技術研究報告( 東京大学地震研究所) N o. ,1 18‑22頁, 1996年.
T巴chnical Research R eport (Earthquake R esearch Institute, University of Tokyo), No. ,1 p. 18‑22, 1996.
霧島火山群における地磁気観測
増谷文雄* ・鍵山恒臣* *
Geornagnetic Observation in Kirishirna Volcanic Area
F u m i o M A S U T A N I * a n d T s u n e o m i K A G I Y A M A **
Abstract
Kirishima Volcano Observatory of Earthquake Research Institute initiated geomagnetic observa‑
tions in the Kirishima volcanic area, since the earthquake s w a r m a n d minor eruption in S h i n m o e d a k e in 1991. This paper reports a n o m a l o u s geomagnetic changes associated with volcanic activities of Shinmoedake. A b n o r m a l changes w e r e recognized at a northern part of the valcano, not at the center, suggesting a complex pattern of the anomaly. Closer observations at multiple sites near volcano w o u l d be needed in the future to infer the pattern of the a n o m a l y correctly. A n a n o m a l o u s c h a n g e as large as 10 n T w a s recognized in the last 3 years between nearby stations of S h i n m o e d a k e a n d the Kirishima Volcano Observatory, a n d the w h o l e regions m a y be undergoing large‑scale geomagnetic changes. Geomagnetic noises are very l o w a n d changes as l o w as 0.2 n T in the S h i n m o e d a k e area can b e detected in the region. Kirishima m a y b e a n ideal field for close geomagnetic observation in the future.
K e y words : Kirishima, Kirishima volcanoes, volcanic αctivity, geomagnetic observαtion, geomagnetic anomαly.
は じ め に
火山活動の状況を知る手段として,地震観測は最も基本 的な方法であり,霧島火山観測所でも霧島火山群・加久藤 カルデラ地域をカバーする常時地震観測を行っている. し かし,地震活動の観測だけでは,震源や活動の時間的推移 は把握できても,火山の地下で何が起きているかを知るこ とは容易ではない. 近年,伊豆大島や阿蘇火山では火山活 動の消長に対応した地磁気変化が捉えられ,火山の地下で 温度の上昇や降下が起きていることが明らかとなってき た. こうしたことから霧島火山観測所でも, 1991年の新燃 岳の群発地震と微噴火を契機として地磁気観測を開始し,
さまざまな変化をとらえるに至っている. ここでは,その 概要を紹介する.
地磁気観測の概要
霧島火山群は宮崎,鹿児島両県の境界に位置し, 20数桐 1996年4月15日受付, 1996年6月27日受理.
* 火山噴火予知研究推進センター霧島火山観測所,叫火山噴火 予知u ! t 究推進センター, (東京大学地倒研究所) .
* Kirishima Volcano Observatory, Volcano Research C巴nter,料Volcano Research Center, (Earthquake Research Institute, University of Tokyo).
18
の火山からなる火山群である( 図1 ) . 歴史時代にも新燃岳 や御鉢で繰り返し噴火したほか, 1768年には硫黄山が新し く誕生している( 井村, 1994). 新燃岳は霧島火山群の中央 部に位置し,過去300年間に3同のマク守マ噴火を行って火 砕 流 を 発 生 さ せ て い る ほ か , 1959年 に は 水 蒸 気 爆 発 (Minakamietal., 1968),
せている( 鍵山ほか, 1992; 東京大学地震研究所ほか,
1992 a, 1992 b ; 東京大学地震研究所, 1993 a, 1993 b, 1993 C ) . 地磁気観測は,図2に示す新燃岳の火口からそれぞれ 南,四,北へ約7 0 0 mの3地点と,図1に示す議島火山観 測所構内1点の計4点において実施している. 観測には京 都大学理学部田中良和の開発による低消費電力型のプロト ン磁力計を使用し, 5 0 A hの蓄電池に2 0 Wの太陽電池ノf ネルを装着し電力を供給している. 本装置は毎分の観測で 45 日分のメモリーをのしているので,おおよそ1ヶ月に 1 度の割合いでデータ同収を行っている. 新燃南,新燃西,
観測所の3点は1991年11月に観測を開始,新燃北では 1992年12月に観測を開始しておよそ4年が経過している が, 1993年夏に長期の悪天候で充電不足となり 7月から9 月にかけて欠測した以外には大きな障害もなく,良質の データが得られている.
霧島火J lI群における地磁気観測 19
5 k m
•
Mi‑Ike
• <6300
• <22000 ... < O.lm
図1 . 霧島火山岩手を構成する火山の活動年代と観測所の位置.
