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地磁気観測所テクニカルレポート: 第13巻第1,2号 (第18号)

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1.はじめに

 地磁気脈動は,国際地球電磁気学高層物理協会 (IAGA)によって,連続で規則的な波形を持つ脈動 の Pc(continuous pulsations)と,波形が不規則な Pi(irregular pulsations)の2つに分類され,さらに これらは周期によって表1のように細かく分類され ている.

 特に,周期40秒から150秒までの Pi2地磁気脈動 は,地球磁気圏におけるサブストームの発生と密接 に関係していることが知られており(たとえば,

Sakurai and Saito,1976a),Nosé et al.,(2012)は, ウェーブレット解析を用い,Pi2地磁気脈動の周波 数範囲にあたるウェーブレットパワーを1分ごとに 計算した Wp指数を提唱している.  地磁気脈動報告リストは,女満別観測施設で観測 される地磁気脈動について,継続時間と周期から脈 動の分類を,振幅から明瞭度を表す Qualityを付し て作成している.Qualityとは,1957年の IAGAコペ ンハーゲン決議で現象報告の際に付けるよう勧告さ れたもので,  A=very distinct  B=fair, ordinary, but unmistakable  C=doubtful と定義されているが,Qualityに対する具体的な数 値は定義されていない.  地磁気観測所では,地磁気観測業務実施細則にお いて,Qualityの振幅を表2のように定め,運用して いる(横山 他1998,横山 他1999).また,地磁気脈 動リストは,地磁気観測所年報や地磁気観測所ホー ム ペ ー ジ(http://www.kakioka-jma.go.jp/)で 検 索, 閲覧することができる.  地磁気観測所における地磁気脈動報告リスト作成 業務は,現在は10Hzサンプリングデータに遮断周 期150秒のデジタルハイパスフィルタを通して紙出

短時間フーリエ変換による地磁気脈動現象 Pi(irregular pulsations)の解析 1

地磁気観測所テクニカルレポート 第13巻第1,2号 1 -6頁 平成28年2月

Technical Report of the Kakioka Magnetic Observatory Vol.13, No.1,2, pp.1 - 6, February 2016

短時間フーリエ変換による地磁気脈動現象

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)の解析

平原秀行 地磁気観測所観測課 2015年1月21日受領,2015年11月2日改訂,2015年11月13日受理 要   旨  地 磁 気 現 象 を 高 い 時 間 分 解 能 で 周 波 数 解 析 す る た め,短 時 間 フ ー リ エ 変 換(Short-time Fouriertransform,STFT)を使って,女満別観測施設の地磁気観測10Hzサンプリングデータのパ ワースペクトル1分値を求めた.そのパワースペクトル1分値が現象解析に有効であるか,地磁 気観測所が年報に報告している女満別観測施設で観測した地磁気脈動現象(Pi)の周期や振幅な どの読み取り値と比較して確かめた.2012年,2013年に報告された女満別 Pi2報告リストと,求 められたパワースペクトル1分値を比較した結果,報告された振幅の読み取り値とその周期に対 応するスペクトル値について良い対応を示し,短時間フーリエ変換が地磁気短周期現象の把握に 有効であることが示された.

