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巻頭言

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Academic year: 2021

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巻 頭 言

電子書籍元年が到来したと騒がれた 2010年,電子ペイパーの技術を使った電子書籍端末 発売直後にさっそく買い求めて,この 2年間ずっと使ってきた。パソコンなどの液晶画面が 長く見ていると疲れるのと違って,画面側から光が来ないから,目に優しく,紙に近い読み やすさが実現されている。紙でつくった本に慣れたわれわれにとって,電子データでの読書 は定着しないとする論者もあるが,その思い込みをも覆す,要は慣れの問題だと思わせる自 然さが,この仕組みにはある。 歴史を振り返れば,紙の本は普遍的なものではない。日本では曇徴による技術の公伝から 数えても,紙は 1400年以上使われてきたが,北ヨーロッパではその半分程の歴史しかない。 その前の時代には羊や仔牛を殺して使い,古くは鉱物や植物そのものの表面に文字を刻んで きた。 電子データのメリットはたくさんある。置き場が必要ない。1000冊以上を常に持ち歩き できる。文字の大きさを変えられる。なかには読みあげてくれる機能を持つものまである。 品切れや絶版もなくせる。紙を使わないから環境にもやさしい。良いことずくめだ。 しかし,現状には不満もいろいろある。コンテンツが少なく,コミックはたくさん発売さ れているのに,専門書は皆無に近い。読む味わいが紙の本には及ばない。読んでいる電子書 籍が,紙の本の何ページ分に相当するのかわからない。コンテンツはそれほど安くなく,本 とあまり変わらない価格設定になっており,それを補うための,紙の本における古書店のよ うな,安く提供する制度が不備である。線を引こうとしても,厄介な操作が必要だ。紙の本 をスキャンして作ったものは,ろくに校正していない誤植が満載,などなど。 わが端末には 500冊分ぐらいのコンテンツを入れて持ち歩いている。多くは青空文庫やブ リタニカ百科事典 11版など無料のデータだが,購入したものもある。使ってみて,困った ことは何だったか。読書の味わいが本ほどではないのは,やむをえない。それ以上に困惑し たことは何かと言えば,何を読もうかと決める際に,実に気が散るのである。 これだけの分量が入っていると,選択の幅はかなり広い。広すぎる。1冊の本だけを持ち 歩いているなら,いやでも,それを読まざるをえない。旅に出るときに,どの 2,3冊の本 を鞄に入れるかは秘かな楽しみだが,家を後にする時点では決断が終わっている。ところが, たくさんの本が入っていると,スイッチを入れるたびに書棚の前に立たされるようなもので, その都度迷いが生じる。購入した『福島原発事故独立検証委員会調査検証報告書』を読も うか,無料でダウンロードした『風俗文選』を眺めるか,いっそ漱石でも再読しようかと, さんざん悩んだ末に,新古書店から 105円で購入し,1冊だけ旅に持参した西洋古典ミステ リを食い入るように読み進む事態となる。情報を最低限にしぼって,それ以外を遮断するこ とがいかに重要かと,改めて気づいてしまうのである。 アメリカと違い,日本での読書端末は普及には程遠い。それでも,新端末が売り出され, Kindleの日本版発売も間近にせまって,書籍流通の変動が起きるのは間違いなさそうだ。 大学紀要もそんな時代を迎えて,今後は,と考えることがある。紙の形でいつまでも続いて ほしいと願いながら,まるで SFのような,予断を許さない状況が,身近に迫ってくるのを 感じている。紙に印刷して読めるのは実は贅沢だという時代が来るのだろうか。 (本の虫)

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