図 2. 新燃岳周辺の地磁気観測点の位[ 霞
n T 4 1 0 "
│ 新燃南新燃西(5日移動平均) I
4 0 9
︒
0 7 ' nU
ハU 吋A 凋
ト斗
ロ
4 0 6
4 0 5
12/01 0 4 / 0 1 0 8 /0 1 12/01 0 4 / 0 2 0 1 /3 1 06/01 10/01 0 1 / 3 1
1991 1992 1993
図 3. 新燃西を基準とした新燃南の全磁力の変化.
新燃岳の地磁気変化
1991年 11月13 日の新燃岳の群発地震活動に対J,ιして,
1初は新燃岳の西側と南側にプロトン磁力計を設置した.
この観測点配置は,火口の地下で温度上昇があれば新燃西 は中立点となり,新燃南で地磁気の減少が観測されること
20 増谷文雄・鍵山↑亘日
5 2 0
5 1 8
5 1 6 ト
E 5 1 4
5 1 2
5 1 0‑W
9 3 / 0 1 9 3 / 0 7 9 4 / 0 1 9 4 / 0 7 9 5 / 0 1 9 5 / 0 7
4 1 0
4 0 8
4 0 6
← E 4 0 4
4 0 2
4 0 0
9 3 / 0 1 9 3 / 0 7 9 4 / 0 1 9 4 / 0 7 9 5 / 0 1 9 5 / 0 7
‑ 1 0 3
‑ 1 0 5
ー1 0 7 ト
E 1 0 9
1 1
1
但1 1 3
9 3 / 0 1 9 3 / 0 7 9 4 / 0 1 9 4 1 口7 9 5 / 0 1 9 5 / 0 7
図4.
1
‑,図: 新燃凶を基準とした新燃北の変化 巾図: 新燃両を基準とした新燃南の変化 下図,新燃北を基準とした新燃南の変化
( 上図と中図の差)
を考慮、したものである. 新燃岳の活動は 11月24 R には火 口から水蒸気が噴出し, 11月26日頃から地震数が減り,
かわって連続微動が観測されるようになった. 更に12月 には火山灰を噴出するまでになり,その後の火111活動の推 移を推し量るために地下の温度変化の指標としての地磁気 変化が注目された. 図3に,観測開始直後の 1991年12月 から 1993年5月までの新燃西観測点を基準とした新燃南 観測点の地磁気変化を示す. 1991年12月から 1992年3月 頃まで全磁力が減少し, しばらく横這いを続けた後1992 年9月頃から再び減少し, 1993年4 月から横這いとなる傾
新 燃 北 観 測 所
‑ 3 4 0
3 4 5
ト 3 5 0 z
‑ 3 5 5
‑ 3 6 0
93/01 9 3 / 0 7 9 4 / 0 1 9 4 / 0 7 9 5 / 0 1 9 5 / 0 7
新 燃 西 観 測 所
‑ 8 5 6
8 6 1
ト C
‑ 8 6 6
8 7 1
93/01 9 3 / 0 7 94/01 9 4 / 0 7 9 5 / 0 1 幽 十 9 5 / 0 7
新燃南一観測所
‑4 4 9
‑ 4 5 4
ト c
‑ 4 5 9
‑ 4 6 4
9 3 / 0 1 9 3 / 0 7 9 4 / 0 1 i
9 4 / 0 7 9 5 / 0 1 9 5 / 0 7
図5.
地磁気変化. 実線は3.3 n T j yの減少を示す.
向が見られる. この結果は,新燃岳の地下の温度が上昇,
停滞を繰り返していると解釈する事も可能であるが,横這 いになる時期が2固とも4月であることから,新燃雨の長 期的な全磁力の減少に別の何らかの理由による年周変化が 重なったものとも解釈される. その場合には,新燃岳地下 において定常的に温度が上昇している事になり,活動の推 移を考える際に重要なポイントとなる. なお,この図から 新燃岳付近の電磁気ノイズレベルがきわめて低く, O.2nT 程度の地磁気変化であっても検知可能であることがわか
る. これは,新燃岳周辺3 k mには商用電源がないなど,電 磁気環境が良好であるためである.
