複 合 領 域 として の"イ メー ジ ・デ ザ イン学"
情報学部教授
高田 哲雄
は じめ に 映 画 の 制 作 を例 に とってみ れ ば わ か るように 、"映像 設 計"を め ぐってさま ざまな領 域 の ノウハ ウ が そ こにクロスオ ー バ ー してい ることが 理 解 され る。 専 門 領 域 内 か らみ れ ばそ れ が 複 合 領 域 の 問題 であ ることは 暗 黙 の 了解 事 項 であ る と言 えるだろう。 レか し他 の 領 域 、す なわ ち社 会 にお けるさまざま な活 動 領 域 の 視 点 か ら見 るな らば 、 半 ば 無 意 識 の うち に"イメー ジ"とか"デ ザ イン ・セ ンズ とい う言 葉 で代 用 され て はい る もの の 、論 理 性 を伴 う明確 なファクター として認 識 され て は いな い ように思 わ れ る 。"イ メー ジ ・デ ザ イン"の さまざまなファクター の 関わ りを検 証 す るとともに 、それ が 専 門領 域 以 外 とど の ような接 点 で 関 わ り、どの ような意 味 をもつ か につ い て考 察 して み た い 。 実 践 と推 論 によるイマジネ ー ションを最 大 限 活 用 しなが ら、従 来 の 芸 術 の 領 域 で解 明 され た 方 法 論 にも依 拠 しなが ら、応 用 芸 術 としての 映 画 、映 像 制 作 に お ける映 像 設 計 の エッセ ンスにア プロー チ し、さらに その 方 法 論 や 特 質 を一 般 領 域 に展 開 す ることが この 研 究 の 目的 で ある。 一31一図 は 多 領 域 とクロスす るイメー ジ ・デ ザ インを意 味 す る。 1.イ メー ジ は 評 価 しうるか? 最 初 に 映 像 制 作 を は じめ 、テ ー マ性 をもった 作 品 を問 題 とす るときに 比 較 的 混 同 しや す い 問 題 は 表 現 しようとす る 中 身 、つま り表 現 内 容 とそれ を伝 えるた め の 表 現 形 式 (表現 方 法)と の 関 係 で あ る。もち ろん 表 現 形 式 や 表 現 方 法 を無 視 して作 品 は成 立 し な い 。しか し昨 今 の 表 現 に 関 す る研 究 の9割 方 は 表 現 内 容 そ の もの よ りもこの 表 現 形 式 や 表 現 方 法 に つ いて の もの が 多く見 受 けられ る。実 際 にメデ ィア の 表 現 者 たちが 必 要 として いる技 術 とい うの は 表 現 方 法 そ の もの に つい て の 記 述 に 関 心 が あるか らに ほ か な らな い か らで あ る。 しか し表 現 方 法 というもの は そ の 本 質 を把 握 し一 定 の 法 則 を理 解 して ならば 比 較 的 万 民 に理 解 しうるほ ど簡 単 な仕 組 み で成 り立 って いる場 合 が 多 い 。そ して これ を実 際 に 身 に 付 けるた め の 実 際 的 な訓 練 に於 いて 感 覚 的な 器 用 さへ の 習 熟 とい う点 で難 航
す る場 合 が 多 いもの の 、概 念 として は 物 理 的 方 法 論 に近 いもの が あ り比 較 的 理 解 し や す い の であ る。図 は 他 の 学 問領 域 とクロスす るイメー ジ ・デ ザ インを意 味 す る。 例 え ばカメラ ワー クに於 い て、観 客 との 関 わ りを強 調 す る方 法 はさまざまな 技 術 が あ る にせ よ、基 本 的 に は被 写 体 がカメラ に対 してど の ように アプ ロー チしてくるか という 点 に集 約 す ることが 可 能 で あ る。した が って 画 面 を横 切 る人 物 よ りは 画 面 に 向 か って くる人 物 の 方 が 、観 客 に とって、あ るい は それ を見 てい ると仮 定 され る登 場 人 物 の 立 場 に とって 、よ り迫 るもの となるであ ろうことは至 極 当然 の 原 理 と言 わ ざるを得 な い 。 つ ま りこの 場 合 ブイル 厶 な いしは ビデ オ に 記 録 され た 映 像 その もの か ら判 断 す ること よりも、撮 影 にお け るカメラワー クの 位 置 関 係 や フレー ミングとい う空 間 的 な相 互 関 係 に置 き換 えて 考 えることによ り、そ の 結 果 も単 純 に 理 解 す ることが できる の であ る。 画 面 構 成 にお け る表 現 方 法 の 問 題 は そ の エッセ ンスが 絵 画 論 に基 づくもの であ り、 一33一
絵 画 にお ける表 現 方 法 として の 構 成 論 や 色 彩 論 な どいわ ば絵 画 技 法 に熟 達 していれ ば おの ず と映 画 や 写 真 に おけ る表 現 効 果 を推 測 す ることが できるの であ る。 い ず れ に して も絵 画 、写 真 、映 画 な どの 視 覚 メデ ィア に よって表 現 され る世 界 は 必 ず 何 らか の 物 理 的 表 現 手 段 に定 着 され な けれ ば な らず 、した が ってそ こに お ける表 現 方 法 および 表 現 形 式 に は 一 定 の 共 通 性 と法 則 が 見 いだ され るの であ る。絵 画 教 室 を 著 したフランスの ア ル マン ・ドゥル ー アン は 、この ことをや や 分 析 的 な視 点 か ら絵 画 に お けるファクター としてそ の 条 件 を 明 らか に してい る。以 下 の 表 はア ル マン ・ドゥル ー ア ン の 絵 画 にお ける評 価 条 件 の 引 用 で ある。(脚注1) 特 質 と係 数 1感 動 の 真 摯 さ 2個 性:a)概 念 に お け る(ス タイ ル) 3b)制 作 に お け る(ファクチ ュール) 4色 彩:a)色 彩 の 強 さ 5b)色 調 の 品 位(諧 調) 6c)色 調 の 多 様 性(抑 揚) 7ソ ノリテ 8構 図(リ ズ 厶 、ア ラ ベ ス ク) 9ヴ ォ リュー ム の 構 成(マ ス の 造 形 的 均 衡 、記 念 碑 的 な もの) 10光 の 構 成 11デ ッサ ン:a)正 確 さ(お 情 け 点 、知 性 が な い とき の) b)知 性 12夢 、ポ エ ジ ー 13装 飾 的 特 質
14ヴ ァ ル ー ル 15単 純 さ 16感 受 性 17主 題(モ チ ー フ) i8マ チ エ ー ル 19遠 近 法(絵 画 的) 20共 感 率 テー マ 性 の 問 題 や 構 図 、色 彩 、そ の 裏 で、共 感 率 な どほ とん どの 条 件 が そ の まま 写 真 や 映 画 にも敷 衍 す ることが で きる 。 た だし映 画 と根 本 的 に違 う点 は 比 較 的 絵 画 の評 価 にお ける視 点 が 空 間 的な 条 件 で あ るの に 対 し、映 画 の それ は 時 間 的 、行 動 的 側 面 が 強 く、そ の意 味 に お いて は この 絵 画 の 評 価 基 準 だ けを見 て映 画 を評 価 す わ け に はい か な い 。しか しい ずれ に しても これ らの 分 析 的 視 点 の ほ とん どが 表 現 方 法 な い しは 表 現 形 式 につ いて であ り、テ ー マそ の もの の 中 、ま してや 内 容 そ のもの につ い て踏 み 込 ん で いるケー スは 非 常 に稀 であ る 。ときに 多 くの 美 学 書 が 説 明 して いるもの は 表 現 内容 と表 現 方 法 につ い ての 視 点 を混 線 させ な が ら作 者 の 意 図 へ 近 づ こうとす る傾 向 が 強 い 。この ことは 肯 定 的 に解 釈 す るな らば 表 現 の 結 果 として の 制 作 物 を通 して 、す なわ ち表 現 形 式 や 表 現 方 法 とし て見 え ざる作 者 の 魂 にできる限 り近 づ こうとす る努 力 とも見 て とることが できる 。む ろ ん ここでは そ うい った美 学 的 姿 勢 に つ い ての 是 非を問 うことが 目 的 では な いが 、歴 史 上 の 制 作 物 を解 釈 す ることを優 先 させ た前 世 紀 の 美 学 者 たち が 作 品 表 面 に現 れ た 物 理 的 特 性 や 制 作 手 段 に 対 す る興 味 に偏 重 してい ることに対 して、私 たちが あま りに も振 り回 され す ぎて いた の で はな い か とい う点 につ いて である 。この ことが 指 摘 で きる の は 、私 自 身 が 制 作 者 であ りか つ 美 学 的立 場 あ るい は理 論 的 分 析 立 場 にたって表 一35一