©2016 Kakioka Magnetic Observatory, Japan Meteorological Agency 表 1 地磁気脈動の分類

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力し,周期と振幅を定規を使って直接読みとり, フィルタの周波数特性を考慮して作成している.こ の作業は,地磁気変動の様々な周期の波が重畳して いるため,それらを分離しながら読みとることに熟 練を要し,読みとりの誤差も大きくなるなど,一定 のレベルを保つことが困難であった.また,Piは発 生数が多く,作業の煩雑化をまねいていた.  地磁気観測所は,柿岡で観測された10Hzサンプ リングの地磁気 H成分のダイナミックスペクトル をホームページで公開しているが,時間分解能が 204.8秒(約3.4分)で成分も限られているため,お およその出現時刻の把握しかできなかった.本調査 では,短時間フーリエ変換によって周波数解析した 3成分の地磁気脈動のスペクトルを1分毎に求め, 報告リストの周期と振幅とを比較し,Pi報告リスト 作成の補助的役割になるか検討した.  短時間フーリエ変換とは,連続するデータから一 定時間の信号を切り出し,窓関数をかけたものを フーリエ変換することで,通常のフーリエ変換によ るスペクトル解析より時間分解能を高くすることが できる.この手法は,音声スペクトルなどの非定常 信号の周波数成分の時間変化をとらえるために広く 使われている. 2.方法  2012年1月から2013年12月の女満別地磁気観測 データを用いた.観測器は島津製作所製高感度フ ラックスゲート磁力計 FM10を使い,データは3成 分(X,Y,Z)で10Hz(0.1秒)サンプリング収録を している.  本調査で用いる短時間フーリエ変換は,300秒間 のハニング窓を用い,409.6秒間のフーリエ変換を 行った.1回のフーリエ変換では10Hzデータ3000 個を使う.オフセットと直線トレンドを差し引いた 3000個のデータにハニング窓をかけたものと,さら に残りを0埋めした4096個のデータを1回分のデー タとして,フーリエ変換を行いパワースペクトルを 求めた.得られたパワースペクトルを,ハニング窓 の面積で5分割し,それぞれの時刻に割り当てた. この処理を1分ずつずらしながらそれぞれの時刻の パワーを足していき,5つ足した値を1分値とし た.今回の調査で得られた1分値は,窓関数やデー タ長の補正をしていないので相対値である.本調査 では,周期20秒から410秒まで3成分のパワースペ クトルを求めた. 3.2013年6月9日の例  パワースペクトルの例として,2013年6月9日14 時30分から15時30分の X成分のデータとダイナミッ クスペクトルを図1に示す.Pi報告リストによる と,2013年6月9日14時51分(UTC)に周期60秒, 振幅6.3nT,Quality Aの Pi2が報告されている.  図2から,出現時刻に対応した強い周期のパワー が確認できる.また,14時50分以降は強いパワーの 周期が長いほうへ移動しており,Pi2が単周期の振 動現象でない様子も見て取れる. 4. ハイパスフィルタとの違い  本調査における短時間フーリエ変換は,観測デー タをそのまま使っているが,地磁気観測業務におけ る脈動現象読み取りでは,遮断周期150秒のデジタ ルハイパスフィルタ(以下,ハイパスフィルタ)を 通したデータを使っている.そこで,観測データと 現業用のハイパスフィルタを通したデータにおい て,ダイナミックスペクトル上で差があるか,Piの 波形に模した継続時間の短い,長さ3/2波長の正弦 波をサンプルデータとして確かめた.  ハイパスフィルタは,斉藤(1978)によるバタ ワース特性の漸化式2次ハイパスフィルタである. ハイパスフィルタのゲインと位相特性を図2に示 す.  各周期について,サンプルデータにハイパスフィ ルタをかけ,それぞれのパワースペクトルを求め た.そして,ハイパスフィルタの周波数-群遅延特 性によるピーク時刻のずれを相互相関から求めた. 波数4の波形とフィルタ処理後の波形とパワースペ クトルを図3に,相互相関の結果を表3に示す.  表3からハイパスフィルタでは80秒より長い周期 は,周波数-群遅延特性によってピーク時刻が1分 遅れることがわかった.このことにより,地磁気観 2 平原秀行 表2 地磁気観測所で定めた地磁気脈動の Quality 擾乱時とは,他の現象が混在し,波形を崩している場合である.

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短時間フーリエ変換による地磁気脈動現象 Pi(irregular pulsations)の解析 3 図1 2013年6月9日14時30分から15時30分の X成分のデータ(上)とダイナミックスペクトル(下).横軸は時刻(UT).上の 縦軸は磁場の強さ.下の縦軸は周期,強さを色でを表している. 図3 周期102秒の長さ3/2波長の波形と短時間フーリエ変 換の1分値. 元波形(上)とデジタルハイパスフィルタ処理後の 波形(下). 横軸は時刻,縦軸は実線が磁場の強さ,棒グラフが パワーの 1分値を表している. 図2 デジタルハイパスフィルタのゲイン(上)と位相特 性(下). 横軸は周期.上の縦軸はゲイン,下の縦軸は位相差.

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測所が報告している Piの時刻は,周期が80秒より長 いものは1分遅れている可能性がある. 5.Pi報告リストとの比較  調査期間の2012年から2013年までに地磁気観測所 が報告した Quality A 5個,Quality B 111個の Piに ついて,Quality条件を満たした成分の振幅とその 成分の報告された周期のパワーを比較した.その結 果を図4に示す.Piの開始時刻は必ずしも最大振幅 と一致しないため,報告された開始時刻から5分間 のパワーの最大値をプロットした.  Quality Aと Bのプロットが重なっている部分が ある.フーリエ解析は,入力データを無限に続く波 の和として表現しているので,図3に示したような Piの波形によく見られる,継続時間の短い長さ3/2 波長のサンプルデータのような波形に対しては,小 さく計算される.  そこで,静穏時の QualityA,Bおよび Cの境界であ る振幅6nT,3nT,および1nTの,長さ3/2波長のサン プルデータ波形を入力データとしてパワー値を計算 し,Quality A,B,および Cの境界を求め,図4に重 ねて示した.

 Quality Aの Piは,すべて Aの境界線の上にあり, よい対応を示した.一方,Quality Bでは,境界線よ り下にもプロットがあった.これは Piの開始時刻 が,条件を満たすピークの時刻よりかなり前にある 場合であり,報告リスト作成時の読み取り間違いで はなかった.  Pi報告リストと本調査で得られたスペクトルのパ ワー値はよい対応を示し,現象出現の把握には十分 な役割を果たすが,パワー値は現象の継続時間によ る影響が大きく,パワー値から Piの Qualityを求め ることは困難であることがわかった. 6.結論  本調査では,女満別観測施設の地磁気観測10Hz サンプリングデータを短時間フーリエ変換して,従 来の周波数解析より高い時間分解能のパワースペク トル1分値を求めた.  その1分値で作成したダイナミックスペクトルに より,2013年6月9日の例から地磁気脈動 Piの周期 が短時間に変動している様子が見て取れた.このこ とから,1分値を使って新たな現象の発見や短周期 現象の解析に使用することが期待できる.  Pi報告リストとの比較については,現象出現の把 握には役立つものの,継続時間の短い不規則な変動 から必ずしもスペクトルのパワー値から Quality判 定ができないことがわかった.しかし,ダイナミッ クスペクトルをみることにより,短周期の地磁気現 象を簡単に確認することができるため,現業業務に おいて,現象の見落としや読み間違いなどの人為的 ミスを少なくすることに貢献でき,十分な役割を得 ることができる. 謝辞  本調査において,観測課大川隆志課長ならびに笹 岡雅宏主任研究官に,大変有益なご助言をいただき ました.ここに感謝の意を表します. 参考文献

