型のほとんどのステーションでは非専門職が少人数で運営を任されサービスの質・量と もに十分とは言えない状況である. 地域福祉を推進するのであれば, 当然住民の参画も必要と考えるが, 行政 はその具体的方針を示せず, 住民も積極的とは言えない. この問題の背景には中国の建国後から現在にいたる までの政治経済社会システムの歴史的経緯が関係しているのではないかと仮定し, 中国のガバナンスと地域マ ネジメントの観点からその特徴や課題を明らかにし, 今後の対策や方向性について提言を行うものである. キーワード:社区養老サービス, ガバナンス, 地域マネジメント, 住民参加
Keywords:Community-based care service, Governance, Community management, Public Involvement
論
文
中国北京市の社区における高齢者養老サービス体制について
ガバナンスと地域マネジメントの観点から
A System of Community-Based Elderly Care Services in Beijing China :
From the Perspective of Governance and Community Management
内
山
智
尋
Chihiro UCHIYAMA
的に事業を展開し活性化を図ろうとするものであると 言える. 高齢者福祉の充実化に向けた取り組みとして 高く評価はされているものの, サービスの内容は介護 の必要ない比較的元気な高齢者を対象としたものが多 く, 例えば中重度の障害がある人達にとり満足のいく サービスが受けられるような環境とはとても言えず, 量, 質とともに改善の余地は大きいと言える. また, 社区で推進される事業において, 近隣住民の 参画の重要性を行政通知文書1の中では唱っているも のの, 社区に住む居民委員会等の住民幹部たちが時々 ボランティアで手伝いをする程度で, 一般の住民を巻 き込んだボランティア活動や自主的なサポート活動な どはほとんど存在していない. これはつまり, 政府と 住民の間には“協働”という概念はなく, ガバナンス が意味する多様なアクターが主体となり公的課題に関 与するという構造が存在していないということになる. 社区の養老サービスステーションの運営を民間業者 に委託し, 民営化を進める状況は, サービスの向上を もたらし, 人々に開放的で自由な選択肢が増える印象 を与える. 一方で, 実態は行政による計画的な事業推 進の構想が存在するわけでもなく, 民間業者のサービ ス全体の評価や指導は十分に行われているとは言えず, 住民による自主的な活動も奨励されない現状は, 社区 の活動が閉ざされた介護空間となる危険性を有してい るともいえる. このような状況に対し, 本論文では, 社区における 養老サービス体制や制度について, ガバナンスや地域 マネジメントの観点から分析し, その特徴や課題を明 らかにし今後の展開につながる解決策について考察す ることを目的としている. 2 ) 本論文の構成 研究目的を達成するためのリサーチクエスチョン (RQ) として以下の 3 つを設定する. RQ 1:中国のこれまでの政治経済社会システムが現 在の社区における養老サービス体制にどのよ うな影響を与えているか? RQ 2:社区養老サービスステーションでの請負業者 によるサービス提供の実態とその管理体制は どのようになっているのか? RQ 3:社区の住民や他の社会資源の高齢者養老サー ビス事業への関わりはどのようになっている か? 以上 3 つの RQ に答える形で現在の社区における 養老サービスの実態や課題を明らかにし, 今後への提 言へとつなげる形で以下論文を書き進めていく. まず 最初に, 中国の高齢者福祉制度が社会主義体制のもと 如何に変遷し, それが現在の社区養老サービス体制へ 如何に影響を与えているか, 主にガバナンスの観点か らその特徴を明らかにする. 次に社区養老サービスの 実態について, 実際に行ったヒアリング調査結果等を もとに, 地域マネジメントの観点から, サービスの質 や量, 公平性等について見ていきたい. 3 つ目では, 社区の福祉事業推進に必要な住民等の参画の実態はど のようになっているのか, 制度的な支援政策等は存在 するのかなど, 住民の立場にたち社区の構造を明らか にしていく. 最後にまとめとして, 主にガバナンスや 地域マネジメントの観点から, 今後の社区における養 老サービスの方向性について提言を行うこととする. 3 ) 関連する先行研究 中国における在宅介護を重視する流れを受けて, 社 区システムの変遷や実態, 特に中国建国後の 「単位」2 による管理, 街道3や居民委員会4といった組織によ る住民へのサービス提供, 改革開放後の市場主義の流 れの中で変化する社区レベルの管理体制についてその 歴史的経緯を明らかにしたものは多い. ガバナンスは 中国では一般的に 「治理」 と言われており, 多くの研 究者は社区の変遷を 「社区管理」 から 「社区治理」 や 「社区運営」 へ発展していくと捉えている. 中国のガ バナンスが発展段階にあり, 管理から抜けきれない現 状について指摘している例もある. 例えば, 中南大学 の傅教授は中国の伝統的なトップダウンの管理体制の 問題を早急に解決する必要性を強調している. 一方で, 張などは発展経緯を, 改革開放後の市場化導入による 「社区サービス時期」, 2000 年からの社区の管理体制 と社区のあり方を再考する 「社区建設時期」, そして 2010 年から現在に至る民生重視の 「社区福祉の段階」 と分けており, 政府の方針が多元的主体によるボトム アップ式の社区建設を目指していることを指摘してい る. まさに社区福祉, つまり日本でいう地域福祉に近 い概念のもと住民参加の社区建設の実践段階に来てい ることを論じている. 劉の社区の形成に関する研究で は, 住民の共感の弱さとその原因を指摘し, その対応 策の一つとして共通利益を実感できるハード整備を挙 げているが, 具体性に乏しい. いずれにしても, 現在 のガバナンスに対する問題を指摘する論文は多いが, 具体的にどのような対策が求められるか分かりやすく