現 の 問 題 をとらえることによって 、初 め て理 解 され る の であ るとい うことを明 らか にした い か らで あ る。つま り実 際 に 制 作 をす る側 か ら言 え ば 、作 品 の 鑑 賞 者 たち が できた作 品 の 結 果 を通 して、創 造 す る内 容 以 上 の 世 界 を持 ってい る場 合 もあれ ば 、逆 に その 内 容 を理 解 す ることが できず 、作 品 か らは何 も受 け取 れ な い とい う結 果 に なる場 合 も あ る。ま た 鑑 賞 者 が あ まりにも過 敏 に作 品を読 み 取 り、ときには 制 作 者 の 意 図 を曲 解 して しま う場 合 も大 い にあ る。 2.イ メー ジ の 特 質 と飼 性 創 作 とい うもの は本 質 的 にこれ が 全 体 的 に正 しいとい う方 法 論 や 形 式 は あ り得 ない と さえ いえ るの で ある 。作 家 に とって正 しい 創 作 論 とは そ の 本 人 にとって は 絶 対 的な も の であ って も第 三 者 に とって は絶 対 的な もの で は ない 。例 え ば 後 に は 同 じ後 期 印 象 派 の 画 家 として知 られ るゴッホ とゴー ギ ャンの 間 でさえ互 い に受 け入 れ ることの できな い表 現 形 式 の 相 反 が あ る。 した が ってそ こに創 作 として の 普 遍 的 な条 件 や 共 通 法 則 とい ったもの を見 いだす こと は 実 に 困 難 な 問 題 と言 わ ざ るを得 ない 。しか し一 方 で は アル マ ン・ドゥル ー アンの よう に概 念 的 で は あるが 作 品 の 診 断 条 件 を 明確 化 しようとす る努 力も存 在 す る 。 つま り、実 際 の 社 会 にお いて は 、創 作 の 方 法 に関 す る解 明 よりもできあ が った 作 品 の 評 価 に 関 す る診 断 方 法 が より切 実 に要 望 され る問 題 であった とい うことに ほか ならな い 。 確 か に 、作 家 の 多 くは 、意 識 的 に創 作 の 方 法 論 につ い て、本 人 が 自然 に体 得 してい る以 上 に 、意 識 的 に新 た な方 法 論 を模 索 した り、ま してや 科 学 的 に開 発 した りなどの あ が きを敢 え て望 まな い傾 向 は確 か に ある 。そ れ とい うの も理 由 が あ って 、本 来 芸 術 的 才 能 とい もの は 天 分 であ り、生 ま れ つ きに して他 人 とは 違 う才 能 が運 命 の ごとく宿 り、そ れ は 後 天 的 に 補 える ような もので は ない とい う、いわ ば 神 格 的 な 美 意 識 に 出 発
してい るとさえ考 える立 場 もあ るか らである 。 確 か に歴 史 に刻 まれ た 多 くの 芸 術 家 は あ たか も神 の 技 が そ の 本 人 に宿 った であ ろう か の ような 非 凡 な 才 能 を発 揮 してきた ことも事 実 であ る。しか し芸 術e天 分 説 を絶 対 とす るな らば 、む しろこの 探 究 自体 も意 味 の ない もの であ ることを事 実 上 認 め て いるこ とにな って しまう。才 能 が 先 天 的 である か 後 天 的 であ るか といった問 題 は 心 理 学 的 領 域 に属 す るもの であろう。しか し芸 術 の 大 衆 化 、メデ ィア の 拡 大 化 によって 今 日芸 術 その もの を評 価 す る仕 組 み は 大 きく変 わ りつ つ ある 。万 民 が それ なりの 評 価 と批 判 の 目を持 ち、少 なか らず ともその 作 品 に何 が か けて何 が 悪 い か といった 包 括 的 に は普 遍 的 とさえ いえる診 断 の 場 が 形 成 され つ つ あるか らであ る。 現 実 的 な 問 題 として 、映 画 作 品 の 評 価 は 観 客 動 員 数 という数 字 に 跳 ね 返 ってくるの で あ り、む ろん後 世 の 人 が そ の 作 品 を見 て感 動 す るか 否 か は ともか くもその 時 点 に おけ る限 定 的 な評 価 は統 計 学 的 に 明 らか な結 果 が 出 てくる。 そ うい う意 味 に おい て 、この 研 究 の 視 点 は 必 ず しも純 粋 な 美 学 的 立 場 や 芸 術 的 立 場 の み を土 台 に して いるもの で はな く、あ る意 味 で は創 作 の 問 題 と評 価 の 問 題 を機 能 的 な 関 係 に おい ても解 明 しようということであ る。常 に芸 術 的 課 題 にお いて は 作 品そ の もの だ けが 解 明 の 対 象 というもの で は なく、作 品 を創 作 す る人 間 そ の もの の 意 識 や 姿 勢 が 議 論 の 対 象 となってきた 。 結 論 的 に は 、芸 術 的才 能 は 先 天 的 でもあ り、ま た後 天 的 でもあ ると言 わ ざるを得 な い 。 した が って先 天 的 に持 ち えた創 作 能 力 は 、む ろん そ のまま 後 天 的 な創 作 能 力 に 引 き 継 が れ る ことによって 、さらに絶 大 なもの となるに 違 い ない 。しか し多 くの 芸 術 家 が そ の 芸 術 的 成 長 の 段 階 で様 々な ケー ス の 挫 折 に直 面 してい ることも事 実 で ある。ここで はそ の 具 体 例 は 取 り上 げな い が 、先 天 的 な特 質 や 後 天 的 な特 質 を 自 覚す ることな く 拡 大 させ た 場 合 にそ の 破 局 は や ってくる。また芸 術 的 才 能 と現 実 的ライフワー クとの 間 にア ンバランスをきたす 芸 術 家 も数 多 い 。先 天 的 であ れ 、後 天 的 であれ 、芸 術 的 才 一37一
能 とい うもの の 中 に 潜 在 す る特 質 とは 何 か を解 明 し、もしそ れ が 普 遍 的 な形 で把 握 す ることの できる形 を有 して いるな らば 、それ は万 民 に とって価 値 あるもの であ ると言 え るの で は な いだ ろうか 。 概 念 に お ける個 性(ス タイル)の 問 題 につ い て 「絵 画 教 室 」か ら引 用 してみ よう。(脚注 2) 「1人の 画 家 とは 木 の ようなもの … 野 生 の 状 態 で は 、あ りふ れ た種 類 の 果 実 しか な らない 。立 派 な 果 実 をな らせ るため に は 、接 ぎ木 が 必 要 だ 。接 ぎ 木 一 そ れ が 個 性 だ 。 美 術 に お いて は 、す べ て を知 らな けれ ば な らな い 。そ うでな けれ ば 、全 然 何 も知 らな い ことだ 。ある種 の 樹 木 に は 、野 生 のま まで 、しば しば 独 特 の 風 味 をもった 果 実 の な るもの が あ り、それ 以 外 の もの は 、それ が 普 通 な の だ が 、大 変 な 手 入 れ を必 要 とす る の と同 じだ … しか し、我 々 の 時 代 に 、つ ま り教 育 が 万 人 の 義 務 とな り道 路 工 夫 に高 等 教 育 の 免 状 が 、郵 便 局 員 に 法 学 士 号 が 要 求 され る時 代 も遠 くな い とき に、野 生 の状 態 で生 きる 、す なわ ち 何 の影 響 も受 けな い で生 きてゆ くことが できるものだ ろうか 。こ の 生 半 可 な教 養 に は 、す べ て の 個 人 も同 一 水 準 にし、当 然 、彼 らの 個 性 を奪 い 去 る という不 都 合 が あ る。後 になって 、広 い教 養 が あ る人 々 には 、再 び そ の 個 性 を発 見 さ せ る。美 術 にお い てもこれ と同 じことが 認 め られ る。 新 聞 、パ ンフレット、定 期 刊 行 物 、美 術 雑 誌 が 、山 間 僻 地 に まで も行 き渡 って 、マチス 、 ブラック、あ るい は ピカソの 新 作 の複 製 を 掲 載 して いるときに 、1人の 独 学 の 若 い画 家 が 、なに が しか の 影 響 を受 けない で済 ま せ るもの だろうか 。自分 で は 気 が つ か な くて も、そ の 影 響 を 受 け 、それ にか ぶ れ 、道 を惑 わ され て いるの だ 。そ して彼 の 主 た る魅 力 だった 、感 動 の新 鮮 さが 、そ れ で失 わ れ てしまうの だ 。 この ことは 、今 の 時 代 に は彼 の 個 性 を無 垢 の 状 態 で 表 現 す ることが いか に難 しいか