IAGA Copenhagen meeting, Annals of the International Geophysical Year, vol. IIB,1957, pp.668-709. Nosé, M., T. Iyemori, L. Wang, A. Hitchman, J. Matzka,

M. Feller, S. Egdorf, S. Gilder, N. Kumasaka, K.

4 平原秀行 図4 Pi2報告値とパワースペクトル1分値の比較結果. 横軸は周期,縦軸はパワー.実線は長さ3/2波長の サンプルデータによる Quality境界を表している. 表3 ハイパスフィルタの周波数-群遅延特性によるピー ク時刻のずれ. 横軸は時間差,縦軸は周期,値は相関係数を示して いる.周期68秒まではピークの時間差は見られない が,周期81秒からはピークが遅れる.

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Koga, H. Matsumoto, H. Koshiishi, G. Cifuentes -Nava, J. J. Curto, A. Segarra, and C. Celik, Wp index: A new substorm index derived from hi gh-resolution geomagnetic field data at low latitude, Space Weather,10, S08002, doi:10.1029/2012SW000785, 2012.

Sakurai, T. and T. Saito (1976a), Magnetic pulsation Pi 2 and substorm onset, Planet. Space Sci.,24, 573-575, doi:10.1016/0032-0633(76)90135-5,1976. 斉藤正徳,漸化式ディジタル・フィルターの自動設計,物 理探鉱,31,240-263,1978. 横山恵美,福井史雄,大和田毅,地磁気変化量観測に関 する調査―地磁気脈動現象読み取り基準に関する調 査 ,地磁気観測所技術報告 第37巻 第03,04号(1998 年3月) 横山恵美,大和田毅,福井史雄,岩瀬由紀,重野伸昭,源 泰拓,地磁気脈動現象報告基準の調査について,地 磁気観測所技術報告 第39巻 第01号(1999年9月)

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6 平原秀行

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by

Hideyuki HIRAHARA Kakioka Magnetic Observatory

Received 21 January 2015; received in revised form 2 November2015; accepted 13 November2015

Abstract

In order to analyze the geomagnetic phenomena with high time resolution, the power spectrum one minute value of the geomagnetic10Hz sampling data Memambetsu Magnetic Observatory is obtained using the short-time Fourier transform (STFT).

In order to confirm the one minute value is effective for phenomena analysis, we compared the one minute value of the power spectrum with the Memambetsu Pi2 lists reported by Kakioka Magnetic Observatory from 2012 to 2013. As the result, it showed a good correspondence between the period and the amplitude. Therefore, the STFT is effective method for understanding of geomagnetic short period phenomena.

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1.はじめに  地磁気観測所は1932年の第2回国際極年を機に地 電位差観測を開始し,現在まで80年以上にわたり東 西,南北の2成分の地電位差の観測を行ってきた. しかしながら,常に同じ場所,同じ電極を使用して 観測を行って来たわけではない.表1に地磁気観測 所における地電位差観測に使用されてきた電極間の 距離を示す基線長及び,電極の変遷を,図1に地電 位差観測の長期安定性の評価の目安として観測値の 月平均値のプロットを示す.  地電位差観測の変遷で特に大きな変更として, 1988年に地磁気観測所構外に電極を埋設して実施し ていた観測(長基線による観測)が土地借用などの 諸事情によりできなくなり,構内に埋設した電極を 使用した観測(短基線による観測)に切替えたこと が上げられる.  当所の地電位差観測の主な目的は,地磁気変動に 伴う電位差(誘導電位差)の変動を観測することで ある.地電位差の観測値には,誘導電位差と電極と 土壌との分極による電位差(接触電位差)が混在し ている.誘導電位差は電極間の距離に比例して大き くなるが,接触電位差は電極間の距離に依存しな い.長基線による観測から短基線による観測に変更 する場合,誘導電位差は小さくなるが接触電位差の 大きさは変わらないため,結果として得られる電位 差(誘導電位差+接触電位差)に占める接触電位差 の割合が大きくなる.接触電位差が常に一定であれ ば問題は無いが,接触電位差は,周辺土壌の状態の 変化により変動し,特に短時間で大量の降水があっ た場合に顕著に変動することがわかっている(山 口 石井(1984)).短基線による観測に変更する際 に,降水による接触電位差の変動をいかに小さくで きるかが大きな課題となっていた.  このような理由から,短基線による観測に変更す るにあたって接触電位差が小さく安定性に優れてい るとされていた平衡電極(鉛・塩化鉛)を使用する こ と と な っ た(長 谷 川 他(1987),小 池 他 (1988)).しかし,図1で分かるようにこの平衡電 極による観測はすぐに非常に不安定となり,報告値 の計算方法から見直さねばならない事態に陥った.  このため,1991~92年に銅板電極を製作して埋設 し,定常観測の N,S,E,W 極を平衡電極から順次銅板 電極に切り換えた(大和田 他(1992),小池 他 (1994)).現在までこの銅板電極を使用した観測が 継続されているが,図1を見てもわかるように,平 衡電極を使用していた期間より安定した観測データ が得られているものの,長基線による観測の時代に 比べると安定しているとは言いがたい.  銅板電極を使用した短基線による観測は,平衡電 極の不安定さという問題に関しての緊急的な対応で 短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 7 地磁気観測所テクニカルレポート 第13巻第1,2号 7 -19頁 平成28年2月