示した先行研究はあまりない. また, 地域マネジメントの考え方はこれまでのトッ プダウンのガバナンス体制の影響のせいか地域レベル においてほとんど存在しない. 先行研究においても, 国レベルの政策方針や社区サービス体系計画, 介護保 険制度, ステーションの建設基準やサービス基準など に関する研究はあるが (陸潔華, 2018), マネジメン トの観点から問題を指摘した先行研究はほとんど見つ けられない. 民間企業の参入による介護の市場化の研究も多くな されている. 主に市場化によるサービスの質の向上を 肯定的に論じたもの, また課題として, 包括的な計画 がないこと, 政府, 企業, 住民による三者の連携がな いこと, 不十分なサービスの管理体制等を課題として 取り上げる論文も少なくない (陳, 2018). しかしな がら, この実態についてガバナンスやマネジメントの 観点から論じたものはほとんどない. 全体的に現在の研究は実態を明らかにすることや政 策に関する課題を指摘するものが多く, その経緯を丁 寧に分析したものや具体的対策に関する提言まで踏み 込んだ先行研究は非常に少ないと言える. 4 ) 研究方法 政策の変遷等については文献を中心に調査を進める. また社区における介護事業の状況については, 2019 年 2 月に実施した北京市中心部にある朝陽華威西里社 区高齢者養老サービスステーションの現地調査 (主に ヒアリング調査) 結果をもとに実態について検証する. 調査に際しステーションの責任者, 運営担当者の 2 名 が施設の案内, 説明等を行ってくれ, メモを取る形で ヒアリング調査を進めた. このステーションを選択し た理由は, ステーションを運営する企業が自ら持つ医 療ネットワークを活用し, 北京で最も早く介護に医療 的なサービスを結合させ, 慢性疾患の管理や健康教育 等を積極的に展開する特徴あるステーションとして注 目を集めている所だからである. 現在中国政府が推し 進める 「医療と介護の結合」 を実践するモデル的なス テーションでもあり, 対外的にも大いに宣伝している ため外国人の立ち入りに関しても比較的寛容であった ことも原因といえる. とはいえ, やはり外国人の訪問 には非常に敏感であることから, 関係者からの紹介が なければ実現しない調査であったといえる. 本研究は日本との比較研究ではないものの, 実際に は日本の地域福祉の取り組みも参考にし、 提言を行う ことは避けられない. 研究をする上で, 中国の社区と 日本の町内会のような地域コミュニティを同様に取り 扱うことができるかという問題に対しては, 双方が 「日常生活圏域」 を想定していることや公共福祉の土 台として位置付けていること, 高齢者の交流する拠点 もあることなどから, 日本の地域コミュニティとを参 考にすることは可能であると考える. また, 中国では 社区において地域包括ケアシステムのような総合的な ケアシステムの構築を目指していくとしており, 政策 面での整合性もあり参考にする意義は大きいと考える.
2. 中国都市部の社区における高齢化政策及
び養老サービスシステムの概要と変遷
中国建国後から現在に至るまでの高齢者介護に関す る政策全体を見てみると, 以下の表 1 のようにまとめ られる. この表は政治経済的な視点と高齢化対策の二 つの視点から現在に至るまでの高齢化政策の流れを, 出所にある文献を参考にしつつ, 筆者独自の考えのも と 5 つの時期に分けたものである. まず, 1949 年から 1977 年までの計画経済時期につ いてであるが, 改革・開放前までは都市住民は, 国有 企業, 集団企業, 国家機関, 病院, 大学等の事業機関 に勤め, それぞれの 「単位」 と呼ばれる所属機関を中 心に, 食・住に関する生活の営みを企業に担ってもら うという社会主義社会を享有してきた. 職員のために, 単位は, 住宅, 医療, 年金, 交通, 教育, 福祉サービ スまでも何らかの形で保障することが義務付けられて いた. まさに単位とは生活共同体であり, 従業員は日 常生活のあらゆる面で単位の枠組みに依拠していたと いえる. それはつまり, 個人が完全に単位に従わざる を得ない環境であったと言える. 