とい うこと、そ して、素 朴 さが 遠 か らず 愚 鈍 さに なってしま うとい うことを説 明 す る! 純 粋 で 、生 まれ つ いて の 個 性 の い くつ か の 場 合(極 め て少 な い)を除 い ては 、個 性 と は ひ とつ の 開 花 、生 来 の 天 分 に役 立 つ よう、技 術 に関 す る知 識 と一途 な精 進 との お か げ で得 た 《後 天 的 な》特 質 … 、より正 確 には 再 発 見 され た 特 質 で あるの が 通 例 だ 。 新 た に 知 識 が ある とき、新 た に能 力 が あ るとき 、あ なた が 、あな た 自 身 の 接 ぎ 木 をす ることが できるの は 、成 熟 期 に達 した《知 恵 の 木 》の 上 にだ けな の だ 。あま りせ っか ち に して は い けない 。あな た は 失 敗 す るだ ろう、つ ま り、接 ぎ 木 は あ まり若 すぎ る木 でも … 枯 れ た り、腐ったりした木 でもうまく行かない。また 、自然 にそむいた、途 方もない接 ぎ木(と 言 うの は 、あ なた の 天 性 にそむ いた という意 味 にとりたまえ)を試 み て は い け ない … バオ バ ブに南 瓜 を接 ぎ 木 す るもの はな い! ひ とりの 画 家 を 、彼 は 個 性 的 だとい うことは 、彼 に 大 きな 賛 辞 を与 え ることにな る。そ れ は 、ひ とりの 画 家 が 持 つ ことの 出 来 る 、最 も美 しい 特 質 の ひ とつ であ る。また最 も複 雑 な もの で もあ る。定 義 す るに も、正 体 を見 極 め るにも。 私 は(『絵 画 につ い ての 対 話 』の なか で)、個 性 とは何 を意 味 しな けれ ば な らない か を 説 明 しようとした 。私 は本 章 を利 用 して 、以 下 の 説 明 をつ けた。 美 術 は 、個 性 という歪 ん だプ リズ ム を通 して見 た 自然 の 忠 実 な 翻 訳 で ある、とわ れ わ れ は いった 。 個 性 は 三 つ の 原 因 によって いる、すな わ ち、 生 まれ つ きの 要 素(遺 伝) 形 成(訓 練 と教 育) 多 様 な 品 質(社 会 的 条 件 、交 際 、結 婚 、貧 富 、機 会 、生 国 、居 住 地 、住 居 、風 土 、事 故 、 疾 病 、等)。 その 結 果 、我 々の ひ とりひ とりは 、同 一 の 事 実 、情 景 とか 、事 件 とか 、状 況 とか に直 面 して 、異 な った 反 応 を呈 す ることになる。」 一,3y一
「つ くづ く考 えてみ ると、1人の 画 家 が 《個 性 が あ る》という域 に 達 す るの は できるだ け 多 くの 特 質 を積 み 重 ね ることによってだ と、と私 に は 思 える。… 中略 … 美 術 の 本 質 は 絶 えず 変 わ ることだ 。美 術 は今 でも我 々を驚 か す ことをや め な い。新 しい 試 み が な け れ ば 、それ は 貧 血 で 死 ぬ だろう。そ れ は 私 が 心 の 改 革 者 に 尊 敬 の 念 を抱 い てい るか らだ 」 心 理 学 的 領 域 に よって解 釈 できる 問 題 はこれ だ けで は ない 。映 画 作 品 に つ いて 言 及 す るな らば 、登 場 して くる人 物 の 心 理 描 写 や 観 客 の 感 情 移 入 の 問 題 な ど は より重 要 であ り、心 理 学 そ の もの で ある 。 3.創 作 理 念 と主 題 ここで取 り上 げ るの は創 作 にお ける理 念 、あ るい は テー マ設 定 をめ ぐる 問題 に つ いて で あ る。そして実 際 の 映 像 コンテンツ の 中 身 を端 的 に 表 す もの は む ろん タイ トル で あ る 。 ハ リウッド映 画 で はそ の 作 品 の ス トー リー を端 的 に 表 す もの として ログ ライン ・:一 が あ る 。短 い文 章 の 中 に作 品 全 体 の 意 味 す るス トー リー とそ の エッセンスを短 い文 章 に ま とめ たもの であ る。 写 真 は 筆 者 が ハ リウッド映 画 関 係 者 の 前 で ピッチ して い る場 面 で ある 。
ChristopherLockhart/InternationalCreativeManagementの ス トー リー エ デ ィタ ー 以 下 は 著 者 が2006年2月 に 行 ったICMの ピ ッチ ン グ で 使 用 した ログ ライン とシ ノプ シ ス で あ る 。(脚 注3) タイ トル 【GhostintheGhost】 ゴ ー ス ト イン ザ ・ゴ ー ス ト 高 田 哲 雄 原 作(オ リジ ナ ル の 脚 本) 【ログ ラ イン 】 ゴ ー ス トライ ター が 仕 事 に 絶 望 し自 殺 す る が 、気 が つ くとリン ボ の 世 界 に い る 。そ こで 別 の 魂(ジ ャン ヌ ・ダ ル ク)が や り残 した ことを 成 し遂 げ る 為 、ゴ ー ス トラ イター の 身 体 に 乗 り移 りた い とい う 申 し出 に 合 意 す る 。 【主 な 登 場 人 物 】 主 人 公 ス タン レ ー:大 物 小 説 家 の ゴ ー ス トライ テ ィン グ を 職 とす る さえ な い 男(39歳)。 ジ ャ ン ヌ ・ダ ル ク:15世 紀 に フラン ス で 活 躍 した 聖 女 。ラ ・ピュー セ ル と自 称 した 。 ゴ ー ス ト:スタン レー の 体 に ジ ャン ヌ ・ダ ル ク の 魂 が 入 っ た 者 を い う。 ラ ・ピ ュ ー セ ル:ジ ャン ヌ ・ダ ル クの 体 に ス タン レー の 魂 が 入 った 者 を い う。 理 髪 師 ジ ャ ネ ット:現 実 で の 主 人 公 の 恋 人 。ジ ャン ヌ ・ダ ル クの 顔 に 似 て い る 。 マ ル ガ リー タ ・コ ウ シ ョン:歴 史 小 説 家 。ジ ャ ン ヌ ・ダ ル ク を 陥 れ る 小 説 を企 画 す る 。 一41一
クレーベ ル:大 手 出版 社 の 社 長 。小 利 口 にたち 回 るが 目的 は 金 もうけ であ る。 その 他 ジ ャンヌ・ダ ル クが 活 躍 した 当 時 の 歴 史 的 人 物 が 登 場 す る。 【あ らす じ】 主 人 公 スタン レー は 出 版 社 で働 く、小 説 家 のゴ ー ストライター で 、彼 が 最 も尊 敬 して い る人 物 は ジャンヌ ・ダ ル クで ある。彼 が 理 髪 店 で居 眠 りをして 、ジ ャンヌが 火 刑 にされ る夢 を見 て 目が 覚 め るシー ンか ら始 ま る。 翌 日スタン レー は歴 史 小 説 家 マ ル ガ リー タに会 い 、ゴー ス トライテ ィング を依 頼 され る。 彼 女 は ジャンヌが 聖 女 であ るというイメー ジを根 底 か ら覆 すもの にした い とい う。彼 女 の 本 当 の意 図 は 国 際 文 学 賞 を 受 賞 し巨 額 の 富 を得 ることで ある 。社 長 クレー ベ ル は 、 ジャンヌ ・ダ ル ク火 刑 の 記 念 日5月30日 ま でに仕 上 げな けれ ば スタンレー を首 にす る と断 言 す る。スタン レー は そ の や り方 に対 して怒 り、一 人 バ ー に行 き悩 ん で荒 れ る 。翌 朝 、スタンレー が 自分 の 本 名 で 出 してい た新 人 小 説 家 賞 の 落 選 通 知 が 届 き完 全 に失 墜 す る。 自殺 を決 心 した スタン レー は 郊 外 に 向 か うが 、バ イクが ス リップして炎 上 し彼 は瀕 死 の 状 態 にな る。そ こへ 若 い女 性 の 亡 霊 が 現 れ 、彼 が 命 を捨 て るの であれ ば 彼 女 の 魂 と交 換 した いと申 し出 る。彼 は 少 女 の 申 し出 に 同 意 す る(以 降 、魂 が 入 ったスタン レ ー の ことをゴー ス トという)。彼 は少女 の 口づけを受けた後 は、彼 女の手 鏡の 中を通 し て 霊 の世 界 に導 か れ てい く。 霊 の 世 界:ジ ャンヌが オ ル レアンの 戦 い でイング ラン ド軍 の 矢 に肩 を射 貫 か れ 瀕 死 の 状 態 にある 。霊 界 を さま よってい たスタン レー は それ を発 見 し彼 女 に歩 み 寄 る。彼 は 自分 が 彼 女 の 体 に乗 り移 り、戦 い に参 加 す ることを決 意 す る。イングランド軍 は 再 び 蘇 った ジャンヌ(スタンレー)を 見 て 恐 れ をなし、崩 れ る ように して敗 走 す る。 現 実 の 世 界:歴 史 小 説 家 マ ル ガ リー タの 家 。 マル ガ リー タは ゴー ス トの 原 稿 が リア ル な ことに驚 くが 、ラス トシー ンで は ジャンヌの 行
動 は 神 に反 してい た ことにす る ようにと強 要 す る 。 再 び 霊 の 世 界:す で にジャンヌは 囚 わ れ の 身 とな って い て火 刑 の 日ま で1カ 月 を切 る 。 あ らゆ る裏 切 りを体 験 し、ジ ャンヌ(スタンレー)は 地 上 に戻 りた いと神 に 向 か って 祈 り を捧 げる 。そ の 結 果 つ い に 宣 誓 を受 け入 れ 、罪 を認 め る。 それ を知 ったゴ ー ストは 、手 鏡 を通 して スタンレー に 、それ はジャンヌの 本 心 で はな い と叫 ぶ 。説 得 できない と知 った ゴー ス トは再 び霊 界 に 戻 り、自分 が 本 当 の ジャンヌで ある ことを初 め てスタンレー に 告 白す る 。 スタン レー は 地 上 の 自分 に戻 り、今 まで ゴー ス トであ ったジ ャンヌは 過 去 の 体 に 戻 る。 現 実 の 世 界:原 稿 完 成 の 日 、決 着 をつ けに マル ガ リー タは スタンレー の 家 に 行 く。本 当 の 歴 史 を見 てきたス タン レー は マル ガ リー タと激 しく論 争 す る。 霊 の 世 界:異 端 裁 判 の 後 、ジャンヌは 刑 場 の 支 柱 に縛 られ 、柴 に火 が つ けられ る。火 は 彼 女 を包 み 始 め る 。 現 実 の 世 界:ス タン レー とマル ガリー タは 原 稿 をつ か み あって争 うが 、床 に落 ちた手 鏡 に マル ガ リー タの 足 が 滑 って倒 れ 、そ の 瞬 間 彼 女 は 霊 の 世 界 に落 ちて ゆ く。 霊 の 世 界:ジ ャンヌが 燃 え ようとしてい るそ の 瞬 間 、マル ガ リー タが ジ ャンヌに入 れ 替 わ る 。その 直 後 激 しい 煙 が マ ル ガ リー タの 身 体 を包 み 観 衆 か らは 何 も見 え なくなる 。 現 実 の 世 界:国 際 文 学 賞 の 授 賞 式 会 場 でスタンレー は最 優 秀 賞 を受 賞 す る。ス タン レー が コメン トの 中 で 、最 もお 礼 を言 い た いの はジ ャンヌ・ダ ル ク 自身 に対 してで ある と表 明 す る。 確 か に ログラインに よって作 品 の エッセンスを理 解 す ることは 可 能 であるが 、同 時 に それ は 作 品 の す べ て を語 って は いな い 。第 三 者 に対 して合 理 的 か つ 迅 速 に作 品 の 内 容 を伝 えることが 可 能 であ るが 、それ らす べ てを語 ってい るわ け では ない 。 しか しな が らログライン によって その 作 品 が 他 の 作 品 とどの ように差 別 化 され るか に 一Q .,一