Technical Report of the Kakioka Magnetic Observatory Vol.13, No.1,2, pp.7 - 19, February 2016

短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査

森永健司1,外谷 健 地磁気観測所観測課,元地磁気観測所観測課 2015年5月25日受領,2015年10月5日改訂,2015年10月9日受理 要   旨  地磁気観測所における地電位差観測において,降水時の接触電位差の変動は長年の課題となっ ている.この課題解決に向けて,本研究では複数の銅板電極を使用した多極法による地電位差観 測と,平衡電極を使用した観測を実施し,観測データの長期安定性や降水による影響の違いにつ いて調査した.  調査の結果,以下のことが確認できた.   ①平衡電極は長期的な地電位差観測には適さない.   ②降水の影響はペアとなる電極埋設場所のローム層の厚さの違いと関連している.   ③電極間に温度差がある場合,温度差に比例する電位差変動が観測される可能性が高い.

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あり,短基線による観測に変更する際に課題となっ ていた,降水による接触電位差の変動をいかに小さ くするかという課題については検討されていない.  銅板電極を使用した短基線による地電位差観測の 開始とほぼ並行して,山崎らは複数の電極を使用し た多極法による地電位差観測手法に関しての調査研 究 を 行 っ て い る(山 崎 他(1990),清 水 山 崎 (1991),大川 他(1995)).多極法は多数の電極に より得られる信号から,降水による接触電位差の変 動を除去することを目的としている.しかしなが ら,多極法による地電位差観測は研究担当者の人事 異動や雷災による収録装置の故障により,その有効 性への結論は出ておらず,依然として接触電位差を いかに小さくするかという課題は未解決の問題とし て残されている.  本研究では,未解決のままとなっている接触電位 差の変動を小さくするという問題の解決に向けて, 多極法による地電位差観測のために埋設された試験 電極を使用した複数のペアによる地電位差観測を実 施し,観測データと地磁気観測所構内の VLF-MT観 測結果と比較して,電極埋設場所の違いによる降水 時の変動の違いについて確認した.並行して市販の 平衡電極を購入し,定常観測で使用している銅板電 極とほぼ同じ場所に埋設し,平衡電極による地電位 差観測の再検証を行った.また,観測データに見ら れた年周変化について地温データと比較し,接触電 位差の変動と地温変化の関係について調査した. 2.観測機器 2.1 電極  地磁気観測所構内には,定常観測で使用している 電極のほかに多くの試験電極が埋設されている.表 2に,電極と観測室間の通線がなされている電極の 一覧を示す.本研究ではこれらの内,銅板で作られ た電極のみを使用し,92C電極を中心極として他の電 極を組み合わせた多極法と同様の観測を実施した.  合わせて,現用電極(銅板)と同じ位置に新規に 平衡電極を埋設し,現用電極との比較を行った.平 衡電極は,中のゲルを交換せずに数年間使用可能な 市販品の鉛-塩化鉛電極(「自然電位長期観測用非 分 極 性 電 極(PE6)」(Phoenix geophysics Limited 製)を 購 入 し,定 常 観 測 に 使 用 し て い る 電 極 (N,S,E,W)の傍の深さ約0.8mに埋設した.新たに 埋設した平衡電極は埋設場所に応じて06N,06S, 06E,06W と名づけた. 2.2 収録装置  多電極を用いた地電位差データを観測するため に,横河電機株式会社の Model4370µR1800打点式 記録計を使用した.収録チャンネル数は,12chで, サンプリング間隔は5秒である.µR1800は打点式 のペンレコーダーであるが,オプション機能として RS422-Aに準拠した通信用インターフェースを兼ね 備えている.データを効率よく収集,解析するため に,RS422-Aの出力データを RS232C準拠の信号に 変換するシグナルコンバーターを取り付け,PC端 8 森永健司・外谷 健 表1 基線長および電極の変遷 図1 地電位差観測値の月平均値プロット

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末で多電極のデータを収録するソフトウェアの開発 をおこなった.図3に収録システムの写真を示す. データ収録プログラムは C++言語で作成し,12ch 分のデータを1日毎にテキスト形式で保存した.収 録されるデータの最小分解能は0.1mVである. 2.3 収録チャンネルについて  多電極による地電位差観測装置は12chの電極間 データを収録できる.1から8チャンネルは92C1 電 極 を 中 心 と し た 多 極 法 の デ ー タ(順 に 91N3,92NE4,92SE1,91S3,91E3,92SW1,91W3, 72N5との組み合わせ)を,9と10チャンネルは新 規埋設した平衡電極データ(06N-06S,06E-06W) を,11と12チャンネルは定常観測と同じ電極の組み 合わせ(91N2-91S1,91E2-91W1)のデータを収録 することとし観測を開始した.  しかしながら,この期間に定常観測の収録器や信 号ケーブルの不調等のトラブルが発生し,対応のた めに何度かチャンネル構成の変更を行っている.表 3に,多電極観測における収録チャンネルの更新履 歴を示す.  観測は2006年8月に開始し,2009年7月まで続け られたが,2008年8月以降は収録装置の故障が多発 し正常なデータが取れない状態となったため,本研 短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 9 表2 地磁気観測所構内に埋設されている電極一覧    本研究で使用した電極は太字で示している.