個人は全てにおいて 単位, 国家に従うことで初めて資源, 利益, 機会, 身 分, 自由, 権利を得ることができたというわけである (劉 2018:67). このように国が絶対的権力をもつ中 では, 自由な議論は難しく個人や単位の自主性は抑え られ, 社会全体の活力も失われていく. その後, 1978 年からの改革開放に伴い, 市場経済 が導入され, 単位が崩壊するとともに, これまで保障 されていた福祉サービスの提供が単位から徐々に切り 離され社区へと統合されていくことになる. とはいえ, 社会で提供しきれない養老サービスなどは家族の負担 として重くのしかかり, 社会的な不安が高まっていく. このような背景の中, 1978 年に国民の民生を担う表 1 中国高齢者政策および養老サービスシステムの制度面における変遷 は北京市に関する内容 政治経済的背景 福祉政策・体制 高齢者介護に関する主な政策 特 徴 計画経済時期 (1949∼1977) 社会主義社会 【政府主導期】 (家族と単位による “ゆりかごから墓場 まで”) ・1953 年:社会救済を基に生産教養院の建 設, のちの養老院 ・1961 年:「三無老人5 」 に対する救済 ・単位による全面的な保障 ・60 年代の文革の影響で福祉機能はストッ プ ・高齢者介護事業も頓挫 改革開放 政策初期 (1978∼1985) (市場経済化 開始) 【新セーフティネッ ト模索期】 ・1978 年:民政部の設立 ・1984 年:“社会福祉の社会化”を打ち出 す ・単位制の崩壊が多くの失業者をもたらし 社会問題が深刻化 ・救済型から福祉型への動き 市場経済 構築期 (WHO 加盟 準備期) (1986∼1999) 【福祉事業構築期】 (介護の社会化) (1999 年高齢化社会 に突入) ・1986 年からの“第 7 次五ヵ年計画 (1986 ∼1990)” ・1989 年:“全国社会福祉事業単位の改革 に関する座談会”にて社会福祉事業のさ らなる社会化を強調 ・1994 年:“第十回全国民政工作会議” ・《 中 国 高 齢 工 作 七 年 発 展 要 綱 (1994∼ 2000)》 ・1996 年:《中国高齢者権益保障法》公布 ・1999 年:“全国老齢工作委員会”の設立 ・健全な社会保障制度の構築を目指すこと を明示 ・この状況を受けて政府は早急に地域にお いて福祉事業を推進する方向性を打ち出 す ・社会資源を活用し社会福祉事業を発展さ せることを要求 ・個人や社会組織による敬老院や老人福利 院, 医療リハビリセンター, 高齢者用ア パート等の開設をサポート 市場開放 本格化 (2001 年 WHO 加盟) (2000∼2010) 【社区, 在宅介護 (初期)】 (在宅が基礎, 社区が 拠り所, 施設が支え) (2000 年 高 齢 化 率 : 7.10%) ・2000 年:《社会福祉の社会化実現に対す る意見書》 2000 年《北京市養老サービス機構管理方 法》 ・2001 年:「全国社区老人福祉サービス星 光計画」 (民政部) ・2005 年:《社会資源を活用した福祉施設 の創設に関する意見書》 ・《民政事業発展第 11 次五カ年計画(2006− 2010)》 2006 年《養老サービス業の加速発展に関 する意見》(全国老齢委員会をトップに 関係機関が合意した内容) ・2008 年:《在宅養老事業の全面的な推進 に関する意見書》 ・《高齢者サービス施設の税収に関する通 知》 2008 年:“9064 (90%を在宅で, 6%を社 区で, 4%を施設で) ・政府による高齢者施設等に対する優遇政 策を明確化 ・社会全体の協力の下高齢化事業を推進す る必要性があることを強調 ・在宅介護の推進を重視することを明言 ・税制度において, 新たな在宅養老サービ ス業, 社区の在宅養老サービス事業の整 備に対する優遇政策を打ち出す ・“在宅介護を基礎とし, 社区サービスを 拠り所とし, 施設介護を支えとする”方 向性を明確化. 中国の特色ある養老サー ビスシステムの整備の必要性を強調 経済成長率の 鈍化 (格差の拡大) (2011∼現在) 【社区, 在宅介護 (推進期)】 (サービスの対象, 内容の拡大と質の 改善, 管理体制の 強化) ・2011 年:《社会養老サービスシステム建 設計画 (2011∼2015) に関する通知》 ・第 12 次五カ年計画 (2011∼2015) にお いて高齢化事業の推進が加速 ・医療と介護の連携の重要性を認識 ・2012, 2015 年に 3 回にわたり改定:《中 国高齢者の権益保障法》 ・2013 年:《国務院養老サービスシステム 業の発展加速に関する若干の意見書》= 養老サービスの基礎 2013 年:《北京市人民政府の養老サービ ス業発展加速に関する意見書》《高齢者 施設建設加速の実施方法に関する通知》 2015 年:《北京市在宅養老サービス条 例》 ・「政府主導, 社会の参画, 全住民の行動 の結合」 「社会経済の発展と高齢化事業 の結合」 高齢化問題と高齢者の満足度重 視の結合」 など, サステイナブルな高齢 化事業の発展の必要性の明確化 介護の産業化が進む ・「高齢者施設」 「政府によるサービスの購 買」 「社会資本の導入」 「金融サポートお よび業界基準の設定」 など具体的な規範 を出す 在宅介護のさらなる発展を実現するため に, 介護互助保険制度, 要介護者へのサー ビスシステム整備, 独居老人への介護, ICT を活用したサービス推進の必要性を 説明
“民政部”が設立され, 社会保険によるサービスの展 開, つまり社会福祉の社会化がいよいよ本格的に始ま る. この時の社区の位置づけであるが, 党の管理が強 化され, 政府は単位に変わって社区に対して党の方針 や政策を教育という形で住民へと強制していくように なる. 1986 年から始まった第 7 次五ヵ年計画において初 めて社会保障制度やその社会化について提示され, 「社区服務」 (社区サービス) という言葉も新しく生ま れてきた. これは 1987 年に民政部より提唱され, 「都 市部の市区・街道・居民委員会という中国都市部の地 域社会における行政組織と民間組織を中心に行われた 地域福祉的な小行政地域内社会サービス事業」6 と定 義づけられている. この時期に「社区福祉は社会が行 う」という考えが導入され, 具体的には, 施設介護を 中心に介護の社会化が推進された. 