つ い て は強 調 され な けれ ば な らず 、機 能 的 に は商 店 の 看 板 と同 じような メッセー ジ性 をもつもの で ある 。 脚 本 家 が 映 画 会 社 ま たは エー ジェン トに対 して企 画 の 説 明 をす る段 階 では もっとも最 初 に説 明 され な けれ ばな らず 、その 意 味 で は 映 画 制 作 プロセス の 皮 切 りにあた る工 程 と考 え ることもできる。 しか しなが らそれ は 表 面 に具 体 化 した 物 理 的プ ロセ スで あって 、脚 本 家 の 内 面 にお い ては さらにそ れ に先 行 す るプ ロセ スが 存 在 す る。"理念"と か"コンセプ ド と言 わ れ る もの が それ であ る。 理 念"イ デ ア"に つ い て平 凡 社 「哲 学 事 典 」より引 用 し、その 原 点 を再 確 認 してみ よう。 「【羅 ・英 】idea【独 】ldee【仏 】ideeプラトン哲 学 の 基 本 概 念 を示 す 言 葉 として知 られ て い るが 、もともとギ リシャ語 のideaはidein語根 を一 にす る言 葉 で あ り、ideinまた はeido の アオ リス トで あるeidonの インフィニテ ィブで あった 。イデ ア とエイドスが 同 義 語 であ る 理 由 もそ こに あ る。ところでeidoは 今 日の 意 味 での 「見 る」あ るい は 「知 る」という意 味 を持 ち 、古 代 ギ リシャの 日常 語 として の イデ アま た はエ イドス は 、「見 え てい るもの 」あ るい は 「知 られ てい るもの 」つ ま り「姿 」あるい は 「形 」を意 味 す る語 で あった 。プラトン は 、この 普 通 の 言 葉 を、その まま 哲 学 の 言 葉 に転 用 したの で ある。なお 、この 言 葉 か ら出 たヨー ロッパ 語 のidea、ideeな どは 「観 念 」「理 念(イデ ー)」(ドイツ 哲 学)な どと訳 され 、様 々な 意 味 をもつ が 、ここで はギ リシャ時 代 の 意 味 だ けを説 明 す る。この イデ ァ という言 葉 を 、ピュタゴラス学 派 では 幾 何 学 者 の 取 り扱 う図 形 の 意 味 に 用 い 、ここか ら 例 え ば 感 性 的 な三 角 形 が その 摸 像 であ るような本 来 的 な 三 角 形 自 体 として の 図 形 を 意 味 す ることにな った 。ピュタゴラス学 派 の この ような用 語 法 が 、ソクラテス に よって倫 理 的 あ るい は 美 的 な価 値 自体 を表 現 す る言 葉 として 採 用 され 、そ れ をプラトンが 大 成 した と考 え られ る。プラトンでは 、た とえ ば 美 な るもの どもを越 え、美 な るもの どもを し て 、美 な るもの どもた らしめ る原 理 、原 型 とい う意 味 を持 つ 言 葉 として確 立 され て い る。
プラトンによれ ば 、イデ ア は 時 空 を超 えた 、非 物 体 的 な 、永 遠 の 実 在 で あ り、真 実 性 (オン トー ス ・オン)ともい わ れ る。イデ ア は 、感 覚 的 知 覚(ドクサ)の 対 象 で はな く、理 性 的 認 識(エ ビステ メ)の対 象 であ り、感 覚 的 世 界 の 個 物 は イデ アを原 型 とす るそ の 摸 像 であ って、イデ アを分 有 す るもの な の で ある。これ が プラ トン の イデ ア論 と呼 ば れ るもの で、その 思 想 は 後 世 に 大 きな影 響 を及 ぼ した 。ところで、プラトンは この ような 意 味 を示 す言 葉 として 、必 ず しもイデ ア とい う言 葉 ば か りでな く、同根 の エイドスとい う 言 葉 をもしば しば 用 い て いる。これ に 対 して 、ア リス トテ レス は イデ アとエイドスを区 別 し、エ イドス に 質 料(ヒュレ)と対 概 念 をなす 形 相 という意 味 に転 用 した 。プラトンで は こ うした の意 味 で は とらえ られ てい ない 。新 プラトン主 義 では 、イデ ア は 宇 宙 的な 精 神 の うちに ある 、諸 物 の 原 型 と解 され 、中世 哲 学 で は 一 般 に 神 の 精 神 の 中 に あ る植 物 の 原 形 と解 され た。近 世 にな ってデ カル トや イギ リスの 経 験 論 哲 学 者 たち によって 、しだ いに 人 間 が 心 の 中 に思 い浮 か べ る ところの もの 、意 識 的 、心 理 的 な 「観 念 」を意 味 す る ように なった 。これ は 近 代 の 人 間 中心 主 義 的 な 考 え 方 か らして 当然 の ことで あ るが, 一 般 に ギ リシャ思 想 にお けるとイデア という言 葉 は こうした近 代 的 な 「観 念 」と言 う意 味 を含 む もの で は なか った ことが 、注 意 され ね ば な らない 。しか し、カン トに始 まるドイ ツ観 念 論 の 哲 学 で は 、ideeと いう言 葉 を、感 覚 や 経 験 の 世 界 を超 えた 理 性 の 普 遍 的 な形 式 としてとらえ ようとす る傾 向 が 強 ま り、よ りプラトン的 な意 味 に近 づ くことになる 。 イデ ー をこうした ドイツ哲 学 的な意 味 で とらえる場 合 に は 「理 念 」とい う訳 語 が 用 い ら れ ることが 多 い 。」(脚 注4) 発 想 と発 想 をまとめ る段 階=企 画 プ ロセ スに よってもこの 理 念 は さらに煮 つめ られ て い く。む しろ脚 本 家 内部 で起 こっている イメー ジ ・デ ザ イン の 問 題 であ り、作 家 の 思 考 過 程 につ い てで あると言 っても過 言 で は な い 。 さて 、それ で は脚 本 家 の 発 想 の 源 泉 と何 で あろうか 。 そ もそ も脚 本 に は 大 きく分 けるならば二 通 りの 流 れ が あ る。 一45一
一 つ は 脚 本 その もの が 脚 本 家 の 原 作 で ある場 合(一 次 著 作 物) もう一 つ は 原 作 が 別 に あ り、それ を脚 本 化 す ることであ る。(二次 著 作 物) 今 回 問 題 とす る対 象 は原 作 で ある。 この 意 味 に おい て 、す で に研 究 の 対 象 は イメー ジ ・デ ザ インの領 域 を超 え ているか の ように思 わ れ る。しか し本 質 はむ しろクロスオ ー バ ー してい るの であ って 、創 作 という 一 つ の 対 象 をや や 視 覚 系 重 視 型 の イメー ジ ・デ ザ インとしてとらえるか 、あるいは精 神 的 、心 理 的 側 面 を重 視 した文 学 系 重 視 型 の 問 題 としてとらえ るか の 違 い であ って 、 極 論 す るな らば"群 盲 像 を評 ず の ことわ ざの ご とく、い ず れ の 一 専 門 領 域 の 視 点 の み に依 存 す ることは真 で はな く、ここで望 まれ るもの は 総 合 的 な複 合 領 域 に よる方 法 論 の 解 明 なの で ある 。つ ま り作 家 が ある主 題 に 取 り組 む きっか けは 言 語 に よるもの と 限 らず 、視 覚 、聴 覚 を通 して様 々な手 段 に よるもの で ある。 この ことにつ いて は 主 題 学 とい う領 域 が あ り、主 に比 較 文 学 の 世 界 で研 究 が 行 わ れ て いる 。