J‑:述の新燃岳地下の温度変化の考えを検証し,どこで温 度が上昇しているかを明らかにする事が重要であるが,観 測点が不足しているため, 1992年12月に新燃北に新たに
霧島火山群における地磁気観測
│新燃北一観測所i
1 トc o
1 2 3 4 5
9 3 /0 1 9 3 /0 7 9 4 /0 1 9 4 /0 7 9 5 /0 1 9 5 /0 7
3
ト O
C 41
勺 f
‑ q J V A 崎 氏 リ
93/01 9 3 / 0 7 9 4 / 0 1 9 4 / 0 7 95/01 9 5 / 0 7
l新 燃 南 観 測i所i
ト ー2
E q u A m v R ぜ ハ O 司 /
宮3 /0 1 9 3 /0 7 9 4 /0 1 9 4 /0 7 9 5 /01 9 5 /0 7
図6. 3.3 n T j yの変化を差 しヲIl、た新燃岳周辺の地政気変 化
観測点を設けた. 図4に1993年以降の変化を示す. 観測期 間 中 年 に 1度程度の地震の群発活動が発生し, それに 対応するような地磁気変化が見られた. 火口の中心直下で 温度上昇が起きているとすれば,新燃西を基準として,新 燃南の全磁力は減少し新燃北の全総力は同じくらい増加す る. それゆえ新燃南と新燃北の全磁力差 の変化は,新燃南 と新燃西の全磁力差の変化のおよそ2倍になる事が期待さ れたが,結果は予想に反するものであった たとえば,
1993年5月頃から9月にかけて新燃西を 基準として新燃 北の全磁力が増加しているのに対して,新燃南の全磁力も わずかであるが増加傾向を示している . むしろこの期間の 変化は,温度上昇が火口の中心ではなく新燃西と新燃北の 中間付近の地下浅部で発生 しているため, 7,毘度t二昇域から 遠方にあたる新燃南の全磁力はあまり変化せず,新燃西で
21
.
十3岡5 n T
新燃北
新燃西
‑
‑1.5nT
熱消磁
新燃岳火口
新燃南
•
O . O n T 5 0 0 m
図7.
火口の北側j支部に熱消磁が発J t . したと怨像される.
減少,新燃北で増加が観測されていると考えた方が妥当な ようである. 新燃岳から離れた観測所を基準として新燃岳 の3点の変化を見ると( 図5),新燃岳周辺の3点が観測所 に対して系統的に全磁力が減少する傾向 C3.3nT/y) が見 られるが, この変化を除くと図6に示すように新燃南 の全 磁力は変化せず,新燃北で増加,新燃西で減少している事 がわかる. なお1994年以降の変動が大きいのは,観測所一近 傍において道路や建築工事 が行われたためである. 以上の 結果は,新燃岳の火口中心の地下で 異常が発生するであろ うという予想、が誤っていた事を示している. 新燃南を変動 源から離れているとして基準点にすると,新燃北の変化は 図4 の下図を上ド逆さまにしたものとなる. 同様に新燃西 の変化は図4 の中図を上下逆さまにしたものとなる. ま た,上図は異常発生域の北側と南側の差 をとっていること になり,新燃岳の地下の温度変化に最も敏感な観測点の組 み合わせとなる. 1993年5月から9月にかけて見られた異 常変化は,新燃北が3.5nTの増加,新燃西が1 .5 n Tの減 少, 新燃北と新燃西の 差をとると5 n Tの変化となる. 変 動源の位置 を」意的に決定することはできないが,たとえ ば図7に示すような位置の浅い部分で地震群発の後に温度
k昇が起きたと考えることも可能である.
まとめと今後の課題
新燃岳周辺において地磁気観測を行った結果,火山活動 に対応するような地櫨気 の異常変化が観測された. この変
22 増谷文雄・鍵山恒凶
化は,火口の中心部では発生せずやや北側にかたよって発 三ヶ回均博士,小山悦郎氏にはご協力,ご教示をいただい 生するなど複雑な様相を見せている. この結果は,観測機 た. 記して謝意を表します.
材の台数が限られている現状ではやむを得ないが,火口の 南北および西側に銭jJ計を設置する従来の観測では結論を 誤る危険性があることを示しており,火口周辺の多点( で きれば高密度) 観測が不日J欠である. また,新燃岳周辺と 観測所の聞で3年間に1 0 n Tに及ぶ変化が生じており,霧 島火山併の広範聞にわたって異常が進行している可能性が ある. この実態を明らかにするには,霧島の広域にわたる 観測も必要となってくる. しかしながら観測に費やす労jJ は限界に達しており,現状のままでは新たな研究の進展を 望む事は困難である. 新燃岳周辺は電磁気ノイズがきわめ
て低く, O . 2 n T程度の変化であっても検知が可能である事
か ら , 火 山 活 動 に 関 連 し た 異 常 現 象 を 捉 え る に は 最 適 の フィールドと思われる. 現主,アルゴスシステムを利用し たテレメータ観測を準備中であり,このシステムが稼働す れば更に大きな成果が得られるであろう.
謝辞: 本観測を開始するにあたり,京都大学理学部,
問中良和助教授,地震研究所の笹井洋二歌田久司助教授,
文 献
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