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究で使用したデータ期間は,2006年8月から2008年 7月までの2年間とした. 3.観測結果  観測データの長期安定性を評価するために,5秒 サンプリングで得られた各チャンネルの観測データ を24時間平均して日平均値を作成した.図4に92C1 極を中心とした多極法の各チャンネルの日平均値と 日降水量のプロットを,図5に定常観測電極である 91N-91S,91E-91W(銅 板)と,新 規 埋 設 し た 06N-06S,06E-06W(鉛・塩化鉛)の観測データの日 平均値と日降水量のプロットを示す.  図 4 の 多 極 法 で 収 録 し た デ ー タ を 見 る と, 72N5,91E3,92SW1,91W2との組み合わせは降水 による影響が少ない(変動が小さく比較的早く元の 状態に戻る).逆に,91N3,92NE4,91S3,92SE1と の組み合わせは降水の影響が大きい(変動が大きく 元に戻るのに時間がかかる).  降水時のデータを見ると,ほとんどが降水により 急激に変動した後,元の状態に戻ろうとするが, 2006年12月下旬の91S3と2007年7月中旬の91N3は 降水時に大きくステップ状に変化し元に戻っていな い.原因は不明である.  降水以外の変化傾向に着目すると,72N5,91N3, 10 森永健司・外谷 健 表3 収録装置への接続電極の履歴 図2 本研究で使用した電極の配置図 92C電極を中心に点線で繋いであるのが多極法によ る基線,破線で繋いであるペアは定常観測基線およ び新規埋設した平衡電極の基線を表している. 図3 多電極による地電位差観測装置のハードウェア構成

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短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 11 図4 92C1電極を中心とした多極法による観測データの日平均値の変動と日 降水量 プロット表示用に各観測データのオフセット値を調整している. 図5 定常観測電極(銅板)と,平衡電極(鉛・塩化鉛)による観測データの 日平均の変動と日降水量 プロット表示用に各観測データのオフセット値を調整している.

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91E3,91W2との組み合わせでは明瞭な年周変化が 見られる.途中で大きくステップ状に変化した91S3 も,このステップ状の変化を除くと年周変化がある ように見える.92NE4,92SE1は降水による変動が 多発しており,年周変化があるのかどうかの判別が つかない.92SW1は非常に小さな年周変化があるよ うにも見えるが,他の年周変化が見られた電極との 組み合わせと比較するとほとんど無いといってよい だろう.  次に図5の銅板電極による定常観測データ(91N 2-91S1,91E2-91W1)と,平衡電極による並列観測 データ(06N-06S,06E-06W)を見ると,ともに NS 成分のほうが降水による影響が大きい.  91N2-91S1は,2007年7月中旬の降水時に大きく ステップ状に変化し戻っていない.これは多極法の 92C1-91N3で見られた変化と同じである.しかし, 92C1-91S3で見られた2006年12月下旬のステップ状 の変化は91N2-91S1では見られない.  平衡電極を使用した06N-06S及び06E-06W のデー タには,埋設後半年ほど初期ドリフトと見られる変 動が確認できる.その後,06N-06Sは緩やかに上昇 し続けるような変化が見られる.06E-06W は初期ド リフト後ほぼ横ばいで推移するが,91E2-91W1と見 比べると,波打つような変動が大きくなっている. 4.考察 4.1 平衡電極  鉛・塩化鉛で製作された平衡電極は,電極と周辺 土壌間で電荷のやり取りがなく周辺土壌のイオン濃 度の変化を少なくすることができるため,銅板電極 よりも接触電位差の変動が小さく安定した計測がで きると期待されていた(小池,仲谷 1986).しかし ながら,先に述べたように,1988年の短基線化時に 開始した平衡電極による地電位差観測は非常に不安 定であった.  今回改めて市販の鉛・塩化鉛平衡電極による試験 観測を実施したが,降水による異常変動は平衡電極 でも見られた.降水の影響が小さいことが期待され ていたが,埋設深度が浅いことを考慮しても,期待 通りの結果は得られなかった.さらに,銅板電極と 比較して測定値のオフセット値が不安定な印象を受 ける.埋設後しばらくは埋め戻した土が締まってゆ く過程での初期ドリフトがあることは予想できた が,その後も06N-06Sは不自然な上昇をしている し,06E-06W は銅板電極のペアである91E2-91W1と 比較して,不安定な印象を受ける.  購入した平衡電極のカタログでは,3年間は使用 できるとのことであったが,鉛・塩化鉛の軸の周囲 に充填されている接地抵抗低減剤が徐々に劣化して ゆくことにより,長期的に不自然な変化が現れてい る可能性がある.  過去の観測結果および,今回の調査結果を踏まえ ると,平衡電極は長期的な地電位差観測には適さな いと考えられる. 4.2 埋設場所による降水の影響の違い  降水による影響は電極の組み合わせにより大きく 異なっていた.電極は同じ銅板を使い,同じ加工を して同じように埋設していることから,埋設場所の 地下構造が大きく影響していること推測される.  地磁気観測所構内の地下構造を示すものとして, 1989年に92SW と91W 電極の中間あたりで実施され たボーリングによる地質調査の結果が残されてい る.調査結果によると,ボーリング実施場所では, 地下約2.5mまでがローム層,2.5m~5.5mが粘土層 であった.  また,2007年に構内407点での VLF-MT観測によ る構内の比抵抗分布が調査されている.その結果を 基に構内の表層の厚さを2層構造と仮定し,1989年 に実施したボーリングによる地質調査の結果と整合 するように表層の比抵抗を150Ωmと固定して,表 層の厚さと下層の比抵抗を simplex法により最適化 して求めた資料が残されている.図6に VLF-MT観 測結果から解析した表層の深さと電極埋設位置を重 ねた図を,図7に解析した下層の比抵抗と電極埋設 位置を重ねた図を示す.  図6の表層の厚さと各電極の埋設場所の関係を見 る と,92C,92SW は0-4m,91E,72Nは 約5m, 91N,92NW,91Sは7.5m-10m,92SEは10m以上と いう配置となっている(91Wは VLF-MT観測範囲外 のため不明).図4の観測データと比較すると,中 心極である92C埋設場所の表層の厚さと,ペアとな る電極埋設場所の表層の厚さとの差が大きいほど降 水の影響が大きい傾向がある.図7の下層の比抵抗 と電極埋設場所による降水の影響の違いについては 関連性が見られない.  土壌の性質として,ロームは浸水率が高く,粘土 は浸水率が低い.降水により発生した地下水は図8 で示す模式図のように,粘土層に到達すると粘土層 の傾斜に沿って高いほうから低いほうへ流れてゆく と考えられる.粘土層が浅い場所には地下水は溜ま らないため比較的早く乾燥するが,粘土層が深い場 所には地下水が溜まりやすく長時間にわたり湿った 状態になる.  電極埋設場所の表層の厚さが異なるペアによる観 測ほど降水時の変動が大きくその影響が長時間に及 12 森永健司・外谷 健