「テ ー マ[英]theme[独 】thema[仏]theme語 源 、ギ リシャ語 のthemaは 動 詞 よ り出 て 「おか れ たもの 」の意 味 。元 来 修 辞 学 上 文 章 表 現 の根 本 思 想 。(1)文 芸 にお い ては 、 作 品 の 取 り扱 う中 心 問 題(主 題)。これ は 本 来 存 在 自体 の 矛 盾 的 構 造 に 由 来 し、これ に解 釈 ない し解 決 を与 えるの は作 者 の イデー な い し世 界 観 である 。また 素 材 の 統 一 的 形 成 や 作 品 の 全 構 想 も、テー マを媒 介 として 初 め て可 能 であ る。文 学 をそ のテ ー マ の 相 互 関 係 に お いて 研 究 しようとす る方 法 は 問 題 史 、主 題 学 と呼 ば れ 、前 者 は 精 神 史 的 文 芸 誌 、後 者 は 比 較 文 学 の重 要 な一 部 門 をな して いる (2)音 楽 に お い て は楽 曲 に表 現 され るべ き理 念 の 最 初 の 統 一 的 表 現 。それ は リズ 厶 、 旋 律 、和 声 という三 要 素 の 上 に強 い 特 徴 をもち 、そ の 展 開 と連 結 によって全 曲 の構 想 を形 作 る。特 に ソナ タ形 式 に おい ては テー マ は 楽 曲 の 中 心 核 として 、全 曲 の うち に 様 々 の 形 で展 開 され る。音 楽 をテー マ の 展 開 という作 曲 技 法 によって 、理 念 の 発 展 と
して 感 覚 以 上 の も の に 高 め た の は 、ベ ー トー ヴ ェン の 功 績 で あ る 。」(脚 注4) 4.障 壁 とス トー リー の 視 覚 化 シナ リオを適 切 に 形 成 す るた め に は 障 壁 の 条 件 をあ らか じめ 設 定 してお くことが 先 決 で あ り、そ の ため に は 障 壁 の 構 造 につ い ての 明解 な理 解 と解 析 が 必 要 である ことが 前 提 となる。これ ま での 研 究 で は 障 壁 の 構 造 を三 つ の 垂 直 区 分 と心 理 的 物 理 的 要 素 として の 水 平 区 分 に分 けると合 理 的 な活 用 が 可 能 であ ることが 分 か った 。 図 は これ らの 障 壁 の 構 造 を実 際 の 立 体 物 としてとらえ視 覚 化 した 障 壁 構 造 の モ デ ル で ある。 47
ここで は これ らの 解 明 に 基 づ きなが らも、主 に登 場 人 物 を 中心 とす るス トー リー の 流 れ に よる相 関 構 造 の 問 題 として 一 度 視 点 をシ フトしてみ ることに した 。それ ぞ れ の 筋 (通常 プ ロットとよば れ る)の 流 れ をチ ャンネ ル と考 え 、3次 元 の 形 態 化 を試 み ることに より、有 機 的 な構 造 の 秘 密 を直 感 的 な 形 で 明 らか にした 。著 者 は ホ メロス ともそ の 弟 子 の 作 とも考 えられ てい る「オ デ ュッセイア」Odysseiaのス トー リー を例 に とってみ るな らば 、イタケー 島 の 領 主 オ デュッセ ウ スの 漂 流 そ の もの は 波 乱 万 丈 に 富 ん で いるが 、 これ を一 つ の ス トー リー の チャンネル と考 え 、もう一 方 島 に残 った妻 ペ ー ネ ロペ イア を め ぐる状 況 をもう一 つ の チ ャンネ ル と単 純 に考 えると、この 相 関 構 造 に は 形 態 的な 明 らか な特 徴 が み られ る。これ を単 純 化 した 例 が 図 のBの3で ある 。チャンネル の 形 態 は 様 々 な要 素 が 考 え られ るが 、単 純 化 す るな らば 図 のAの1に お い て表 され る3形 態 が 代 表 的 なもの である 。 以 下 は 図A-1
以 下 は 図 のA-2 ま た 、シ ェイクス ピ ア 作 品 「マ クベ ス 」は 荒 野 で 出 会 っ た 三 人 の 魔 女 の 予 言 として の"王 の 幻 想"と 現 実 の ス コットラン ドの 勇 将 マ クベ ス の 境 遇 を 二 つ の チ ャン ネ ル と考 え る と 、 予 言 として の"王 の 幻 想"に 野 望 を 持 ち な が ら刻 々 と近 づ くマ クベ ス の 姿 は 図 のBの2 が 相 当 す る 。ち ょっ と話 は 飛 ぶ が 、実 は デ ィズ ニ ー/ピ クサ ー 映 画 「ファイン デ ィン グ ニ モ 」は 前 者 の 「オ デ ュッセ イア 」の 形 態 と原 型 が 一 致 す る 。行 方 不 明 に な った ニ モ と 、愛 す る 息 子 を 探 して 大 海 原 を 彷 徨 す る 父 マ ー1丿ン の こ の 二 つ の 距 離 を置 い た ス トー リー の 組 み 合 わ せ は 「オ デ ュッセ イ ア 」方 式 そ の も の で あ る 。さらに も う一 つ 例 を 挙 げ る な ら 、ワ ー ナ ー ・ブ ラ ザ ー ス 映 画 「ラ ス ト サ ム ラ イ 」の 主 人 公 オ ー ル グ レン(ト 厶 ・ク ル ー ズ)と 相 手 役 勝 元(渡 辺 謙)の 二 人 の ス トー リー の ア プ ロー チ の 仕 方 は 「マ ク ベ ス 」で 取 り上 げ た 図 のBの2そ の もの で あ る 。 49-一
説 明 す るまでもなく、オー ル グ レン は 最 初 敵 対 してい た勝 元 に 徐 々 に精 神 的 に 同 化 し てい く。そ して最 後 は 一 つ に な り官 軍 と戦 い 共 に戦 死 す る 。つ ま り離 れ て いた プロット が 徐 々 に接 近 し同 化 す る構 造 であ る。ここで は 結 果 的な"善 悪"、"生 死"、"勝 敗"の 如何 を問 題 に して いるの でな く、あ くまでもス トー リー の 相 関 関 係 に お ける共 通 性 と分 類 を 目的 として いる。原 作J.R.R.TOLKIEN、 ピー ター ・ジャクソン監 督 ・脚 本 ・制 作 の 「ロ ー ドオ ブザ リング 」は原 型 として は 「オ デ ュッセイア 」に近 いが 、複 雑な人物 や集 団の交 錯 を加 えて お り単 純 化 した場 合 でも図 のBの7が 該 当す ると思 わ れ る。 とくに個 人 的 な創 作 の 場 合(小 説 などの 原 作 、脚 本)、一 人 の 作 家 が 描 き出す ことの できる世 界 に は お の ず と限 定 され た 特 質 が あ り、一 般 には そ の 作 家 の 得 意 とす るジ ャンル ある い はカテゴ リー が 存 在 す る。 ス トー リー の 基 とな るアイデ ア に つ い て 「映 画 ライター ズ ・ロー ドマ ップ 」よ り引 用 す る。 (脚注5) 「ス トー・リー を組 み 立 てるに あた って 機 能 しそうなプ ロトタイプの 要 素 や セクションとい うもの に つ い ては 、す でに は っき りさせ て い るけれ ど、ス トー リー とは 何 か とい う核 心 に は確 か にま だ触 れ て いな い 。ス トー リー の 核 心 とは?そ れ はス トー リー の 元 となるア イデ ア 、つ ま りあなた が ス トー リー を通 じて 何 を言 おうとして い るの か ということだ 。究 極 的 に は 、あなた や あな たの パ ー トナ ー が どうい うス トー リー を語 ろうか と決 め る には 、 そ の 理 由 が あ るは ず だ … 中 略 … 例 え ば 、負 け組 に対 す る政 府 や 社 会 の 冷 たさにあなた が 激 しい 反 感 を覚 えて いると か 、主 人 公 の 楽 天 的 な もの の 考 え 方 に あな たが 大 きな 望 み を見 いだ しているとか … 。 別 の 言 い 方 をす れ ば ストー リー の 元 に は 感 情 が な けれ ば い けない ということだ。 … 中 略 … それ に 加 えて 、あなた の もの の 考 え方 というもの が 大 きく関 わ ってくる。あ なた の スト ー リー に は あな た 自 身 の 個 人 的 な 哲 学 が 隠 され ることに なる 。彼 が 自分 の 考 え方 の 一51一
間 違 い に 気 づ い て 、それ を治 そ うと努 力す れ ば 彼 の 人 生 も変 わ るの だ ということが 、 あな たな りの もの の 見 方 とい うわ けだ 。」 ここで 問 題 にす るの は創 作 にお ける理 念 、あるい はテー マ設 定 をめ ぐる 包 括 的 な 視 点 に つ いて であ る。 この 段 階 で一 つ の 疑 問 を呈 す ることが 必 要 になってくる。脚 本 の 権 威 の 人 たち は 「前 提 」とか 「根 拠 」と呼 ん でい るようだ けれ ど、私 に は あ えて 「疑 問 」と言 った方 が しっくりく るように 思 える 。そ の 疑 問 とは 、この ツキ に見 放 され た友 人 は 週 末 の 大 事 な会 議 をヘ マをせ ず に乗 り切 ることが できるだろうか?も っと哲 学 的 で深 い 疑 問 を呈 したって構 わ ない 。彼 は 一 度 目の 大 事 な 会 議 を乗 り越 えられ るが 交 通 事 故 にあって大 怪 我 をして しまう。この 事 故 が 悪 運 の 始 ま りとな り、あ とは 自分 で 自分 の 首 をしめ てしまう悪 循 環 に は ま り込 ん で い く。そ うい う展 開 にな るの であ れ ば 、あなた が 呈 す る疑 問 は 、運 命 に つ い てとい うことになるわ けだ 。この ツキ に 見 放 され た 友 人 は 運 命 の い たず らを乗 り 切 る ことが できるの だ ろうか?と い う具 合 だ 。これ が アイデ アとなる 。