政府による管理が 主導型から徐々に指導型へと移行したのもこの時期の 特徴と言える. 1989 年には社区福祉を全国範囲に拡大することを 決定し, 社区サービス施設の建設を積極的に進めてい くことが決められた. しかしながら, 実際は財政的な 困難により数量の不足や質の悪い粗末な設備の増加と いう問題をもたらした. そのためさまざまな資金調達 ルートの幅を広げ, 民間の参入も認めることで何とか 住民の物質的生活や精神的生活の向上に役立つ各種の 福祉サービスを提供することに努めた. このような変 容をもたらした主要な社会的な背景としては, 人口の 急速な高齢化の問題や, 核家族の急増, 生活の多様化 により, 人々に新たなニーズや考え方が出現したこと 等が考えられる. この時期は経済的にも WHO の加 入を目指し, 急速に市場経済化を推進していた時期で あり, 金融制度などの改革も急速に進められた. つま り, 企業から社会保障の負担を軽減することで国際的 な競争力を強化する必要があったことも社会保障改革 の一つの要因であったと言える. 2000 年, 中国は高齢化社会に突入し, 政府が介護 2014∼2016 年:“北京市高齢者施設養老 センター 3 年建設実施計画” ・《公設高齢者施設の改革モデル事業の通 知》 ・《政府の養老サービス事業購買に関する 通知》 ・13 次五カ年計画 (2016∼2020) でさらな る推進 ・2017 年:《第 13 次五カ年計画, 国家高齢 化対策事業の発展と養老体系建設に関す る計画》 2017 年:訪問医療サービス一覧の制定 2017 年:《北京市社区養老サービスステー ション建設計画 (2016∼2020)》 2017 年:《全面的な養老サービス市場の 導入による養老サービス業の発展促進の 実施に関する意見書》 ・《スマート健康養老産業発展行動計画 (2017∼2020)》 市政府, 市老齢委などが 「医療衛生と養 老サービスの連携」 「リハビリ医療サー ビスシステム建設に関する意見書」 など 50 余りの政策文書を制定 2019 年:《高齢者施設等級分けと評価》 《北京市老人能力総合評価実施方法 (試 行)》 ・2019 年:《養老サービス発展の推進に関 する意見書》 ・高齢化のもたらす活力とチャンスの発掘 の重要性を強調・健全な社会保障システ ム, 養老サービスシステム, 健康に対す るサポートシステム, 高齢者の消費市場 の充実, 高齢者の住みやすい居住環境の 整備, 高齢者の権利などに関し整備を進 める いくつかの国営企業が受託して社区にお ける事業展開を精力的に進める 1000 箇所社区サービスステーション建設 計画 (5 年間) 養老サービスの体系の多層化 ・2020 年までに全国に 500 箇所のスマート 健康養老モデル社区を建設予定. 工信部, 民政部, 国家衛生健康委員会により公布. ・施設とサービスの質に関する 102 の要求 に基づき 5 つのレベルに分け, 五つ星が 最上級. ・28 条の具体的な方法を提示. サービスの 種類・質・提供方法・費用, ICT の活用, 生涯教育, 施設整備, 安心出来る消費環 境など 出所:“首都特色的老服管理体制研究 (首都の特色ある養老サービス管理体制研究)”陸潔華等 北京養老産業藍皮書 2018 年 等を参照し筆者作成
事業推進の必要性を意識するのもこの頃と言える. 中 国は 2001 年に WHO 加盟を果たし, 経済的な発展を 遂げる中, 加盟に伴う外圧のもと社会保障制度の整備 も強力に進めていった. 2000 年代には国務院や民政 部から関連する様々な法令や制度が公布されることに なる. ただ, 財源とサービスの不足の課題を認識した 政府は, 社区や民間団体などのいわゆる 「社会」 によ るサービスを発展も視野にいれ“在宅介護を基礎とし, 社区サービスを拠り所とし, 施設介護を支えとする” 方向性を打ち出し, 本格的に社区を拠点とした高齢化 対策事業がスタートする. 北京市でも 2000 年に《北 京市養老サービス機構管理方法》が打ち出され, 民政 部を中心とした管理体制がスタートする. その後, 高齢化率のさらなる高まりとともに, 全面 的で本格的な対策が実施され始めたのは 2011 年ごろ からと言える. 2011 年に第 12 次五ヵ年計画が打ち出 され, 高齢化事業と産業の育成や社会資本による養老 サービス事業体の設立が奨励される. また, この時期 にはサービスの対象, 内容, 質, 管理体制に関する様々 な条例や規定が出され, その内容はより細かく実務的 な内容を含むものに変わってきたと言える. 特に注目 すべきは, 在宅介護を推進するため, 社区を中心とし たサービスシステムの構築を早急に進めていることで ある. 2016 年に打ち出された第 13 次五ヵ年計画では, “政府主導, 社会の参画, 全人民の行動を結合させる” ことが強調され, 社会や住民の参画が大いに奨励され ることになる. これを受けて, 北京でも誰もが 15 分 から 20 分以内にたどり着ける社区養老サービスステー ションの建設が急ピッチで本格的に進められることに なる. これまでの政治経済社会と介護政策を俯瞰してみる と, 計画経済から市場経済へと移行し, 本格的な市場 開放がなされる中, 社会保障体制も段階的に変化して いるのが理解できる. サステイナブルな高齢化事業の 発展の必要性を強調し, 産業化を進めることで経済と 社会保障事業のバランスをはかろうというのが政府の 方針である.