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短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 13 図6 VLF-MT観測結果から2層モデルで解析した地磁気観測所構内の 表層の厚さ 黒丸は本研究で使用した電極の埋設場所を示す. 図7 VLF-MT観測結果から2層モデルで解析した地磁気観測所構内の 下層の比抵抗 黒丸は本研究で使用した電極の埋設場所を示す.

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ぶのは,地下水による電極周辺の状態の変化傾向が ローム層の厚さにより異なるためと推測される. 4.3 年周変化と地温との関係について  91C1を中心とした多極法で観測したデータを見 ると,降水の影響で不安定なペアのデータを除く と,年周変化と思われる変動が見て取れる.周期は ほぼ一致しているものの,振幅は電極のペアにより 異なっている.年周的に変化していることから,温 度変化等に関連する変動と推測されるが,多極法に よる地電位差観測を実施していた期間(2006年8月 ~2009年7月)には地磁気観測所構内において地温 は観測されていなかった.しかし,2010年12月よ り,周辺土壌の磁化の変化を確認することを目的と して,1989年にボーリング調査を実施した場所の地 下1m,2m,3mの地温観測が開始されている. 観測期間が違うものの,地温の年周変化の傾向は数 年程度では変わらないと推測されることから,地温 の年周変化との関係を比較する.図9に2012年8月 から2014年7月の地下1m,2m,3mの地温デー タと,2006年8月から2008年7月の92C1-91E3の地 電位差データのプロットを示す.図9を見るとわか るように,地温は深度により変化の振幅,位相が異 なるものの,92C1-91E3ペアの地電位差と同様にき れいな年周変化を示している.  地電位差の年周変化が地温の変化と関係している として,その原因として考えられるのは,①土壌の 電気伝導度の温度変化,②接触電位差の温度変化の 2つである.  ①に関しては,高倉(2004)で紹介されており, 地温が下がると地中の岩石の比抵抗が低く(電気伝 導度が高く)なる.この変化は,土壌の誘導電流の 変化として現れるので,単位長さあたりの電位差 (mV/km)に換算すると基線長によらず,どの電極 ペアでもほとんど同じになる.  ②に関しては,橋本(1994)が電気化学的な視点 から電極周辺の温度変化にともなう接触電位差の変 動について紹介している.この変化は,接触電位差 の変動なので,単位長さあたりの電位差に変換する と基線長に依存し電極のペア毎に大きさが異なる.  92C1を 中 心 と し た 多 極 法 に よ る 地 電 位 差 観 測 データでは年周変化の振幅が電極のペア毎に異なっ ていることから,②の接触電位差の温度変化が主た る要因の可能性が高い.  92C1を中心とした多極法のデータのうち,年周 変化が明瞭なのは,72N5,91N3,91E3,91W2であ る.92SW1は 明 瞭 な 年 周 変 化 は 見 ら れ な い. 92NE4,92SE1は降水の影響が大きく年周変化が不 明瞭である.91S3は観測期間が短い上に,途中で不 連続となるため調査対象外とした.中心極である 92C1は 地 下1.5mに 埋 設 さ れ て い る も の の, 72N5,91N3,91E3,91W2は地下2.2m,2.5m,3.0m に埋設されており,ペアとなる電極の埋設深度が違 うという特徴がある.地温の変化を見ると地下1 m,2m,3mでそれぞれ振幅,位相が異なってお り,この地下深度による温度差が,地電位差に反映 されたものと推測される.  地温の年周変化と地電位差の温度変化の関係をよ り 詳 し く 調 べ る た め に,各 地 温 デ ー タ と92C1と 72N5,91N3,91E3,91W2,92SW1の地電位差デー タについて,周期を365日で固定した三角関数の最 小二乗法で年周変化成分のみを抽出し,その振幅, 位相を抜き出した.表4に年周変化が見られた地電 位差データの年周変化の最大値,最小値,振幅,最 大最小出現月(0.1月単位)を,表5に1m,2m, 3mの地温及び,1-2m,2-3mの地温差の年周変化 の最大値,最小値,振幅,最大最小出現月を示す.  表4を見ると,振幅は基線長を考慮しない mV単 位で見ると92C1-91W1のみ大きい印象を受ける. 位 14 森永健司・外谷 健 図8 降水により発生した地下水の流れの模式図 図9 2012年8月から2014年7月の地下1m,2m,3m の地温変化と,2006年8月から2008年7月の92C1-91E3のよる地電位差変化