あ なた や あな た の パ ー トナ ー が プ ロットラインを組 み 立 て る前 に 、自分 の ア イデ アを 明確 に してお くこ とが 不 可 欠 だ 。アイデ アが な けれ ば ス トー リー は ない の だ か ら。極 論 す れ ばす べ ての 映 画 は ミステ リー だ 。コメデ ィー でもラブ ・ロマンス でもドラマでもアクションでも、み ん な ミステ リー な の だ 。プ ロットというもの は 、常 に 、主 人 公 や 観 客 をそ の 瞬 間 の ミステ リー に触 発 させ るもの でな けれ ば い けな い。そういうプロットで な けれ ばス トー リー を語 っ て いるプ ロットとは 呼 べ な い 。映 画 とい うもの は 本 当 は 宝 探 しみ た いな もの で 、宝 を見 つ け出 す 過 程 が ス トー リー なら、隠 され た 宝 に私 たちを導 いて くれ る地 図 が プ ロットで な けれ ば な らない 。そ して その 宝 とは 天 啓 であ った り神 秘 であ った りするわ けだ 。 ここでは 哲 学 的な 背 景 に基 づ きな が らも現 実 の 社 会 に対 す る大 きな 疑 問 が 前 提 とな ることを物 語 って い る。この 大 きな疑 問 こそ が 物 語 を進 め てい く上 で の 重 要 なエネ ル ギ ー となる 。通 称 セ ントラル ・クエス チョンというもの で あ り、これ と同 等 に重 要 な もの
が セ ントラル ・コンフリクトで ある。 実 際 の 制 作 に おい てもナ ラティブな作 品 を一 気 に組 み 立 て ることは 不 可 能 であ り、 様 々 な条 件 を総 合 的 に考 慮 し積 み 上 げ てい か な けれ ばな らな い。この ことは あた か も 前 例 の ない 全 く新 しいスタイル の 住 宅 を設 計 し、構 築 す るの とよく似 て いる 。ま して や 作 品 以 前 の 制 作 プ ロセ スそ の もの を分 析 し、普 遍 的 法 則 を見 い だそ うとす ること自体 不 可 能 へ の 挑 戦 に近 い と言 ってもよか ろう。した が って 当 然 最 初 か ら整 然 とした一 律 の創 作 ル ー ル など存 在 す る は ず は なく、一 つ 一 つ の 実 験 や 試 行 錯 誤 か らお ぼ ろげな が らそ の 全 容 を徐 々 に浮 か び 上 が らせ るしか な いように思 える。 ス トー リー に お けるそれ ぞ れ の プ ロットの 流 れ をチャンネル と考 え、直 観 的 な形 でも把 握 しや す い3次 元 の 形 態 化 によって有 機 的 なス トー リー 構 造 の 秘 密 解 明 に迫 ることを 目指 してい る。 これ は 、本 来 複 雑 で あるは ず の ストー リー ・チ ャンネ ル に つ いて の 把 握 を単 純 化 す る ことを可 能 に する第 一 歩 で あ り、少 なくとも従 来 そ の 意 味 が 明 解 で なか ったス トー リー 構 造 の 本 質 が 見 えて来 た ように 思 わ れ る。しか しこれ は生 態 学 的 にい うな らば 生 物 の 骨組 み が 分 か った とい うことであ り、五 感 を通 して把 握 す るため に最 終 的 に 必 要 な外 観 部 分 に関 して の 理 解 に直 結 できるとは 限 らな い 。(した が って ここで は この 解 析 方 法 につ い で 骨 相 学"的 と呼 ぶ ことに して い る。) つ ま り実 際 の 映像 作 品 では 、これ らの 骨 格 となるス トー リー 構 造 が 十 分 なバ ックボ ー ン として必 要 不 可 欠 であ るにか か わ らず 、もしその 表 層 部 分 ともいえる視 覚 情 報 に おいて 十分 な素 材 と表 現 方 法 が 肉 付 け され て いな けれ ば 結 局 は作 品としての意 味 をなさない とい うことであ る。に こでは 後 者 の 視 点 に つい て"観 相 学"的 と呼 ぶ ことにして いる。) これ らの 前 提 にたち 、実 験 の 視 点 をもう一 度"骨 相 学"と"観 相 学"の 二 つの 視 点 か ら 総 合 的 感 覚 分 析 の レベ ル に 戻 し、か つ 局 所 的 な 因 果 関 係 に 固 執 す ることな く全 体 構 成 を意 味 づ けて いる問 題 につ いて考 察 してみ る。 一53一
例 えば ス トー1丿一 ・チャンネ ル の構 造 性 か ら明 らか にな った 心 理 的要 素 として"交 錯" と囃 散"が あ り、形 態 学 的 に 見 れ ばそ れ はチ ャンネ ル としての キ ュー ブ構 造 が 交 差 し て いる部 分 と分 離 して いる部 分 の 違 いとい う風 に解 釈 で きる 。それ は ご く単 純 で あ り 形 態 に置 き換 える ことによって構 造 的 な解 釈 は整 理 され るが 、結 果 的 に 観 客 が 受 け 取 る心 理 にどの ような 結 果 をもた らす か につ いて は 実 感 的 に伝 わ って こな い 。もちろ ん 言 葉 としてそ の まま"交 錯"ど 離 散"を 、人 間 の"出 会 い"ど 別 れ"と いった ような 経 験 的 な レベ ル に置 き換 える ことによって 、あ る程 度 の 具 体 的 なイメー ジをつ か む こと は できるが 、逆 に それ は この構 造 が 意 味 す るより普 遍 的 な"交 錯"ど 離 散"の 意 味 す る可 能 性 を絞 ま せ てしまうことにな る。以前 に私 の 研 究 に おい て 、何 度 か"創 造 性"そ の もの につ い て考 察 しそ の 中 で最 終 的 に"集 中"ど 拡 散"と いう対 になる概 念 を絞 り 込 ん だが 、ある意 味 では この"交 錯"が"集 中"と同 質 で 、また"離 散"が"拡 散"と同 質 の 概 念 上 に ある。む ろん極 論 す るな らば 「様 々な現 象 の 本 質 が"波 動"で あ る。」という いわ ば 現 代 物 理 学 の 法 則 に も通 じるあ る種 の 根 源 的 な解 釈 に立 って しま うわ け だ が 。 した が って人 間 の 感 情 を揺 さぶ るため に も、この"波 動"に 相 当 す る心 理 学 的 変 化 をリ ズ ミカル に与 え てや れ ば それ は 成 立 す ると推 論 す ることも可 能 である 。 確 か に、私 たち が 日常 経 験 的 に感 動 す るそ れ ぞ れ の 瞬 間 を 累積 的 に 把 握 して み るな らば 、そ の 多 くは 外 界 の 変 化 が 与 える内 的 な 心 理 状 態 の 抑 揚 、つま りそれ は"波 動" の 変 化 と見 なす ことが できよう。例 え ば単 純 な例 として 、「暗 い 一 夜 が過 ぎ去 り朝 太 陽 の 光 を浴 び るときの 感 動 」は抽 象 化 す るならば"暗"か ら"明"へ の 変 化 の 感 動 であ り、 誰 でも理 屈 抜 きで喜 び と感 動 をうることが できる瞬 間 で ある。む ろん この ことは抽 象 化 され て"… の 暁"と か"… の 夜 明 け"といった感 動 的 な 名 作 を生 み 出 す 動 機 にもな って い るし、た とえタイトル として銘 うたな くても様 々 な過 去 の 作 品 の クライマ ックスで濫 用 といってもよい ほ ど活 用 され て いる 。この 要 素 を単 純 化 す るならば 、そ れ は 造 形 的 に は"黒"と"白"の コントラス トであ り、映 像 や 演 劇 用 語 で 言 うところの"明 転"で あ る。こ
れを数量的にとらえるならばやは り"波動'ととらえることも可能であるし、運動力学的に抽象化す るならば結局"集中"と"拡散'のレベルまで凝縮 することも可能であろう。 そ こで 心 理 的 イメー ジ をカラー ブ ロックに分 解 し、各 チャンネル の どの 部 分 に 配 置 され ることによって 全 体 の 印 象 が 決 定 づ け られ るか を実 験 して み た 。(例え ば 、グ レー は心 理 的 に 不 透 明 な状 態 、赤 は対 決 な どの ス トラグ ル を意 味 し、青 は 沈 着 また は 冷 酷 を 意 味 し、緑 はナ チ ュラル また は 平 穏 を意 味 す る。白 は誕 生 、黒 は 死 や 消 滅 を意 味 す る。) しか しこの ことが 必 ず しも"観 相 学 的 展 開"の す べ てを意 味 す るもの では な いが 、少 な くともス トー リー ・チ ャンネ ル の 骨 構 造 との複 合 機 問 題 をわ か りや す く解 釈 す るた め の 第 一 歩 で は な いか と思 う。 一55一