3. 北京市の社区養老サービスステーション
の実態
北京市統計局によると, 2018 年末の段階で, 北京 の 60 歳以上の高齢者人口数は 364.8 万人で全人口 (6 ヶ月以上の常住者) の 16.9%, 65 歳以上は 241.4 万 人で 11.2%であるとしている. また, 2020 年には独 居老人または子供が家を出て高齢者のみの生活を送る 人が 1.18 億人になると予測している. 介護の必要な 高齢者数 (失能老人7) は約 16 万人いるとされており, 政府は早急な介護体制の整備が必要であるとし, 社区 レベルで様々な企業や組織の参画するサービス提供体 制 が 構 築 さ れ つ つ あ る . 特 に 第 13 次 五 ヵ 年 計 画 (2016 年∼2020 年) により, 在宅介護や公共サービ ス施設の充実が主要課題であると位置づけられると, 高齢者の飲食, 生活支援, 娯楽, メンタルの健康など に配慮したサービスを提供する企業が続々と介護業界 に参入してきた. また, 医療と介護の結合が社区サー ビスの中でも重要視されるようになる. 中国の特徴的 な取り組みとしては, スマート産業の発展が挙げられ る. インターネットやスマートフォンを活用したサー ビスの提供は, 行動の不便な高齢者にとり貴重なツー ルとなり, また個人の健康管理や緊急事態の対応にお いても欠かせない道具となりつつある. 2018 年末の段階で北京市において既に 680 箇所の 社区養老ステーション (そのうち農村地区には 230 箇 所) が建設され, 2020 年までに 1000 箇所の建設を計 画しているという. 今回視察調査を行った北京市朝陽区華威西里社区養 老ステーションの状況は以下とおとりである. ) 施設の紹介 北京で最も大きいアンティークマーケットからほど 近い場所に位置する昔ながらの団地が並ぶ一角にある. 2017 年に建設された新たしいステーションで広さは 約 300 平方メートル, 周囲には約 1500 世帯が生活し, 会員は 760 世帯. 入口から入ると左のスペースは遠隔 による診断や教育が行われるスペースで大きなスクリー ンが設置されている. 施設内には 4 畳ほどのテーブル が置かれ, 高齢者が簡単な作業や交流が出来るように なっている. その横にはマイナスイオンを出すという 機器が 8 台ほど設置されている. 6 畳ほどの小さな部 屋も 3 つほどあり, 一つはマッサージ室, 二つ目はベッ ド 3 床が置いてある点滴部屋, 一番奥には事務室があ る. ) 企業の状況 北京麗湾国際管理コンサル会社と北京維拓時代北京 建築設計集団の合弁会社である北京九齢麗湾養老サー ビス有限公司が運営する公設民営型のステーションで ある. 特徴としては北京医師会や糖尿病協会, 中国老 年科学研究センターなどの医療関係機関や病院と強い連携関係にあり, ステーションの運営でも健康を重視 した取り組みと, 慢性疾患の管理や薬品に関する指導 など, 専門的な知識と科学的根拠に基づいたサービス を実施していることであるという. ) サービス内容 このステーションでは看護師が 2 名おり, 交代制で 1 名は日中は常に常駐している. 基礎的な看護が可能 であり, 手術後のケアに関するアドバイス, 慢性疾患 のケアサポート, 薬に関する指導, 漢方によるケアや 心理相談, リハビリなど健康維持のためのサポートを 提供している. 会員の自宅にはステーションとすぐに 繋がる回線が無料で提供され, 緊急時にはすぐに連絡 できるようになっており, 医者や救急車も呼べるとい う. 寝たきりの高齢者の自宅には定期的に看護師が訪 問しており, このおかげで病院の利用数が減っている という. 固定電話には, 掃除や食事などが頼める 「便 利サービス」 ボタンもあり必要時にはボタンをプッシュ するだけでつながる仕組みになっている. ステーショ ンに来られれば 1 食 15 元でお弁当も提供している. 会費は年間 360 元で, 無料と有料のサービスた用意さ れている. 利用者は基本的には元気な高齢者がほとん どであり, 認知症の高齢者の受け入れは行っていない. 理由を聞いたところ, 対応に困り周りの人の迷惑にな るからという. ) 地域の他機関との連携状況 (行政機関も含む) 契約を結ぶいくつかの病院等と遠隔教育や治療をお こなう際に協力を得られるようで, 周囲の病院や医療 関係機関とは高齢者の緊急時の対応の際に協力を得て いるという. 行政からの監督や指導についてはほとん ど行われていない. ) 事業の運営管理状況 ステーションの利用者は一日のべ 80 名程度で, イ ベント時には 100 名程度集まる. 経営は会費に頼る部 分が大きく, 現在 2 名の常勤スタッフがいるが, 大変 苦しい状況だという. 現在社区内に 800 平米の介護施 設を建設中である. ) 住民同士の互助体制, ボランティアの参加など 社区に住む 7 名の高齢者のボランティアがサポート を行っており, 彼女たちは主に居民委員会の幹部たち である. そのほかの住民の参加, 協力は特に見られな い.