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相は,おおむね3.5月に最大となり,9.5月に最小と なる変化で,すべての電極のペアでほぼ一致してい ると考えてよいであろう.  表5の地温データと比較すると,地電位差の年周 変化に一番近いのは,3.4月に最小となり,9.2月に 最大となる地下2m-3mの地温差である.電極埋設 深度が違う地電位差観測データで見られた年周変化 と,地下2m-3mの地温差の年周変化は逆相関とな る.  橋本(1994)の研究結果を踏まえると,このよう に埋設深度が違う電極ペアによる地電位差観測にお いて地温差に依存した変動が見られるのは,個々の 電極の接触電位差が温度依存性を持つため,埋設深 度の地温変化の違いによる電極間の温度差変動が反 映された結果と考えられる.  地 下2m-3mの 地 温 差 と,92C1と72N5,91N3, 91E3,91W2,92SW1の地電位差との相関を図10に 示す.横軸の地温差は2012年8月から2014年7月の 観測データ,縦軸の電位差は2006年8月から2008年 7月の基線長を考慮しない mV単位の観測データを 使用している.  図10を見ると,どの電極ペアでも温度差が大きく なるほど電位差が小さくなる傾向がある.ただし, 電極の埋設深度が同じである92C1-92SW1の組み合 わせはこの傾向が小さい.  表6に温度差と各電極ペアの電位差の関係を線形 近似した場合の傾き,決定係数,データ個数を示 す.電極の埋設深度差が無い92C1-92SW1以外は決 定係数がおおむね0.8程度であり,この結果を見る 限りでは線形の関係に有るといってもよいであろ う.ただし,地温の観測場所,観測時期が地電位差 観測と違うことや,電極の埋設深度差が電極ペアに より違うため,あくまで参考にしかならない.電極 間の温度差と電位差の関係について厳密な検証を行 うためには,電極と同じ場所に温度計を埋設し並行 観測したデータ同士で比較する必要があるだろう. 4.4 降水による地温変化  最後に,降水時の地温の変化に着目し,4.2節で 示した降水時の異常変動に,地温の変化による影響 が含まれているかどうかを検証した.図11に2013年 1月から12月の1年間の日降水量と,地下1m, 2m,3mの温度の日平均値のプロットを示す.地 下1mおよび2 mの温度に関して,顕著な降水が発 生した日に対応して温度変化が発生しているのがわ かる.  さらに,降水時の地温の変化の詳細を見るため に,2013年9月3日から4日にかけての,10分間降 水量と地温データの毎分値のプロットを,図12に示 す.19:30から20:00にかけての顕著な雨を観測し た時刻に対応して,地下2 mの温度が急激に変化し ている.短時間に大量の雨が降った場合,急激に地 下に水が浸みこんでゆくため,地下に浸みこむ水の 温度が周辺の土壌の温度よりも高い(または低い) 状態で地下深くまで浸透し地温を急激に変化させる ものと推測できる.地下1mに関しては,おそらく この事例では雨水の温度と地温が同程度であったた めに,温度変化が見られないのであろう.地下3m は,ボーリング調査の結果ではすでに粘土層に達し ているため,地下にしみこんだ雨水がこの深さまで 浸透していないと考えられる.  地温の観測点は1箇所なので,場所により降水時 に発生する地温の変化に違いがあるのかは確認でき ない.しかし,図6を見ると,地磁気観測所構内の 地下構造はかなり起伏があり,場所により水の浸み こみかたや,降水後に地下水の流れによる水の溜ま りやすさに違いがあるはずで,降水時の地温の変化 傾向も場所により違いがあってもおかしくない.  4.3節で示したように,ペアとなる電極間に温度 差があると,接触電位差の温度依存性に由来する電 短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 15 表5 1m,2m,3mの地温及び,1-2m,2-3mの地温差の 年周変化の最大値,最小値,振幅,最大最小出現月 表4 年周変化が見られた地電位差データの最大値,最小値,振幅,最大最小出現月

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位差が発生する.降水時の地温の変化が場所によっ て異なることにより,電極間に温度差が発生し,温 度差に応じた電位差が地電位差観測データの異常変 動として現れている可能性が示唆される. 5.まとめ  本研究の成果をまとめると以下の3つがあげられ る.  ①平衡電極は長期的な地電位差観測には適さな い.  ②降水の影響はペアとなる電極埋設場所のローム 層の厚さの違いと関連している.  ③電極間に温度差がある場合,温度差に比例した 電位差変動が観測される可能性が高い.  ①に関しては,今回の調査でも過去の観測結果と 同様に長期的にみて不安定な観測データしか得られ 16 森永健司・外谷 健 表6 年周変化が見られた地電位差データと地下2m-3mの地温差で線形近似した場合の傾き,決定係数,使用したデータ個数 図10 地下2m-3mの地温差と地電位差の相関図 プロット表示用に各観測データのオフセット値を調整している.