5.マ ー ケティング か ら見 た 映 画 制 作 の 条 件 映 画 にお けるイメー ジ ・デ ザ インは 作 品 の 中 身 だ けの 検 討 で 完 了す るもの で は ない 。 実 際 観 客 に うった え、しか も興 行 成 績 を上 げる ことによって評 価 が 決 まるの で あ る。し たが って この 段 階 にお い て明 白 に さまざまな 評 価 の 条 件 が 現 実 的 に合 流 して くるの で ある 。この ことにつ いて 「ハ リウッドリライティング バ イブル 」より引 用 す る(脚 注6) 「どん な に優 れ たライター 、でどん な に素 晴 らしい作 品 を書 き上 げた として もプ ロデ ュ ー サ ー や エグ ゼ クティブ か らは 、それ が商 業的なのかどうか尋ね られることだろう。商 業 的 という言 葉 をどうとらえるか は 人 そ れ ぞ れ だ 。多 くの プ ロデューサ ー は パ ッケー ジ ングで 決 まる と言 い 。「キ ャス ティングさえうま くい け ば商 業 的な もの になる。メリル ・ス トリー プ や ト厶 クル ー ズ 、ロバ ー トレッドフォー ドや バ ー バ ラスライサ ン ドが 使 えれ ば そ れ で 成 功 を収 め たも同 然!」 な どと口 にす る。ところが こういったプ ロデ ュー サ ー は 誰 もが 興 行 的な 失 敗 を経 験 してい る ので は な いだ ろうか 。また 商 業 的 か どうか は テー マ 次 第 だと主 張 し、流 行 を追 い か けて は 、そ れ をフル 活 用 しようとす る人 もいる。た とえ ば 『プ ラトー ン』の 成 功 は 、一 見 ベ トナ 厶 の 戦 争 を描 け ば即 ヒットとす るか の ように思 わ せ た 。しか しそ の 後 作 られ た 『ハ ノイ・ヒル トン』は どうだ った ろう。『ウォー ・ゲ ー 厶 』に よって コンピュー ター を題 材 とした 映 画 は ヒットす るように思 え たが 、それ を受 けて作 ら れ た 『ダ リル 秘 め られ た 巨 大 な謎 を追 って』が 興 行 的 に成 功 した とはい えず 、『ス ター ウ ォー ズ 』に続 いて 作 られ た 『ブラックホ ー ル 』や 『スペ ー ス ・パ イレー ツ』とい った 映 画 も同 じように成 功 に は ほ ど遠 か った 。 人 に よって はベ ス トセラー 小 説 を 映 画 化 す れ ば よい というだろう。もっともらしく聞 こえ るが 実 際 の ところは 果 して どうだろう。例 え ば 『レイズ ・ザ ・タイタニ ック』の 失 敗 は マー ブル ・アー チ ・プ ロダクション が倒 産 す るきっか けとな り、『虚 栄 の か が り火 』も興 行 的 に 大 失 敗 して いる 。『コー マ 』や 『リトル ・ドラマー ・ガ ー ル 』といった ベ ストセラー の 小 説 を原 作 とした 映 画 でさえ 、そこそ この 売 り上 げを上 げた に す ぎな い。ならばきっと映 画 一57一
の 続 編 を作 るの は どうだ ろう。確 か に 『ロッキ ー 』シ リー ズ は ヒット作 を次 々 と量 産 した 。 しか し『ジョー ズ3D』 の 結 果 は ひ どい有 様 で は なか っただ ろうか 。また 、続 編 を作 る作 業 は大 変 手 間 が か か るとい うことも肝 に 命 じて おく必 要 が あ る。… 中 略 … 成 功 の た め の 三 つ の 要 因 商 業 的 な成 功 の 方 法 を考 え る際 に は 、一 つ の 要 因 だ け にとらわ れ な いことだ 。脚 本 を 成 功 へ と導 くた め の 要 因 として (1)ス トラクチャー (2)首虫倉唖生 (3)マ ー ケティング という三 つ をあ げ ることが できるだ ろう。これ らの 一 つで も欠 くな らば脚 本 は 採 用 され ない か 、運 よく採 用 され ても興 行 的な 失 敗 が 待 ち 受 けることになる 。この 本 の パ ー ト1 で はス トー リー ・ス トラクチ ャー(脚 本 の 構 成)に つ い て述 べ て きた 。ス トー リー が 散 漫 であ った りうまく機 能 して いな いの な ら、商 業 面 で の 成 功 は 期 待 できな い だろう。確 か に ヒットした 映 画 の 中 に は 構 成 が ダメなもの もある 。しか しそ れ は 非 常 に稀 な ことだ 。 『スター ウォー ズ 』、『バ ック・トゥ・ザ ・フユー チャー 』、『ジョーズ 』、『レイダ ー ス/失 わ れ たアー ク』、『E.T.』、『ゴー ス トバ スター ズ 』とい った大 ヒット映 画 は 、しっか りとした構 成 を持 って いる 。構 成 が 成 功 の た め に必 要 不 可 欠 だ ということは 繰 り返 し証 明 され て い るの だ 。 しか し脚 本 の 構 成 は 、ライター の 独 創 性 によって肉 付 けされ る必 要 が あ る。ちなみ に プ ロデ ュー サ ー が 独 創 性 とい う言 葉 を 口 にす る時 は次 の ような ことを言 ってい ると考 えて よい 。 ・新 鮮 味 が あるの か ・オ リジナ リティに溢 れ てい るか ・今 まで 作 られ てきた 作 品 と何 か 違 いが ある の か
・それ は ユ ニー クか ・フック(観 客 の 興 味 を惹 くもの)は あるか ・説 得 力 が あ り、プレミス(コンセプト)に惹 きつ けられ るか ヒットした映 画 の 多 くは 、卓 越 した 独 創 的 なプ レミス を持 って いる 。『ゴー ス トバ ス ター ズ 』、『ウォー ・ゲ ー 厶 』、『殺 した い 女 』、『ET.』な どの ヒット作 は か つ て 成 功 を収 め た映 画 を真 似 て 作 られ た もの で はな い 。ライティング 作 業 の 中で 、脚 本 に特 別 な 何 か を盛 り込 む ことが できな けれ ば 、素 晴 らしい脚 本 は決 して書 きあ が らな いだ ろう。… 中 略 一 コネ クションをい か に見 い だす か ■ 普 遍 的 なテー マ ■ 成 功 した 映 画 はた い てい 、観 客 の 心 に 訴 え か ける普 遍 的な テー マを持 ってい る。観 客 の 興 味 を惹 きつ け観 客 に語 りか ける 。そ の 根 底 に は そうしたテー マが 確 実 に存 在 して い る。テー マが 人 間 を描 くか らこそ 観 客 は 主 人 公 や 状 況 に 自分 を照 らし合 わ せ 、ライ ター の アイデ ア の 中 か ら原 因 と結 果 を見 いだ し、人 生 の 意 味 を深 く理 解 す るの で ある 。 そ の アイデ アとは誰 もが 体 験 した ことの あ る人 生 経 験 か もしれ ない し(『危 険 な情 事 』 で は 向 う見 ず なセ ックスを行 え ば 家 族 を危 険 に さらす ことに なる。『許 され ざる者 』で は 、 暴 力 は それ を行 使 す る人 々 の 人 生 に 多大 な る影 響 を及 ぼ す)、ある い はライター が エ ッセ イに書 くの で は なくス トー リー の 中 で伝 え たい と思 って い るメッセ ージ(『シン ドラー の リス ト』で は 普 通 の 行 いで あって もsあ る状 況 下 で は絶 対 的 な 善 となる)か もしれ な い 。こういった 普 遍 的 なテー マ は 単 純 化 され 何 度 も繰 り返 し使 わ れ て いる 。 … 中 略 … 述 べ てきた こうい ったテ ーマ は す べ て 、成 熟 やア イデンティティー とい った精 神 や 感 情 の 状 態 、人 生 の プ ロセス に 働 きか けて いる ことにお 気 づ きだ ろうか 。優 れ た ライター は 、 た い て い心 理 学 に精 通 してい るもの だ 。人 を観 察 し、精 通 し、理 解 して お り、人 は何 を 行 うもの な の か 、そ して、それ が 何 故 な の か を見 極 め るた め 、人 間 につ い て深 く学 ん 一59一
で いる の だ 。そ うして 、人 間 を描 けば 描 くほ ど 、そ の 描 写 の 正 確 さが 深 まれ ば 深 まる ほ ど、観 客 は 映 画 の 主 人 公 により魅 力 を感 じることになるの であ る。 商 業 的な 側 面 を流 行 か ら探 る これ まで に 延 べ てきた ように、成 功 を おさめ た 映 画 は観 客 を惹 き付 けるた め の 、強 い 普 遍 的 なテー マを持 って いる 。しか しそ うい った 映 画 の 多 くが 、実 にタイ厶 リー だ った と いうことも忘れ て は な らな い 。『チャイナ ・シンドロー 厶 』が スリー マイル 島 で の 原 発 事 故 と同 じ週 に公 開 され た ことを覚 え てい るだ ろうか 。この 事 故 が 映 画 の ヒットを後 押 し したことは 明 白 であ る。さらに 、『再 開 の 時 』が 公 開 され た の は 、60年 代 に 青 春 時 代 を 過 ご して 人 々 が 過 去 に郷 愁 を覚 え始 め る年 齢 に達 したときであ った し、『ウォー ・ゲ ー 厶 』はコンピュー タを使 う子 供 達 の 姿 が 多 くの ニ ュー スで 報 道 され る中 で公 開 され た 。 そ して 、シル ベ スター ・ス ター ロー ン が 演 じた 映 画 の 多 くは1980年 代 の 保 守 的 な政 治 情 勢 に見 事 にマ ッチ してい たの だ 。 しか しな が ら、脚 本 か ら公 開 ま でに は 数 年 か か る 。そ の た め 、どん な映 画 であ っても 社 会 の 風 潮 を反 映 させ ることは ほ とん ど不 可 能 に思 えるが 、そ れ で は 一 体 どうす れ ば よい の だ ろうか 。この ことを理 解 す るた め に芸 術 家 の 仕 事 に つ いて考 えてみ る。芸 術 家 は 常 に時 代 の 先 を行 く傾 向 が あ る。流 行 や トレン ドを誰 よりも素 早 く感 じとり、また 人 々 の 潜 在 意 識 の 中 に 埋 もれ て いる脈 動 を見 いだす の だ 。」 6.創 作 モデ ル ス トー リー を創 作 す るため の 因 果 関 係 を構 造 的 に とらえた 筆 者 独 自の モデ ル を説 明 す る 。 以 下 は筆 者 が 発 想 の ベ ー ス として 提 案 して きた集 中 ⇔ 拡 散 モデ ル であ る。