4. 中国都市部の社区養老サービス体制の特徴
今回の調査活動や文献調査より中国社区における養 老サービスの取り組みについていくつかの特徴を抽出 してみたい. サービス市場の関係は以下図 1 のようになっている と言える. 政府は民間企業のサービスを買う, つまり 公的資金を導入することで民間企業のサービスの価格 を抑え, 廉価な価格でのサービスを実現している. つ まりそこには準市場の仕組みが存在し, 公的責任を残 しつつ, サービス供給主体の多様化によるサービスの 質の担保, 多様化を目指そうとしている. 日本の介護 保険制度の準市場に関する研究も多くされているが, このような仕組みは, 社会的包摂や公平, 公正に立脚 すべき福祉の世界においてどれだけ効果的, 持続発展 的に展開していけるかは大きな課題であると言える. それは, 日本でも中国でも同じことが言える. 次に社区養老サービスの特徴を図で表すと図 2 のよ うになる. 図 2 からも分かるとおり, 政府機関が民間業者に業 務を委託し, 委託された民間業者はそれぞれの運営方 法でサービスの種類や人員を配置しサービスを提供す る. 社区には全住民を対象にサービスを実施する 「社 区サービスステーション」 があり, ここでも高齢者向 けの支援を行うが, 養老サービスステーションとの連 携はあまり見られない. 一方, ICT により会員であ る高齢者は常にステーションとつながっており, 必要 に応じた生活支援や健康相談等のサービスはいつでも 受けられる環境にある. また宅配サービスの発達した 都市部では必要なものや食事などはすぐに家まで届け られ, 家電や家具の修理も廉価ですぐに提供される. 養老サービスステーション内には比較的元気な高齢者 が来やすい環境があり, ある意味介護予防的な役割を 果たしていると言える. 以下, 2 つの観点から現状に ついて分析を行う. まず, ガバナンスの視点からはどうであろうか. 少 し補足説明をすると, 「ガバメント」 は上から社会を 統治する政府を指し, それに対して 「ガバナンス」 は, 政府が公共的な機能を独占するのではなく, 企業や民 間組織, 住民など多様な主体と連携・協働を通じて共 同的に統治を行うことを指す. つまり, ガバメントか らガバナンスに変化していく過程で, 垂直権力から水 平権力へと移行し, その中で住民や民間組織等が意思決定に参加することが求められてくる8. 中国では建国後から経済計画時期にかけては強力な 政府の主導のもと全てが上意下達式の管理が行われて いた, つまりガバメント体制であったと言える. その 後 80 年代から 90 年代にかけては, 介護の社会化が提 唱されたことにより, 様々な社会資源を活用して施設 建設や管理が推し進められていく. そして 2000 年以 降は在宅, 社区での介護が進められるにつれて, 民間 企業や団体組織による参入が大いに推進され, 高齢者 介護事業に参画するアクターは明らかに多様化し, 政 府も民間組織や企業, 住民と連携や協働を通じた事業 の推進を歓迎している. つまり, より多くの主体が参 画する多元化の体制が作られることが期待されている. しかしながら, 現在の中国において本当の意味でのガ バナンス, つまりパートナーシップの考え方に基づい た相互作用は存在するであろうか. 行政の目的とは, 国民一人ひとりの生活の質 (QOL) を高めることに ある. そしてそれを実現するために住民が行政プロセ スに参加し自分たちの生活の管理を行う責任を権利と して主張することができることが大事であると考える. 今回のヒアリング調査からは, 住民と政府の協働の話 は伺えず, そのような計画も確認することはできなかっ 図 1 中国のサービス供給における三者関係 (準市場の仕組み) 出所: 中国養老服務の政策選択 世界銀行集団, p45 を参照に筆者作成 ᐭ㑐ଥㇱ㐷 䉰䊷䊎䉴ឭଏ⠪ 䋨᳃㑆䉰䊷䊎䉴ᬺ⠪䋩 䉰䊷䊎䉴ኻ⽎⠪ ฃ⸤ ᆔ⸤䋺ᐭ䈏 䉰䊷䊎䉴䉕ഥᚑ䇮 ⋙〈 ૐଔᩰ䈱䉰䊷 䊎䉴ឭଏ ⽶ᜂಽ৻ ㇱᡰᛄ䈇 ᮭ䈱㓚 ᔅⷐ䈭ᖱႎ 䈱ឭଏ 図 2 社区養老サービス供給の全体像 出所:筆者作成 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 ␠䈱ో᳃ 䊗䊤䊮䊁䉞䉝䉇ኅ 䉰䊷䊎䉴䈮䉋䉎 ↢ᵴᡰេ ⼔䇮䊥䊊䊎䊥 䋨৻ㇱ䊂䉟 䉰䊷䊎䉴䇮 䉲䊢䊷䊃䉴䊁䉞 䉕䉃䋩 ቇ⠌䇮ᇅᭉ䉕⒳䈮 䈚䈢ᵴേ ⋴⼔Ꮷ䈮䉋 䉎ஜᐽᜰዉ 䉇⸰ක≮ ICT ␠䈮䉃㜞㦂⠪䋨ળຬ䋩 ␠㙃⠧䉰䊷䊎䉴䉴䊁䊷䉲䊢䊮 Ꮢᐭ ᐭ ⴝ ␠ળෳട ␠ዬ᳃ᆔຬળ ᐭਥዉ ડᬺ䇮␠ળ⚵❱ ో᳃䈱 දജ ᆔ⸤ ␠ⴡ↢ 䉰䊷䊎䉴 䉶䊮䉺䊷 䋨ೋ⚖ක ≮䉰䊷䊎 䉴䋩 ㆇ༡ ␠ 䉰䊷䊎䉴 䉶䊮䉺䊷 ∛㒮䇮 ᣉ⸳ 䊈䉾䊃 ቛ㈩ 䉰䊷䊎 䉴