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なかった.平衡電極は長期的な地電位差観測には不 向きと考えられる.  ②に関しては,降水後の地下水のたまり方の違い に影響されていると推測される.これまで電極埋設 場所の地下構造の違いに関しては余り議論されてい なかったが,今回の調査結果から,ペアとなる電極 埋設場所のローム層の厚さの違いは地電位差観測の 安定性にかなり影響することがわかった.今回の調 査結果は,今後新規に電極を埋設する際に非常に有 効な情報となるであろう.  ③に関して,電極間の温度差はかなり大きく地電 位差観測の安定性に影響を与えることが判明した. 通常の地電位差観測では,電極の埋設深度を統一す るため,温度差による電位差変動が明瞭に年周変化 として現れることはない.偶然的ではあるが,埋設 深度が違う電極ペアで地電位差観測を長期間行った ことと,地磁気観測所で地温の観測を開始したこと により非常に興味深い現象を確認することができ た.また,電極間の温度差と電位差は,線形関係と なる可能性が高い.精度よく係数が求まれば地電位 短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 17 図11 2013年1月から12月の日降水量と地下1m,2m,3mの日平均温度 図12 2013年9月3日15時(UTC)から9月4日14時の10分間降水量と地下1m,2m,3mの温度の毎分値

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差観測データから温度差変化による接触電位差の変 動成分を分離できる可能性がある.  降水に対応する地温の変化も確認された.このこ とは,降水時の地電位差の異常変動に電極間の温度 差が関係している可能性を示すものと考える.現状 では,電極埋設位置の地温データが無いために可能 性の議論しかできない.電極埋設場所に温度セン サーを埋設し地電位差と同時に温度差を観測するこ とで降水と電極間温度差と地電位差の異常変動の関 係について明らかになるだろう. 謝辞  平衡電極の埋設等にご協力いただいた澤田研究 官,吉武技術主任を始め,3年間にわたり多電極地 電位差観測のデータ収集と観測装置のメンテナンス を実施していただいた当時の観測課職員の皆様に感 謝します.気象大学校 藤井准教授には,VLF-MT 観測の解析結果の提供のみならず,本稿を執筆する にあたり貴重なご意見をいただきました.この場を お借りして感謝の意を表します. 参考文献 大川隆志,仲谷 清,熊坂信之,地電流観測値の長期安 定 性 に 関 す る 調 査,地 磁 気 観 測 所 技 術 報 告,34 (03,04),25-29,1995 大和田毅,外谷 健,山田雄二,立川 徹,山崎 明,地 電流観測の精度維持向上に関する調査,地磁気観測 所技術報告,31(03,04),50-55,1992 小池捷春,仲谷 清,地電流電極設置法の改良とその考 察,地磁気観測所技術報告,26(1,2),1-14,1986 小池捷春,石井美樹,山崎 明,豊留修一,地電流観測基 線長変更に伴う電極試験結果,地磁気観測所技術報 告,27(03,04),15-19,1988 小池捷春,中山 正,熊坂信之,横山恵美,山崎 明,大 和田毅,新設電極の長期安定性について,地磁気観 測所技術報告,33(03,04),28-32,1994 清水幸弘,山崎 明,多極法による地電位差観測(II)- 二年間の観測状況-,地磁気観測所技術報告,30 (03,04),52-55,1991 高倉伸一,高密度電気・電磁探索法による比抵抗構造の 調査と解釈に関する研究,博士論文,京都大学工学 部,348p,2004 橋本武志,電極問題についての一考察,CA研究会論文 集,86-97,1994 長谷川一美,小池捷春,石井美樹,地電流基線の短縮化 (柿岡)に伴う電極設置及び試験観測結果(中間報 告)等について,地磁気観測所技術報告,26(3,4), 28-42,1987 山口又新,石井美樹,比例抵抗法による電極電位変動解 析,地 磁 気 観 測 所 技 術 報 告,24(01,02),30-36,1984 山崎 明,石井美樹,豊留修一,小池捷春,山口寛司,森 俊雄,多極法による地電位差観測,地磁気観測所技 術報告,29(03,04),104-123,1990 18 森永健司・外谷 健

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短基線による地電位差観測の長期安定性に関する調査 19

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by

Kenji MORINAGA and Takeshi TOYA Kakioka Magnetic Observatory

Received 25 May 2015; received in revised form 5 October2015; accepted 9 October2015

Abstract

Instability generated by fluctuations of the contact potential difference by the precipitation is an unsolved problem in a geoelectric field observation at Kakioka magnetic observatory. To investigate the fluctuation by a precipitation and the long term stability of the observation data, we carried out the multi-electrodes observation using a number of copperplate electrodes and equilibrium electrodes.

On the basis of examinations, we obtained the following conclusions.

 ① A equilibrium electrode is unfitted for a long-term geoelectric field observation.  ② The influence of a precipitation is related to the difference in the thicknesses of    the loam layer between the pair of electrodes.

 ③ When the temperature between the pair of electrodes is different, there is a    possibility that the fluctuation of the data isproportionalto the temperature difference.

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参照

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