この モデ ル は 登 場 人 物 の 心 理 的 要 因 と行 動 的 要 因 の 相 関 関 係 を創 作 者 に とって分 か りや す い構 造 として示 した もの であ り、あ る意 味 で は 最 も新 しい 心 理 学 に お ける性 格 分 析 あ るい は 発 達 心 理 学 等 と同調 す る部 分 が あるの では な いか と考 えてい る。 しか し、いわ ゆ る分 析 的な 心 理 学 的 モデ ル を示 したわ けで は な い 。 む ろん 将 来 これ が 心 理 学 領 域 にお いて も再 評 価 され ることは 期 待 して いるが … ・。 以 下 は 集 中 ⇔ 拡 散 モデ ル をベ ー ス とした 心 理 ⇔ 行 動 モ デ ル で ある F)1
さて 、人 間 の 心 理 的 状 況 は 当 然 な が ら行 動 に 大 きな影 響 を与 える 。基 本 的 に理 性 を 持 った 人 間 の 場 合 、そ の 理 性 的 判 断 に よる意 志 は その まま 実 際 の 対 外 的 、社 会 的 行 動 として の 実 現 性 を意 味 す るもの で あ る。無 論 本 人 の 意 志 とは か か わ りなく、あ る行 動 を 強 い られ た りあるい は 無意 識 の うち に本 人 の 望 まな い 行 動 に走 るとい うこともあ り得 るが … 正 常 の 場 合 で は この 図 式 は 秩 序 立 った順 序 をもって い る。す な わ ち一 般 的な 流 れ として本 人 の 心 理 状 態 、特 に本 人 の 要 求 とい うもの が 特 定 の 行 動 を生 み 出 す の であ る。した が って 図で は 青 の 円 柱 で示 した 部 分 が そ の 心 理 的 コンデ ィションを 表 してい る。さらに そ の 心 理 的 コンデ ィション は 赤 の 円 柱 で表 され た 行 動 的 コンデ ィシ ョンに影 響 を及 ぼ す の で ある 。そ の 行 動 的 エ ネル ギ ー は 本 人 の 内 か ら外 界 に 対 して 放 たれ る。その 状 況 は 外 部 に拡 散 す る放 物 線 で象 徴 され て いる。そ してそ の 行 為 が 外 部 に 影 響 を及 ぼ し一 定 の 理 解 的 変 化 が 生 じる。その 行 為 が 外 界 に及 ぼ す 空 間 を 水 平 面 としての 円盤 で表 現 した 。さらに行 為 の 結 果 を受 けた 外 界 の 事 象 は 時 間 をか けて 再 び 本 人 に 反 映 され る。いわ ゆ るフィー ドバ ックが 起 こる 。した が ってそ の フィー ド
バ ックを再 び 中 心 に 回帰 する放 物 線 で 描 い た 。この放 物 線 は 最 初 感 覚 器 官を通 して 本 人 に知 覚 され 直 ちに本 人 の 心 理 的 変 化 をもた らす 。 この ようにして本 人 の 心 理 的 状 況 が 行 動 的 状 況 に変 化 を与 え 、そ の 行 動 の結 果 が 環 境 の 変 化 を起 こし、そ の結 果 再 び 環 境 か ら本 人 にフィー ドバ ックが起 こる。この 循 環 的 関 係 が 本 人 とそ れ を取 り巻 く世 界 との 運 命 的 な関 係 の 連 鎖 をひき起 こす の だ 。 これ らの 関 係 を象 徴 的 に 表 現 した の が この 心 理 一行 動 モデ ル であ る。 筆 者 の 研 究 でス トー リー を構 築 す る四 つ の 条 件 を提 案 した 。 それ は① 空 間 、② 時 間 、③ 心 理 、④ 行 動 の 四 つで ある。この うち 心 理 と行 動 につ い て は 提 示 した モデ ル の 中 に位 置 づ けられ ている が 、空 間 と時 間 につ いて は どの ように か か わ る条 件 な の であ ろうか 。 空 間 、お よび 時 間 はす べ ての 事 象 にか か わ る問 題 で ある。したが ってほ ぼ 同 時 的 に 心理 、お よび 行 動 の 因 果 関 係 にか か わ ってくるもの で あるが 、発 想 の プ ロセス として は 心 理 お よび 行 動 の それ ぞれ に 時 間 と空 間 の 二 つ の 視 点 か らの 条 件 づ けを行 うほ う が分 析 お よび 構 築 しや す い と言 えるだ ろう。 した が って心 理 および 行 動 に特 有 の 空 間 と時 間 の さま ざまな特 質 が か か わ ってくると 解 釈 できる 。 特 に最 近 のハ リウッド・スタイル に よるス トー リー 構 築 の 通 説 に基 づ くな らば 、第 一 に 主 人 公 の 目標 に対 す る強 い願 望 、すな わ ち心 理 レベ ル にお け る強 い動 機 づ け が 必 要 とな る。 主 人 公 の 心 理 状 況 をめ ぐって回 転 す る 変 化 をス トー リー ホ イー ル の 概 念 にた とえる研 究 が あ る。ジェー ム スeボ ネットー 著 「クリエ イティブ脚 本 術 」(脚注7)が そ れ で ある 。 「秘 め られ た真 実 を研 究 す るに あた って 、四 つ の 分 野 に分 けることが で きる。 1一ス トー り一 ホ イー ル(物 語 の 円) 2一ゴー ル デ ン ・パ ラダイム(黄 金 率) 一63一
3一 ス トー リー ・フ ォ ー カ ス(物 語 の 焦 点) 4一 シ ュ ガ ー ・コ ー ト(糖 衣) ス トー リー ホ イー ル の 研 究 とは 、つ ま り誕 生 か ら絶 頂 へ 、そ して絶 頂 か ら死(ま た は 奈 落)へ とい う変 化 と成 長 の サ イクル を学 ぶ ことだ 。(図下 右) 古 いもの でも新 しい もの でも、す べ て の 傑 作 は この 図 に 当 て は め ることが できる。この 方 法 で様 々 なタイプの 物 語 をまとめ てみ ると、その どれ も実 は つ なが ってい て 、同 様 の 目的 を持 って いることに気 が つ くだ ろう。そ の 目的 とは私 たちをよ り高 い 次 元 に導 く とい うことに ほ か な らな い 。 ゴー ル デ ン ・パ ラダイ厶 の 研 究 とは 、物 語 の サ イクル や 推 移 の 一 部 分 を学 ぶ というこ とだ 。これ はス トー リー ・モ デ ル に とって最 も重 要 なところでもある 。そ こに は ス トー リー ホ イー ル の 、す べ て の ステー ジ で繰 り返 され る基 本 的 なパ ター ンや 設 計 図 がeち ょう どDNA配 列 の 遺 伝 子 記 号 の ように 眠 ってい る 。ゴー ル デ ン ・パ ラダ イ厶 を 表 す た め に 、 この デ ザ インを用 い ることにす る 。ス トー リー ホ イー ル の 中 に ある 上 昇 側 や 下 降 側 の そ れ ぞ れ の 段 階 に 、この ゴー ル デ ン ・パ ラダ イ厶 のモ デ ル が あて は まることになる 。こ の ゴ ー ル デ ン ・パ ラダ イ厶 が 示 す メタファー は 人 間 の 心 理 で もあ る。人 間 の 精 神 の 中 にあ る一 心 理 を表 した もの だ と考 えた らいい だろう。つ ま りゴー ル デ ン ・パ ラダ イ厶 は 心 理 を見 るた め の 方 法 でもある の だ 。心 理 の 構 造 や いろい ろな 局 面 を 示 して、それ が どの ように作 用 し合 い 、発 展 して 形 造 られ て いるの か を見 ることが で きるダ イナ ミック な モデ ル だ 。 3番 目の モ デ ル はス トー リー ・フォー カス。これ ま で述 べ てきた ように 一 つ 一 つ の 物 語 は秘 め られ た 真 実 の ほ ん の 一 部 分 を語 って いる。そ の 一 部 分 とはつ ま りゴー ル デン ・ パ ラダイ厶 で ある 。物 語 を積 み 上 げ て いくことでゴー ル デ ン ・パ ラダ イム を 明 らか に し、 そ の ゴー ル デ ン ・パ ラダイ厶 が 何 度 も繰 り返 され ることでス トー リー ホ イー ル が でき あ
が る とい う図 式 に な る 。」
この ス トー リー ホ イー ル 論 を 元 に 筆 者 独 自 の ス トー1丿一 ホ イー ル を 作 成 して み た 。