た. 住民の参画を重視している政策を打ち出していな がらもその具体的な方法は示されず, 財政的な支援策 などもほとんど存在せず, 住民による主体的な取り組 みはなかなか進んでいないのが現状と言える. 中国人 研究者の間でも改善に向けて政府機能の見直しが必要 だとする声も少なくない. 次に地域マネジメントの視点から見てみたい. 地域 マネジメントとは, 「地域の実態把握・課題分析を通 じて, 地域における共通の目標を設定し, 関係者間で 共有するとともに, その達成に向けた具体的な計画を 作成・実行し, 評価と計画の見直しを繰り返し行うこ とで, 目標達成に向けた活動を継続的に改善する取組」 (地域包括ケア研究会 2016) と定義され, まさに日本 では地域包括ケアシステム構築の工程管理といえる. 具体的には, その地域の人口構成や健康状況, 社会資 源の状況, 将来的な予測に関することを如何に行政や 専門職, 自治体や住民が共有し一緒に認識できるかが 重要になってくる. またさらに 「統合ケア」, つまり 治療から介護, リハビリテーションなどに関するサー ビスを如何に投入し, 分配, 管理していくかという考 え方も非常に重要な概念である. 中国においては, この部分は非常に弱いと言える. マクロ的な視点からの方向性は示されても, それを実 践する技術や方法が社区の現場レベルにおいては培わ れていない. つまり, これまでのトップダウンのガバ ナンス形態に慣れ, 現場が自ら変化する環境に対応し, 事業の計画や変更を通じて効率的な事業を実施すると いう目的を達成することの重要性がよく理解されてい ないと言える. それは, 中国がまだ 「管理」 の段階に とどまっていることを意味していると言えよう. 現場 のアセスメントを通じて高齢者のニーズを把握し, 高 齢者が自分の意思に基づき尊厳ある生活を送るために ステーションは何ができるか, 一人ひとり違う要望を どこまで尊重できるか, といったことが現場レベルで 議論され計画策定が行われるような体制の構築は進ん でいなのが現状である. 住民の意識から見たらどうであろうか. 日本は 1961 年に 「皆保険・皆年金」 を実現してから 80 年代 に高齢化福祉への本格的な取り組みを始めるまで 20 数年の時間があった. 中国は 2010 年ごろからやっと 全国民適用の社会保障体制を整備した状況である. つ まり, 個人が背負いきれない負担を社会全体で分かち 合うという社会保障制度に対する考え方は浸透し始め たばかりと言えるだろう. 日本は戦後の公衆衛生や地 域福祉の活動において, 住民参加型のアプローチは様々 な場面で展開されていた (倉持, 2012). 一方中国で は, 社区における課題を住民が団結して解決するといっ た協働作業のチャンスがないことで共通利益や共感と いった感情が育まれる機会が少なかったと言える. よっ て, 養老サービス政策においても住民の貢献が期待さ れているものの, 現段階では住民はあくまでもサービ ス対象という受身の存在であり, また政府による支援 策もほとんどないため, 住民や高齢者自身が主体的に 活動を自分ごととして展開していくのは難しいと思わ れる.
5. まとめ―中国都市部の社区養老サービス
に関する方向性と検討課題
中国では試験的なモデル事業がスピード感をもって 展開されるが, さすがトップダウンの力の強い中国で ある. ただ, 事前に綿密な調査や計画が立てられるわ けでもないため, 持続発展性などといった視点はほと んど考えられていない. あるのは, 「行政主導, 社会 の参加, 専門的な運営」 といったスローガンや, 4 つ のレベルによる管理 (市, 区, 街道, 社区) 体制で実 施してくという方針, そして高齢者に寄り添ったサー ビスとして 「三辺 (周辺, 身近, ベッドの傍)」9 といっ た考え方である. 管理体制を強化し, 企業の参入の奨 励に力を入れていることは調査からも明らかになった. しかしながら, そこから見えてこないのは, 地域にお ける活動計画が如何に立てられ, 社会, つまり企業や 非営利組織, 住民といった多様なアクターがどのよう に参画し, 行政とともに社区を築いているかという点 である. 一般的に日本の地域の共生システムにおいては, 政 府, 高齢者施設などを運営する社会福祉法人や医療法 人, 民間組織, 企業, 専門職, 住民, 家族などが自分 たちの置かれている状況やコミュニティの状況につい て公平性や効率性, 平等といった観点から評価するこ とを目指して取り組んでいる. 方法は様々であるが, 例えば住民集会でワークショップを開いたり, 住民運 動であったり, パブリックコメントであったりする. こうした取り組みは十分に機能しているとは言えない 部分もあるが, つまり, 課題の認識, 計画策定などの 過程に対話があり交流が存在し, 政策提言の役割も果 たすことになる. この観点から北京の社区での取り組 みを見る限り, このプロセスは存在しない. つまり,本当の意味でのガバナンスは存在せず, 社区において 互酬的な関係は成り立っておらず, 市民としての意識 も醸成されているとは言い難い. 多くのアクターは政 府の協働パートナーとして社区の形成に参画するまで には至っていない. 社区とはまさに共生の社会と言える. 本来は確立さ れた個人の生活とともに, 多様性に富む他者の生活と 連帯し, 統合された営みが存在するものである. もと もと民族や言語, 宗教など多様性に富む中国であるが, 社区における異質性, 多様性を認める寛容さは弱く, 分離または排除する傾向にあると言える. 今まさに包 摂的 (インクルーシブ) な考え方が求められていると 言えるだろう. しかしながら, これまでの政治体制の 下, 住民自身が団結し課題を解決することが求められ てこなかったことが今の住民同士の関係性の構築を難 しくしている. 政府が地域の力を活用する方向性で進 むならば, ある程度住民たちの自立した活動を行政が 後押しすることも重要であろう. 政府はそのジレンマ を克服し, 一歩踏み出す勇気を持つ必要があると考え る. 平等, 公平, 公正といった考え方も, 公共政策には 非常に重要と言える. 実際に社区サービスを委託する ケースが多いが, サービスの公平性, 公正性, 質の確 保をするためには, 活動のモニタリング評価が欠かせ ない. 民政部門, 衛生部門, 財政部門, 建築部門など 関係部門が連携し共通の基準や指標の設定が必要であ る. 加えて地域の住民のニーズを探るアセスメントも 必要不可欠である. そうすることで, 本当にサービス が必要な対象者にニーズにあったサービスを提供する ことが可能になり, 計画に基づいた工程管理も実現で きる. 最後に, 福祉の評価にはやはり 「生活の質 (Quali-ty of life)」 の観点が重要と言える. 養老サービスの 質を見るには, サービス提供側の角度からだけでなく, サービスを享受する側にたち, 満足感や生きがいといっ た主観的な評価も必要となる. 今回の調査では高齢者 へのアンケート調査は実施できなかったが, 次回の調 査では是非実現させたい. (うちやま ちひろ:社会福祉学研究科 社会福祉学専 攻修士課程 (通信教育) 2007 年度修了, 国際協力機 構 (JICA) 中国事務所所員) 注 1 中国民政部は 2016 年の 13 次五ヵ年計画の政府指針に 基づいて, 12 次五ヵ年計画 (2011∼2015) に引き続く 計画を打ち出した. この計画は社区の建設全般に関わる 内容であるが, 高齢化問題を意識した内容でもあり, 社 区における総合サービス拠点の建設を強調すると同時に, ボランティアや民間組織などの社会資本の積極的な参画 を支持することが明記されている. 2 「単位」 制度は 1956 年に全国で実施. 単位と呼ばれる 企業, 学校, 政府機関などの職場組織を意味する. 人々 の生活は単位によって支えられ保障されてきたと同時に 厳格な管理下にも置かれていた. 3 街道は社区の上, 市の下に位置する. 街道弁公室には 社会保障, 退職者へのサービス, 失業者管理, 住宅保障 サービスなど様々なサービスの管理を行う部署があり, 社区サービスセンターを管理指導している. 4 居民委員会は 「群集の自治性を持つ住民組織である」 と規定され, 法律上, 行政の末端組織ではない. 中国で は 50 年代には街道弁事処という行政管理体制の下部組 織が設置され, その管理下に大衆的自治組織である居民 委員会が成立した. 以前の居民委員会の役割は, 一般的 に行政の下請け機関として, 住民を管理・監督するとい うのが主であった. 5 労働能力, 収入源, 身寄りの 3 つが無い高齢者を指す. 6 李秀英 (1999) 「中国における社会福祉政策の展開状 況に関する研究」 (財) アジア女性交流, 38 頁 7 老齢科学研究センターによると, 要介護度を「食事」, 「更衣」, 「ベッド上がり降り」, 「トイレの使用」, 「室内 の移動」, 「入浴」 という 6 項目において, 「苦労しない」, 「やや困難」, 「できない」 の 3 等級で評価. 1∼2 項目 「できない」 は 「軽度失能」, 3∼4 項目 「できない」 は 「中度失能」, 5 項目以上 「できない」 は 「重度失能」 と 判定される. 8 戸政は 「ガバナンス概念についての整理と検討」 のな かで, ガバメントからガバナンスへの変化をそれぞれの 要素をまとめ対比を行っている. 例えば, ガバナンスは, ①行政改革をはじめとした政府の諸改革の進行, ②政府 による統治活動の変容, ③政府の限界の明確化, ④ボラ ンティア, NGO ・ NPO の台頭, ⑤民間企業も公共政策 の担い手であるという認識の定着, ⑥ネットワーク論や ネットワーク概念の定着, などの特徴を挙げている. 9 北京市は 「三辺四級 (3 つの高齢者に寄り添ったサー ビス, 4 つのレベルによる管理)」 というサービスネッ トワークのモデルを打ち出した. 情報を共有しあい総合 的なサービスプラットフォームの設立を目指す. 文献 王文亮 (2001) 21 世紀に向ける中国の社会保障 日本僑 報社. 王 (2019) 「様々な方法を用いた社区養老サービスス テーション建設運営推進の実践に関する探索」 探索と 実践 中国民政, 42-43. 大和三重 (2004) 「中国における高齢者介護のゆくえ―蘇 州市の事例から―」 関西学院大学社会学部紀要第 97 号 賈強 (2004) 「変革期における中国の社会福祉―現段階の 社会福祉における家族, 組織と市場の役割―」 文教大 学国際学部紀要第 15 巻 1 号 (文教大学), 133-146. 高紅 (2016) 社区社会組織と都市の基層合作治理 人民
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